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真・恋姫無双アナザーストーリー 蜀√ 桜咲く時季に 第51話

葉月さん

またまたお久しぶりです。
なんとか本年中にもう一作品投稿が出来ました。
まあ、年明け30分前でこれを書いている訳ですが。

さてさて、自分の事はこれくらいにしてと。

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2013-12-31 23:35:02 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:5992   閲覧ユーザー数:4527

真・恋姫無双 ifストーリー

蜀√ 桜咲く時季に 第51話

 

 

 

 

【地平を見て友を思う】

 

 

 

「……」

 

夜の城壁に一人佇む女性がいた。

 

月明かりを受けた髪は青白く輝いていた。

 

彼女の名は厳顔。この巴郡の町を治める城主である。

 

「紫苑が、の……」

 

間諜が持ち帰った報告書を読み終え、ぽつりとつぶやき地平の彼方を見つめるその表情は、落胆とも怒りとも違う表情をしていた。

 

「お呼びですか、桔梗様」

 

彼方を見つめる厳願の元に階段を上り一人の少女が現れた。

 

「来たか、焔耶……」

 

焔耶と呼ばれた少女の名は、魏延。焔耶とは彼女の真名である。

 

そして、焔耶が口にした桔梗とは、厳顔の真名であった。

 

「……」

 

「桔梗様?」

 

桔梗様が呼んでいると家臣から連絡を受け、彼女のもとへ来た焔耶だったが、一言言葉を発した後、無言になってしまった彼女に再度話しかけた。

 

「紫苑が……劉備軍に降った」

 

「なっ!?そ、それは本当ですか!」

 

あまりの事に声を荒げ聞き返す焔耶。

 

「間諜からの知らせだ。まず間違いなかろう」

 

そう言うと、間諜からの報告書を焔耶に手渡す。

 

「……」

 

焔耶は受け取った報告書に目を通す。

 

そこに書かれていた内容は、紫苑が劉備軍の太守、北郷一刀に降ったことが記されていた。

 

「で、ですが、一体どうして……桔梗様とは古い付き合いなはず。それを裏切るようなことを」

 

紫苑と桔梗は古くからの知り合いであり、また良き好敵手(ライバル)でもあった。

 

そのことは焔耶も知っており、紫苑が劉璋配下になってからは、たまに巴郡へ来ては酒を呑みながら話に花を咲かせるほど、仲が良かった。

 

「紫苑にもそれなりの理由があったのだろう」

 

「桔梗様を裏切ってまで寝返る理由……っ!まさか、脅されているとか!確か、娘が居ましたよね!……そうか、娘を人質に裏切らせたに違いない!なんと卑怯な!」

 

「……そうとも限らんぞ」

 

「いいえ。きっとそうに違いありません!この北郷とかいう男、なんて卑怯なんだ!ワタシの鈍砕骨で叩き潰してやるぞ!」

 

「はぁ……」

 

桔梗は、焔耶の思い込みに飽きれながら溜息を吐く。

 

「どちらにせよ。紫苑は敵になったのだ。こちら側の情報は筒抜けだろう。だ――」

 

「娘を人質に情報を聞き出す……ますます卑怯な」

 

桔梗の話を遮り、拳を震わせて言葉を荒げる焔耶。

 

「……焔耶、聞いておるか?」

 

「裏切らせるだけでは飽き足らず、こちら側の情報を聞き出すなんて、許せん……許せませんよ、ききょ――」

 

「人の話を聞かぬかっ!」

 

(ごんっ!)

 

桔梗は、焔耶の頭上目掛けて拳を振り下ろした。

 

「はうっ!な、何をするのですか、桔梗様。頭が割れてしまいます」

 

「人の話を聞かん奴の頭などどうでもよいわ」

 

頭を押さえ、涙を滲ませ訴える焔耶に桔梗は冷たい一言を放つ。

 

「ひどいですよ、桔梗様。ワタシがどれだけ――」

 

「もう一発欲しい様だな、焔耶よ」

 

「っ!?!?(フルフルッ!)」

 

拳を握りしめ、高々と腕を上げる桔梗を見て、焔耶は全力で首を横に振った。

 

「なら大人しく、ワシの話を聞け」

 

「っ!(こくこくっ!)」

 

焔耶は、縦に何度も頷く。

 

「ワシの予想だが、劉備軍はここを目指してくるだろう」

 

「なぜですか?成都を目指すなら遠回りなはずですよね」

 

「距離だけを考えれば、な」

 

「距離?」

 

「とにかく、ワシらがやることはただ一つ。来るのなら迎え撃つまでだ」

 

「もちろんです!劉備軍の北郷とかいう卑怯者を叩きのめし、返り討ちにしてくれます!」

 

「だから違うと……まあ、やる気になっているのなら良しとするか」

 

苦笑いを浮かべ、視線を再び地平の彼方へと移す。

 

「天の御使い、北郷一刀、か……」

 

桔梗は少し過去に思いをはせた。

 

≪桔梗視点≫

 

「今日は、ここまでにするか」

 

「あ、ありがとうございます。き、桔梗様、はぁ、はぁ」

 

肩で息をし地面に倒れこむ、焔耶。

 

「まったく、いつも言っているだろうが、お前は得物を振り回しすぎだ。もう少し考えて攻撃せんか」

 

「で、ですが、当たれば相手には深手をあたえられます。なら……」

 

「それで、ワシに一撃でも入れられたか?」

 

「うぐっ……そ、それは、桔梗様だから……」

 

「相手がワシだからではない。そこらの兵ならいざ知らず、それなりの手練れなら、お前の攻撃は全て避けられるぞ」

 

「うぅ……」

 

言い訳をする焔耶に鋭い指摘をすると、焔耶は何も言い返せなくなり肩を落とした。

 

「ふふふ。相変わらずね、桔梗」

 

「桔梗お母さん!」

 

修練場の入り口から久しく聞いていなかった友の声と、その娘の元気な声が聞こえてきた。

 

「久しぶりね、桔梗」

 

「ん?紫苑ではないか。どうしてここに居るのだ?」

 

突然の訪問に疑問を紫苑に投げかけた。

 

「どうしてって……貴女が文をくれたのでしょ?」

 

「……あ、あ~、そう言えばそうだったな。すっかり忘れとったわ。はっはっは」

 

しばらく考えていたワシは確かに紫苑に文を出したことを思い出し誤魔化すように笑った。

 

「まったくもう、相変わらずね。でも、元気そうで何よりだわ」

 

呆れた表情をする紫苑だったが直ぐに微笑んできた。

 

「お主もな。璃々もずいぶんと大きくなったではないか」

 

「えへへ♪」

 

璃々の頭を撫でてやると、嬉しそうに笑ってくれた。

 

「桔梗様。そのお二方は?」

 

「ああ、お前は初めてだったな。こやつは黄忠。ワシの古くからの友だ。そして、こやつは魏延。まだまだ半人前のひよっこだ」

 

「き、桔梗様~~~!」

 

「ふふふ、初めまして、(わたくし)は黄忠。字は漢升。よろしくお願いしますね」

 

「璃々は、璃々っていうの!よろしくね、姉ちゃん!」

 

「あ、ああ。こちらこそ、よろしくたのむ――」

 

(ごんっ!)

