No.61414

激突!音夢vsさくら-危険な二人 朝倉ヒナは休めない?-

××年後の初音島を舞台に繰り広げる正月SSです。
音夢とさくらは何年経っても犬猿の仲。
子どもながらに空気の読めるヒナがちょこっと頑張ります。

2009-03-03 21:24:10 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:4067   閲覧ユーザー数:3914

 

「よぉ」

「よぉってあんた」

「ああ、そうか。あけましておめでとうございます」

出て来た眞子に頭を下げて、俺は新年恒例の挨拶をする。

 

「あけましておめでとうございます」

「あけまして、おめでとーございます!」

続けてことり、ヒナも挨拶をし、頭を下げる。

新年早々みんなが集まれるってことで、俺達一家は眞子の家に来ていた。

こうして集まるのも久しぶりだな。同じ島にいるってのに、なかなか会えないもんだ。

 

「あけましておめでとうございます。ヒナちゃんは元気で良いわね。お父さんとえらい違い」

「うるさい」

「今年はことり、着物じゃ無いんだね。それにそのお腹・・・」

無視かよ。

 

「あ、うん。実はあとで言おうと思ってたんだけど、二人目なんだ♪」

「そうだったんだ。おめでと~」

「ありがとう」

「ヒナの妹なんだよ~」

「それはまだ分からないだろ」

男の場合股の間にあるもんですぐ分かるが、無いからと言って女だとは限らない。

上手いこと隠れてたりすれば、男の子の可能性だってある。

 

「女の子だよ~。ヒナには分かるもん」

「そうか?」

「うん、私も女の子だと思うな」

女の勘って奴か?結構当たるし、二人が言うならそうなんだろう。

 

「寒いし、早く中に入りなよ。もうみんな結構来てるよ」

「全くだ、寒くて仕方ない」

「おじゃましま~す」

「やっぱヒナちゃんの方が朝倉より礼儀がなってるわねぇ~」

「・・・・・・おじゃまします」

その後も靴の並べ方が汚いなど指摘されてしまった。

俺は小学生じゃねぇんだぞ。

 

 

 

 

「それではみなさん、あけましておめでとうございます」

「「「「「「「「「「あけましておめでとうございます!」」」」」」」」」」

子どもたちは学校の挨拶のように大きな声を出している。

 

「今年は新年早々これだけ集まれて幸先の良いスタートになりました。それではみんなの更なる躍進と健康を祈って、乾杯!」

「「「「「「「「「「かんぱ~い!!!」」」」」」」」」」

今日は正月らしく盃なので、大人はその場で高く持ち上げた。

子どもたちの方はオレンジジュースなので、グラスをカチンカチンと合わせ合っている。

ヒナはあっちにいればいいだろ。みんなのお姉さんとしてやれるハズだ。

俺はこの豪華絢爛なおせちを頂くとしますか。

 

 

 

 

「あけおめ」

「あけましておめでとうございます、朝倉先輩」

「あれ?美春は一緒じゃないのか?」

さっきまで美春と一緒にいたと思ったんだが。

 

「美春ちゃんなら、あっちです」

アリスがそう言って示した方を見ると、既に子どもたちとゲームをしていた。

あいつもう食べ終わったのか?

 

「お二人目おめでとうございます」

「ありがとう。アリスは久しぶりに初音島に戻って来たんだよな?」

「はい。1年以上帰ってませんでしたね」

「そんなにか。どうだ、久しぶりに戻って来て?」

「やっぱりこの島は良いですね。私にとっての故郷って感じがします」

故郷か。俺はずっと島にいるから分からないけど、やっぱ大事なもんなんだろうな。

 

「じゃあまた後でな。他の奴らにも挨拶して来るから」

「はい、また」

それにしてもアリスの着物姿なんて珍しいものを見させて貰ったな。

日本人離れしているが、案外似合ってる。

 

 

 

 

