No.645184

 真・恋姫†無双 異伝「空と命と夢の狭間に」第十六話


 お待たせしました!

 それでは今回より黄巾編に入ります。

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2013-12-14 19:16:38 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:8724   閲覧ユーザー数:6019

 

 ~洛陽にて~

 

「申し上げます!洛陽の北十里に新たな黄巾の賊が発生、その数約二千!」

 

「申し上げます!西十五里の地点に賊徒発生、およそ三千!」

 

 張譲の下には次から次へと報告が伝えられる。

 

「ええい、分かっておるわ!だから皇甫…」

 

「三将軍の面々は既に他の賊の退治に出ております」

 

「ぐっ…袁紹は!?」

 

「袁大将軍閣下は二日前に南皮にお帰りに…」

 

「なっ!?儂はそのような事、許した覚えは無いぞ!!」

 

「閣下からは『私に命令出来るのは陛下のみ、文句があるのなら勅をお出しになら

 

 れればよろしいのですわ』と…」

 

 それを聞いた張譲の顔は怒りで真っ赤に染まる。

 

「おのれ…おのれ、おのれおのれおのれおのれ!袁紹の分際でそのような口を聞き

 

 おって!!誰のおかげで大将軍になれたと思っておるんだ!!」

 

 張譲は怒りの余り机を拳で叩いていたが、非力な張譲では机が壊れる事があるは

 

 ずも無く、ただ単に張譲の拳を痛めただけであった。

 

(ちなみに、当然の事ながら皇帝がいないので、袁紹への大将軍の叙位は張譲が勝

 

 手にやっているだけで公的な物では無い)

 

 ・・・・・・・

 

「麗羽様~、本当に勝手に出てきちゃっていいんすか~?」

 

 一方、その頃洛陽を出て南皮に向かっている途中の袁紹に家臣の文醜がそう聞い

 

 てくる。

 

「ふん、張譲なんて放っておけば良いのです。そもそも宦官如きがこの三公を輩し

 

 た由緒正しき袁家の当主たるこの私に命令する事自体が間違った事。むしろ宦官

 

 如きなど賊徒に殺されてしまえば幸いですわ。お~っほっほっほっほ!」

 

「なあ、斗詩…本当に大丈夫なのか?」

 

「分かんないよ…大体、何進閣下を殺すのだって私達が知らない内に勝手に決めち

 

 ゃってるし…今の麗羽様は全然聞く耳持ってくれないから」

 

 こう答えてため息をついていたのはこれまた袁紹の家臣の顔良である。

 

 家臣の嘆きなど全く気にもしない袁紹はお気楽に高笑いを上げながら南皮へと帰

 

 っていったのであった。

 

 

 

 一方その頃、雍州にて。

 

 その州都の玉座に座っているのは空であり、下座にいるのは雍州の州牧である。

 

「すまないね、私の我が儘に付き合わせる事になって」

 

「何を仰いますか、私がお仕えするのは劉宏陛下ただお一人にございます!」

 

 空の言葉に州牧は畏まったままそう答える。

 

「陛下はよせ、私はもう皇帝に戻るつもりは無い」

 

「それでは漢はどうなるのです?」

 

「漢は娘に任せて私はその補佐に徹するつもりだ」

 

 空のその答えを州牧は頷きながら聞いていた。

 

「ならば私も姫様の為の補佐の為に力を尽くしましょう」

 

「ありがとう。しかし表向きはあくまでもお前が州牧のままでいてくれ」

 

「はっ、かしこまりました」

 

 ちなみに何故この州牧は空にここまで心酔しているのかというと、彼女は州牧に

 

 なる前に空に何度も命を救われた上に、雍州の州牧になったのも空の一存で決ま

 

 った経緯があったからである。実はそれは空が自分の手持ちの兵力を確保する為

 

 の布石の一つであったのだが、州牧は空のその思惑を知った上で全身全霊をかけ

 

 て力を尽くしていたのであった。その為、突然現れた空から雍州の兵権の全てを

 

 渡すよう言われた時も一も二も無く従ったのであった。

 

「ところで、へ…空様と一緒に来たあの青年は何者ですか?しかも、いきなりあの

 

 愚連隊を預けるなんて…」

 

「ああ、あいつは北郷、私の切り札さ」

 

 そう言って空は不敵に笑っていた。

 

 

 

