No.620233

【艦これ】とりあえず、――から始めよう。 前編

令狐さん

サイト未完のためここで上げます。
艦隊これくしょんの時雨(二人目)視点のお話で、絵を描いた時に膨らませていたものです(絵はまだアップロードしてませんが…)
ゲーム内での話ですが、実際に作中の事が起きたわけではないです。出てくる艦隊メンバーたちは大体自分の実際使っている娘たちです。
後編は現在準備中です。誤字脱字の指摘や感想等もよろしくお願いします。
※注意※

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2013-09-17 00:40:50 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1038   閲覧ユーザー数:1000

『とりあえず、――から始めよう。』

 

【前編 彼女と僕】

 

 

僕が司令部の、提督の艦隊に加わった時には、もう、もう一人の僕が提督の隣にいた。

いつも提督の横で、つつかれたり、一緒に旗艦として出撃したり。戦艦や空母のお姉さんたちと肩を並べて、戦っていた…もう改造も済ませているみたいで、彼女は僕なんかに比べたらとてもとても強くなっていた。ああ、僕はいらないんだなぁ、見ただけでそう思った。

彼女が羨ましかった。彼女が妬ましかった。

いっそいなくなってくれればいいのにと、何度も願った。彼女がいなくなれば、僕は提督のとなりに、彼女の代わりになれるのではないかと、そんなよこしまなことばかり考えていた。

「時雨…?ごめんな、構ってやれなくて」

提督は優しいから、だから僕は勘違いしてしまう。

提督はみんなに優しいんだ。特別な好意みたいなものじゃない。

全てをあきらめていたから、僕は提督に呼ばれても、工廠から出なかった。ほかの子たちが任務をこなして少しずつでも強くなっていく中で、僕はずっとすねていた。

 

 

そんな時だった。

僕の、ずっと願っていた願いが、叶ってしまった。

いつもより肩を落として帰ってきた提督。ボロボロになった5人と一緒に帰還してきた。提督の隣に彼女はいなかった。ああ、彼女は、沈んでしまったんだ。

提督は、皆を入渠させると、部屋に籠ってしまった。

……その日、僕は夢を見た。

 

ずっと焦がれていた、提督の隣。僕にとっては初めての出撃、初めて僕は深海棲艦と戦火を交えた。

…敵は、物凄く強かった。

提督が乗っているのは旗艦の赤城さんだ。

向こうの砲撃を躱して、撃つ、撃つ、撃つ。僕も何度か被弾して、小破しているが、まだ戦える。北上さんの開幕雷撃と赤城さん・加賀さんの艦載機による攻撃で、向こうの駆逐艦はもう残っていない。

僕の攻撃じゃあ、若干装甲がえぐれる程度。隣で陸奥さんが、轟音をあげて砲撃した。重巡に命中し、たった一発で沈んでいく。

砲撃のやりとりがなされていくなかで、戦況はどんどん悪くなっていく。

赤城さんに戦艦の砲撃が当たって、中破する。もう陸奥さんも北上さんも、赤城さんを庇えるだけの余力はない。敵はもう二発目の照準を合わせている。ダメだ。あの艦には、あの艦には、提督が…!

気が付けば、身体が吹っ飛ぶような衝撃が僕を襲っていた。僕が赤城さんに被弾するはずだった戦艦の攻撃を庇って受けたのだから無理もない。

ちら、と赤城さんのほうを見る。提督も赤城さんも目を見開いてこっちを見ている。僕の名前を呼んでいる。よかった、提督は、無事だ……。

もう、浮かんでいられなかった。昔のことを思いだして、ああ僕は沈むんだ、と確信した。満足だった。幸運艦なんて言ったって結局は僚艦をひどい目に遭わせる死神じゃないか。もうそんなこと言わせない。

それに、僕には『代わり』がいる。彼女には自分でも申し訳ないことをしたなと思っていた。ずっと僕が提督の傍にいたから、きっと僕のことを疎ましく思っていたにちがいない。でも、僕にはほかにこれを託せる相手はいない。

ずっと、工廠で眠っている、もう一人の『駆逐艦 時雨』。

あの人は優しい人だから。きっととっても落ち込むだろう。

だから、彼を…提督を、よろしく頼むね……。

 

海の底へと沈んでいく中で、どんどん、身体が軽くなっていくのを感じた。これなら戻れるんじゃないかってくらいに。何かが変わっていく気がして、提督の話を思い出して。血の気が引いた。

やっぱり嫌だ。僕は、僕は『あんなもの』にはなりたくない!

嫌だ、助けて、提督、僕、提督に砲撃なんかしたくないよ、いやだ、テ イ   ト  ク

 

 

がばり、と起き上がった。慌てて場所を確認する。いつもの司令部の、いつもの工廠の隅。僕の領域だ。

あれは、『彼女』の記憶だったのだろうか。海の底に沈んで、彼女はいつか、提督の前に立ちはだかることになってしまうのだろうか。

……いつか、僕もそうなるかもしれない。そう思ったとたん、自分はなんてわがままだったのだろうという後悔が押し寄せる。艦隊で活躍する、それはすなわち、死と隣り合わせであることを、いつのまにか僕は忘れていたのではなかろうか。

あれだけ強くなっていた彼女でさえ、ああなってしまうのだ。訓練もロクにしていない僕は、あっという間に……。そう思うと出撃することが怖くなった。

提督にとっては、僕は彼女と同じだろう。だからきっと、提督は僕を訓練に連れて行く。

いつ呼ばれるのだろうか。そう、戦々恐々としていた。

そして、後日そんな僕のもとに、一枚の指令書が届いたのだった。

 

【中編へ続く】


 
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