No.603665

新・戦極†夢想 三国√・鬼善者を支える者達 日常編・柑奈√第001話

皆さんお久しぶりです。

今回はちょっと正木通綱である柑奈さんと重昌との話を書きたくなったので書いてみました。
書いてみたはいいが、あんまり柑奈さんと関係なくなってしまい少し後悔(泣)

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2013-08-01 01:10:26 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:1392   閲覧ユーザー数:1259

新・戦極†夢想 三国√・鬼善者を支える者達 日常編・柑奈√第001話「貴方の目指す場所は?」

朝日が微かに昇り始めた時、誰よりも早く重昌は目が覚めた。

というのも、彼は今でこそいつも敵やあらゆる諸将の前で大胆に振る舞っているが、元来は臆病な程慎重な性格だった。

それ故、恋歌の父親である長尾為景に出会った若き日の彼は、朝の朝礼には欠かさず遅れないように必ず誰よりも早く起きていた。

その時の習慣が残っており、今では朝鶏が鳴く少し前に起きるのだ。

両隣で寝ている恋歌、柑奈、そしてその子供たちを起こさぬようにそっと寝具から抜け出し、夜着である白い着物からいつも着ている黒の……というより、漆黒の着物に着替えそっと部屋を出ていく。

彼らの部屋は城の真ん中の階の中央に位置する場所にある。

なんでも重昌曰く、「真ん中なら皆の情報を一番集中的に聞けるから」とのこと。

確かに理には適って……というより、そのままである。

そして君主が居る為部屋であるので、他の部屋より一際大きい。

それに加えて、壁の厚さも少し厚めにしている。

これはただ単に、彼らの夜の営みを聞く方も聞かれる方も迷惑にならないようにしているだけである。

しかし子供が産まれたので、それも極端に減ってしまったが――

その部屋の両隣の部屋は軍師である北郷兄妹が一人ずつ陣取っており、真上に愛紗、真下に瞳といるので、何かトラブルが起きれば皆そちらで片づけられてしまう。

だから、重昌らの部屋に誰かが入ってくるのは、誰もいない時期に次女が掃除に来る時ぐらいである。

因みに虎の部屋は一番上の階にある。

本人は皆と少し離れていることがさみしく感じている様だが、君主は重昌とはいえその全ての仕事を行っている(やらされいる)のは彼女であるので、それも仕方がないのであろう。

現在は軍師見習いである香蘭と、将見習いである故花が両隣の部屋にいる為、少しはさみしさも紛れた様だ。

さて話を戻すが、重昌は廊下を歩いて調理場行き、井戸水で冷やしていた野菜をしっかり洗い直しそのまま生で2、3個食べ、腹を満たすと自らの仕事部屋に向かった。

机の上には小さな山となり積まれている竹簡。

日のうちにどうしても解決出来なかった案件は重昌の所にいくようになっており、彼はそのやっかいな案件を皆が起き出すまでに終わらせる。

彼が机に向かい二刻程過ぎる頃には空に綺麗な青さがかかり、城の侍女や職人達は起き始める……のだが、今日は様子が違っていた。

彼が聞き耳を立てていると、今日いつもより一刻遅く周りが起きる音が聞こえてきた。

だが、その動く音は何処となくぎこちない。

その異変を確かめるべく彼は立ち上がろうとした時、勢いよく扉が開かれて自らの義愛娘(まなむすめ)が入ってくる。

 

椿(愛紗)「お館様!朝からこんな騒々しい入り方で申し訳ございませんが、どうしても来てほしい事が!」

 

彼女は彼に近づいてゆき軽く耳打ちする――

 

重昌「何!?風邪!!」

 

ただ今、彼は一刀の部屋にいる。

原因は一刀が風邪をこじらせ動けなくなったからだ。

そういう事であれば、城にいる者なり、医者を呼ぶなりすればよいのだが様子が少し違った。

 

重昌「一刀君、どんな調子だ?」

 

彼の呼びかけに一刀は力弱く答える。

 

一刀「………の、喉がい"だい”です”。頭痛もあり、間接と筋肉も……痛いです」

 

彼が言い終えると同時に重昌は一刀の額に手を当てる。

 

重昌「なかなかの高熱だからこれは恐らく」

 

椿(愛紗)「やっぱりインフルエンザですか?」

 

インフルエンザは普通の風邪ではない。

通常の風邪はのどの痛み、鼻汁、せき、くしゃみなどの症状が中心で、一般的に軽度。

しかしインフルエンザは悪寒、倦怠感、38℃以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛など全身の症状が強く、合わせてのどの痛み、鼻汁、せきなどの症状も見られる。

今回愛紗が真っ先に重昌の元に来たのは、医学に精通し尚且つ、インフルエンザの事を知る人間は彼しかいないと判断したからである。

 

重昌「それで椿。いつもはこんな早く起きていないだろ?今回はどうして――」

 

椿(愛紗)「え?いや、あの、その……」

 

