No.634374

太守一刀と猫耳軍師 2週目 第7話

黒天さん

今回は前回の続き。
今回は紫青さんがメインになってきます。

2013-11-05 11:49:53 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:9045   閲覧ユーザー数:6453

華琳の「あなたが欲しい」発言を聞いて固まる俺以外の5人。

 

うん、まぁそうだろうなぁ、誰かが欲しいって言い出すのはあり得ると思ってたけど、まさか俺とは。

 

「もちろんただでとは言わないわよ。

 

北郷をくれるなら、こちらからいい医者を出すわ。

 

たしか、あなたの娘が重病を患ってたわよね?

 

私の主治医なら、きっとその病でも治せるはずよ」

 

沈黙。おそらく、ここで俺が去ってしまうことによる影響と娘の命を天秤にかけているんだろう。

 

とはいってもなぁ……。おそらく、普通ならこの条件だと蹴るとおもう。

 

そうでもないのかな? 華歆も不正に手を出しちゃったぐらいだし。紫苑にしても、璃々ちゃんが原因でウチと全面戦争になりかけた。

 

しばらく思案した後、華歆がこちらを見て口を開く。

 

「そもそも北郷殿は客将なのだから、あなた次第よ。決めるのは私じゃないわ」

 

こっちに振りやがった!?

 

「一刀さん、どうするんです……?」

 

「うーん……、少し皆と相談させてくれないか?」

 

「ええ、今日はここに滞在するつもりだし自由にどうぞ。色よい返事を聞けるように祈ってるわ。行くわよ、仲達」

 

そういって、背を向けて、背後に控えていた紫青とともに俺達の前から去っていく。

 

残るは俺達だけなのだが、空気が重い……。

「桂花や天泣達は俺が曹操の所にいくとしたら、どうする?」

 

「私は一刀様の決定に従い、ついていきます」

 

真っ先にそういったのは桂花。うん、なんだかこれは予想してた。

 

「私もお伴しますよー」

 

「私も一応そのつもりですけど、本当に曹操の所へ行くつもりですか?

 

私、正直曹操は気に入らないです。そもそもなんですかあの無礼な物の言いようは」

 

天梁は嫌そうな顔。多分、俺の真名をいきなり呼んだのが尾を引いてるんだろう。

 

「俺としては偉容ちゃんを助けてあげたいから、行きたいとは思ってるんだ。

 

でも、俺達がごっそりここから抜けるとなぁ……。星はどうするんだ?」

 

「そうですな。曹孟徳の下となればいささかおもしろみに欠けるのは事実ですが。

 

ふふ、一刀殿がその下につけば、あちらの考え方をねじ曲げてしまうように思える、それも中々面白そうですからな。

 

今しばらく、一刀殿の下に居るとしましょうか」

 

「でもせっかくここまで街に活気がでてきたのになぁ……」

 

「ふむ、この領を生かし、かつ子魚殿の娘も生かしたいと。

 

両立できる手もありますが、その手の決定権を持つのは子魚殿ですな」

 

「……やっぱり、その手しかないかしらね」

 

華歆が大きくため息をつく。俺にもその方法がどういうものか何となく察しはついていた。

 

多分、天泣以外は気づいてると思う。

 

「どういう方法ですかー?」

 

「曹操に庇護を求め、傘下に入れてもらうのよ。この領を丸ごと。

 

そうすれば今までどおりとは行かないまでも、少なくとも北郷殿が来る前のようにはならないわ」

 

「ただ、傘下に入るとしてもそれなりの地位は確保しないとだめです。私としても、あちらの言いなりというのは御免ですし」

 

「一晩考えてみましょう、今日はここで解散にしましょう。それぞれに一晩考えて、明日朝決定するわよ」

 

華歆がそういえば、それぞれに自室へと戻っていく。

 

俺の部屋のドアが叩かれたのはそれから2時間ほど経ってから。

 

開いている、と答えれば入ってきたのは意外な人物だった。

「お久しぶりです。今は、島津北郷様、でしたか?」

 

「……仲達、か」

 

「今までどおり、紫青と呼んでください。私も、真名で呼んでも?」

 

俺が頷いたのを見れば、紫青は俺の目の前までやってくる。

 

あれ、今まで通り……?

