No.602565

恋姫異聞録170 - 武舞 -

絶影さん

続いて武舞へと来ました

多分、火薬については出ると思われていただろうなと思います
黒色火薬は結構簡単だし、中国は普通に硝石が取れますからねー

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2013-07-28 19:48:47 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:4678   閲覧ユーザー数:3672

眼前で立ち登る白煙と黒煙の混合の煙。まるで戦いの狼煙のように、今が戦の始まりだと言わんばかりに炎を天高く舞い上げ

魏王、華琳の瞳に赤々と立ち上る炎が映り込む

 

地面に埋められた黒色火薬と油は、敵の反撃に合わせて一直線に、戦場を横に分断する炎の壁を作り出す

 

象と騎馬を混乱させ敵を前に押し込んだと思った矢先だ、霞が昭を護ろうと、呂布を抑えこもうと踵を変えた途端

地面から舞い上がる炎に行く手を遮断され、爆風をモロに受けた騎馬が見るも無残な姿へと変わっていた

 

水鏡が居なければ、鳳統をよく知る彼女が機を見て異変を察知しなければ、おそらくは更に多くの兵達が犠牲となっていたであろう

 

「な、なんやこれ・・・惇ちゃん無事かぁっ!?」

 

自分よりも前方へ、先へ進んでいた春蘭の方を見れば、率いる重歩兵が爆風と飛ばされた石にやられたのだろう、見たこともないような傷を負い

手足を枯れ木のように千切れさせ、地面に赤い血だまりを作り苦しみもがいていた

 

そんな中、春蘭は、後方に立ち上る炎と煙を静かに見つめると、息を大きく吸い込んだ

 

「前を向け、後ろを振り向くな、我等が狙うは敵大将の首。我等は王の振るいし一振りの剣。剣に心はなく、剣に恐怖は無い」

 

叫び、剣を振るい兵を鼓舞する春蘭。後方は炎、前方は圧倒的な騎兵の大軍。だがしかし、我等の役目は、我等の戦いは何も変わらない

何時如何なる時であろうとも、我等が成すべきことは唯一つ

 

兵は一瞬だけ、ほんの瞬きの瞬間だけ心を萎えさせたが、瞬時に心を固く固く、まるで一振りの剣のように固く鋭く尖らせていく

 

「有るのは唯、主の振るうがままに、眼前の敵を一刀の元斬り伏せる事のみ。続け、我等は魏武の大剣成り」

 

前を向き、背に受ける兵達の声を背負うようにして、足を前へ前へと踏み込み襲いかかる騎兵を大剣で斬り伏せ進み続ける春蘭

 

「あっはっはっ、なんや驚いたウチがアホみたいやんか。ほんなら、ウチは」

 

見れば、無徒は春蘭の兵を前に行かせ、後方の詠の為に後ろに下がったのだろう、この場には居らず炎の壁の先に詠達の方にいる

一馬も同じ、前には春蘭に続く、凪達三人が率いる兵。軍師の意向を確認したいところだが、後方のこの炎の壁に遮られ確認など出来はしない

 

「各個で判断するしか無いな。なら、やること一つしか無いわな、アンタも来るんやろ。馬超っ!!」

 

己の率いる騎兵を前に、春蘭の後を追わせ、己は後方に立ち上がる火炎の壁を偃月刀で風を巻き上げ切り裂き、まるで風のように間をすり抜けていった

 

「コレが、魏から手に入れた知だと言うのか」

 

「はい。黒色火薬という知識に、私なりに改良を加えて見ました」

 

「改良だと?道理で、一人でコソコソと何かをしていたわけだ」

 

驚く厳顔と魏延。厳顔は思い出す。此処に来るまでに、魏との戦が決まった時に、鳳統は情報を集め、口の堅い僅かな手勢を集め

部屋に篭り何かを繰り返していた。確かに、その時は、部屋から中庭から小さな爆発音が鳴り響いていた

 

「唯の黒色火薬ではありません。西方より手に入れられる鉱石より取り出したものを混ぜることで、爆発力を飛躍的に高めました」

 

元々、黒色火薬の原料である硝石は、中国では土壌から析出されるため、簡単に手に入れることができる

特に、乾燥した地域である蜀、そして西涼では大量に、安易に手に入れることができるため、鳳統は天の知識を手に入れた時

真っ先にコレを使う事を決めた。破壊力、爆発力、安易に手に入れることの出来る材料、全てが蜀に合っていると

 

そして、更に鳳統が黒色火薬に施した改良とは、西方より手に入れたカリ鉱石、つまりは塩化カリウムを塩化カリウム水溶液にし

其れを熱分解させて取り出した

 

【過塩素酸カリウム】だ

 

黒色火薬は弾薬と呼ばれるほどで、破壊力が突飛して優れて居るわけではない。砲筒に込め、砲筒が破損しない程度の爆発力

弾丸をはじき出せる程度の力。つまり、さほど大した破壊力ではないということだ。だが、黒色火薬に過塩素酸カリウムを混ぜ合わせることで

黒色火薬は唯の火薬から破壊力、爆発力が上位の爆薬へと姿を変える

 

