第6剣 湖の女王
キリトSide
トンキーの背に乗って移動を始めた俺達。そんな中、クラインが言葉を漏らした。
「あのよぉ…これ、落っこちたらどうなんだろうな?」
「高度1kmを飛行中ってところだから、運が良ければ死なないだろう」
運がなければ死ぬだけだが、考えても仕方がないことだ。
「アインクラッドの外周にある柱を上ろうとして、落っこちたキリトくんなら実験してくれるんじゃない?」
「………地面直撃寸前に、《メテオレイ》を放てば或いは…武器の耐久度次第ではそれも可能に……、
SAO引継のステータスのキリトならもしかしたら……(ぶつぶつ)
よし、分かった…今度試そう」
「え…」
俺をからかおうとしたアスナの言葉を聞き、冗談で返そうと思ったが興味が湧いたので試してみよう。
彼女が呆然としているが、気にしない。
「まぁ俺よりもネコ科の人にやってもらった方が良いかもな(ニヤリッ)」
良い笑みとともにシノンの方を向いてそう言えば、彼女は顔を激しく横に振った後、ハジメの背中に隠れた。
そんな彼は苦笑してシノンを撫でている……と、次の瞬間。
突如としてトンキーが急激なダイブを行った。
「「「くっ…!」」」
俺とハジメとルナリオは片手でトンキーの背中の毛を掴み、体勢を崩さないようにする。
「のわあぁぁぁ!?」
クラインは両手でなんとか毛を掴みながら太い絶叫を上げる。
「「「きゃあぁぁぁっ!?」」」
ユイはアスナにしがみ付き、アスナとシノンは必死に毛を掴んで高い悲鳴を上げる。
「やっほーーーう♪」
リーファは歓声を上げて楽しんでいる、このスピードホリックめ!
いやまぁ、俺も大体慣れてきたけれども…。
それからトンキーは巨大な大穴である『ボイド』の南の縁辺りにくると、50mほど上空で滞空飛行を続けた。
何故いきなりこのような行動に出たのかを考えようとした時、リーファが声を上げた。
「み、みんな、アレ見て!」
「「「「「「「なっ…!?」」」」」」」
彼女が指差したその先には、驚愕の光景が広がっていた。
「……どういう、ことだ…」
「人型の邪神が、プレイヤーと一緒にいる…?」
絶句しながらも言葉を紡いだハジメとアスナ。2人の言葉の意味、それはまさにそのままの理由だった。
おそらくは30人を超えるという種族混成部隊の大規模レイドパーティー、それだけを見れば邪神狩りをしているだけに見えるだろう。
だが、問題はもう1つの事柄にある……彼らは人型の邪神と共に、動物型邪神を集中的に攻撃しているのだ。
さらに、動物型邪神を倒し終えると、人型邪神と戦闘になることはなく、連れだって移動を始めた。
これにはさすがの俺も驚きを隠せない…。
「な、なんで…? まさか、誰かが人型邪神を、テイムしたの…?」
「いえ、不可能です! 邪神級モンスターは、最大スキル値に専用装備でフルブーストしたとしても、テイムすることは出来ません!」
呆然と呟くアスナにユイが否定の言葉を掛けた。
「けどよぉ、ありゃ“便乗”しているようには見えねぇぜ?」
「そうね…そんな都合良く
クラインの言葉に冷静なシノンが続く。2人の言う通り、状況を判断しても、その線は薄い。
しかも大規模レイドパーティーで人型邪神と共に行動しているのは幾つか窺える……ということはやはり…。
「おそらく、上で出回っている『聖剣エクスキャリバー』の入手クエストがこれなんだろう。
人型邪神と共に動物型邪神を殲滅するという、
「そん、な…」
「リーファ…」
俺の推測にショックを受けたリーファをルナリオが支える。みんなも似たような反応である。
果たしてどうしたものか……っ! なんだ、この感覚は…? 後ろ?