 

「覚えてる……のか?」

 

「はい。一刀様のことは覚えていますよ。部分的に分からない所もありますけど、お慕いしていた気持ちはハッキリ覚えています」

 

俺に向けてくれる笑顔は、作り物じゃないことがわかる。見覚えのある、とても嬉しそうな笑み……。

 

「その、鉄扇を見せてもらってもいいですか?」

 

「いいよ」

 

それを紫青に手渡せば、ゆっくりとそれを開く。そこに書いてある自分の真名を指でなぞり、もう一度嬉しそうに笑う。

 

「懐かしいです……。でもこれで確証が持てました、あなたが本当に一刀様だと」

 

そう言って、俺に鉄扇を手渡しながら、言葉を続ける。

 

「華琳さんには申し訳ないですが、真名で呼ぶ事を遠慮してもらってました。

 

紫青の主は、一刀様をおいて他に居ないのですから。ずっと、お待ちしてました」

 

しらず、涙があふれる。夢という形ではなく、覚えてくれている人がいた、それだけで救われた気がした。

 

「泣かないでください、紫青はいつでも傍に居ると言ったのを、お忘れですか?」

 

「忘れるはずないだろ」

 

思わず紫青の手をとって、抱き寄せた。驚いたような表情を一瞬見せたが、抵抗することもなく、簡単に紫青は俺の腕に収まって。

 

「一刀様、痛い……です」

 

「会いたかった、桂花も夢で見ただけで覚えて無いみたいで……。ずっと寂しかった、辛かったんだ……」

 

声を上げて泣いた。紫青は何も言わず、俺が落ち着くまで背を撫でてくれた。

───────────────────────

 

巡回の兵に一刀様の部屋を聞き、案内してもらい、歩くうちにこの間と今日の一刀様の様子を考える。

 

「なんだか、辛そうでした……」

 

私は一つ、仮説を立てていた。

 

夢と現実の桂花さんや星さんの一刀様に対する態度の違い、やつれた様子の一刀様、私や華琳さんと会った時の寂しそうな……辛そうな顔。

 

これを合わせて考えると突拍子もないけれど、一刀様は私が夢として見てきた物を実際に体験してきたのでは? と

 

一刀様は天の御遣いとして突然大陸に現れた。その直前まで、私や華琳さんが夢で見ていた所に居たとしたら?

 

そんな事、経験できるはずもないから分からないけど、もし、親しかった人が急に余所余所しくなったりしたら。

 

周りの人間が全て、自分のことを忘れてしまっていたら……。

 

正直、私には想像ができない。

 

部屋の前につくと、とんとんと、扉を叩く。

 

夢の中の私がそうしていたように。中から開いている、と声が帰ってくるのも、夢と同じ。

 

「お久しぶりです、今は、島津北郷様、でしたか?」

 

演じる、私が見たのは夢ではない、というように。

 

軍師としての仕事はなにも、行軍や政に対する助言だけじゃない、主や配下を安心させるのも仕事のうち。

 

……もっともそれは建前、気を引きたかったのが多分本音。

「仲達、か……」

 

「今まで通り、紫青と呼んでください。私も真名で呼んでも?」

 

私がそういうと、一刀様は頷いてくれる。

 

その姿は夢で見たのと同じ。腰に刺したその特徴的な鉄扇もみたままだ。

 

ここまでそっくりなのだから、あの人に違い無い、そう思って真名を許した。

 

もしよく似た別人だったらどうしようとは思ったけれど……。

 

今日とこの前との華琳様や周囲の者との会話を聞き、おそらく間違いないと思ってのこと。

 

それに、その声で、早く真名を呼んで欲しくてたまらなかった。

 

「覚えてる……のか?」

 

ああ、やっぱり……。一刀様はきっと、夢としてではなく現実として経験してきたんだと、この言葉でそれが伺えた。

 

「はい。一刀様のことは覚えていますよ。部分的に分からない所もありますけど、お慕いしていた気持ちはハッキリ覚えています」

 

慕っていた気持ちを覚えている、これは本当だと思いたい。

 

私は、夢で見た一刀様をずっと想い続けて来たのだから。

 

「その、鉄扇を見せてもらってもいいですか?」

 

一刀様は快く承諾してくれて、それを私に手渡してくれる。

 

それを広げて見れば、私の字で、夢で書いたのと同じ場所に、私の名がちゃんと書いてある。

 

この真っ赤な紐はきっと、私がつけたもの……。

「懐かしいです……。これでやっと確証が持てました、あなたが本当に一刀様だと」

 

鉄扇を返しながら、言葉を続ける。

 

「華琳さんには申し訳ないですが、真名を呼ぶのを遠慮してもらっていたんです。

 

