No.622894

【獣機特警K-9ⅡG】獄星再び【交流】

古淵工機さん

愛する人を亡くした女の怨み節炸裂。
獄星は再び天に輝くのか…。

◆出演
氷雨:http://www.tinami.com/view/611465

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2013-09-26 23:21:36 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:901   閲覧ユーザー数:866

雨の降りしきる墓地。

一人の女性型ロボットが、墓標の前に花を持って佇んでいる。

髪の色は鈍く輝く銀色、服は胸にさらしを巻いた和服姿。彼女が見つめる墓石には『企救丘虎二之墓』の文字。

…そう、この墓こそかつてファンガルドを席巻したヤグザ集団『ゴクセイカイ』の首魁であったトラジ・キクガオカの眠る墓なのである。

 

「トラジ…」

女性はぽつりと呟くと、持っていた花を手向けゆっくりと手を合わせる。

その頬には、一筋の涙が伝っていた。

…話は今から3年前にさかのぼる。

麻薬取引の優先権をめぐり、当時着実に勢力を伸ばしつつあったギャング組織『ブラッドファミリー』との間で抗争が勃発したのだ。

抗争は次第に拡大の一途をたどり、ついに両勢力の首魁どうしの衝突となった。

 

「き、貴様…一体どういうつもりだ…、スレイ・ブラッド!」

そこにいたのは満身創痍のトラジ・キクガオカ。周囲には負傷、あるいは死んだ構成員達が転がっている。

その中にはゴクセイカイきっての暗殺ロボットであった無影の姿もあった。

トラジと向き合うのは、一見少年のようにも見えるギャング服のサイボーグ…。

ブラッドファミリーの首領、スレイ・ブラッドはトラジに対しあざ笑うかのようにこう言ったのだった。

「どういうつもりって決まってるじゃねえか。オレらが商売するのにアンタらはジャマだからぶっ潰そうってワケ」

「な、なんだと…!」

「つーまーり。あえて言い換えるんならアンタらゴクセイカイの時代は終わったってことだ。ブラッドファミリーは商売のためならジャマなもんは片っ端からぶっ潰す。たとえそれが…昔この星を牛耳ってたデッケー組織(くみ)だったとしてもな!!」

「ふ…ふざけるのも大概にしな!!新参者のくせに、でしゃばってんじゃないよ!!」

と、不気味な笑いを浮かべるスレイ…その時、トラジの横にいたオオヤマネコ形暗殺ロボット、時雨が飛び掛る!!

だがスレイの表情は余裕同然だった。そしてポケットの中に入れていた左手を出して構える。

 

「…おっと。威勢がいいのは結構だが、周りには気をつけろよ…オジョーサマ?」

そう言ってブラッドが左手の指を鳴らすと、ブラックジャガー形のロボットが飛び出してきた!!

「え…!?」

反撃する間もなく、そのロボットに斬りつけられダメージを負う時雨。肩に受けたその傷からはオイルが血のように流れ出していた。

「な…なんだ…こいつは!!」

驚愕するトラジに対し、暗殺ロボットは頭をかきむしりながら面倒くさそうに答える。

「…っせーえなァ。これから死ぬ奴になんでいちいちあたしの名前教えてやんなきゃなんねーのよ?」

「まあ、そう言わずに教えてやれよ。…いい冥土の土産になるって奴だぜ」

「…ちっ、つかマジ乗り気じゃねーんだけどってかスレイ、あんたが勝手に紹介すりゃいいじゃん。あたしはこいつら殺すので忙しいんだよね?」

…というようなやりとりを続けた後、スレイはトラジと時雨のほうに向き直り言った。

 

「…というわけだ。こいつはこれから死ぬ奴に対しては自己紹介をしたくない主義らしい。まあ一言で言うと…アンタらの暗殺ロボットのデータを盗んでこっそり完成させた殺人機(キラーマシン)ってとこだな…名前はモンド・ユーベル…。って、こんな紹介したトコでどのみちこれから死ぬアンタらの知ったこっちゃねーがな?」

「ぐ…!」

歯を食いしばるトラジと時雨。

そんな二人のことなどお構いなしにスレイは続ける。

「さて、そろそろ時間だ。モンド、やっちまえ!」

「おうよ!!」

モンドが身構え、飛び掛ってくる!すかさず応戦するトラジと時雨。

そして…両者が交わるのと同時に、雷が唸り、稲妻が轟いた…!!