重昌「なるほど、一刀君の所に泊まったわけだな」

 

彼は何があったと聞かれればナニがあったと答えるであろうが、今はその話は置いておこう。

すると重昌急に愛紗の額と自分の額を合わせ、突然の行動に愛紗も立場を忘れる。

 

椿(愛紗)「ひゃっ!!ち、義父上(ちちうえ)!?」

 

重昌「……やはり少し熱がある」

 

彼女はただ今急病中である者の部屋で一晩を過ごしたわけである。

それが伝染(うつ)るかもと考えるのも普通である。

 

重昌「私はこれから城の様子を見て回るから、君は部屋に戻って休め。後で粥を持っていってやる」

 

椿(愛紗)「お館様、私はまだ動けますよ」

 

重昌「大丈夫だ。ここ暫く内政は落ち着いているし、すぐに片づけねばならない案件も無いはずだ。君は軽いうちに早く治しなさい」

 

椿(愛紗)「……わかりました」

 

彼に諭され愛紗は自分の部屋に戻っていく。

恋姫好きな読者なら、彼女の性格的にここは絶対に引かず、「皆が働いているのに――」と言い、自らも無理を圧す性格であることは察するだろうが、重昌はその愛紗以上に頑固で、以前同じような事をしようとした家臣に「休まなければならない時は休め!!」と、無理やり部屋に医者の監視の下で閉じ込めた経験があったのだ。

 

結局、重昌の見回りの結果、城の武官、文官共々、半数以上がインフルエンザもしくは風邪の被害にあっていた。

風邪の者はこれ以上のインフル増加を防ぐため部屋で絶対安静の命が下り、後に城の全ての料理人に看病食を作らせた。

インフル患者は、直ぐに城にいる軍医を休暇の者関係なくフル動員させ、重昌は自身の考えたインフル対策を伝えて各自仕事にあたらせた。

この時代、インフル対策の注射や”タミフル”の様な薬剤があるわけではないので、対策というのも体内での自己防衛ぐらいしかないのである。

だが運が良いと言えば言い方は悪いかもしれないが、今回インフルエンザにかかった患者は被害者のうち一割程度に済んだ。

これ以上他に感染しない様にインフル者は一部の部屋に隔離。

係りつける医者にも重昌が用意したマスクや手袋などを付けさせしっかりと対策を施した。

重臣で元気であるのは、重昌を含めた恋歌、柑奈、香蘭、故花だけのメンツとなり、恋歌は自分の子供である(はな)、柑奈の子供である輝希(てるき)、そして家臣達の奥方や子供を引き連れて城の離れにある館で、事が収まるまで暮らすことになった。

国政における対策は、まず軍事面では、軍事演習は中止。

暫くは故花を中心として警邏を重点的に行う。

重昌の普段の小まめな気配りのおかげもあり、軍事面はこれで暫く持つであろうが、内政に関しては仕事も減るわけでもない。

よって普段は軍務中心である柑奈も今回は内政に回らざるえなくなった。

内政を行う文官は一つ大広間に集まり香蘭が中心となって作業を行い、重昌と柑奈は最重要案件を処理するために別室で作業を行うこととなる。

大広間より送られてくる処理済案件を柑奈が必死に見直し、重昌は普段重臣達が行っている仕事の全てを一人で行っている。

その状況が続き二日後、重昌より報せを受けた凱が駆けつけ、まず軽度の熱の愛紗が復活し、その翌日仕事に復帰した。

※凱の事を忘れたかもしれない読者に伝えておくが、凱とは華佗の真名である。

その後凱達医療者面々の献身的な治療のかいもあって、事件発生より一週間でほぼ全ての者の風邪は完治し、インフル者はさらにその一週間に完治。

そして重昌は更なるインフル感染を防ぐため一週間城内にいる者に手洗い、掃除、身の回りの整理などを徹底させ、計一ヶ月の間足りない人員で国政をやりくりした。

恋歌は退去していた家臣の奥方達と共に戻ってき、皆それぞれの家族と共に涙を流して再開を喜んでいる。

これだけ大きな事件であり、尚且つ死人が一人も出なかった事も奇跡に等しかった。

今でこそ風邪、インフルエンザは対処法や薬剤等があるが、いくら医学、歴史が発展していようが1800年前の中国にそんなものがあるはずもなく、その様な病気でも簡単に翼を授けられることにもなる。

 

そして一日、重昌は皆に休暇を与えた。

ここ一ヶ月、皆多大な仕事の為ろくな睡眠も取っていなく、疲労困憊状態だった為、その一日精一杯惰眠を貪る者や親しい者達と過ごす者、家族と静かに休暇を楽しむ者などに別れた。

一番多くの仕事をこなしていた重昌と柑奈は、周りよりの温情によりもう一日の休暇が出来た。

 

重昌「さて、柑奈。今からどうしようか?」

 

柑奈「え?いや、あの、その――」

 

重昌「そうか、ならば市に向かうとするか」

 

