No.62683

帝記・北郷:八~再興~

ちょっと間が空きましたが帝記・北郷の続編。
遅れた分を埋めるべく、会話多めでテンポよくしてみたいと思います。

オリキャラ注意

2009-03-11 02:54:49 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:7776   閲覧ユーザー数:6600

『帝記・北郷:八~再興~』

 

 

青州黄巾党を傘下に入れて二ヶ月ほど。

この間、一刀は龍志が制圧した諸州を急ぎ足ながら見て回り、領地の安定に努めた。

加えて、先の戦いの功績と本人の希望から孫策も維新軍の重鎮として一軍を率いることになる。

来るべき洛陽攻略に向けてまさに順風満帆の維新軍。

しかし、何かが上手く行っている時ほど予想外の事態は襲ってくるもの。

蜀に放っていた密偵から維新軍にもたらされた知らせは、彼等を激震させた。

曰く。

 

『蜀王・劉玄徳。漢中王を僭称』

 

 

 

維新軍による青州黄巾党討伐より少し前。

兗州のとある田舎。

「失礼します」

大きくもなければ小さくも無い。そんな家の一室に、蒼亀は足を踏み入れた。

「いらっしゃい。来るころだと思っていましたよ」

夜闇を照らす蝋燭の灯りに浮かび上がる、貴婦人という言葉の相応しい女性の微笑み。

その目は軽く閉じられ、恐らく光を映さぬことを見る人に教える。

だが美しさたるや、かつて殷の紂王を狂わせた妲己。あるいは数百年後に唐の玄宗帝を惑わした楊貴妃ですら及ばないほど。

姓を司馬。名を徽。字を徳操。真名を夢奇。号を水鏡。

諸葛亮や鳳統、徐庶、そして蒼亀と龍志の師に当たる人物である。

「先程、朱里達が来ていたようでしたが…」

「ええ。彼女達もあなたと同じように相談したいことがありましてね」

「ふふ、私と同じように…ですか。相変わらず何でも知っているのですねあなたは」

「さて、それはどうでしょうね」

クスクスと子供のように笑う水鏡。

その姿に、蒼亀も相好を緩める。

「その様子では、私の言いたいことも察しが付いているのでは?」

「まあ、大体は。龍志風に言うならば、察するにあの人のことでしょう?」

水鏡の言葉に、蒼亀はゆっくりと頷く。

水鏡は相変わらず微笑みを浮かべたまま蒼亀を閉ざされた瞳で見詰める。

「はい…これから我々がさらなる一歩を踏み出す上で、あの方の存在は不可欠…不可欠なのですが……」

「宿業から解き放たれ、一人の女としての幸せを掴まんとしている彼女にその道を進ませるのは忍びない。ですか?」

「……はい」

はあ。と蒼亀は溜息を吐く。

それは彼にしては珍しく、疲れを滲ませたもの。

「…先程、朱里と雛理が私に話したのも同じような事でした」

瞬間。蒼亀は表情を軍師の顔に戻す。

「では。やはり蜀は劉備を漢中王に?」

「ええ。そのようです」

ぞくり。と蒼亀の背を冷たいものが走った。

漢中王。そして劉備の大徳。

この二つが合わさった時、大陸の人々はある一つの像を結ぶであろう。

漢の高祖・劉邦の姿を。

少帝を最後に後漢の宗氏が絶えて数年…たった数年では、人々の心に潜む『漢』への思いは消えることがない。やがてその漢への思いは、一人の人間の元に集うであろう。

漢の再興を象徴する存在。新たなる漢中王の下に。

「三国の変革についていけなかった者達は少なくない。その象徴が貴方達維新軍。もしも劉玄徳公が漢中王になったならば、維新軍は崩壊しかねませんね」

まるで世間話をするように紡がれる水鏡の言葉に、蒼亀は唇を噛み。

「それを防ぐためにも…やはり……」

「……決心はつきましたか?」

「………」

無言で蒼亀は頷く。

「そうですか…おそらくその道は彼女にとっても貴方達にとっても安らかな道にはならないのでしょうね……ですがね、強いて言うならば私が一つだけ嬉しいのは、あなたがこう言う時に悩めるようになったことです」

