No.624528

意問山からの咆哮

年上の弟さん

火炎車と宮様の青春。

2013-10-02 17:22:02 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1498   閲覧ユーザー数:1458

 

当夜は満月。

 

観月の準備は整えた。

あとは縁側に腰掛けて、友だちの迎えを待つのみである。

「火炎車さん、まだかな」

妖ノ宮には、これから意問山で火炎車とお月見をする約束があった。

 

――数時間前。

厨房の一角を借りた妖ノ宮は、せっせと月見団子をこしらえていた。

たすきと前掛けを着つけ、団子づくりに精を出す覇乱王の遺児。

その光景を覗き見て、不憫に思ったのか、通りすがりの黒耀が製作を手伝ってくれた。

いつの間にか、見かねた通りすがりの凪までも、団子づくりを補佐してくれた。

 

特に凪には誤解を与えてしまったようだ。

「ミヤ。アンタ、ひょっとして、ひもじいのかい? きちんと三食食べてるんだろう? 半妖のアンタにとっちゃあ量が少ないとか?」

「ごはんは足りているわ。これは、仲良しの友だちと一緒に食べるの」

「そうかい。なら良いけど」

腹では妖ノ宮のことをどう思っているのか知らないが、基本的に赤月の隊員達は親切だ。

助けてくれたお礼として、二人に完成した団子をお裾分けしてあげた。

ついでに厨房から和酒を一本、失敬した。

 

――やがて、待ち焦がれた彼の気配がした。

妖ノ宮のはるか頭上で「凶悪な妖力の塊」が蠢く。

「待たせたのお、妖ノ宮よ」

用意した酒と団子を袂に収納し、妖ノ宮は赤月本部を出発した。

 

夜空へと軽やかに舞い上がり、浮遊する火炎車。

「振り落とされんよう、きしゃっと掴まれい!」

「うん、わかった!」

双瞳を黄金に煌めかせ、妖術で身を鎧い、彼女は灼熱の輪っかにぶら下がった。

 

まだ幼い妖ノ宮は、初めての夜間飛行ドライブに心を躍らせる。

「わあ……見て! 火炎車さん。お月さまがまん丸だよ」

さながら、鳥の飛ぶ高度。

百花王の真紅の打ち掛けが冷風に煽られ、動物の飛膜のように広がる。

「ワハハハ、ほうかほうか。飛ぶのは楽しかろう! こっからなら餌場がよおけ見える」

「絶景、絶景!」

二人は月光を浴びながら、八蔓の大地を俯瞰した。

涼やかな風に身を委ねるのは心地良いものだった。

 

火炎車の安全運転によって意問山の山頂に着陸する。

満ちた月が大きく近かった。

 

「口開けて。はい、おダンゴ」

ギザギザの牙に縁取られた空洞に、ポイ、ポイ! と白玉を投げ入れる妖ノ宮。

「旨い、ぶちうんみゃ!」

「おダンゴ、まだたくさんあるからね」

次に妖ノ宮は徳利の栓を抜き、酒を赤い般若の口に注ぎ込む。

「お酒もどうぞ」

ゴォォオオォ……ッ!

燃料を投下された火炎車は、身を覆う鬼火の火力を上げた。

「オオ、胸が熱くなるのう! ワレェもたんと飲みや」

「うぇ、まずっ」

彼女にはまだ酒のうま味を理解出来なかった……。

 

それから二人は「火炎車転がし」をして戯れた。

妖ノ宮が、渾身の力をもって大きな友だちを押す。

「イェー☆」

コロコロコロ……コロコロ。

「目が、目が回るッ!!」

もともと車輪の妖であるため、岩肌を良く転がる転がる。

 

……ウォオォォオオォォオオオオ……!

唐突に遠くから獣の雄叫び。

高く、歌うような美しい咆哮である。

「!?」

愉快にじゃれていた妖ノ宮は、驚いてビクッと飛び跳ねる。

恐らくこれは波斯の森の方角からだ。

意問山の頂上を震わせる覇気と、この豪快なビブラート――声の主はただの狼ではない。

 

動きを停止し、互いに顔を見合わせる二人。

「――今の遠吠え、伽藍殿かな?」

「かもの。今宵は満月じゃけん」

満月の晩は、万物の血が猛るのだ。

 

……ウォオォォオオォォオオオオ……!

