No.621842

IS インフィニット・ストラトス ~転入生は女嫌い!?~ 第六十二話 ~クロウ、帰還する~

Granteedさん

ブラスタ「被告人、言い訳を聞かせてもらおうか」

Granteed「だってしょうがないじゃないですか!打ち切りだと思っていたのに、新刊が出たんですから!おかげでこっちは予定していたストーリーがめちゃくちゃですよ!!」

ブラスタ「……本当にそれだけか?」

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2013-09-23 01:40:51 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:12988   閲覧ユーザー数:11759

 

東洋の島国、日本。春夏秋冬、特徴的な気候が一年を支配するその国には、とある特殊な学校があった。

 

(随分久々に戻ってきたな)

 

そこは今年まで女性しかいない特殊な教育機関だった。その目的はISというパワードスーツを運用・研究する事を主目的とした、人材の育成である。しかし、今年はイレギュラーな事態が二つ程起きた。

 

(夏休みの初めから出てたから……十日ぶりか)

 

一つは、男性のIS操縦者の登場。これに世界は震憾した。何故なら今までISは女性しか操縦出来ない平気として認識されていたからである。ISという存在は世界情勢さえも変化させる大きな力を持った、文字通り世界を変える力を持った兵器であった。それ故に男性操縦者の発見という新たな事象に世界は色めき立った。しかし、更にもう一つの事態が巻き起こる。

 

(……まさか、俺に帰る場所が出来るとはな)

 

それは今年の三月末、IS学園の敷地内で起こった。難攻不落の要塞とも呼べるセキュリティを誇るIS学園に、あろう事か男が侵入したのである。ただ、それだけですめば話は簡単だった。物事に絶対はありえない。その時点で男をつまみ出せば終わる話だった。しかし、物事はそう簡単にはいかないのが世の常である。

 

(一夏の奴、元気にやってるといいんだが)

 

男は、別の世界の住人だった。とある事故により、この世界に転移してきたというのである。事態を重く見たIS学園の一部の職員はこの事態に対して隠蔽工作を行い、表面的にはその事件は収束した。

 

(ああ、行きたくねえなぁ……)

 

姿形を変えた男は生きる事を決意した。例え世界が変わろうとも、自分の生きるべき人生はエンドマークを迎えていない事に、自分より若い少年少女達に諭されて気づいたのである。

 

(……まあ、とにかく──)

 

その少年は色の薄い黒色の髪を肩口まで無造作に伸ばし、夏だというにも関わらず膝下まで届くロングコートを羽織っていた。片手には大きめのボストンバックを握り締め、鷹の様に鋭い双眸はIS学園の校舎を眺め見ている。その少年こそかつて“100万Gの男”と呼ばれ、借金王の名を欲しいままにし、自分の心の赴くままに生を紡ぎ、世界を救った男。

 

「帰ってきたぜ、IS学園」

 

学園の正門前で一人呟くその少年の名はクロウ・ブルースト、異世界からの来訪者である。

 

 

 

 

 

クロウがセシリアの豪邸で惰眠を貪っているとき、その電話はいきなり舞い込んできた。

 

(あー、気持ちいい……)

 

セシリアの好意により、自室で思う存分寝こけていたクロウ。先月の戦いの傷を癒すかの様に休息を取っていたクロウは、働く気ゼロのサラリーマンのような物だった。最も、それを咎める者は誰もいない。屋敷の主であるセシリアはクロウの正体を知っているし、尚且つ先月の激闘の一部始終を知っている為である。

 

(やっぱ人間のんびりしてるのが一番だよな、うん)

 

大きな欠伸と共に、ベッドの上で四肢を伸ばすクロウ。しかし、その右手首に嵌められたブレスレットが細かく振動する。

 

(……通信だと?)

 

体を横たえたまま、右手首を目の前に持ってくる。紅、青、銀のトリコロールで彩られたブレスレットから浮かび上がるディスプレイを見ると、何者かから通信が入っていると表示されている。左手でディスプレイをタッチすると、直接脳内に音が響いてきた。

 

『クロウ、聞こえるか?』

 

聞こえてきたのはクロウにとって弟分という言葉がぴったりな学友、織斑 一夏だった。張り詰めていた神経を解きほぐして朗らかな声で応対する。

 

「おう一夏、どうした?」

 

『なあ、前から言ってるけどいい加減携帯買えよ。一々ISの通信使うの面倒だって』

 