「あけましておめでとう、朝倉君」

「・・・おお、工藤。やっぱまだ違和感があるな~」

「もう、まだ慣れないの?」

工藤が実は女だったと知ってから随分経ったが、男だと思ってたせいで未だに頭が切り替えられない。

今も一瞬この美人は誰だろう?とちょっと思考が停止した。

 

「大丈夫。前みたいに叫んだりはしないから」

「アレはさすがにショックだったよ・・・」

初めて女の工藤・・・いや最初から女なんだが。

男装してない工藤を見た時に余りの衝撃に叫んだことがある。

そりゃ男だと思ってた奴が女だったら誰だって驚くと思うんだが。例えば杉並が女だったら・・・キモイ。

 

「この着物どうかな?」

「ああ、凄く似合ってるぞ。ちょっと見惚れた」

「え!?」

「・・・何口説いてるの?」

背後から背筋が凍るような声がして慌てて振り向く。

 

「ことり!?違う!そんなつもりで言ったんじゃないんだぞ!?」

「むぅ~。叶ちゃんもちょっと喜んで無かった?」

「そ、そんなこと無いよ。ことりの大事な旦那様なんだし」

「やっぱり私も無理してでも着物着たら良かったかな~」

工藤に肘でツンツンと突かれる。そう急かさなくても分かってるよ。

 

「ことりはそのままでも十分に綺麗だよ」

「そんなにストレートに言われると、さすがにちょっと恥ずかしいよ・・・」

「それじゃまた後でね、朝倉君、ことり」

「おう。また後でな」

さて、次は誰のトコに行こうかな?

 

 

 

 

「あけおめ」

「あけましておめでとうございます」

「全くおせちに伊勢海老なんて贅沢だな、さすが金持ちは違う」

「あちらで萌さんが蟹鍋を作ってますよ」

「ホントか、美咲?それじゃ早速ご相伴に・・・」

そう言って立ちあがろうとしたところで、後ろからいきなり抱きつかれた。

 

「うおっ!」

「お兄ちゃん、久しぶり~」

「どの辺が久しぶりなんだ?お前クリスマスにもうち来ただろ」

「1週間も会わなかったら久しぶりだよ~」

「久しぶり・・・なのか?」

確かに学生時代なら久しぶりだろうが、社会人で久しぶりってことにはならない気が・・・

 

「固いことは言いっこ無し。ささ、一杯どうぞ」

「おお、悪いな」

さくらに注いで貰った日本酒を一気に飲み干す。

 

「おお、言い飲みっぷり。もう一杯どうぞ」

「いや、まだそんなに飲む気は無いんだが・・・」

「兄さん、私が入れて差し上げますよ」

いつの間に来たのやら、音夢が満面の笑みでお酌しようとしていた。

 

「お前、今の聞いてた?そんなに飲む気無いんだって」

「いえいえ、ご遠慮なさらずに」

「ボクがお酌してるんだから邪魔しないでよね、音夢ちゃん」

俺の意思は無視ですか、そうですか。

 

「兄さんは私に注いで貰いたいハズです」

「そんなこと無いよね。ボクが注いだ方が嬉しいよね」

「私の方が注いだ方が絶対に嬉しいです」

「ボクだよ」

「私です」

二人とも全く譲ろうとしない。別にどっちが注いでも同じなんだが。

 

「パパ~、ヒナが注いであげるね」

「ああっ!」

「ちょ、ちょっと待って」

そこへトコトコとやって来たヒナが俺の盃に酒を注ぐ。

 

 

 

 

「美味い!やっぱヒナがいれたお酒は一味も二味も違うな」

「ホント~?」

「ホント、ホント。いつも言ってるだろ?」

「うん!」

ヒナは満面の笑みを浮かべる。何てナイスタイミングで来てくれるんだ、俺の天使は。

これでこの二人の不毛な戦いも止めることが出来た。さすがいつも空気の読めるヒナだ。

しかし子どもの頃から空気が読めると苦労するって言うよな~

ヒナに苦労掛けないように俺も気を付けないと。

 

