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恋姫†無双 関羽千里行 第31-4話

Red-xさん

恋姫†無双の二次創作、関羽千里行の第31話拠点の4つ目になります。 この作品は恋姫†無双の二次創作です。 設定としては無印の関羽ルートクリア後となっています。
更新&コメ返信遅れて申し訳ありません。
その分ボリュームは増えているかと思います。
それではよろしくお願いします。

2013-09-18 00:09:51 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:2359   閲覧ユーザー数:2028

第31話 -拠点3-4-

 

○思春

 

 思春の日課といえば、軍議に出席、兵の調練、そして間諜の指導や間諜の持ってきた情報の収集などがあるのだが、

 

思春「おはようございます、一刀様。」

 

一刀「おはよう、思春。今日もいい天気だね。」

 

思春「はい。しかし、間もなく軍議時間です。お早く身支度を整えられますよう。」

 

 少し硬さのある笑みを浮かべて答える。

 

一刀「おっと、危ない。思春がいてくれて助かったよ。」

 

思春「いえ、では私は部屋の外で待機しております。」

 

 思春にとって、軍議のために一刀を呼びに行く時が一番気分が上がったりする。もちろん、これは思春の仕事ではないので不定期なのだが、朝から一刀の顔を見れることに、思春はいつも少なからず喜びを感じている。もちろん、本人にその自覚はない。

 

一刀「お待たせ、じゃあ行こうか。」

 

思春「はっ。」

 軍議の行われる広間までの短い間。思春は一刀の一歩後ろを歩きつつも危険がないか周囲を警戒する。もちろん一刀には、

 

一刀「そんなに気張らなくてもここは大丈夫だよ。」

 

 といつも言われているのだが、

 

思春「朝の気の緩みを狙った不埒者がいないとは限りませんので。」

 

 といつもの如くそれに返す。やれやれといった表情の一刀ではあるが、その後はそれ以上の会話はない。思春の真剣な様を見れば、無言に耐える一刀も声がかけにくいというものだ。だが、

 

一刀「(やっぱり似てるなぁ。)」

 

 その姿勢はある意味出会った頃の愛紗に似ていると一刀はつくづく思っていたりするのだが、あくまで似ているだけであって思春は思春だ。愛紗の昔を思い出しながらも、思春の一挙手一投足にはなんとなく目がいってしまう。そのたびに、

 

思春「どうかされましたか?」

 

一刀「いや、なんでも。」

 

思春「ふふっ。やはり貴方は変なお方だ。」

 

一刀「そんなことはないと思うだけどなぁ。」

 

 これもいつものやりとりである。だが変わらないそんないつものやりとりだけでも、思春は満足感を覚えていた。一刀も一刀で、もっと思春と仲良く慣れればとは思ってはいたものの、このやりとりも気に入っていた。そうこうしているうちにも、二人は広間に着く。

 

愛紗「おはようございます。」

 

一刀「おはよう、愛紗。」

 

愛紗「思春もご苦労だったな。では軍議を始めよう。」

 

 

 

 

 軍議も終わり各自解散となり、思春も自分の部署へ戻ろうとしたのだが、広間を出る寸前、ある光景が目に止まった。一刀と雛里が何やら話していた。思春からは遠くて話している内容は聞き取れない。だが、

 

思春「!」

 

 雛里の頭を撫でる一刀、そして恥ずかしそうにする雛里。一刀の周りでは割とよくある光景ではある。一刀には頭を撫でる癖みたいなものがあるからだ。だが、なぜかその光景は思春の目にしばらく焼き付いてしまった。

 

 その日一日、思春の頭にはどこか靄がかかったようになっていた。原因は、一刀と雛里のいつものような光景。

 

思春「(一体何だというのだ。)」

 

 走りこみをしている隊員たちを後ろから監督しながらも、思春には隊員たちの様子は全く入ってこなかった。

 

甘寧隊員A「今日の頭、なんだかぼーってしてねぇか?」

 

甘寧隊員B「そうだな、いつもなら、こんなふうにひそひそ話なんてしたら直ぐ怒鳴り声が飛んでくるのに...頭らしくもねぇ。一体どうしちまったのかな?」

 

甘寧隊員C「あれは...まさしく恋煩い!きっと隊長殿は誰かに恋をしておられる!」

 

