第4剣 取り戻すもの
キリトSide
俺が今回ダイブに使ったアカウントはSAOから受け継いだ方の『キリト』である。
背中に背負いしは愛剣『セイクリッドゲイン』と『ダークネスペイン』、このALOにおいて
そして隣のアスナを見やれば、彼女が腰に据えているのはALOでリズに製作してもらった細剣ではなく、
SAO時代からの愛剣『クロッシングライト』である。つまり、俺もアスナも本気ということだ。
俺のコートの胸ポケットには愛娘のユイ、そして俺達の後ろには頼もしい仲間達がいる。
ギルド『アウトロード』、『風林火山』、『黒猫団』という、錚々たる面々である。
さらに加えるならば、時井燐もまたALOをプレイし始め、リンクという名の
パーティー分けはAチームに俺とアスナの2人、Bチームにハクヤ、リズベット、ヴァル、シリカ、ルナリオ、リーファの6人、
Cチームにシャイン、ティアさん、ハジメ、シノン、クーハ、リンクの6人、
カノンさんはクライン率いる風林火山のパーティーに参加して7人構成、
黒猫団はいつもの5人に加えてエギルを混ぜた構成でのパーティーだ。
周囲には他にも新たな階層が開かれることを楽しみに待っているプレイヤー達が居り、彼らも今か今かと待ちわびているようだ。
そしてついに、21層へと繋がる迷宮区最上階の扉が開かれ、開放を祝うファンファーレが鳴り始めるも、
俺達は一斉に扉を出ると街から駆け抜けて、疾風の如く21層の迷宮区へと向かった。
「ハァァァァァッ!!!」
「ふっ、はっ!」
迷宮区内を声を張り上げて敵を薙ぎ払いながら突き進むアスナに、俺は彼女の周囲に群がる敵を容赦無く斬り捨てながら追随する。
――速く、迅く、疾く、早く…
ただ彼女から流れてくる思いはそれらであり、その思いこそがいまのアスナを突き動かすものであるのは解る。
【閃光】――現在もかつても彼女はそう呼ばれているが、
いまのアスナを表現するのであれば、最早【神速】であるヴァルの其れに近い。
それならば、俺は彼女が倒れてしまわないように、彼女の周囲に現れる敵を打ち倒そう。
キリトSide Out
No Side
「ハクヤ。アスナ、大丈夫よね?」
「多分、問題無いと思う。キリトとユイちゃんが付いているし、
アスナ自身も思いに駆り立てられているけど、飲み込まれる程じゃないさ」
「そうね。それよりも、早くボス部屋まで辿り着く方が先決よね…」
ハクヤ率いるアウトロードのBチーム。
アスナの親友であるリズベットは、彼女の様子を思い出し、恋人であるハクヤに安否の正否を尋ねる。
彼もまた気に掛けてはいたが、親友とその娘が一緒ならば大丈夫であろうと踏んでいる。
故に、彼らはキリト達を信じ、自分達は別ルートからボス部屋までの道をアプローチしている。
そしてそれはCチームも同じであり、そちらも別ルートからボス部屋までを探していた。
なお、最速で駆け抜けるAチームのキリトとアスナとユイ、
その後を風林火山と黒猫団が追いかけているのは安全を保証する為である。
No Side Out
キリトSide
俺とアスナがボス部屋に辿り着いたのは20分程が経過したあたりだった。
その後にクラインとカノンさん率いる風林火山、ケイタが率いる黒猫団が追いつき、
さらに10分ほどが経過した頃に、BチームとCチームがほぼ同じタイミングで合流した。
そこからは魔法を使って他の攻略パーティーにボス部屋を発見したことを伝え、10分近くが経過した時にその集団が現れた。
なんでもMobのPoP率が低かったらしいが、俺達が倒しながら進んだ結果だと知ると、納得していた。
そして俺達は攻略パーティーの集団と共に、第21層ボス攻略へと挑むことにし、扉を開いた…。
「っ、ハァッ!」
現れたボスに対して、真先に斬り掛かったのはアスナ。
俺は彼女に向けられるボスの攻撃を防ぎ、逸らし、いなして彼女への被害を抑えつつ、俺自身も反撃を行う。
―――ありがとう、キリトくん
―――構わない…征け、アスナ
言葉は交わさず、《接続》によって想いを交わしながら、俺とアスナは敵と戦う。
今回のボスに供をするMobはおらず、全員での戦闘を行っている。
「オラァッ!」
「……シッ!」
ハクヤが鎌の8連撃ソードスキル《ヴァンディエスト》を放ち、ハジメが最速である刀のソードスキル《居合》で斬りつける。
「せぇいっ!」
「うらぁっ!」
ヴァルは槍の8連撃ソードスキル《レイン・スクエア》を、
ルナリオはハンマーのソードスキルである《ヴァイク・インパクト》による強烈な一撃を放つ。
「ピナ、お願い!」
