桂花はいつもの通り、自分の仕事を片付けていた。
何時もの様に判を押し、書状を読み是非をつける。
「はぁ・・・。」
知らず知らずのうちに溜息をしている自分が居る。
どうも集中できない。
「仕方ないから休憩ね。」
そう言って桂花は何時もつけている「桂」と彫ってある耳飾を外して胸に抱き目を瞑る。
「龍翠様・・・。」
桂花は何時も集中が途切れた時や、寝る前などにこうして耳飾を胸に抱き祈る。
今日もそうしていたのだが、
「ふふ。何時もそんなふうにしてくれているんですね。贈ったかいがあるというものです。」
などと言う声が聞こえてきた。
久しぶりに聞くあの方の声に桂花は途轍もない至福に包まれる。
まるで、あの方に抱きしめられているかのようだ。
「今日はあの方の声が聞こえる。なんて良い日なのかしら。」
「へ~あの方って、桂花の好い人?」
「私に好い人は龍翠様しかいません!あ、でも華琳様・・・も・・・。」
はて?自分は一体誰と話をしているのだろう。よくよく見ると自分を抱きしめている腕がある。
その腕には「春」と彫ってある懐かしい腕輪と、
その手に握られているのはあの日に渡した自分が彼のために編んで贈った淡い緑色の髪留め。
「え・・・。」
驚いて振り向くと、そこには意地悪いけど優しい微笑を浮かべた龍翠様が居た。
「りゅう・・・すい・・・さま?」
「そうだけど、若しかして僕以外に『龍翠』何て居るのかい?」
桂花は、そっと彼の美しい淡い緑色の髪と頬に触れる。
まるで壊れ物を触るかのようにそっと。
「夢では無い・・・きゃっ!んっ!」
今だ不安げな桂花を龍翠は抱き寄せて、接吻。そして耳元に顔を寄せ
「ただいま・・・桂花。」
「りゅ、龍翠さま~~~~っ!」
そう呟くと桂花は龍翠に抱きついて泣き出した。
桂花との感動の再開をした後、龍翠は兵達を激励するために訓練所に行き5年ぶりの顔や新米などと顔をあわせてきた。
そして聞いた話によると、自分は魏の中で伝説に近い存在なのだとか。
其れはさて置き、龍翠は華琳が自分の居ない間に増えた仲間武将を紹介したいと言っていたので今は玉座に居る。
「初めまして。僕は曹朋錬鳳、真名は龍翠。どうぞ真名で呼んでください。」
そう言って僕が居ない間に来た者達に挨拶をする。
「え~と初めまして、龍翠様!僕は許緒!真名は季衣って言います。よろしくおねがいします!」
「私は、典韋、真名は流琉って言います。宜しくお願いします、龍翠様。」
元気の良い女の子がまず始めに挨拶をすし、次に季衣よりは幾分か大人しめに自己紹介をする流琉。
二人とも可愛らしい女の子と言った感じがするが、これでも強いのだろう。
自分も、この娘くらいの時に武官になったのだから。
そして何よりも思ったのは、
「何だか、子供の頃の春蘭と秋蘭を見ているみたいですね。」
「龍翠様もやはりそう思いますか?」
僕の呟いた言葉に秋蘭が反応を示す。
「ええ、まぁそんな事はさておき、よろしく季衣ちゃん、流琉ちゃん。」
ぽんぽんと頭を撫でると、えへへと嬉しそうに表情を緩める二人。
そして龍翠は他の者に目を向ける。
「は、初めまして、りゅ、龍翠様。郭嘉、真名は稟ともうします。よ、よろしくお願いします。」
少し緊張気味に自己紹介をしためがねをかけた文官のこれまた可愛い女の子。
「そんなに硬くならないで?もっと肩の力を抜きなさい。」
そう言って、龍翠は彼女の方をぽんと触れる。
と、そのとたん
「ブツブツ・・・・ブーーーーーーーっ!」
となにやらブツブツいって、鼻血を出して倒れた。