甘寧隊員A「お前新参なのによくわかるなぁ。しかし恋煩いか...てーと旦那と何かあったのか?」

 

 流石に大声ではないものの、怒られないかとチラチラと後ろの様子を伺う隊員たち。しかし、思春にはその声は届かない。その状態は一日の仕事が終わってからも続いていた。

 

思春「はぁ。」

 

 枕に顔を埋める。何度もあの光景が蘇ってくるが、それがどうだというのか。思春にはそれがずっとわからなかったのだが、

 

雛里「あのー、思春さん、はいってもよろしいですか?」

 

思春「開いてるぞ。」

 

雛里「それではお邪魔します...」

 

 小さな身体がトコトコと入ってきて、扉を閉める。

 

思春「どうした?あまり夜遅く出歩くものではないぞ。」

 

雛里「今日はこれでもう最後ですので。思春さんの方から回ってきたこれについていくつか聞きたいのですけれど...」

 

思春「ああ、それか。それはだな...」

 

 聞かれたことに一つ一つ丁寧に答えているつもりの思春であったが、いくつか答えているうち、

 

雛里「あの...こちらから訪ねておいて失礼なのはわかっているのですが、お疲れでしたらまた明日にしますか?」

 

思春「何?そう見えるか?」

 

雛里「そう見えるというか...さっきから話している内容がちぐはぐですよ?」

 

思春「何?私はなんと言った?」

 

 試しにと先ほどされた質問の内容について自分が言った内容を反芻してもらえば、それはてんで違う答えになっていた。恥ずかしさに少し顔が赤くなる。

 

思春「すまん、自分ではわからんが相当に疲れているようだな...」

 

雛里「いえいえ、こんな時間に訪ねてきた私が悪いのですから。んー、熱はないみたいですね。でも思春さんもお体はいたわってくださいね。」

 

 そう言って額に手をあて、それから自分のおでこに手を当てる。それから去ろうとする雛里だったが心配になったのか、

 

雛里「何かお薬でも調合しましょうか?」

 

思春「いや、構わん。気持ちだけ頂いておこう。だが...」

 

雛里「はい?」

 

思春「その...なんだ。大したことではないのだが。」

 

雛里「...はい。??」

 

思春「一刀様に撫でてもらうのはいつものことか?」

 

雛里「!?は、はい、よく撫でてもらっている気はしますけど...それがどうかしたんですか?」

 

 思い出して恥ずかしくなったのか、少し顔が赤くなるが直ぐにそれも元に戻る。思春の体調のほうがやはり気になるらしい。

 

思春「いや、なんでもない。変なことを聞いてすまなかったな。」

 

雛里「?いえ...それではおやすみなさい、思春さん。」

 

思春「ああ、また明日な。足元に気をつけて帰れよ。」

 

雛里「ありがとうございます、ではまた明日。」

 

 そう言って出ていこうとするのだが、

 

雛里「あいたっ!」

 

 ドアに頭を軽くぶつけてしまう。

 

思春「私にはよほどお前のほうが心配だぞ。大丈夫か。」

 

雛里「は、はい...では今度こそ失礼しますね。」

 

 少し頭をさすって出て行く雛里。あの程度なら雛里であってもなにもないだろうと判断する。

 

思春「しかし...」

 

 思春は雛里の答えを頭のなかで何度も繰り返していた。よく頭を撫でてもらう。ただそれだけのはずがどこか引っかかる。やがて、

 

思春「...そうか。」

 

 思春はやっとのことで理解した。思春は一刀に頭を撫でてもらったことが殆どなかったのだ。

 

思春「私が頭を撫でて欲しがっている?一刀様に?そんな馬鹿な。」

 

 出てきた答えを、思春は自分で一蹴した。

 

 

 

 それからしばらく。また思春が一刀を部屋に呼びに行く機会となった。

 

思春「一刀様、おはようございます。」

 

一刀「おはよう思春。いい天気だね。」

 

 準備を済ませた一刀と連れ立って広間へ向かう。

 

一刀「なんだか思春が来てくれる日はいつもいい天気な気がするな。これは思春に感謝しないと。」

 

思春「それはどうですかね。ですが...」

 

一刀「ん?」

 

思春「感謝してくださるのは有り難いのですが、感謝の言葉は要りません。その代わり...」

 

