No.611334

県令一刀と猫耳軍師2

黒天さん

前回に続きまして第二話です。

今回は拠点フェイズみたいな感じになるかな?

中身は一言で言うと

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2013-08-22 21:28:57 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:12502   閲覧ユーザー数:9569

脚に触れられている感触がする。触れられたあたりがじくじくと痛む。

 

何か話し声が聞こえる、聞こえるのは女性の声。

 

ゆっくりと目を開けると見慣れない天井が視界に入り、声のするほうへ視線を向ければ黒髪の女性、そこでふっと安心して反対側を見たのがいけなかった。

 

 

さっきの男。

 

 

背筋に冷たいものを感じる、うまく動かない頭でもあの賊から助けてもらったらしいことはどうにか理解できるけど、どうにも理由が理解できない。なぜ?

 

先ほどのあの冷酷な目で見下ろされる様子が脳裏に浮かび、また気を失いそうになる。

 

「あなたが私を助けたの……?」

 

ようやく絞り出したのはそれだけ。そんなことは状況を見れば私にもちゃんとわかるはずなのに問い返さずにはいられない。

 

会話がうまく頭に入ってこない、この女の人はこの男をご主人様といった。つまり家臣ということかしら。

 

この女性に助けを求められるかもしれないという望みはこれで絶たれた。

 

それにしてもこの男はどうして私を殺さずに助けたのかしら、あのまま殺されるとおもっていたのに。

 

思考の一部が口をついて出る、どれだけ余裕がないのよ私は。脚の痛みが思考を邪魔する。男の返答はどうにも要領を得ない。

 

観察するように二人の顔を見ると、男の方は時々私の下半身へと目を向けている。

 

そういえばなんだか足元が肌寒い……? まさか!

 

「ていうか見ないでよ変態!」

 

思わず下半身をかばおうと体を動かすと、激痛が走る。それと同時に思わずいつもの癖で罵倒してしまった事に血の気が引く。

 

機嫌を損ねたら殺される。この男はきっと迷わず私の首をはねる。何の躊躇もなく、あの賊と同じように。

 

考えを巡らせるうちに替えの服を持ってきて欲しい、という言葉を聞く。確かに返り血で汚れたままでは気持ちが悪くて仕方ないから助かるけど。

 

え、待って? この男がそう頼んだっていうことは。

 

 

女性は立ち上がり、部屋から立ち去っていく、呼び止めようとしても時既に遅し。

 

よりにもよってこんなキチガイの男と二人にしないで、置いて行かないで……。

 

男は私を起こして、違う部屋に連れて行くつもりみたい。肩を借りて、要するに密着する事になるわけで。

 

「ちょっと、やめなさい! 離して! このけだ……」

 

言ってはだめ、逆らってはだめ、まだこんなところで死にたくない。口をついて出そうな罵詈雑言を必死で抑えこむ。

 

誰かに忠義を尽くしてその人のために死ぬなら本望だ、でもこんな所で人知れず1人で死ぬなんて絶対イヤ。

 

きっと私の顔は面白いぐらい青ざめてるに違いない。

 

少し離れた部屋に私を運ぶと男は寝台に私を寝かせた。部屋の様子をざっとみると、今掃除したばかりのような、そんな印象をうけた。

 

とりあえず誰かの使える部屋で私を治療し、その間にこのあき部屋を誰かに掃除させていた?

 

なんのために?

 

男は椅子を引っ張ってきて寝台の横に座り、私に名を問いかけてくる。先に自分の名を名乗るあたりはちゃんとしてるのね。

 

「荀彧よ」

 

私の名を聞くと男はしばらく何か考えこむようにしている。何よ、私の名前がそんなに気に入らないの?

 

知ってる人の名に似ていたと言っていたけど、そんな様子には見えなかった。

 

すぐに替えの服をもってくる。そういって男は立ち去っていった、私はひとまず胸をなでおろす。

 

入れ違いに、先ほどの女性が部屋にはいってきた。警戒はしたが少なくとも、あの男よりは随分と安心できる。

 

「替えの服を持ってきた、自分で着替えられるか?」

 

「ありがとう。それぐらいはどうにか……」

 

持ってきてもらった服にすぐ着替える、流石に恥ずかしいので着替えさせてもらうのは遠慮して、一度外にでてもらった。

「名前を教えてもらってもいいかしら? 私は、性は荀、名は彧、字は文若よ」

 

「そう言われれば名乗っていなかったな、性は関、名は羽、字は雲長。関羽と呼んでくれればいい」

 

「北郷っていったかしら、あの男はいったいなんなの?」

 

私の問いに対する答えをまとめると、現在涿県の県令であること、天の御遣いと称される人物らしいということ。

 

私は目前でみたというので教えてもらったけど、暗器使いであるらしいということ。

 

「嘘でしょ? あんなキチガイでけだもので近くにいるだけで孕ませられるような男が県令で天の御遣いだなん……」

 

全部言い終わる前に風を切るような音とともに、『何か』が私の鼻先をかすめていく。続けて壁に何か大きなものが突き刺さるような音。

 

「ひっ!?」

 

目の前には柄があり、壁に突き刺さっているのは、青龍偃月刀? ほんの少しでもずれてたらひょっとして鼻が落ちてた……?