「そうだ、パパも一緒にやろうよ~」

「カルタか。どれどれ」

ツンデレカルタ・・・

 

「誰だ!こんなもん持って来た奴は!?」

「す、すみません。私です・・・」

やっぱりななこだったか。こういうものを持ち込むのはななこくらいしかいない。

 

「何でこんなもん持って来るんだよ!もっと普通のは無いのか?」

「え、え~っと他にはBLカルタなんか・・・はダメですよね」

「いい訳ないだろ・・・」

「あ、これ何てどうですか?アニメ名言カルタ」

「まぁそれなら・・・」

子ども達の方はことりやななこ、美咲、工藤に任せるとして、俺は蟹鍋へ・・・

 

「それじゃ私たちは大人らしく百人一首しようか」

「俺パス」

「兄さん、自信無いんですね」

「自慢じゃないが、一句たりとも覚えてない」

「本当に自慢にもならないですよ」

呆れ気味に音夢が溜息を吐く。

学生時代にちょっとだけ覚えたが、さすがにもう忘れた。

日常じゃ全く使わない知識だからな。

 

「坊主めくりならいいぞ」

「それは小学生がやるものですよ」

「子ども心があると言ってくれ」

坊主めくりなら簡単だし、楽で良いんだが・・・

 

「え~っと何だっけ?あれ。一字で分かる奴」

「むすめふさほせ、ですね」

「そう、それ。さすが環」

「それくらい常識です」

ますます音夢の視線が痛い。

 

「後学のためにもやるべきだね」

「いや別にそんなもん役に立たな・・・」

「人生ずっと勉強だよ、お兄ちゃん」

「そうですね。それじゃ兄さんも参加ということで」

こういう時だけ無駄に仲の良い奴らめ。

抵抗しても無駄っぽい。ここは諦めて百人一首に付き合うとしよう。

 

「そうだ、音夢ちゃん」

「何ですか?」

「百人一首で勝った方が、次にお兄ちゃんにお酌するってのはどう?」

「面白いですね。その勝負受けて立ちましょう」

「あの・・・俺の意思は?」

仲良かったかと思えば、今は火花を飛び散らせている。忙しい奴らだ。

「あれ?こんなに参加すんの?」

俺に音夢、さくら、萌先輩、眞子、アリス、環に杉並もか。

 

「はいはい!美春も参加しますよ~」

「いたのか、わんこ」

「わんこじゃないですよ!」

さっきまでカルタしてた美春がこっちに来た。

これで俺を含めて9人か。

 

「1対1にしろとは言わないが、さすがにこの人数は多過ぎるぞ」

「そうだな、2組に分けるとしよう。もう一つ百人一首がある」

杉並がそう言うとさっきまで一つだったハズが二つになっていた。どこから出したんだ、こいつ?

 

「俺は参加しないぞ」

「まぁそう言うな‍

「それに読む上げる人が必要だろ?俺がそれやってやるよ」

面倒だが、参加して1枚も取れないという状況は余計かったるいことになりそうだし。

 

「あ、私が読み上げますから朝倉君は参加して下さい」

「いやいや、俺が読み上げますよ」

「ご遠慮なさらずに~」

全く遠慮してないんだけど・・・

 

同じ問答を3回繰り返した後に、もうこれ以上言っても無駄っぽいと諦めることにした。

萌先輩が読み上げるなら、参加は8人か。1組4人ずつ。

凄そうな音夢、さくら、環、杉並とは同じ組にはなりたくないな。

 

 

 

 

グー、パーで二組に分かれた。

俺と同じ組なのは音夢、杉並、美春だ。

美春が同レベルなことを祈るのみだ。

 

「朝倉先輩、何してるんですか?」

「俺はこれだけ取るんだよ」

「何の札か見えないんですけど・・・」

手を札の真上に置いて、言われた瞬間取れるようにしている。

覚えてないかと思ったが、唯一覚えていた『秋の田の 刈穂の庵の苫をあらみ わが衣手は露にぬれつつ』だ。

 

