No.614571

新・戦極†夢想 三国√・鬼善者を支える者達 第019話

環境が違うと、ネタって思い浮かびやすいですねww

と言うことで、要塞です。
運転免許合宿もなんだかんだで楽しくやっていますが、早く帰りたい気持ちの方が上待っている事実ww

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2013-08-31 21:41:24 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:1435   閲覧ユーザー数:1276

新・戦極†夢想 三国√・鬼善者を支える者達 第019話「散り行く友の命」

張譲「陛下!!陛下!!」

 

張譲は大声を上げながら劉弁のいる寝室へ、部屋の前にいる使いも構わずに押し入る。

部屋には寝具の上に横たわっている劉弁と彼を取り囲む服を乱した女たちがいた。

突然の乱入者に周りの女たちは少し声を上げ、乱れた服装を整えるが、劉弁は未だ寝転がり起きようとしない。

張譲は軽く首で「二人にさせろ」と言わんばかりに周りに合図を送ると、劉弁の部屋には劉弁、張譲二人だけの空間に支配された。

彼は劉弁に駆け寄ると、そっと耳打ちをする。

 

劉弁「何?連合軍がもう洛陽まで近づいてきているだと」

 

それを聞くと彼は先ほどの気だるそうな表情は捨て、眉間に(しわ)を寄せてを張譲を睨む。

 

張譲「物見からの報告によると、数十里先により連合軍らしきものが現れたとか。数は騎馬10,000ですが、恐らくそれは先攻部隊。これを見るに、既に虎牢関も落とされたと考えるべきかと……」

 

劉弁「そうか。ならば張譲、洛陽に火を放て」

 

突然のこの発言に張譲は驚いた。

元はといえばこの戦は董卓が劉弁の閨を断り、さらに彼女が彼を突き飛ばした嫉妬から始まった。

彼は優秀な"駒"を捨てるのは忍びないとも思っていた。

だが自分の意見に逆らうものも生かしてはおけない。

皇帝に逆らったものとして処刑または、抵抗する彼女をそこで強姦出来れば彼にとってはなんとも痛快であろうか。

しかし、いくら権威が落ちたと言っても皇帝である。

その皇帝が抵抗する臣下を強姦したとわかれば、より権威は失墜し、第二の黄巾の乱も起こる可能性もあり、董卓に忠誠を誓う者に何かされることも明白だ。

ならば暗殺かと考えれば、董卓の周りには優秀な臣下が囲まれている為、暗殺などもってのほか。

彼女一人を呼び寄せ、殺すことも可能であろうが、董卓に付き従っているものの殆どは、"董卓"に忠誠を誓っているのであって、漢……つまりは"自分"に忠誠を誓っている者などはいない。

もしその計画が成功しても、才ある者は自分に取り入られようと付け込み、最後には隠した小刀などで自分を刺し殺すであろう。

豪ある者は、無謀と判っていようとも、単騎ででも特攻して自分の首を狙う。

その様な無謀な賭けに出る自分ではない。

ならば、じわじわと董卓を追い込み苦しめ殺す作戦にしようと、張譲の策と皇帝の名を使い『反董卓連合』を結成させる機会を設けた。

いくら董卓軍が精強と言えど、西には最近の成り上がり者ではあるが、アノ辺境の地を収めきり、さらに黄巾の乱の折には多大な成果を挙げた影村と申すもの。

北には公孫賛に名門で大軍を用いる袁紹。

南には袁術に、東には曹操、老いてはいるが未だ健在の陶謙。

これほどの大軍に勝てる見込みなど、あるはずもないと確信していた。

そして連合が洛陽に辿り着けば、自分の嘘がばれてしまう為、(はな)から洛陽は燃やすつもりであった。

しかし張譲が驚いたのは燃やすことでは無かった。

いくら皇帝の権威が失墜し、董卓によって立て直されようとしている洛陽でも、この都は劉弁の"祖"劉邦から始まった都である。

その何百年と続く都をいくら計画が早まったとはいえ、あっさり「燃やせ」と言えることに対して驚いたのである。

 

劉弁「どうした張譲、今更怖気づいたのか?それとも………俺の命が聞けないと言うのか?」

 

張譲「………御意」

 

