No.633331

外史を駆ける鬼・IS編 第011話

ISも二期が始まったので、投稿してみました。

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2013-11-02 00:36:24 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:1174   閲覧ユーザー数:1118

外史を駆ける鬼・IS編 第011話「若さゆえの迷い」

~一夏side~

俺はいつも思っている。

あの時、自分がもっとしっかりしていれば、もっと力があればと。

初めて自分がそう思ったのは、両親が俺たちを捨てた時だ。

千冬姉は「もう忘れろ、お前の家族は私だけだ」と常日頃から言う。

確かに親代わりとして俺を育ててくれた千冬姉には確かに感謝しているし、母さんたちを恨んでいないかと言えば嘘になる。

しかし心の何処かで「自分がもっとしっかりしていれば」と思ってしまう。

そうすればもしかしたら母さんたちも、俺たちを捨てなかったのかもと。

中学にあがり、千冬姉が束さんの付き合いでISに関わるようになり、俺にはISに関して関わりを持たせようとしなかったが、ISの世界大会モンドグロッソで優勝するなどしていたので、嫌でもISの情報は俺の耳にも入ってきた。

そんな千冬姉を昔から尊敬していたし、その為のサポートも惜しまなかった(と言っても、家事が壊滅的だったから、俺がやらざるをえなかったんだけどね)。

そんな俺がまたも無力に思えたときは、IS世界大会第2回モンドグロッソの決勝前でさらわれたことだ。

あの時、助けに来てくれた千冬姉は気にするなと言ってたが、そういうわけにもいかなかった。

男が女に助けられたから?そんなんじゃない。

また"俺のせいで"誰かに迷惑がかかった自分が許せなかった。

俺がもっとしっかりしていれば、千冬姉はIS最強の称号を維持出来たのだ。

千冬姉にこれ以上迷惑をかけたくなく、学費が安く就職率が高い藍越学園を受けようとした。

結果、試験会場を間違えIS学園に成り行き入ってしまったが、それも無駄ではなかった。

再び箒や鈴に会い……セシリア、シャル、ラウラ、千雨さん、他にもクラスの皆のような仲間にも恵まれた。

特に大きいのは、俺の目指す目標となる人物にめぐり会えた事だ。

影村・T・重昌(逆だったか?)。

名前を聞いた時はなんて厨二的な匂いがするのだろうと思った。

本人によると、『タナトス』はキリストの洗礼を受けた時に貰い受けた名前だという。

タナトスは確か"死"を象徴する神、つまり死神。

初めてあの人を見たときはとてもそうは思えなかった。

あの人は賢く、強く、勇ましく、そして普段は温和そうに見えるが、いざ俺たちが間違った行動を取るようならば、男だとか女だとかも関係なく真剣に怒ってくれる。

その後姿はとても大きく、そう…まるで忘れかけていた父親の背中を見ている様な錯覚を起こしそうになる。

あの人を目標にしているが、俺の力では恐らく追いつける自信はない。

ならば、自身の限界以上の力を絞り、あの人に限りなく近づく様にする事は出来る。

たとえ一センチでも、一ミリでもいい。

あの人に近づけるならば。

 

だが、俺にはあの人の心が理解できなくなった。

鈴とセシリアが重昌さんと()りあってた時の事だ。

あの人は二人を追い詰め、もう戦闘不能寸前の二人にまだ「戦え」と催促しくる。

俺はあの人に敵わないまでも、止めることは出来ると思い止めに入ろうとした。

しかし、対峙した時、あの人の目を見てなんとも言えない感覚が俺を包んだ。

高揚?闘志?恐れている自身に対する激励?戦いに赴く時に確かに感じる"モノ"がそこにはなかった。

あったのは絶対的な『恐怖、絶望、何も出来ないことによる嘆き』。

演習で戦う時とはわけが違った。

あの人の目を見た瞬間、判ったのは「行けば()られる」だけ。

俺には初めてアノ人が死神に思えてしまった。

千冬姉が止めに入っていなければ、俺は鈴たちを見殺しにしていた。

勿論、重昌さんに限ってそんな事があるわけないことは百も承知だ。

だけど、"アレ"が自身の目標なのかと思えば、何故だが今度は俺自身が信じられなくなってきた。

俺は一体なんなのか?何処に向かおうとしているのか?