「セコイですねぇ~」

「そういうお前は大丈夫なのか?」

「むすめふさほせの場所は確認済みですよ。それ以外は聞いてから探します!」

「お前も俺と同レベルだな」

「何で同レベルなんですか!?先輩は1枚しか狙ってないじゃないですか!」

「美春、下手したら一枚も取れないぞ」

チラッと音夢と杉並の方を伺う。あいつら目がマジだ。どこに何の札があるか、入念に確認してやがる。

もう一方の組も予想通り、さくらと環の目付きが違う。

 

 

 

 

「3枚」

「1枚です・・・」

「50枚ですね」

「44枚だ。さすがだな、朝倉妹」

結局俺は同じようにして3枚取ることに成功した。

美春はあれだけ俺より多く取れる、ようなことを言っておいて1枚。作戦勝ちだ。

どう考えてもこの二人に敵う訳が無いと、単騎待ちしたかいがあったというものだ。

 

「50枚だよ~」

「40枚です」

「8枚よ」

「2枚です」

さくらが勝ったか。

 

「それにしても眞子もその程度か」

「この二人が凄過ぎるのよ!って、あんた3枚取れたの?」

「まぁな。それはそうとアリスが2枚なら、美春が最下位だな、おめでとう」

「おめでたくないですよ!」

しかし問題はそんなところじゃない。

 

「・・・互角でしたね」

「そうだね・・・」

「決着はつけないといけませんよね?」

「もちろんだよ」

この二人の対決だ。引き分け、などで終わる訳が無いと思っていた。

 

「先輩、もう一度お願いします!」

「は~い、分かりました」

そうして延長戦は始まった。

 

 

 

 

「す、凄い勝負です」

確かに美春の言う通り、凄い勝負だ。それは認めよう。

だが・・・・・・

 

「ちは」

バシッ

 

「痛い!」

「ごめんなさい。あとちょっとだったんですけどね~」

「・・・ううん。音夢ちゃんがトロいから仕方ないよね」

「そうですね。さっきはさくらちゃんの方がトロかったですし」

さっきからずっとこんな感じだ。

二人の反応がほとんど同時なせいか、遅れた方が取った方の手を叩いている。

最初は不可抗力って感じだったが、だんだんワザとに見えて来たぞ。

 

ちなみにさっき読まれたのは『ちはやぶる 神世もきかず 竜田川 唐紅に 水くくるとは』だ。

環が言うには、俗に言う2字決まりの札らしい。

 

「二人とも落ちつけよ。現在の取得枚数は?」

「音夢が40枚ね」

「さくらさんも40枚です」

眞子と美咲が互いに持っている札を数えて教えてくれる。

このままだと今回も引き分けだぞ。

 

「では・・・」

「待った!」

「何でお前が待ったを掛けるんだよ」

「どうせなら家中に取り札を置こうでは無いか!」

・・・は?何考えてんだ、こいつ?

 

「このままでは引き分けになりそうだろう?」

「そりゃまぁ・・・」

「それに安全のためだ」

そう言われれば賛成せざるを得ない。

 

「そうと決まれば各地にバラ撒きに行こうぞ、わんこ嬢」

「了解です!」

「あ、おい美春まで」

そう言うと二人は凄まじい早さで部屋を出て行った。

 

 

 

 

「待たせたな」

「お待たせしました~」

5分足らずで二人が帰って来た。

残り10枚、どこに置いたのやら。

 

「でも、さくらちゃんは不利かも知れませんね。ハンデあげましょうか?」

「・・・何でボクが不利なのさ?」

「足が短いからですよ」

「音夢ちゃんこそ貧血で倒れないようにした方が良いよ」

もう聞こえないフリしとこう。しかし、着物で走り回る気か、こいつらは?

 

「あらし」

それだけ聞くと二人はあっという間に部屋を出て行った。

何か心配だ。あとを追いかけよう。

 

「ていっ!」

「こんなことで!」

あいつら二人でバーゲンセールの品でも取り合ってるのか?