「というわけで、今日から皆の隊長となる北郷です。よろしく」

 

 と、俺はさわやかに挨拶をするのだが…聞く気無いな、こいつら。

 

 俺の目の前に集められた兵達は全くといっていいほどに隊列を成してないばかり

 

 か、座ったり寝てたりしている者までいる始末である。空様も良くクビにせずに

 

 いたよな…しかもこれを俺に預けるって、いい根性してるよ本当に。

 

「あの~、聞こえてますか~」

 

『あの~、聞こえてますか~』

 

 俺が問いかけるとその口調を真似する奴がいて、その後に爆笑が起こる。こりゃ

 

 聞きしに勝るひどさだな…本当にこいつらが最高の人材なのか?それとも、多少

 

 人格に問題があっても優れた能力を持つ者達を集めたとかいうあれか?

 

「一刀お兄様…こいつらもうぶっ飛ばして良いよね?」

 

「さすがに私も蒲公英の意見に同調します」

 

「一刀様が命じるなら今すぐにでもやりますよ、私も」

 

 小隊長として俺についてきた三人もこの状況に半ばキレかけている。

 

「まあ、待て。落ち着け」

 

 俺は一応皆をなだめようとするが、そんな俺を与し易いと見たのか、一人の兵士

 

 が俺に近寄ってくる。

 

「はっ、随分ひ弱な隊長さんが来たもんだ。あんたなんかがなるより俺の方がよっ

 

 ぽど向いてるんじゃねぇのか?」

 

 その言葉に俺が答えるよりも早く、沙矢がその兵士を殴り倒す。

 

「北郷様に対するその言葉、許しません!!」

 

「なんだと、このアマ…てめぇこそ俺の面に一撃くれやがって!往生せぇや!!」

 

 その兵士は沙矢に対して殴り返そうとするが、俺が横から殴って吹っ飛ばす。

 

 

 

「ちっ…隊長だか何だか知らねぇが、もう許さねぇ!死ねや!!」

 

 その言葉を皮切りにその場にいた兵士全員がこっちに向かってくる。

 

「くっ…さすがにこの数は多そうですね」

 

「皆は手出ししなくて良い、俺が一人で相手する」

 

「一刀さん!?無茶です、この数ですよ?」

 

 輝里はそう言って止めようとするが、

 

「大丈夫、そこで見てろ」

 

 俺は近くにあった三尺位の棒を拾うとそのまま兵士達の方へ向かう。

 

 ・・・・・・・

 

 それから一刻後。

 

 その場にいたのは無傷の俺と地に倒れた兵士一同、そして驚きの表情のまま固ま

 

 ってる輝里・蒲公英・沙矢の三人であった。

 

「嘘…一刀お兄様ってこんなに強かったの?」

 

「確かに霞と結構いい勝負してましたけど…」

 

「…私なんかが護衛する必要なさそうですよね」

 

 そんな三人の呟きを聞きながら、俺は最初に喧嘩を売ってきた兵士の所に寄る。

 

「おい、まだ意識はあるんだろ?その程度にしか痛めつけてないからな」

 

 俺がそう言ってそいつの首根っこを掴んで強引に起き上がらせると、そいつの顔

 

 は恐怖に歪む。

 

「ま、待て、待ってくれ…すまなかった、俺が悪かっ…ごほっ!?」

 

「口の聞き方がなってないなぁ?」

 

「わ、私が悪うございました…もう逆らいませんから許してください」

 

「その言葉、間違いないな?他の者も聞こえてたら返事しろ!!」

 

『はい、なんなりとご命令を。北郷隊長!』

 

「よろしい。輝里、皆の手当ての準備を」

 

 俺は輝里に手当てを命じると、空様へ報告の為にその場を離れた。

 

 

 

 それから数日後。

 

「まさか…あれがあの愚連隊どもなのですか?」

 

 州牧さんはまさに開いた口が塞がらない状態になっていた。

 

 それもそのはず、目の前に並んでいるおよそ五百程の兵はこれぞ整列の見本とも

 

 言うべき程、整然と並んでいたからだ。

 

「へへぇ~ん、たんぽぽ達がしっかり鍛えたからね!」

 

「蒲公英はほとんど遊んでいたでしょうに…」

 

「ひどぉ~い、遊んでいる風に見せて兵士達の掌握に努めたんじゃないのさ」

 

