No.63348

とある3月のとある白い日

華詩さん

ホワイトデー、彼女はどんな今日を過ごしたのでしょうか。「とある」シリーズ第7弾です。

2009-03-14 21:59:55 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:569   閲覧ユーザー数:532

 私は胸元にある物と、左手に収まっている物を交互に見る。今日は色んなことがあった。特にこの左手に収まっているコレと胸元にあるこれも私の人生の大切な部分の証明。この特別な日を、私はゆっくりと思い返した。

 

 とても気持ちのいい日が差している。寒さは時々顔を覗かせる位になってきた今日この頃。そんな中で今日は一番暖かかった。

 ただ暖かいと言ってもそれなりに、防寒具は必要なんだけど。体を縮こまらせるほどではなかった。

 

 いい日になるといいな。そんな事を思いつつ手元の時計で時間を確認する。待ち合わせ時間まであと10分ぐらいか。

 早くつきすぎちゃったな。でもいいや、こうやって待っているのも何だか楽しい。行き交う人々を見ながらそう思う。

 それにしても周りは何やらカップルの姿をよく見かける。みんな考える事は一緒なんだろうか。そう言う私達もその仲間なんだろうけど。

 そう、今日はホワイトデー。休日って事もあり、デートを楽しむ恋人達が街には溢れかえっている。

 私は彼との初めての二人っきりでのデートの待ち合わせ。駅前にといわれただけで、どこで何をするのかは教えてもらってない。

 二人で一緒に同じ時間を過ごせるのならば、場所はどこでもいい。ただ、その時間が素敵だったらちょっぴり嬉しいな。

 

そんな事を思い返していると、後ろから両頬に手が添えられた。

 

「キャ」

 

振り向くと笑っている彼がいた。

 

「おまたせ、寒かったろ。」

 

そういって私の頬を軽く撫でてくれた。

 

「もう、ビックリするよ。声かけてくれれば良いのに。」

「いや、何やら考え込んでいたから。」

 

 そう言って私に手を見せてくれる。彼の手にはこの間あげた、手袋がしっかりとハマっていた。何だか恥ずかしいな。でも嬉しい。

 

「使ってくれてるんだ。」

「あぁ、大切に使ってるよ。」

 

彼はそういって笑っていた。

 

「ねぇ、それで今日はどこにいくの。お楽しみにっていってたけど。」

 

私がそう言うと彼は困ったような顔をしてこう答えた。

 

「色々と調べたり考えたりしたんだけど。どうしていいのか分かんなくてさ。何も特別なことはなにもないんだ。一緒に買い物したり、遊んだりするだけなんだ。期待させておいてごめんな。」

 

 私は首を振る。私はそれで十分だった。

 

「かまわないよ。一緒にいれればそれでいいよ。」

「ありがとう。じゃ行こうか。はい」

 

 そう言って彼は右手を差し出す。たぶん、手を繋ごうってことなんだろう。

 でも、私は手を取らずに、彼の腕をとりギュッと抱きしめた。手を繋いでってのもいいけど、やっぱりデート中は腕を組んで歩きたい。彼を見る、ちょっとだけ顔が赤い。まぁ私も赤いんだろうけど。

 

「えっと、行こうか。」

 

 そう言って彼は歩き出す。それに添うようにして私も一緒に歩きはじめる。時たま吹く風がとても気持ちよかった。私たちは駅の並びにあるお店を見て回る。お店のウインドウには春らしい飾りが所狭しと並んでいたりした。

 

「ねぇ、見てあれ。すごいよね。」

 

 私は絵が飾ってあるお店のウインドウを指差す。そこには満開の桜が見事に描かれていた。プラスティックみたいな光沢がある絵だった。何て言うんだろうな。すっごく綺麗だ。

 

「本当だ、迫力があるよな。そういえば、学校の桜もあんな感じだっけ。」

「そうだね。入学式の時は驚いたよ。」

 

 後数週間もすれば満開の桜が見えるんだろうな。学校でお花見も良いかな。

 

「ねぇ、桜咲いたらさ。学校にお花見に行こう。優子と圭司君誘って。」

「そうだな。そう言うのもいいな。でも俺は二人で行きたいな。ダメか。」

「いいよ。二人でお花見しよう。」

 

 私はそう答え彼に寄り添う。家でのデートも楽しいけど、こうやって出かけるのはなんだかわからないけど楽しい。

 

