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真恋姫†夢想 弓史に一生 第九章 第七話

kikkomanさん

どうも、作者のkikkomanです。


今話ではこの連合戦の大筋のストーリーが決まります。

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2013-11-10 00:48:21 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:1560   閲覧ユーザー数:1422

 

~雪蓮side~

 

 

 

「…………そう…。そんなことがあったのね…。」

 

「えぇ、悩みの種が増えたわ……。雪蓮、私たちの中で一番彼と付き合いがあるのはあなたなの。何か知らない?」

 

「私も彼の全てを知ってるわけじゃないからね……。でも、彼は常人には持ちえないものも持ってるから……。」

 

「…衛星視点というやつか?」

 

「えぇ。もしかしたらまだ他にも何かあるのかもしれないわ…。」

 

「成程……。しかし今は情報が少ない……考えていても始まらないわね…。」

 

「そうね…。」

 

 

連合軍、呉の孫策の天幕。

 

軍議から帰ってきた冥琳は、その結果と先ほどの出来事を事細かに報告してくる。

 

その中で、彼の名前が出てきたことに驚きとどこか納得する自分がいた。

 

彼はまだまだ謎の多い所がある。

 

彼が何をしているのか、何を考えているのか…………そして何故母様を殺したのか……今だに手がかりさえつかめずに居る。

 

そんな彼が今度は明確に敵となり私たちの前にふさがってきたのだ。

 

もしかしたら、本気で呉を潰そうとしているのかもしれない…。

 

でも………。

 

 

「…………今回の戦……なるべく聖の所とはやらないようにしましょう…。」

 

「どうした!? 何かまずいことでもあるのか?」

 

「いいえ…。ただ、私の勘が告げているの……。この戦が彼と雌雄を決するときじゃないって…。」

 

「しかし、連合軍である以上私たちの所に来れば相手せざるを得ないぞ?」

 

「そこは、上手くいなして袁術ちゃんの所にでも擦り付けちゃえば一石二鳥じゃない?」

 

「そう上手くいくものか……。」

 

「大丈夫よ。聖は連合軍の数を減らしたいんだから、数の多い軍を優先的に潰すでしょうし、私たちがいなすようにして戦っていれば、直ぐに標的を変えるわ。」

 

「ふむ……一理あるな。」

 

「でしょ?」

 

「よし。ならば、今回の戦いは手筈通りに進めましょう。」

 

「良いの? 連合軍の作戦は…??」

 

「…………。」

 

 

すると冥琳は、眉根を寄せて頭を抱え、持っている竹簡を床に落とした。

 

その様子を見て、また袁紹がとんでもない作戦を提示したんだろうなと思い、私は苦笑するしかなかった。

 

 

「………私は軍師を長く務めてきたが、あれは作戦なのか……??」

 

「……竹簡にはなんて書いてあるのよ…。」

 

 

冥琳の持っている袁紹が出したのであろう作戦の書かれた竹簡を拾い上げる。

 

するとそこには、『華麗に雄々しく、美しく進軍ですわ~!!!!』と書かれていて、冥琳に続き頭を抱える私であった。

 

 

 

 

 

 

 

~芽衣side~

 

 

「……………ほんまに信じてええんか?」

 

「はい~。私たちは董卓軍と一緒に連合軍と戦うと決めました~。」

 

 

洛陽の玉座の間には、私を含めた徳種軍の一部の将と、月さんたち董卓軍の将が集結している。

 

 

「流石にあんな嘘ばかり並べる袁紹ってやつに腹が立ってねぇ…。お頭もその気みたいだったし、こうなりゃ連合軍相手に暴れてやろうってことになったのさ。」

 

「奏の言う通りなのです。流石に今回ばかりは酷過ぎるのです。弱い者いじめなど屑のすることと変わらないのです!!」

 

「あんしんして、月ちゃん。俺たちは君たちを裏切ったりはしないからさ。」

 

 