 

「あいっ!?」

 

「目上の者には敬意を払えとあれほど言ったであろうが、この馬鹿者が」

 

「す、すみませ~ん!」

 

「まったく……すまんな、礼儀もなっとらんひよっこで」

 

「ふふふ、(わたくし)は気にしてないわよ」

 

「さて。丁度、鍛錬も終わったところだ。軽く……どうだ?積もる話もあるだろ?」

 

手で輪を作り、口元で軽く傾ける。

 

「仕方ないわね……璃々はどうする?」

 

「う~んとね……お母さんたちと一緒にいる!」

 

「焔耶はどうする」

 

「ワタシはこの後、町の警邏がある……ありますので、遠慮す、します!」

 

何度も言い直して調練場を後にする焔耶。

 

「もう、あまり、苛めちゃだめよ?」

 

「教育と言って欲しいな。言葉使いくらいしっかり出来ねばワシのような良き武将にはなれんからな」

 

「……」

 

「なんだその、『自分は良き武将だと思ってるの?』と言いたそうな眼は」

 

「そんなこと思ってないわよ。ほら、昔話を肴に呑むのでしょ?」

 

「それはそうだが……」

 

「さあ、璃々もいらっしゃい」

 

「は~い!桔梗お母さんも早く行こ!」

 

「あ、ああ、わかったから引っ張るでない。ワシがこけてしまうぞ」

 

璃々に手を引っ張られ前かがみになりながら歩き出す。

 

う~む。まんまと紫苑に誤魔化された気もするが、まあいいだろう。

 

こうして、ワシたちは鍛錬場を後にした。

 

「それで、そっちの状況はどうなっておるのだ?」

 

「良くはないわね。年々税が厳しくなるのに、生活は豊かにはならず、官僚は賄賂で私腹を肥やしている」

 

「どこも一緒か……」

 

紫苑の話を聞き、苦い顔をし酒を一口呑む。

 

「ええ。そして、生活に苦しくなった民は飢えて死んでしまうか、または賊に堕ちるか」

 

「辛いところだな、上に立つものとしては」

 

「ええ……」

 

「……」

 

「……」

 

うむむ、酒の席だというのに場の雰囲気は暗くなってしまった。

 

「すまんな。暗い話になってしまった。話を変えよう。他に何か変わったことはなかったのか?」

 

「そうね……」

 

このまま気の滅入る話を続けたくはなかった為、他に無いかと話を逸らした。

 

「璃々ね、助けてもらったんだよ!」

 

考えるそぶりを見せる横で璃々が嬉しそうに話し出した。

 

「ん?誰に助けてもらたんだ?」

 

「うんとね、お兄ちゃん!」

 

「お兄ちゃん?」

 

「うん!ねぇ、お母さん!」

 

「ええ、そうね」

 

その時、紫苑の顔がほのかに赤く染まっているのをワシは見逃さなかった。

 

「なんだ、紫苑よ。随分と嬉しそうじゃないか」

 

「そんなことないわよ」

 

「嘘を申すな。頬を赤くして言っても説得力がないぞ。ほれ、どんな話なんだ?」

 

「……仕方がないわね。実は、桔梗から文を貰いこちらへ来る道中のことよ」

 

紫苑は苦笑いを浮かべ、その時のことを話し出した。

 

………………

 

…………

 

……

 

「そんなことが……」

 

紫苑の話を聞き終わりワシは驚いていた。

 

璃々が賊に攫われてしまったことにも驚いたが、それよりも璃々を助け出した人物の方がもっと驚きだった。

 

「あの天の御使いと言われる北郷一刀に助けられた、か」

 

「ええ。とてもお優しい方だったわ」

 

「それで、紫苑はその天の御使い度に惚れてしまったと、そう言うわけか」

 

「もう、違うって言っているでしょ、桔梗」

 

「はっはっは!隠すな隠すな!もう長い付き合いなんだ。お前の態度を見ていれば直ぐにわかる。璃々はどうなのだ?」

 

「ん?」

 

「その天の御使いのお兄ちゃんは好きか?」

 

「好きーーーっ!」

 

「はっはっは、紫苑より璃々の方が素直だな」

 

「えへへ♪」

 

素直な気持ちを言う璃々の頭を撫でてやると、嬉しそうに微笑んだ。

 

「紫苑が惚れているのはわかったが、それ以外に天の御使いの話ならこちらでもいくつか伝わってきているぞ」

 

「だから惚れている訳じゃ……まあ、いいわ。それでどんな話が伝わってきているのかしら?」

 

なんじゃ、つまらん。もう少しからかえると思ったんだがな。

 

これ以上言っても無駄だと思ったのか、紫苑は否定するのを止めて話の続きを聞いてきた。

 

「そうじゃな……まずは黄巾党一万を打倒したとか」

 

「それなら聞いたことがあるわ。でも、呂布という将は一人で三万の黄巾党に戦いを挑んだと聞いたことがあるわよ」

 

「いやいや。確かに一人で三万も凄い。いや、凄すぎる。正直、聞いた時は、化け物かと思ったくらいだ。だが、天の御使いは、一万を一瞬で倒したと聞くぞ」

 

「い、一瞬で?それは本当なの桔梗」

 

ワシの話に驚きを隠せない紫苑。そりゃそうじゃろ、ワシも聞いた時は耳を疑った程じゃからな。

 

「まあ、ワシも聞いた話だからの。真実は分からん。だがこんな話も聞いた。天の御遣いは、反董卓連合軍の時、呂布の一撃を軽く受け止めたとも聞き及んだ。これを聞くと、あながち一瞬で倒したというのも嘘ではないような気がせぬか?」

