No.661984

真・恋姫†無双 再現7

ぽむぼんさん

風邪をひいてしまいまして、ここ2週間寝込んでおります
書いては書き直し、書いては書き直し
頭が回らないと恐ろしい事になりますね

ご指摘ありがとうございます!

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2014-02-09 20:46:32 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2896   閲覧ユーザー数:2389

「この宿、なかなかええやん!」

 

風、流流と一緒に宿に入って一息をつく。早く華琳様に報告せなあかんねんけど、来たばっかりではいさよなら!

ってウチはええねんけど、風の体力が持たんやろなー

 

これは、今日はゆっくりして明日出立するんが一番良い事や

 

「・・・え、えぇ!ご飯も美味しいですし」

 

流流は曇った顔で答える

 

・・・・・・流流の様子がおかしい

やっぱり一刀に会えへんかったんが影響しとるんやなぁ。こんな時、秋蘭だったら何て言うんやろ?

 

「それにしてもお兄さんが呉に、ですか」

 

風が何を考えてるのか分からん目ぇで言いよった。これはちょっと考えてへんかったもん。てっきり魏にいるかと思っとったんやけど

 

「これは、由々しき事態ですね」

 

風が真剣な表情をしとる。どうやら、ウチが思っとるよりも事態はまずい、ちゅー事なんやな。しまった、これは宿に泊まらんと華琳様に報告すべきやったんか

 

「まさか・・・・・・お兄さんが呉の種馬になってるだなんて、思いもしなかったのですよー」

 

ーーーーーーなぬ?

 

「え、え?え!?に、兄様が呉のたたた、種馬に!?」

 

え?それホンマなん?ウチ、全く聞いてないで

 

「考えてみたのですよ。魏に無くて、呉にあるもの。それはーーーーーーふくよかなお胸なのです」

 

「ちょ、ちょい待ち!」

 

あかん!風は何かおかしくなっとる!さっきの食事に出てた酒か!酒飲んどったからか!?

 

「いえいえ、霞ちゃん。呉の人は皆お胸が大きいのですよ。一部例外の人もいますが、お兄さん程の種馬なら肌馬を探しに呉に行くのは当然じゃないですかー」

 

「そうだぜ、男なら乳が大きい女に走るのが当然さ」

 

「むむ、宝譿。いつから風の敵になったのですか」

 

自然に顔がほころぶ。風なりに元気付けようとしとるんやな

 

「ほんなら、呉の女に走った一刀には魏の女の魅力を思い出させんといかんなー。流流、あんたの飯の旨さは天下一やねんで?男は胃袋で捕まえる。任せたで?」

 

にっ、と笑う。釣られて流流も笑う。風がいてくれて良かったなぁ。ウチ一人やと空回りで終わるし

 

その時だった

 

「きゃああああああああ!」

 

聞こえる悲鳴、轟く咆哮。何が起こったのか、理解するよりも早く飛龍偃月刀を手に宿を飛び出す

 

そこは地獄だった。辺り一面の闇

否、それは闇ではなく火炎である。ただそれが闇と見間違える程に黒く、暗く感じる程の憎しみを孕んでいた

 

地獄の主は火炎の中に立っていた

背の丈は一丈程もあるだろうか。丸太よりも太く長い腕。肉を裂く事を生業とする鍵爪。手にする武器は岩塊そのもの

否、岩塊に見えるそれは鋼鉄、金砕棒である

金砕棒とは本来、硬い木を八角に整形したものに星と呼ばれる推型の鋲と箍で補強したもののはずである。それを全て鋼鉄で作り上げたものを手にしていた

開かれた口から覗くのは鋭く尖る牙。滴り落ちる血が既に何人もの犠牲を出した事を物語る

 

 

伝説上の生き物はここに顕現した

 

辺りは焼け、我先にと逃げ惑う人々。その中で、化物を倒そうと果敢に立ち向かう青年がいた

おそらく、肉親が殺されたのだろう。仇を討つと誓う手には鍬。魏領の兵士達は屯田制を設けている為に農民の殆どは兵士である

相手が人間であるならば、まだ戦い方があっただろう

 

止めようとする。同時に鬼の腕が振るわれた。青年が視界から消える

 

