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真恋姫無双~年老いてContinue~ 三章

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2014-01-03 21:09:06 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:3499   閲覧ユーザー数:2781

紫苑と桃香、それにともなっていた蓮華と雪蓮が、魏の王座に呼ばれ報告を聞いたのは、程なくしての事だった。

 

「一方的に私達の落ち度という他ないわ。」

 

申し訳ない、と華琳が続ける前に言葉は遮られた。

 

「いいえ、このお祭りで街が浮き足立っていることは重々承知していたことです。

 それに璃々には詠ちゃんだけじゃなく白蓮ちゃんもついていました。

 ですから、あなた達の落ち度ではありませんわ。」

 

言葉ではそういう紫苑であったが、その顔には娘への心配がありありとうかんでいた。

 

「一緒に探そう、きっとすぐに見つかるから!」

 

璃々の身を案じていることを隠そうともせずに桃香もそう続ける。

本来ならば、というよりも本来的に、その言葉は桃香なりに華琳を案じての言葉であったし、同時に心の底から璃々を心配してのところから出た言葉だ。

思ったことを思ったとおりに身の丈全てで表現する桃香の良さではあるものの、こと華琳の立場となってはこんなことをしている時間すら惜しいといっているようにすら聞こえてくる。

それが、華琳にとってはとてつもなく苦しいことだった。

 

「えぇ、そうね。」

 

そのため、華琳は短く、そうとしか返答できなかった。

………

………………

 

時刻はそう変わらず、場所は王座からは少し離れた街のはずれ。

二人の怪しげな風体のものたちは、人の身長ほどある袋を二つ抱えて途方に暮れていた。

 

「さて、これからどうしたもんか…。」

「どうもこうもないだろう。」

「いや、あるだろ。どうもこうも。」

 

声の低い、顔をすべて覆う仮面をつけた方は、首を振りながら足下に転がる警備の兵たちを足でつつく。

 

「この状況、間違いなくやばいでしょ。」

 

道行くものが、もしそれを目撃したならば、十中八九ではなく十中十が口をそろえてこういうだろう。

 

『仮面の二人組が警邏隊を殴り倒して何かを持って逃げました。』

 

明らかに、誰の目から見てもいま立っている者達がそれを抱えて逃げるのに、邪魔だから警備の兵たちを打ち倒して逃げたというに決まっている。

そういう状況に他ならなかった。

しかし、どういうわけか一緒にいるおそらく女であろう蝶々の仮面をつけた方はそれに気がついていない様子だ。

わけがわからないという雰囲気で、首を傾げる。

 

「なぜだ?私達は怪しまれるようなことを何一つしていないだろう。」

 

それもまさしく正論ではあり至極まっとうなことをいっているのだが、では今駆けつけてきた警邏隊たちはどう判断するかといえば、やはり、

 

「貴様ら!そこでなにしている!」

 

と大きい荷物を抱えている仮面の二人組を捕縛しようとするわけであり、二人は流れ上そこから逃げざるをえないこととなる。

 

「ほら、だからヤバイっていったじゃないか!」

「くそっ!あいつらに一言言ってやらねば気がすまん!」

「いいから、逃げるぞ。捕まったらめんどくさい。」

「しかしだな…!」

 

そんな、一種ふざけたやりとりをしたまま、しかし速度はというと荷物を抱えていることを加味しても信じられない速さで、二人は走って路地裏へ消えていった。

 

もちろん、それはすぐさま報告が上がる。

二人が落とした木の板とともに。

いや、コレは情報としては正確ではなかった。

それは、二人にのされた警邏隊の脇に落ちていたものであり、状況からして二人が落としたものと考えられる、木の板である。

そこには、こう書かれていた。

 

『人質に加えて更にもう一つ、大事なものは預かった。観客には知らせるな。

 天下一品武道会は予定通り開催しろ。』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

逃げるといっても宛がない。

抱えた荷物もわからない。

仮面の二人組のとった行動は行き当たりばったりの計画性がまるでないものであったが、それでも一応荷物の受け取り手がいるからこその運搬役であり、そしてこの街の中を逃げる道などそうそうなく、加えていえば広さに限界がある街中で、行き着く先もそんなに種類がなかった。

つまり、予期せずして、本来それが運ばれるべき場所にたどり着いたといえる。

 

「お、やっときたか。」

「待ってたんだな。」

「これで全部ですかね兄貴。」

 

二人の様子を見て、いかにも悪役といったこ汚い三人組が声をかけてきた。

 

「あん?おめぇ、約束の男とちげぇようだが、本当に言ったもん持ってきたのか?」

「ん…?」

 

その言葉に、仮面の男は首だけを動かし、何か頷くような仕草を見せ、無言で持っていた荷物を差し出した。

 

「っんだよつれねぇな…お、確かにこいつらであってるぜ。そっちの姉ちゃんが抱えてるのはさしずめ護衛ってとこか?

