No.641620

真恋姫†夢想 弓史に一生 第九章 第十話

kikkomanさん

どうも、作者のkikkomanです。

前話で明らかになった奏の能力。

それを使っての遠距離強襲は被害こそ少ないが、連合軍の人々の心に恐怖を与えることに成功した。

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2013-12-01 00:00:01 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:1564   閲覧ユーザー数:1367

 

 

~桃香side~

 

 

 

「この状況……孫策さん、どうしましょうか…??」

 

「どうって言われても…ね~……。」

 

 

私たちの位置から五里先には汜水関の門があると言うのに、ここから一歩も近づくことは出来ない。

 

否、近づけないわけではないのだが、多大な犠牲を払うことになってしまうのだ…。

 

 

「桃香様。斥候が帰ってきました!!!」

 

「雪蓮!! 斥候が帰ってきたぞ!!」

 

 

私たちが頭を悩ませていると、各々の軍師たちが斥候が帰って来たと告げにやって来た。

 

そこで、とりあえず今は近寄る方法を考えるため、小軍議を始める。

 

 

「まずは敵将の確認から行います。敵は華雄、張遼の董卓軍二名と、徳種、凌統、北郷の徳種軍三名、合わせて五名の牙門旗が確認されています。」

 

「兵の数はおよそ五万。城門は固く閉じ、討って出る様子はなさそうだ。」

 

「…………不味いわね…。」

 

「そうですね…。兵数はこちらの方が上とはいえ、城門を固く閉ざされればそれだけ被害は大きくなりますし…。」

 

「それに何よりあの矢の弾幕じゃ……。あれをどうにかせんと、近寄ることさえ出来んぞ?」

 

「「「「「「「「う~ん……………。」」」」」」」」

 

 

ここ三日ほど考え付く策は試して見た。

 

 

木製の盾を構えて進んだが、盾に何本も火矢が刺さり炎上、そのまま他の盾にも燃え広がり、あっという間に盾部隊は全滅した。

 

ならばと鉄製の盾を並べれば、やはり重く動きが鈍重になり、その分長い時間矢に晒されることになり危険だと判断、作戦を行う前に中止となった。

 

連合軍の後方では、総大将の袁紹さんがなにやらお怒りのようだが……攻めあぐねているのだから仕方ないものは仕方ないのだ。

 

 

「あの………矢の弾幕はもう気にする必要はないかと……。」

 

 

良くはない頭をひねって何かないかと考えていると、雛里ちゃんがおどおどとした様子で手を上げた。

 

それに対して、興味深げに頷きながら周喩さんが質問をする。

 

 

「どういうことか教えてもらえるかな、龐統殿。」

 

「はい……。あの矢の弾幕を行うには、やはりそれ相当の数の矢が必要になりますし、行える人間も限られていますからあの攻撃がやむのは時間の問題のはずです。むしろ、残りの矢のことなどを考えれば今からでも止めておかしくないはず…。」

 

「……ふむ。だが、もしも奴らが残りを気にせず続けるようなら?」

 

「それならば私たちは大きな打撃を受けることになるでしょうが、残りの連合軍に被害はありません。その人たちと一度前線を交替して、攻めてもらいましょう。」

 

「しかし、それでは一番乗りの武功が取られるのでは?」

 

「敵もどうしようもなくなれば討って出てくるはずです。しかし、討って出てきた華雄、張遼を抑え込むのは相当骨の折れる仕事ですし、一時的に連合軍は混乱するでしょう。戦場が混乱する中で隙を見て一番乗りの武功をあげればいいと思います。」

 

「……して、敵の攻撃は止んでいるとするならば、その先は…??」

 

「敵を引きずり出して、各個撃破をする、今まで通りの方針で良いかと…。」

 

「ほう……。勿論各個撃破の方法も考えてあるのだろうな?」

 

「はい。」

 

「成程な、流石鳳雛と呼ばれることだけはある…。」

 

「あわわ……そ……そんな……大袈裟な…。」

 

 

周喩さんが褒めると、ぶんぶんと手を左右に振りながら否定する雛里ちゃん。

 

その顔は真っ赤に染まっていて、恥ずかしいのか目深に帽子を被っている。

 

 

「そうなのだ!! 雛里に黒いことを考えさせれば右に出る者はいないのだ!!」

 