 

「た、確かにそうね……」

 

「まあ、なんにせよ。一番興味を持ったのは紫苑が天の御使いに惚れているということだがな」

 

「もう、桔梗!?」

 

「はっはっは!」

 

不意を突かれたことに紫苑は頬を赤くしてワシに抗議をしてきおった。

 

ワシはそれを笑って酒の肴にした。

 

………………

 

…………

 

……

 

「……くくく」

 

「桔梗様?」

 

思い馳せていた桔梗が突然笑い出し、焔耶は声をかけた。

 

「なんだ、焔耶」

 

「いえ、なんで笑っておいでなのかなと」

 

「ん?わからんか?」

 

「は、はい」

 

「簡単なことよ。久々に良い喧嘩が出来そうだなと思っただけだ」

 

「確かに、ここ最近は骨のある賊などが攻めてくることもありませんでしたからね」

 

「焔耶もそう思うか?」

 

「はい」

 

桔梗に聞かれニヤリと笑いながら返事をした。

 

「しかし、本当にここに来るのでしょうか。いくら桔梗様が来るとおっしゃっても……」

 

「いや、必ず来る。紫苑があちら側に、劉備軍についたのならな……」

 

自信を持って断言する、桔梗。願望なのか、はたまた、古い付き合いだからわかるのか、それは桔梗にしかわからないことだった。

 

「来るとしたら二日後でしょうか」

 

「そうじゃな。それくらいだろうな。焔耶よ」

 

「はい。戦の準備ですね。兵たちに伝えてきます」

 

「うむ。頼んだぞ」

 

「御意」

 

焔耶は、桔梗に礼を取ると戦の準備をする為に城壁を降りて行った。

 

「……さて、強き武士(もののふ)との出会いに感謝して一献、いや一升瓶頂くとしようかの。んっ……んっ……」

 

桔梗は腰に提げていたひょうたんを手に取り、乾杯をするかのように月に向かい瓢箪を掲げた後、酒を呑んだ。

 

≪一刀視点≫

 

「さてと、みんな集まったかな?」

 

今後の進軍を話し合う為に朝早くから集まった。

 

「ふぁ~……眠いのだ」

 

「こら、鈴々!しっかりせぬか!今後を決める大事な軍議だぞ!」

 

「うにゃ~……眠いものは眠いのだ……」

 

愛紗の抗議に鈴々は体をフラフラと揺らしながら子供らしい文句を言っていた。

 

「まあまあ、愛紗ちゃん。朝早いんだから仕方なよ」

 

「しかしですね、桃香様」

 

「それに、美羽ちゃんだって眠たいみたいだし」

 

「ふぁ~~……七乃、眠いのじゃ……」

 

「もう少し我慢しましょうね。こわーい人が睨んできちゃいますよ~」

 

「そ、それは嫌なのじゃ~~、でも、眠いのじゃ~~~」

 

桃香の視線の先には目を擦りながらフラフラする美羽と笑顔の七乃が居た。

 

「……なんで、ここに美羽と七乃が居るんだ」

 

二人のやり取りを見て愛紗はこめかみを押さえてつぶやいていた。

 

「美羽ちゃんたちだって私たちの仲間なんだから仲間外れはダメだよ」

 

「す、すみません……」

 

桃香に注意され、謝る愛紗。

 

「でも、実際。居ても居なくてもかわらないよね。だって袁家なんだしさ!」

 

「「……」」

 

蒲公英の言葉に誰一人として否定をする人が居なかった。

 

「あは、あはははは……」

 

桃香も苦笑いを浮かべることしかできなかった。

 

いや、一人だけ抗議する声があった。

 

「何言ってるんですか~。お馬鹿なことを言うところが可愛いんじゃありませんか。それがわからないなんてまだまだですね~」

 

「「……」」

 

七乃の言葉に呆れて何も言えない一同。

 

「あ、あはははは……と、とにかく、朝議を始めましょう!し、朱里ちゃん、進行よろしくね!」

 

「はわわ!?わ、わかりましゅた!で、では、しぇいとへの進軍を……」

 

「朱里、少し落ち着こう」

 

「はわわ!?そ、そうでしゅね!……すー、はー……もう大丈夫です。では、成都への進軍する陸路を決めましょう」

 

落ち着くよう朱里に言うと、落ち着くために深呼吸をし、数秒して落ち着きを取り戻した朱里は進行を再開した。

 

「まっすぐ突っ切るのだ!」

 

「そうだな。アタシもそれに賛成だぜ!」

 

鈴々の意見に賛同する翠。まあ、相変わらずの猪突猛進ぷりで何よりだ。

 

「……紫苑はどう思う?紫苑の意見を聞きたいんだけど」

 

「そうですね……」

 

「……やはり、かつての仲間を裏切るのは気が引けるか?」

 

悩む紫苑を見て愛紗は、少し怪訝そうな表情を浮かべて紫苑に話しかけた。

 

「いえ。そう言うわけではないのですが……(わたくし)は、こちらの道筋を提案いたしますわ」

 

紫苑は、鈴々とは違う、遠回りの道を提案してきた。

 

「この道筋では、時間が掛りすぎる。鈴々が言った通り、まっすぐな道の方が良いのではないか?」

 

「それはですね……」

 

「進軍を遅らせる魂胆ではないのかえ?」

 

「「「え……」」」

 

美羽の不用意な発言に一斉に紫苑に視線が集中した。

 

「……ああん!美羽様ったら、この空気の読めなさが最高ですぅ~!」

 

「うむ。そうじゃろ、そうじゃろ……うははは……ふぁ~~~……といことで、妾は眠いので部屋に戻って寝るのじゃ。七乃、付いてまいれ」

 

「は~い。それではみなさん。後のことはよろしくお願いしますね~」

 

七乃はフラフラと歩きだす美羽の後ろについて歩き、部屋から出て行った。

 

「「「……」」」

 

「……はぁ。誰でしょうね。美羽を呼んだのは……」

 

「あ、あははは……さ、さあ、気を取り直して朝議を再開しよぉ~!」

 

愛紗のじとっとした目線に桃香は苦笑いを浮かべ、誤魔化しながら朝議を再開させた。

 

あとで七乃にはお礼を言っておかないとな。重くなった場の空気を軽くしてくれたんだから。

 

