No.640053

【獣機特警K-9ⅡG】ごたいめ~ん【交流】

2013-11-26 01:26:38 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:736   閲覧ユーザー数:706

 惑星ファンガルドの衛星軌道上に停泊する空母ユグドラシル。ファンガルド宇宙軍第3艦隊の旗艦である。全長600mを超える威容は、まさに宇宙を往[ゆ]く城だ。

 今、小型のシャトルがゆっくりと飛行甲板に着艦した。入れ違いのように、艦載戦闘機が、訓練のために発艦していく。

 ユグドラシルは、ファンガルド地表に対して艦の上部を向ける、いわゆる背面飛行の姿勢で周回している。そのため、シャトルから降りた人物たちは、青く輝く美しい惑星を、頭上に見上げることになる。

「すごいな。これ、宇宙飛んでるのか?」

 特徴的な緑色の毛皮の、ヤマネコ型ファンガーの少女が、物珍しそうに艦内を見回す。

「もう、ナディさんってば。はしゃぎ過ぎですよ。シャトルに乗った時からこの調子なんだから」

 エゾリス型ファンガーの少女が、苦笑しながら、ヤマネコ型ファンガーの少女をたしなめる。

 もう一人、トラ型ファンガーの少女は、心なしかぐったりとしていた。

「ぐうぅー、まだ気持ち悪い……」

「シンディ、シャトル飛び上がる時気失ってた。ナディ、シンディより強い!」

「そこ競う所じゃないでしょ」

 彼女たち3人を出迎えたのは、キツネ型ロボットの女性士官だった。

「いらっしゃい、ナディちゃん、マイちゃん、それにシンディちゃん。ようこそユグドラシルへ!」

「あなたはハセガワ・レイミ大尉ですね? わたしはANCF所属の自然保護官、マイ・シューティングスターです。こちらは同じくナディ保護官、そしてこっちはシンディ保護官です。よろしくお願いします!」

 マイは敬礼した。ナディとシンディも見よう見まねで敬礼する。レイミは微笑んだ。

「そう固くならなくてOKよ。さて、立ち話も何だし、ご飯でも食べながらお話しましょう。長時間のフライトでお腹も減ってるでしょう? お姉さんのおごりよ」

 ナディとシンディの目が輝く。

「やった! メシ!」

「お腹ペコペコ!」

「ナディさん! シンディさんも!」

 マイは2人の様子に苦笑するしかなかった。

 4人は、通称「ダーティシャツ・メス」と呼ばれる、士官食堂(メスホール)に入った。様々な職種の、様々な服装の兵士が慌ただしく食事をする様子から、そう呼ばれている。

「騒がしくてごめんなさいね。メスホールはいくつかあるけど、ここは24時間営業なのよ」

 ビュッフェ形式で、4人は思い思いの料理をトレーに盛りつける。ナディとシンディのトレーは、肉料理がほとんどだった。レイミとマイのは、栄養バランスがよく考えられている。

「あなたたちを呼んだのは他でもないわ。あの子が完成したのよ」

 好物のかき揚げ丼を口に運びながら、レイミが切り出した。

「あの子って、ナディさんをモデルにしたっていうロボットですか?」

 マイは尋ねた後にスープをすすった。ナディとシンディは、フライドチキンにかじりつくのに夢中で、ほとんど話を聞いていない。

「そうよ。ナディちゃんも、完成してからあの子に会うのは初めてでしょ?」

「え? あー、そうだ。ナディ、ホネホネの時しか、アイツ見てない」

 唇を油まみれにしながら、ナディが答えた。マイが、ナプキンでその口を拭ってやる。

 食事を終えた4人は、艦内のトレーニングルームに移動した。何人かの兵士たちが、トレーニング機器に向かって汗を流している。

 レイミは、ランニングマシンで走っている人物に声をかけた。

「サナ! お客さんよ!」

「了解した。すぐに移動する」

 その少女は、ランニングマシンを停止させ、まっすぐにこちらに歩いてきた。

 彼女はナディによく似ている。ライトグリーンの毛皮、体の各所のタトゥのような模様、そして、意志の強そうな大きな瞳。

「ファンガルド宇宙軍第3艦隊所属、サナ・アローウェーブ少尉だ」

 その少女、サナは、極めて事務的な口調で挨拶した。やや面食らうマイたち。

「え、えっと、ファンガルド自然保護局所属の、マイ・シューティングスターです。よろしくお願いします」

「あたしはシンディ。自然保護官だよ。よろしくね!」

「ナディだ。マイとシンディいっしょに自然保護官やってる」

 3人も自己紹介する。

「オマエ、ナディ元に作られたんだな? ほんとにナディそっくりだ!」

 ナディは、興味津津といった感じで、サナを見つめた。そして、手を伸ばしてサナの頬に触れる。

「フサフサだ! ナディといっしょ!」

 そのまま、サナの体のあちこちを撫で回すナディ。直立不動で無表情だったサナが、やや困ったような表情になっていく。心なしか、その頬が赤く染まっているようにも見える。

「この行動に何の意味があるのか、理解できない。説明を求める」

「スキンシップ、ってヤツだよ」

 シンディが答える。シンディは、ひょんなことから、動物のトラからトラ型ファンガーへと姿を変えたという経緯を持つ。野生のトラだった頃から、ナディやマイにはよく撫でられていたのだ。

「……好意的な行動であることは理解した」

 ひと通り撫で終わると、ナディはにっこり笑った。

「オマエ、ナディ元に生まれた。オマエ、ナディの妹! マイと、シンディと同じ、ナディの妹だ!」

「妹……。私は貴女のデータを元に製作された。だから、貴女はむしろ、私の母親のような存在だと認識している」

 サナの言葉に、ナディは目をぱちくりさせる。

「へ? ナディ、オマエの母[かか]?」

 ナディのその表情に、思わず噴き出すマイとシンディ、そしてレイミ。

 そして。

「じゃあなサナ! また来るからな!」

「レイミ大尉もお元気で!」

「バイバイ!」

 大きく手を振るナディ、マイ、シンディ。レイミも手を振り返す。サナも、小さく手を振る。

 シャトルが、頭上の美しい惑星、ファンガルドの青い大気に吸い込まれ、見えなくなる。サナはそれを、ずっと見送っていた。

 その胸元には、小さな牙のペンダントが輝いていた。

 


 
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