「何よアレ、何なのよっ!?あの炎の壁は一体何!?あの爆発は?騎馬がっ、馬がみんな使えなくっ!!」

 

錯乱したように、絶望的な表情を見せる詠。全く想像のつかない現象、何が起こったか理解の出来無い

ただ、仲間が木っ端のように吹き飛び、肉片が辺に飛び散る様子にまるで地獄を覗いてしまったかのような怯えで瞳が染まる

 

前方へ、霞と共に居た騎兵達はまだ無事であったが、爆発音によって一馬の率いる騎兵隊はやられ、先ほどとは逆に混乱させられていた

音に対して訓練されていない馬は、爆音に酷く弱い。コレは、有名な長篠の戦いで実証されている

あの時、馬防柵はあったものの三段打ちなどは存在しない。あったのは、大量に用意された火縄銃の音だ

 

静電気や摩擦に敏感な黒色火薬で三段打ちなど行えば、容易にそこらじゅうで暴発し兵は我先にと手に持つ銃と火薬を投げ捨てるだろう

あの戦は銃の音にやられ、飛び交う銃弾にやられ、著しく士気を下げた武田騎馬軍は壊滅させられたのだ

 

「やはり火薬を使って来たか。だが、アレは俺の知識より上のものだ。黒色火薬にこんな威力は無い」

 

呂布までもが手を止め、昭と同じように突然現れた火の壁を凝視していた

黒色火薬特有の白煙に混ざり、黒々とした黒煙が立ち上る。明らかに火薬だけの仕業では無いと分かり、昭は眉間に皺を寄せて睨みつけていた

 

「お兄さん。風は、華琳様より天の知識を知ることを禁じられています。許可が下りたのは稟ちゃんだけ

教えてください、あの炎の壁は天の知識なのですか?」

 

「厳密には違う。俺が記したのは黒色火薬。炎の壁は油か何かだろう、爆発も俺の知識にあるモノより数段上だ」

 

水鏡の指揮により、異常を察した風が前へと再び上がり、動揺する詠の側へと馬を寄せ昭に問えば、昭は己の知識を利用し更に上を行く

鳳統の想像力、知識、能力に思い切り歯の根を噛み締めた

 

「気を抜くなっ!」

 

「くっ!!」

 

昭の眼が炎の壁に釘付けになった時を見逃さず、地面を蹴り方天画戟を振りかぶる呂布

瞬時に反応する秋蘭は、昭の腕を引いて己の方に抱き込むと、二人で同時に後方に跳ねて間合いを取る

だが、呂布の攻撃は一撃で終わるはずもなく、前方で起こっている事に気をとられる昭に対して何度も武器を振り回す

縦横無尽と言う言葉がそのままに当てはまるほど、呂布の武器は出鱈目に振り回されていた

 

「どうする、此方の騎馬は役にたたなくなった。下馬して戦をするしか無いわ。無事なのは一馬の的盧だけ」

 

「此方の騎馬が被害を受けたならば、向こうの騎馬もと言いたい所ですがー・・・この策を使うくらいですから」

 

「無徒と統亞達が此方に残ったけど、混乱を収めようとしてくれてる。せっかく呉が駱駝騎兵なんてものを用意してくれたのに」

 

炎の壁の先に見えるは此方とは逆に駱駝騎兵の混乱から回復した敵騎兵が体勢を整え此方に並々ならぬ殺気を向けていた

 

「左右に展開した呉の兵も喰らってるわね、くっ!」

 

「壁の向こうに行った春蘭ちゃん達が心配です。孤立し包囲されては、幾ら重歩兵でもひとたまりもありません」

 

「お陰で僕たちは弓隊を配備されないで済んでるけど、呉は炎を壁に弓で攻撃されるわよ。弓矢での戦になるわっ!」

 

弓での戦ならば、祭の率いる部隊に一日の長があると思われるが、敵は騎射など日常で行う騎馬民族

更には、前に出ているのは弓兵を扱う厳顔。更には、黄忠が後ろから来れば一方的な展開になってしまう

 

案の定、左右に展開された呉の兵達からは、爆発の被害とは別に弓を受け地面に崩れ落ちる者達が出始めていた

 

「チィッ、なんじゃぁコイツはぁ?右翼にはぁ祭がおるが、左翼が落ちるか!引き返せ、左で指揮を取るぜよ!」

 

雲の軍の側を通り後方へと下がろうとしていた薊は騎馬を止め、左翼へと走らせた

右左共に弓兵を均等に配置しているが、弓兵を上手く扱える将が左には少ないと判断したのだろう

前へ出ることなどするはずのない文官である薊が、目の前で起こった異常な事態に身体と心が素早く反応していた

 

 

 

 

 

「凪ぃっ!沙和ぁっ!無事かぁっ!?」

 

「大丈夫なのーっ!負傷者が居たら、沙和の所に連れてきてなのー!」

 

炎の壁に分断され、背後に壁を背負う真桜は、爆風で離れた凪と沙和の名を呼ぶ

沙和は、即座に負傷兵の手当を始めており、真桜は前に行く春蘭の後方を護るべく、囲まれぬよう弓兵を配置されぬよう兵を配備しなおす

 