奏、橙里、一刀君がそれぞれ私の後に話すと、玉座で聞いていた月ちゃんは顔を覆うようにして何度も『ありがとうございます……。』と小声で言って頭を下げる。

 

それだけ彼女も重圧に襲われていたのだろう。

 

あんな可憐な少女だった月ちゃんが、今は病的に痩せている。

 

心身共に限界だったであろうに………よく今まで耐えたものだと感心する。

 

そして残りの董卓軍の皆の顔には笑顔が浮かぶ。

 

今では敵だらけになってしまった彼女たちなのだ、味方が出来ると言うのは相当に嬉しいし頼もしいはずだ。

 

絶望的だった状況が一転、これならば連合軍と戦う準備が出来たと、彼女たちの顔は笑顔に変わったのである。

 

そんな彼女たちに…………この作戦を告げるのは少々酷なのかもしれないが……。

 

 

「ほな。後はこれで連合軍と戦うだけやな……。」

 

「えぇ。でも、前にも言った通り月をこの洛陽から逃がすことが第一目標になるから忘れないで。」

 

「分かってるって。徳ちゃんのとこの兵も来たんやから、時間を稼ぐだけならおつりがくるで!!」

 

「あの~……。その事で一つお話があるのですが~……。」

 

「ん?? 話って言うのは?」

 

「はい~。今回の戦いはご存じの通り、連合軍がその兵力にものを言わせ攻めてくると思われますので、防衛戦が主になりますが……いずれ破られてしまうでしょう~……。そして、連合軍の目的は洛陽の町の奪取と帝の救出、そして………月ちゃんの首…でしょう…。」

 

 

言った瞬間、あまりにも分かりやすくその場の空気が悪くなる。

 

董卓軍の皆からの厳しい視線に耐えながら私は毅然と話を続ける。

 

 

「洛陽の町の主権はこの際あきらめるしかないと思います。そして、帝の身は連合軍の方々にお任せしましょう……。乱暴に扱うような人たちではないですし、連合軍の目的の一つですから丁重に扱われると思います~。」

 

 

少し息を吐き、視線による圧力で乾いた唇をペロッと舐める。

 

そして、もう一度気合を入れ直すと今回の一番大事なところを話し始める。

 

 

「そして月ちゃんの事ですが……私と聖様からの提案なのですが………董卓にはここで死んでもらいます。」

 

 

玉座の間の気温は一気に上昇した様に感じる。

 

それだけ董卓軍の人たちの怒りの感情が露わになっているのだ。

 

自分たちの主に死ぬように言われたら、誰でも怒るものなのだから当然と言えば当然なのだが、彼女たちの視線は私を貫かんが如く鋭くキツイ目線である。

 

そんな視線に晒されていると、流石に私も精神的に参ってくる。

 

 

「(うぅ~……。なんで私がこんな役目に~……。普通こういうのは聖様が言うべきことなのに~……。)」

 

 

声にならない悲鳴を上げながら視線に耐える私に、音々ちゃんが耐え切れずに質問をした。

 

 

「芽衣さん…。それを私たちが受け入れるとでも思っているのですか………??」

 

「せや!! 月っちを殺すなんてうちは絶対に賛成出来ん。」

 

「私もだ!! 董卓様に救われた御身。守るために盾にはなろうとも、その首を刈る矛になど決してなりはしない!!」

 

「芽衣………月は……殺させない……。」

 

 

さらに凄みを増す董卓軍の視線に、たじたじになる私。

 

こんな役を押し付けた我が主を恨む一方で、この先の説明が大事になってくると再度自分を鼓舞する。

 

すると、玉座で話を聞いていた月ちゃんが「分かりました。」と呟いた。

 

 

「こうするしかないと言うなら、私の命で皆の……この町に住む人々の命を守れるなら、喜んでこの身を捧げます。」

 

「月っち………。」

 

「董卓様………。」

 

「月………。」

 