 まぁ駒が多いにこしたことはねぇよな。」

 

げひひ、といかにも悪そうな笑い声を立てて汚らしい男たちは袋に詰めれられた『中身』を取り出した。

小さな女の子と、それを守るように抱く眼鏡を掛けた小間使い風の格好の女。

もう一つの袋には剣を下げた護衛のような女。

それが、仮面の男たちが抱えていた中身の正体だった。

それをみて、仮面の二人が帯びる雰囲気が変わるも、男たちはそれに気が付かなかった。

 

「上等上等。へっへっへっ。こいつらさえいればもうこっちのもんだぜ。」

 

三人組を取りまとめているような振る舞いをするお頭風の中年の男が下品に顔を歪めながら嘯く。

 

「おめぇらが来たときは予定とあまりにも違うもんでぶちのめしてやろうかと思ったが、なんのことはないぜ。

 確かに約束は『警邏隊』が運んでくることだったもんなぁ。間違っちゃいねぇよなぁ?

 警邏仮面に、華蝶仮面さんよぉ?」

 

そういって、口に鬚を蓄えた中年の男は仮面の二人組に向き合った。

 

仮面の二人組。

一人は戦斧を担いだ、蝶の仮面。

蜀を中心に市井を守る、華蝶の仮面を身につけた女。

蝶のように舞い、龍のように穿つ、眉目秀麗な正義の味方と呼ばれる華蝶仮面の名は、今や蜀の領土にとどまらず三国に響き渡っている。

こちらは、実在する正義の味方であり、実際の活躍も目撃されている。

そしてもう一人。

魏を中心に、むしろ、魏で、絶対的な人気を誇る警邏仮面と呼ばれる英雄譚の主人公と同じ格好をしている男。

どちらも正しきを助け悪しきを挫く一般的に言われる正義の味方である。

だが、警邏仮面。

こちらは、人気はあるが、いわゆる戯劇の登場人物であった。

曹操の治める魏に最初期から在籍し、主要な戦い全てに参加し生き残った無敗の英雄。

腕っ節は弱いが頭はキレる、一見姑息な手段とも思える戦法をとるがそれでも誇りは失わない、『ただの警邏隊長』である。

かつての大戦の折に魏で活躍したと言われるが、実際に戦場でこの姿を見たものは一人もいない。

それ故、実情を、つまり、『本物』をしらない人間たちにとってはただの作り話の登場人物である。

劉備をはじめ、他の国の将軍を中心にその人気があることはいまやあまりにも有名であった。

しかし、である。

こと魏国内に限るのであれば、警邏仮面の格好それ自体が平和の証であるとも言える。

彼がいたから、街の治安は保たれた。

彼がいたらか、現在華琳が生きている。

彼がいたから、彼がいたから…街で、許昌で、『警邏仮面』についてきいてこう答えないものはまずいない。

それほどまでに、魏の民にとって『警邏仮面』は身近である。

仮面の下は語られない。それは周知の事実であるから。

その活躍が一番目覚ましかった戦いでの彼の格好をかたどった警邏仮面。

羽織に袴、腕には閻王、手に二天。背中に螺旋の槍を担いだ不敗の男。

彼こそが、現在の平和の象徴とされている。

そして、その事実もまた、あまりにも有名であった。

 

そんな理由で、二人のその見た目のあまりの「一致ぶり」に相手が頷いた。

 

「あんたらが味方だったら百人力だってか!おめぇのその格好じゃ、本物の警邏仮面たぁいえねぇもんな?

 ちょうどいいもんギッて来たからあとでお前に貸してやるよ。

 それじゃ不完全だが、あんたにおあつらえ向きのもんだぜ。

 あんたらの中身が誰であれ、んなこたぁ俺達には関係ねぇしな。」

「そうなんだな。」

「ちげぇねぇ。」

 

見るからに、聞くからに悪辣な笑い声に仮面の女の顔が歪む。

が、すぐに警邏仮面の肘鉄が脇腹を直撃し、怒りの矛先が変わった。

 

「なっ!何をす…」

 

その怒りも、ぼそぼそと警邏仮面に何かを耳打ちされて、すぐに静まっていった。

そんなやりとりをどうみたのか、ニヤニヤといやらしい笑い顔を貼り付けてこちらをみる盗賊風の男たち。

 