美羽も言って良い事と悪い事の分別は出来てる。まあ、今回は眠気が勝ってて思わず言ってしまった、ってことだと思う。

 

「それで、紫苑。なんで一直線の関所じゃなく。わざわざ遠回りの関所を提案したんだ?何か理由があるんだろ?」

 

「え?あ、はい。もちろんですわ、ご主人様」

 

紫苑に話を振ると呆けていたのか慌てて返事をした。

 

「こちらの陸路を選んだ理由は二つあります。一つはここです」

 

「そこは巴郡ですね。そこに何があるのですか?」

 

朱里は、地図を確認して紫苑に尋ねた。

 

「この町に厳顔と言う、一人の武将がいます」

 

「厳顔……その武将がどうしたというのだ紫苑よ」

 

「彼女は(わたくし)の古くからの友人です」

 

「あ!それじゃ、初めて会った時に言っていた、『古い友人に会いに行く』って……」

 

桃香はパンッと手を合わせて紫苑を見た。

 

「ええ。彼女のことです。彼女の誘いを受け、(わたくし)はここの城主になりました」

 

「わかった!それじゃ、その厳顔さんに言えば、戦わずに通してくれるんですね!」

 

「いいえ。それはありません」

 

「あ、あれ?そうなの?」

 

桃香の話を否定する紫苑。

 

「厳顔は無類の喧嘩好き、きっとただでは通してくれないと思います」

 

「では、なぜこの陸路を選んだのだ?そこだけを聞くと、遠回りする利点が無いように見えるが」

 

「確かに愛紗の言うとおり、今聞いた話だけだと何の利点もないな。逆に不利な点が多すぎる」

 

腕を組み、愛紗の言ったことに同意する星。

 

「厳顔は、今の政権に不満を持っています。ですが、民の暮らしを考えるとそういうわけにはまいりません」

 

「なら私たちがこの国を安心して暮らせる国にするってことを伝えれば通してくれるんじゃないですか?」

 

「先ほども言いましたが、厳顔は喧嘩好きです。戦は回避できないと思います」

 

「そ、そんな……」

 

紫苑の話に桃香はがくりと肩を落とす。

 

「ですが、悪い話だけではありません。(わたくし)たちの実力を認めさせれば、きっと力強い仲間になると思いますわ。そして、厳顔を仲間にすることが出来れば、二つ目の理由が成立するのです」

 

「厳顔を仲間にするとどうなるというのだ?確かに、戦力は増強されるという利点にはなるが……」

 

愛紗は自分の中で考えられる利点を挙げていたが、まだ腑に落ちないといった表情をしていた。

 

「実は、巴郡から先の半分以上が厳顔の息が掛った関所になっているのです。厳顔がご主人様たちのお仲間になったと知ったら、戦わずして最短で成都へ向かうことが可能です」

 

紫苑は巴郡から成都までの間の関所のいくつかに石を置いていった。たぶん、そこが厳顔さんの息が掛った関所なんだろう。

 

「……はわわっ!本当です。食糧などの面からみても、紫苑さんが提案してくれた陸路の方が早いです」

 

朱里はしばらく顎に手を当ててそれぞれのルートの軍行日数や食糧の消費を考えていたが、結果が出たのか驚きの表情を浮かべていた。

 

「仲間も増えるし、最短で行ける、か……うん、俺は紫苑の案に賛成だけど、みんなはどうかな」

 

「うん、私も賛成だよ!戦う回数が少なければそれだけ敵も味方も怪我をしなくて済むもんね!」

 

「そうですね。成都まで力を温存するに越したことはありませんからね。私も賛成です」

 

「鈴々はお兄ちゃんについていくだけなのだ!」

 

「暴れられる機会が少なくなるのは少々物足りませんが、その分、成都で大暴れをすれば良いだけのこと。私も賛成ですぞ主よ」

 

三者三様の答えが返ってくるがみんな一貫して紫苑の提案に賛成してくれた。

 

「よし!それじゃ、紫苑の提案で進めていくぞ!朱里と雛里は紫苑から詳しく話を聞いて作戦を立ててくれ」

 

「「御意です!」」

 

「愛紗と鈴々、星は、兵の鍛錬を頼む」

 

「お任せください!」

 

「わかったのだ!」

 

「任されよう」

 

「翠、蒲公英、菫、白蓮は騎馬隊の調練を頼む。数少ない機動部隊だ。頼りにしてるよ」

 

「任せとけ!」

 

「たんぽぽ頑張っちゃうよ!」

 

「仰せのままに、ご主人様」

 

「や、やっと私にも活躍する場が!ま、任せておけ北郷!」

 

「あ、あの、私はどうすればよいでしょうか」

 

「雪華は兵站の準備を頼む」

 

「ふぇ!?わ、私一人で、ですか!?」

 

「ああ。雪華ならもう一人で仕事を任せられると朱里のお墨付きだからね」

 

「ふぇええ!?し、朱里先生!?」

 

「ふふふ。雪華さんは、もう十分一人でやって行けますよ。仕事も的確で安心して任せられます」

 

「と、言うことだから。頑張ってね」

 

「は、はい!期待に応えられるようにがんばります!」

 

両拳を握りしめガッツポーズをとる雪華。

 

「そんなに気負わずに力を抜いていこう」

 

「い、いえ!そう言うわけにはいきません!皆さんの命を預かる大事なことですから!」

 

う~ん。初めて一人で任された仕事だから気合が入るのは分かるけど。そういう時に限って失敗しちゃったりするんだよな。経験談だけど。

 

「雪華。別に失敗してもいいんだぞ」

 

「な、なぜですか!失敗してしまっては、皆さんの信頼を裏切ることになってしまいす!ここは、気合を入れへっ……にゃ、にゃにをふるのへすかこふひんひゃまっ!」

 

俺は雪華の両頬を引っ張る。すると雪華は俺に抗議してきた。

 

「雪華は気負いすぎ。人間は失敗をする生き物なんだから、失敗したっていいんだ。要は失敗から何を学ぶかが大事なんだよ」

 

「……こふひんひゃま、ひょろひょろ、頬から手をはなひてくだひゃ」

 

「ああ!ごめんごめん。痛かったよね」

 

俺は慌てて頬から手を放し、代わりに抓っていた部分を優しくさすってあげた。

 

「ふぇ……えへへ♪」

 

