No.648333

一刀の晋王転生録 最終章最終話

k3さん

乱世が終わり、皆、それぞれの思いを抱き、平和を守る。
物語は終わる。そしてそこから新たな物語が生まれる。

2013-12-25 19:46:54 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:4782   閲覧ユーザー数:3856

 

  最終話

   「終わる物語、新たな物語」

 

 

 様々な人間が傷つき、そして死んでいった。その事に涙し、悲しみや怒り、憎しみが続く乱世はようやく終わりを迎える。

 

 鐘会等の反乱から数ヵ月後。乱世で傷ついてきた者達にも、少しずつではあるが心が癒され、笑顔を取り戻す。あるいは取り戻せる

 

よう努力していく人達が増えていく。

 

 そしてそれを守ろうと、活動している者達。

 

「月さん! あっちの方で喧嘩を始めた人達がいるって! 巻き添えを受けている人も居るみたい!」

 

「分かりました! では恋さん達に任せます!」

 

 劉備……桃香は月や白蓮と共に、いろんな町の安全を守る為に、警邏隊の強化を考えている。その為に自らが警邏をしたり、その経

 

験からどうすれば良いかを考え、少しずつではあるが着々と改善されて来ていた。しかし、まだまだだ。自分達が理想には程遠い。そ

 

れこそ自分達の代では恐らく完成しないであろう。

 

 だが、劉備に焦りや気落ちなど無い。むしろその表情は輝いていると言えよう。

 

 人を殺してきた戦とは違い、争いや問題を解決して人を助けていく仕事にやりがいを彼女は感じていたからだ。

 

(皆、私は今頑張っているよ……本当の意味で理想の為に働いているよ)

 

 桃香は心の中で頻繁に仲間達に報告している。

 

 仕事の最中も常に仲間を意識していく事が、彼女が仲間達に出来ることだと思っているからだ。

 

(見ててね! 私、絶対世の中を良くしていく!)

「この者、明らかに横領をしているわね……麗羽! 強引にでもこの者を捕らえなさい! 心配は要らないわ。証拠もある」

 

「分かりましたわ!」

 

 桃香と月が町、民の安全の対策、悪事を解決をしている中、曹操……華琳は麗羽と協力し、様々な場所の役人達の悪事を暴く、裁く

 

という不正取締り役のような仕事をしている。

 

 不正であると判断するのは主に華琳だ。彼女は元々信賞必罰の心得が強い人間だ。この仕事を与えられて事には不満を抱いておらず、

 

むしろ感謝しているふしがある。

 

 なぜなら罪人を裁くことを一任するというのはよほど此方が信頼されていなければ就けられるものでは無いからだ。その事に華琳は

 

感謝をしている。

 

 そして悪事をしている役人を直接取り押さえている麗羽も、正義の味方をしているような気分もあり、現状に不満は無い。

 

 取り押さえに行くために出かける麗羽を見送りながら、ふと華琳は考える。夏候惇との事で得た議題について。

 

 それは未だに分かっていない。それどころか考え、人々を観察していると細かなところでいろいろな違いがあり、いろいろな愛の在

 

り方を知るようになったのだ。

 

(私は……自分の思っている以上に知らないことが多かったのね)

 

 自分には知るべき事はほとんど無い。

 

 そう思い続け、知る事を、学ぶ事を止めたから自分は最愛の部下を死なせてしまったのだろうと、華琳は思い知った。

 

 だからまず、答えを出すことを後にする。その前にしなければならない事がある。

 

(まずは知る事……学ぶ事から始めましょう。それから答えを出しましょう。せめて生涯を終えるまでに)

「おい蓮華! また賊が出たとの報告があったぞ!」

 

「! 分かったわ! すぐに討伐に向かいましょう!」

 

 一方、孫権……蓮華は翠と共に、今だに現れる賊の討伐を主に行っている。これも自分が出来る、妹の孫尚香……小蓮の手助けにな

 

ると考えての事だ。

 