「イチャイチャすんじゃねぇよ見せつけてくれやがって。

 ま、すぐにあんたらの出番になる。それまでこの人質らでもいたぶってるか?」

 

どこまでも不快な笑い声が、裏通りに響いていった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

何かが強くぶつかり合う音、壁の軋む音、そしておそらくそこそこの大きさのものが倒れ散らばる音が響いた。

その音で、気を失っていた公孫賛(真名を白蓮という)は目を覚ました。

 

何が起こった、とは口に出すことは出来なかった。

頭がズキズキと痛む。

直前の記憶は混濁しているが、徐々に思い出してきた。

 

「そうだ、璃々たちと芝居を見に出かけて…」

とは、はやり口にだすことは出来なかった。

手足を縛られ、目隠しをされ、猿轡を噛まされた白蓮には声を上げるどころか体を満足に動かすことすら許されていない。

 

(くそっ、一体何が起こったんだ。)

 

自分の身に、何が起こっているのか。

未だに理解できないが、ここで一つのことに気がついた。

 

(そうだ、璃々は。璃々は無事なのか?)

 

一緒にいるはずの璃々はどうしているのか。

それを確認しようにも、目隠しに加え、頭の痛みのせいもあり、辺りの確認すらままならない。

 

(せめて、今の状況だけでもわかれば…)

 

そう思い、白蓮は周囲のことに気を巡らせはじめた。

幸いなことに、耳だけはまともに働いてくれる。

 

大きな音が、さっきからしている。

 

「ふざけるな、杜々!貴様!」

「落ち着け、あいつらに聞こえるだろ。」

「ずっとそれしかいわないではないか!いいからもう説明しろ!

 やつらは貴様のそれを盗んで、こいつらを攫ってくるような奴らだぞ!?」

「それが問題なんだよ。これはちょっとやそっとで入れるような場所においてきてないだろ。詰め所においてきたんだぞ。

 俺だから入れたようなもんだ。それをあいつら持ってきたんだ。

 それに、だれがこいつらを運んできたのかだって見てただろ。

 この意味がわからないのか。」

「だから!わからないからわかるように!説明しろと言ってるんだ!」

 

派手に暴れまわっている音が聞こえる。

なにやら男女が言い争っているように聞こえるが…。

 

「わかったよ、わかった。まず確認だが、あいつらはあの村で会った奴らだ。これは間違いない。

 さぁ、ちょっと耳をかせ。

 ………ってことだよ。状況から考えて、だ。詳しくわからないから俺はここに残るといってるんだ。」

「周りくどい真似ばかり…。まぁいい。ここまできたら乗りかかった船だ

 しかし、貴様。それで本当にいいのか?

 このまま行けば貴様の目的は果たせないのではないか?」

「はぁ…まだわかってもらえてないっぽいけど…まぁ、大丈夫だ。

 うん。俺はここでやりたいことが全てできる。

 欲しいものも手に入りそうだし、大会に出る必要はなさそうだな。

 そんなことより、泥師の方こそ、大会へは行かなくていいのか。

 何なら一人でも行けるよう地図でもかいてやろうか?」

「いや、私も私でここで用が済みそうだ。さきほど見えたのだ。」

「わかってくれたならそれでいい。残るってことは手を貸してくれるんだろう?」

「ここまでこれたという借りもある。目的は達成できそうだし、だったら借りを返さねば私の気がすまないからな。」

「なら、安心だ。じゃあ、俺はちょっと必要そうなものを準備してくる。

 武器が戻ってきたと言っても流石にこの装備での化かし合いはしんどいからな。」

「まったく、ここまで来ても正々堂々とやる気はないのか。」

「まともにやっても勝てないことのがわかってるならそれ相応の準備はしないとな。」

「まぁいい。わかったわかった。ほら、行って来い。」

 

そういうと、男のほうと思われる足音はそのまま遠ざかっていった。

すると、今ここに残っているのは女のほうとなるが…?

 

「ふん、周りくどいばかりの男だ、全く。

 まぁいい。おい、お前、目を覚ませ。おまえに用があるんだ。おい、起きろ、賈文和!」

 

そこまできいて、白蓮は理解した。

私達は攫われたのだ。

共に行動していた詠がいる。ならば璃々もいるだろう。

回りにいるのだろうか。

確認をしなければ。

その一心で白蓮がとった次の行動が、職務に忠実で、しかしどこか抜けいることから常に凡庸と評価されてしまう彼女らしい不運を招いた。

 

ドン。

と。

重たい音がした。

 

彼女が急激に身を捩り体を動かしたせいで、そして、男女が先ほどまで暴れていたせいで、壁に立てかけてあった身の丈ほどもある大きな斧の柄が白蓮の頭を直撃した。

 