ただ、それだけ。この化物が腕を振るうだけで人の命が消えていく。止めなくてはならない。この化物は今、止めなくてはならない。迅速に首を刎ね、その命を止める。そうしなければこの町に住む人々の命が失われてしまうのだから

 

「霞ちゃん・・・・・・!」

 

宿から出て来た風と流流は青い顔を覗かせる。先程まで賑わっていた沛の街は、もうその姿を無くしていたからだ。しかし、彼女達もまた歴戦の将達である。冷静さを欠いている様子はない

 

「風、華琳様に連絡や。狼煙を使えば馬を使うよりも早く知らせる事が出来る。流流、あんたは町人の避難や。あの化物から出来るだけ遠ざける、出来るな?」

 

「了解なのですよ。内容は援軍ですか?」

 

「せやな。この鬼を斃した後、この街を復興する必要もある。出来れば春蘭と凪に来て欲しい所やな。連絡が終わったら、あんたも住民の避難を手伝うんや 」

 

「あ、あの!霞様はまさかお一人で戦うつもりですか!」

 

「ん、せやな。あの化物と戦えるんはここにおる中ではウチだけや」

 

唇を噛みしめる流流。命令を下した人間を見つめる目には涙。噛み締めた唇からは一筋の血が流れる

「私とて戦える」

その姿はそう言っていた。たしかに化物の剛力と渡り合えるのは、この場にいる彼女だけであろう

 

「流流が弱いって言ってるんやないで?何よりも重要な人の避難を任せてるんや。失敗は許されへん。中には壊れた家屋に閉じ込められて逃げれへん人もおる。それを助けられるんは、流流。あんただけや」

 

彼女の剛腕は救助に向いている。この中で一番の力自慢である彼女に下した命令は間違えてはいない

 

「・・・・・・はい!霞様、ご武運を!」

 

判断に間違いは無い。決して自分の力を侮られているわけでは無いと分かった少女は力強く答え、霞を残してそれぞれ今やるべき事を成す為に奔走する

 

「さてと。久しぶりの死合いやな。張文遠、いくで!」

 

霞は獲物である飛竜偃月刀をしかと握りしめ、化物に突進する。化物は霞を目に捉え、迎え撃つ

 

偃月刀とは、極めて重い刃を備えた太刀の一種である。その名の示す通り三日月の形をした刃が特徴だが、実戦には向いていない

その重量は太刀の中でも最も重い部類に属する為に、むしろ訓練の場において腕力を示す為の武器であった

 

突く事においては槍に劣り、切る事においては剣の方が素早く、薙ぐ事にも他の武器に及ばない。一瞬の攻防で命を落とす戦に用いるには向いていないのだ

 

それでも霞は偃月刀を好んだ。最初は軍神関羽の真似事であっただろう武器の中でも最も重いそれは、もとより防御を許さないからだ

繰り出される一撃が重く、防ごうとした獲物を粉砕する。半端な後退では間合いから逃れられず、反撃を試みるような見切りでは腹を切り裂かれるのみ

無造作に前に出れば長い柄に弾かれ、容易く隙を生み、命を落とす

 

誰よりも疾く動き、誰よりも速く振るう事で、重量という短所を逆に長所にする事が出来る猛将にのみ許された武器である

 

長柄の武器にとって、距離は常に離すもの。獲物の射程範囲に踏み込む敵を迎撃するだけで良い。踏み込んでくる敵を迎え撃つ事は、自ら打って出る事よりも容易いのだ

まして、霞の獲物は重い偃月刀である。力を溜め、相手の出方を見るのが必勝

 

ーーーにも関わらず。神速の猛将は自ら距離を詰め、化物に前進さえ許さない

 

「ふっ、はぁぁぁぁぁあああああああ!!」

 

その姿、烈火の如く。霞は一撃ごとに間合いを詰め、命を刈り取る為に前進する

長柄の武器にとって、間合いを詰める事は自殺行為である。長大な間合いをもって敵を下す。間合いを詰めてしまえば振った太刀を戻す前に容易く首を刎ねられるだろう

 