 その後も駅の周りを色々と見て回った。普段あまりこないので連れてきてもらう所所がとっても新鮮だった。

 駅裏に広がっていた、露天商にはビックリした。どこか別の世界へと紛れ込んでしまったかのように日常を忘れさせた。

 そんな事を思っているといつの間にかゲームセンター前にいた。。こんな所に来てどうするんだろうか。そう思って彼を見る、彼は何かを探しているようだった。

 

「プリクラとろう。」

「えっ、何か恥ずかしいよ。」

 

 そんな私におかまいなしに彼は進んで行く。もう、しょうがないな。恥ずかしいけど、撮ってみよう。親友と交換もしてみよう。親友は手帳に沢山はって持っている。親友と親友の彼氏が写っているのや、三人で写っている物。私が撮った事無いと言ったら、とったら頂戴ねと言われていた。

 

 二人で画面の前に立つ。彼が手慣れた手つきで操作して行く。よく撮るのかな、でも誰と撮るんだろう。

 

「なんか慣れてるね。よく撮るの。」

「まぁ、圭司達や部活の連中やら。あと美咲とかかな。」

 

操作説明の横にボードがある。そこには色々な人たちのプリクラがはってあった。

 

「ねぇ、真一。あの柄がかわいいかも。アレにしない。」

「どれ、ああ、アレね。いいよ。」

 

彼が枠を選んでくれる。選んでくれた物が画面に表示される。思っている以上に写る部分がすくなかった。

 

「ほら、亜由美もっと顔寄せなよ。フレームからはみ出る。」

 

 彼はそういいて私を側に引寄せる。彼と顔が引っ付きそうなぐらいの距離にいる。とってもドキドキしてきた。こんなにもさり気なく行動できる人だったけな。

 そんな事を思っているうちにシールが出てきた。彼はシートを半分に切ってくれた。親切にハサミまで置いてあるんだ。渡されたシールをみる。うんこれは親友にはあげられないな。全部自分でもっておこう。そんなことを思っていると彼は携帯を取り出し、携帯の裏にシールを貼っていた。えっとなんでそんな一目の付く所に貼るんだろうか。そんな私の視線に気づいたのかこちらを向く。

 

「どうした?」

「どうしてそんな所に貼るの。何か恥ずかしいよ。」

「大丈夫だよ。人には見せないから。約束する。」

「絶対だからね。信じてるから。」

 

 彼をじっと見つめる。彼は視線を外す。あんまり期待できないかも。

 

 そんなやりとりをした後は、UFOキャッチーをやったり、ワニが出てくる奴やら太鼓を叩く奴やらとにかく遊び回った。そうこうしている内にお昼になっていた。

 

 

 彼はお昼ご飯を食べるために何やら落ち着いたカフェに連れてきてくれた。

 ドアを開ける。カウンター席には3人のお客さんが座っていた。その内の一人は小さな女の子。両隣は両親かな。

 カウンターのお店の人と楽しそうに話をしている。そんなことを思いながら中を見渡していると店員さんに声をかけられた。

 

「あれ、真一君。いらっしゃい。」

「こんにちは、佳織さん。テーブル席って空いてる?」

「うん、空いてるよ。」

 

 彼はここの常連なのだろうか。駅から近いのでよく来るのかな。それにしても大人っぽいお店だな。ちょっぴり意外な気がした。するとカウンターに座っている男の人が声をかけてきた。

 

「おっ、少年ひさしぶり。ところで答えは……。なるほどね。」

 

男の人は私を見て頷いていた。隣にいる彼は何だか慌てているようだった。

 

「ええ、良司さん。」

 

 彼はそういった。何の事だろうかよくわからないや。そんな事を考えて彼を見ていると別の声がした。

 

「ねぇ、もしかしてさっき話していた似ているって子。その子の事。なんだか素直そうだよ。」

「あれ、俺って素直じゃない。別にいいけど間違いなく中身は俺に近い。」

「そうは見えないけどな。もしそうなら大変だ。ねぇ文花」

 

女の人は真ん中の女の子に声をかける。

 

「うん、りょうのほうがかっこいい。」

 

答えになってない元気のいい声がお店の中に響く。店員さんは可笑しそうに笑っている。

 

「パパと呼んで欲しいよ。諦めたけどさ。でも文、お前の責任だぞ。」

 

 女の人は優しそうな笑顔を男の人に向けている。男の人もそれ以上は何も言わなかった。すると二人の間に座っている女の子がポツリと言った。

 

「りょうはりょうだもん。ねぇママ。」

 