凄まじい押し合いへし合いである。

 

「やったぁ!1枚ゲット!」

「くっ・・・まだ勝負は終わってませんよ」

一瞬の隙を突き、さくらが取った。

 

 

 

 

「うにゃ!?」

どこから取り出したのか、音夢が投げた辞書がさくらの目の前を高速で通り過ぎた。

 

「あら、失礼。手が滑っちゃって。これで私のリードですね」

音夢が2連取して47枚対46枚。残りは7枚。

それにしても、何で辞書を持ち歩いてるんだ、あいつは?

 

 

 

 

「あま~い!」

「きゃっ!」

さくらが飛ばしたスリッパが音夢の後頭部にクリーンヒット。

 

「さっきのお返しだよ。これで今度はボクのリードだね」

これで48枚対49枚。残り3枚。現在はさくらが一歩リード。

 

 

 

 

「何か二人が戻って来る度に傷だらけになってるんだけど、何してるの?」

「聞かない方が良いと思うぞ」

眞子も何となく予想はついているのだろう、それ以上は聞いて来ない。

とてもじゃないが、お子様たちには見せられない醜い戦いだ。

頼むからこっちの方には来ないでくれよ、ヒナ。

 

「忍れど 色に出でにけり わが恋は 物や思ふと 人の問ふまで」

引っ掛けか。二人とも微動だにしなかった。

 

「あしひきの 山鳥の尾の しだり尾の 長々しき夜を ひとりかもねむ」

またまた微動だにしない。

ここまで接戦になったので、50枚先取になった。つまり、次のを取ればさくらの勝ちだ。

 

「あさぼらけ あ」

そこまで聞いた瞬間、二人は走り出した。

後で聞いた話だが、『朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に 降れる白雪』だったらしい。

 

「ていっ!」

まだみんなが見ているというのに、さくらが見事な足払いを音夢に仕掛けた。

 

「このっ!」

「んにゃ!?」

しかし音夢も素早くさくらの足を掴み、さくらは畳に顔面を打ちつける。

みんなも茫然としている。そりゃそうだ。舞台裏でこんな激しい戦いがあるなんて普通は予想だにしない。

 

「今のうちに!」

そう言って音夢がさくらの頭を飛び越え、走り出そうとした時、さくらが音夢の帯を掴んでいた。

 

「え・・・?」

まさにあ~れ~状態。そして回転して来た音夢は俺の方へ・・・

 

「おっと」

「きゃっ!」

ってマズイ、このパターンは!?

 

「な、なな、何するんですか!兄さんのバカ~!!」

「何で俺!?」

結局、二人の勝負は有耶無耶になったのだった。

「全くこうやって呑気に遊べないものかね」

「酷いですよ、朝倉君。そんなこと言ってさっきから本気じゃないですか!」

「ななこが勝手に落としてるだけだろ」

そう言っているうちにまたななこが落とした。

俺はニヤニヤと笑いながらななこの顔に墨で落書きをする。

俺達は庭に出て羽子板をやっていた。なかなかに日本的で風流な遊びだ。

 

「よし、これで粗方書き終えたな」

「・・・何ですか、これ!?」

鏡で自分の顔を見たななこが絶叫する。

そんな酷いものを書いたつもりは無いんだが・・・

 

「朝倉純一作、うたまるだ」

ななこの顔には見事なうたまるが完成していた。我ながら上出来だ。

 

「疲れたし交代しようぜ。ななこの顔に描くのも飽きたし」

「酷過ぎますよ!」

向こうでは杉並と眞子が対戦している。

なかなかに迫力のあるバトルだ。

 

「ふぅ。あたしも疲れたから交代」

「ふむ。それならば俺も交代しよう」

そう言って杉並はさくらに、眞子が音夢に羽子板をそれぞれ手渡す。

 

「あ、バカ!」

「え?あ・・・」

眞子も気付いたようだが、もう遅い。

二人は完全に臨戦態勢だ。もう止められないだろう。

 

