No.603795

リリカル幽汽 -響き渡りし亡者の汽笛-

竜神丸さん

第9話

2013-08-01 16:29:04 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1477   閲覧ユーザー数:1425

-ポォォォォォォォォッ!!-

 

あれから数十分後。

 

とあるビルの屋上を幽霊列車が走り、通り過ぎた後にはシアン達が立っていた。

 

「ここがその街なのか?」

 

「えぇ、ここがその海鳴市です」

 

「…ここが」

 

ゴースト達は普段から見慣れている様子だったが、ダリルは日本の街に来るのが初めてなのか、感慨深そうに街を眺めている。

 

「さて、私はこれからターゲットの捜索に行って来ます。その間、あなた達は何処かで暇でも潰しておいて下さい」

 

「え、ちょ、おい!?」

 

ゴーストが呼び止めようとする前に、シアンは青白い炎に包まれその場から姿を消してしまった。

 

「あ~あ、行っちゃったよ………で、俺達はどうする?」

 

「…俺は俺で、ターゲットについて調べて回る」

 

「あ、俺も付いてくぜ」

 

「うぉい!? お前等もかよ!!」

 

ダリルとシャドウもビルからビルへと飛び移って行き、その場にはゴーストとファントムの二人だけが残ってしまった。

 

「…チッ」

 

ゴーストは近くのベンチに座らせている女性に憑依。女性はパチッと目を覚まし、立ち上がる。

 

「仕方ねぇ……俺もひとまず、暇を潰させて貰うとするか」

 

そう言って、女性も同じようにビルからビルへ飛び移っていく。

 

「あれ…?」

 

気が付けば、そこにいるのはファントムただ一人。

 

「え、ちょ……俺は留守番かよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!?」

 

哀れ、ファントムイマジン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――と言っても、どう暇を潰すか…」

 

あれから街中を歩き始めている女性(ゴースト憑依中、以下G女性と表記)だったが、何もする事が無いが故にイマイチ時間を過ごせないでいた。一応シアンから財布を預かってはいるが、だからと言って何か欲しい物がある訳でもない。

 

「…さっきから視線がウゼェな」

 

ちなみに先程から、彼女は周りの男性達から視線を受けまくっている。何せ憑依している女性自身がかなりの美人である上に、着ている服も肌の露出が多いのだ。男性達の視線が釘付けになるのも無理は無いだろう。

 

その証拠に…

 

「よぅ、姉ちゃん。一人かい?」

 

「俺達と遊ぼうぜぇ~」

 

「へっへっへ…」

 

こうして、ナンパしてくる男達が何人もいる訳である。

 

「…へぇ」

 

G女性はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「何だ、楽しい事でもさせてくれるのか?」

 

「お、物分かりが良いなぁ。お嬢ちゃん」

 

「おぅよ。楽しませてやるぜぇ?」

 

「そうかそうか、そりゃ楽しみだな。

 

G女性は敢えて逆らわず、ナンパ男達によってそのまま路地へと連れて行かれ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ここからは音声のみでお楽しみ下さい。

 

 

 

 

 

 

「みぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「おらおらどうしたぁ!! こんなものなのかぁっ!!!」

 

「ちょ、もう許し…ギャァァァァァァァァァァァァァァァッ!!?」

 

「兄貴ィィィィィィッ!?」

 

「お前等もだよ、ポンコツ共!!」

 

「痛ででででででで折れる折れる折れる折れる!?」

 

「そいやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁマジで折れたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

「こんなんで音を上げてんじゃねぇぞ、テメェ等ぁっ!!」

 

「うぼぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

「すいません、俺達が悪かったです!!」

 

「あぁ、何か言ったか今ぁ!!」

 

「おごげぁぁぁぁっ!?」

 

「ちょ、少しくらい謝らせ…」

 

「知った事かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「みぎょえぁっ!!?」

 

「ハッハァッ!! 高まるねぇ!!」

 

「ちょ、待って、死にます!? 死にますってこれ以上は!!」

 

「よっしゃあっ!! いっそ一回死んで、天国でも見て来いやぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「やめ……ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!??」

 

 

 

 

-Fatal,KO!!-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ、イマイチ張り合いの無い…」

 

G女性が手を払いつつ、満足してないような表情で路地からひょっこり出てきた。今頃路地ではどうなっているのだろうか……少なくとも、地獄絵図なのは間違い無いだろう。先程まで彼女を色目で見ていた男性達も、恐怖で目線を逸らしていく。

 

「ん?」

 

そんなG女性が視線を向けた先に、喫茶店らしき店が見えてきた。

 

「…仕方ねぇ。何か食っていくか」

 

G女性は財布をポンポンと放ったりキャッチしたりを繰り返しながら、喫茶店へと入っていく。

 

 

 

ちなみに喫茶店の名前には、『翠屋』と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、いらいっしゃいませ~♪」

 

ドアを開けて中に入ると、茶髪で眼鏡をかけた女性店員がお出迎えする。

 

「あれ? あなた…」

 

「あ?」

 