そんなやりとりを見ていると、奥にいる女の人と目があった。私は軽くお辞儀をする。

 

「ねぇ、後ろの子だれ。もしかして彼女?」

 

店員さんが嬉しそうに聞いてくる。

 

「そうだよ。」

 

 彼がぶっきらぼうに答える。照れているんだろうな。照れていると彼は時々、こんな感じになる。どんな話しをしていたんだろうか。凄く気になるなあとで教えてもらおう。彼からは期待できないので、一人で来たときにでも聞いてみよう。そんな事を思いつつカラカイついでで、私は彼の腕に抱きつく。

 

「あらあら、仲がいいのね。二人用のボックスがいいかな。」

 

そういって席に案内してくれる。その席はちいさな部屋を思い起こさせるようなつくりのとってもお洒落なテーブルだった。これって恋人席ってやつかな。座ってみると凄く彼が近い気がする。とりあえず落ちつくために気になっていた事を聞いてみる。

 

「ねぇ、ここってよく来るの。何だかお店の人とも仲がいいみたいだけど。」

 

 店員さんは驚くぐらい美人だった。なんだか二人が話をしているのを想像すると変な気持ちが沸き上がってくる。これって嫉妬なんだろうか。ジッと彼もみる。すると彼は慌てて説明してくれた。

 

「ああ、あの人は俺の親戚だよ。このお店オーナーの佳織さん。」

「あの男の人たちは。」

 

何やら仲が良さそうだった。お店の常連さんってだけじゃないんだろうな。

 

「あの人は佳織さんの弟みたいな人。」

「弟みたいな人、どういうこと。」

「詳しくは知らないんだ。ごめんな。」

 

 そんな話しをしていると、彼が私に食べれない物がないかを確認した。特に食べれない物は無いのでないと答えると彼は、テーブルのボタンを押す。するとさっきの人が注文を聞きに来て、おすすめランチを二つ頼んだ。何が出てくるのか楽しみだ。そうだ言っておかないといけない事があったんだ。そう思い彼に告げる。

 

「デート誘ってくれて、ありがとう。今日は楽しかった。でも、待ち合わせ場所の伝えかたわかりにくかったよ。」

「そうかな。亜由美なら気づいてくれると思ったから。」

 

 彼は14日にデートとだけ事前に伝えておいて、待ち合わせ場所や時間は昨日まで教えてくれなかった。しかも、その方法はお返しのクッキーに添えてあったカードだった。渡された昼休みの事を思い出す。

 

 

 学年末考査も終わりのんびりとした空気が流れる教室。外の気温もそれとなく春らしくなってきていた。

 そんなことを思いながら外を眺める。この景色とはあと少しでバイバイか。来年は校舎等が反対側になるし。そんなことを思いながら眺めていら前の席に親友が座った。

 

「何黄昏れてるのよ。」

「うん、この景色もあと少しなんだなって思ってね。」

「そうだね。二年生は反対側だもんね。それは良いけど。お昼にしよう。」

 

 いつものように四人でご飯にする。彼の隣に座ろうとすると親友の彼氏からこう言われた。

 

「亜由美ちゃん。今日はこっちね。」

 

 その場所はいつも親友の彼がすわっているところ。

 

「えっとそれって、前に戻るってこと。」

「まぁ今日だけね。」

 

そういって彼の方を見ていた。なんだろう何かあるんだろうか。

親友はなにやらわかった見たいな表情をして私を促す。

 

「ほら亜由美、ひさびさに隣同士で食べようよう。」

 

そしてご飯を食べ終わると、彼らはカバンの中から何かを取り出した。

 

「これ、一日早いけど、ホワイトデー。」

 

そして、隣では親友の彼氏が親友に私たちと同じように渡していた。

 

「ありがとう。開けてもいいのかな。」

「どうぞ。」

 

 箱を開けて行くとそこにはクッキーがびっしりと詰まっていた。その上には私がバレンタインに渡したのと同じようなメッセージカードが添えられていた。裏返してみると、そこには「駅前 9:30」とだけかいてあった。彼を見ると彼は頷いていた。ああ、明日の事か。私はカードを胸ポケットにいれてクッキーの袋に手をかける。

 

「わぁおいしそう。ねぇどこの。」

 

 隣から親友が彼にきいている。しかし、彼はどこでもいいだろうと言を濁す。

私は透明なビニールをしばっているモールを外す。あれ、このモールどこかでみたような。あっ、ってことはもしかして。封を開けて私はクッキーを口の中にいれる。サクッとしていてた。