柑奈「ふぇ、まだ私は何も――」

 

彼女はそう言われて、重昌に手を引っ張られながら付いて行く。

そうして二人は街に出向きまず腹ごしらえの為飲食店街に向かったが、入った店が今巷で有名になっているファッション雑誌『阿蘇阿蘇』で有名となった5☆(五つ星)店。

漢中の領主であり、故花の姉である張魯が、最近自らの領地を中心として大陸全域にチェーン店を繰り広げようとしている、料理店『五斗米道(ごとべいどう)』。

凱の鍼による医術ではなく、食による医術を目指した彼女は、より美味しい料理を皆に食べてもらい皆に元気になって貰う為に始めた。

しかし重昌の治める地域のこの店はまだ出来立てであり、周りから手に入れられる食材、風土、商人の往来など店側は完全に把握出来ていない。

なので、店の食品は高く、とても庶民が行ける様な場所ではなく、ただ今は金持ちの貴族御用達となっていた。

さらに重昌は予約でもなかなか入る事の出来ない個室を借りた。

その様な場所に半ば無理矢理柑奈は、部屋に飾られているあらゆる一体いくらするか判らない送迎品を見渡している。

 

重昌「藩さん、来たよ」

 

藩さん「これはこれは親父殿、お待ちしておりました。通綱(みちつな)様もようこそお越しで」

 

柑奈「え、はぇ、は、はい……」

 

柑奈は緊張の余りこの店の店主である藩さんに頭を深々と下げ、彼女の長い黒味がかかった薄紫の長髪はウェーブを描く。

 

重昌「さて藩さん、一ヶ月の苦労も吹き飛ぶような上手い料理を振る舞ってくれるか?」

 

藩さん「勿論。たっぷりと精が付く料理を振る舞わせて頂きます」

 

すると藩さんは厨房に戻り、二人は店の店員に案内され机に座って待つ。

暫くすると巷では食べる事の出来ない高級料理の数々が流れてきた。

柑奈は目を輝かせて眺めており、重昌に言われ二人で合掌すると彼女はその料理に飛びつくように美味しそうに食べだした。

少し食べ進めていると、今は重昌といることを思い出し、顔を赤くして淑らしくなる。

 

重昌「はっはっは、遠慮することはないのに。私はその様な素直で可愛い柑奈が好きだぞ」

 

柑奈「か、可愛い///」

 

重昌にそう言われると彼女は先ほどより顔を赤らめて、表現とすればまるで頭から湯気が出る様だ。

二人は食事を進めていき柑奈はもう食べれないという感じで恍惚の表情を浮かべ椅子にもたれかかっている。

重昌は藩さんに渡された焼き飯(チャーハン)をモシャモシャと食べながら話している。

 

藩さん「親父殿、どうですか?」

 

重昌「うん、焼き加減はいいのだが、使っている食材が懲りすぎているかな。これでは高級感が残りすぎて一般人は何処か遠慮してしまう」

 

藩さん「なるほど……そういえば、前に教えてくれたここらの商人が使う流通経路。教えて下さってありがとうございます」

 

重昌「贔屓(ヒイキ)になるので流石に全てを教える事は出来ないだろうが、どうだ?少しは輸入費を抑える事は出来たか?」

 

藩さん「はい。費用を上げずに売上を上げることが出来そうです」

 

柑奈「………」

 

そんな二人の会話が一通り終わると、重昌は柑奈を連れて店を後にした。

 

そんな帰り道……

 

重昌「今回行った店の店主の藩さんによれば、漢中の領主であり、『五斗米道』本店の経営者である張魯はああいった感じの店は好まないらしい」

 

“ああいった感じ”とは、重昌達が招かれた高級感漂う部屋での食事の事だ。

 

重昌「それは藩さんにも言えることで、彼もああいうのは好んで行っていない。しかし、少しでも売り上げを伸ばして、儲けた資金で早く理想の店にしたいそうだ」

 

柑奈「理想の店?」

 

重昌「庶民も貴族関係なく皆で笑って食事が出来る店が望みらしい」

 

彼女はその言葉を何処かで聞いたことがあった。

重昌が日ノ本を統一しようとしていた時にいつも言っていた「農民も武家も貴族も関係なく、互いに尊敬し合いながら笑って暮らせる世の中を作りたいな」という言葉に似ていた。

また彼はこうも言っていた。

「人の世が存在する限り、贔屓、差別、争いが消える事は無い。だが、夢は叶える為にあるのだから、夢見て頑張るのもありではないのか?」とも言っていた。

彼は争いを零に出来るとは思っていない。

だが、限りなく零に近づける事は出来るとは思っている。

だから彼は戦っているのだ。

立場は違えど叶えたい夢は似ているから重昌は手を貸したのかと彼女はそう感じた。

この後は二人で市場をぶらついたり、柑奈の為に重昌が新しい服を見て回ったりと充実した一日を二人は過ごした。

 


 
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