No.604026

天凱のルシディア プロローグ

にゃっきさん

魔法が実在する世界。だが、人間の中では魔法を使うことのできる者は少ないが為に、魔法を使うことのできるエルフは迫害されていた。そんな世界のクロークテッドという国にベルトゥギスという少年は住んでいた・・・
そんな少年が活躍する少しダークなファンタジー

2013-08-02 02:13:38 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:333   閲覧ユーザー数:333

 

 全てが赤茶色だった。

 錆色と言った方が適切だろうか?1人を残し全てが錆び付いた世界。

 ギギギッと鉄が錆び付いた様な音を立て、それは幼い少年に向かって手を伸ばしていた。少年は這いずって何とか“それ”との距離を広げようとする。

 だが、“それ”の方が少しだけ早い。“それ”の手が少年の顔へ伸びる。その手が左瞼に触れた瞬間、身を裂く様な激痛が瞼を中心に駆け巡った。声にならない叫び声を上げ、地面を転げ回った。

 それでもなお、その手は伸びてきて――

 

****

 

 

 むせ返る様な暑苦しい熱帯夜だ。ベルトゥギスは跳ね起きると荒い呼吸を繰り返した。びっしょりとかいた寝汗が更に不快感を増させる。

 何も羽織ることなくベルトゥギスは立ち上がると乱暴にドアを開き外へ出た。

 月は雲の後ろに隠れてしまっていて、完全に闇が支配していた。草むらからは時折虫の鳴き声が聞こえてくる。

 手に持っていた水の入ったゴブレットを一気に傾け飲み干す。一息つくと、空を仰ぎ見た。すでに白んできており、いやがおうにも朝ということ知ったベルトゥギスは、ウンザリとした様子でため息をついた。

 

「…もう朝か」

 

 自分が寝ていた部屋から声が聞こえた。また勝手に侵入した猫だろう。

 また、いつもと変わらないつまらない一日が始まる。そう、ベルトゥギスは思っていた。

 

 

 

 

 革で出来た装備を着込むと腰に長剣を佩いた。今日は国から出頭命令書が届いている為、中央庁に向かわねばならないのだ。面倒そうに頭を掻くとゆっくりと歩きだした。

 

「…本当に何なんだ?俺に用?」

 

 よく考えてみるが、呼び出されるような事をした覚えはベルトゥギスにはまったくなかった。だが、出頭命令をシカトかましてバックれるといろんな意味で終わってしまう。だから行くしかないのだ。どうしようとも、どうなろうとも、だ。

 周りからどうしたのだろうか?と聞かんばかりに不躾な視線をベルトゥギスへと送っていた。

 ぼそぼそと長剣から声が聞こえてきていたが、場所が場所なのでそれに反応する事は出来ない。喋ってしまうと周りから変な目で見られるのが火を見るより明らかだ。

 

「くそったれ…ッ!」

 

 小さく毒づくと歩く速度を速めた。

 そろそろ町も活気づく頃合いであるのも確かであるし、朝から腰に長剣をぶら提げた少年が賑わい始めている道の真ん中を歩くと、周りがモーゼの海割りの如く歩く道が出来上がった。少し気まずく感じたがその道を足早に通り抜けて行った。

 10分後。ベルトゥギスは、大きく豪奢な建造物の前に着いていた。いつ見ても惚れ惚れする程虫唾が走る外観を出来うる限り無視して、中へ入る。ベルトゥギスを良く思っていない連中が彼に軽蔑の眼差しを向けていたが、ベルトゥギスが一睨みするとそそくさと散っていった。

 

「…こういうのがあると知ってあいつは俺を呼びやがるから、性質が悪いんだ」

 

 悪態をつくと共に歩く速度を更に速める。

 ずんずんと進んでいくベルトゥギスに不思議そうな顔を侍女達が浮かべていたが、この際関係ない。更に進んでいくと豪奢な両開きのドアあった。ベルトゥギスはおもむろにドアを蹴り開けると驚いたように立ち上がる影があった。

 

「おいおい。ベル、ノックもなしか?」

「お前にはそれで充分だろ?なぁ、マルカルス」

「まあ、そういうなよ。仕事を用意してやったんだぞ?」

「そりゃ助かっているさ。けどな、お前」

「なんだ?」

「そろそろ、女装癖はやめたらどうだ?そりゃ見た目は似合ってるけどよ。歳的にはやめろ」

 

 気持ちワリィと付け足すと身震いをした。しなを作ってベルトゥギスを見つめるマルカルスを前に一拍の間に長剣を抜き距離を縮めると首筋に剣を突きつけた。

 

「ま、まあ、落ち着きなよ。流石に今のは僕が悪かったよ。それで仕事の件なんだけど、ここの地方の西にある森は知っているよね?」

「ああ、当然だ。あそこは有名だからな。“まどろみの龍”が居るって話だろ?それがどうかしたか?」

「そ。君の出番さ。君にはその“まどろみの龍”について調査をしてきて欲しいんだ。危険だから、それ相応の対価も支払うつもりだよ。どうだい?」

「まっ、恩もあるしな。分かった。その依頼受ける」

 

 笑顔で快く頷いたベルトゥギスにマルカルスはホッと胸を撫で下ろすと、ニッと笑った。

 

「それじゃあ、良い報告を待っているよ。あっ」

「なんだ?」

「最後にちょっといいかい?」

「だから、なんだ?」

「僕がもし、女だったら君はどうしてる?」

「はぁ?なんだ、藪から棒に」

 

 呆れた様に問うベルトゥギスに、真剣な表情でマルカルスが迫ると流石のベルトゥギスも、観念したようで渋々答えた。

 

「好みのタイプだったら惚れてたんじゃないか?とうよりも、お前ソッチの趣味だったのか…?」

「そうじゃなくてだな!ただ、もしもの話だよ」

「……ならいいんだが、とりあえず西の森の調査は任せろ」

「出立する日時は勝手に決めていい。けれど、あまり遅いのはやめてくれ」

「了解した」

 

 簡単に了承した事を後で後悔したのは言うまでもない。

 

 
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