「ええ!?ちょ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫ですよ~何時もの事ですから~。」
とのんびり口調で自分の横に来た女の子。
何故か頭に人形が載っているが、触れてはいけないんだろうな、と龍翠は思ったのであえて無視した。
「えと、キミは?」
「申し送れました~。私は程昱、真名は風といいます~。それでは、はい稟ちゃん首トントンしましょうね~。」
「ふがふが。」
彼女は稟を真名で呼んでいるのだから仲は良いのだろう。
風は稟を引きずって何処かに行った。血の跡を残したまま。
「・・・・・。コホン。では次に僕から。」
龍翠は咳払いをしてその光景を見ない事にした。
「武官の今の実力を測りたいので、一刻後各々の武器を持ち、鎧を着けて中庭に来て下さい。勿論、春蘭も秋蘭もね。華琳と他の文官の娘は審判をして欲しいから来てね?僕は先に中庭にいるから。」
そう言って、龍翠は出て行った。その後、他の者達はいそいそと準備をして中庭に向かった。
~中庭~
龍翠は、中庭に着くと一般の兵達に支給されている剣で素振りをしていた。
それも残像が残るような速さで振っているため、他のものが見たら腕が何本もあるように見えるに違いない。
「・・・来たみたいですね。」
遠くのほうからガヤガヤと姦しくやって来るのが分かる。
皆が僕のことに気付くと駈足(かけあし)でやってくる。
「兄さん、まった?」
「いや、そんなに待っていないよ。準備運動も丁度終わりましたし。じゃあ、誰から来ます?」
そう言って、龍翠は手に持っている支給品の剣を軽く振り回す。
「あれ?龍翠様『牙龍』は?」
龍翠は愛用の武器を持っていないので不思議に思う春蘭。
「ああ、牙龍は手入れをして貰う為に、作った鍛冶屋に渡しに行ってもらいました。」
そう言ってのほほんとする兄に華琳は溜息をついた。
「はぁ。それじゃあ集まった意味ないじゃない。」
「良いの良いの。僕はこのまま行くから。」
でもと続け、
「唯やるってだけじゃ面白くないですし。ねえ華琳、賭けをしません?」
「賭け?」
面白い事を思いついたという顔をする龍翠。
「うん♪もし僕が、今からやる誰かに片膝つかされたらなんでも、みんなの言う事1つずつ聞いてあげる。そ・の・か・わ・り~。」
「誰にも片膝つかせなかったら兄さんの言うこと聞くというわけね。へ~面白いじゃない。良いわよ乗ったわ。」
と、ニコニコ顔で言う龍翠と華琳。
龍翠は見かけによらずこういったお茶目な事が大好きだったりする。
だが、その横で蒼い顔をする秋蘭がいる。
『龍翠様は本気でヤル気だ。』
そう感じ取った秋蘭は季衣と流琉に
「いいか?流琉、季衣。龍翠様を本気で殺すつもりで行け。丸腰に近い状態とは言え、相手は伝説の魏の龍と謳われた御方だ。いいな?」
「「は、はい!」」
秋蘭の只ならぬ雰囲気を悟ったのか緊張気味に返事をする二人。
「何を言っているのだ秋蘭。訓練とは言え、そんなの当たり前だろう。」
秋蘭は場の空気を読めない姉を今回ほど、心底羨ましく思ったことは無い。
「じゃ、規定として死ぬような傷負わせるのなしね。あと、敗北条件は気絶か、参ったと言う事と武器を手放す事。僕はコレに片膝を付くが入るから、皆頑張って片膝つかせてね♪それじゃあ、始めっ!」
ヒュヒュン!
そう言うや否や行き成り目の前に矢が飛んできた。
だが龍翠は冷静にその矢を掴み、時間差で飛んできたもう一本の矢に向かって投げる。
ヒュン!
ガキン!