「霞さん、華雄さん、音々ちゃん。庇ってくださってありがとうございます。そして、恋さん、詠ちゃん。今までありがとう。私も死ぬのは怖いけど、私一人の命でここに居る皆が救われるのなら、私は死ぬのを望みます。」

 

 

月ちゃんの目には強い意志が見て取れる。

 

その目は覚悟を決めた目だ。ならば、問題はないのかもしれない。

 

 

「……では、良いのですね~??」

 

「……はい。後の事は聖さんたちにお任せします。」

 

「……ちょっと待って。」

 

 

すると、今まで黙っていた詠ちゃんが口を開いた。

 

 

「どうかしましたか~??」

 

「……今回の作戦。聖が考えたのよね………??」

 

「はい~。この作戦は聖様からの立案を少しつめたものですね~……。」

 

「そう………。なら、さっきの言葉はそのまま受け取っても良いのよね……??」

 

 

詠ちゃんは私の瞳の奥を見透かすようなそんな目で見つめてくる。

 

その眼を見て、私は安堵する。

 

良かった、詠ちゃんには伝わったのだと……。

 

 

「それは、お任せします~。」

 

「そう……。まぁ、今は聖もいないみたいだし、この話はここまでね。あなたたちも疲れてるでしょうし、うちの皆も連日の討伐でへとへとなの。だから少し休憩にしましょうか。聖が来たら今回の戦い方について話しておきたいから私の部屋に来るように言っておいてくれる?」

 

「分かりました~。」

 

 

とりあえずの役目を終えて安堵する私。

 

ちゃんと作戦の意図を詠ちゃんに分からせれたようだし、あの言い方なら間諜が聞いていても問題はないだろう…。

 

後は、喧嘩を売りに行った聖様が帰って来てから全てが始まる。

 

そうしたら、今回の功労賞は何を貰おうかしら………。

 

うふふと袖で口元を隠しながら笑い、私は仲間と一緒に宛がわれた部屋へと帰って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

~詠side~

 

 

「恋。間諜の目はある?」

 

「……んっと……消えた……。」

 

「そう。なら良いわ。」

 

 

徳種軍の人たちが玉座の間から出ると、恋に間諜の目がどうなったのかを確認する。

 

間諜の監視の目がなくなったのを聞くと、そのまま歩きながら自分の部屋へと向かう。

 

 

「賈詡っちは良いんか!? 月っちが殺されても!!!」

 

 

すると、その後を追うようにしながら付いてきた霞が、ずっと叫ぶのを耐えていたように声を荒げる。

 

その声に、華雄と音々も首を縦に何度も振る。

 

間諜もいなくなったみたいだし、そろそろ皆にも作戦を理解してもらう必要があるか…。

 

 

「良いわけないじゃない!! 月が殺されるって言うなら私も死ぬ。そう言う覚悟で私は今まで月を支えてきたのよ!?」

 

「なら、なんでさっき作戦に乗り気やったんや!? あれは月っちを売ろうとしとるとしか思えんかったで!!」

 

「いいえ違うわ!! 皆、あの子が言った事を正確に思い出してみて。」

 

「正確にと言ってもだな……董卓様にはここで死んでもらうとしか……。」

 

「そう。それよ……。」

 

 

私は華雄の指摘した部分を拾い上げる。

 

そして、私なりに考えた今回の作戦の全貌を説明する。

 

 

「良い? あの子は言ったわ……。『(董卓にはここで死んでもらいます)』って…。」

 

「それが何だと言うのだ。董卓様に死んでもらうと言っているだけではないか。」

 

「だから、それが思い込みなのよ……。董卓にここで死んでもらうとは言ったけど、月にここで死んでもらうとは言ってないわ。」

 

「……だが、董卓は董卓様のことであって……。」

 

「身代わりちゅうことか…!?」

 