刃をしたにおいてあったことがせめてもの救いだろう。

白蓮は胴体と頭の泣き別れこそ避けられたものの、せっかくつなぎとめた意識とは泣き別れることとなった。

 

そのため、肝心の、一番肝心な部分は彼女の耳には届かなかった。

 

「あ…うそ、あんたなんで…華雄!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

人質に加えて更にもう一つ、大事なものは預かった。

武道会は予定通り開催しろ。

 

誘拐犯のこの要求も、程なくして華琳に届けられた。

仮面の二人組に叩き伏せられたという警邏隊員たちの報告から即刻人相書が用意され、直ちに捜索が開始される。

また同時に、凪に手配し、重要な財産や装備、その他宝物や食料などありとあらゆるう重要なものの存否が確認された。

それは、もちろん華琳の部屋に安置されていた「御遣いの服」や、あのときの約束の品まですべてである。

だが、何一つとして『欠品がなかった』。

その事実が、華琳達にとっては不安材料であった。

 

「間違いなく何かが盗られているのでしょう。しかし何一つとしてなくなってはいません。」

 

桂花の報告はその事実を事実として確認するための作業だった。

 

「ですが、実際に璃々たちが攫われている以上何かしら盗られたと見て考えるべきです。」

 

しかしそれがなにかわからない。

問題は「何が盗られたか」であるのに、その先の報告が続かない。

桂花であれば、知っていれば隠しはしないはずである。

つまり、その先が続かないという事実こそが、手詰まりの状況を意味していた。

何を盗られたのか。

それ如何によっては人質の救出すらままならないことになりかねない。

 

「もしかしたら、盗られたというはったりか、もしくはかなり抽象的なものかもしれないですね。」

 

風ですらそんな憶測をいう始末である。

 

「だったら、もう少し別の言い回しを取りそうだけれど…」

「そうなんですがね~。流石に手がかりが少なすぎるのですよ…」

「華琳様、もう一度すべての貴重品を点検なさったほうがよろしいかと。」

「そうね、桂花の言う通りだわ。風、現場を指揮している稟にも同様に伝えてちょうだい。」

「了解しました。

 あと、さっき稟ちゃんと話し合って気がついたことがありますのでご報告を~。

 『早すぎます』と稟ちゃんはいってました。

 風もそう思います。華琳様ならば、ここまで言えばわかるかと…。では~」

 

口調こそ普段通りおっとりとしているが、頭の上の宝慧が口を挟んでこないところを見るに、風も焦っているように思えた。

そして、玉座に忠臣と二人で残された王。

先ほどの小さき軍師の言葉を反芻する。

 

「わざと言葉を濁したわね。」

「私もそう感じました。言っていることはおそらく実際に攫われてから報告までの時間のことかと。」

「だとすると、なぜ風がああいったのか、察しがつくというもの…かしら?」

「おそらく、華琳様のお考えの通りかと。」

 

大抵の場合、悪いことが起きている時に感じる悪い予感は的中してしまう。

今回が、まさに。

思わず天を仰ぎたくなるような状況であるが、しかし華琳はこめかみを少し抑えて、前を向く。

 

「桂花。急いで準備を。手の開いている兵士をすべて会場周辺に集めなければならないわ。

 ここまで来たら、ある程度の犠牲は覚悟するしか無い。

 ただし、それは私達が、という意味よ。

 相手がここまで来るというのだから、出迎えてやりましょう。」

 

あまりに鋭いその視線に、長らく彼女に使えている盲臣ですら身動ぐ。

 

「盗られたものがなんであれ、気が付かぬほどならばそれはきっと捨て置いても構わぬほどのものでしょう。

 もしかしたら誰かに拾われるかもしれないだろう、とあいつなら言うのでしょうね。

 それよりも、いまは友を。

 誰一人、傷ひとつ付けずに取り返すことだけに専念します。いいわね、桂花。」

「御意。」

 

一番守らなければならないもの。

もう二度と間違えるようなことはしない、と。

小さな背中に負った道に背くことはしないと。

あいつが示したこの道は、どこまでいっても正しいはずだから。

 

天頂から少し日が傾き、いまからが一日で一番熱くなる。

太陽はまだ、その輝くを失ってはいなかった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

各方向に命令が飛び交い、慌ただしく人が行き交う中、友人を心配し、いてもたってもいられなくなって華琳の補佐として書類の確認を手伝っていた月はあることに気がついた。

 

「泥師…デイシ…でも確かこれってドロとよむとか…ドロシ…?

 じゃあこっちの杜々はトト、かしら…

 これって確かあの時の…

 まさか…でも…もしかして…。」

 


 
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