そして変わり連合先攻部隊

重昌は紅い血の色の様な馬で先頭を走り、赤備え部隊を率いて先を急ぐ。

彼の乗っている馬はあの赤兎馬。

しかし彼が手に入れた成り染めは今はおいて置こう。

駆けていく赤備え部隊の光景に写ってきた物は、まだ太陽が天辺にまで昇っている白い雲の青空が徐々に夕方のような赤い空と黒い暗雲が立ち込めていき、それはどんどんと近づくにつれ濃くなって行く。

完全に目視できる様になって判ったのは、今洛陽は燃えている事実であった。

城外から出てくる民は、傷ついているものがいれば保護し治療を。

無傷の者がいれば事情を問いただした。

話によれば賊が入り込み洛陽に火を放ったようだ。

その混乱の最中、皇帝は何者かに連れ去られ、今現在近衛による捜索及び都の消火作業が行われていた。

重昌は軍を5,000ずつに分け、片方は陛下追跡部隊へとまわした。

動ける民を落ち着かせ、そして残りを引き連れ洛陽の消化へと乗り出した。

 

重昌「いいか、火の元となる建物は壊せ!!これ以上の火の回りを増やすな!!特に油が多い所には火をやるな!!」

 

暫くすると遅れて来た劉備軍も、洛陽の惨状を目にする。

 

馬岱「……そんな」

 

劉備「……こんなことって――」

 

放心している劉備軍に重昌の怒号が飛ぶ。

 

重昌「おい翠、蒲公英!!そんな所で見ていないでお前らも消化作業に加われ!!」

 

馬超「あ、あぁ……」

 

馬岱「判ったよぅ」

 

彼は劉備軍の兵士にも細かい消化方法と消化場所など、義身内(みうち)である二人には消化方針など与えた。

しかし、劉備はいないものとして扱われたことについて、劉備軍の兵士は状況が状況であるので気にすることも忘れていた。

 

すると何処からとも無く一つ大きな声が聞こえた。

 

???「貴様らそこで何をしている!?」

 

出てきたのは(すさ)んで汚れてはしまっているが肩と腰の間ぐらいまで伸びる髪を持ち、その奥の目は()んだ空の様な蒼色の瞳を持つ、近衛の鎧を着た女性であった。

 

重昌「私は西涼の影村。今この状況では敵ではない。貴殿の名は」

 

女性「………私は皇帝陛下直属、近衛が将、皇甫嵩。……いや、元将と言ったところか?そんなことはどうでもいい。西涼の将が何故ここにいるか?」

 

重昌「私は洛陽で暴政を働いている董卓を討ち取る為に結成された、『反董卓連合』の先攻部隊参謀だ」

 

皇甫「反董卓連合?」

 

そう聞くと彼女は腰に挿す剣の柄に手をかけようとしたが、重昌が『瞬脚』に顔前まで差を詰めたので、彼女の動きはそのままで膠着した。

彼はそっと皇甫に耳打ちをする。

 

重昌「落ち着け、私は敵ではない。えi……いや、董卓と賈駆の元に案内してくれるか?」

 

皇甫はそう聞くと、彼が賈駆の真名を言いかけた時眉をピクンっと動かし。

そして重昌を見上げる様に睨みつける。

 

皇甫「貴様に月様と詠の元に案内させる理由が何処にある?」

 

重昌「そうさな………(あおい)の仲間と言えば判るかな?」

 

そう呟くと皇甫は手の柄の剣を一気に抜き去り影村を切り伏せたい衝動に駆られるが、そこはグッと堪え、あくまでも冷静に。

しかし我慢が漏れてしまっているのか、彼女は小さな怒気を含む声で影村にしか聞こえない声で問いただす。

 

皇甫「何故……貴様が葵姉ぇの真名を呼ぶ?」

 

重昌「無論、交わしたからだ」

 

皇甫「………(まこと)であろうな?」

 