そんな中、凪は、一人爆風で身体の半分を消し飛ばした兵を抱きかかえ、静かに息を引き取る兵を看取っていた

 

「ど・・・どうか、私の願いを・・・家族の・・・未来・・・」

 

震え、見えなくなる視界に凪を収め、残った手で凪の手を握り締める兵士

 

「ああ、約束する」

 

最後の力を振り絞り、握りしめた手は、凪との約束を見届け、ゆっくりと力なく地面に落ちた

特別眼をかけていたわけではない、この兵士も大勢の兵の中の一人

だが、彼にも生活があり、家族がいる。彼らは、王の統治を望み、王の作る国を、世界を望んだ

望む世界に家族を住まわせるため、望む王の元で繁栄を望んだ、ただ静かに穏やかな日々を暮らしたかっただけなのだ

 

凪は知っている。彼らがどれだけ平穏な世界を望んでいたか、彼らがどれほど戦を嫌っていたか

彼らがどれほど家族を愛していたか。それは自分と同じ、戦う理由も、武器を手にした理由も

 

村を守りたかった、仲間を守りたかった。静かで穏やかな世界を望んでいた

 

脳裏に映る、両腕の無数の傷。己の身体に刻み込まれた傷が、疼き、叫び、怒りを燃す

 

「戦わねば勝ち取れない、戦わねば前に進めない、生きるとは戦う事だ」

 

故に修羅、我等は修羅兵。雲率いる修羅の兵。手甲の下布として使われた昭の外套、刻まれし叢の文字を見つめる

 

「此処ぞとばかりに来やがって。凪、ウチら此処を何としてでも守るでっ!」

 

布をかぶったままの長柄の武器を手に、前方から迫る大軍を迎え撃とうとする真桜だが

 

「前は任せろ。隊長が進む道を、華琳様が進む道を頼む」

 

凪は、一人前に進み、ゆっくりと固く握りしめた拳を静かに開いていく

 

迫る騎馬、その中の1騎が突出し凪とすれ違う

 

「・・・ゲボッ」

 

刹那、数歩先を歩き、凪の後ろで騎馬ごと無数の凹凸を残し地面に崩れ落ちていった

 

姿勢を崩さず、腰を少しだけ落とし、背筋を伸ばして前に内側から半円を描くようにしてすり足で進む凪

 

左掌を開き甲を前に、右掌を腰の辺に置き、半身で構え前へ前へと進んでいく

 

隊から突出し、一人で前に進む凪に襲いかかる騎馬達

だが、その全てが通り過ぎるたび、先ほどと同じ全身に無数の凹凸を作り地面に崩れ、息絶えていった

 

騎乗しての攻撃であるというのに、何故か攻撃を一方的に受け、通り過ぎた時には命を落としている

恐ろしい。まるで死の壁で有るかのような凪に、涼州と羌族の兵達は、騎馬から降りて一斉に囲み武器を振るう

 

八方から同時に襲い掛かれば、いかに視えぬ攻撃を仕掛けようとも手数が間に合わぬ、コレならばとあるものは剣を振りかぶり

あるものは剣で突き、あるものは剣で払うが・・・

 

「・・・」

 

囲んだはずの敵兵は、一瞬の内に炸裂音のような音を立てて、全身の鎧がまるで破裂したように剥がされ

無数の窪みを身体に作り、人の原型を留めぬままに、うめき声すら上げずに沈んでいく

 

「桔梗様」

 

「詠春拳か、だが唯の詠春拳ではない」

 

此処が攻め時であるとばかりに鳳統の指示を受け、騎馬を前へ進める魏延の眼に映る不可解な光景

一瞬で、凪の使う拳術を詠春拳と見破った厳顔であったが、その拳の速さは厳顔でも容易に追えるものではなかった

 

迫る蜀兵。振りかぶり、頭上から振り下ろされる剣を半身で避け、両手刀で前に突き出した敵の腕を抑える

流れるように裏拳、手刀、拳打、掌底が瞬きする間に打ち込まれ、蜀兵は全身の鎧を剥がされ絶命していた

 

「何人来ようと同じ事。詠様から拳闘を、春蘭様から剣術を」

 

凪が生み出した一つ目は、既存の詠春拳を新たに見直し、一から作り上げた詠春拳

元来の詠春拳とは、剣術を元にした武術で套路を覚え気を練り込み積み重ね、ようやく詠春拳の使い手となる

 

だが、凪の生み出した詠春拳は、詠よりもたらされた拳術、拳闘の理論を埋め込み、より簡単に、より分かりやすく

より攻撃的に、特殊な呼吸法ではなく自然呼吸法にて拳速を上げ、無理なく気を使い、気の使い方は自然に身体に身に着いて行く

 

つまりは葉問式詠春拳

 

超超実践的な攻撃武術。体勢を崩す足技は少なく、擦りと言われる技を使う。敵の脛に自分の足の側面を軽く当て、文字通り擦り下ろし

激痛で動きが止まる敵の足をそのまま踏み抜く。棒立ちになった敵に、追撃の無数の拳を叩きこむ

 