 

「なぁ、どうだ。」

 

彼が聞いている。何かを待っているようで、期待と不安がいり交じった評定していた。

 

「うん、美味しいよ。ありがとう。今日ってものビックリしたけど、手作りってのも。」

 

 私がそう言うと彼はシーっと人差し指をたていった。なるほど二人には言ってないんだったけ。親友の彼氏が彼をつついていた。もしかして気づかれたかな。

 

「真一何、頑張ってんだよ。お菓子を買ってきた俺がしょぼく見えるだろ」

「別にいいだろ。お前も頑張ってたろがバイト。別のアレのために。」

「わぁバカ。それ言うな。」

 

 親友の彼氏が慌てている。何だか珍しいな。そう思って隣を見ると、親友はすごく幸せな表情をして箱を見ていた。親友の箱の中にはお菓子とネックレスがはいっていた。

 

「ありがとう。覚えていてくれたんだ。」

「まぁな、それお揃いだからな。」

 

 そう言って彼は自分の首を指差す。彼の首にも同じものが付いているのが見て取れた。お揃いかいいん。でも私は恥ずかしくてたぶん無理だろうな。

 

「ねぇ、さっきの仕草はなに。何かあるの。」

 

親友は目ざとく彼の仕草を見ていたらしい。どうしようか、別に隠しておく必要もないんだけど。大騒ぎになるのは嫌だな。そう思っていると彼が答えていた。

 

「まぁ、恥ずかしいだろ。手作りしたっての。」

「真一らしいな。やっておいて恥ずかしがるの。」

 

 彼は少しだけ顔が赤かった。手作りだと知られるのもあの動作の中に含まれていたらしい。そのおかげで親友は納得したみだいだった。でも親友は気づいていて何も言わなかったのかな。思い返しながらその事を彼に伝える。

 

 

「優子はもしかして気づいてるかも。そんな顔してた。」

「なら、今日のこと月曜日にさんざん聞かれそうだな。」

 

 彼は苦笑いをしていた。何となくそんな光景が目に浮かんだ。でもそう言う光景も後しばらくすれば終わる。来年はクラスが違う。三人と私の進路が違うからだ。一緒のクラスになる。ただそのために自分の未来を変える気はさらさらない。

 

「そうそう、クッキー美味しかったよ。あの子達も喜んでた。もっと欲しいていってた。私もだけど。また作ってくれたりしないかな。」

「あんなのでよければ、今度いくときに持って行く。あのさ。」

 

 嬉しそうにそう言うのだか、先ほどから彼の視線は私の顔ではなく、胸元にいっている。

 何だろう、さっきのランチのソースが溢れて服に付いちゃってるのかな。そう思って見てみるがどこも汚れてない。なんだろう。そう思って顔をあげると彼は何かを決意したかのように聞いてきた。

 

「なぁ、そのネックレスってさ。誰かからのプレゼント?」

「どうして。」

「普段買わないだろうアクセサリー類。」

 

 そういって私を見る。ちょっとばかり寂しそうな悲しそうな顔をしていた。どうしたんだろうか。

 

「うん、そうだよ。ホワイトデーのね。お父さんから。」

 

 それを聞いた彼は驚いたような顔をしていた。そんなに驚くような事なんだろうか。もしかして普通は娘にはお返しなんてしないのかな。

 

「でも、一度も見たこと……。あっ、ごめん。」

 

 とってもすまなさそうにそう呟いた。そういえば彼が家に遊びにきていた年末は日本にいなかったけな。

 

「あのね、真一。別居中とか離婚してるとかそう言うんじゃないんだ。心配しないで。」

 

 私は彼にお父さんの事を話した。今日の朝どんなやりとりがあったとか、どんな仕事をしているだとか、どんな人なのかだとか。

 そして、最後にした話は、彼をさっき以上に驚かせてしまった。でもいつかは伝えるつもりだった話。

 

「だから、これは私にとって家族の象徴。間違いなく一生大事にすると思う。」

「そっか。話してくれてありがとう。この話を知ってるのは俺だけなのかな?」

 

私は頷いた。最後にした話は彼にしかしてない。

 

「真一は私の大切な人だから。知っていて欲しい。」

 

 

 そんなこんなで話し込んでいると結構な時間が経っていた。お昼に入ったはずなのに気がつけば午後のお茶の時間までも過ぎている。話しすぎちゃったかな。私は時計に目をやる。そんな私を見て彼が慌てた様子で聞いてきた。

