No.610056

『もう何も恐くない』

資源三世さん

魔法少女まどか☆マギカ 二次創作。作者HPより転載

2013-08-18 20:16:36 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:559   閲覧ユーザー数:558

 それは暁美ほむらが幾度と繰り返した時間の中で見た一幕。時の迷い子の見たそれは夢か現か……。ただ、一つ言えることは……

 

 

「これは私が転校する前の学校で聞いた話なんだけど……」

 

 ほむらとまどか、さやかだけが残る寂しい教室の中で、ほむらは抑揚のない声を更に低く抑えて語り始める。逢魔が時の教室では、ほんの少し声に雰囲気を持たせるだけで、妙な緊張感が張り詰めるのが肌で感じられる。

 

「これはある女の子が本当に体験したことなんだけどね…… その女の子……、そうね、名前は鹿目まどかでいいかしら」

 

「ちょっ、よ、よくないよぉ。なんで私なの?!」

 

「いいじゃん。ほら、まどかってこういうのの主人公っぽいし」

 

「もう、さやかちゃん!」

 

 思い切り恐怖を全面にだすまどかに対して、怖さを隠そうといつも以上に口早にまくしたてるさやか。この時間に話を始めたのは良かったとほむらは一人納得して話を続ける。

 

「ごめんなさい。まだこっちにきたばかりだから、まだ青い人の名前は覚えてないの」

 

「なあんだぁ。それじゃあ仕方ないね」

 

「いや、さりげなくひどいことスルーされてない?」

 

「まあ、そのことはどうでもいいとして」

 

「ちょっ、どうでもいいで済まさないでよ」

 

「そのまどかが体験した話なんだけどね。ある日、その子は奇怪な生物に出会ってしまうの。まるで血のような赤い瞳をランランと輝かせ、不快なほどに猫に近い体を持ちながら猫などではなく、耳からは更に耳を生やす狂気じみた姿。雲のような不定形な尻尾を震わせ、嘲笑いながらまどかに近づいてきたの……」

 

「そ、それで……」

 

「そいつはどんな願いであろうと叶えると甘言を弄して、あなたに取り入ろうとしてきたわ。もちろん、奇跡はただじゃない。魔女と呼ばれる存在と永遠に殺し合え…… 冒涜的な笑みをこぼしながら、嬉々として告げてくるの」

 

「こ、怖いよ、ほむらちゃん……」

 

「え、えげつないわね……。普通、受け入れないわよ、こんなの」

 

「そうね、普通ならね。でも、でも、そいつ…… QBとでも言っておきましょうか。そのQBはね、用意周到だったわ。かつてQBと契約した少女を連れてきたのよ」

 

「え? QBなんかと契約しちゃった子がいるの?!」

 

「馬鹿じゃないの?」

 

「そうね。でも、その子ね…… 事故で瀕死だったのよ。生きるか死ぬか…… 選択肢のない状態だったのよ。正直、その事故ももしかしたらQBが……」

 

「ひどい!」

 

「本当、最低ね。そのQBって奴」

 

「QBは自分だけじゃ信用されないことは理解してたのね。それで、その子…… 巴マミという名前にしておこうかしら。その巴マミに他の子を自分たちの世界に引き込む勧誘をさせたのよ」

 

「なんで、そのマミさんは…… そんな勧誘役なんて引き受けちゃったんだろ?」

 

「知ってる? 事故で死んだ人って寂しくて生きている人を引き込むんだって。事故現場で同じような事故が続くのはそういうことがあるって……」

 

「ちょ、ちょっと! そ、それじゃ…… そ、そのマミさんって」

 

「生きてはいるわ。でも、寂しかったんでしょうね。あの手、この手でまどかを魔法少女にしようとしたわ。甘いお菓子で釣ったり、戦いの安全性を説いたりね。そして、それはやがて功を奏して、まどかはQBとの契約を考え始めてしまったの」

 

「えぇー! や、やだよ、私!」

 

「あー、でも、まどかってそういうところあるからなぁ。凛々しく戦ってる姿とか見せられたらコロリといっちゃうかもね」

 

「そ、そんなことないよ! さやかちゃんの意地悪」

 

 そう言って、まどかは頬を膨らませてそっぽを向いてしまう。さやかは苦笑いしながら両手を合わせて謝るが、まどかは許す気配はなさそうだ。

 

「全てはQBの計算通り進んでいる…… そう思われたわ。だけどね、そこで誤算が発生したの」

 

「誤算?」

 

「まどかは一度は契約を決意したの。だけど…… その前に巴マミが無残な死に様を晒すことになったの」

 

「ひっ!」

 

「ちょ、ちょっとぉ……」

 

「それはそうと二人はたい焼きを食べるときは頭から? それともしっぽから?」

 

「え? 私は頭からかな?」

 

「あたしも同じかな。頭からガブリと……」

 

「……魔女もそうだったわ」

 

「きゃぁー!」

 

「ちょ、ちょっと! い、今の反則! 反則!」

 

 何を想像してしまったのか、二人は悲鳴とも絶叫ともとれない騒ぎをするのであった。

 

「ところで二人はソーセージとか好き?」

 

「え? え? す、好きだけど……」

 

「な、なんか凄い嫌な予感がするんですけど!」

 

「魔女も嫌いじゃなかったみたいね」

 

「だーかーらー! やーめーてー!」

 