随分と前に、昭と手合わせした時に言われた言葉。氣を練り込む時間に隙が有るという言葉

凪は、その言葉を忘れては居なかった。氣弾を捨て、氣を大きく消費する技を捨て、自然呼吸により無理の無い氣の使用

 

脱力から放たれる拳速は、僅かな氣を乗せられ更に加速。敵の肉体を鎧ごと打ち砕く弾丸へと変わる

 

「隊長から授かりしこの両腕、龍佐の拳を合わせ、新たな詠春拳となる」

 

敵と接触した瞬間、凪は敵の全てをその体に感じ、敵の死角にはいりこみ、敵を利用し、敵の身体に一方的に攻撃を叩きこむ

 

二つ目は昭との訓練により生み出した葉問式詠春拳の特筆すべき点、触覚能力を高め、敵を察知する黐手(チーサオ)

水鏡が語った、昭と同じというのは、眼ではなく拳で敵の全てを身体で察知する能力

 

敵が多ければ多いほど、敵と近ければ近いほど、凪の詠春拳は威力を増し、凪の姿は雲のように敵の身体をすり抜けていく

 

「儂が相手をする。焔耶は、向こうを叩け」

 

「はいっ!」

 

蜀兵の膝が落ち囲みが一斉に崩れ落ちるのに合わせ、厳顔は馬上から重い大剣の一撃を振るう

 

上から落とされる刃の側面を両手刀で弾き、身体を軽く回転させて騎馬に重い一撃を放つ

 

「ふんっ!」

 

崩れ落ちる騎馬から飛び降りた厳顔は、口の端を釣り上げて笑うと、己の新たな得物【桃厳狂】を構えた

その鏡のように磨かれた刃の側面には、まるで木目のような波紋が広がり、剣の中は刳り貫かれ一本の鋼線が張られていた

 

「どうやら以前と違うようだ、儂が相手をしよう」

 

あの時は三人で、だが今の凪は一人で自分と対等であると言わんばかりに、大剣を構える

拳を向ける凪に対し、厳顔は低く低く重心を落として、まるで地を這うように下から大剣を振り上げ襲いかかった

 

「くっ!?」

 

手甲で抑えようとした瞬間、凪の身体全身が危険を察知した。受ければ切られる手甲ごと

凪は後ろに足を引き、身体をずらして横に良ければ、手を返した厳顔の武器がまるで鞭のように

 

剣とは思えぬ角度で【ぐにゃり】と曲がり、凪の身体を横薙ぎで襲いかかった

 

「チィッ!」

 

体捌きでは避けられぬと察した凪は、後方に大きく飛んで間合いを外した

魏兵たちは、決して後ろに下がらぬ戦をする凪の後退に驚き、厳顔の持つ武器に驚愕していた

 

「逃すかぁっ!」

 

だが、厳顔の攻撃はそこで終わらない。遠い間合い、剣の届かぬ間合い、槍ですら届かぬ位置に鋭い刃が襲い掛かる

 

反応し手甲で咄嗟に防いだが、刃は凪の頬を切り裂き、一筋の赤い液体を地面に落としていた

 

「なんやあの武器はっ!?」

 

真桜が驚くのは無理もない。剣がまるで鞭のようにしなり、間合いを外せば腰に着けた矢筒から矢を取り出し

剣の中に通された鋼線を使い、はじき出すようにして矢を放ったのだ

 

真桜ですら見たことがない、ダマスカス鋼で作られた厳顔の大剣

いや、弓剣とでも呼べば良いのだろうか。秋蘭の持つ雷咆弓のような弭槍とは違う。弓自体が剣、剣自体が弓

 

「はあっ!!」

 

そして、超重量広範囲破壊武器、豪天砲に封印されていた膂力が今解き放たれる

 

中身を刳り貫いた事による剣の軽さが、超重量武器である豪天砲を支えた肉体が、戦に深く浸かり修羅場をくぐり抜けた力が

凪の新たな力、新たな詠春拳へと向けて牙を向く

 

振るう剣は風を断ち、鞭のように撓る剣先が音速を超えて衝撃波を放つ

 

戦場に響く炸裂音は、一つ、二つ、三つ、四つと次第に増え、音は途切れる事無く鳴り響く

 

「拳速より速い!?」

 

兵の驚きの声を他所に、凪は音速を超える厳顔の剣を裁き切れず、上半身の鎧をズタズタに切り裂かれ、頬には新たな傷が刻まれていた

離れれば弓撃、近づけば剣撃、さらには撓る剣のお陰で超近距離から中距離の全てを補い、隙は無い

 

「凪っ!今行くで!!」

 

「おいおい、私を無視していく気か?」

 

「邪魔なのーっ!!」

 

駆けつけようとする真桜と沙和の前に立ちはだかるのは魏延

右手に豪天砲を、左手には鈍砕骨を持ち、構える姿は二度目だというのに、まるで昔から持ち続けた得物のように堂に入っていた

 

「どけぇっ!アンタの相手しとる暇は無いんや!!」

 