 

~一夏side~ 了

 

重昌VSセシリア+鈴の戦闘(けんか)の翌日。

今日は一夏の移室日と決まっていた。

場所は勿論、ただ今部屋を一人で占領している重昌の部屋だ。

元々そんな話はあったのだが、屋主は夏休みが始まると同時に一時帰省していたので、移動するにも出来なくて今にいたるわけだ。

女性と違い、寮暮らしの男の荷物などたかが知れているので、移動にはそんなに時間はかからなかった。

その当の本人である一夏は、ただいま重昌の部屋の前まで来ていた。

昨日の件もあり、ノックするのも覚悟がいるのだ。

 

重昌「おや、一夏くん。何をしているんだい?」

 

ふいに後ろからかかってきた声は、目の前の部屋の屋主、私服(着物)姿の重昌の声。

慌てて振り返り、それと同時に転倒してしまうが、そこは落ち着き用件を話す。

 

重昌「……そうか。あれは今日だったのか。すまないが、ちょっと部屋が散らかっているので、片付けるのを手伝ってくれないか?」

 

一夏「いいですけど……何をそんなに散らかしているのですか?」

 

重昌「ちょっと本を読み漁っていてね。まぁ入りたまえ」

 

一夏が部屋に入った時に見た光景は沢山の本、本、本。

主に哲学書、小説、戦術論が大半を占めており、部屋の隅にはなにやら怪しい茶色の入れ物が置いてある。

 

重昌「それじゃ、ベッドの下の収納スペースにしまうから、一夏くん、本の種類わけを手伝って」

 

こうして本の種類わけを始めて30分がたち、大半の本を収め終え。

二割程は収まり切れなかったのでタンスの一番下の段の隅にでも入れておくことにした。

 

一夏「・・・・・・重昌さん、あn」

 

重昌「そういえば、一夏くん昼はまだだな?手伝ってくれたお礼に何か作ってやろう」

 

一夏「い、いや、その――」

 

重昌「遠慮するな。さて、食堂に行こう」

 

一夏「あ、あれ?夏休みの間は、寮の食堂は空いていないんじゃ?」

 

そうすると重昌は懐から鍵の束を取り出す。

 

重昌「夏休み明けの新作メニューを考える条件に借りていてね。それじゃあ行こう」

 

結局の所、一夏より何の要望も無かったので、重昌が適当に作ってやることにした。

 

重昌「寮生活を始めてから、野菜不足だろう?だから精進料理にしてみた」

 

一夏「しかし重昌さん。このハンバーグや野菜炒めに混ざっている肉は?」

 

重昌「いいから食べてみなさい」

 

一夏「・・・・・・!!これは・・・・・・豆腐ですか?それにこの炒め物の肉は?」

 

重昌「それは大豆で作った物だ。その昔、とある国で病原菌が流行って肉が手に入らない時期があった。世の料理人は苦労した。肉は人々の楽しみの一つであり、その代用品を必死に考え出し出来たのがこれだ」

 

一夏「しかし何故精進料理ですか?」

 

重昌「何を迷っているか知らないが、本当に精神を落ち着けるなら、これが一番だ」

 

一夏「【この人に隠し事は無理か――】重昌さん。実はですn」

 

重昌「待て。まずは飯を食べろ。話はそれからだ」

 

一夏は重昌の言う通り、まずは食事を終わらせることにした。

その後2人は茶道室に向った。

 

重昌は規則正しい音で、シャカシャカと茶を点てている。

対し一夏は普段と違う雰囲気の場所なので落ち着かずにキョロキョロしているが、点て終えた茶を自分の前に出されると、どうすればいいのかオズオズと体を動かす。

 

一夏「・・・・・・重昌さん。俺、こういう作法は疎くて」

 

重昌「茶の作法の本当の根源は、見た目ではない。心で感じるものだ。心の赴くままに飲めばいい」

 

