No.632083

短編の習作二点

まあ習作というか、艦これの日向さんのキャラクターを掴む為に、ざっと書き上げた作品を二つ、まとめて公開してみるだけなのです。
確かにここ最近さっぱり話を書いてないので、それもありますが。
細かい設定に関しては煮詰めてませんし、大雑把に特徴を捉えただけなので、何とも言い難いな、とは。
なお、二つの作品に関しては特に繋がりはないです。

2013-10-28 19:54:15 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1191   閲覧ユーザー数:1184

 提督の執務室へと戻ってきた日向は、右手に提げていたビニール袋を机に置き、服の裾を直し、大きく一つ、伸びをした。提督はまだ戻ってきてはいないらしい。またどこへ出かけたのやら、と、日向は一人、ふっと笑みをこぼした。

 机に置いたビニール袋から、紙に包まれた肉まんを取り出す。包み紙を、半分だけとる。肉まんには、間宮印の焼き印が押されていた。

 彼女の為に、提督が用意してくれた椅子に腰掛け、肉まんに一口、かぶりついた。肉まんから、白い湯気があふれ出てくる。彼女は、ゆっくりと肉まんを食べていった。

 夕日が、執務室の窓から突き刺さる。夕焼けに染まった港。そこで無邪気にはしゃぎ回る駆逐艦達と、それを追いかけまわす軽巡洋艦達。提督達の姿も、ちらほらと見えた。半分ほどの大きさになった肉まんを片手に持ちながら、立ち上がった日向はその光景を見やる。彼女は、真面目ではあるが頑固ではない。ただ、ふっ、と顔に笑みを浮かべただけだ。

 夕焼けに染まった日向。既にその手には肉まんはない。いや、気がつけば、ゴミ箱には既に、丁寧に畳まれた肉まんの包み紙が、三つほど捨ててある。もちろん、すべて彼女が食べたものだ。肉まんを片手に彼女は、夕焼けの鎮守府を、飽きることもなく眺めていたのだった。しかし、彼女の分の肉まんが無くなって、そろそろ、見ているのも飽きたのかもしれない。ふっと彼女が視線を動かすと、提督の本棚が、いくらか乱れているのが目に入った。手慣れた手つきで、右手では本を取りつつ、左手では本を押して詰めたり、右手に取った本を、空いた隙間に詰めていく。

 ほんの十分もしないうちに、確かに、元々本の数が少ないのもあるが、本棚は、綺麗に整頓されていた。ふう、と日向は一息ついて、自分の椅子に腰掛けた。提督はまだ帰らない。どこをほっつき歩いているのか、と、彼女は少し、やきもきする。

 夕日が、水平線にくっついた頃。椅子に座った日向は、目を閉じて、うつらうつらとしていた。そんな時、ようやく執務室の扉が開いた。

 疲れた顔をして、小脇に書類を抱えた提督だ。どうやら、相当長時間会議をしていたらしい。

 うつらうつらとしていた日向は、それで目を覚ます。片手を上げ、提督に応える。

「ようやく帰ってきたのか。肉まん、冷めてしまったぞ」

 不満そうな口調とは裏腹に、表情は、うっすらとだが、笑みが浮かんでいた。

「まずはここを計算してみろ。そうそう、そうだ。それからここを計算すればいい。そう、その通り。良くできたな」

 日向はほめながら、駆逐艦の頭を撫でていた。

 その日は、駆逐艦達の――といっても、あまり勉強熱心な奴がいなかったり、あるいはそれなりに頭のいい奴が多かったりするため、来ている人数は両手で数えられる程度なのだが――勉強会の日だった。日向がここにいるのは、その講師の当番の日だったからだ。暇な戦艦や重巡洋艦などの年長組が、持ち回りで行っている。

 日向が時計をみると、そろそろ勉強会も終わりの時間だった。日向は駆逐艦達の前に立つ。

「よし、今日はこの辺りまでだな。わからない事はみんなに聞いて教えてもらうと良い。それでもわからなければ私のところに来い。以上、各自解散」

 駆逐艦達は、キリの良いところまで問題を片づけ、勉強道具を仕舞い、各々帰って行く。日向が、少し野暮用を片づけて戻ってきた頃には、誰もいなくなっていた。

 適当に勉強をしやすい配置に変えた机と椅子を、一人黙々と元の位置に戻していく。その見かけの割にはずいぶんと力持ちで――といっても、戦艦なのだから当然なのだが――大して苦にもせず、机や椅子を運んでいく。ものの十分ほどで、元通りの配置へと戻っていた。その後、さっと箒で掃き、すべてを片づけた後、彼女は自分の部屋へと歩き始めた。

 が、その歩みは途中で止まる。というのも、日向は、猛烈な空腹感を覚えたからであった。よく考えれば、今は昼時である。腹が減るのも無理はない。自分の部屋に行きかけた日向は、踵を返して、食堂へと向かい始めた。

 まだピークの時間には早いらしく、食堂はそれほど混んでいなかった。彼女はいつも通り、カレーの大盛りを注文した。ものの数分で出てきたカレーと、組んできた水をトレーに乗せ、適当に手近な空いている席へと座る。

 ややとろみが強めで、ぴりっと辛いカレー。福神漬けを適当に乗せ、スプーンで一口、口に運ぶ。絶妙な辛みと旨みが、口いっぱいに広がった。わずかに、こくり、と頷く。

 一口一口、そこそこに味わいながら、しかし食べる速度は、それほど遅くもない。五分ほどで、彼女は綺麗にカレーを平らげてしまった。水を飲みつつ、一息つく。遠目に、赤城と加賀が、空になった皿を山積みにしているのが見える。どうにも大食い対決に近い事をしているらしく、両者とも、半ば意地で食べているような感じではあった。周りで提督達がはやし立てる一方で、食堂のおばちゃんは、どこか頭が痛そうに、その光景を見ている。どこかおかしくて、日向はふふ、と笑っていた。

 気がつけば、水の入ったコップは空になっている。そろそろ、食堂もにぎやかになり始める頃だろう。布巾を取ってきて、自分が食べた周りをさっと拭き、空になったコップと皿をトレーに乗せ、返却口へと返す。そして、彼女は食堂を後にした。

 ようやく自室に戻った彼女は、のんびりと、自分のベッドで伸びる。まだ昼寝をするには早い。十分ほど、ゆっくりと横になった後、彼女は起き上がり、机へと座る。机には、いくつかの冊子が積まれていた。どうやら、戦闘に関する報告書の束らしい。適当に一冊取り、ぱらぱら、とページをめくり始める。時折内容を読みながら、右の人差し指を動かしている。何の意図もなく動かしているのではなく、どうやらその報告書をみつつ、敵か、味方かはわからないが、とにかく、何かの動きを再現しているらしいのは確かだった。

 一冊を読み終えたところで、彼女は時計を見る。そろそろ、模擬戦の時間だな、と気づいた。今日は、彼女が旗艦を務める。少し早めに行って、準備をした方がいいだろう。そう思って、彼女は机の上を片づけ、自らの装備を取りに、足早にドックへと向かうのだった。


 
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