そう言って手にした長柄の得物から布を取り外す真桜

 

布の下から現れたのは、まるで大きな手甲を穂の根本に着けたような螺旋槍。構えれば、真桜の身体がすっぽりと黒く塗られた巨大な手甲に収まり

覗き穴のようにして開けられた穴から魏延を睨む眼が光る

 

「コレが螺旋槍二式【玄天豪雷槍】や!」

 

玄武の名を槍に授けた玄天豪雷槍を魏延へと向ければ、魏延は鼻で笑いゆらりと不意に間合いを詰めて思い切り鈍砕骨を振り切った

 

驚く間もなく鉄の塊、巨大な金棒で叩かれ、取り付けられた手甲で防ぐも真桜は歯を食いしばり、あまりの重さに耐えることしか出来なかった

 

「真桜ちゃんっ!」

 

「くっそ、一撃でコレか!ウチの前から出たらアカンっ!沙和は、出たら殺られるっ!!」

 

続いて振り切るままに右手に持つ豪天砲で流れるように構え、鉄杭を込められた気と共に放出する

 

「どうした、反撃しないのか?」

 

打ち出される鉄の固まりをモロに受け、放出される氣を受け、硬化され強化された手甲のような防御盾で防ぐが

真桜の顔は青ざめ、眉根が溝を作るほど寄せられ苦悶の表情へと変わっていた

 

防御し、隙を見て反撃に移ろうと狙う真桜であったが、魏延の振り回す鈍砕骨の隙を広範囲破壊武器である豪天砲が補い

振り回しては砲撃の反動で元の位置に身体を戻すという、まるで厳顔のような無茶苦茶な戦い方を見せていた

 

「ぜ、全然終わらないのー!」

 

「うぐぐぅ、こんなんで殺られるかぁーっ!」

 

正に鬼神のごとくとはこの事だと言わんばかりの猛攻に、手を出す隙さえ見つけることは出来ず

一撃一撃に身体を支える足は、後ろへと下がらせられる。真桜は、ただ耐え顔をこわばらせることしか出来なかった

 

「良いか、必ず真桜達があの壁を壊す。我等は後続の、華琳様のお進みになられる道を作り上げるのだっ!」

 

前へ、前へ、襲い来る無数の騎兵を崩し、春蘭を先頭に重歩兵達は道を切り開き地に根を張るが如く、その場を固持し続ける

後ろから必ず仲間が、我等と共に敵の喉元へと食らいつくと信じ、中央を唯、前へ突き進む

 

大剣を振るい、一刀の元に騎馬ごと敵を切り伏せ、仲間が槍に剣に、矢に倒れようとも唯ひたすらに

霞も春蘭が中央突破をすると解っていたのだろう、己の兵を預け春蘭の部隊の層を厚くする

右も左も呉に、新たな友に任せたのだ。ならば信じるままに、己は王の振るう剣、敵を切り伏せ道を作る

 

「関雲長、いざ、参るっ!」

 

急に轍が出来、兵が散ったかと思えば正面には新たな偃月刀を手にする関羽の姿

隣には鳳統が騎馬に跨り、此方を睨んでいた。全ては彼女の思い描いた絵になっているのだろう

手を前に付き出し、同時に関羽が地面を蹴り、跳ねるようにして春蘭へと襲いかかった

 

「か、ん、うううううううううっ!!!」

 

失われた瞳、埋め込まれた義眼、朱の水晶に関羽の姿が映った瞬間、春蘭の怒りが爆発する

大地を揺るがす踏み込み、身体を限界まで捻り全ての膂力を込めて振り切られる大剣【麟桜】

 

迎え撃つ剣に、関羽は偃月刀で優しく側面を撫でるように掬い上げ軌道をずらし、振り上げた偃月刀を春蘭へと落とす

 

「ぬぅっ!」

 

足を地面に突き刺すようにして踏みしめ、大剣を無理やり戻し上段からの攻撃をかろうじて受けた春蘭は、偃月刀の刃を眼前に

関羽を、己の弟の身体に深い傷を刻み込んだ敵に、灼熱の殺気を放っていた

 

「重いだろう。私の刃は、ようやく重みを持った。あの時とは違う。私は、桃香様と共にある」

 

昔の義無き刃とは違う。道を見つけ、やるべき事が明確に、王が民全ての手を取ると誓った

その全てが、己の刃に乗っているのだと、関羽は更に力を込めて押し込んでいく

 

「はあっ!!」

 

押し込まれ、偃月刀を弾き、間合いを放す春蘭。剣の押し合いで、上から押されてるとはいえ互角であった事に、兵たちは震える

赤壁で、あれほど一方的に攻撃を繰り出し、実力の違いを魅せつけたというのに、今いる関羽は別人なのかと疑うほどであった

 

溢れんばかりの怒りと殺気を受け流す関羽を前に、春蘭は再び剣を構え直せば、対峙する関羽の偃月刀に刃こぼれを見た

 

「刃は、そちらの大剣の方が鋭いようだ。だが、硬さと重さならば此方が上」

 

