No.613082

真・恋姫†無双 異伝 ~最後の選択者~ 第九話

Jack Tlamさん

今回は白蓮のもとで将として働く一刀と朱里、そこに現れた星一行、

さらに一刀と星の対決です。


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2013-08-27 18:40:41 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:7106   閲覧ユーザー数:5331

第九話、『白馬の少女、そして昇り龍』

 

 

―公孫賛が治める城の近辺。

 

三人の少女が、公孫賛の城を目指して歩いていた。

 

「―本当に行くのですか?」

 

「―路銀が尽きてしまったのだ。この先他にどうしろというのだ、お主は」

 

「―はぁ。まあ私たちの路銀も心許なくなってきていたところなので、貴女の提案は正直名案だと思いましたが」

 

「―ならば何の問題もあるまい?」

 

「―それはそうなのですが…―はどう思いますか?」

 

そう言って、黒髪の少女は先ほどから話に参加していない友人に声をかけた。

 

「―…Zzz…」

 

「―寝ながら歩くなッ!」

 

「―おぉっ、―としたことが、うららかな…」

 

どうやら日差しが穏やかなので、歩きながら軽く寝入ってしまっていたらしい。とんでもない少女である。

 

「―それで、どう思うのです?話は聞いていたのでしょう?」

 

「―いいと思いますよ~?涿郡の太守である公孫賛様は、優れた手腕をお持ちのようですから~…」

 

「―しかし、これまで目立った話題が無かった涿郡が、今や大陸に話題を広めるほどになっているというのは気になる。

 

 『天の御遣い』とやらが降臨したのも、涿郡だというからな」

 

「―私はその、涿郡に『天の御遣い』とかいう人物がいるという噂に何かを感じるのですが…」

 

「―今の涿郡は急速に治安が良くなっている。その『天の御遣い』とやらが公孫賛殿に手を貸したのやもしれんな」

 

「―時期的なものを考えても~、そう考えるのが妥当でしょうねぇ~」

 

「―そうだな、では、行こうか」

 

少女たちは目指す先へと向かった。

 

 

 

 

 

そこで、運命的な出会いが待っているとも知らずに。

 

 

「―公孫賛。字は伯珪だ」

 

 

 

俺達は外史に降り立った途端、盗賊団に襲撃された。

 

それに対処していたら、公孫賛率いる公孫賛軍が現れ、盗賊団を壊滅させることに成功した。

 

盗賊団側の生存者もとらえ、こちら側の損害は軽微となったことで、俺達は公孫賛から礼を受けていた。

 

 

 

「本当にありがとう。私達だけではここまで少ない被害で討伐することは難しかったかもしれない。

 

 あまり兵を連れていなかったからな」

 

頭を下げてくる公孫賛。俺はちょっと慌てながら応じた。

 

「俺達も自分の身を守るためにやっただけだから、気にしないでくれ。

 

 …っと、俺達も名乗らないとな。俺は北郷一刀。姓が北郷で名が一刀。

 

 それで、こっちが…」

 

「北郷朱里と申します。一刀様の義妹です」

 

「珍しい名前だな?それに、同姓ということは…同じ一族なのか?」

 

「いや、こっちと俺達が居た世界とでは姓名の仕組みが違う。俺達は姓と名しか持ってない。

 

 字や、まして真名もない」

 

「姓と名しかない?ということは、姓は二人とも北郷で、名がそれぞれ一刀、朱里というわけか」

 

「理解が早くて助かる。だけど、俺達の『名』は、こちらで言う『真名』に相当する。

 

 いきなり呼んでも斬り殺したりはしないけど、馴れ馴れしい奴だな、とは思うよ」

 

「いや、それならば礼を失したのはこちらの方だ。真名に相当する名を話の流れの上とは言え呼んだんだ。

 

 それに、盗賊団の討伐に力を貸してくれた礼もある。せめてと言ってはなんだが、私の真名を預けよう。

 

 …私の真名は、白蓮という。これからはそう呼んでほしい」

 

「ああ、わかったよ。ありがとう、白蓮」

 

「よろしくお願いします、白蓮さん」

 

すんなりと真名を預けられた。やっぱり人が良いのは変わらないようだ。

 