 思春は一刀の横にならんだ。

 

思春「偶にで構いません。よろしければ、私の頭を撫でてくださいませんか?」

 

一刀「...うん、いいよ。いつもありがとね、思春。」

 

 横から頭を撫でられ、くすぐったそうにする思春を伴って、久々に気張らない朝の時間ができたのであった。

 

○星

 

愛紗「それでは参りましょうか。」

 

 日も登り始め、徐々に暑さが肌で感じられる用になった頃。俺たちは城門前に集結していた。

 

一刀「うん。でも星がまだ来てないんだけど...」

 

翠「霞、なんか知らねぇのかよ?」

 

霞「んー、元々星は今日非番やったからなぁ。どっかで一杯ひっかけとんのちゃうん?」

 

愛紗「全く...こんな時くらい少しこちらに時間を割いて欲しいものだが。」

 

華雄「たまの休みだ、好きにさせてやれ。それに、我らだけでもなんとかなるだろう。」

 

 領域の拡大に伴い、この街を訪れる人の数は増える一方だ。当然、人が増えれば争いの種も増え、場合によっては良からずも入ってくる。そこらへんが問題視され、今回将軍を総動員して警邏し、治安の安定にこちらが気を配っているというアピールをしようとしていたのだが、元々今日が非番だった星はふけこんでいるらしい。

 

愛紗「はぁ。ともかく、今日は二人一組で警邏に当たる。霞と華雄。思春と...おい。」

 

 そーっと輪の中から離れようとしていた祭がビクッとふるえる。

 

祭「ちょ、ちょっと忘れ物をとりに行こうと思っていただけじゃぞ?」

 

愛紗「警邏に身一つ、武器もある。これ以上何が必要だと?」

 

祭「それは...」

 

 星が飲んでいると思ってそっちに逃げ込みたかったようだが失敗したようだ。諦めて輪の中に戻ってくる祭。

 

愛紗「思春と祭。思春、祭がフケぬよう、しっかり見張っていてくれよ?」

 

思春「任された。」

 

愛紗「頼む。それで最後に、一刀様に私と翠がつこう。皆それでいいな?」

 

翠「げ、愛紗とかよ。霞あたりと一緒だったらもっと気楽なんだけどなぁ。」

 

一刀「翠、任せておいてくれ。俺が愛紗を抑えておくから。」

 

翠「おお!頼りにしてるぜ。」

 

愛紗「警邏に気楽さなど...はぁ。我が軍のものはどいつも緊張感に欠けるな。」

 

霞「それは仕方ないとちゃうん。だってウチらの頭張ってるのがコレやろ。」

 

愛紗「それもそうだな。」

 

一刀「それはひどくない!?」

 

 そこまでぬけてるつもりはないんだけどなぁ。

 

愛紗「それでは、昼にまた城の前に集合だ。その後、組み分けを変えてまた警邏を行う。」

 

霞「次は愛紗と一緒がええなぁ。」

 

愛紗「う...午前の働き次第で考えてもいい。」

 

霞「よっしゃ!ビシバシ警邏したるで!」

 

思春「ならば、一刀様の警護は私が担当しよう。」

 

 そのままガヤガヤと騒ぎつつも、俺たちは街へと散っていった。

 

 

 

一刀「うーん、そう言えば朝飯食ってないんだよなぁ。ちょっとそこらでなんか買ってこようかな。」

 

愛紗「だめです、今しばらくの我慢です。それに、これが終われば昼食の時間はしっかりと設けますから、それまでは辛抱してください。」

 

翠「えー、いいじゃないかよ買い食いぐらいさぁ。」

 

愛紗「(ギロリ)」

 

翠「うっ...」

 

 普段なら買い食いくらい頼めば許してくれるが、今日は一層気合が入っているらしい。

 

一刀「諦めよう。触らぬ神に祟り無しだ。」

 

翠「だな。」

 

 そこへ、

 

町人「喧嘩だ喧嘩だ!」

 

 そう振れ回りながら走ってくる男性。

 

一刀「早速か...」

 

愛紗「そこの者。その喧嘩はどっちでやっている?」

 

街人「あ、太守様に将軍様。あっちの通りでさ。ゴロツキが店開いてるやつにいちゃもんつけてるみたいで...」

 

そこまできて、一刀はひとつ思い当たる。

 

一刀「(あれ、この状況って...)」

 

 全員で警邏、誰かさんだけいない、そして喧嘩。これらが示すものは...