「とりゃー!」

「甘い!」

「うにゃ!?」

さくらのサーブを音夢がすさまじいリターンで返した。

 

「ふっふっふ・・・」

音夢は不敵な笑みを浮かべて、美春から筆を受け取ると、ゆっくりとさくらににじり寄った。

 

「ここ何て良いですね~」

「う~」

さくらの頬に先ほど俺が書いたのと合わせて、×が完成する。

ちなみに現在俺の頬にあるハートマークはさくら作だ。

パパ可愛いって言われたから良い物の、とてもじゃないが外を歩ける姿じゃない。

 

「一筆じゃ面白くないですね。どうですか、さくらちゃん?落としたら二筆書くっていうのは?」

「・・・いいよ。後で吠え面かいても知らないからね」

再び一定の距離を保ち、さくらがサーブする。

 

「ていっ!」

「たりゃ!」

「なんと!」

「甘い!」

「んにゃ!?」

再び音夢がポイントを取り、逆の頬にも×を完成させる。

 

「このっ!」

「あっ!?」

「音夢ちゃんの頬にも素敵なのプレゼントしてあげるね」

音夢の両頬に、昔の漫画かアニメに出て来るような渦が描かれた。

 

「何で両頬に書くんですか!?」

「どっちも一筆書きだから、これで二筆だよ」

バチバチと音がしそうなくらいに二人が睨み合う。

 

「ねぇ、朝倉。今なら止められるんじゃない?」

「そうだな。なぁ二人とも、お互い様ってことで、これくらいで止めにして中に入ろうぜ」

「兄さんは」「お兄ちゃんは」

『引っ込んでて!!!!!』

「はい」

あんな形相で言われたら素直に引き下がるしかない。

 

「ヒナ、二人を止められるか?」

「う~ん、やってみるね」

子どもに任せるのは忍びないが、俺じゃ火に油を注ぐだけだし。

 

「音夢お姉ちゃん、さくらお姉ちゃん。一緒にヒナとスゴロクしない?」

『ヒナちゃん』

さすがにヒナは邪険にしないか。

 

「ごめんね、ヒナちゃん。女にはつけなきゃいけない勝負があるのよ」

「大和撫子に撤退の二文字は無いんだよ。ごめんね」

大和撫子?どの口がそんなことをほざくんだ?

あいつの言う大和撫子ってのは頬に落書きされてるのか?

 

「もういいよ、ヒナ。巻き添え喰わないうちにこっちにおいで」

「ごめんなさい、パパ」

「ヒナが謝ること無いって。じゃ、パパと和やかに羽根突きしよっか」

「うん!」

激闘が繰り広げられる横で、俺とヒナは楽しく羽根突きをした。

あ~もう、頑張ってるヒナは可愛いな~。ビデオカメラ持って来れば良かった。

 

 

 

 

「おっと筆が鼻に。ごめんなさい」

「うにゃにゃにゃ」

何て醜い争いだ。こっちは絶対に映像に残したくない。

 

「あ、ごめんね。唇が真っ黒になっちゃった。音夢ちゃんのお腹みたいだね」

「ううううううう」

もう二人の顔はほとんど真っ黒。強引に書ける場所を探している。

あれがいい大人のすることか?

 

「あの二人は放っておいて中に入ろう。ヒナ、あんな大人になっちゃダメだぞ?」

「う、うん」

結局二人の争いは顔面が真っ黒になるまで続いた。

さくらが言うには、若干肌が見えていたさくらの勝ちらしい。

もうどっちも負けな気がしたが、深くは突っ込まないでおこう。

その後も墨が落ちない!と騒ぎ合っていたのだが、何でこうもこいつらは賑やかなのか。

 

「そう言えば、何で勝負したんだっけ?」

「さぁ?忘れちゃいましたね」

出来ればそのまま忘れててくれ。

全く、今年もかったるい1年になりそうだ。

 

 

 

 

 

終わり

 

 
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