「…さて、こんな場所で立ち話というのもあれだな。

 

 こいつらを連行してやらなきゃならないし、私が治める城に案内しよう」

 

白蓮は周辺をぐるりと見渡すと、俺達に再び視線を戻してそう申し出て来た。

 

「お願いするよ。行くあてもない身だから」

 

 

 

その後、時間はかかってしまったが、俺達はその日のうちに白蓮の治める城に辿り着いていた。

 

盗賊団の生存者は牢に繋がれ、明日にも処置を決めるとのことだ。

 

白蓮はまだ仕事を残しているので、話は明日にしてほしいとのことだったので、俺達は与えられた部屋で

 

休むことにした。夕食は城の厨房でもらってきたので、腹が減っているということもない。

 

俺と朱里は、部屋で次にどうするかを相談していた。

 

「…しかし、最初に出会ったのが白蓮とはな。あそこで出会うとしたら桃香達以外考えられなかったんだけど…」

 

「単純な時間差かもしれませんよ?予言は広まっているようですし、もしかしたら桃香様達はまだここから離れた

 

 場所にいるのかも」

 

「ああ。でも、五台山の麓か…俺は泰山かと思ったんだけど」

 

「あんなところに落ちて、どこに行こうって言うんです?」

 

「…それもそうだな」

 

あんなところに落ちても、どこに行けばいいのかわからない。

 

その意見には全く同意だった。

 

「…一刀様」

 

「ん?」

 

「ここで桃香様達を待ってみますか?」

 

「…そうだな。まだ雪蓮は美羽のところだろうし、陳留に行けば華琳がいるけど、あっちだと上手くいかないだろう。

 

 涼州や益州は遠いし、かといって洛陽へ行ったとしても荒れていて、今の俺達にはどうにもできない。

 

 だから、白蓮のところで客将として雇ってもらおう。それが『計画』達成への最善手だろう」

 

「それがよさそうですね…」

 

心当たりを挙げてみたが、目ぼしい場所は無い。

 

俺達はひとまず、翌日にも白蓮に申し出て客将として雇ってもらうことに決め、今日は寝ることにした。

 

 

翌日の午後。

 

昼食を済ませた俺達は、白蓮と共に城の東屋にいた。

 

白蓮によると、もうあの盗賊どもは処断することが決まったが、気にしないでほしい、とのことだった。

 

…後味は悪いが。

 

 

 

「…そうか。ではお前たちは、こことは異なる世界から来たということか」

 

俺達は、白蓮に自分たちのことを話していた。

 

「そうなる。この時代で言うと海を渡った先にある『倭』という国が俺達が住んでいた『日本』にあたる。

 

 俺達が住んでいた時代は今から千八百年は先の未来で、今のこの時代は、俺達から見れば遥か昔なんだ」

 

「…なるほどな。未来から来たというのもわかった。

 

 それで、流星が落ちた場所にお前たちがいたという事実…これはもう決定的と言っていいな」

 

そう言って、白蓮は俺達に向かって頭を下げてきた。

 

「白蓮!?」

 

「白蓮さん!?お顔を上げてください!」

 

「いや、私はお前たちに頭を下げなければならないんだ。

 

 …あの時の話の続きだが、この大陸は今乱世の最中にある。大きな争いこそないが、中央は腐敗し、民の生活は

 

 悪くなる一方だ。盗賊どもが跋扈しているのに官軍は対処できていない。このままでは国が滅んでしまう。

 

 だが、地方の一太守に過ぎない私では、中央に対して働き掛けることなど不可能に等しい!

 

 自らが治める土地の民の生活を守っていくので精いっぱいだ!