 

一刀「とにかく、急ごう。怪我人でも出たら大変だ。」

 

愛紗「御意。」

 

翠「応っ。」

 

 

 

 三人が現場に到着してみると、いかにもガラの悪そうな三人組が店主と思しき男を囲んで絡んでいた。周囲には人も集まっているが、武器を持った相手に誰も何もできない様子だ。

 

ゴロツキA「おうおう、ツレのことどうしてくれんだよ。」

 

ゴロツキB「腹がいたくて動けねぇ。きっとこの飯になにかはいってやがったんだ。」

 

店主「そんな!あんなにうまいうまいとたくさん注文していたではありませんか!」

 

ゴロツキA「知らねぇな。この店の飯食うと腹が壊れるって言いふらされたくなきゃ、だすもんだしてもらおうか。」

 

ゴロツキC「ん...」

 

店主「ひっ!」

 

 脅すだけでは飽きたらず、腰にさした剣をさり気なく目に止めさせる。

 

愛紗「下衆な連中だ。一刀様はここで...」

 

 そこへ、

 

??「はーはっはっはっはっは!」

 

 高らかな笑い声が響き渡る。これはもしや!?

 

ゴロツキB「なんだなんだ!?」

 

??「あいや待たれーいっ!訊いておれば注文するだけしておきながら金を出せなどと、その行い不届き千万。店主よ、そのようなものらに怯えることはないぞ。」

 

ゴロツキA「どこのどいつかしらねぇが、こいつがここの飯で腹壊したってのは事実なんだ。だったら詫びを入れるのが筋ってもんじゃねぇか。」

 

 キョロキョロと周囲を見回し睨みつけるが、声の主は見つからない。

 

??「ふん。そこの店主はこの界隈でも長く営み皆に親しまれる料理を提供している。衛生管理もしっかりし、食べただけで腹をこわすことなどあり得ない。それに、腹を壊したと言っても、何を食べたにせよ食べ過ぎればそうなるというのは道理というもの。それは店主の責任ではなく、頼み過ぎたお主らにこそその非がある。」

 

ゴロツキA「くそ!御託ばっか並べてないで姿を見せやがれ!」

 

??「代金を払って去るならばよし。さもなければ、この正義の槍が貴様らを貫くことになるぞ!」

 

ゴロツキC「畜生どこだ!?どこにいやがる。」

 

??「ここだ、ここ!」

 

 そう言って皆が頭上を見上げると、屋根の上に立つ人影が。逆光で影になってしまっているがあのシルエットは!

 

??「正義の華を咲かせるために、美々しき蝶が悪を討つ...とう!」

 

ゴロツキA「なに!?」

 

 屋根から飛び上がったというのに、音一つ立てず地面に舞い降りたそれは、槍を肩にし、右手を前に突き出し言い放った。

 

華蝶仮面「美と正義の使者、華蝶仮面...推参!」

 

 でたぁ!と思っているのはこの場で恐らく俺一人。他のみなは呆気にとられて皆あんぐりと口を開けている。だが、

 

愛紗「華蝶仮面!?あいつがどうしてここに!?」

 

 もう一人、この人物を知っているものがいた。そう言えば、華蝶仮面の正体、愛紗には言ってなかったっけ。

 

華蝶仮面「そこのゴロツキども、返事を聞かせてもらおうか。おとなしく代金を払うのか、さあ!」

 

ゴロツキA「見たところ女か。構うこたぁねぇ!お前らやっちまえ!」

 

ゴロツキB・C「おう!」

 

 手にした剣で二人同時に斬りかかろうとするが、

 

華蝶仮面「甘い!」

 

 華蝶仮面は、目にも留まらぬ動きで槍を振るうと、切りかかってくる二人の剣をはたき落とし、さらに地面に叩き伏せた。

 

ゴロツキB「いてぇ!」

 

ゴロツキC「畜生、なにしやがった!」

 

華蝶仮面「そのようなものを振り回されては周囲の者が危ないと思ってな。それに、」

 

 華蝶仮面は斬りかかってきた男の一人をビシっと指さした。

 

華蝶仮面「お主、腹が痛んで動けないのではなかったか?」

 