「本当に?」

 

「本当だよ!」

 

「ああ、確かに蒲公英のおかげで兵士達の息抜きも結構うまい事いったのは事実だ」

 

 俺がそうフォローすると、蒲公英はどうだと言わんばかりにそっくり返っていた。

 

「さすがは一刀だ。それでは約束通りこいつらはお前の指揮下につける」

 

 空様は嬉しそうな顔で俺にそう言う。

 

「ありがとうございます。それではこの者達を連れて、一旦天水へと戻りますので」

 

「ああ、私はしばらくこっちにいるから、命達によろしく伝えてくれ」

 

 ・・・・・・・

 

「…というわけで、空様はしばらくあちらに」

 

 俺は天水に戻ってすぐ董卓さんに話を伝える。

 

「分かりました。では、北郷さんが連れてきた人達にもこちらから給金を出します

 

 のでご安心を」

 

「ちょっ、月!?うちだってそんなに余裕があるわけじゃないのよ?それをいきな

 

 り五百人分の給金なんて…」

 

「詠ちゃん、金蔵には十分過ぎる位の貯えがあるでしょう?」

 

「だってあれはボク達の勢力を拡大させる為の…」

 

「その為に、北郷さんの力を借りなきゃならないんでしょ?だったら必要だよね?」

 

「…分かったわよ。北郷、無駄遣いするんじゃないわよ!兵達にもそう強く念押し

 

 しておいて!!」

 

 賈駆さんのその言葉に俺は苦笑いを浮かべるしか無かった。

 

 

 

 それから数日後、俺達は董卓さんからの依頼で賊討伐に来ていた。ちなみにこの

 

 賊は黄巾の連中とは違うようだ。結構、山賊や盗賊が便乗しているらしいがこの

 

 連中は珍しい存在だ。

 

「さて、あそこが報告にあった賊のいるという山だが…輝里、どう見る?」

 

「一見すると普通の山にしか見えませんが、どうやらほぼ城砦と化しているようで

 

 すね。下手に正面から攻めれば、あそこに転がっている黄巾の連中のようになる

 

 のは間違いないでしょう」

 

 輝里に言われて見てみると、山の麓には黄色い布を巻いた人間の死体が転がって

 

 いた。そして山の中に眼をこらすと、木々に隠れて巧妙に縄や壁や矢が見える。

 

「確かに攻めるには難しそうだな…しかし何故あいつらは黄巾の連中と戦っている

 

 んだろう?」

 

「黄巾の連中とも戦っているだけで、あの山賊達から襲撃にあったとの被害の報告

 

 もあります」

 

 輝里から報告書を受け取り一読するが…。

 

「ほう…董卓さんが俺に話をふってきたのはそういう事か」

 

「どういう事ですか?」

 

「良く読め。この賊の被害に遭ってるのは大体が良からぬ噂のある商人や富豪ばか

 

 りだ。しかも人は誰一人として死んでいない。ならば、こいつらはただ単に自分

 

 の楽しみだけで賊に手を染めたというわけではないという事だろう」

 

 俺がそう言うと、輝里はハッとした顔になる。

 

「それじゃ…まさか私達に説得しろと?」

 

「もしくは内情を調べろという事だろう」

 

 

 

「しかし、一体どうやって…いきなり私達が行ったって相手にされませんよ?」

 

「そうだな…誰かある、文聘を呼んで来い!」

 

 今呼んだ文聘というのは、俺が愚連隊を締め上げた時に俺に喧嘩を売ってきた

 

 あの兵士の事である。俺に締め上げられてからというもの、それまでの粗暴さ

 

 がすっかりと影を潜めて、兵達の纏め役として働いてくれている。ただ…。

 

「お呼びですか、兄貴?」

 

「…兄貴はやめろと言っただろう。何時までゴロツキ気分でいる気だ?」

 

「申し訳ありません、隊長。それで、俺に用ってのは何です?」

 

「お前の人脈であそこの賊に繋ぎは取れないか?」

 

「ほう…そういう事で。ならば討伐をする気は無いという事ですか?」

 

「それは談判の結果次第だけどね」

 

「…分かりました、では一日時間をください」

 

 文聘はそう言うと姿を消す。

 

「大丈夫なの、あいつ?たんぽぽはどうも信じられないけどなぁ」

 

「ああいうのは意外に一度こうと決めたらそれを守り通すものだ。こっちから裏

 