関羽の言葉が、重量や硬度の意味では無いと兵達が感じた時だ、緩急を付けてまるで畝る龍のような動きで春蘭に襲いかかる関羽

一撃一撃が重く、硬さを証明するかのように春蘭の大剣を側面から叩く音が鳴り響く

 

刃を合わせることが出来ぬからこそ、側面を叩き春蘭の大剣を受け流す。更に、リーチの有る偃月刀で大剣の間合いを外し

突きを中心に、動きが止まれば大振りで頭上から打ち下ろす

 

打ち下ろしに合わせて大剣の刃を合わせ、偃月刀を切り裂こうとするが、関羽は即座に反応し、寸前で止めて

下から跳ね上げるように石突で春蘭の顎を狙う

 

突きを放てば、地面に偃月刀を突き刺し後方に飛ぶと同時に砂を巻き上げ春蘭の視界を塞ぎ、横薙ぎから踏み込み、突きを逆に放ってくる

 

以前とは動きも型も何もかもが違う関羽に、春蘭は一方的に受けるだけになってしまっていた

 

 

 

 

 

 

「恋を送り込んだのはこういう事ね。自分で上手く扱えないなら、炎の檻に閉じ込め暴れさせる」

 

「お兄さんと秋蘭ちゃんが抜かれれば、三万の兵が華琳様に向かうも同じですからねー」

 

「炎の壁で分断、向こうは此方の兵を実質的に減らし、此方は一人で三万の兵に匹敵する将だけ。兵が減る事は無いわ」

 

ついでに矢まで降り注ぎ、応戦すれども手応えが解らない。炎の壁を取り払えば、敵は此処ぞとばかりに体制を整えた騎兵で雪崩れ込んで来るだろう

 

「ですが、お兄さんと秋蘭ちゃんは抜けませんよ。何故かわかりませんが、興奮して頭に血が上っているようですからね―」

 

「そのようね。危うく虎の檻に放り込まれたみたいになっちゃうところだったわ」

 

呂布の出鱈目な攻撃もようやく昭の眼に納たのだろう、次第に攻撃を完璧に避け、秋蘭の剣撃が呂布の身体を削り始めていた

 

「恋には悪いけど、僕達だって負けるわけにはいかないのよ」

 

「ふむ。なぜ興奮しているのか、詠ちゃんは知らないのですねー」

 

「知らない。霞は、前に求道者がどうとか言ってたみたいだけど」

 

確かに気になることだが、今はそんなことよりも此方の体制を整えるのが先。おそらくは、分断され敵の方に居る凪達が

此方を通し守るためにその場を固持しているはず。退路を考えるのでは無い、仲間を前に進ませる事を考えるはずだと

 

ならばすることなど決まっている。得体の知れない技術で有ろうとも、目の前の障害を突破し合流することが何よりも大事

まだ此方には、無徒に統亞達、一馬まで居るのだから。早々に隊を立て直し、再編し、敵を討つのみ

 

即座に指揮を取る詠と風。隊を整え、無徒達を再編し新たに隊列を組み直す。炎の壁を逆に利用し、凪達が前を守っていると信じ

敵に悟られること無く部隊を編成していく

 

「良さそうだな、では今度は此方から攻めさせてもらおう。良いなっ!?」

 

「解った。いくぞ秋蘭っ!!」

 

昭の体捌き、そして表情から出鱈目な動きを把握し眼に収めた事を理解した秋蘭は、嵐のような乱撃の中に躊躇う事無く足を踏み出した

 

「があああああっ!!」

 

横薙ぎの偃月刀を昭と共に足を前後に開いて上体を下げて優雅に避けると、腰を掴んだ昭が秋蘭を瞬時に立たせ

振り切ったままの呂布の目の前に体制の整った秋蘭が突然現れる

 

「馬鹿め、既に貴様の動きは昭が見切った!」

 

真っ直ぐ突き出される突きは、まるで弓矢の雨のように幾度も呂布の身体を突き刺し切り刻む

 

左手を盾のようにして、血を流しながらそれでも獣のような瞳で睨み、体勢を崩したまま返す刀で方天画戟を横薙ぎに振るうが

 

「見切ったと言っただろう、私の夫を舐めるな」

 

地面に伏せるように身体を開いた昭は、秋蘭の身体を立たせると同時に両手を地面に貼り付け、踏み込む呂布の足を払うブレイクダンス

ウインドミルを繰り出していた

 

「うあっ!?」

 

浮いた足を払われる呂布。いかに力が強く、三万の兵と同じ力を有していようとも、浮いた足を払われれば誰でも体勢が容易に崩れる

呂布で有ろうともそれは同じ、力のまま振り回した方天画戟は空を切り、右に倒れる呂布

 

微笑みながら、秋蘭は軽くバックステップし、地面から突然竜巻のように昭の躯が回転を加えられ逆立ちで立ち上がり

ウインドミルからのエアートラックスが放たれる

 

倒れる呂布を掬い上げるかのように、昭の蹴りが呂布の顎を刈り取った

 

「もらったっ!」

 