私の主は、一刀様をおいて他に居ないのですから。ずっと、お待ちしてました」

 

だから、真名を最初に許す他人は伴侶と決めている、と言って華琳さんにさえ真名を呼ばせなかった。

 

華琳さんは真名を呼んでもいいと言ってくれていたけど、私の方が今まで遠慮して呼ばなかった。

 

今は、なるべく夢の自分と差異の無いよう、華琳さんのことを真名で呼んだ。

 

私の言葉を聞くと、一刀様の目に涙が浮かぶ。

 

胸が痛い……。

 

「泣かないでください、紫青はいつでも傍に居ると言ったのを、お忘れですか?」

 

「忘れるわけないだろ」

 

手を捕まれ、抱き寄せられて驚いたけれど、抵抗する気にはなれなかった。ぎゅっと両手で抱きしめられて、少し痛い。

 

「一刀様、痛い……です」

 

そういうと、少しだけ力をゆるめてくれた。こうして抱きしめられると懐かしい、そんな感情が湧いてくる。

 

懐かしい、というのとはまた違うかな。経験していないはずのことを思い出すような、

 

なんて言えばいいんだろう、思い出を思い出したわけじゃないけど、感情を思い出した。そんな気がする。

 

「会いたかった、桂花も夢で見ただけで覚えて無いみたいで……。ずっと寂しかった。辛かったんだ……」

 

大の男が声をあげて泣くほど、どれだけ辛かったのだろうか、想像もつかない。

 

私には、ただその背を撫でてあげる事しかできなかった。

「落ち着きましたか?」

 

「どうにか、ありがとう、紫青」

 

「……一刀様に、一つお願いがあります」

 

「ん?」

 

懐から、鈍い銀色に光る髪飾りを取り出し、それを一刀様に見せる。

 

これを買ってもらった夢を見た後、朝になって目が覚めたら握り締めていた物。

 

「これ、覚えてますか?」

 

「覚えてるよ、俺が買ってあげたんだから」

 

振り返って、一刀様に背を向ける。

 

「つけていただけませんか?」

 

そういうと、ゆるく私の髪を集めて、その髪飾りをつけてくれたのが分かる。

 

確か、前にもこうしてくれた……。

 

「紫青は、一刀様が華琳さんにつこうと、こちらに残る事を選ぼうと、お傍にいます。

 

でも、出来ればこちらに来てください、紫青はこれまで良くしてくれた華琳さんを裏切りたくないですから」

 

背を向けたままそういって、それからゆっくりと振り返る。

 

「今日はもう遅いですしこれで失礼します。華琳さんへの返事は、一刀様の思うようにしてください。では……」

 

部屋から外に出ると私は大きく息をついた。

 

「紫青は嘘つきです、ごめんなさい……」

その夜、また夢を見た。

 

どんな夢だったか思い出せない、でも一刀様が出てきたのは覚えてる。

 

「……っ!」

 

いつもと違うのはそれに感情があったこと。

 

私の心を塗りつぶすように一気にそれが押し寄せてくる。

 

苦しい……。

 

慕っていた気持ちを覚えているなんて大嘘だ。

 

思ってるような生やさしいものじゃなかった。

 

今すぐにでも一刀様の部屋に行きたい。声がききたい。名前を呼んでほしい、抱きしめてほしい。

 

今まで探しもせずにじっと待っていた自分が信じられない。

 

今まで離れ離れに過ごしてきた時間を取り戻したい……。

 

普通は少しずつ膨らんでいくから慣れていくんだとおもう。

 

一気に押し寄せてきたそれを抑えこむには本当に苦労した。

 

一体何故急に……?

 

名を呼ばれたから? 抱きしめられたから? あの武器に触れたから? それとも髪飾り……?

 

考えてみても答えは出ない。

 

でも多分結果的に……、それを私は思い出したんだとおもう。

 

「嘘から出た真、ですね……」

 

どうにか感情を抑えこみ、落ち着いた頃にぽつりと、口からそう溢れた。

あとがき

 

どうも黒天です。

 

今回は紫青さんが部分的に思い出しました。

 

一刀から見れば、今のところは以前の紫青と同じなのですけどね

桂花は登場時からこの状況で、だからこそあの態度になってしまったのだと考えてます。

 

こういう心理描写はまだまだ苦手なのでうまく伝わるか心配です

 

さて、今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました。

 

また次回にお会いしましょう。


 
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