彼女は影村の目をしっかり見据え、彼はその彼女の顔に自分の顔を正面に向け、そしてその目を見据えなおし言う。

「嘘であれば葵と共に私を嬲り殺せばいい」っと。

彼の放つ覇気に当てられ皇甫は少し退いてしまうが、だが自分に当てられているその瞳を見つめなおすと、「付いて来い」っと言わんばかりに背中を向けて先導する。

重昌は軍を柑奈に預け、椿(愛紗)だけを引き連れ皇甫に付いて行く………その後ろから誰かが付いてきていることを知らず。

連れて来られたのは皇帝の住む宮中の隣にある董卓邸。

その周りは何とか火を消し止めようと今も近衛による消火活動が行われている。

この近くを重昌と椿(愛紗)が近づくと、近衛の兵は臨戦態勢をとるが、皇甫の手の静止で直ぐにそれは解かれて、再び消火活動が行われた。

それを見た重昌はこの様な状況でも決して気を緩めず。

尚、上官?である皇甫の指示も即座に判断した近衛兵を良く訓練されていると思った。

皇甫は燃え盛る宮中の壁を力ずくで壊して先導すると、重昌達もそれに付いて行く。

途中、天井の一部が損壊して、皇甫に接触しそうな危うい状況もあったが、その時重昌が小さな声で「椿」と呟くと、呼ばれた彼女は自分の獲物『冷艶鋸』でそれを一刀両断する。

皇甫もそのときは素直に礼を言い、三人は先を進んでいった。

やがて火がそんなに回っていない区画に侵入すると、とある扉の前に皇甫は立ち止まり「ここだ」と言う。

椿(愛紗)はその扉を一気に蹴破ると、そこには二人の少女の姿があった。

その人物は愛紗の良く知る人物であり、一度はもう二度と会えることも無いかと思い、涙を流した人物でも会った。

 

しかしその人物は彼女の知る月と詠ではなく、彼女とは全く面識の無い董卓と賈駆の人物であった。

賈駆は青みが混じった黒色の髪で、両耳には長くて細いお下げ髪。

薄くて上が開いているフレームの赤縁(あかぶち)眼鏡をかけて、黒色の文官が着るような服に身を包み、彼女の服の特徴はミニスカートと黒タイツと言ったところであろうか?

その彼女に抱いて抱えられている少女が董卓である。

愛紗は董卓に自分の獲物を向けて問いただす。

「貴殿が董卓だな?」っと。

 

賈駆「違うわ、僕が董卓よ!!」

 

愛紗「貴殿が董卓と言うのか?」

 

賈駆「そ、そうよ」

 

愛紗「ん?私の記憶ではお前は賈駆という人物のはずだが?」

 

賈駆「な、なんであんたg――!!」

 

すると彼女は片手で口を覆い、しまったっと言う顔をしてしまうが、時は既に遅し。

そんな場面を繰り広げた後で、愛紗の後ろから重昌がノソッと現れる。

 

重昌「椿、弱いもの虐めもそれぐらいにしとけ」

 

賈駆「先生!?」

 

重昌「久しぶりだな詠。塾を卒業して以来か?」

 

すると董卓は賈駆に抱きしめられている腕の拘束をそっと外すと、重昌と対面して立ち上がった。

 

董卓「始めまして影村様。詠ちゃんと音々ちゃんの先生ですね。話はいつも二人伺っています。どうかこの命で、私の部下である仲間たちの命を救ってくれませんか?」

 

賈駆「そんな、月!」

 

皇甫「そうだよ月様。そんな大層なこと言うもんじゃないよ」

 

部屋の外に控えていた皇甫も話に割り込んでそう進言する。

 

董卓「紅音(あかね)さん、どうしてここに?」

 

紅音というのは、皇甫嵩の真名らしい。

 

皇甫「………いろいろあってね。月様、今回のことはあんたには非はないはずだよ」

 

賈駆「そ、そうよ!!元はと言えば――」

 

突然、所と月日は変わって……数日前の連合陣にて。

二日後、作戦決行の日が訪れ、西涼騎馬10,000が待機していた。

そこに馬超、馬岱率いる500の騎馬隊+劉備が合流。

 

馬岱「ほぇ~、またいい馬がそろっているね。お姉さま」

 

馬超「あぁ、確かに西涼にはいい馬が揃っているが、私達が居た頃より馬体もしっかりと絞られて無駄な肉も無い」

 

馬岱「でもあの馬達の背中にぶら下げられているのは何かな?」

 

重昌「あれは鐙だよ」

 

馬超達が話している横に重昌が割り込み話しかける。

 

馬岱「義伯父(おじ)さん、久しぶり」

 

そう言うと馬岱は重昌に飛びつき、彼は馬岱を抱えてクルクルと回る。

再開を確かめあっていると、馬超が重昌の言った一言が気になり、質問をぶつける。

 

馬超「それより義伯父(おじ)さん、あぶみ……とは一体何だ?」

 