「うぷっ! あたし、今日、肉は食べられないかも……」

 

「ふたりはモツとか食べる?」

 

「いやー! もう言わないでー!」

 

「言わなくても分かる! 言わなくても分かるから言わないで!」

 

「QBも好物だったみたいよ」

 

「予想外の方向からトドメが来ちゃったー!」

 

「グロ、ダメ絶対!」

 

 二人の想像をかきたて、適度に遊んだほむらは話を戻す。聞いているまどかとさやかはぐったりとしていて聞ける体力が残っているか、疑問が残るところであったが。

 

「さすがにまどかも○○を見ては考え直すしかなかったのね。契約を諦めてしまったわ」

 

「し、仕方ないよね? マミさんには申し訳ないけど、無理だよね」

 

「そ、そうだよ。そんなの見せられたら…… うぅ、思い出しただけで気分が悪くなってきたわ」

 

「でもね、巴マミがいなくなったことでその街で魔女と戦うものがいなくなってしまったの。そこでQBは手っ取り早く契約できそうなまどかの友達…… 名前は美樹なんとかでいいわね。その子と契約してしまうの」

 

「え? なんでそんな簡単に契約しちゃったの、なんとかちゃん」

 

なんとか「あたしじゃないって! つか、なんとかじゃなくてさやか! 美樹さやか! まどかまで間違えないでよ」

 

「なんとかの願いは幼なじみの男の子を自分の虜にすること…… だったんだけどね、世間体もあって彼の怪我の治療にしたみたいね。まあ、恩を着せるつもりだったんでしょうけど」

 

「そっかぁ。結構、さやかちゃんもえげつないんだね」

 

「だから、あたしじゃないっての!」

 

「でも彼女一人では不安だったのかQBは他の街からも一人、浮浪者を呼び寄せたわ」

 

「浮浪者?」

 

「かつてQBによって一家離散、自宅全焼にまで追いやられた少女よ。その子は佐倉あんこでいいかしら。なんか違うような気もするけど、気のせいよ」

 

「うん……。なんか違うような気はするけど気にしないでおくよ」

 

「名前なんてなんだっていいじゃない」

 

「そうね。なんとかの言うとおりよ」

 

「だから美樹さやかだって」

 

「QBのせいで完全にグレてしまった彼女はなんとかと喧嘩をしてしまうの。その中である一つの事実を知ってしまうの」

 

「事実って……?」

 

「QBと契約した者はね…… 魂を抜き取られてゾンビになってしまうのよ」

 

「ゾ、ゾンビ?!」

 

「なんてことをしてくれるのよ!」

 

「その事実を知ったなんとかは自らの過ちを認めようともせず、まどかを自分と同じゾンビにしようと企てるわ。でも、実はそれらは全てQBの計算していたことなのよ」

 

「ひどい! ひどいよ、さやかちゃん!」

 

「って、なんであたし?! ここはQBでしょうが!」

 

「だけどね、そこでもQBの思惑は外れてしまうわ。美樹さやかはゾンビになった上にモブキャラに幼なじみを寝取られ、自暴自棄になって、ついには浮浪者と心中してしまったの」

 

「さやかちゃん…… 可哀想……」

 

「だから、あたしじゃないって! つか、なんで最後だけ名前間違ってないのよ」

 

「細かいことはいいじゃない。それで最後に残ったまどかだけどね……」

 

「う、うん……」

 

「やっぱり、まどかも非業の最期になるのね」

 

「まどかは……」

 

「あなたたち、いつまで残ってるの?!」

 

「きゃー!」

 

「うわー!」

 

「……」

 

 話がクライマックスとなった緊張感の中で、予期せぬ方向からの怒鳴り声。これにはキモを潰したのか、まどかとさやかは半ばパニック状態になってしまうのだった。

 

 パニックが落ち着いても結局、その日は先生に追い返され、結末は翌日ということになるのだった。

 

 

――翌朝

 

「ほむらちゃーん!」

 

「おはよー」

 

「まどか。……あと青いの」

 

 朝、教室についたほむらを待っていたのはまどかとさやかの元気な挨拶であった。ほむらは何事もないことを安心しながら自分の席へと向かう。と、そこには……

 

「やあ、おはよう」

 

「……」

 

 机の上には見慣れた小動物がいた。まるで血のような赤い瞳をランランと輝かせ、不快なほどに猫に近い体を持ちながら猫などではない。その耳からは更に耳を生やす狂気じみた姿。雲のような不定形な尻尾を震わせ、嘲笑を浮かべる生物。

 

「ほむらちゃん、その子ね、魔法少女になる契約をすれば何でも願いを叶えてくれるんだって! ほむらちゃんから聞いた話とよく似てるけど、その子は悪い子じゃなさそうだし、私いいかなって契約しちゃった」

 

「あたしも。まあ、あたしの願いなんて、そんな大したことじゃないんだけどね」

 

「……」

 

「君も僕が見えるみたいだね。なら、資格がありそうだ。君も僕と契約して、魔法少女に――!」

 

 QBがうすら笑いを浮かべながら迫るより先に、ほむらの乾いた銃声がそれを中断させるのであった。

 

「私の戦場はここじゃない……」

 

 最期にそうだけ告げて、ほむらは教室を後にする。そう、彼女の戦いはまだ始まったばかりだ。

 

―――Fin―――


 
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