「…自分も驚いています。あなたに教えを初めて受けた頃は、こんなに自分が甘くなるなんて思っていませんでした」

「龍志との出会いが貴方を変えた。それもまた一つの巡りあわせ。そして貴方の変化は、とても好ましいものですよ」

「……不思議と自分もそう思います」

蒼亀の苦笑いとも安堵ともとれない微妙な表情が灯火に照らされる。

「龍志は不思議な人です。彼は人の秘められた可能性を生かし育てる…ある意味それは北郷一刀君とも通じることなのかもしれませんね」

「そうですね…まったく。自分も王の器があるってのにそう言う事に対してとことん無欲なんですよね義兄さんは」

「それもまた、好好(ハオハオ。よしよしの意味)ですよ」

 

 

鄴城郊外を行く一団。

決して急ぐことなく、されど遅くも無い行軍速度で鄴を目指す。

旗印は深緑の十文字と碧緑の龍。

「ふむ。北郷様。青州黄巾党の今後の配置はこのようなものでどうでしょうか」

「ちょっと見せて……う~ん。もう少し徐州の人員を増やしたらどうかな?もしも呉と戦端を開くことになったらあの辺りからの補給はかなり重要になると思うんだけど」

馬上で筆を片手に一刀の意見を聞く龍志と、彼の書いた書簡をじっくりと吟味する一刀。

ここのところ毎日見られる光景だ。

劉備の漢中王僭称を境に動揺する維新軍だったが、この二人はまるでそのような事は関係ないと言わんばかりに他の諸事を片づけている。

龍志はその対策をすでに知っているからであり、一刀はなんとなく龍志の雰囲気からそれを察しているから。

「話し込んでいるところ悪いけど、そろそろ鄴に着くわよ」

二人の後ろから華琳が追いついてくる。

「おお。話し込んでると早いもんだなぁ」

暢気な声を上げる一刀に、華琳は深々と溜息をついた。

 

「で、どうするつもりなの?」

鄴の門を潜りながら、華琳が龍志にそう尋ねる。

「どうする…とは?」

「劉備の漢中王僭称のことよ…正直、桃香がああいう手段に出るとは意外だったわ」

「まあ、蜀には諸葛亮や鳳統といった優秀な軍師がいるからな」

「……あなたも相当暢気ね」

「何を言う。これでも考えることは考えているさ。ただ、自分のできる範囲でする事が無くなったら、もっとふさわしい人物にまかせているんだよ」

「ふうん…で、その結果があの高台なわけね」

華琳の視線の先にある建物を見て、入城してきた兵士達が驚きの声を上げる。

彼等は知らないだろうが、華琳や一部の将兵は知っている。

あれが代々、漢の皇帝が即位する時に作られていた儀礼台だと言う事を。

 

「おかえりなさいませ」

一刀達が政庁に着くと、文武百官が揃って彼等を出迎えた。

その光景に、一刀はなんとも居心地悪そうな顔をしたが華琳に足をつねられ表情を改める。

「ただいま。留守中に変わったことはなかったかい?」

「そうですね…青州黄巾党を丸々支配下に置いてしまった方の話には驚きましたが」

「あはは……」

ポリポリと頬を掻く一刀に、ニヤリと笑う蒼亀。

それが一刀に、帰って来たのだと言う事を改めて感じさせる。

「ところで…あの建物はなんなんだい?」

儀礼台を指さす一刀に、蒼亀は表情を引き締めて。

「北郷様。先の劉備の漢中王僭称はご存知かと思います」

「ああ。聞いてはいるけど……」

「我々維新軍は、三国の在り方に疑問を抱いた者も少なからずおります。その者達の中には、漢帝国を懐古している者も少なくありません。ほおっておけば維新軍は分裂する可能性もあり、洛陽攻撃を控えた我々には非常にまずい事態です」

そこで。とここで蒼亀は一度息をつき。

「我が軍は、これより正当なる漢の御旗のもとに付きます。すなわち…漢帝国を再興させるのです」

蒼亀の言葉に驚いたのは一刀だけではない。孫策や祭、美琉といった遠征に同行していた諸将も目を見開いていたし、華琳も微かだが眉を寄せた。

「蒼如月殿。再興と言っているけどそれには帝となる人物、つまり漢の血を引く人物が必要よ。そこはどうするの?」

「曹孟徳殿のおっしゃるよう通りです。すでにその方は見つけています。そしてこの度、青州よりの書簡にて御同意も戴きましてございます」

「青州って……」

一刀が何か言いかけた時、彼の傍らを誰かが通り過ぎる。

その人物に、蒼亀とその後ろの文武百官は揃って恭しく頭を下げた。

その人物はその場でくるりと一刀に向き直ると、その穏やかな顔を引きしめて一刀を見据える。

「雛菊…?」

「北郷様…いえ、北郷殿。今まで黙っていてすみません。私の姓は劉、名は協。後漢最後の皇帝・少帝の異母姉、陳留王・劉協です」

「………ええ~~~~~~~~~!!?」

一刀の叫びが政府に木霊した。

 