妙な気配を感じ、俺はトンキーの背中の一番後ろを向いた。
次いで、ハジメとルナリオも後ろを見る。その様子に気付いたアスナ達も同じ方向を見る。
「…来る」
そう呟いた瞬間、その場所に光の粒子が集まり、瞬く間に人の姿を形成した。
ローブ風の長い衣装、背中から足元まで流れる金髪、3mは超えている背丈、優雅かつ超然とした美貌、それらを持った女性だ。
「私は『湖の女王』、ウルズ」
静謐な表情のままに紡がれた声はそこいらのボイスとは違っていた。
みんなはその姿などに気を取られているようだが、俺は警戒しながら言葉を放つ。
「運命の女神であるノルン3姉妹の長姉、過去を司る女神のウルズが一体なんのようだ?」
「キ、キリトくん…?」
アスナは困惑しながら声を掛けてきた。
俺は直感的にこのウルズが只の存在ではないと感じているからなのだが…。
そんな言葉を聞いた彼の女神は、僅かに微笑を浮かべてから口を開いた。
「安心しなさい、黒き妖精よ。我が眷属と絆を結びしそなたらに、敵対する意志はない。
ただ、私と2人の妹から1つの請願があります。この国を『霜の巨人族』の攻撃から救ってほしい」
そう話しをするウルズに対し、警戒を解かない。そんな俺の肩にユイが乗り、小さく囁いた。
「パパ、あの女性はNPCです。ですが、どうやら固定応答モジュールではなく、
コアプログラムに近い言語エンジン・モジュールに接続しているようです」
「…ということは、AI化されているのか…。ありがと、ユイ」
教えてくれた娘を優しく撫で、再びウルズに向き合うと、彼女は続きを話し始めた。
かつて『ヨツンヘイム』は『アルヴヘイム』と同じく、
世界樹イグドラシルの恩寵を受け、豊かな自然に囲まれた土地だったという。
天蓋からぶら下がっているだけの世界樹の根も、泉に達して全方向に広がっているほどであった。
水面から広がる太い根の上には丸太で組まれた街が存在しており、地上の『央都アルン』に似た風景だ。
幻惑によってウルズが見せた光景はそこまでで、彼女はどこか悲哀そうな表情を浮かべた。
「しかしそこに、彼の者が現れました…」
ヨツンヘイムの更なる下層に存在する『ニブルヘイム』、
その地を支配する霜の巨人族の王『スリュム』はその身を狼に変えてこの地に潜り込み、
鍛冶の神『ヴェルンド』が鍛えた“全ての鉄と木を断つ剣”である『聖剣エクスキャリバー』をウルズの泉に投げ入れ、
世界樹の根を断ち切り、この世界の恩寵は失われたそうだ。
世界樹の根は天蓋へと上り、木の葉は落ち、草は枯れ、雪と氷に覆われ、
根は巨大な氷塊を付着させたまま、天蓋に突き刺さったという。
その後、
全ての丘の巨人族が滅びれば、ウルズの力は消滅し、スリュムヘイムがアルヴヘイムにぶつかるという。
その話しを聞き、クラインが憤慨の言葉を掛けると、ウルズはスリュムの目的を語った。
「彼奴の目的は、アルヴヘイムを氷雪に閉ざし、イグドラシルの梢に攻め込み、
そこに実るという『黄金の林檎』を手に入れることです」
「待て。奴の目的は美と愛、戦いと月を司る豊穣の女神のフレイヤのはずだ。
明らかに矛盾して……あぁ、いや、そういうことか…分かった」
「えっと、何が分かったんっすか?」
ウルズの言葉に矛盾を感じた俺は指摘しようと思ったが、みんなの為にもここは言わない方がいいと思った。
ネタバレなんて、詰まらないだろ? ルナリオはどういう意味かと知りたがっているが…。
「黒き妖精よ、そなたは賢き者のようですね。なれば、黄金の林檎の効果は、存知あげているのでしょうね?」
「ああ…不老不死、だろ?」
彼女の問いに答えれば、真剣な表情で頷き返した。まったく、ユイという前例がいるとはいえ、AIとは思えないな…。
実際、世界樹の天辺付近に、有り得ないほどの強さを誇る大鷲型
〈The
「そしてスリュムはついに、強硬策へと乗り出しました…」
スリュムはエクスキャリバーを与えるという報酬を餌に、
現在、まんまとその誘いに乗ってしまった奴らがトンキーの仲間達を狩っているのだから。
さらに、実際の報酬はヴェルンドが作ったエクスキャリバーそっくりの強力な失敗作、
『偽剣カリバーン』を与えるつもりらしいのだ。
「王様が、そんなずるいことをするなんて…」
「ま、策としては妥当なところ…って、冗談っすよ…」
リーファが悔しそうに言ったが、ルナリオの奴がそう言ったので睨んでいる。
そういうことは思っていても言わないものだ。まぁ俺も妥当な策だとは思ったけども…。
「ですが、現在奴の居城であるスリュムヘイムの護りは薄くなっています。いまこの時が好機と言えるでしょう。
妖精達よ、彼の居城の『要の台座』より、エクスキャリバーを引き抜いてください」
なるほど、このクエスト『女王の請願』の目的はキャリバーの奪還か。
「凄いことになってきちゃったね…」
「まったくだぜ…」
ウルズが請願を伝えて姿を消した後、トンキーに移動してもらい、アスナが呟いてクラインがそれに応えた。
「これって、普通のクエストでいいのよね…?」
「……確かに、随分と大掛かりな内容ではあるからな…」
「それに、動物型の邪神が全滅したら…」
「霜巨人が地上を占領するって、言ってたっすからね…」
シノンとハジメ、リーファとルナリオも真剣な表情で言葉を交わす。
そんなみんなを後目に、俺はある推測を立て、答え合わせが出来るユイと話すことにした。
