No.631757

ある日の武術訓練

理緒さん

ここのつ者小説。
前から書きたかった、手合せの話です。いずれほかの方たちの手合せ風景も書いてみたいものです。
登場するここのつ者:玉兎苺、魚住涼、遠山黒犬、黄詠鶯花、砥草鶸

2013-10-27 14:33:25 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:414   閲覧ユーザー数:377

晴天という言葉がよく似合う、秋晴れの空。

そんないい天気の中で、クルリと回された杖ほどの長さの棒が、死角から脇腹を狙って振り切られる。

「やぁ!」

「おっと!」

鶯花はそれをわずかに下がって避け、ガラ空きとなった涼の後ろに回り込んだ。そのまま木製の短刀を突き付けようとするが、後ろ手に繰り出された突きに阻まれてしまう。

 

その様子を、黒犬と砥草が茶屋の縁側に座って眺めていた。もちろん片手には団子とお茶が。完全に観戦の体勢に入っている。

「あれ?ねぇねぇくーちゃん達、お―ちゃんとすーちゃん何やってるの?」

「武術訓練だってよ。涼が鶯花に頼んだみてー」

「苺さんも見て行きますか?結構見ごたえありますよ?」

 

そう誘われて苺も、注文したお団子を持ったまま黒犬の隣に座った。

鶯花は隙の少ない円運動から繰り出される打撃をそつなくかわし、涼は木刀での斬撃を棒で滑らせるようにして受け流す。カンッコンッと木が打ち合わされる音が響くのを聞きながら、黒犬と砥草はお互いの攻め手や防御を見ては感嘆の声を漏らしていたが、苺には何が何だかよく分からない。

「すーちゃん。おーちゃん頑張って―!」

とりあえず応援してみた。二人とも戦いながら「はーい」と返事を返すあたり律儀である。

「どっちが今勝ってるの?」

自分が見ても良く分からないから、自分よりも分かりそうな人に聞いてみる。

「ん~……鶯花だな。涼はちょっと息上がってきてるから、そろそろ防御厳しいと思う」

「接近戦時の鶯花さんと涼さんの戦い方って似ているんですよね。小回りを利かせての回避や受け流し。隙を見つけたら攻撃。多対一にも向いた戦い方ですね。」

 

でも似ているからこそ、その分元の体力とかが凄く影響してきます。ほら、鶯花さんは全然息上がっていませんし、短刀も、当たっても大事にならないように加減してます。

 

好戦的な面が出ているのか、砥草は興味深そうに二人の戦いを観察している。解説も分かりやすい。

 

苺も少しだけ納得し、また二人に目を移す。そうすると確かに、鶯花のほうが余裕があるように見える。体力の消耗や焦りからか、涼の突きの速度が落ち、狙いも甘くなった。それを逃さず鶯花が棒をそ掴みとり、涼ごと引き寄せた。

「わ、」

引かれて平衡を崩した涼を片手で抱きとめ、鶯花は朗らかに笑ってみせる。

「はい、涼さん、一本とりました」

いくら木製とはいえ、倒れこむ相手に向けるのは危険であったため、受け止めるに留まっていた。立たされた涼は参りましたと、少しだけ悔しそうな口調で言う。

「涼お疲れー」

黒犬が手を振り、鶯花と涼に水の入った竹筒を投げ渡す。放物線を描くそれを危なげなく受け取り、二人は竹の香りの移った水で喉を潤した。

「勝てないだろうなとは思っていましたが、まさか一回も当てられないとは思いませんでした」

「今はただの棒でしたけど、涼さんの大幣が当たったら骨折れちゃいますからね…死ぬ気で避けましたよ」

木製に見えた大幣の柄に鉄が仕込まれていると聞いたからには、模擬戦とはいえ本気で避けるしかないだろう。黒犬も宗天皇を名乗るいつわりびとを、怪我をした身で放った一撃で倒したという話を思い出した。威力は推して知るべし。

「おーちゃん強いねー!苺もやってみたい!」

 縁側から降りて、鶯花の袖を引く。いつも戦闘には参加していなかったからこそ、逆に興味が引くかれたのかもしれない。

 

「じゃぁ苺、俺とやってみるか?俺も体動かしたいし」

 

肩を回して身体を解す黒犬に苺は喜ぶが、周りの三人は心配顔である。武力が違いすぎる上に黒犬が手加減できる性格かどうか判断しかねるという点で。

「……手加減してあげて下さいね?黒犬さん」

「というか出来ますか?」

「ハンデ付けましょう、ハンデ。重りとか付けて」

「おまえらなぁ…」

 

そうして苺は先ほど鶯花の使っていた木製短刀を使い、黒犬はハンデとしてその場から動かないという制限がつけられた。

 

「くーちゃんいくよ!!」

 

助走もつけて思いっきり振りかぶれるのは、黒犬なら防げるという無意識の信頼感からだろう。黒犬も苺の腕を受けて短刀を防ぎ、その場にコロンと苺を転がす

 

何が起こったかよくわからなかったのか、苺は目を丸くしてきょとんとしていた。

 

「はい、一本な。」

 

「くーちゃんずるい!もう一回!」

 

何がずるいのかはわからないが、黒犬も受けて立つ。

 

駆けよっては……転がされ、もう一回!と言っては……転がされ……

 

コロン……コテン……コロン……

 

「おーい苺、お前転がされるの楽しんでないか?」

 

「えへへ、ばれちゃった?」

 

何回か転がされるうちに楽しくなってきたらしい。悪戯っぽく笑うと、苺は身軽に立ち上がり、鶯花に短刀を返した。

 

「おーちゃんありがとう!」

 

「どういたしまして」

 

それを見て、黒犬は鶯花を手招く。

 

「鶯花、体やすまったなら一戦やろうぜ?俺今苺転がしただけだし」

 

「いいですよ、黒犬さん短刀の方でいいですよね?さすがに銃は…」

 

手の中で短刀を回して構える様子は様になっており、扱いに慣れているようだった。この二人同士なら本来の得物でやりあってももんだいないだろう。

 

「じゃぁ、涼さん、後から俺ともやってくれませんか?受け流しや回避は勉強になりそうです」

 

「私でよければ。でも相手になるか……あ、そうだ、苺ちゃんも一緒に砥草さんと戦ってみる?」

 

「やってみたい!」

 

「二対一ですか……これは本気を出した方がいいですかね?」

 

 

女性も混ざった武術訓練の様子は外にも響き、道行く人の足を止めさせた。

なんだなんだと店に入った人に団子を注文させる店主の商売根性はなかなかのもので……

 

最終的に、訓練に一区切りつけた五人へ「おかげで儲かったよ!」とお礼の団子が出る始末。

 

また訓練しましょうか。といったのは誰だったか。

 

そんな、天気のいいある日の出来事だった。

 


 
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