 

「ど、どういうことなの?」

「それには私がお答えします」

そう言って進み出てきたのは青鸞である。

「かつて洛陽にて少帝陛下がお亡くなりになった後、その跡目争いが起きかけました。しかもそれは陳留王殿下を思ってのものでなく、殿下の権威を笠にせんとした者達の陰謀…その最中に身の危険を感じられた殿下は洛陽を脱出。濮陽にて私と出会い、偶然にもその出自を知ってしまった私がそれ以降お守りしていたのです」

驚愕の事実に言葉も出ない一刀。

無理もない。自分の従者だった少女が、実は漢帝国の次期皇帝とも目された存在だったと言うのだ。

「私も何度も言うべきか悩みました…でも、今の生活を壊したくなかった。血筋とか帝位とか、そう言うことを気にせずに人と接することができる…誰かと街でご飯を食べて、気ままに歩いて、買い物をして、お喋りして……そんな暮らしが大好きでしたから」

「なら、どうして…」

「……誰かに求められる、その果ての天命」

そう言って、俯いていた雛菊は一刀を見詰め直す。

その眼は、思わず一刀が息を呑むほど澄んでいた。

「あなたがわたしに教えてくれたことです…どうして自分は洛陽を逃れ青鸞さんに会ったのか。こうして維新軍の乱が起こり、北郷殿と出会ったのか。そして今、わたしの存在が求められている……大切な人たちの為に」

「雛菊……」

「わたし…皆さんが大好きです。一刀様も孟徳様も、瑚翔さんも青鸞さんも。そして知りたいんです。わたしがこの世に生を受けた理由を」

雛菊は微笑むと、一度目を閉じてから再び一刀を見詰めた。

「だからわたしは帝位につきます」

「………そっか」

一刀はそれだけ言って、雛菊に笑みを返す。

「なら、俺にそれを断ることはできないな」

その言葉に、蒼亀が一瞬だけ辛そうな顔をしたのを龍志は見ていた。

かつて自分が一刀に抱いたのと同じ罪悪感を彼もまた抱いているのだろう。

維新軍の軍師として、この事態を避けられなかった責任から。

「…それともう一つ」

だが蒼亀はすぐにいつもの表情に戻ると、一刀に向かい口を開いた。

「これも陳留王殿下や重臣達と語らって決めたのですが…一刀様にはこれを機に魏王の位についてもらいます」

「………ええ~~~~~~~~~~~!!?」

本日二度目の驚きの声。

「本来ならば漢帝国においては皇室に連なる者でなくては王位にはつけないのですが、天子それすなわち天の子。天の御遣いたる北郷様ならば王位につく資格も充分あります」

「そう言われればそうね」

「そうねじゃないだろ華琳!?魏の王は君じゃないか!!」

まったくもっていつも通りの華琳に思わず一刀は声を上げた。

「別に良いわよ。今は一刀の部下なんだから」

それに…と華琳は言葉を続け。

「私が兵力の確保や治安の慰撫にしか使う事を思いつかなかった黄巾党を、あなたは全て受け入れた。彼等の全てをね。それはある面においてあなたの器が私のそれを超えたということよ」

「で、でも……」

「良いんじゃないの~。前魏王直々の許可も下りているんだし、皆がそれで良いって言っているんだから」

横から面白そうに口元を歪めた孫策も口を挟む。

それでも一刀は踏ん切りがつかないようだった。

「でも…俺なんかが」

「一刀!!」

突然響いた龍志の大声に、その場にいた彼以外の全員が飛び上がる。

「己を卑下するな!それは君を君主として選んだ者全てへの侮辱だ!!君はかつて言った。『消え損ないの役割』を果たしたいと。それは今ではないのか!君を信じ従う者達の思いに答える。それが君主として君が負った役割ではないのか!」