「だから、鈴々ちゃん!?」

 

「あら…。うちの冥琳も黒いことを考えさせたら天下一品よ。」

 

「…………雪蓮??」

 

「ひっ!? あ……あははっ……。じゃあ、私先に帰るから!!」

 

「あっ!! こらっ、雪蓮!!!?  …………はぁ、すまない。話はこれくらいにして策を進めよう。私たちはそちらの動きに合わせる。それで良いか?」

 

「分かりました。それでお願いします。」

 

「了解した。」

 

 

そう言って周喩さんは先に逃げた雪蓮さんを追っかけて行った。

 

態度では怒っていたが、顔はどこか優しげで、やはりあの二人は仲が良いんだなと思う。

 

断金の交わりとはよく言ったものだ。

 

 

「よしっ!! それじゃあ、全軍を前に出すって言う形で良いのかな、雛里ちゃん?」

 

「……………私は黒くないもん………。」

 

「雛里ちゃ~ん!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

凹んだ雛里ちゃんを励ましつつ私たちの軍は汜水関の城門へと歩みを進めた。

 

すると、その後ろを離れないように雪蓮さんの軍も移動を開始し、連合軍全体が進軍を始めるのだった。

 

 

 

「全軍止まれ!!!! 作戦通りに展開し、次の指示を待て!!」

 

 

 

汜水関の城門がもう眼の前まで迫ってきた所で、愛紗ちゃんの指示により私たちは軍を一度止める。

 

道中は雛里ちゃんの予想通り矢の嵐が降るようなことは起きなかった。

 

きっと雛里ちゃんの読み通りなんだと思う。

 

ならば、次は敵将を挑発して関から誘き出すだけだ……。

 

敵将の華雄さんはその武に絶対の自信を持っているとのこと。

 

そんな彼女が、ぽっと出の私たちの軍勢に挑発されれば腹に据えかねるものがあるはずだ。

 

もしかしたら張遼さんが華雄さんを止めるかもしれない。

 

そうしたら、中々関から出てこないだろうが、挑発を続けていれば我慢できずに華雄さんは必ず討って出てくる。

 

鎧袖一触の強さを誇る華雄隊が負けるはずはないと高を括って。

 

それが武人の矜持何だって雛里ちゃんは言っていた。

 

この言葉に愛紗ちゃんや鈴々ちゃん、星ちゃんはどこか複雑そうな顔を浮かべていたっけ…。

 

彼女たちもまた武人の一人であり、自身の武に誇りがあるのだ。

 

倒すべき敵とは言え、同情するものがあるんだろうな…。

 

私には武人の矜持と言うものは分からないけど、戦場に身を置く者にしてみればそれは絶対の信念、言わば自分を律する法みたいなものなんだろう。

 

……………華雄さん、あなたの法を犯してしまってすいません。

 

でもこれは戦いであって、私たちは勝つしかないのだから…。

 

手段を選ばず、最善と思われる策を取らせてもらいます。

 

 

「桃香様、全軍の展開が終わりました。」

 

「ありがとう、愛紗ちゃん。じゃあ、作戦通りにお願い。」

 

「御意!!」

 

 

元気よく返事をして、軍前へと進みでる愛紗ちゃん。

 

脇には鈴々ちゃんが、その体躯に似つかわしくない重厚な武器を持ちながら追従する。

 

 

 

「聞け、逆賊董卓に加担するおろか者どもよ!! お前達は今までの恩義に背き、帝を危険な目にあわせている逆賊である!! そんな貴様らを討伐するために我等連合軍はこの度やって来た!! 兵数差を考えれば貴様らが負けるのは目に見えて確かである!! 故郷に家族を残した者、恋人を置いてきた者は生きて帰りたいであろう?ならば今直ぐに降参し、門を開けて投降しろ!! さすれば、貴様らの命と家族の安全は保障する!! 但し、今この時を逃せば、貴様らの末路に生き残るという選択肢は無いと思え!!!!」

 

 

まずは愛紗ちゃんが、敵に向かって降伏勧告を行う。

 

勿論、この降伏勧告で降伏してくれるのであれば問題は無いのだが………。

 

 

汜水関の門からは何も反応は返って来ない。

 

つまりは、降伏する気は無いということだろう。

 

 