 

額に冷や汗が浮かぶ。

 

「それ以上愚弄するのであれば、いくらご主人様の客とて許さんぞ?」

 

関羽の方をみれば壁に深々と突き刺さったそれを片手で軽々と引き抜きながら、鬼のような形相でこちらを睨みつけている。その声に血の気が引いた。

 

ひょっとして、北郷より関羽のほうが数倍危ない……?

 

「わ、私はあの変態男のこと……を……」

 

「警告はしたというのに、中々命知らずだな?」

 

いつもの癖で思い切りやってしまった……。関羽がその青龍刀をゆっくりと振り上げる、私はなんかもう……涙目。私もう明日の朝日は見れないのね……。

 

「よせ愛紗!」

 

ものすごい勢いで扉が開けられて、北郷が叫ぶと関羽がピタリと動きを止めた。多分殺気とか怒気といったものを感じたのだんじゃないかと思う。もう少し遅かったら体と首がさよならしてたに違いない。

 

私はどうやらこの男に二度も命を救われてしまったらしい。

 

床に正座させられてお説教される関羽をみたのは後にも先にもこれだけかもしれない。

 

ぼんやりしていたせいで会話の内容までは覚えてないけど、ふてくされたような表情でションボリと項垂れる関羽の顔はよく覚えている。

 

 

 

それから2日後、俺は荀彧の部屋にいた。それというのも、傷が化膿したようで、熱を出して荀彧が寝込んだからだ。

 

申し訳ないが寝てる間に勝手に医者を呼んで診察してもらうと、予想通り怪我が原因だろうとの事、起きたら薬を飲ませて、包帯はマメに交換して傷を洗い、ぬり薬をぬるようにと言われた。

 

愛紗や鈴々は調練や警邏で忙しいし、黄巾党退治で急な出撃もある。結局暇なのは俺しかいない。政務は確かにあったが、あんなものはどこででもできる。机と椅子を持ち込んで、仕事をしながら看病をやっている。

 

恩を売ったら居着いてくれないか、なんて淡い期待もしつつだった。

 

ただ、愛紗や鈴々に荀彧が史実でどういう人物だったかを教えるわけにも行かず、看病を買って出たらひどく怪訝な顔をされたのはお約束か。

 

せっせと仕事をしながらふとそちらに目を向ければ、うっすらと目を開けた荀彧と目があった。

 

「……何で私の部屋にあなたが居るのよ」

 

開口一番それですか。そんなことをいいつつも、声に張りがないし、随分調子が悪そうに見える。

 

「一応看病してるんだけど? 本当は愛紗達に任せればよかったんだけど、愛紗達は武官だからそっちの仕事を休んでもらうわけにもいかないし、仕事の場所を選ばない俺が看病することになったんだ」

 

さらにもうひとついえば、初日に荀彧を本気で殺そうとしたらしい愛紗に看病を任せる気にはならなかったし、明らかに鈴々向きの仕事ではないってところが大きい。

 

仕事の手を止めて隣に行き、額にのせていた濡れタオルを交換しようとすると驚いたようにビクッと体を震わせるものの、少し表情が和らぐ。嫌そうな表情はそのまま。

 

熱が出てるのだから喉が乾いてるだろうと、水を湯のみに入れて手渡すとそれを素直に口に運ぶ。一応気を使って一度沸かして冷ました水だ。

 

「これ、飲み薬だから飲んでおくように。他になにか食べたいなら用意するけどどうする?」

 

「いらないわよ! いたたた……。うぅ、こんな状態で男と二人きりなんて……」

 

どうやら、俺が気に入らない、というより男嫌いらしい? 顔や首筋の汗を軽く拭いてあげながら話しを続ける。

 

「食欲はないかもしれないけど、ムリにでも少しは食べるように。なにか食べたい物があれば用意できる範囲でなんとかするし。あと解熱剤はもらったけど、余程具合が悪くなければ飲まないほうがいいかな、そのほうが治りが早いはずだから」

 

返事をせずにぷいとそっぽを向かれてしまった。

 