重昌「これに関しては口より体験してもらう方が早い。とりあえず、鐙に足を掛けて馬に乗って見せてくれるか?」

 

そう施され、二人は鐙に足を掛けて馬に跨ると二人は目を輝かせる。

 

馬岱「――凄いよ義伯父(おじ)さん、ホントに凄いよ!馬の上でも地面の上みたいに立てるよ」

 

馬超「……本当だ。これなら馬上での槍使いが数段にあがるぞ」

 

重昌「気に入ってくれたか?それなら一つずつやろう」

 

馬超「え?いいのか義伯父(おじ)さん。……私達今大した金も持ってないぞ」

 

重昌「……可愛い姪っ子の為に言っているのだが、お前は私の事を何だと思っているのだ?」

 

彼の一言で馬超は「え、いや、その」などと挙ってしまう。

そこに馬岱が助け舟を出す。

 

馬岱「だって義伯父(おじ)さん、いつも言ってたじゃない。『何かを得る為には、何かを犠牲にしなければならない』って」

 

重昌「さて、どうだかな」

 

劉備から離れた場所で、家臣であり仲間である馬超と馬岱が二日前自分の事を「小娘」と蔑んだ影村と楽しそうに話している。

あの自分を冷たい目で見降ろした男は、今あんなに楽しそうに見ていて惚れ惚れする様な無垢な笑顔を浮かべている。

彼のホントの顔は一体どれであろうか?

しかしそれでも人を焼き殺すことの出来るようなあの男、母より託された自分の剣を負ったあの男を許すわけにもいかない自分もいる。

一体自分は彼をどうしたいのか?

世の中を平和にしたいという思いが同じであれば、判り合うことだけではホントに判り合えないのだろうか?

 

決行時刻が近づいてくると、西涼騎馬10000と劉備騎馬500が持ち場に着く。

西涼騎馬は動きやすく軽装備であるが、その一団は朱く染まっており、先頭にいる重昌も朱い馬に跨っている。

 

劉備「――赤い……軍団?」

 

馬超「桃香様、”赤”と聞かれれば、何を連想してしまう?」

 

劉備「赤?それは……情熱とか闘争とか?」

 

馬岱「そう、情熱・闘争・怒り。赤は味方を奮起させ、また相手にとって勢いの増した敵は恐怖となる。その(あか)色の軍団は、義伯父(おじ)さんは『赤備え』と呼んでいたよ」

 

赤備えとは具足、旗差物などのあらゆる武具を朱塗りにした部隊編成の事。

戦国時代では赤以外にも黒色・黄色等の色で統一された色備えがあったが、当時赤は高級品である辰砂で出されており、戦場でも特に目立つため、赤備えは特に武勇に秀でた武将が率いた精鋭部隊である事が多く、後世に武勇の誉れの象徴として語り継がれた。

史実では武田家の代名詞として使われたが、重昌がその昔、突然連れて来られた彼の始まりである戦国外史では、一番最初に赤備えを行ったのは長尾恋歌であり、赤備えは上杉・武田騎馬隊の代名詞となった。

 

西涼の将の編成は重昌、椿(愛紗)、柑奈。

劉備軍は劉備、馬超、馬岱となった。

やがて作戦は決行され、連合側は虎牢関攻撃を開始し、暫くしてから別働隊は動いた。

連合側はまずは兵の多い袁紹、袁術の軍を主体において攻撃を始めた。

連合は今確かにあからさまな力攻めを決行しているが、だが今合戦における第一功労を皆で決めた結果、我先にと虎牢関に襲い掛かる。

特に袁紹や曹操の様な名声や力を持たぬ弱小勢力はここが名の売り場であるので、特に奮起する。

しかし敵も馬鹿ではない。

自らが不利と判れば関に籠り迎撃し、有利と判れば外に出て深追いをせず追撃する。

しかも夜になれば小さな騎馬奇襲部隊で連合の陣に火炎壷を投げて襲い、動き出そうとした時に撤退していく。

それ故連合は緊張が張ってしまい碌な睡眠を取ることも出来ずにいた。

 

そして連合陣幕では今後の方針について話が進められていた。

 

一刀「さて、別働隊がここから立ち既に5日。そろそろ何かしらの音沙汰があるはずですので、我らは一度軍を引かせることを提案しようと思います」

 