頬をさすってあげると雪華は恥ずかしそうな、でも、嬉しそうな表情を浮かべていた。

 

「ごほんっ!」

 

「ふぇ!あ、あのご主人様が言いたいことは分かりました!失敗から学ぶ……武術と一緒ですよね。負けからなぜ負けたかを考え、次は同じことで負けないようにするためにみたいな」

 

「うん。そういうこと。人は失敗をすることで同じ過ちを繰り返さないように努力する。失敗しないより、失敗をして成長した方がより多くのことを学べるからね」

 

「でも……」

 

雪華は何か言いたそうにしていたがそこで、言葉を詰まらせた。

 

「でも、なに?」

 

「そ、その……失敗ばかりしたらやっぱり、いらない子って思われて、ここに居られなくなる……」

 

「……そんなこと、気にしてたのか?」

 

「き、気になります!だ、だって……ご主人様に嫌われたくないから……」

 

勢い良く顔をあげて言い放ったかと思えば、段々と声が小さくなり、しまいには俯き、最後の方はよく聞き取れなかった。

 

「大丈夫だよ。失敗しても誰も雪華のことを責めたりしないよ。なんせ、みんな色々な失敗を経験して、今があるんだからね」

 

「……ご主人様も、ですか?」

 

「え?ああ、もちろんだよ。俺も何度も失敗してるぞ」

 

「ほほう。主の失敗談……興味がありますな。酒の肴にはもってこいですな」

 

ニヤリと含みを持たせて笑う星。

 

「言っておくけど。教えないぞ」

 

「え~!ご主人様のお話聞きたいな~。愛紗ちゃんもそう思うよね!」

 

「わ、私は別に……」

 

「うんうん。そうだよね。好きな人のことはどんなことでも知りたいよね!」

 

「っ!?わ、私は知りたいとは一言も!」

 

「愛紗ちゃんもそう言ってることだし、教えてほしいな~」

 

「桃香様!?」

 

愛紗を無視して話を進める桃香。

 

「それじゃ、ここで多数決!ご主人様の恥ずかし~~~~~~~い。失敗談を聞きたい人は挙手!は~~~い!」

 

突然、蒲公英が声をあげ、多数決を取ろうと言い出した。当然、俺は挙げるつもりはない。自分の失敗談を語るなんて恥ずかしすぎるだろ!

 

「な、なんだ、と……っ!?」

 

しかし、俺の願いとは裏腹に、なんと俺以外の全員が挙手していた。

 

「は~い!というわけでぇ。ご主人様の失敗談を根掘り葉掘り聞きだすことに決定しました~~~~!ぱちぱちぱち~♪」

 

多数決の結果に言葉で拍手をする蒲公英。

 

くっ!じょ、冗談じゃないぞ!そんなこと話せるわけがないじゃないか!ここは戦略的撤退を……

 

「っ!星ちゃん、鈴々ちゃん!ご主人様が逃げるよ!扉を死守して!」

 

「任せるのだ!」

 

「ふっふっふ。逃がしはしませんぞ、主よ」

 

桃香の命令にすかさず反応し、扉の前に立ち腕を組む鈴々と星。

 

星……その台詞は、悪役が言う台詞だぞ。

 

「くっ!……なら!」

 

「翠、蒲公英。ご主人様が窓から逃げようとしています。死守しなさい」

 

「は~い♪」

 

「うぅ、す、すまないな、ご主人様……でも、あたしも興味があるから……ごめん!」

 

菫の指示で二つしかない窓の前にそれぞれ立つ、翠と蒲公英」

 

「さあ、ご主人様。もうこれで逃げられないですよ♪」

 

他に……他に、逃げ出せる場所は……

 

「はいは~い。一刀君、往生際が悪いよ」

 

逃げ出せる場所がないか探していると優未に話しかけられた。

 

「当たり前だろ。誰が好き好んで自分の恥ずかしい話をしなきゃいけないんだよ」

 

「ふっふっふー。一刀君の意見は聞いていませーん。これは決定事項なんだよ?多数決で決まったことなんだよ?」

 

「だからって話すわけにはいかない!男としての尊厳が!」

 

「も~、そんなこと言ってると、最終手段を取っちゃうぞ!」

 

「さ、最終手段?」

 

「にしし……これだーーーー!」

 

「っ!?!?」

 

優未は背後から何かを取り出した……って。

 

「雪華じゃないか!」

 

「そ、雪華ちゃんですよ~♪」

 

「ふ、ふぇぇぇ」

 

優未の背後から出てきたのは、物ではなく、人物。雪華だった。優未に抱き枕のように抱きつかれた雪華は少し涙ぐんでいた。

 

「雪華をどうするつもりだ?」

 

「ん?こうするの……ぺろ♪」

 

「ひゃぅうう!?」

 

優未にうなじをペロッと舐められ、雪華は悲鳴を上げた。

 

「ぬふふ~♪一刀君の恥ずかし~~~~い話を聞かせてくれないと、可愛い可愛い雪華ちゃんを私が辱めちゃうぞ~♪ん~ちゅ♪」

 

「ひゃう!ふ、ふぇぇぇ……ご、ご主人様~~」

 

今度はうなじにキスをする優未。

 

雪華は優未に捕まえられているので逃げることが出来ずなすがままになっていた。

 

「くっ!」

 

「ほらほら、どうするの一刀君?大事な雪華ちゃんが大変なことに~~ほれ♪」

 

(むにむに)

 

「ふぇえ!?や、やめてくだ、ひゃん!……ふぇぇ……ご主人様~~」

 

優未は背後から雪華の胸を揉み始めた。そして、雪華はさらに目じりに涙を溜めて俺を呼んでいた。

 

「わ、わかった!話す!話すから雪華を開放してくれ!」

 

「……んっふ~♪最初から素直にそう言ってればいいのに」

 

「ふぇぇええ、ご主人様~~」

 

(がばっ!)