鏃同士がぶつかり二本ともぶつかった場所で地に落ちる。
ここで、注意して欲しいのは秋蘭は愛用の弓の「餓狼爪」で矢を放ったが、龍翠は手で投げただけという事だ。
愛用の弓で射た矢を其れと同等の力で相殺出きる者など、この世に龍翠唯一人だけだろう。
「不意打ちなんて、秋蘭ってば相当やる気ですねぇ~?それに今ので僕の実力の鱗片を二人に見せるなんて。さすが切れ者の秋蘭ですね。これは、気が抜けません。」
と、剣を地面に付きたてながら言う龍翠。
「お褒め頂、光栄です。(全く気を抜いていらっしゃらないでしょに・・・。)・・・分かったか?流琉、季衣あの御方に常識は通用しない。」
そう言って、二人のほうを見るとポカーン呆けている。
龍翠はそんな3人を見ていると横から、
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
と雄叫びを上げ、七星餓狼を振り下ろしてきている春蘭がいた。
春蘭なりに死角から来たつもりなのだが、振り下ろされるその大剣を手を傷つけぬように掴み取られ。
「まだまだですねぇ~♪」
そして、龍翠は余裕の笑みと共に背負い投げの要領で春蘭を遠くに投げ飛ばした。
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ
春蘭はゴロゴロ転がって、
ベチャっ!
「ふぎゅっ!!」
壁にぶつかった。器用にも転がっている間に武器を落とさない。
そんな姉を見て秋蘭は
「そして一人で行くと・・・ああなる。(皆で行ってもああなるかも知れんが・・・。)」
二人に春蘭を指差しながら、説明している。
勿論密かに思っている事は、言わない。
その様子を、文官と華琳達は面白そうに見ていた。
「さて、お遊びは是位にして・・・皆でおいで。」
そう妖艶に微笑みながら言う龍翠。
3人は投げ飛ばされた春蘭の元に行き、皆で向かうことを春蘭に言っているようだ。
「準備は出来たようだね?どうぞ?好きなときに。」
そう言うと、皆が自分の攻撃位置に付いた。
前衛は春蘭・季衣・流琉、後衛は秋蘭。
考えて当然だろう。
だが、流琉と季衣の武器は零距離武器ではない。中距離武器なので支援もできない事は無い。
読者に分かりやすく言うと剣玉(ただし、玉が巨大で棘の付いた鉄球)とヨーヨー(ただし巨大)。
だから正確には前衛は春蘭、中衛は季衣と流琉、後衛は秋蘭となる。
「へぇ~。その身体でそんな重そうな武器を使うなんて・・・。見た目より力持ちみたいだね。」
「(兄さんが其れを言えた義理ではないでしょう。)」
華琳は兄の呟きにもっともな事を考えていた。
「じゃ、いっくよ~~!」
ブォン!!
そう言って、季衣は愛用武器『岩打武反魔』を龍翠に向かって投げた。
重さと遠心力を利用し、かなりの速度となっており、まともに当たれば無事ではすまない。
其れと同時に春蘭は龍翠の右、流琉は龍翠の左へ向く避けた所を攻撃するのだろう。
もし後ろに逃げても、秋蘭による後方射撃がある。
普通ならよい策だ、そう普通なら。
だが、相手は予測していた以上に全く常識がなっていなかった。
「よっと。」
ガシッ!