 

 身勝手な願いだとは承知している。たとえ私の許でなくても良い。

 

 お前達には『天の御遣い』となってほしいんだ…!」

 

「白蓮…」

 

俺は、白蓮がこうして激情をあらわにするのを見たことが無かった。

 

白蓮とて地方の一太守とはいえこの大陸の状況を憂いていた人間だ。しかし太守の身では中央に意見できるほどの

 

力を持てるはずもなく、歯痒い思いをしていたのだろう。

 

自分の許でなくても良いから、『天の御遣い』になってほしい。

 

それは、俺達に「民に希望を与えられる存在になってほしい」という意味だろう。

 

それなら―

 

「―俺達は自分たちが『天の御遣い』だと誇るつもりはない。でも、誰かの希望になれるなら、俺達は喜んで

 

 その名を背負う。白蓮、俺達を君の許で客将として雇ってほしい。

 

 ここから大陸の情勢を見定めたいと思っているんだ。お願いできるかな?」

 

「一刀…ああ、願ってもない申し出だ。

 

 お前達を我が軍の客将として歓迎する。これから、よろしく頼むよ」

 

「よろしくな、白蓮」

 

「よろしくお願いします!」

 

 

 

―こうして、俺達は白蓮の客将として、ここで働くことになった。

 

 

―それからしばらく経った頃。

 

俺達は白蓮の下、客将として働いていた。

 

俺は武将として軍部を率い、朱里は軍師として軍事や内政など多岐にわたる補佐を行っていた。

 

そのおかげか、元々悪い状態ではなかった幽州涿郡は、盗賊が現れないほど治安が良くなり、民たちは安心して

 

日々の生活を送っている。軍の方も俺達が施した調練により、ぐんぐん練度を上げ、強くなっていった。

 

そんな折、俺達のもとに三人連れの旅人達が訪ねてきた―

 

 

 

 

 

「そこの御仁。ここの城主、公孫賛殿にお会いしたいのだが、お取次ぎ願えないだろうか」

 

 

 

そんな台詞と共に現れたのは、白い服を身に纏った少女―趙雲だった。

 

 

 

 

 

俺はこの時警備隊を率いて警邏に出ていたのだが、町中で彼女たちに出くわしたのだ。

 

趙雲の後ろには、やはり…いや、彼女たちがここにいるのは少々おかしい。

 

郭嘉…いや、戯志才と程立だ。

 

「…もし?」

 

反応を示さない俺を不審に思ってか、趙雲が再び声をかけてくる。

 

「―あ、ああ。すまない。気にしないでくれ」

 

「繰り返しになるが、公孫賛殿にお会いしたいので、お取次ぎ願いたいのだが」

 

そうか…趙雲は路銀が尽きたから白蓮のもとで客将になっていたんだっけ。

 

しかし、後ろの二人まで付いてくるとはどういうことだ…?

 

「取り次ぐのは良いけど、名乗ってもらえなきゃ取り次げないよ」

 

「む、これは失礼した。私は趙雲と申す者。こちらは旅の連れだ」

 

「私は戯志才と申します」

 

「程立です~」

 

「趙雲、戯志才、程立だな。わかった。付いてきてくれ」

 

俺は警邏を部下に任せ、三人を伴って城に向かった。

 

 

 

「―そういえば、あなたの名を伺っておりませんでしたな」

 

そう言って趙雲が話を振ってくる。

 

「お兄さん、珍しい格好をしていらっしゃいますねぇ~。どういった方なのですかぁ~?」

 

程立も相変わらず間延びした口調で訊ねてくる。

 

「見たこともない服ですが…」

 

眼鏡をくいっと挙げながら、戯志才も問うてくる。

 

「質問は一度に一つにしてくれ。まあ内容は一緒だからいいけどさ。

 

 …俺は北郷一刀。公孫賛の許で客将をしている者だ」

 

「ほう、あなたも客将なのか」

 

「まあね」

 

「…失礼だが、見たところ、そこまでの武勇があるようには見えぬのだが」

 

…やっぱりそう来るか。

 

俺は今、淋漓さんから教わった『相手に技量を悟られない歩き方』で歩いている。身のこなしからも技量というのは

 

わかる人にはわかってしまう。常山の昇り龍と呼ばれた彼女ならなおさらだろう。

 

「自分にできる限りのことをやっていればいいんだって、俺は考えてるんだけど」

 

「…ふむ、至言ですな。己の力の限りに、か。確かに、生きる上で全力を尽くせば後悔はしないでしょうな」

 

そんなことを話しているうちに、俺達は目的地に到着していた。

 

「…さて、到着だ。兵を呼んで取り次がせるからちょっと待っててくれ。

 