仕方なしに仕事に戻るが、チラチラとコチラを見ているような感じがする。気になってそちらを見ると目が合い、慌ててぷいっと視線を外す。可愛い……。

 

そちらを見ないで書簡の方をみていると、じーーっと見られているような気がする。視線を向けると

 

ぷい

 

まぁ、いいか。見られて困るものでもないし。

「寝てる間に変なことしたりしなかったでしょうね」

 

黙々と仕事をしていると不意にそんなことを聞かれる。

 

「何もしてないよ、荀彧のいう変なことっていうのが何かはしらないけど、医者には見せたり、汗ふいたり、頭にのせてる布変えたりぐらいしかしてないよ」

 

そちらに視線を向けず、仕事をしながら問いにこたえる。

 

「どうしてそこまでするの? 誰ともしれない私なんかに」

 

「ん、んー……」

 

荀彧が優秀な軍師で文官だと知ってのこと、とは口が裂けても言えないし、どう答えるかを悩んでしまう。

 

「俺のいた国にはこんな言葉があるんだ。『情けは人のためならず』。意味としては、誰かを助けてあげれば、いつかその誰かは自分を助けてくれる。って感じかな。甘い考えかもしれないけど、この言葉は好きでさ。だから助けられる人は助けたいんだ」

 

沈黙が気まずい。苦笑しながらも仕事を続ける。苦しい言い訳だし、甘い理想を振り回してるヤツだと思われたかもしれない。

 

「む」

 

仕事の手が止まる。気になって仕事が手に付かないわけではない、この書簡をどう処理していいかがわからないのだ。所詮付け焼き刃、わからないことも多い。

 

やっぱり欲しいなぁ、荀彧みたいな軍師っていうか文官……。士官したいって人はいるけどどうにもパッとしない。うっかりすると読み書きさえアヤシイようなのがきたりするし。

 

「見せなさいよ、それ」

 

「へ?」

 

急な申し出に反応できず、思わず素で返してしまう。

 

「教えてあげるから見せなさいっていってるの! 何回も言わせないで! あうぅ……」

 

大きな声を出すと傷に響くのか、それとも頭痛がするのか、情けない表情になるのがまたそそる……。いやいや、何を考えてるんだ俺。

 

「いいのか?」

 

「どうせわからないんでしょ?」

 

余程眉間にしわでもよっていたか。苦笑しながらその書簡を見せれば、すぐにわからなかった部分を教えてくれる、処理について3種類ほどの案を出し、それぞれを説明してくれる。

 

説明は俺にもわかりやすく、すっと頭に入ってくる。

 

「ありがとう、助かるよ」

 

「あんたみたいなのが主じゃこの県の先も見えたようなものだわ」

 

ぷい

 

なんだかほんわかしてしまう俺がいた。

 

その夜。

 

「じょ、冗談じゃないわよ!」

 

「冗談でこんなこと言わないよ」

 

「男に触られるなんてイヤ! やめて! ちょっと、そんなとこ触らないで変態! ひうっ……」

 

「だから暴れるなって言うのに……、暴れると痛いぞ?」

 

別にやらしいことをしてるわけではない、包帯の交換をしようとしてるだけだ。場所が、太ももなのはあるが。

 

愛紗にはやはり先の理由から頼みづらく、鈴々に任せるのはやっぱり不安……。というわけで俺がやることになったわけだが。

 

座ってくれといったら座ってくれたが、まぁ、嫌がるのは目に見えていた。

 

「なんもしないって! 包帯変えて傷洗ってクスリ塗るだけだから!」

 

「嘘よ! きっとこのまま襲う気なんでしょ! うぅ、コレだから男はだめなのよ」

 

「そんなことするか!」

 

はぁ、と、大きくため息をつく。どうしたものか。

 

「既に汗拭いたり濡れタオル変えたりでたいがい触ってるけど?」

 

「っ!」

 

あ、赤くなった。怒ったんだか照れたんだか……。

 

「仕方ないな。ほら。何か変なことでもしたらソレで俺を刺せばいいだろ」

 

隠し持っていた小刀を荀彧に手渡すと、返事もきかず、脚の包帯を外しにかかる。

 

いざ作業にかかるとしおらしく、小刀を握りしめたままじっとその作業を見ている。脚なんだから自分で包帯を変えたりもできるだろうけど、傷の状態を自分で確認しておきたかった。見るとやはり化膿してしまっている。

 

「これは治るのに時間がかかるな」

 

この時代の薬が効くかどうかなんてわからないが、一応医者だ、言われたとおり、水で傷口を軽く洗う。

 

「んっ……!」

 