 切るような事が無ければ問題ない」

 

 ちなみに文聘は兵士になる前は博徒をしていたらしく、山賊やら盗賊やらに昔

 

 の知り合いが多くいるらしい。その伝手で此処の賊の事も知ろうと思ったのだ

 

 けど…ところで文聘って三国志じゃそんなんだったっけ?確か名将だった記憶

 

 があるのだけど…ますますこの世界の事が良く分からなくなってきた。 

 

 

 

 そして次の日の朝。

 

「兄貴、兄貴!起きてますk『ゴチィン!』…あ痛っ!?」

 

「何度言ったら分かるんだ、お前は?」

 

「す、すみません隊長」

 

「で、何だ?何か分かったのか?」

 

「あ、そうだ!大変なんすよ、賊の首領が隊長に会いたいって言ってるんです!」

 

「首領が!?本当なのか、それ?」

 

「はい、昨日隊長に言われてから向こうの賊に探りを入れたら昔の博打仲間がい

 

 たもんで密かに会いに行ったら…」

 

 文聘はそこまで行って言いよどむ。

 

「会いに行ったらどうした…まさかお前?」

 

「…申し訳ありません」

 

 どうやら昔の仲間に会いに行った所を捕まったという事か…人選を間違ったの

 

 だろうか、俺?まあ、それはともかく…。

 

「それで?」

 

「それで、首領の所に連れて行かれて…隊長の名前を出したら是非会いたいと」

 

「ほう…俺の事を知ってるのか?」

 

「口ぶりから察するにそのような感じが」

 

 俺の事を知ってるって…こっちに来てから交流があったのって、命達を除けば

 

 董卓・馬騰陣営と洛陽の三将軍方と曹操さん位しかいないのだが。

 

「まあいい、それで何処まで行くんだ?まさか向こうの陣地まで来いとは言わな

 

 いよな?」

 

「双方の陣のちょうど中間の所でと…それと護衛は各二人ずつで」

 

 

 

「そんなの罠に決まっています!一刀さんの事を知ってるって一刀さんが何処か

 

 ら来たか知らないからそんなすぐバレるような嘘をつくんです!」

 

 文聘からの話を皆にすると、当然の如く輝里が反対意見を述べる。

 

「そんな…徐庶姐さんは俺の言葉が信じられないって言うんですかい?」

 

「当たり前です!敵にあっさり捕まってそのまま使い走りにされる者の言う事の

 

 何処に信憑性があるというのですか!?」

 

 輝里にそう断言されてしまった文聘は陣の隅で拗ね気味に体育座り状態で地面

 

 にのの字を書いているが、正直ごつい男がやっても可愛さの欠片も無いので無

 

 視する事として…。

 

「だが少なくとも此処でこのままでいるよりも進展があるのは事実だ。俺はこの

 

 際向こうの首領に会ってみたいと思う。無論、罠の可能性も完全に否定出来な

 

 いわけだし、輝里と文聘はこっちに残って不測の事態にすぐ対応出来るように

 

 しておいてくれ。沙矢と蒲公英は護衛を頼む」

 

「分かりました、くれぐれもお気を付けて」

 

「は~い♪」

 

「了解です」

 

「…へ~い」

 

 ・・・・・・・

 

 一方、賊陣営では。

 

「…様、向こうは会談に応じるようです」

 

「ほんまに…の言う通りになったな~。ウチやったら絶対来ないで」

 

「それじゃ本当に…さんの知ってる人なの~?」

 

「ああ、多分間違いないやろ…しかし、まさかこないな所で再会するなんて面白

 

 い話もあるもんやな。なあ、かずピー」

 

 首領の男はそう言ってほくそ笑んでいた。

 

 

                                           続く。

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010です。

 

 黄巾編と言いながら黄巾党はほぼ出ないという話でした。

 

 そして…最後に出てきたのは一体誰なのか?何故こんな

 

 所にいるのか?どうやって来たのか?

 

 色々な疑問は次回以降にお送りします。

 

 とりあえず次回は、賊の首領との対面から始まります。

 

 

 それでは次回、十七話にてお会いいたしましょう。

 

 

 

 追伸 賊の首領を一緒にいたのは、三羽なあの娘達です。

 

     彼女達が何故賊なのかも次回に。

 

 

 

 

 

 

 


 
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