 晋の降伏した当初、小蓮は敗戦国の王族と見られている事に加え、まだ幼さが残る為か、評価が低かった。小蓮が必死に領主として

 

の学勉に励んでも簡単に覆ることは無い。

 

 それをどうにかするのに良いと思ったのが、姉である自分が晋のために貢献することで孫家一族の評価を上げる事である。そのため

 

人々に分かりやすい功績を出す必要があった。その為の賊討伐だ。

 

 それは、翠が協力してくれている事もあり、徐々に成果を上げている。一部では小蓮が本格的に建業を治めてくれるのを期待してい

 

る声もある。

 

 成果を上げた事で、自信を取り戻してきた彼女は改めて決意する。

 

(お母様、お姉様、そして皆、私はこれからも孫呉を、その血を守っていきます。私なりのやり方で)

 

 そして今日も彼女は、国に害する賊を討伐していく。

 

「皆の者! 奴等に容赦はするなよ! 蹴散らせ!」

 同じ頃、外史の管理者達にも動きがあった。

 

 まず、左慈と于吉の力と剥奪と否定派閥の追放が決まった。

 

 これは禁忌の術を使った事は勿論の事、二人が否定派の思想から外れた可能性を疑ったからだ。

 

 追放された二人は、貂蝉と卑弥呼により拾われ、肯定派に付くこととなった。

 

「それにしても、二人共随分とあっさり私達を受け入れたわね」

 

「自分でも不思議ですよ。やはり一時でも外史の住人になった事が原因なのでしょうかねぇ。そういう意味では南華老仙の判断は間

 

違っていないと言うことですね」

 

 貂蝉と于吉の話どうり、肯定派に居ることに二人はまるで嫌悪感が無かった。それどころか次に何をしようかと考えに耽ることがあ

 

るほどだ。

 

「ところで于吉ちゃん? 左慈ちゃんは一体何処にいるのかしらん?」

 

「そう言えば……確か、卑弥呼に何かを頼みに行ったような気がしますが……一体何を?」

 

「おお! 二人共、此処に居ったか?」

 

 噂をすれば何とやら、話に出てきた卑弥呼が現れる。しかし、近くに左慈の姿は無い。

 

「おや? 左慈は何処に行ったのでしょう?」

 

「うむ、あ奴はな……」

 

 卑弥呼の話に貂蝉と于吉は驚愕する事になった。

 洛陽の城壁から空を見上げる者が居る。

 

 その者は男で、手には杖を持っていた。これは片足と片腕が不自由だからだ。

 

「もう! そんなところに居たの!?」

 

 彼を見かけたに女性はぷんぷんと怒りながら、彼に駆けつける。

 

「ああ、美華か? どうした?」

 

「どうしたじゃないよ! 部屋から居なくなって皆が心配してるんだから! 少しは心配するこっちの身になってよ一君!」

 

 一刀は、生き残っていた。

 

 美華が一刀のもとを駆けつけ、そのまま指揮官として彼の部下を指示して戦い、限界が訪れようとしていた時、寸でのところで江里

 

香が援軍として現れた。彼女の奮戦もあり、一刀を討とうとした者達を壊滅させる事に成功。その後、さらに現れた瑠理、闇那、澪羅

 

理奈、綺羅が洛陽を攻撃した敵兵を壊滅させた事で、晋軍の勝利となった。

 

 だが、良いことばかりでは無かった。それが一刀の左足と右腕の機能がほぼ停止してしまっていた事だ。原因は無論、彼が姜維との

 

戦いでその二つを無茶な使い方をした為。

 

 切断しなければならないという事態までは行かなかったが、それでも普段どうりに歩く事が出来ず、右腕は紙で文字を書くときに支

 

える程度しか使えない。辛うじて仕事が出来る程度の身体になってしまったのだ。

 

 だが、一刀には悲壮感はまったく無い。彼は皆に対して変わらずに笑みを浮かべている。

 

「悪かったよ……次からはちゃんと誰かに伝えるから」

 

「絶対だよ!?」

 