ゴロツキB「ちっ!」

 

ゴロツキA「隙あり!」

 

華蝶仮面「そんなものはない!」

 

ゴロツキA「ぐはっ!」

 

 そうして、華蝶仮面なるものはあっという間に三人を無力化してしまった。その鮮やかな手並みに、

 

町人たち「おおおおおお!」

 

 全員が魅了されていた。皆が駆けよりその労を労っている。

 

華蝶仮面「大したことではない、それより誰か、この街の警備のものを呼んできてはくれまいか。」

 

町人「もう呼んでまさぁ!」

 

一刀「...やぁ。」

 

愛紗「久しぶりだな、華蝶仮面。」

 

翠「やるじゃないか。どこの誰かは知らないけど、今度あたしと手合わせしてくれよ。」

 

 例によって翠も正体には気づけないらしい。それに愛紗はそこそこに因縁があるので、あまりいい空気とはいえない。

 

華蝶仮面「お、おお!そうか、お主たちが。だが、お主とはしょしょ初対面だぞ?誰かと間違えているのではないか?(今日愛紗たちが警邏に出向くとは聞いていたがまさかいきなり鉢合わせるとは!)」

 

愛紗「...そうだったな、初対面だ。」

 

 正体がバレたと思って焦っていた華蝶仮面だが、愛紗の返答にほっと胸をなで下ろす。だが、俺がニヤニヤしているのを見て、その動揺はまだ抑えきれないらしい。

 

華蝶仮面「すすすまないが、この者達を引き取って欲しい。」

 

愛紗「それは構わん。不届き者を捉えてくれたことにも感謝する。だがお主も一緒に来てもらおう。」

 

華蝶仮面「なぜだ?」

 

愛紗「正体もわからぬものが、町中で武器を振るっているとなれば、我らの警備にも支障が出る。お主にやましいところがないなら、付いて来てくれるな?」

 

ここで華蝶仮面がついて来てくれれば、何も面倒なことはないのだが、

 

華蝶仮面「私は通りすがりの者。悪いがまだ私を呼ぶ声がするのでな、そちらについて行くわけには行かぬ。」

 

愛紗「だったら...」

 

華蝶仮面「御免!」

 

 危機を感じ取りさっと距離をとった華蝶仮面は、止めてあった荷車を踏み台にしてそのまま屋根の上まで飛び上がると、そのまま見えなくなってしまった。

 

愛紗「まてい!翠、そいつらは警備の兵士に任せて追うぞ!今度こそ逃さん!」

 

翠「なんでそんなに熱くなってんのかわかんないけど...あいよ!あの変態野郎をとっ捕まえて正体を見てやる!」

 

 騒がしく叫んで飛び出していく二人にすっかり取り残されてしまった俺は、

 

一刀「はぁ。」

 

 そのまま裏の路地へと足を向けた。

 

 

 

華蝶仮面「ふう、危なかった...危うく正体がバレるところであったか。まさか主に愛紗たちまでいるとは。だが、」

 

 仮面を外してニヤリと微笑む。

 

星「予想通り出だしは好調。後はこの仮面さえ隠し通せば...」

 

一刀「それは無理かなぁ。」

 

星「!」

 

 いきなり駆けれられた声にビクリとして、後ろを振り返れば、そこには彼女のよく知ル人物が。

 

星「主...」

 

一刀「こんにちは、華蝶仮面さん。」

 

星「かかか華蝶仮面?なんですかその超絶かっこいい名前は。そのような者、私は存じ上げませぬぞ?」

 

一刀「いや、外すとこ見てたんだけど。」

 

星「なんと。うう...まさか初日からいきなり正体がバレてしまうとは...」

 

 がっくりとうなだれているが、普通に考えたら仮面つけてるだけで正体がばれないと思っている方が不思議だと思う。

 

星「それで主、私をどうするおつもりです?」

 

一刀「そうだな。とりあえず愛紗に報告...」

 

星「っ!」

 

一刀「するのはやめにして、」

 

星「主、人が悪いですぞ!心臓が止まるかと思ったではありませんか!」

 

 そんなに怖かったのか。

 

一刀「俺からは特になにもないかな。まあ強いて言うなら警邏の人たちの顔が潰れない程度に程々にしておきなよ。愛紗が全軍率いて捕獲作戦とか言い出さないようにね。」

 