…それから何分の時間が経ったのだろう。

抗争のあった現場には既にスレイとモンドの姿はなくなっていた。

あとに残されたのは、ナイフを腹に突き立てられて虫の息になっていたトラジと、

全身のパーツが破壊され、ボロボロになりながらもトラジの傍に身を寄せる時雨の姿…。

 

「トラジ…トラジ!しっかり…、しっかりしておくれよ!」

時雨の目からは大粒の涙が零れ落ちていた。それを見ていたのか、トラジは擦れた声でささやく。

「…し、時雨…。俺ともあろう者が…こんな不甲斐ないことに…」

「トラジ…?」

「……俺はもう…駄目かもわからん…、時雨…最後になるかも知れないが…聞いてくれるか…?」

その言葉に、時雨はただ涙を流しながら頷いた。

 

トラジはそれを見てか、さらに続ける。

「…まず…お前は今までこんな俺を愛してくれたな……?この期に及んでやっと…その思いに気づくことになろうとは…」

「いいんだよ、いいんだよトラジ…あんたがあたしを愛してくれたってことがこれでやっと…」

「……だが、俺は最後まで…その思いに応えることはできなかった…。俺の傍にいてくれた…せめてもの礼と言ってはなんだが…俺の字を…『キクガオカ』の名をお前にくれてやろう……」

頷く時雨。さらにトラジは続ける。

 

「…それから……お前は生き延びろ…何があっても…決して、死ぬな……。お前が死ねば…ゴクセイカイは失われる……なにより…お前には生きていて欲しい…」

「…!」

「…時雨…ゴクセイカイを……頼んだ、ぞ……」

そう言うとトラジは静かに息を引き取った。その亡骸を揺さぶりながら、時雨はただひたすらにその名を呼び続ける…。

 

「トラジ?…ねえ、ウソだろ?ウソなんだろ!?トラジ…ウソだって言っておくれよ!ねえ!トラジ!!トラジーーーーーーーーー!!!!」

 

…雨の音と雷鳴、そして二度と目覚めることのないその者の名を呼ぶ時雨の声が、すっかり暗くなった夜空にこだました。

…そして話は冒頭の墓地に戻る。

墓前で手を合わせていた女性がゆっくりと立ち上がろうとしたその時、背後から男の声がした。

「…お嬢。そろそろ行きますぜ」

背後にいたのは、かつてのゴクセイカイの構成員だった。彼はその女性ロボットのことを知っている様子であった。

「ああ…分かってるさ。分かってる…」

女もまた、その男を知っていた。…それもその筈、墓前で手を合わせていたこの女こそ、かつての時雨本人だったのである。

 

…最愛の男を亡くした時雨は、あのあと姿を替えつつどうにか逃げ延びていたのだ。

そしてトラジの遺言どおりキクガオカの姓を名乗り、さらに名も氷雨と変え、ここまで生き延びてきたのである。

さらに言えば、彼女に声をかけた男も、彼女と志を同じくする者であったのだ…。

 

(…トラジ…今こそ誓うよ。ブラッドファミリーの奴らをぶっ潰して、アンタの仇をとってやる。そして…ゴクセイカイを蘇らせてやるんだ。だから…あの世で見守っていておくれ…!)

氷雨は心の中でそう呟くと、すぐさま男の方に向き直る。

「…行くよ。弔い合戦の始まりさね」

「へい」

…そして氷雨は、男を連れて墓地を後にした。かつての最愛の人との約束を果たすために。


 
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