「そう。董卓と言う人物を別に作ってその人に死んでもらうのよ。幸い、連合軍の諸侯の中で私たちの顔を知っている人物は少ないわ。ならば、宦官どもでも身代わりにすれば問題なく私たちはこの町を出て生きていられる。」

 

「つまり聖の言いたかったことは、月に董卓と言う名前を捨てて貰うと言う事なのですか!?」

 

「そう言うこと。初めから聖は月を助けるつもりで動いていたってことよ。」

 

「なんと………。」

 

「………聖らしい…。」

 

「そうね。こうなったら、何が何でも月を洛陽から逃がすわよ。」

 

「「「「応っ!!!」」」」

 

 

皆の顔が晴れやかな顔になり、各自の部屋へと帰っていくのを見送りながら、胸に迫りくる恐怖を何とか振り払おうとする。

 

敵は私たちよりも圧倒的に人数が多い……。

 

聖たちが味方してくれたからと言っても、その兵数差は埋まらない……。

 

もし仮に汜水関、虎牢関が簡単に抜かれてしまったら………私たちの作戦は頓挫し、月だけでも逃がそうと言う計画すらおじゃんになってしまう。

 

軍師と言う職業は常に成功と失敗の図を描き、その先の対応までも考えておくものだが、今回ばかりは失敗は許されるものではない…。

 

失敗はつまり即、皆の死につながるのだから…。

 

 

「…………大丈夫……よね……。」

 

 

部屋に向かいながら零した独り言で自分を励まそうとするが、手の震えを止めることが出来ない。

 

こんなことでは軍師失格だわ………。

 

 

「大丈夫なんじゃねぇか?」

 

「えっ!?」

 

 

顔を上げた先、私の部屋の前には彼の姿があって、彼はいつものように私に微笑むのだった。

 

 

「大丈夫なんじゃねぇかって言ったんだよ。あんまし悩むと眉間に皺が出来るぞ。」

 

「…………あんた。どこに行ってたのよ…。部下に先行させて挨拶を済ませるなんて失礼だと思わないの…?」

 

「俺たちとお前たちの仲だろ? 細かいことは気にするなよ…。俺はちょっと連合軍の奴らに挨拶に行ってきたんだよ。」

 

「挨拶って……連合軍の本部に行ってきたってこと!?」

 

「あぁ。」

 

 

事もなげに言ってのける聖に、私は流石に呆れた。

 

いくらなんでも、敵の中心地に乗り込むなど馬鹿のやることでしかない。

 

 

「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたけど、本当に馬鹿だったとはね……。」

 

「ははっ、そりゃどうも……。でも馬鹿じゃないと出来ないこともあるんでね…。」

 

「………話は芽衣から聞いたわ…。私たちもそう思っていた所だから都合がいい。汜水関、虎牢関で時間を稼いで月を洛陽から逃がす…それで良いわね?」

 

 

それが最善で最高の選択だと私も思っているから、すんなりと言葉は出てきた。

 

しかし、それに答える聖の言葉に文字通り面を食らってしまう……。

 

 

「ん?? そりゃ少し違うな……。俺たちの作戦は、董卓軍全員を生きてこの洛陽から逃がすことだぜ?」

 

 

満面の笑みでそう告げる聖の後ろに後光が差してるように見えたのは、きっと私が疲れていたからなのだと今になって思う…。

 

しかし私にはその時、彼が救いの神なのだと思う以外に思考が働かなかった…。

 

馬鹿だ馬鹿だと思っていたけれど………底なしの馬鹿で……そして、底なしのお人好しで……底なしの優しい男……それが………徳種聖と言う男なのだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弓史に一生 第九章 第七話     軍師の不安   END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書きです。

 

 

第九章第七話の投稿が終わりました。

 

0時過ぎて申し訳ないです…。

 

 

 

さて、今話ではこの連合の大きな道筋が出来ました。

 

今後の展開がどうなっていくのか、お楽しみにしていてください。

 

 

 

 

次話はまた日曜日に…。

 

それでは、また来週~!!!!


 
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