 

「よしよし。ごめんな、雪華。俺のせいで怖い目にあわせて」

 

(なでなで)

 

抱きついてきた雪華の頭を優しく撫であげた。

 

「ちょっと~、それじゃ、私が悪者みたいじゃない」

 

「悪者みたい、じゃなくて、悪者。だと思うぞ、俺は」

 

「ひっどーい!そんなことないよね、雪華ちゃん?」

 

「ふえ!?」

 

優未は雪華の顔を覗き込むと逃げるように俺の背後に回った。

 

「……そ、そんな~!雪華ちゃんだって一刀君の恥ずかしい話聞きたいから協力するって言ったよね!」

 

「そ、それは、そうですけど……まさか、あ、あんなことをするなんて聞いていませんでしたから」

 

俺の背中に隠れながら雪華は優未の話に答えた。

 

「……まあ、雪華も自業自得だけど……優未は、しばらくは雪華に近づくのは禁止な」

 

「ええええ!?わ、私、雪華ちゃん成分が無いと生きていけないよ!」

 

雪華ちゃん成分ってなんだ。雪華にそんなもの……

 

ふと、俺の背中にしがみつく雪華を見下ろした。

 

「……」

 

「……ふぇ?」

 

抱きついているせいもあるが瞳を潤ませ上目使いで俺を見上げ、不思議そうに首を傾ける仕草はとても年相応には見えず幼く見えとても可愛かった。

 

あ、あるかもしれない……

 

「と、とにかくだ。優未はしばらく雪華に近づくのは禁止!いいな」

 

「う~……雪華ちゃんに嫌われたくないから仕方ないか~……なら」

 

「ひぅっ!?」

 

優未はつつつっと目線を雪華から雛里に移した。

 

「ひぅ!?」

 

雛里は、危険を察知したのか小さな悲鳴を上げて隣にいた朱里の背中に隠れ帽子を目深くかぶった。

 

「……雛里にも近づくのは禁止な」

 

「えぇぇぇええ!?わ、私、雛里ちゃん成分が無いと生きていけないよ!」

 

どれだけ、成分が必要なんだよ……

 

「とにかくダメだからな」

 

「うぅ~、分かりました~~……がっくし」

 

肩を落とし、しぶしぶだけど了解してくれた。

 

「よし!それじゃ、さっき言った通りに準備をお願いね」

 

「「わかりました」」

 

「「御意」」

 

「うん。それじゃ、解散!」

 

皆の返事に頷き、部屋を出ようと歩き出した。その時……

 

(がしっ!)

 

「ご主人様?何か忘れてないかな?」

 

桃香が俺の肩を掴んでにっこりとほほ笑みながら話しかけてきた。

 

「……な、何のことかな?」

 

「またまた、とぼけちゃダメだよ、ご主人様。ちゃんと教えてもらいますからね」

 

「う……」

 

話の流れから切り抜けられると思ったんだけど、ダメだったか……

 

「で、でもさ、準備があるし……」

 

「朱里ちゃん」

 

「は、はい?なんでしょうか」

 

「一日くらい、遅れても問題ないよね?」

 

「え?そ、そうですね……今日中にやって頂きたい案件はありませんし、急ぎの案件が出てこなければ、大丈夫だと思います」

 

朱里は暫く顎に手を当てて考えていたが、特に至急な案件も無いから大丈夫だと桃香に伝えた。

 

「そっか。それじゃ、今日は一日全員お休み!ご主人様のお話を聞こーーう!お~う!」

 

桃香は一人、腕を高く上げ、高々と声を上げた。

 

「それに……雪華ちゃんとのこともお話しないといけないもんね」

 

なぜそこで雪華が出てくるんだ?それに、顔は笑ってるけど雰囲気は全然笑っている感じがしない。逆に凄みを感じる。

 

こうして、俺は、桃香たち全員に自分の失敗談を発表する羽目になってしまった。

 

とほほ……

 

「はぁ……、酷い目にあった」

 

肩を落としながら廊下を歩く。

 

あれから12時間ほど、自分の過去の失敗談と、なぜか雪華の事で説教をさせられた。

 

おかげで外は、すっかり夜になってしまっていた。

 

「ふふふ、お疲れのようですね。ご主人様」

 

「え?」

 

急に声を掛けられ俺はあたりを見回した。

 

「こちらですわ。ご主人様」

 

「紫苑か、こんな夜にそんなところでなにを?」

 

声のする方へ視線を移すと、そこには椅子に座る紫苑が居た。

 

「月を見ながらお酒を少々……ご主人様も一献如何ですか?」

 

「そうだな……それじゃ、ちょっとだけ。隣、いいかな?」

 

「もちろんですわ」

 

俺は誘いに乗り、紫苑の隣に座った。

 

「どうぞ、ご主人様」

 

「おっ。ありがとう……ふぅ」

 

注いでもらった酒を一口飲み、一息ついた。

 

「紫苑、ごめんな」

 

「急に如何いたしましたか?突然謝るだなんて」

 

「いや。仲間の、友人の情報を売るようなことをさせてさ。それに嫌な思いもさせちゃったし」

 

「……いいえ。(わたくし)自身が望んだことです。それに、美羽ちゃんの事でしたら……ふふふ」

 

「どうかした?」

 

紫苑は、何かを思い出したのか急に笑い出した。

 

「いえ。丁度、ご主人様が桃香様に怒られている時の事です。美羽ちゃんが(わたくし)に謝りに来たのですが、ふふふ」

 

紫苑は、その時のことを説明してくれた。

 

………………

 

…………

 

……

 

「あ、あの紫苑よ……」

 

「はい?あら、美羽ちゃん、でしたわね。(わたくし)に何か用かしら?」

 

振り返るとそこにはそわそわと落ち着かない美羽ちゃんと、にこにこと笑っている七乃さんが居ました。

 

「う、うむ……そ、その、な……」

 

「ほらほら、美羽様」

 

「わ、わかっておるのじゃ!七乃はちょっと黙っておれ!」

 

七乃さんに催促され、美羽ちゃんは少し言葉を荒げていました。

 

「し、紫苑よ!……先ほどはすまなかったのじゃ!」

 

ぺこりと頭を下げて、美羽ちゃんは謝ってきました。

 

「寝ぼけていたとはいえ、紫苑に酷いことを言ってしまったのじゃ。ご、ごめんなさいなのじゃ!~~~~~っ!」

 

「ああ、美羽様!お待ちくださ~い!それでは、紫苑さん、またです~」

 

美羽ちゃんは、もう一度謝ると、勢い良く来た道を駆けて行ってしまいました。

 

七乃さんは微笑みながら(わたくし)に会釈をして美羽ちゃんを追いかけて行ってしまいました。

 

「……ふふふ」

 

(わたくし)は、その光景につい笑ってしまいました。

 

………………

 

…………

 

……

 

「俺が起こられている時に、そんなことがあったのか」

 