「龍志さん…」

「それにだ…君は一人じゃない。曹操殿がいる。孫策殿がいる。蒼亀がいる…皆がいる。そして当然だが俺もいる。そして俺は思うんだ。君主の器っていうのは一つじゃない。曹操殿のようにその万能の才から来る器もあれば、孫策殿のように天性の将の威風から来る器もある。劉備のような大徳の器もある……だが君の器はそのいずれとも違う。君の器は中身があればある程大きくなる器だ…そしてそれは他の器に比べて最弱にも成れば最高の器にも成り得る」

「俺の…器」

ふと一刀は自分の胸に手を当てた。

掌から伝わる心臓の鼓動。

自分の生命の胎動。

それはもはや、自分一人のものではない。

それはとても重い筈なのに、不思議と潰れる気がしない。

理由は解らない。理屈じゃない。

でもそれが自分の器だとしたら……。

「…一刀」

「華琳…」

傍らで自分を見つめる最愛の人が、クスリと笑う。

「諦めなさいな。良くも悪くもすでに王なのよあなたは」

「………はあ」

張り詰めていた物を解いたかのように一刀は脱力した。

そして頭をガリガリと書いた後、伸びをするようにして居住まいを正し。

「解った。王位につくよ。でも一つだけ条件がある。俺にとって魏の王はあくまで華琳だ。だからせめて形だけでもいいから魏王って名前は変えてほしい」

「ならば…新しい魏と書いて『新魏』というのはどうでしょう」

雛菊の提案に、幾人かが考え込み。

「安直と言えば安直だけど…それくらいが丁度良いかもしれないわね」

「しかし、『新』の字は前漢の簒奪者・王莽の国を想起させるのでは?」

「それは身を伴えばいいだけの話だ……まあ、最終的な判断は王自らにお聞きしよう」

一同の視線が一刀に集まる。

一刀はしばらく思案気な顔をしていたが、やがていつもの笑みを浮かべて。

「うん。それでいいと思う」

「さようですか…では、少々早いですが」

コホンと龍志は咳払いをして。

「漢帝国万歳!!」

「「「「「万歳!!!!」」」」」

「新魏国万歳!!」

「「「「「万歳!!!!」」」」」

 

この数日後に行われた儀式を持って。

漢帝国は後漢朝第十四代皇帝・劉協の元に再興し。

天の御遣い・北郷一刀は新魏の王となった。

これが洛陽侵攻までの過程に起こったもう一つの出来事である。

 

 

「ふう…」

鄴城府の人気のない一角で、華琳は夜風に身を委ねていた。

府内では漢の再興と新魏誕生を祝う祝賀会が行われており、無礼講のドンチャン騒ぎが繰り広げられている。

華琳がこうして屋外に出ているのも、火照った顔を覚ますためであった。

「あら、華琳じゃない」

「雪蓮」

振り向くと、ほんのりと頬を赤くした孫策がこちらへと歩いて来ていた。

「あなたも酔い覚まし?」

「まあね。あなたも?」

「そんなとこかな」

華琳の隣に立つと、孫策は大きく息を吸う。

秋も近付き、空気は少しずつ冷え始めていた。

「しっかし面白い事になってきたわねぇ」

「一刀の事?」

「ええ。まさかこの世界に迷い込んだ一人の男が王になるなんて……誰が想像していたかしら」

「そうね…まさか私があいつの下に立つ日が来るとは思わなかったわ」

冗談めかして言う華琳に、意外にも孫策は真顔で彼女を見詰め。

「実はね。わたし、呉王を止めようかと思っているの」

「はあ?」

思いがけない告白に、激しく眉を寄せる華琳。

そんな華琳に、孫策はたははと笑いながら。

「蓮華に王位を譲って…あたしは一刀のとこで働こうかなって」

「……あきれた王ね」

「あら、理由は訊かないのかしら?」

「面白そうだから…が半分。後は、孫権の器を試したいって所かしら?」

「あはは…見破られてたか」

星空を見上げて孫策は長い髪を揺らす。

彼女が見る方角は、南南東。

彼女の国の空。

「三国が鼎立して、わたしの役目は終わったんだって思ったの。わたしの力は乱世に生かすもの、蓮華のそれは治世のもの…きっとわたしが使者として呉に行けば、呉は漢に服すると思う。そうなったら、その時こそ蓮華の才能が生きてくる」