女性店員が突然何かに気付き、ジィ~ッとG女性を見始める。先程まで男性達からジロジロと見られ続けていたのだ、これ以上誰かに視線を向けられるのはあまり気分が良くない。

 

「何だ、ジロジロ見るな」

 

「あ、すいません! 失礼しました」

 

機嫌を悪くしたG女性が女性店員を睨み付けると、女性店員はすぐに謝って接客に切り替える。

 

「えっと、注文はいかがなさいますか?」

 

「コーヒーを一杯くれ。後は…」

 

メニュー表に目を向けて見る。見た目だけでも美味しそうなのはたくさん載っているが、あまり食べ過ぎてシアンに「金の無駄遣いです」と怒られる訳にもいかない。

 

「…取り敢えず、ショートケーキでもくれ」

 

「は、はい、かしこまりました!」

 

注文を聞いてから女性店員はそそくさと店の奥に向かい、G女性はぐてぇっとテーブルに突っ伏す。

 

「あ~…退屈だ…」

 

 

 

 

 

 

(あの人……何処かで見たような…?)

 

そんな彼女の様子を、さっきの女性店員は店の奥からこっそりと見ていたりする。

 

「…私の気のせいかな?」

 

「美由希さ~ん、こっちもお願いしま~す!」

 

「あ、は~い!」

 

と言っても、男性店員からの呼びかけですぐに仕事に戻る事になるのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

とある高層ビルの屋上にて…

 

「…ここら辺にはいないか」

 

ダリルは双眼鏡を使い、街全体を見渡していた。ターゲットの容姿に関してはシアンにも一応見せているし、ディアマンテのデータにも組み込んではいるのだが、やはりそう簡単に見つかるような訳でもないようである。

 

「どうだ~? まだ見つかりそうにねぇか~?」

 

そんなダリルに、寝転がっているシャドウが呼びかける。

 

「いや、まだだ。情報が少な過ぎるからな、ただの民間人がターゲットなんじゃ、見つけるだけでもかなりの一苦労だ」

 

「あぁ~やっぱりそうか……まぁ、大変だよなぁ」

 

シャドウも今まで散々ターゲット探しに苦労した経験があるからか、ダリルの言った事に同意する。これに関してはゴーストやファントムも同じ訳なのだが。

 

「…にしてもよぉ」

 

「?」

 

「よく情報伝達なんて引き受けてくれたよな、お前。俺達がこんなナリしてるってのに」

 

シャドウはダリルに対して自身の疑問を投げかけてみる。

 

ゴースト達は一度、ダリルがギャリッジと取り引きをしている所を襲撃している。ゴーストに至っては幽汽に変身して怪我も負わせている。シャドウからすれば、ダリルが何の理由も無く引き受けるとは思えなかったからである。

 

「…条件が良かったから引き受けただけだ。それに」

 

ダリルが双眼鏡を下ろしてからシャドウを横目で睨み付ける。

 

「俺は金を稼ぐ為に、今まで何度も犯罪を繰り返してきた。ギャリッジの時だってそうだ。こんな褒められないような事を続けてる以上、雇い主を選べるような立場でもない」

 

「ふぅん……ならよ」

 

シャドウは左手で長い触角を撫でつつ、再び問いかける。

 

「褒められない事だと分かっておきながら、何でそこまでして金を稼ぎたいんだ? わざわざ犯罪者にまでなってさぁ」

 

「……」

 

「何、もしかして言えない事?」

 

シャドウの問いかけに、ダリルは答えない。

 

「…まぁ良いや」

 

「よっこらせ」とシャドウは上半身だけ起き上がる。

 

「せっかく雇われてくれたんだからな。途中で、俺達を裏切るような真似だけはしてくれるなよ?」

 

「…充分に分かり切ってる事だ」

 

「頼むぜぇ、ダリル・ロッズさんよ」

 

シャドウが不気味な笑い声を上げるがダリルはそれを無視し、再び双眼鏡で街を見渡すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は戻り、翠屋。

 

「お待たせしました。コーヒーにショートケーキです」

 

「ん、どうも」

 

G女性は、男性店員から注文したコーヒーとショートケーキを受け取っていた。

 

(さ~て、これ食った後は本当にどうするかねぇ…?)

 

G女性はこれからどう時間を潰すか考えつつ、フォークでショートケーキの欠片を口に運んでいく。

 

「…お、美味い」

 

G女性はショートケーキの味を堪能しつつ、次にコーヒーを飲む。

 

その時…

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~ここが翠屋ですか」

 

「綺麗な店ですね~」

 

「そうだよ~。何たって、私の家族が経営してるんだから」

 

 

 

 

 

 

 

(…へ?)

 

店の入り口から聞こえてきた、三人分の声。

 

最初の二人は別に良い、だが三番目に聞こえてきた声は…

 

(ま、まさか…)

 

G女性が恐る恐る目を向けると…

 

 

 

 

 

 

 

 

「二人共、翠屋へようこそ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

スバルとティアナを引き連れている、高町なのはの姿があった。

 

 

 

 

 

「ぶっふぅぅぅぅぅぅぅっ!!?」

 

結果として、飲んでいたコーヒーを思いっきり噴く羽目になるのだった。

 


 
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