「ええ。美羽ちゃん、とても素直な良い子ですね」

 

「根は素直な子だからね。七乃が甘やかし過ぎて我儘になってるだけなんだよ」

 

「あら、そんなことを言ってはいけませんよ、ご主人様」

 

「そうなんだけどさ、事実だしね」

 

「あらあら、ふふふ」

 

俺の言い訳に紫苑は笑っていた。

 

「うん。やっぱり、紫苑は笑うと可愛いね」

 

「っ!いやですわ、ご主人様。おからかいにならないでください」

 

「からかってなんかいないよ。俺は本当のことを言ったまでだよ」

 

「あらあら。そうやって桃香様や愛紗ちゃんたちを手籠めにしたのですか?」

 

「えぇえ!?なんでそうなるんだ!?……ただ、本当に可愛いなって思っただけなんだよ」

 

「ふふふ。わかっています。ちょっとからかっただけですわ」

 

紫苑は、慌てる俺を見て手で口元を隠し笑った。

 

「ま、まいったなぁ」

 

俺は頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。

 

「でも、ありがとうございます、ご主人様。そう言って頂けたのは久しぶりで年甲斐もなく嬉しくなってしまいました」

 

「あ、いや……うん。どういたしまして」

 

お礼を言われてしまい、思わず照れてしまった。

 

「ふふふ。さあ、ご主人様、もう一献、如何ですか?」

 

「あ、うん。頂こうかな。……ところでさ、紫苑」

 

「はい?なんでしょうか」

 

お酒を注いでもらいながら、紫苑に話しかけた。

 

「本当に良かったのか?古い友人なんだろ?」

 

「……ええ。旧友だからそこ、けじめを付けたいのです。そして、ご主人様に信じて頂きたかったのです」

 

「俺は、初めから信用してるよ」

 

「……あらあら」

 

紫苑はなぜか困った顔をして笑った。

 

「え、なに?」

 

「自分で言うのもなんですが、ご主人様は、もう少しお疑いになっても良いのではないかと思っただけです」

 

「仲間になってくれた人を疑うなんて、失礼じゃないか。それに、疑ってばかりいると疑心暗鬼に陥りやすいからね。だから俺は、信じることにしてるんだよ。みんなを、もちろん、紫苑もね」

 

「……ご主人様には、敵いませんわ」

 

そして、紫苑は頬を赤らめて、俺が見惚れるほど、可愛らしく微笑んだ。

 

<厳顔視点>

 

「……」

 

得物を地面に突き立て、目を閉じ、腕を組み、時が来るのを待つ。

 

あの夜から二日、ついにこの時がやってきた。

 

「……」

 

目を閉じ、聞こえてくるのは、優雅に鳴く鳶の声と、ワシの後ろにいる、幾万の兵たちの息遣いのみ。

 

(どどど……)

 

暫くすると遠くから微かにだが地響きが聞こえてきた。

 

「……来よったか」

 

目を開き、地平の彼方に目をやる。

 

まだ姿は見えぬが確実に地響きは大きくなってきていた。

 

「桔梗様、来ましたね」

 

焔耶の耳にも聞こえてきたのか、ワシの斜め後ろに立ち話しかけてきた。

 

「ああ、焔耶も準備は良いな」

 

「はい!」

 

「なんだ、焔耶よ。随分とヤル気ではないか」

 

「当たり前ですよ、桔梗様。ここ最近、馬鹿な太守のせいで防衛ばかりで鬱憤が溜まっていたんですから」

 

「お前は、敵に突っ込むことしか考えていないのか?」

 

「で、ですが、桔梗様も同じ思いでしょ?」

 

「まあ、否定はせぬが」

 

「でしょ!?」

 

ワシが否定しなかったことに焔耶は嬉しそうに声を上げた。

 

やれやれ……まあ確かに、人の事は言えんがな。

 

焔耶を見て苦笑いをしつつも、ワシ自身も少なからず浮かれているのは確かだった。

 

紫苑が選んだ新たな主……そして、その人物こそ、この乱世を治めると言われている天の御使いなのだから尚更だ。

 

「くっくっく……こんなに戦が待ち遠しいと思ったのは、いつ以来だったかのう」

 

自分の手を見ると僅かに震えていた。だがこれは、恐怖からではない。

 

そう、強敵と相まみえる喜び……言わば、武者震いだ。

 

天の御使い殿の力は、ワシの聞き及んでいる話の通りだとすると、まず勝てないだろう。

 

しかし、そんなことは些細なことだ。強き者と戦える喜びの方が遥かに凌ぐ。

 

だが、問題がある……

 

「天の御使い殿は、戦いの場に出て来てくるのだろうかのう」

 

ここ最近の話では、天の御使い殿が戦いの場に姿を現さず、後方の本陣で指揮を出しているだけだと聞く。

 

まあ、天の御使い殿が出てこなくても、良い武将が居ると聞いているので、問題はないが……やはり一度は、矛を交えたいものだのう。

 

「桔梗様。見えてきました、劉備軍です」

 

「ん?おお、やっと来よったか」

 

一人思いをはせていると、焔耶の声で我に返り、前方を見ると、劉の牙門旗が風に靡きながら徐々に姿を現してきていた。

 

「よし……では、始めるとするかの」

 

(ドンッ!ドンッ!ドンッ!)

 

ワシは、得物を真上に掲げ、天に向かい花火を打ち上げるように三発はなった。

 

「良いか、よく聞け!今からくる敵は、紛れもなく強敵じゃ!今までの山賊や弱腰の兵とは訳が違うぞ!」

 

「「……」」

 

兵たちは黙ってワシの口上に耳を傾けていた。

 

「だが、恐れることは無い!なぜなら、お主らはワシと魏延が鍛えた自慢の兵たちじゃ!思う存分、力を振るうが良い!そして、彼奴らにここを攻めても無駄だということを思い知らせるのじゃ!」

 

「「「うぉぉぉおおおおおおおっ!!!!」」」

 

黙って聞いていた兵たちは、一斉に雄叫びを上げた。

 

「焔耶」

 

「はっ!」

 

「中央一点突破で行くぞ」

 

「その言葉を待っていました!ネズミ一匹たりとも、通しはしません!」

 

焔耶は、嬉しそうに笑顔になりから頷き、得物を担ぎ、自信満々に宣言した。

 

「ほう、すごい自信じゃの」

 