びくっと体を震わせたりする仕草とか、時々口から漏れる声が妙になまめかしい気がするのは、俺の思考が腐ってるからだろうか。

 

傷を洗い終わると次は薬……。

 

「っ! 痛い! 痛いってば!」

 

「こら、殴るな! 薬なんだからしみるのは仕方ないだろ! 手元が狂ったらどうする!」

 

ぽかぽかとやられながら作業を続ける。多分本気では殴ってないとおもう。そんなに痛くない。

 

薬を塗り終えると、包帯をしっかりと巻き、結ぶ。

 

「せめて、もうちょっと優しくしなさいよね」

 

涙目になりながらこちらを睨んでくる。可愛いなぁこの子……。

 

「善処するよ、さて俺はここで失礼するけど何かあるようなら人を呼ぶように」

 

薬が効いて大分楽になったようだし、大丈夫だろうと思い俺は部屋を後にした。

 

 

しばらく経って、荀彧の傷がある程度なおって動けるようになってきたので、よければ仕事をしてもらえないか。と頼み込んでみると

 

傷が完治して体力がもどるまで。と、条件付きで仕事をしてくれることとなった。承諾してもらうまでに苦労はしたが、思うほどではなかった。

 

しかし期限付きということはやはり曹操の所に行きたいということか。

 

どうにかできないかと考えを巡らせながら、俺は人知れずため息をついた。

 

 

 

政務をある程度荀彧に任せられるようになり、手があいた俺が力を入れたのはスパイ……細作の育成。

 

これをやることになった理由は。

 

「ここでは細作は育ててないのかしら?」

 

という荀彧の言葉から。荀彧にくわえて愛紗とも相談してみたところ。

 

「私ではそこまで手が回りませんし、気配を消したりする能力はおそらく私よりご主人様が上です。ご主人様が直接指導してみてはいかがでしょう?」

 

という返事が帰ってきた。細作を育成すること自体には賛成で、出来る範囲でみんなも手伝ってくれるということなので、それなら、と俺は細作の育成を始める事にした。

 

 

早速兵の中から身軽なものを選んで細作部隊を編成し、教えこんでみれば、なかなか見込みがあるヤツもいる。

 

「今日の訓練はここまでにしよう。ん、そうだな。とりあえずこれぐらいはできるように」

 

俺は周囲を見回して……。荀彧が歩いているのを見つけるとその背後に忍び寄り。ポンとその肩を叩く。

 

「うひあぁ!?」

 

髪の毛を逆立てそうな勢いで驚き、バッと振り返る。何だか驚かせたのが申し訳なくなるぐらいびっくりされた。今にも泣きそうな勢いだ。

 

「傷を早く治したいならあんまり出歩かずにおとなしくしてたほうがいいんじゃないか?」

 

「だ、だだ、だったらあんまりおどかさないでくれる!? ていうかそんなに近くによらないでよ変態!!」

 

平謝りに謝ってから兵士たちの元へと戻る。

 

ちなみに最近愛紗にはやってない。……黄巾党の討伐で気が立っているのでやったら本気で首が飛びかねないからだ。

 

荀彧が出現場所や出現した時の逃走経路を先読みして教えてくれるようになったので討伐は随分楽にはなったが、やはり連日出撃しては討伐となるので疲れも貯まるのだろう。

 

荀彧言うには細作をちゃんと育てて使えば今よりもっと正確に予測することができるからもっと楽になるし、情報には千金の価値があり、いち早い正確な情報があればそれだけ動きやすく策も立てやすくなるので有利になる。

 

目指すところは忍者とでもいったところか。細作隊なんていわず忍者隊にしようか。他に対する暗号的な意味も込めて。

 

自主的に訓練を続ける兵を見ながらそんなことを思うのだった。

 

あとがき

 

1作目を書いたそのままの勢いで書いた2作目です。

 

やはり自分で間違った部分を見つけるのは難しいですね。

 

読み返すとそのたびに間違った箇所が出てきてしまうのがなんとも……。そこを修正すると違う所で矛盾がでてそれに気づかなかったり……。

 

さて今回はずっと桂花さんのターンでしたがいかがだったでしょうか?

 

うちの桂花さんの一刀に対する言葉責め(?)がゆるいのは機嫌を損ねたら殺されるかもしれないという恐怖があり、自分を押さえつけてるから。

 

ツン度だけが下がってる感じで。途中じっと一刀のことを見ていたりするのはデレではなく警戒心から、なんてふうに考えてます。特に怪我が治るまでは、なるべく逆らわないように機嫌を取ろうとしている感じ。

 

恐怖心が徐々に恋心にすり替わっていく様をかけたらなぁ、なんて思ってます。

 

では、今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました!


 
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