物凄い速度で飛来してくる巨大な其れを両手で受け止めたのだ。
「「「「・・・・・へ?」」」」
その様子を見た春蘭、季衣、流琉、稟はあいた口が塞がらず、
「「・・・・・。」」
「・・・ぐぅ。」
「寝るな!!」
「おぉ!余りにも非常識すぎる光景に現実逃避してしまいました。」
あの秋蘭と華琳、さらにはマイペースを崩さな無そうな風までもが、目を丸くしている。
流石に鉄球は避けるだろうと誰もが思っていたのだが、認識が甘かった。
華琳は自分の義兄の非常識さに驚きを通り越して、呆れが入ってきた。
さらに、それだけでなく龍翠は徐に、鉄球についている鎖を握った。
「ッ!季衣!鎖を切り離せッ!」
何かに気づいた秋蘭が季衣に指示を出すが、もう遅い。
「え?きゃ!?」
なんと龍翠は、鎖を逆に引っ張り季衣を自分の元に引っ張り寄せたのだ。
季衣は、武器を落とさぬようにしっかりと小槌と鎖を握っていたのが仇になった。
身体が浮き、龍翠の元まで引き寄せられ、
「いらっしゃいませ~♪」
そして、物凄い笑顔で迎える龍翠に、お姫様抱っこされて収まってしまった。
「・・・・・・・・・。」
いまだに何が起こったのか分からずに混乱で硬直している季衣。
「敗北条件に、武器を落とすってのがあるんですけど。素直に落としてくれませんか?」
「い、いや流石に其れは無理ですよぉ・・・。///」
そんな季衣に顔を近づけてそう囁く。
その龍翠の行動に少し顔を赤くしながら応える季衣。
このとき、この場にいる全員が季衣を羨ましく思った。
が、次の瞬間其れは覆される。
「ですよね~。では、素直に武器を置いてくれないイケナイ娘には、『お仕置き』をしましょう。」
「「「「ピクッ!」」」」
「お仕置き」の単語を聴いた瞬間ある3名が顔を蒼く染め、1人が頬を赤く染め身悶えた。(1人が誰かは推して知るべし。)
そして、龍翠は季衣を抱きかかえたまま、擽った。
「え?あ、あははははははははははは!!!!!」
「さぁ~早く武器を落とさないと大変な事になりますよ?」
擽りも立派な拷問、長時間受けると呼吸困難で死んでしまいかねない。
それなのに惚れ惚れするような笑顔で季衣を擽る龍翠。
そしてその姿を見て、ある1人以外全員が恐怖に震える。
さらに華琳、春蘭、秋蘭に至っては、龍翠の笑顔を見ると
春蘭は自分を抱きしめ「中ずりは嫌中ずりは嫌中ずりは嫌チュウズリハイヤ・・・ブツブツ・・・。」とぼやきながら震えており、
秋蘭も同じく自分を抱きしめ「蛙は嫌蛙は嫌蛙は嫌カエルハイヤ・・・ブツブツ・・・。」とぼやきながら震えている。
そして、誇り高いあの華琳ですら膝を抱えて震えながら下を向き「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいゴメンナサイ・・・ブツブツ・・・。」とぼやいている。
三人とも恐らく自分が幼い頃にされたお仕置きを思い出しているのだろう。
そんな三人を見て「一体どんなお仕置きだったんだろう?」と風、稟は思った。
流琉に至っては、そんな三人を見て震えている。
顔を赤く染めて、悶えている一人は意図的に無視された。
「ひぃ~~~~!!!ひゃははははっ!!」
「ほ~ら、此処ですか?此処が良いんですか?」
流石は曹孟徳の兄。
お仕置き(拷問)も晴れやかな笑顔で出来る。
そんな晴れやかな笑顔でお仕置きされては、必然的に精神的外傷(トラウマ)にもなるだろう。
季衣も必死に耐えているが、もう屈してしまいそうである。
「え、えぇ~~~いっ!」
ブォン!
そんな、季衣を見かねた流琉が、顔が蒼いながらも伝磁葉々を龍翠に向かって投げた。
「おいたはいけませんよ?」
ドカっ!
ガチンっ!!
だが、龍翠は足元に有った季衣の岩打武反魔を蹴り飛ばして当て、相殺する。
カランっ
そして、その蹴った弾みで、季衣の手から持ち手の小槌が離れる。
「はい。それでは、一人脱落~♪でいいですよね?華琳。」
「・・・え、ええ。(兄さんに抱かれていたのが羨ましいけど)季衣は脱落ね。」
華琳がまだ少し震えてはいるがそう応えると、龍翠は皆に背を向け季衣を地に降ろす。
「ひゅ~~・・・かひゅ~~。」
季衣は呼吸が変な感じになっており、目にも涙が溜まっている。
「ゴメンね?季衣ちゃん。チュッ。」
そう言って額に口付けを一つ。
「ひゅ!?///」
すると、季衣の顔が熟れた林檎のように赤くなった。
勿論、周りには龍翠が影になって、季衣のその表情は見えていない。
この日、龍翠は女の子1人を堕とした。
「さて、残りは3人如何します?」
まだ続けるでしょう?という意味の笑みを浮かべて三人を見る。
「「「・・・・・・・。」」」
震えていた三人はギリギリで復活した。
だが、先ほどの惨劇を見て誰が攻撃を仕掛けられようか?