ただ今連合の大将である袁紹は睡眠不足の為にお休み。

代わりに参謀代役の一刀がこの会議をまとめている。

 

関羽「待て!北郷殿、確かに我が方は少し疲弊しているかもしれない。だが影村殿の言った陽動策戦はどうなる?」

 

曹操「確かにそうね。今ここで軍を引けば、陽動策が無駄になるわ」

 

一刀「その心配はない。我が主が出発して5日。抜け道を使い都に着くまで、短期間で3日。遅くてももう着いている頃だと俺は判断している。それに別に虎牢関を抜ける事を諦めたわけではないぞ」

 

張勲「どういう事ですか?」

 

暫くして、連合の攻撃が始まった。

披露困憊の中で行われている攻撃なので、連合側に勢いがない。

やがて徐々に連合が圧される形となり、連合は撤退の兆しを見せ始めていた。

 

張遼「よし、うちらはこのまま連合を追撃するで!!」

 

陳宮「待つのです。これは恐らく敵の罠、侮って出て行けば華雄の二の舞になるのです」

 

張遼「せやけど敵は疲労困憊の中で攻撃を仕掛けてくるねんで、それに敵の大将はアホの袁紹や。やっぱり何も考えてへんのちゃうか?」

 

陳宮「しかし、向こうには先生が――」

 

張遼「音々、前からずっと気にしてるその『先生』、ホンマに油断出来ひん奴なんか?」

 

陳宮「……先生の腕を疑うことは、その先生に教えを請うた音々の腕を疑うことなのですよ?」

 

張遼「音々の腕を疑ってる訳やない。やけどそんな凄い奴やったら、こんな無茶苦茶な攻め方はしてけえへんで」

 

陳宮「それは――」

 

彼女は張遼の言葉に詰まってしまう。

それは張遼が言っていることも少なからず当たっているからだ。

彼女の知っている影村は、自分如きに手玉を取られる様な攻め方をするはずも無かった。

もしそんな事があるのであれば、何か策をこうじている時としか考えることが出来なかったのだ。

そんな二人の口論の中一人の人物が口を挟んだ。

燃える様な赤髪を持ち、体には水の様に流れる黒い刺青、首に赤いスカーフを巻き、見ていると吸い込まれそうな赤い瞳の持つ美少女である。

この者が正史の三国志で”裏切り”の代名詞と言われる『呂布』である。

他武将と共に、正史とも比べてかなりかけ離れた姿であるが、その実力は本物で、この少女一人で黄巾党30,000の大軍を壊滅させたのである。

 

呂布「音々」

 

陳宮「どうしたのですか?恋殿」

 

(れん)と言うのは彼女の真名である。

 

呂布「"先生"って、重昌?」

 

陳宮「そうなのですけど、どうしたのです?」

 

呂布も少し影村とは面識があるのだ。

 

呂布「………変」

 

張遼「変って何がや?」

 

呂布「………"気"を……感じない」

 

それを聞き陳宮は少し驚愕する。

彼女のこういう時の感覚はよく当たるらしいので、陳宮は一つの結論を出す。

 

陳宮「もしや、先生は今回出陣していないのでは?」

 

張遼「いや、そんな筈は無いやろ。だとしたら華雄は誰にやられたんや?」

 

陳宮「……(しあ)殿は先生と会ったことは?」

 

(しあ)と言うのは、張遼の真名である。

 

張遼「あるわけないやろ」

 

陳宮「もしかすると、先生の名を語った偽物かもしれません」

 

張遼「なんやて!?華雄は偽物如きにやられたんか!?」

 

陳宮「しかし恋殿の気への感覚は折り紙付きなのです。それを考えれば先生がいない可能性が高いのです」

 

張遼「せやったら、追撃するか?」

 

呂布「追撃は……危険――」

 

張遼「危険?」

 

呂布「嫌な予感が……する……」

 

呂布にそう言われると二人は考え込んでしまう。

彼女達の反応からすると、呂布の戦の空気を読む力はかなりあるようだ。

だがこの機会を見逃すのも忍びないので、結論を出した。

 

張遼「ほならや、追撃は敵の勢いが少なかったら深く、まだ余力が残ってそうなら浅くすればええんとちゃうか?最悪虎牢関(ここ)が落ちても、まだ洛陽まで撤退すればええ。とりあえずはこれでどうや?」

 