「そうか、降伏する気は無いというのだな!! ならば、全力で相手をさせてもらおう!!! 来い、貴様達の強さとやらを私に見せてみろ!!」

 

 

降伏に応じる気がないのが分かったら、愛紗ちゃんは今度は挑発を始める。

 

それに続いて鈴々ちゃん、星ちゃんも挑発していく。

 

 

 

「どうしたのだ? 出てきて鈴々たちと正々堂々戦うのだ!!!! それとも、もしかして鈴々たちが怖くてびびって出て来れないのか!!?」

 

「天下の猛将、華雄将軍ともあろう者が、こんな新参者ばかりの兵相手に怖気づくとは………。やれやれ、猛将と言うのはただの名ばかりのようだな!!!」

 

「悔しかったらそっから出てきて鈴々たちと勝負するのだ!!!」

 

 

口々に華雄さんを罵倒し挑発、彼女達だけではなく兵の皆も口々に罵倒し始める。

 

さぁ……華雄さんは……。

 

 

「…………出て………来ませんね……。」

 

「そうだね……朱里ちゃん…。」

 

 

 

汜水関はその静寂さを保ったまま私たちの前に変わらず聳え立つ。

 

何だか、その静寂さがあまりにも不気味で、目の前の関がまるで一つの大きな壁となって私たちの進攻を塞いでるような気がしてならなかった。

 

 

「苦労してるみたいね…。」

 

 

どうしたものかと考えていると孫策さんがやって来た。

 

もしかしたら状況を打開する手を持っているのかもしれない。

 

 

「はい……。正直なところ、敵が出てこなくて困っています。」

 

「そう。なら、私も手を貸すわ。」

 

「じゃあ、この状況を何とかする手が……??」

 

「前に言ったとおり、華雄は私の母様に負けたことがあるから、そこを弄くってあげれば直ぐに出てくるわ…。」

 

「でも、それだと孫策さんが前線に出ないと…。」

 

「前線に出るのが怖くて、武将なんてやってられないわよ…。呉の王はね……その背中に呉の兵士を背負って戦うの。そして、何時でも自分達の王の姿をその目に焼き付けて、王様が頑張ってるんだから俺も…って気にさせるのよ。だから、呉の兵は強いの。」

 

「………っ!?」

 

「あなたにはある? あなたにしかない、兵を惹き付け強くさせる何かが……??」

 

 

そう言って振り返り前線へと歩いていく雪蓮さんの背中には、王として相応しい威圧感が備わっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

~雪蓮side~

 

 

「………何で出てこないのよ……あの戦闘狂が……。」

 

 

前線に出て華雄を罵倒すること早二刻…。

 

依然として姿さえ見せない華雄に流石にいらいらが募る。

 

早く開けさせなければ此方の指揮が下がるというのに……。

 

 

 

「……………まったくもって……口が悪いことこの上ないな……。」

 

「っ!!? 孫策様!!! 城壁の上を!!!」

 

「あれは……聖!!!!」

 

 

城壁の上、心底鬱陶しそうな顔をしながらその男は現れた。

 

手には何か輝きを発している棒状のものがあって、それに彼が言葉を話すとやたらと声が大きく聞こえる。

 

 

「はいどうも、連合軍の皆さん。罵倒の数々、本当にお疲れ様です。正直感心しましたよ。あれだけの罵倒は中々出来るものじゃない……。」

 

 

淡々と聖は話しをしていく。

 

その姿に不思議に惹き付けられている自分がいてはっとした。

 

これは……聖の罠だ…。

 

 

「皆、耳をかすな!!! これは罠だ!!!!」

 

「罠とは酷い……。俺は君達に賞賛を与えているのだよ。さも憎らしいんだろう、華雄が、董卓が。だから君達連合軍の皆がそれだけの罵倒を行えるのだろう?? まさか、将軍に言われたから罵倒してましたなどという者はいまいな……皆少なからず心に思うことがあったからそれを口に出していた……違うだろうか…??」

 

 

喧騒が一瞬にして静かになる。

 

あれだけの罵倒を繰り返していた連合軍は、いつの間にか沈黙し、ただ素直に聖の話を聞いている。

 

中には、聖の言葉に頷いているものもいるぐらいだ。

 

 