三人が三人とも一歩を踏み出せないでいたが、
「来ないのなら、此方から行きましょう。」
そう言って龍翠は流琉のほうに歩いて向かう。
「へうっ!?」
と何とも可笑しく戸惑っているが、そこは小さくても武将。
気持ちを切り替え、
「や、やーーっ!!」
ブォンっ!
龍翠に向かって鉄球を投げる。
と、鉄球が回転を始めた。
「へ~。回転する鉄球ですか。面白い。」
そういいながら鉄球に手を前に出す龍翠。
「同じ手は、喰らいません!」
グンっ!
そういうと流琉は片方の手で持っている鎖を下に下げる。
ギャリギャリッ!!
すると、鉄球は軌道を変え地面を削りながら龍翠の足元を狙ってくる。
「おっと!」
流石の龍翠も不意を付かれたのか上空に高々と跳び上がり回避する。
「今だっ!」
ヒュヒュヒュヒュンッ!!!
そこを逃がすまいと秋蘭は無数の矢を次々と放つ。
「よっ!はっ!ふっ!」
だが、龍翠は飛んできた矢を全て手で掴み、
「はっ!」
その内の一本を投げて、秋蘭に反撃した。
ヒュンッ!
ガチンッ!
カランッカランッ!
そして、秋蘭の手から矢の当たった餓狼爪が弾き飛んだ。
「そ、そんなっ!?(何処まで人間離れしていらっしゃるんですか!?)」
放った全ての矢を悉く掴まれさらに反撃で、矢で弓を弾かれかなり凹む秋蘭。
そうしている間に龍翠は地に降り立とうとする。
が、そこで待っていたのは七星餓狼を下から振り上げてくる春蘭。
「もらったー!」
「っ!?せいっ!」
普通は空中では自由落下するしかなく身動きが取れないものだが、龍翠は体を捻りその力を利用した回し蹴りを七星餓狼に叩き込んだ。
ガンッ!
ドスッ!
春蘭はその蹴りの重さと強さに耐えられず手から七星餓狼を弾き飛ばされ、弾かれた七星餓狼は壁に深々と突き刺った。
「ふう~っ。今のは少しあせりましたよ。流石、その年で魏武の大剣と魏の弓神と謳われる事はあります。少々肝を潰しました。」
「っく!」
「・・・・。」
脱落して悔しそうな春蘭と秋蘭を尻目に、流琉の方へと向く。
そして、秋蘭の飛ばしてきた矢を持ちながら、言う。
「では、流琉ちゃん。頑張って避けてくださいね?」
「え?」
ヒュヒュンっ!
と、風切り音がしたと思うとはらりと落ちる髪と、風圧によって服の一部が切れている。
先ほど秋蘭が放った矢の残りを投げたのだろうが、訓練用に鏃は潰してあるのに何でこんなに威力があるのだろう?
「・・・・・。(これ当たったら死ぬのでは?)」
そんな固まったまんまの流琉など何処吹く風の龍翠。
「さぁ、余所見をしていると痛い目に遭いますよ?」
ヒュヒュヒュンっ!
