No.602697

[武装神姫]私のくしゃみ

TVアニメ武装神姫のようなゆるい話が書きたくて考えたらこんな話になりました。バトルロンドで神姫にハマり、初めて買ったフィギュア神姫もフブキなので、一番思い入れの強いキャラです。

2013-07-29 01:25:10 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2451   閲覧ユーザー数:2449

 神姫には『異物侵入防止アクション』というものがある。

 神姫の体を守るため、AIを介さずに反応する動作――反射アクションの一つである。

 反射アクションの中でも、この異物侵入防止アクションはよく起こる部類に属している。

 鼻から微細なゴミが入りそうになった際、内部のセンサーが感知し、空気を瞬間的に外に出すことで侵入を防ぐ。

 このアクションは通称、人間でいう同様の挙動に合わせ『くしゃみ』と呼ばれる。

 

 くしゃみ……それは個体差はあるが、一般的に「はっくしょん」という擬音に近い音を発する。

 

「はて」

 忍者型フブキの素体を持つ神姫『かさね』は、静かに目を瞑り考え込んでいた。

「やはり、私のくしゃみはおかしいのでは……?」

 思わず独り言が出てしまう。かさねは悩んでいた。

 本来神姫は、体に異常があればすぐにでもマスターに報告すべきである。

 何度かセルフチェックを行ってはみたが、特に異常は検知されない。

 インターネットで『故障 くしゃみ 変』など検索しても、神姫の故障の予兆にはヒットしなかった。

「予兆が無いのに、オーナーに相談するわけにも……いきませんよね」

 マスターに相談し、神姫センターに行けば簡易チェックを無料で受けることができる。

 しかし、もし精密検査を受けるために神姫ドッグへ行くとなると話は別だ。

 マスターに、お金も時間も割いてもらう必要が出てくる。

 かさねのマスターは高校生であり、お金に余裕があるわけではない。

 更なる懸念は、かさねはマスターのところに来てまだ3ヶ月ということ。

 軽率なことを口走って初期不良として処理されることを恐れていた。

 3ヶ月とはいえ、マスターと過ごした記憶を消されることは、想像しただけでフリーズしそうな思いなのである。

「もう少し情報が必要ですね……」

 覚悟を決めるように言うと、かさねは姿を消した。

 

 

 かさねが家の外に出て数分、近くの工事現場の隅から声が聞こえた。

「姉御ー! 重くて持ち上げられないのだぁー!」

「っしゃーねぇなあ。アタイがやってやっからちょっと待っときな」

 姉御と呼ばれた建機型グラップラップが、猫型マオチャオに返事をした。

 どうやら、建設に使う材料の内、細かい部品の組み上げを行っているようだった。

「グラップラップ……きっと彼女なら……」

 かさねは見つからないように近づくと、2人から少し離れた物陰に身を隠した。

「(風速、風向き、位置取り良し。後は……機を待つのみ)」

「マオー、これだな?」

「はい、姉御! お願いなのだぁー!」

「安全第一。重いものはアタイに任せときなっ! ってね」

 グラップラップが自分の体の3倍もあろうかという木材を持ち上げる。

「(今です!)」

 かさねは足音を殺しながら、グラップラップの死角をつくように飛び出し、距離を詰める。

 グラップラップは目の前の建材に集中しており、かさねには気づかない。

「(えいっ!)」

 かさねは懐から胡椒を取り出すと、風に乗せて振りかけると離脱し、再び身を隠した。

 風上から流された胡椒は、見事かさねのねらい通りグラップラップへと届いた。

「(きっと彼女なら、個性的なくしゃみが私だけではないと証明してくれるはずです)」

「ん? んんっ……っぶあっくしゅっ!!」

 ――ガランガラン!

 グラップラップのくしゃみとともに、持ち上げていた建材は地面を転がる。

「うぅ……。うわ! マオ危ない!」

 それが、その先に山積にしてあった建材へとぶつかり、ドミノ倒しのように次々倒れていく。

 ――ガシャーン! ガラガラガラ!!