 

「なぁ、もう時間まずいのかな。」

「あと少しぐらいなら良いよ。どうしたの。」

「一緒に来て欲しい場所があるんだ。」

「いいよ、じゃお店でようか。長くいすぎちゃたしね。」

 

 そういって席を立つ。ボックス席からでて、カウンターに向かう。カウンターには佳織さんとその弟みたいな男の人がいた。私たちが来たときより前にいたのにまだいたのには驚いた。でも奥さんと子どもいなかった、先に帰ったのかな。そんなことを考えながら支払いを済ませる。

 

「ごちそうさまでした。また美咲や母さんと遊びにきますので。」

「えぇ、二人によろしく言っておいて。あとそれと隣の彼女ともちょくちょくいらっしゃいね。亜由美ちゃんだっけ、真一と喧嘩でもしたらおいで、この子の弱点教えてあげるから。」

「はい、また来ますね。」

 

 佳織さんはそういって笑顔で見送ってくれた。カウンターに座っていた男の人が彼を呼び止めたが、彼を見ると何でもないと言い、「またな」と言って手を振っていた。

 

 

 彼が私を連れてきたのは見晴らしのいい高台にある公園だった。そこからは私たちが生活している街が一望できた。

 

「綺麗だね。ここからの景色。」

「ああ、いいだろう。小さいときの遊び場だったんだ。」

 

彼はそう言って公園内を見回し、私の方を向く。

 

「亜由美、あのさ。これ。」

 

そう言って彼は小さな箱をポケットから出して私の前に出す。

 

「何、コレ。」

「えっとあのさ、取合えず開けてくれないかな。」

 

彼は言いよどみながら恥ずかしそうに言う。

私は箱を丁寧に開ける。そこには光る輪が二つ閉じられたネックレスがあった。

 

「えっとこれって。」

「ホワイトデーのプレゼント。」

「えっ、でも昨日貰ったよ。」

「アレもだけど、本命はこっちなんだ。」

 

彼は恥ずかしそうにそう言った。

 

「朝、そのネックレスみたときどうしようかと思った。喜んでくれるかなって。でも話しを聞いてよかった。聞いてなかったら渡せなかった。」

 

「あのさ、正式にはまだまだ先になるけど。ずっとお前と一緒にいたいから。」

 

彼はとっても真剣な表情で私を見つめる。えっとそれってさ……。

 

「えっと。」

 

私は言葉が見つからずなんと言っていいのかわからなくなって、マゴマゴしていると彼が続ける。

 

「仮婚約。気が早いって思うかもしれないけど。俺は本気だから。」

 

 そんな事を言われても、すぐには返事は出来ない。彼とならと思いを描く事もあるけど、まだ本当にまだまだ先の先の気がしていた。でもいいのかな、彼とならお母さんやお父さん達のようになれる気はしている。あとお昼にあった素敵な夫婦みたいに。でも本当に私で良いのかな。

 

「私なんかで本当に良いの。」

 

 バカな事を聞いているのはわかってる。良いから私にコレをくれようとしているわけなんだけど。ただただ気持ちが落ち着かない。彼は頷いていた。

 

「ほら、手を貸して。」

 

 彼は私の左手をとり、私が右手でもっている箱の中からそれをとりだし。一つを丁寧にとり、私の指につけてくれた。付けられたそれはピッタリと収まった。そして残りを自分の指におさめる。コレが永遠を誓う物に変わるのはいつになるんだろうか。

 

「真一、これ、その時まで絶対に外さないから。」

 

 そう言うと彼に強く強く抱きしめられた。少しだけ寒かった体が徐々に暖かくなるのを感じた。二人だけの大切な約束。

 この約束が正式な物になるのにこのさきどれ位の年月がかかるのかはわからない。でも彼とずっと一緒にいるコレだけはこの先もずっと変わらない。

 

 ふっと思い時計に目をやる。いつもならとっくに寝ている時間だった。どうりで、目が重たいはずだ、色々あったし疲れてるんだろうな。そう思い日記帳を閉じる。気が向いたときに気が向いただけ付けている日記帳。全部埋まるまでには後何年かかる事やら。

 さて、とりあえず教えてあげる事が増えたな。いい事ばかりなので喜んでいてくれるかな。今夜はぐっすりと寝れそうだ。もしかしたら夢で会えたりしないかな。そんな事を思いながら私はベットに潜り込む。

fin


 
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