 …番兵さん、ちょっといいかな?」

 

「はっ!」

 

「公孫賛殿に取り次いでほしいんだ。来客だと」

 

「はっ!取り次いでまいりますので、少々お待ちください!」

 

番兵が奥に消えると、すぐさま代わりの番兵がそこに立つ。俺達は取り次ぎを頼んだ番兵が戻ってくるまで

 

そこで待ち、白蓮から客を通す許可が下りると、三人を伴って謁見の間に向かった。

 

 

謁見の間には、白蓮と朱里が待っていた。

 

「一刀、その三人が、私に会いたいと言ってきた旅の者か?」

 

「ああ」

 

「お初にお目にかかる、公孫賛殿。私は趙雲、字は子龍と申す」

 

「私は、戯志才と申します」

 

「程立です~」

 

なんだかさっきと変わり映えのしない三人の自己紹介が終わると、続いては白蓮の番だった。

 

「私は公孫賛、字は伯珪だ。見ての通り、ここの城主をしている。

 

 さて、用件を聞こう。一体どんな用件でここに来た?」

 

「では私からお話ししましょう」

 

そう言って趙雲が話し出す。

 

「私たちは三人で旅をしていたのですが、その途上で路銀が尽きてしまいましてな。

 

 そんな折、この涿郡では最近治安が飛躍的に良くなるなど、公孫賛殿が善政を敷かれているという噂を聞きつけ、

 

 雇っていただくために参った次第。

 

 公孫賛殿、この私を客将として雇っては頂けぬだろうか?憚りながら、腕には覚えがあるのですが…」

 

…うーん、こういう雰囲気の趙雲はなんだか新鮮だな。いつも余裕の態度だったし。時々慌ててたけど。

 

「ああ、歓迎するよ。

 

 前もそうだったが、今ではさらに人手が足りないんだ。この二人のおかげでどうにか回ってはいるが、

 

 少々二人には無理をさせてしまっていると思う。だから、人手が増えるのは素直にありがたい」

 

「感謝いたします、公孫賛殿」

 

「伯珪で良い」

 

「了解いたしました、伯珪殿」

 

 

 

次は戯志才と程立の番だった。

 

「…さて、後の二人は?」

 

「ではまず私が。

 

 私も路銀が心許なくなっていたのは趙雲殿と同じです。こちらでの善政の噂は耳にしております。

 

 文官として暫くここに置いて頂きたいのですが」

 

「ああ、わかった。最近は書類仕事が多くてな、正直目を回しそうだったんだ。ありがたいよ」

 

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 

あっさりと、戯志才の採用が決まった。最後に程立へと問いが向けられる。

 

「程立、そっちはどうなんだ?」

 

「…Zzz…」

 

「起きなさい、風!」

 

「―おぉっ!あまりに会話がすんなりといっているものですから~…」

 

「まったく、貴女は」

 

…やっぱりこの子は相変わらずだな…これで物凄く強かなんだから、タチが悪い。

 

「…風も二人と同じ理由でして~、路銀が心配になってきたところに、涿郡の治安の良さに驚きまして~、

 

 二人のこちらを目指すという意見に賛成して、こちらに参りました~。

 

 戯志才ちゃんも風も軍師です~。憚りながら、文官として暫く置いて頂けないでしょうか~」

 

「…随分と間延びした口調で話すんだな」

 

「申し訳ありません~。これは生来のものでして~」

 

「構わないさ。歓迎する」

 

 

 

こうして。

 

俺たちの許に、三人の縁深い将たちが集った。

 

 

―翌日、朝議のために集まったところで、趙雲から俺に対して申し出があった。

 

「勝手ながら、私と手合わせしていただきたいのだが」

 

いきなりの話だった。

 

朝議が終わった後だったので、その申し出に関しては特に問題ないのだが、なぜ俺と手合わせをする必要がある?