星「見逃していただけるのですか?」

 

一刀「これくらいいいんじゃない。皆喜んでたし。あ、でも他のやつに正体ばれそうになってもそれは知らないからな。そこは自己責任で。」

 

星「主...」

 

翠「おーい、変態仮面でてこーい!」

 

 遠くから聞こえるその声に、

 

星「へ、変態とは失礼な!またもこの美を理解できないとは全く...」

 

 そう言うと星はそっとこちらを振り返る。

 

星「主その...」

 

 仮面を装着してこちらに尋ねる。

 

星「私は翠の言うように見えるのでしょうか...?」

 

 少し自信なさ気なその問に、

 

一刀「最高にかっこいいって!ほら、まだ仕事があるんだろ?いっておいでよ。」

 

星「...御意!」

 

 嬉しそうに微笑むと星はまた駆け出していった。その日、各地で出没した華蝶仮面の存在は、自分たちを含めて町中の人に知れ渡ることになった。

 

 

○霞

 

霞「あかん...目、醒めてしもうた。」

 

 まだ日は出ておらず、空は暗い。そんな時間に目が覚めてしまった霞はなんとか寝直そうとするのだが、全く眠気は襲ってこない。

 

霞「しゃあない。鍛錬でもしよか...」

 

 そう思って部屋の片隅に立て掛けられた、青龍刀の模造品に出を伸ばそうとしたところで、

 

霞「ええこと思いついた♪」

 

 

 

 

霞「抜き足差し足忍び足っと。ふんふふ~ん♪」

 

 本当に忍ぼうとしているのか旗から見れば分からないが本人は本気である。ただ、ちょっと自分の素敵な思いつきにテンションが上がりすぎて周りが見えなくなっているだけだ。その思いつきとは、

 

霞「愛紗の寝顔♪愛紗の寝顔♪」

 

 どうやらまだ眠っているであろう愛紗の寝顔を拝みに行くようだ。霞は愛紗の部屋の前まで行くと、そーっという擬音を口にしつつその戸をゆっくりと開ける。

 

霞「おじゃましま~す。」

 

 寝ているならば絶対に聞こえないような小声でそう言質を取ると、こそこそとベッドに忍び寄る。そして枕にかけられたふとんをそーっと動かしていく。

 

霞「それじゃ、拝ませてもらうで~♪」

 

 しかしそこにあったのは、人が寝ているかのように見せかけるために置かれた、枕の山だった。

 

霞「なんやこれ。」

 

 どうやら部屋の主はいないらしい。予想外の光景に頭をかしげる霞であったが、

 

霞「愛紗が寝ているみたいに装ってある?...まさか!」

 

 霞の至った結論は、

 

霞「愛紗が寝てる間に誘拐された!?」

 

 だとしたら一刻も早く探しに出なければならない。そのためにもまずは一刀にこの緊急事態を報告せねばと思った霞は愛紗の部屋を飛び出した。しかし、一刀の部屋のある廊下の角を曲がる寸前、霞は見てしまった。

 

愛紗「...失礼します。」

 

 頬を赤く染め、服も慌ててきたかのように乱れた格好の愛紗が、一刀の部屋から出てくるのを。思わず霞は廊下の角に隠れてしまう。

 

一刀「もう少しゆっくりしていけばいいのに。」

 

愛紗「朝、部屋に来た誰かが私の不在に気づけば騒動になりかねませんので。一応身代わりは用意しておいたのですが。」

 

一刀「そっか、名残惜しいけど。じゃまた後でね。」

 

愛紗「はい、一刀様も少しでも睡眠をおとりになってくださいね。」

 

一刀「ああ。おやすみ愛紗。」

 

愛紗「おやすみなさいませ。」

 

 そのままこちらに向かってくる愛紗に慌てた霞は、思わず目についた近くの部屋に隠れる。

 

霞「(なんでウチが隠れなあかんねん!)」 

 

 自分の行動の理由はわからないが、何故か霞は今愛紗の顔が見れないと思った。一刀の部屋の戸を閉めるときの愛紗の顔が脳裏によぎる。

 

霞「愛紗、めっちゃ幸せそうやったな...」

 

 しばらく霞はそのまま呆けてしまっていた。

 

 

 

 