「ユイ。ALOの『カーディナル・システム』は、『ソードアート・オンライン』で使用されていた、
フルスペック版のコピーで間違いないんだよな?」
「はい、その通りです……もしかして、パパは気付いたんですか?」
「まぁな……だとすれば、厄介だな…」
「ね、ねぇ…。キリトくんもユイちゃんも、一体なにに気が付いたの?」
言葉を交える俺達にアスナが説明して欲しいというように問いかけてきた。
見ればみんなも似たような面持ちである。折角の機会だし、説明するか…。
「『ザ・シード』に用いられているカーディナル・システムは機能縮小版だから性能が劣る、取り敢えずこれは置いておこう。
本題のフルスペック版カーディナル・システムだが、こいつにはシュリンク版とは違い、幾つかの機能があるんだ。
その1つが『クエスト自動生成機能』、その名の通りで指示されずにクエストを生成するものだ。
ネットワークを介して様々な情報を取り込み、固有名詞やストーリーなどを利用・翻案し、クエスト生み出し続ける、というな…」
「っんだと!?…てことはアレか? オレ達がSAOで散々やってきたクエストは、システムが自動で作ったのかよ」
「それで、あんなに多かったのね…。77層時点で、1万以上を超えていたもの…」
「どおりで、時々訳の分からないクエストもあったんっすね」
俺の解説にクラインは肩を落とし、アスナは呆れをみせ、ルナリオは納得した様子である。
しかし、さらに冷水をぶっ掛ける如く話しを続ける。
「ウルズの反応を見るに、その機能が起動した可能性は高く、このクエストが生成されたのかもしれない。
故に、行きつく先はおそらく北欧神話の伝承の中の最終戦争『
ヨツンヘイムとニブルヘイムの霜の巨人族、炎の世界『ムスペルヘイム』からの炎の巨人族の侵攻もありえる。
そうすれば、世界樹やアルヴヘイムは焼き尽くされ、ラグナロクは完成するってことだ」
「そん、なっ……でも! ゲームシステムが、自分の管理するマップを破壊できるわけが…」
「「可能だ(可能です)」」
「「「「「「っ!?」」」」」」
世界の破壊、その説明を受けたリーファが否定しようとしたが、俺とユイはそれをさらに否定する。
さすがのハジメとルナリオも、驚愕している。
「オリジナルのカーディナル・システムには、ワールドマップ全てを破壊し尽くす権限があります」
「なんせ、旧カーディナルの最終任務は、アインクラッドの崩壊だったらしいからな」
ユイの後に俺が続けば、最早誰も言葉には出来なかった。
「だけど、そのラグナロクが本当に起きてしまったとしても、
運営側が望まない展開なら、サーバーを巻き戻すことが出来るんじゃないの?」
「……確かに」
「そりゃそうっすね」
シノンの言葉にハジメとルナリオも続くが、ユイが首を振って否定した。
手動で全データのバックアップを取り、物理的に分割されたメディアに保存していれば可能だが、
カーディナルの自動バックアップを使用していれば、それは不可能であると言った。
そしてGMに連絡を取ろうにも、年末の日曜の午前中は見事に人力サポート時間外である。
「さて……悲観しているところ悪いが、スリュムヘイムはもうすぐそこだ。
キャリバーを手に入れて、なおかつラグナロクを阻止すれば、なんら問題はない」
「……まったく、人を落ち込ませたと思えば…」
「ま、それがキリトさんらしいってことっすよ」
「だな。いっちょやるとすっか!」
俺が笑みを浮かべて言えば、男性陣3人が答える。
「そうね。クリアしちゃえばいいもの」
「はいです♪」
「勿論よ…」
アスナとユイとシノンも頷き、決意を込める。
「トンキー。絶対に、あなたの国を取り戻してみせるからね!」
リーファも、並々ならぬ思いを込めている。
俺はアイテムストレージを操作し、二振りの剣、
『イノセントホープ』と『アビスディザイア』を背負い、みんなも各々の武器を用意し、準備は万端とする。
トンキーはダンジョンの氷のテラスに身体を横付けし、俺達はそこに降り立った。
そして扉が開き始める……前衛に俺、クライン、ハジメ、中衛にルナリオとリーファ、後衛にアスナとシノンというポジション。
ユイは俺の胸ポケットに入り、情報を担当、後衛の魔法火力が低いが現況ではこれがいい。
時間制限を表すメダリオンはもう6割近い。
「行くぞ!」
スリュムヘイム内部へと続く扉の中へと、俺達は駆け出した。
キリトSide Out
To be continued……
後書きです。
湖の女王にして北欧神話の運命の女神ノルンの1柱、過去を司る女神ウルズによる依頼でしたが、ほとんど説明回でしたね。
それとキリトさんがやけにカーディナル・システムに詳しいというところですが、
ALOに捕まっていた間に茅場さんから色々聞いたんですよw
それと原作では名前が付けられていなかった大鷲型のボスモンスターですが、この作品ではオリジナルの名前を付けました。
北欧神話の大鷲フレースヴェルグと、大鷲に姿を変えて黄金の林檎を管理するイズンを連れ出した邪神ロキをモデルにしています。
さて、次の話は金牛さんと黒牛さんとの戦いです・・・早い話しがあのシステム外スキルの話。
それでは次回で・・・。
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第6剣です。
今回は湖の女王からクエストを受けるところです。
どうぞ・・・。