 

そう問うてみると、趙雲は、

 

「一刀殿は伯珪殿の許で軍部を司る重役を担っていると聞く。

 

 だが、失礼ながら私には、貴公がそれほどの御仁には見えぬのですよ。軍部を司る者は、武に長けた者でなければならない。

 

 憚りながら、腕に覚えがある者として、貴公と手合わせがしたい。

 

 受けていただけますかな?」

 

…あー、技量を悟らせないような歩き方をしていたのが失敗だったかな?趙雲の悪い癖が出たようだ…。

 

「…わかった。ただし午前中は警邏の仕事があるので無理だ。午後、未時の正刻でいいかな?」

 

「承知いたしました」

 

 

 

―そして、約束の時間。

 

 

 

俺と趙雲は、城の中庭で向かい合っていた。

 

見届け人を買って出てくれたのは白蓮。朱里と戯志才、程立は観戦するようだ。

 

「…さて、始めるとしますかな?」

 

「…ああ、いつでもいいよ、子龍」

 

「ふふふ…では、参りますぞ」

 

「よし…来いッ!」

 

俺は趙雲との模擬戦に突入した。

 

 

 

(side:朱里)

 

「(…はぁ。やっぱり、星さんの悪い癖が出てしまったみたいですね…)」

 

ずっと自分と同じ陣営にいた彼女の悪癖はよく知っている。今の私はちょっとしたブルー状態だ。

 

一刀様は淋漓さんから教わった『相手に技量を悟らせない身のこなし』を使っていらしたようだけれど、それが

 

結果的には仇になってしまったようだった。

 

私も使っているが、傍らにいる二人には武力は無いに等しいので、特に問題ない。

 

軍師が戦えるなんて星さんは想像していないと思うから、こちらも問題ない。

 

「―朱里殿、貴女はこの勝負、どう見ますか?」

 

「…はい?」

 

ふと、稟…もとい、戯志才さんが私に話しかけてきた。

 

「旅を共にしてそれなりの時間が経ちますので、星の技量はよく知っています。

 

 将が決して武力だけのものではないことは承知していますが…一刀殿はどれほどの技量をお持ちなのですか?」

 

「風も気になりますねぇ~。朱里ちゃん、そこのところどうですかぁ~?」

 

程立さんも私に話を振ってくる。

 

これは試されているかな、と思いつつ、私はそれに応じた。

 

「…勝敗は兵家の常です。今は勝負に関係ない場所にいる私は、運を天に任せるのみです」

 

「(…はあ、これは私の負けですね。

 

 貴女と一刀殿が懇意なのは気付いておりましたので、貴女を挑発してみたのですが…

 

 正直、貴女を敵に回したくはありませんね)」

 

戯志才さんの仕掛けた罠は回避できたようだ。ここで挑発に乗るほど、私は青くない。

 

すると、今度は程立さんが仕掛けてきた。

 

「いや~、朱里ちゃん。個人的な話として、お兄さんが勝つとは信じてるでしょ~?」

 

「…一個人としてはそうですね。でも、軍師としては必要以上の期待はしません。

 

 今回は一対一ですからともかくとしても、戦場において一個人ができることなど、どれほど武に優れていても

 

 たかが知れていますからね」

 

「愛する人を~、駒として扱っても構わないと~?」

 

「あの方は私を信頼してくださっていますから」

 

「(…これは風の負けですね~。このお二方の絆はある意味狂おしいほどに強固です~…。

 

 これはもしも相対した時、崩すのは無理ですね~…。愛する人をも駒にするほどの冷徹さ…

 

 風にはまだわかりませんが~、どんな策も通用しそうにないですね~…)」

 

「…」

 

こちらは、私は回避できたかどうか自信が無かった。

 

私が会話を打ち切って一刀様達の方を見ると、仕合が始まろうとしていた。

 

 

 

(side:星)

 

目の前に立つ男は、模擬刀を構えることもせず、じっと立っている。

 

見事な佇まい―そう思った。

 

あれを私の前でやってのけるだけでも、この男がそれなりに修羅場をくぐってきているのがわかる。

 

少し評価を改めなければならないだろうな。

 

私はと言えば、模擬戦用の槍を構えたはいいが、相手から声が掛かる気配がないので、少し焦れていた。

 

―私から声を掛けるか。

 

そう思い、私は目の前の男―北郷一刀に声を掛けた。

 

「…さて、始めるとしますかな?」

 

「…ああ、いつでもいいよ、子龍」

 

至って落ち着いた声音。仮にも武人であれば、私の技量を悟ることくらいできるはずだろうに。

 

…あるいは、舐められているのか?