陳宮は暫く考えた後、追撃をすることに決めた。

兆し通りに連合は撤退。

おかしな行動が無いかを確かめた後、董卓軍は直ぐに追撃の軍を起こした。

追撃隊は追い付くと少しずつ連合を蹴散らして行く。

連合側も抵抗を必死に迎撃しているが、ここ連戦での体力の消耗もあり、徐々に押されて行く。

するとそこに――

 

董卓兵「伝令!洛陽、既に陥落してございます!!」

 

張遼「なんやて!?」

 

董卓兵「なお、皇帝陛下は連合側が保護、董卓様はご自害なされました!!」

 

その一報で董卓軍は意気消沈し、連合はここぞと言わんばかりに勢いを盛り返す。

その中で目紛(めまぐ)るしい活躍を見せたのは、西涼の騎馬隊であった。

重昌は「攻城戦では役にたたない」っと言い西涼軍は連合の後方に下がらせてもらっていたが、白兵戦となればお手の物。

次々と董卓兵士は蹂躙または捕らえられ、やがて虎牢関をも落とされ、その折に張遼は曹操軍に捕らえられてしまう。

 

陳宮「くっ、霞殿が捕らえられてしまったのです。皆の者、撤退するのです!!」

 

その陳宮をジッと見据える者がいた。

関羽である。

彼女は今回の戦で自らの主君の名を広めたいとも思っていたが、結局それも叶わずと思い、せめて大将首でも上げ、自らの名を上げれば、ひいては主君である劉備の名を上げることと思っていた。

だが張遼は先に曹操軍により捕らえられ、呂布は自分の義妹(いもうと)である張飛、仲間である趙雲、その他連合の名のある将たちと共に立ち向かったが、結果は敵わずであった。

その様な相手に一人で立ち向かっても勝ち目が無いのは判っている為、別の方法を考えていた。

すると目に飛び込んできたのは軍を指揮し、今は必死に撤退を叫んでいる少女の姿であった。

その(なり)から見るに、前線で戦うような将ではなく、おそらく軍師と見た。

だが彼女にも迷いがあった。

恐らくは妹である張飛、仲間である諸葛亮と同じぐらいの年である少女を切れるのか?

迷っている暇は無かった。

 

隼「待て、関羽ちゃん!!功を焦るのは危険だ!!」

 

陶謙……隼人の忠告を聞こえてはいなかったのか、関羽はそのまま馬を蹴り駆け出した。

いや、もし聞いていたとしても、今の彼女は恐らくは止まらなかったであろう。

彼女は一気に接近し飛び上がり、敵将陳宮に向かって自らの獲物を振り上げた。

 

関羽「そこで指揮している者、名もある大将と見たり!この関雲長、貴殿の首貰い受ける」

 

陳宮が気づいたときには時既に遅し、彼女は関羽の一撃が当たると思い込み目をギュっと閉じたが、その斬撃は鈍い音と共に防がれた。

 

呂布「……音々、大丈夫?」

 

その斬撃は呂布により防がれていたからだ。

陳宮は少し放心し、首をカクカクと振るい、呂布は自らの配下に指示を出して陳宮を安全な場所へと逃がしてやった。

関羽はヤケクソとばかりに鋭く、重い斬撃を呂布に与える。

普通の将であれば一合ともたない様な斬撃であるが、相手はただの将ではなく、天下にその名を轟かす『飛将軍』なのである。

彼女の攻撃は(ことごと)く返され、やがて今度は呂布が関羽に攻撃を仕掛けてきた。

敵も追い詰められているため、呂布の攻撃は複数の将で退治したときよりも遥かに重く、やがて関羽の武器は弾かれ、呂布の目にも止まらぬ突きが彼女を襲ってきた。

関羽は走馬灯を見た。

私の人生はこれまでであろうか?桃園での誓いはどうなるのか?など、いろんな考えがよぎったが、どうしても納得できないことがあった。

それは敵と戦っているときの影村の瞳であった。

何故憎悪する相手のことを最後に思い出すのかは謎であったが、それは"最後"では無かった。

いくら待っても「痛い」、「刺されてる」という感情は沸いて来ず、逆に大きい"何か"に抱かれていた。

恐る恐る目を開けると自らを抱いていたのは陶謙。

その彼の背中には――

 

呂布の放った方天牙戟の先が深く刺さっていた。


 
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