 この後も、美華は念を押して何度も問うことでようやく落ち着く。

 

「それじゃ、皆に伝えに言って来るからね。そこ、動いちゃ駄目だよ!」

 

「ははは、分かったよ」

 

 美華がこの場から離れ、一刀は再び一人になる。

 

 一人になり、再び思考に耽る。

 

(北郷一刀……左慈……于吉……か……)

 

 実は、気絶していた間、自分とそっくりな男が、姜維と鐘会にこれまたそっくりな男と向かい合い、対峙していると言う夢を見てい

 

た。まるで前世か来世、あるいはもしもの出来事というような夢を。

 

 一刀にはこれをただの夢とは思えなかった。それもそのはず、あれは異世界の己であり、姜維と鐘会に居たっては同一人物なのだ。

 

だが、その事実についてはこの外史の彼には知る由も無い。そしてこれからも知る事は無い。

 

(姜維、お前は……来世ではどうする? 俺達はどうなっている?)

 

 一刀の心の問いかけに答える者は居ない。

 

 故に彼はそれを見続ける。気になっている間、この日課はしばらく続きそうだと苦笑しながらも。

 数十年後、一刀は晋王の座を長男である、司馬炎、献刀に譲る。さらに献刀は劉協から禅譲の義を薦められ、皇帝となる。皇帝と

 

なった彼は晋帝と名乗り、晋王朝を創っていく。

 

 その間、隠居した一刀は、乱世で自らが体験して来た事を書に纏める。

 

 この書は後に「晋王録」と呼ばれ、千年の時を越えても広い人気を誇るものになり、この外史で四国時代を伝える物の中での基盤と

 

なっていくのであった。

 今の外史でそんな未来が約束された頃、新たに外史が出現した。そこで新たな北郷一刀の物語が始まっていた。

 

 今回は転生ではなく召喚。

 

 召喚された北郷一刀は、此処は何処だと戸惑いながらも歩みだす。

 

 そして十数分後、彼は賊に絡まれる事となった。

 

「いい服着てるねぇ、脱ぎな!」

 

 武器を突きつけられ、窮地に陥る北郷一刀。

 

 だが、そんな彼に救いの手を差し伸べる者が居た。

 

「そいつは貴様程度が手を出して言い男では無い」

 

 賊は声をする方を振り向く。白い装束のような服を着た男だった。

 

「はっ!? 誰だてめぇ! 邪魔すんな!」

 

 賊は彼に対して剣を振る。

 

 それを彼はあっさりと避けた後、賊の剣を持つ腕に攻撃。賊は溜まらず剣を離す。さらに彼をその腕を掴み、折った。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」

 

 悲鳴を上げた後、折れた腕を押さえ膝を地に付けた。その賊に対し彼は殺気を放つ。

 

「で、どうする? まだやるか」

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!」

 

 賊は泣き喚きながら逃げ出した。

 

 そんなやり取りを一刀はポカンと見ていた。まるで夢を見ている気分で。

 

 彼は一刀を見つめる。

 

「呆然とするな。この世界は後に先ほどのやり取りが生易しくなるぞ」

 

「世界? それはどういう? いや、そもそも君は?」

 

 一刀のそう言われた彼は名乗る。

 

「俺は姜維、字は伯約。そして」

 

 

 

 

 

 

 

 

「真名を匙と言う。俺は……貴様を……見届ける者だ」

 

 

 

 

 

 

 

                            あとがき

 

 一刀の晋王転生録、無事、完結致しました! これも皆様のおかげです。本当にありがとうございました。

 

 この後予定ですが、本当に気が向いたらですが、番外編や本編の見直し、書き直しを行おうと思います。本当に気が向いたらの話で

 

すが。あるいは新しい物語をやる事になるかな? まぁ、要するに気が向いたらやろうかなぁ程度で、予定は一切不明です。もし、ど

 

れかをやる事になったらよろしくお願いします。

 

 それでは重ねて言います。皆様、本当にありがとうございました。

 

 
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