「きゅうっ!」
シリカの言葉に従い、彼女の相棒である小竜のピナが回復のブレスである《ヒーリング・ブレス》を吐き、
少しずつダメージを負っていくプレイヤー達を回復させていく。
さらに
一ヶ所への攻撃を重ねたことで怯みが入り、さらに集中的な攻撃が行われる。
シノンを含む弓を持つ者達も遠距離攻撃や弓の連射スキルを用いて援護してくれる。
さらにリンク達プーカは特有の音楽魔法を使い、支援魔法でこちらの強化をしてくれる。
「っ、くぅっ!」
「でやぁっ!」
シャインが強固な盾の『アイギアス』でボスの攻撃を防ぎ、エギルは斧を用いて弾く。
俺達の怒涛の攻撃によりHPバーが減少したのだろう、戦闘パターンが変化したことから、レッドへと突入したようだ。
それを察知した他のプレイヤー達は一度距離を開け、下がったりしたが、俺達だけはその場に残り、ボスへと猛攻撃を仕掛けた。
「「「「「うおぉぉぉっ!」」」」」
「「「「「はあぁぁぁっ!」」」」」
気合いの声で叫び、そこからスイッチを連発しての一斉猛攻。
一部がスイッチを行いつつ攻撃をしている間に、一部がボスの攻撃を防ぎ、逸らし、弾き、防御を行う。
それらをほぼ全員で繋げ……、
「ソードスキル《スター・スプラッシュ》!」
アスナがクロッシングライトを用いて、細剣の8連撃ソードスキルである《スター・スプラッシュ》を放ち、止めを刺した。
ボスはその身体を地に倒し、直後にその身体をポリゴン片と化して、消滅していった。
空中に浮かび上がる『Congratulation』の文字、それを見て歓声が沸き起こりもしたが、
22層へと続く階段の扉が開くと前に、アスナは一気に駆け抜けていった。
「行ってこい、キリト!」
「絶対に
ハクヤとリズは言葉で、他のみんなも早く行けと表情で促し、俺は頷く。
「行こうか、ユイ」
「はいです、パパ」
胸ポケットから顔を出したユイに呼びかけ、返答を得ると、俺達はアスナの後を追った。
既に22層への扉は開かれ、先程も僅かに聞いたファンファーレが早くも鳴っている。
22層の主街区『コラル』、そこに入るとユイは
俺は逸る気持ちを抑え、ユイに合わせるように
キリトSide Out
アスナSide
ボスを倒した瞬間には、もう身体が勝手に動いてた。
周りの声も音も、何も耳に入らないで、わたしは一目散に駆け出していた。
ボス部屋の扉を抜けてから階段を駆け上り、奥の扉が開いて、22層の街であるコラルに入ると、そのまま街の外へと向かう。
この22層のフィールドにはモンスターが存在せず、豊かな自然に囲まれたところ。
あのフィールドがそのまま在って、あの森や湖がそのまま在って、
あの道がそのまま在って……そしてあの家が、わたし達の家が…。
「在っ、た…」
22層の端にあり、草木に囲まれ、傍には湖があるわたし達の家であるログハウス。
それが、いま目の前に…。SAO時代とは違い、この家の購入はたった1回の操作で入手できる。
ログハウス購入のウインドウが開かれ、大きく深呼吸をしてから、わたしは震える指でゆっくりとOKボタンを押した。
――購入しました
たった一言。それだけの文字がウインドウに浮かんで、わたしは……涙を流した。
「あ、れ…? なん、で…?」
涙が流れて、今度は力が出なくなって、そのままへなへなとしゃがみ込んじゃった。
この涙は嬉しいからで、張っていた気が抜けちゃったんだ…。
ポロポロと流れ出る涙は止めることができなくて、そんなわたしの身体を…。
「(ぎゅっ)よく頑張ったな、アスナ…」
「(ぎゅっ)ママ…」
いつの間にかここに来ていたキリトくんが後ろから、ユイちゃんが前から抱き締めてくれた。
「っ、うん、うん…!」
2人の優しさが温かくて、なによりも嬉しかった。
ユイちゃんもわたしと同じように涙を流していて、キリトくんは泣いてはいないけど、
凄く嬉しそうな表情をしているのにすぐに気付きました。
アスナSide Out
キリトSide
泣き止んだアスナとユイの様子を見てから、俺はみんなにメッセージを飛ばして連絡を入れた。
するとシャインから連絡が入り、あちらも無事に元の
それからみんなが家にやってきて、早速ながらパーティをすることになった。
女性陣とシャインが《料理》スキルを発揮して多量の食事を用意し、全員でどんちゃん騒ぎということになった。
勿論、誰も止めようなどと思う者は居らず、俺自身もその空気に乗っていった。
結局、1時間程が経った頃に解散となった…。
「今日のパーティ、今までに無いくらいの盛り上がりようだったな」