 

まったく…興味深い御仁だ。見るべきところがそれほどないようにしか思えないのに、何故か興味を引かれるのだ。

 

「ふふふ…では、参りますぞ」

 

「よし…来いッ!」

 

先手必勝。十八番の回避重視の戦法で翻弄してやろう―そう思った。

 

その次の瞬間だった。

 

「っ!なんだ…風が変わった…?」

 

いきなり、風の流れが変わったかのように感じたので、私は思わず足を止めてしまった。

 

普段ならこのようなこと、あるはずもない。

 

だが、今回に限っては私が足を止めたのは正しい判断だったと言える。

 

目の前の男を見る―その佇まいは、先程と打って変わって、恐ろしく攻撃的。

 

自然体でありながら、力に満ち溢れた佇まい。

 

今踏み込んで行っていたなら、一瞬で仕留められていた。

 

男が、口を開いた。

 

「…来ないのか?ならば、こちらから行くぞ、子龍!」

 

その瞬間―

 

「―ぐぁッ!ぐ、こ、この、闘気…なんだ…圧倒される…!」

 

まるで嵐にでも突っ込んだかのように、突風の如く吹き付けてくる闘気。

 

あのような男から発せられる闘気だとは、到底信じることができない。

 

だが、現実は現実。大言壮語をしてしまったのだ、ここで戦わねば常山の昇り龍の名折れだ。

 

「―ッ!はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

―しかし、後になって思う。この時の私は、恐怖していたと。

 

 

(side:一刀)

 

戦いはしばらく続いた。俺は趙雲の槍をいなしつつ、彼女の方を見やる。

 

随分と息が上がっているようだ。俺も打ち込み続けているので、彼女の余裕を完全に奪えたというところだろう。

 

いつもは余裕綽々と言った感じの彼女がああも焦っている表情は珍しい。

 

勝負は、焦った方の負けだ。この勝負、取ったぞ。

 

「―ハイ、ハイ、ハイ、ハイーッ!!」

 

連続して高速で繰り出されてくる槍。俺は恐れ気も無くその全てを防ぎ、最後の一撃を弾き飛ばす。

 

「なッ!」

 

「そこだッ!」

 

俺はすぐさま反撃に出る。先ほど趙雲が繰り出してきたのは連続突き。対応する連続斬りで反撃する。

 

お株を奪われた形になった趙雲もさすが、それを迎撃してみせるが、さらに余裕を失くしたようだ。

 

「―舐めるなぁぁぁッ!」

 

気合と共に、この上ないほど高速の薙ぎ払いが襲い掛かってくる。

 

―彼女には失礼だが、今の俺には蚊がとまっているようにしか見えなかった。

 

脚に気を流してすぐさま急速後退、再び突進してくる趙雲の横へとそのままの勢いで回り込み―

 

「―終わりだッ!」

 

彼女の槍をその手から弾き飛ばした。

 

「―両者そこまで!勝者、北郷一刀!」

 

仕合が、終わった。

 

 

 

「いや~、見事な体捌きだったなぁ…私には真似できそうもないな」

 

「星をああも焦らせるとは…貴方は一体何者なのですか」

 

「お兄さん、強いのですね~」

 

思い思いの感想を述べる三人と、

 

「お疲れ様です、一刀様」

 

水で濡らした手拭いを持って来てくれる朱里。

 

「ありがとう、朱里」

 

「どういたしまして」

 

手拭いで汗を拭うと、未だに立ち尽くしている趙雲のもとへ歩いて行った。

 

 

 

「…子龍、まだ一刀に負けたことに納得できないか?」

 

俺が話しかけようとすると、いつの間にか白蓮も来ていて、先に話しかけていた。

 

すると、空を仰いで立ち尽くしていた趙雲はようやく反応を示したものの、今度は俯いてしまった。

 

「…納得できる、出来ないの話ではありませぬ。

 

 初めてこの目で見た時、一刀殿にはさしたる技量が無いように見えた。いや、そうとしか見えなかった。

 