「うに゛ゃ――――っ!! なんでこうなるのだぁ――!?」

 建材はまるで檻を作るかのように倒れ、マオチャオはその中に取り残されてしまう。

 しかし、事態を引き起こした張本人であるかさねの姿は、既に現場にはなかった。

 

 

「少し豪快でしたが、やはり一般的に言われるくしゃみの範疇ですね」

 かさねが歩きながらつぶやく。

「せいっ! はーっ!」

「くっ! でやぁあ!」

 公園の近くへ来たところで、気合いの入った声がかさねの耳に届いた。

「?」

 聞こえてきた方を見ると、公園で侍型紅緒と騎士型サイフォスがバトルをしていた。

 一瞬考えた後、かさねは2人に見つからないように移動を始めた。

「はて」

 2人の風上に来たかさねだったが、先ほどのように隠れたまま近づけるような場所ではない。

「この風速、この距離では胡椒は届きません。ふむ……」

 忍びたるもの不測の事態はつきもの。

 かさねはそっと目を閉じると、軽く握った左手から人差し指だけを立て、その指を同じ形にした右手で軽く握った。

 マンガや時代劇で、忍者が忍法を使うときにするポーズ。

 これは、集中するときのポーズとして忍者型神姫にも実装されており、CPUを思考演算に優先利用する事ができる。

「よし」

 かさねは目を開くと左右を確認する。

 どこからともなく大手裏剣“白詰草”を取り出すと、体を一回転させながら、遠心力を使って投げる。

 “白詰草”は、近くに生えているたんぽぽの綿毛を的確に射抜きながら旋回する。

 ブーメランのように、かさねの手元に“白詰草”が戻った頃には、辺り一面たんぽぽの綿毛が舞っていた。

 そして、それはもちろん風下へと流され、鍔迫り合いをしている紅緒とサイフォスの元へ。

「むっ!?」

「なんだ!?」

 試合を中断し、周囲を覆う大量の綿毛に切りかかる2人。

 しかし、剣圧が風をかき回してしまい、むしろ思いもよらぬ動きとなった綿毛が左右から襲いかかる。

 そんな綿毛の一つが見事に紅緒の鼻の周辺をくすぐるようにすり抜けた。異物侵入防止センサーがその微かな接触に反応する。

「むあっ! む、ふぁ、ふぁっくしゅんっ!!」

 その様子を見たサイフォスの顔色が変わった。

「くっ、絶対に死守してみせる!」

 左手で鼻と口を覆うようにしながら、右手では剣を盾にするかのように立て、顔を守る。

 しかし無情にも、突如の横風に煽られた綿毛が、サイフォスの左手の上、指の微かな隙間から鼻を刺激する。

「へくちっ」

「……サ、サイフォス……お前」

「ちちち、違う! 今のはくしゃみではないぞ。先ほどの剣戟で内部回路に一時的に不具合がでているだけであって、私があのようなくしゃみをするわふぇ……くちっ」

 サイフォスの顔が一気に赤くなり、それを見た紅緒は笑みをこぼした。

「ふ、ふふっ。なんだ、お堅い騎士かと思ったらかわいげがあるじゃないか」

「――――ッ!! だから違うと――」

「分かった分かった」

「分かってない、絶対分かってない!!」

 たんぽぽの綿毛は既に彼女達を通り過ぎ、青空へと飛び立っていく。

 かさねはその風景に背を向けて、帰途につく。

「はぁ……」

 個体差はあれど、やはり自分のくしゃみは明らかに違うのだと頭を垂れながら。

 

 

 

「オーナー……。大切な話があります」

 その夜、かさねはマスターに対してそう切り出した。

「どうしたの? そんなに改まっちゃって」

「あの……ですね」

 少し間を取り、かさねは覚悟を決めて続ける。

「私のくしゃみは……おそらく非常に、変……です」

「変?」

 かさねのマスターは首を傾げながら聞き返す。

「……はい。おそらく、個体差では説明がつかないくらいに。つまり――」

 言葉に詰まる。続く言葉は決定的な一言となってしまう。

 『つまり、私は初期不良を持った神姫である可能性がある』

 それは、かさねのマスターが望むのであれば、初期不良品として交換が可能かもしれない、ということ。

 それは絶対に嫌だ、という思いがあったとしても、黙っていることがマスターの不利益につながる可能性がある以上、神姫には報告の義務がある。

「オーナー、私はっ……」

「ああっ! ごっめん! それ僕のせいだ! 初期起動の前に塗装漏れがちょっとあるのに気づいて塗ったんだけど……そのとき、鼻の中にインク垂らしちゃったんだ。すぐに拭いたから影響ないと思ってたけど、ごめん! 苦しくない!?」

「は……い、え? 苦しくない、ですが。お、オーナーが変なくしゃみの原……因ですか」

「うん、たぶん……」

「…………オーナー……」

「う……ほんとごめ――」

「ありがとうございます!」

「は……えぇっ!?」

「塗装漏れでメーカーに交換依頼やクレームを言うのではなく、私のために塗装を修正して起動してくださったのに、私にオーナーを責める理由なんてありません」

「そっか。あ、でも今週末神姫センターに行って早めに直してもらおうな」

「……いえ。特に機能に影響はありませんし、大丈夫です。このくしゃみはオーナーから頂いた個性として大切にしま……ふ……ふぁ……」

 

 

「んに゛ゃじゅ!!」


 
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