より良い治世への思い。

だがそれは乱世を駆けた者達の一つの寂寞なのかもしれない。

それでも願わざるを得ないのは人の性か…天下の太平を。

「成程ね…それで、あなたはどうも思うのかしら?」

「……気づかれていたか」

バツの悪そうな声の後、木陰から現れたのは龍志であった。

「申し訳ない。立ち聞きするつもりは無かったのだが……」

「一刀に出立の挨拶に来たけれど、そんな雰囲気じゃないからどうしようかと思って庭をうろうろしていたら私達に出くわしたってところかしら?」

軍装に身を包んでいる龍志を見て華琳はそう見当をつけた。

当たっていたらしく、龍志は少し驚いた顔をしている。

「徐州や豫州での仕事が山のようにあるあなたがどうして鄴に戻ってきたのか不思議に思っていたけど、一刀の説得の保険だったのね」

「そこまでお見通しとは…恐れ入った」

どこまで本気か、丁寧に頭を下げる龍志。

「何だ、もう行くんだ。夜明けくらいまでゆっくりしていればいいのに。一刀も改めて色々と聞きたい事があるんじゃない?」

「いや、向こうに残してきた仕事が山積みでな。そう言ってられんよ。それに…北郷様には私なぞより優秀な王の師匠がいるからな」

その言葉に、華琳と孫策はちらりと互いを見る。

「王の道は険しい。時には北郷様の優しさが仇となる事もあるやもしれん…そう言う時に北郷様を導くのは、一国の王であった君達以上に適した者はいない」

そして龍志は今度は一片の冗談のかけらもなく二人に頭を下げ。

「どうか北郷様を頼む」

「………フッ、当たり前じゃないの」

しばしの沈黙の後、最初に口を開いたのは華琳だった。

「私の魏を継ぐ男よ…厳しく指導してやるわ。それから、龍瑚翔。あなたには私の真名を預けるわ。今後は華琳と呼びなさい」

「なんと!?」

突然の話に、龍志はつい彼らしくない声をあげてしまっていた。

「私の配下だったころからあなたになら別に預けてもいいと思っていたわ。ましてや今は同じ主君を、一刀を支える者同士…臭い言葉だけれど、一つの信頼の証よ」

「あ。だったらわたしも」

「何!?」

「何って何よ…華琳は良くてわたしは不満だっていうの?」

唇を尖らせる孫策に、龍志は慌てて。

「いや、そういう事では無いが……良いのか?」

「わたしのも信頼の証よ。一刀にも許すつもりだったし、丁度良いわ。わたしの真名は雪蓮。よろしくね」

「で、ではそうさせてもらおう。それでは二人はこれから身分や状況に関わらず俺の名を呼び捨てても構わん」

「身分に関わらず龍志と呼んでいいのね?」

「公式の場でも?」

「うむ、こちらも真名で呼び捨てさせてもらう。尤も……」

不意に龍志はくるりと二人に背を向けた。

「今度会ってからだがな…」

「あら、照れてるの?」

「違う!!」

誰がどう見ても照れている様子で、龍志はつかつかと歩いて行く。

「じゃあね龍志。武運を祈っといてあげるわ」

「一刀のことは任せて存分に働いてきなさい」

「……承知」

短く言い残して、龍志は夜の闇の中へ消えていった。

華琳と孫策は笑顔でその背中を見送る。

それが長い別れの始まりだという事も知らずに。

 

                     ~続く~

 

 

後書き

すみません。速度、内容共に失速気味なタタリ大佐です。

かなり盛り上げるべき回のはずなのに、なんか盛り上がりに欠けた気がします。やはり、分割しないで済むように書くと納得できないなぁ。

 

えーと。華琳と雪蓮と龍志が仲良くなったことに不満な方々はすみません。今後の展開上絶対に必要でしたので書かせていただきました。

龍志という存在は一刀の大きな支えなわけなのですが。これからは彼の役割を二人が分担して行っていくことになります。その内容についてはこれから書きますが。ある意味、一刀の成長と独り立ちを象徴していくと思ってください。

 

短いあとがきですが、今日はこのあたりで。

また次の作品でお会いしましょう。

次回は龍志中心です。

 

 

次回予告

 

新魏国の始動

管理者の謀略

敬愛する主の為

親愛なる友の為

剣を振るう一人の男は今、己の天命を知る

 

次回

帝記・北郷~天に昇る龍~

 

 

 

 

 

 


 
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