蹴りをモロに喰らい、脳を揺らされ、歪む視界の先には、雷咆弓を引き絞った秋蘭が矢の切っ先を己目掛けて向けている姿だった

 

・・・あの時とおなじ・・・矢が・・・恋を・・・

 

脳裏に蘇る幼き頃の記憶

 

呂布が物心ついた時には、既に何も無かった。身にまとうのはボロボロの布切れ一枚

親も居らず、友も居ない。人は全てが敵だった

 

食べるものは拾うか盗む。何時だって泣いていた。だが、誰も助けてなどくれない

 

だが、何故、自分ばかりがこんな眼に、そう思うコトは無かった

 

何故なら呂布はコレが当たり前で、それ以外の生き方など知らなかったから

 

絶対の孤独、人が教わることなど何一つ教わったことはない

 

だから生きるためには平気で盗み、奪った。獣のように

 

そんな呂布であったが、ある一匹の犬と出会い心が生まれた

 

孤独の中で見つけた唯一の仲間、唯一の友。己と同じ獣

 

生きるために盗み、生きるために得物を狩る

 

孤独の中で見つけた心を許し、同じ価値観を持つ生き物

 

呂布は、次第にその犬を家族のように思うようになっていた

 

 

 

「恋どのぉーっ!!」

 

爆風に巻き込まれ、馬体に足を挟まれたまま叫ぶのは陳宮。赤壁から様子のおかしい呂布の側を離れず、ずっと呼びつづけた少女は叫ぶ

何度も何度も、赤壁で回収し、城へ戻った後も、誰の声も耳に入らなくなっていた呂布に、陳宮ただ一人が声をかけ続けていた

例え声が届かずとも、例え何かに心を囚われようとも、陳宮は決して諦めることはない

 

 

だが、声は届かず。呂布はゆっくりと崩れ落ちる

 

 

・・・あの時とおなじ・・・

 

唯一の家族と静かに過ごす日々。だが、世が乱れ始め人々は警戒を強め、呂布は食料すら手にすることができなくなっていく

 

季節も変わり、冷たい雪の降る冬。寒さとひもじさに耐え切れず、再び農家を狙い、家族である犬と共に盗みに入った時だ

 

納屋に潜りこめば、賊に対する警戒を強めていた主人に捕まり、呂布の目の前で犬は撲殺された

 

泣き叫び、ようやく生まれた心がずたずたに切り裂かれる。唯一の家族が目の前で畜生どもに嬲られる。呂布の眼にはそう映った

 

血まみれの家族を抱き上げる呂布。主人は、次はオマエだと棒を振りあげるが、棒は振り下ろされず、身体に剣を生やし血だまりを作った

 

今度は本物の賊が入り込んだのだ。地面に落ちる棒きれ。下卑た笑いを浮かべる賊の一人

 

同じく賊の一人が、ニヤニヤと気味の悪い笑を浮かべ、矢を此方に向けていた

 

泣き叫び、助けを請い、何度も死にたく無いと叫ぶが、言葉すら知らぬ呂布は呻くだけ

 

意志など通じない、通じた所で助かりはしない。抱きしめる家族が冷たくなるのを感じながら、呂布は落ちた棒きれを握っていた

 

要らない、何も要らない、此れほど心が傷つくならば、此れほど失う事が心を抉るならば、心も、家族も何も要らない

 

こんな現実も、こんな世界も、何もかも全部要らない

 

自分も・・・

 

気がつけば、目の前には人だったモノが二つ転がっていた

 

「・・・要らない・・・恋も、要らない・・・」

 

ようやく捨てられる。己の命すらも。ただ漠然と生きてきた。奪い、食らうことだけを目的として、全てを捨てて生きてきた呂布はゆっくりと瞼を閉じた

 

瞬間、炎の壁から1騎の騎兵が槍を手に飛び出す。栗色の髪に額に巻いた長い鉢巻を靡かせ、手には長柄の得物、十字槍

 

「己の命を張れるかっ!?ねねっ!!」

 

叫ぶ騎兵は、陳宮が大きく頷くのを見て優しく微笑むと、一気に十字槍の切っ先を陳宮へと突き刺した

 

「っ!?」

 

肌で感じた異変、あの時と同じ痛みが心に広がる。あの時と同じ悲しみが心に広がる

捨てたはずの痛みが、捨てたはずの心が、再び蘇り呂布の閉じていく眼を再び開かせた

 

身体を捻り、肩に突き刺さる矢を受けながら、後ろで叫んでいた大切な家族を振り返る

 

槍に貫かれ、地面を紅く染めた陳宮の姿に、呂布は追撃の矢を地面を転がりながら避け、被弾しながらも駆けた

捨てたはず、要らないと心すら削り落とし、力を手に入れ、何も考えず敵を殺していたはずの呂布が、求道者で有るはずの将が

 

「ねねぇーっ!!」

 

駆けより、抱き上げ、何度も何度も名前を口にする呂布。瞼を閉じたままの陳宮に、怒りを表し槍を持つ将に

翆に鋭い眼を向け武器を握りしめれば、翆は手綱を軽く引き呂布に背を向けて、此方を向く昭よ秋蘭に槍を構えて覇気を垂れ流していた

 