 しかし、いざ戦ってみると、見違えるほど…いや、あれは見違えるとは言えませんな。私の目が節穴でありました。

 

 恐怖さえ感じるほどの闘気と、冴えわたる武技。これほどの武人に、私は未だかつて出会ったことがありませぬ」

 

そう言うと、趙雲は俺に向かって膝を付き、左手で右手を包み込んで見せた―これは、最敬礼だ。

 

「一刀殿。此度の非礼、大変申し訳ありませぬ。この趙子龍、一生の不覚…

 

 まさかあなたがあれほどの闘気と武技をお持ちでいらしたとは見抜けず、大変失礼な真似をいたしました。

 

 この上厚顔極まりないことではありますが、客将として歩を共にする間、私を部下として使ってはくださらぬか」

 

真剣な表情だった。

 

そして、部下として使ってほしいということは、彼女は俺の部下となることを認めたというわけか。

 

俺は僅かな時間、思案してから答えた。

 

「…俺は、皆を仲間だと思っているんだ。警邏隊の皆や騎馬隊、歩兵隊、弓兵隊の皆も…仲間だ。

 

 その上で、俺は君に頼みたいと思う。趙子龍、君がここにいる間、俺達の仲間になってほしい」

 

言いきって、俺は趙雲の返答を待った。

 

「…はい。このような私でよろしければ」

 

返答は前向きなものだった。

 

「私の真名をお預けします。我が真名は星。これからは、星、とお呼びください」

 

「わかったよ、星」

 

 

 

こうして、趙雲―改め、星との一件は、丸く収まったのだった。

 

 

それからまた暫く―

 

 

 

 

 

「―うーん!桃園はいいところだったね~」

 

「―そうですね。あれほど美しい場所があるとは…」

 

「―あんな綺麗な所で飲んだ酒は格別だったのだ!」

 

三人の少女が、公孫賛の城へと歩を進めていた。

 

ふと、黒髪の少女が思い出したかのように桃色の髪の少女に声をかける。

 

「―しかし、近隣の村で聞いたところによると、最近では軍への志願者が多く、義勇兵の募集はそれほど大きくは

 

 行われていないようです。琢郡もこの頃治安が飛躍的に良くなり、盗賊なども現れてはいない様子。

 

 我らが行って、受け入れていただけるのでしょうか?」

 

「―大丈夫だって♪」

 

「―しかし、いくらご学友と言われましても、我ら三人だけでは足元を見られかねません」

 

「―そうなのだ。いくら―と―が強いからって、三人だと舐められちゃうのだ」

 

黒髪の少女と赤髪の少女の諌めるような言葉にも、桃色の髪の少女は笑顔を崩さない。

 

「―大丈夫、大丈夫♪白蓮ちゃんはいい人だから♪」

 

「―はぁ…」

 

「―お姉ちゃんはお気楽すぎるのだ」

 

「―い~いから、行こ♪」

 

少女たちは歩を止めなかった。

 

 

 

 

 

そう、行く手に運命の出会いが待っているとも知らず。

 

 

 

 

 

かの三人の少女たちと同じように。

 

 

あとがき(という名の言い訳)

 

 

皆さんこんにちは、Jack Tlamです。

 

今回は白蓮の許で客将となったり、星との仕合などをお送りしました。

 

相変わらず文章力ゼロですみません。かなりあっさりしすぎていると思います。

 

 

星のキャラが何だか崩れているような気がしないでもないですが、無印の頃ってこんな感じだったような。

 

そんな感じで、今回は一刀が軍部を司る将に相応しくない人間だと見て、自分がとってかわるために勝負を

 

挑んだって感じです。

 

 

稟や風が試したのは、朱里と一刀が懇意だと見ぬいたうえで、

 

それが軍師としての考えに影響するのか、感情的になってしまうのか、といったところです。

 

もちろん、そこで感情的になるほど朱里は子供ではありません。

 

 

さて、いよいよ次回は桃園三姉妹の登場です。

 

原作よりお気楽なあの人ですが、一刀がいないとこんな感じでしょうね。

 

一刀達とどう接していくかが次回の趣旨になるかと思います。

 

 

では。


 
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