霞「せやぁぁぁぁっ!」

 

華雄「ふっ!」

 

 槍と斧の刃が合わさり甲高い音が庭に木霊する。刃を潰しているとは言え立ち合いするならばやはり外がいい。道場にいた華雄をそう連れ出した霞であったが、

 

霞「くっ...」

 

 額に汗をにじませる霞。陽光に照らされて光るそれが頬を伝っていく。華雄にしてみれば目の前の武人はいつもと打って変わって集中力にかけていた。

 

華雄「どうした張遼!お前の腕はそんなものではないはずだぞ!」

 

霞「言われんでもわーっとるわい!でも、あ~、う~。」

 

 あまりに隙だらけなその様子に華雄も気勢が削がれてしまう。

 

霞「だぁー!もうすっきりせん!」

 

華雄「ふん。何かあったのか?」

 

 完全に溶けてしまった緊張、興が削がれたとばかりに構えを解いた華雄につられ互いに武器を収めてしまう。霞にしてみれば鬱憤晴らしにきたはずが、それすらも手につかなかった。

 

霞「あんな、愛紗のことなんやけど...」

 

華雄「またそれか。私はそのあたりの話はてんでわからんぞ。」

 

霞「愛紗、こんなに頑張ってるのに全然振り向いてくれへん...」

 

華雄「聞いてないのか。ったく...お前は女で関羽も女だ。普通そういうものではないのか?」

 

霞「そうなんかなぁ。でも、愛紗も押しに弱いから時々いけるかなーってことはあるんやで。」

 

華雄「ふむ。まあ好意を寄せられて嫌なやつはいないだろう。だが、あいつはなにかと北郷にべったりだからな。難しいのではないのか?」

 

霞「はぁ。ウチって魅力ないんかなぁ。」

 

華雄「どうしてそうなるのかはわからんが...ならば、関羽にもっと詳しい者に話をきいてみてはどうだ?」

 

霞「愛紗に詳しい?それって...」

 

華雄「それはもちろん、北郷にきまっているだろう。まあ本人に直接という手もあるが...」

 

霞「愛紗にははぐらかされそうやしなぁ。でも一刀か...」

 

 一瞬、朝見た光景が頭をよぎる。

 

霞「がぁーっ、もう!考えてばっかってのは性に合わん!ちといってくるわ!」

 

 

 

一刀「なるほど。そういうわけでこんな時間に訪ねてきたのね。」

 

 自室で仕事を終えた一刀であったが、それを見計らったかのように霞が部屋を訪ねてきたのであった。わざわざ終わるのを外で待っていたらしい霞から、朝見た光景は省かれた内容で悩みを打ち明けられる。机に刺し向かいに座るとまるでどこかの占い師とその客みたいではある。

 

霞「それでなんやけど。単刀直入に聞くけど、どうしたら愛紗に好きになってもらえるん?」

 

 自分で話してきてだんだんテンションが下がってきたのか、俯いた霞の頭をヨシヨシと撫でる。

 

一刀「愛紗は別に霞のこと嫌ってないと思うけど...」

 

霞「そういうことやなくて、こう...愛紗と一刀みたいなことや、わかるやろ?」

 

 とは言っても、どうやって好きになってもらえるかなんてわからない。自分が愛紗に惹かれていったことは話せても愛紗がどうやって自分を好きになっていたかなんてことは本人にしかわからない。

 

一刀「単純に付き合いが長いってのもあると思うけど...何度も一緒に大変なことを乗り越えてきたりしたし。」

 

霞「せやったら、ウチと華雄はもっとイチャイチャしとるはずやで?」

 

一刀「いや、それは違うような...うーん。ちなみに聞いておきたいんだけど、愛紗のどこらへんが好きなの?」

 

霞「全部!」

 

 即答だった。

 

霞「戦ってるあの表情も、綺麗な黒髪が動きに合わせてなびいている姿も、それに民のために頑張る気高いところも、星にいじられて赤くなってるとこも...全部ぜーんぶ大好きや!」

 

一刀「それには全くもって同意するよ。でそういうとこ可愛いっていうとまた照れ隠しするところがさ...」

 

霞「そうそう!それがまためちゃくちゃ可愛いやん!そないなもんみてしもうたらウチはもう...!」

 

 そのまま小一時間。

 

一刀「はっ!?」

 