そう言われ一夏は、テレビでやっているような感じの手際で、ぎこちなく茶を飲み干した。

 

重昌「【ふむ。愛紗ちゃんの時といい、初心者のこのぎこちない無さはいつ見ても面白いね】それで、何で悩んでいるのだ?」

 

その質問に一夏は答えれずにいる。

一夏は思っていた。

今飲んでいる茶は飲みやすく、甘くほろ苦い。

作法の時に出される茶はただ苦いイメージしかなかったのだが、この茶はそれとはまた離れており、この様な茶を出せる者が、はたしてセシリアと鈴を再起不能寸前モドキまで追い詰めた者かとも思った。

重昌は黙って待った。

その時間は何秒間かもれないし、何十分かもしれないが、彼は黙って待った。

 

一夏「・・・・・・俺、重昌さんが判らなくなってきましたよ」

 

その一言で彼は一つため息を吐き、自分の茶をもう一つ点てて答える。

 

重昌「その昔、戦いも何も知らないただの学生がいた。家族はいなく施設で育った少年だが、昔からいる一人の親友と共に、ギター片手に路上ライブをし、時間があればバイトと遊び、気が向いた時には勉学に励み馬鹿正直に楽しく生きていた。だが何の因果か知らないが、成り行きで戦いを強いられた。しかし、少年は辛く苦しいと思ったが、そこで出来た仲間や義家族(かぞく)もいたので、不思議と悪くないと思い始めていた」

 

一夏「………」

 

彼は点てた茶を一口飲むと、また話を続ける。

 

重昌「少年はやがて成長し青年へと変わった。青年は思った。「涙はどうやって流すのだったっけ?」。戦いの中で生きてる青年は時に敵となった元仲間と()りあった。そして最終的に、義父親(ちちおや)と呼べる人物を殺し、獣の如く叫び、血の涙を流してから、青年の涙は枯れた。青年は自分の名前を捨て、自ら犯した罪。”『重』ねてきた『(つみ)』”を忘れないために、『重昌』と名乗った」

 

一夏「………」

 

重昌「私は影を重ね過ぎて、いつしか本当に自分の名前を忘れてしまった。……昨日の件は君も聞いているとは思う。昨日は運よく身体的被害者は出ずに済んだが、それでも何かが一つずれていれば、それこそ彼女達は”人殺し”のレッテルを貼られる。……未来ある若者には出来ればそんな道を歩ませたくない。そして”涙”を失って欲しくない……」

 

一夏は少し触れた様な気がした。

重昌の嘆きが、悲しみが、苦悩が。

目の前の彼はこんな話をしていても物動じず至って冷静だ。

彼は「涙は枯れた」と言うが、そうではない。

きっと心の中ではいつも泣いているとも、一夏は考えた。

少し間を置き一夏も話し出す。

 

一夏「……俺にはとても真似できません。重昌さん、普通なら廃人になってもおかしくないです。何があなたをそこまで支えているのですか?」

 

重昌「言うなれば、”信念”だな」

 

一夏「信念?」

 

重昌「昔の天才軍師と呼ばれた者や、優れた発明家や指導者達は何故成功したと思う?それは、どんな状況でも諦めなかったからだ。中国の諸葛孔明、アメリカのエジソン、日本の織田信長。何故彼らは成功を収めたと思う?……それは絶対に崩されない信念をもっていたからだ。どんな絶望的な状況、人から揶揄されようとも、『自分が正しい、必ず成功する』と思い続けた結果、数々の成功を収めてきたのだ。前任者を思い出し、戦場では軍師・参謀としてのぞんだ私は、絶対的絶望な状況でも諦めず戦況を覆させ、今日まで生き延びた。一夏くん、私の予想なら、君は確固たる信念を持てば、いずれ君の姉をも超える逸材だと睨んでいるのだが……」

 

一夏「俺が…ですか…?」

 

重昌「そうだ……私が話すべきことはここまでだ。後をどうするかは君次第だが、助けが欲しければいつでも相談に来るがいいさ」

 


 
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