「当たり前ですよ。あんな卑怯な事をする奴らに負けるわけがありませんし!」

 

「……」

 

まだ、紫苑の娘、璃々を人質に、紫苑を裏切らせたと思っているのか……

 

ワシは、焔耶の言葉に苦笑いを浮かべた。

 

「ほほう。そこまで、自信を持っているのなら、もし突破されたら、きつい仕置きが必要じゃのう」

 

「えぇ!?そ、それは、無いですよ。桔梗様~~っ!!」

 

焔耶は、目を見開き驚き、後ろへ体を引いた。

 

「自信があるのだろ? だったら問題ないではないか」

 

「そ、それは、そうですが……桔梗様のお仕置きは、その……きつすぎます」

 

「きつくなければ、仕置きとは言わんだろう」

 

「それは、そうですけど……」

 

「ええい。女々しい奴じゃ。これ以上、駄々をこねると、勝っても仕置きしてやるぞ」

 

「っ!?よ、よしお前ら!気合を入れていくぞ!」

 

「「お、おお……」」

 

「声が小さい!そんな気合で勝てると思っているのか!」

 

「「おおおおおおおぉおぉぉおおおおっ!」」

 

ワシの話を逸らすかのように兵たちに向きなおり、檄を飛ばす。

 

「まったく……調子のいい奴だ。よし、お前ら!敵はもう眼前だ!もう後には引けぬぞ!覚悟は良いな!」

 

「「おおおおおおおぉおぉぉおおおおっ!」」

 

「よし!では行くぞ!ワシに続けぇ!」

 

「「おおおおおおおぉおぉぉおおおおっ!」」

 

走り出すワシの斜め後ろを焔耶が、そして、その後方に兵たちが付いてくる。

 

「さて、相手はどう出るのか……くっくっく。楽しみじゃのう」

 

目の前にたなびく牙紋旗を見て、笑いがこぼれてきた。

 

紫苑。お前が認めた天の御遣いの実力を見させてもらうぞ。

 

《To be continued...》

葉月「またまたお久しぶりになってしまいました。葉月です」

 

愛紗「……」

 

葉月「えー……お供は、お馴染み、愛紗(不機嫌な)でお送りします」

 

愛紗「……どう料理してやろうか(ボソ)」

 

葉月「っ!え、えーと……愛紗、さん?」

 

愛紗「……なんだ」

 

葉月「今、さらっと私に向けて言いましたよね?もちろん、料理の話ですよね?」

 

愛紗「では、そう思っておけ」

 

葉月「……さ、さぁて!話を戻して、今回は、厳顔こと桔梗の視点から話を始めましたが、いかがだったでしょうか?」

 

愛紗「……」

 

葉月「え、えっと、愛紗も会話に加わってくれると嬉しいな~なんて思うのですが。前回、良い思いしたじゃないですか」

 

愛紗「っ!し、仕方ないな……んんっ!。桔梗殿の心情を書いたのは良いのではないか?」

 

葉月「……ちょろいな」

 

愛紗「何か言ったか?」

 

葉月「いえ、何も」

 

愛紗「ならいいが。桔梗殿が出てきたと言う事は、次回は、いよいよ、戦闘か」

 

葉月「そうなりますね」

 

愛紗「ふふふ、腕が鳴るぞ」

 

葉月「はい?」

 

愛紗「ん?次回は、戦闘なのだろ?なら、私の出番ではないか。やはり、私の相手は、桔梗殿か、腕が鳴る」

 

葉月「誰が、愛紗 対 桔梗。なんて言いましたか?」

 

愛紗「……は?」

 

葉月「だって、原作では、鈴々が相手をしたじゃないですか」

 

愛紗「……」

 

葉月「いや、無言で睨まれても」

 

愛紗「……(チャキッ)」

 

葉月「ちょ!え、得物で脅迫とか!それでも武人ですか!?」

 

愛紗「いやー、最近、まともに運動をしていなかったのでな。丁度良いから葉月を相手に運動でもしようと思っただけなのだが?」

 

葉月「ね、閨でたっぷりと一刀と運動したじゃないですか」

 

愛紗「っ!?!?そ、それとこれとは別だ!ま、まあ……あれから体の調子も良く、肌に艶が出たと桃香様に……って、何を言わせるのだ貴様はーーーっ!?」

 

葉月「どわぁーーー!?か、勝手に口走ったんじゃないですか!」

 

愛紗「煩い、五月蠅い、ウルサイ、うるさい、うるさーーーーい!全て貴様がいけないんだーーーーっ!」

 

葉月「横暴な!うぉお!?こ、このままじゃ、無事に年明けが出来ない!こ、ここは、『どこでも一刀君 Ver.2』で乗り切るしか!でやっ!」

 

愛紗「そんな偽物で騙される私ではない、ぞ……っ!?」

 

一刀「……」

 

愛紗「ぐっ……」

 

一刀「……」

 

愛紗「うぐぐっ……」

 

一刀「……(ニコ)」

 

愛紗「はうっ!」

 

葉月「……ちょろいな。『どこでも一刀君 Ver.2』(笑顔で優しくあなたを微笑む)の威力は、恋姫たちには抗えないのさ」

 

愛紗「そ、そんな微笑みを見せないでください、ご主人様……」

 

葉月「さて、愛紗が惚けているうちに……次回は、いよいよ、桔梗と焔耶との戦闘になります。更新がいつになるか分かりませんが……次回も見て頂けると嬉しいです」

 

愛紗「……」

 

葉月「あ、あれ?愛紗?なんで笑顔で私の背後に?そ、それより『どこでも一刀君 Ver.2』は!?」

 

一刀「……」

 

愛紗「……」

 

葉月「か、抱えてる!?と、兎に角、逃げないと!で、ではみなさん、良いお年を!」

 

愛紗「ごほん……さあ、桔梗殿との戦いは私にしろーーーーーーっ!」

 

葉月「ぎゃーーーーーーっ!!『どこでも一刀君 Ver.2』を小脇に抱えて得物を振りかざし追いかけてきたーーーーーーっ!!」

 

愛紗「ご主人様が居てくだされば、私はどんなことでも可能にするのだ。ふはははははっ!!ご主人様、お待ちください。今ここで葉月を討って見せましょう!」

 

葉月「あ、愛紗が壊れたーーーーーーーっ!それ、人形なのに!」

 

愛紗「はーっはっはっはっ!」


 
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