「ありがたい言葉だが、それは拒否する。節約出来る物は徹底的に突き詰める。それが俺の信条だ」

 

わざわざ一夏がIS用の通信回線を使ってくるのは、ひとえにクロウの金銭に対する執着に由来していた。確かに、携帯電話を持っていたほうが何かと都合の良い事は事実である。現に、周囲の人間から何度も進められていたのだが、クロウは断固として拒否していた。

 

「こんなに便利な物があんのに使わないのは俺の主義に反する」

 

クロウ・ブルーストは有り体にいえばドの付く倹約主義であった。よく言えば節約、悪く言えば守銭奴である彼は“ISの通信なんて便利なもんがあるのに、携帯なんぞ買う理由が無い”などと宣い、今日まで携帯電話を触ったこともないのである。通信の向こう側でため息をつきながら、一夏が続けた。

 

『まあ、いいや。それよりクロウ、どこにいるんだ?』

 

「今はセシリアのとこに厄介になってる」

 

『セシリア?クロウって何やってんだ?』

 

「おう、それがな──」

 

ラウラに訓練教官を頼まれたこと、それを受け入れて一週間ほどドイツで教官をしていたこと、ラウラの護衛でついて行ったらたまたまセシリアと出会ったこと、その流れのままイギリスに来たこと。その全てをクロウは包み隠さず一夏に説明した。

 

「──ってな感じだ。今はセシリアの所で療養中ってとこだ」

 

『ふーん、そんな事があったのか』

 

「こっちも悪くないぞ。夏だってのに涼しいし、街は平穏そのものだ。ドンパチも無くて気兼ねもしない。最高だぜ」

 

『じゃあ、千冬姉が言ってるのって何かの間違いなのか……?』

 

「千冬がどうしたって?教師の仕事にでも追われてんのか?」

 

『ああ、いや。そうじゃないんだけど……なあ、クロウって千冬姉と約束とかしてたか?』

 

その言葉に、クロウの眉が僅かに動く。クロウが口を閉じている間に、一夏は言葉を続けた。

 

『千冬姉が家にいるんだけど、なんか“クロウがいない……約束したのに”とか“帰ってきたらしばいてやる……あの大嘘つきめ”とか言ってんだけど』

 

「な、ん……だと?」

 

『家に帰ってくるなり自分の部屋に閉じこもっていじけてるしさ。それで電話したんだけど、何か知らないか?』

 

一夏の言葉が進むに連れ、クロウの顔面から脂汗が吹き出る。目の前に掲げられた右腕は頼りなく揺れ動き、瞳は精神異常者の様に定まらない。その顔には“心辺りがあります”と書かれていた。

 

「なあ、一夏。質問するのが怖いんだが一ついいか?……その、千冬はいつからそうなってんだ?」

 

『さあ?でも、山田先生に呼ばれて千冬姉を引き取りにIS学園に行った時にはもうあの調子だったぜ』

 

止めの一撃が、クロウの耳朶を打つ。その瞬間、クロウがベッドから跳ね起きた。クローゼットにかけてあったコートを取り出し、荷物を物凄い勢いで纏めていく。

 

『クロウ、どうしたんだ?何か物凄い音が聞こえるんだけど』

 

「いいか一夏、俺は今すぐ日本に帰る。だから千冬を何とか宥めておいてくれ」

 

『はあ?』

 

「後生の頼みだ、千冬の機嫌を取っといてくれ。さもないと俺の命が危ういかもしれん」

 

『ちょ、ちょっと何言ってんだ──』

 

「通信終了」

 

一方的に連絡を切ったクロウは、纏めた荷物を肩に担いで部屋から出る。何人かのメイドとすれ違ったが咎められる事も無く、クロウは屋敷の玄関口へとたどり着いた。

 

「おや、ブルースト様。その荷物はどうされたのですか?」

 

丁度玄関口の所で掃除をしていたメイド長のブリジットを捕まえて問いかける。

 

「悪い、ブリジットさん。ちょいと急用が出来ちまった。セシリアはいるか?」

 

「ああ、お嬢様でしたら代表候補生の会議に出席しております。今夜にはお戻りになられますが」

 

「じゃあ言伝を頼む。“先にIS学園に帰ってる”ってな」

 

「はぁ……委細承知しました」

 

いきなりの頼みに小首をかしげながらも、ブリジットは首を縦に振った。クロウは別れの挨拶だけを残して玄関口から外に飛び出す。一目散に屋敷を取り囲んでいた森の中に駆け込むと、右手首にあるブレスレットに命令を下した。