しかし、霞の背後には化物から逃げようと走る人々がいる。霞が後退する度に彼らの寿命が縮まるのだ

この巨体の化物を一歩も進ませる事無く押し留め、地に斬り伏せなければならない

故に、霞は長柄の利点を捨てて前進するしかないのだ

待つ事を禁じられた時点で霞の勝利の可能性は限りなく低い

 

「グゥゥゥゥ・・・・・・!」

 

けれど、霞にはその定石は当てはまらない。霞の刃に戻りの隙などなかった。一太刀浴びせる度に体を返し、遠心力を利用して偃月刀を翻す

右手であえて短く持ち、左手を添える。時に持ち手を変える。この一見異質な偃月刀の扱いが変幻自在に軌跡を変える

本来、迎撃する事で最高の戦果を発揮する偃月刀は霞の手によってその在り方を変えていた。攻める事で相手の防御を誘い、その防御を砕く為に重く、速い偃月刀で抉り倒す

 

「羅馬の武将は防御する為に、盾を持つ。攻撃を受けて、その隙を突いて敵を打ち倒すんだ」

 

かつて天の国から来た、愛する男から言われた言葉。彼女は男の帰りを待ちわびる

 

帰ってきたらきっと、共に羅馬へ行き強い相手と戦うのだと。その約束を信じ続けた彼女が修行の果てに手にした究極の一

 

残像さえ霞む高速の連撃。一撃ごとに化物の武器を弾き、押し留め、後退させる霞の偃月刀は、あの飛将軍をもってしても必殺の域であろう

 

しかし

 

「ーーー攻めきれない」

霞は焦りを感じ始める

霞の連撃を完全に捌く事が出来るのは世界広しといえど、多くはない

それを目の前にいる化物はやってのけている

 

この化物は武を磨き上げたわけではない

卓越した才能があるわけでもない。技量の差で言ってしまえば、霞とは3合も打ち合えずに膝をつくだろう

しかし、その武の差を0にするものがあった

両者の体躯の差は2倍程。霞の間合いと化物間合いが違うのだ

いかに霞の連撃が疾かろうと範囲が限られている

さらに、霞の斬撃を防ぐには、ただ金砕棒をぶつければ良い。全身の筋肉から生み出される力はそれを可能にする

 

一方、霞が化物の攻撃を防ぐ為には躱すか、その軌道を逸らすしかない

桁違いの力をまともに受けた瞬間に身体は弾き飛ばされ、敗北が決まるだろう

 

もし、同じ体躯であったのならば容易くうち倒せていたものを

ぎり、と歯ぎしりをしながら敵を見据える

 

一瞬でも攻撃の手を休めるとその隙を逃さんと、金砕棒が迫る

 

「ふっ!!!」

 

それを凌ぐ霞。返す刃は神速の一撃、繰り出される一撃は先の一撃よりも更に速度を増していく

 

際限なく速度が上がる連撃を捌く技量をこの化物は持ち得なかった。化物は後退しつつ刃を弾く

 

すでに三十

否、実際はその数倍か

霞の振るう偃月刀は、なお勢いを増して化物を仕留めようと荒れ狂う

 

「っ、とっとと」

 

突如、霞が体制を崩し、連撃が途絶える。辺りに散らばる木片に足を取られたのか、はたまた下駄の鼻緒が切れたのか

重要なのは何によって足を取られたのか、ではない

 

この化物に隙を見せてしまった事にある

 

そんな刹那にも満たない隙を化物は見逃さない。隙を見せた者が負けるは必定

ここが好機と見たのか、文字通り必殺の意味を持った金砕棒が霞を襲うーーー!!

 

地面を抉り、辺りに土を撒き散らす。必殺の一撃は大地に傷跡を残し、巻き上げられた粉塵とは別に、持ち主を無くした下駄の破片が降り注ぐ

 

勝負は決した。神速の将軍は逝き、化物が生き残った。目の前の難敵を排除した化物は勝利に歓喜し叫び狂う

 

「消えたように見えたやろ?これな、【くらうちんぐすたぁと】っていう、天の国の疾く走る技の一つやねん」

 

死を告げる声は背後から

心底凍りついたであろう。斃したと確信した敵の声が聞こえるのだから

 

振り返る間も無く、化物の首に偃月刀が突き刺さっていた

 

 

 

 

 


 
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