「そうですね。みなさん、自分達のことのように喜んでくださりました」
「そこがみんなの良い所だもんね。シャインさんとティアさんも、無事に家に帰れたもの」
みんなが帰ってから、俺達はテーブルの椅子に座って、休憩していた。
明日には家具類を持ち入れて、内装を一気に変える予定である。
なお、自宅購入の
掛け替えのないものを取り戻すことができたのだから痛くも痒くもない。
「本当に、帰って来れたんだね…」
「あぁ。これも、みんなが協力してくれたお陰だ」
「みなさんの時には、わたし達が全力で恩返しをするんですね♪」
ユイの言う通り、次は俺達がみんなに返す番だ…。
24層の黒猫団のギルドホーム、25層の黒衣衆のギルドホーム『隠の家』、
47層『フローリア』のヴァルとシリカの自宅、48層『リンダース』のハクヤとリズベットの鍛冶屋兼自宅、
50層『アルゲード』の風林火山のギルドホームとエギルの店、様々とある。やってやるさ、絶対に…。
「それじゃあ、もう一度乾杯しようか?」
「「うん(はい)」」
俺とアスナのグラスには酒を、ユイのグラスにはジュースを注ぎ、改めて乾杯をすることにした。
3人でグラスを持ち、軽く合わせてキィンッという音が鳴った瞬間…。
「ぁ…」
「「アスナ(ママ)…」」
再び、アスナが綺麗な瞳から大粒の雫を流した。それは留まることを知らず、次々と溢れてきている。
「おか、しい、ね…。さっきも、泣いた、のに…」
彼女はグラスを置き、なんとか涙を止めようとするアスナが愛おしくて、椅子から立ち上がって彼女を抱き締めた。
「このゲームでは隠すことが出来ないのは、アスナ自身が知っているだろ?
なら、我慢する必要なんかないさ。思いきり、泣いていい」
「あ…ぁぁ、あぁぁぁっ!」
俺の言葉を聞いた彼女は、堰を切ったように泣き始めた。ユイもアスナの傍に来て、俺達と抱き合う。
「わた、し…わたしっ…、ずっと、ここに、帰ってきたくて。キリト、くんと…ユイちゃ、んと…一緒に…。
いちばん、辛かった、SAOの…ときに…、いちばん…幸せで、居られて…。
だけどっ…SAOが、終わって……2人とも、居なく、て……もっと、辛くて…!」
「うん…」
「それ、でも…2人に、会いたくて…! ALOの、ときも…辛い、けどっ…がんばって…!
やっと、ユイちゃんに……あえて、キリトくんにも、会えて…。
やっと、やっと……家に、帰って…これ、たのが……うれしく、て…っ!」
「そうだな…。帰って、これた…」
「ママが、一番、頑張りました…」
胸の内を明かしていくアスナ。俺とユイはただ強く優しく、彼女を抱き締め、接する。
つい先日、俺に甘えてきたアスナがポロッと語ったこの家への思い入れ。
何故、SAOで購入する時に即決したのか?
それは彼女の母である京子さんの両親―つまり母方の祖父母であるのだが―、その実家の光景に良く似ていたからだそうだ。
当時の結城家はまだ溝があり、特に明日奈は京子さんを良く思ってはいなかったと聞いた。
その京子さんは学業で成績を残し、良い大学を出て、結城家に嫁いだ。
しかし、出自が普通の家だったが為に、結城家の親戚一同の言葉や視線をコンプレックスに思っていたらしい。
そんな京子さんの教育方針や結城の生活空間の中でアスナが唯一、心を許せたのが兄の浩一郎さんと母方の祖父母だったのだ。
彼女は祖父母とその家が大好きであったのだ……しかし、その祖父母が亡くなり、
京子さんは自身の過去を捨てるかのように、自身の両親が遺した土地を売り払ったのだ。
最早見ることも出来ないと思っていた祖父母の実家に似た光景、アスナはそれに惹かれてこの家を選んだのだ。
しばらくして泣き止んだアスナは少し恥ずかしそうにしていたが、
それでも……そのあとの笑顔は、決して忘れることなど出来ないほど、美しいものだった。
キリトSide Out
To be continued……
後書きです。
第21層攻略成功、並びにキリトとアスナとユイ、シャインとティアもアインクラッドの家を取り戻しました!
キリトさんに至ってはSAO引継の“キリト”を使いましたからね~w
あと今回の話は原作におけるマザロザ編で省かれた説明部分に当たります。
次回から5,6話がキャリバー編になる予定です、さくさく進むので短めですね。
あと燐(リンク)の説明は一時後で載せることになります。
それでは次回で・・・。
Tweet |
|
|
18
|
5
|
追加するフォルダを選択
第4剣です。
第21層の攻略、そしてキリト達は彼の家を取り戻す!
どうぞ・・・。