 

「ジェネレーター起動、ステルスモードで展開!」

 

声に従うようにブレスレットから粒子が溢れ出す。銀色の光の粒子は様々な形を取ってクロウの体に固体となって取り付き始めた。そして光が収まった時、そこには何もいなかった。

 

「行くぜ!!」

 

虚空から、クロウの声だけが響く。次の瞬間、先程までクロウがいた空間を中心に風が巻き起こる。木々を揺らすその疾風は、空高く舞い上がった。

 

「頼むリ・ブラスタ、日本まで全速力で飛ばしてくれ!!」

 

空に舞い上がった見えない機体が、爆発的な加速で空を駆けていく。目指すは日本、IS学園。

 

 

 

 

 

それがつい数時間前の出来事である。クロウはバスに揺られながら天井を見上げた。

 

(あんな口約束、するんじゃなかった……)

 

一夏の言葉で思い当たる事と言えば、一つしかなかった。それは夏休みが始まる前、千冬と交わしたあの言葉である。

 

『一夏達にも言ったが今の所予定が無いんでな。ずっとここに居るつもりだぜ』

 

『ああ、何回も言ってんだろ。俺はここにいる』

 

過去に言った言葉の数々が脳内でリフレインを巻き起こす。夏だというのに体の芯まで冷え切っているクロウはぶるりと肩を震わせた。脳裏にこのままバスに乗っていたらどうか、という阿呆な考えが過ぎったが、それは車内に響くアナウンスによって脆くも打ち砕かれる。

 

『次は──、──』

 

(ああ……嫌だ)

 

後悔しながら一番近い降車ボタンを押し込む。軽快なチャイムが響いた数分後、バスは目的地に停車した。渋々と言った様子でクロウは席を立ち上がってバスから降りる。その後は教えて貰った住所を目指して歩を進めた。

 

(……ここか)

 

覚えている住所にたどり着くと、深呼吸を繰り返す。その家の表札を確認すると、確かに“織斑”と刻まれている。まるで目の前にある家が魔王の住む城の様な幻覚を見ながら、恐る恐ると言った様子で指を伸ばした。

 

「はーい、今出ます」

 

呼び鈴の後に続く少年の声が、今に限ってはありがたくなかった。もしも、もしも彼がいなければ不在を理由にこのまま立ち去ることが出来たかもしれない。しかし、それはただの問題の先送りだと脳内で結論づけて意思を固める。程なくして、目の前の家の玄関が開かれた。

 

「お、クロウじゃん。随分早くないか?」

 

「ああ、イギリスから全速力で飛ばしてきたんでな」

 

門を開いて、家の中に入り込む。隅々まで掃除がかけられているであろう床、落ち着いた調度類、そして二階へと上がる階段を見て、クロウは顔をしかめた。

 

「一夏、千冬は二階か?」

 

「良く分かるじゃん。その通りだぜ」

 

「やっぱな……」

 

清潔な家には似つかない、泥々とした空気が二階から一階に流れてきている。歴戦で磨いてきた感覚が、クロウに“即時撤退を求む”と頭の中で警鐘を鳴らし続けていた。

 

「なあ、千冬姉に何したんだ?」

 

「いいか一夏、お前は布団でも被って逃げてろ。この家は多分無事だと思うが、何が起きるか皆目見当がつかん」

 

「クロウ……本当に何やったんだ?」

 

「……ちょっとしたすれ違いってやつだ。お前にもいつか分かる」

 

一夏をリビングに追いやってから、クロウは二階を睨みつけて覚悟を決めた。一段ずつ、慎重を期して階段を登っていく。二階に近づくにつれて空気が重さを増していくが、強固な意思の下、何とかそれを弾き返していく。

 

(……来ちまった、とうとうここまで来ちまった)

 

とある扉の前でクロウは立ち止まった。その奥にいるのは全ての元凶、この空気の大元である。数度深呼吸を繰り返して、心の中で何度も何度も言葉を繰り返す。

 

(大丈夫……大丈夫。あいつも一応大人だ。きっと節度ある対応を……)

 

祈りの様に繰り返しながら、銀色に光るドアノブにゆっくりと手をかける。鍵をかけられていない事に驚く心の余裕も無いまま、クロウは特に抵抗も無く回ったドアノブを引いて、部屋へと躍り込んだ。

 

(南無三!!)

 

そして、クロウがその部屋で見たものは──

 

 

 

 

 

 
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