「董卓は都で暴政を行っている……この現状を目で見た者はいるか?? 実際に足を運んだものはいるか?? まぁ、いないだろうな…。お前らは将軍や君主の言葉一つで戦いに駆り出されているただの駒だもんな…。世の中の全てを知らずに、上の言ったことだけを信じて行動するただの小間使いだもんな!!?」

 

 

聖の言葉一つ一つに動揺していく兵士達。

 

彼等は考え始めてしまった。自分達のあり方を、そして思い至ってしまった。果たして董卓は本当に暴政を行っているのかを……。

 

 

「あんたら兵士だって元は農民……。徴兵に駆り出されたりしなけりゃ、今頃は田舎で家族や愛する人と貧しいながらも幸せな生活をしていたかもな……。」

 

 

彼の一言で兵士達の脳裏に自分達の故郷の光景が浮かび上がる。

 

夕暮れに浮かぶ金の稲穂が揺れる情景。

 

重い農具を担ぎながら歩く畦道。

 

ぼろ家だが。人が生活をしていると感じる我が家。

 

そして、戸を開けると待っている妻と子供……。

 

 

「………うぅ………うぅぅ~……。」

 

「……家に……家に帰りてぇよ……。」

 

「……嫌だ……妻と子供を残して死にたくない!!」

 

「……まだ……まだあの娘に好きって伝えてないんだ~!!!!!!」

 

 

突然兵士達は叫び始めると共に頭を抱え込む。

 

彼等は考え始めてしまった。

 

この戦に勝って生きて帰れるのかを、愛する者の顔をもう一度見ることが出来るのかを…。

 

 

「……………俺は、自分の守るべきものに従って行動し、ちゃんと真実を見極めたつもりだ…。だから、敵となるものには容赦はしない。命欲しくば退け!!!!!!」

 

 

農民出身の兵士たちの顔色が青ざめる。

 

こうなってしまうと………もう、この者達は戦闘では使えない…。

 

戦いにおいて、人を殺す覚悟を決めるためには自分の信念が必要である。

 

それは、農民上がりの兵士達にとっては第一は家族のためであり、第二は自分達の君主のためである。

 

しかし、今しがたの聖の話で、彼等はその信念を揺るがされた……。

 

家族の為に戦うが、その為に自分の命をなげうつことが出来るのかと……彼等は悩んでしまった。

 

こうなってしまっては、人を殺すことは出来ないであろう…。

 

 

この演説は長いこと兵達に聞かせるべきではない。

 

呉の兵は皆、母様の代から仕えて来たのものたちばかりだから、故郷に帰ろうとするものは袁術から借り受けた兵士達のみ……数としては少ないだろう。

 

しかしそれでも。この演説を聞いていれば士気は否応にも落ちていく。

 

ましてや劉備の所は農民上がりが殆どだ。

 

もう、劉備の軍はもしかしたら役に立たないかもしれない…。

 

 

 

正論で固められた皮肉にも似た演説は、この戦に参加した裏の目的を明白化していく。

 

それを兵士達に全て聞かせることに、百害はあっても一利はないだろう。

 

 

「……………冥琳、呉は一度退いて体制を整えましょ。」

 

「同感だ…。この演説で少なからず逃亡者が出ると予想されるがどうする?」

 

「…………彼らに罪はないわ…。あるとすればそれは私…。彼らを繋ぎとめて置けなかった私の王としての力不足よ……。」

 

「承知した……。」

 

 

私は唇を噛み締めながら城壁の上の男を睨む。

 

まさか、こんな手で此方の兵数を削ろうというなんて……。

 

悔しい……。人をあざ笑う様な彼の策にのってしまった自分が……。

 

未だに敵を引き釣り出すことはおろか、挑発さえ成功できていない自分が……。

 

 

私は手に持った南海覇王の柄をぎゅっと握ることでしか、怒りをぶつける手段を知らなかった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弓史に一生 第九章 第十話    高き壁   END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書きです。

 

第九章第十話の投降が終わりました。

 

 

 

久しぶりの聖さんの演説です。

 

聖さんの演説は人の心にすっと入って、人々に物事を考えさせますね……。

 

聖さんの嫌がらせは日に日に激化してきますし……こんな人を敵に回すのは嫌ですね……。

 

 

 

さて、次話はまた日曜日に…。

 

それでは、また次回に!!!!

 

 


 
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