そう言うや否や矢を投擲する龍翠。
その矢の嵐から必死になって逃げる流琉。
だが、其れも限界が来てしまい・・・、
「ふぇ~ん・・・。」
つけていた鎧の隙間などに矢が入り込んでそのまま壁に縫い付けられていた。
「クスクス・・・。さぁ~て、流琉ちゃんにはどんなお仕置きをしてあげましょうかねぇ?」
「う~。な、何で、そんな楽しそうなんですかぁ・・・。」
そう言いながら手をワキワキさせながらよって来る龍翠に、身体を震わせ怯えながら応える流琉。
はたから見ると痴漢がいたいけな少女を襲っているようにも見えない事は無い。
現に、華琳はそう思ったのだから。
本来の流琉なら、矢程度で壁に縫い付けられようが自慢の怪力でどうとでもなるのだが、
如何せん恐怖に身体が震え、思うように力が入らない。
「では、季衣ちゃんと同じく・・・。」
「ふぇ?や、あっはははははは!!!!!」
そして、季衣と同じように流琉にも笑顔の擽りの刑。
流琉は季衣よりコレに弱かったらしく僅か1分程で武器を落とした。
そして、目に涙を溜め震えている流琉に龍翠は、
「ゴメンね?流琉ちゃん。チュッ。」
謝罪と共に額に口付けを一つする。
「あ・・・///」
おかげで、蒼かった顔は今度は一気に真っ赤に染まった。
龍翠は2人目の女の子を堕とした。
「さて~全員終わりましたね。」
と言って華琳の方を見る。
「悔しいけど、兄さんの勝ちね。(四対一でさらに丸腰でどうやって、魏の誇る武将を無傷で屈する事が出来るのよ!)・・・それで、兄さんから見たこの娘達の評価は?」
華琳は自分の義兄の非常識さに内心嘆いていた。
華琳のそんな嘆きなど露知らず、龍翠は四人を見て
「予想よりかなり良いです。季衣ちゃんや流琉ちゃんはまだ時間はあるからこれから磨いていけば良いし、春蘭は太刀筋、秋蘭は精密さと連射の速度共に申し分ないです。」
が、と続け
「やはりまだ学ぶべき事はあります。季衣ちゃんと流琉ちゃんは鉄球の投げの型を増やし、投擲後にできる隙を少なくする。春蘭は、一対一の時には少し小回りの聞く技を身につけ隙を少なくする事。秋蘭は今よりさらに連射時の精密制と体術を身につけたほうが良いでしょう。」
其々にとって的確で的を射た助言が出来るのは流石、魏の龍という事だろう。
「だそうよ?」
「「「「御意っ!ありがとうございましたっ!」」」」
そう華琳に促されると四人とも龍翠に向かって礼を述べた。
「さぁて、華琳?約束覚えていますよね~?」
と嫌味なほど良い笑顔をする龍翠。
「ええ、悔しいけど。賭けは兄さんの勝ちよ。で、願いって何?(今夜部屋に来いとか?)」
少し華琳は悔しそうにだが内心期待しながら龍翠に問う。
「ねえ、華琳?もう一度賭けの内容言ってみて。」
「?この娘達が兄さんに勝ったら、私を含めた八人の願いを一つづつ叶える、この娘達が負けたら兄さんの願いをかなえる。あっ!」
何故そんな事を今さらと、思いながら言っているとあることに気付いた。
「気付いたかい?華琳。」
「やられたわ・・・・。兄さん回数制限してないじゃない。」
してやったりな顔をする龍翠と心底悔しそうな顔をする華琳。
「大丈夫だよ。そっちが八人だから僕も8回分のお願いしかしませんよ?それとも、兄と妹の間柄とは言え、曹孟徳ともあろう人が一度した約束を反故にするのですか?」
すごい卑怯な言いかただと龍翠も内心思ったが、仕方が無いこれから話すのは若しかしたら命にもかかわる。
「っく。分かったわよ!で、願いは何?」
そう華琳が言ったとたん龍翠が少し困った顔をしているのが分かった。
「え~と、その~。華琳、絶対に怒らないって誓う?」
「?良いわよ。」
「本当に?」
「ええ。」
「絶対?」
「ええ。」
何度も聞いてくる龍素に少しいらいらするが、次の言葉が華琳を驚愕させる。
「僕が、月に1週間呉に行っても?」
「ええ・・・・・・・・・・・・・・はぁっ!?」
その言葉を聞いた瞬間華琳は今までに無いくらいに驚愕した。
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三作目突入!!
今回は武官文官との触れ合いや、武官との戦闘訓練を書いた少し長めの作品となりました。
其れと初のアクション描写に挑戦したのですが・・・・、アクション描写は難しいです(^_^;)
スプラッターな現場だったら書けるのですが・・・。
とまぁ其れは置いといて・・・・
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