また空気が鳴動した。

 

伽藍の真似をしてみたくなり、妖ノ宮は意問山から満月を目指して吼えた。

「馬鹿おやじー! 半妖なんかこの世に産み出すなー!! あほー!

 何の罪もない姉上を捨てるなー! コラァッ! ランプの魔人っぽい織田信長もどきめがぁー!」

 

火炎車は、半妖の友人を横目で見遣った。

父王をなじる彼女の眼はかすかに潤んでいる。

それから少し間を置き、火炎車は月を仰いで怒鳴った。

「妖ノ宮ー! ワレェは強なれー! そがぁになりゃあ誰もワレェを邪魔でけん。

 はよう誰よりも強育って、他を平伏させちゃれ! ほいでワシと共に、この八蔓を焼き尽くそうぞ!」

「それ応援? ふふ」

少女が微笑むと、火炎車は鋭利な牙を剥いてニィィと笑い返した。

 

妖ノ宮はドサクサに紛れてついでに叫んだ。

「HAGEEEE! 結婚してくださいー!」

彼女は邪悪な生臭坊主に初恋をしていた。

エロくて可愛い雄イヌだ。

彼にはいつも癒される。

「火炎車さん、最後に一緒に遠吠えしよ。波斯の森に向かって!」

「うし。えかろう、妖ノ宮!」

 

「「うぉおぉぉおおぉぉおおおおッ!!!!」」

すぐさま天狼の伽藍から共鳴の雄叫びが上がる。

……ウォオォォオオォォオオオオ……!

――三体の雄々しい咆哮が辺りにこだました。

 

「……少し、寒くなってきたね」

大妖の赤い肌にピトとくっつき、彼女は頬擦りする。

妖ノ宮の発火と火炎車の発火が溶け合い、一つの猛火となった。

 

友情の燻煙が天に立ち昇る。

二人で燃えれば温かい――。

 

そして楽しい時間は終わりを告げた。

 

百錬京のはずれ、夢路派本拠に帰邸する。

すると、庭園に仁王立ちになり、上空をきつく睨み付けている男が一人あった。

――後ろ盾の五光夢路である。

「姫の出迎えとは感心じゃの。……ホウ、独りか。うずろうしぃ手下どもはおらんと見える」

「よう、糞ガキ。輪っか。逢瀬は楽しんだかい?」

妖ノ宮と夢路は相変わらずの不仲だった。

 

紅蓮の輪からシュタッと飛び降りる妖ノ宮。

夢路はさっそく妖ノ宮に詰め寄った。

「随分と舐めた真似してくれるじゃねえか。……そんなに燃やされてえのかよ、テメェら」

「黙れ小僧。小癪で忌々しい赤月どもの頭が。寧ろワレェを焼き殺して喰うちゃろうか? え?」

「アァ? やんのかコラァ!」

仇敵同士、一触即発だった。

今にも戦闘が始まりそうだったので、妖ノ宮は威嚇合戦の間に割って入った。

「夢路殿。今日は何も悪さはしてないわ。お月見をしただけよ。ちゃんと帰ってきたんだから、いいじゃない」

本日犯した悪事といえば、台所から和酒をパクったくらいだ。

 

「はい。余ったおダンゴあげるから機嫌直して。ユメッジー」

夢路はなんとなく差し出された月見団子を齧った。

「……クッソ不味いんだよ!! まぁ、僕も疲れてるし面倒くさいから、今回だけは見逃してやる。

 だけど、いいね? いつもワガママが通ると思うなよ!」

団子を齧ったとたん、彼はあっさりと引き下がった。

団子の材料には何ら怪しい成分は含まれていない。

 

「火炎車さん、またね。また遊ぼうね!」

名残惜しそうな別れの挨拶。

「妖ノ宮ァ! さっさと部屋に戻りやがれ。大人しく僕の言うことを聞けよ。殺すぞ」

後見人の怒声に急かされ、彼女はそそくさと自室に引き揚げて行った。

 

残された火炎車は、去り際、焔の娘の背中に語り掛けた。

「ワレェはワレェの望むがまま、あるがままに存在すりゃあええ。それこそ、妖の生き方というモンじゃ……!」

今はまだ座敷牢で飼い殺しにされている仔猫。

しかし、これからはそうもゆくまい。

 

――――終 劇――――

 

 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
2
1

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択