 いつのまにか愛紗談義に突入してしまった二人は時間も忘れて語りこんでしまっていた。

 

霞「あちゃ~、もう皆寝てもうてしまっとるやろうな。あんまり騒ぐと思春あたりが怒りに来そうや。」

 

一刀「そうだね。」

 

霞「はぁ。結局答えは見つからへんし。やっぱりウチに魅力がないのがいけないんかなぁ。」

 

 がっくりと落とす霞であるが、

 

一刀「なんでそういう結論になるのかわからないけど...それはないよ。霞はとっても魅力的な女性じゃないか。」

 

霞「嘘や!だって、ウチいっつも兵の連中なんかにも男より漢らしい言われてるんやで?」

 

一刀「まあ全否定もできないんだけど...でも霞はこんなに可愛いだろ。」

 

霞「...ホンマ?ならウチの可愛いとこってどこ?」

 

 悲観的になり少しウルッと来ていたのか、上目遣いでこちらの目を見つめてくる。

 

一刀「いつもにこにこしてるところとか、愛紗にじゃれついて幸せそうにしているところとか、面白そうなもの見つけて興味津々になってるところとか...それに...」

 

 目を真っ直ぐ見つめられているので少し照れる。

 

一刀「今の表情とか。」

 

 そのまま、こっちを向いていた霞も頬を赤らめる。

 

霞「やっぱり嘘や、そないな冗談言わんといて。」

 

 投げやりに答えぷいっと顔を向けてしまうが、こちらとしては嘘偽りなどないわけで。

 

一刀「霞も俺の目を見てわかってるだろ。嘘なんてついてないってば。」

 

霞「...ホンマにホンマ?」

 

一刀「うんうん。嘘ついてたら針千本飲んだっていい。」

 

霞「...」

 

一刀「...」

 

霞「...そこまで言うんだったら、信じたるわ。」

 

 でも相変わらず顔をそむけたまま。その微妙な距離感を保ったまま、しばらく沈黙が支配する。だが、

 

霞「あーあ。」

 

 それは霞の呆れたようなため息によって壊される。

 

霞「一刀はどうやったら愛紗に好かれるのかわからん言うとったけど...ウチは、愛紗がなんで一刀に惚れたんかわかったで。」

 

一刀「というと?」

 

 そう言うと、こちらに顔を向け前に乗り出し、茶目っ気たっぷりな顔で答える。

 

霞「教えなーい♪」

 

一刀「なんだよ、教えてくれたっていいじゃないか。」

 

 席を立つ霞は戸の方に向かう。その背中に、

 

霞「いやや。初めて愛紗とおんなじ気持ちになれた気がするんやもん。今日はこの気持ちええ気分のまま寝たい。だから一刀、また明日な。」

 

一刀「ちぇっ。でも、元気になったなら良かったよ。じゃあおやすみ、霞。」

 

霞「うん。おやすみ、一刀。」

 

 そのまま出て行くが戸が閉まる直前でひょっこり顔をのぞかせると、

 

霞「あ、一刀に言い忘れたんやけど。」

 

一刀「うん?」

 

霞「ウチ、一刀のこともすっきやからな。ほなまた!」

 

 そのまま霞はバタン戸を閉めて帰ってしまった。しばらくその言葉の意味がわからず呆けていたが、

 

一刀「ええっ!?」

 

 

-あとがき-

 

霞「くーっ!この一杯のために生きてるって気がするのはウチだけやろか。」

 

星「いや、そうに違いない。あとはうまいメンマがあれば文句なしだ。」

 

霞「ウチはそれはええけど。」

 

れっど「そんなに飲んでると、あとで愛紗さんあたりに怒られますよ?」

 

霞「それがええんやん!愛紗がうちのこと気にしてきてくれるんやで!」

 

れっど「それはなんか違うような...」

 

思春「では、私ならばどうだ。」

 

霞「げぇっ、甘寧!」

 

星「ささーっ。」

 

思春「お前も逃がさん。」

 

星「わ、私は酒を飲んでいただけだ、何も悪くはないぞ。」

 

思春「ほう、そうかそうか。そんな口がきけるのか。ふっ...」

 

霞「まちぃ、思春、話せばわかる...話せばわかるってー!」

 

れっど「次回からまた本編に戻ります。」

 


 
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