「れ、恋どの、ねねは無事ですぞ・・・」

 

「ねねっ!」

 

「ようやく届いた」

 

瞼を開けた陳宮は、良く見れば呂布と同じく肩を貫かれただけ。翆は、変わらず二人を守るようにして身体を前にしていた

 

「捨てて無いものがあるじゃないか」

 

ニッコリと微笑む翆。たった一言。その一言で、呂布の瞳に光が宿る。濁りきった眼は、荒れ狂う獣はもう居ない

あの頃は、確かに捨てるしか無かった。でも、思い返せば新たに手に入れたものがある。新たな家族、新たな友

 

だからこそ、昭は反董卓連合でこういったのだ。縄張りを守る狼だと

 

何時しか、昭を見て過去を思い出し、過去の悲しみと怒り、嫉妬に囚われていた

 

それは、心を新たに持ったから。捨てたはずの心を取り戻したからこそ起こった事

 

「ここで、恋を・・・」

 

「よーく見ていますぞ、恋どのっ!」

 

立ち上がった呂布は、翆に軽く頭を下げ、陳宮に軽く微笑むと地面を蹴った

先ほどとは違う、速く、靭やかで、風のように昭と秋蘭の前に踊り出た

 

「秋蘭っ!!」

 

肌に感じる殺気の質が変わり、目の前に立つだけで肌が粟立つ、華琳や劉備以外では感じたことがない恐怖を昭が感じ

咄嗟に秋蘭の手を取り、後方へ、後方へと下がる。秋蘭もまた同様に、危険を感じたのだろう

 

雷咆弓で矢を放ち、呂布の動きを封じこもうとするが、呂布は武器を振りあげる事無く体捌きのみで矢を全て躱す

 

遠当てで虚実をおりまぜて矢を放っているというのにも関わらず、呂布は虚に対し一切反応を見せない

まるで昭の龍佐の眼を向けられているかのように

 

「援護を頼む、武器破壊を狙うっ!」

 

これ以上は退がれない、仲間が、士気が下がる。そう判断した昭は、新たな動きを見せる呂布に対して立ち止まり

地面に転がる仲間の姿を眼に入れ、極限集中のスイッチを入れた

 

秋蘭から受け取った宝剣を持ち、二つを手に十字に構え呂布の攻撃を受けようとするが、呂布は目の前で立ち止まり

昭の身体の影から放たれる矢を避けつつ昭の剣の腹に武器を当てた

 

「なっ!?」

 

宙に浮かされる昭の身体。軽い一撃ではあったが、昭の身体は軽く弾き上げられ、そこに無数の乱打が打ち込まれた

 

「く、おおおおおおおっ!!」

 

眼を合わせているというのに、先読みしていると言うのに、昭の動きを遥か高みから凌駕する呂布の力

身体は間に合わず、手数を増やすため脇に佩いた鉄刀【桜】を二つ引き抜き、身体を浮かされながらも受け流し、身体を回転させ捌き続ける

 

「不味いっ!剣をっ!!」

 

秋蘭の声に、兵たちは鉄刀を抜き、昭へと投げ、昭は剣を足や手で浮かせつつ呂布の攻撃をひたすらに捌き続ける

一度も足を、身体を地に着けられず、身体を浮かせ続けられ、一方的に攻撃を受けてしまう

武器破壊を、呂布の武器に宝剣を合わせようとするが、呂布は冷静に目敏く昭が構える宝剣を無数剣から探し出し

腹だけを狙って打ち据え、昭の身体を浮かせ続けていた

 

「おのれっ!!」

 

窮地に立たされた昭を援護するべく、矢を連続で放つが、呂布は身体を揺らし、武器を振る構えを利用して避けていた

全くの無意味のように思われる矢。だが、コレが尽きれば呂布は昭を攻撃する事にのみ専念し、昭は捌ききれず殺される

 

「ならばっ!」

 

「来るな、秋蘭っ!!」

 

昭と共に舞で戦おうとするが、動きの変わった呂布の動きが読めず早すぎる攻撃に秋蘭は呂布の一撃をそのまま受けることになってしまう

そう感じた昭は秋蘭を止め、己の背中。魏の鬼を狙えと叫んだ

 

背中の中心ならば、完全に呂布の視界から隠せる。だが、一度でもしくじれば昭の身体を矢が貫く

そして、呂布の一撃が昭の身体を切断する。だが、コレしか道は残されて居なかった

 

極限で矢を隠し、ギリギリで呂布の目の前に出現させる。だが、それすら当たらず昭は剣を三つ、四つを手にして呂布の攻撃を受け流す

例え武器が砕けようとも、地に足を着けず、身体を浮かせられたままにされようと

 

「やっぱ強いな、恋は。じゃあ、アタシも行こうか」

 

騎馬の腹を足で軽く叩けば、背後から重圧を、重く城壁をそのまま押し付けられたような感覚に振り向けば

炎の壁を切り裂いて、紺碧の羽織を纏う将が、鋭い偃月刀の刃を重圧を乗せて振り下ろす

 

「アンタの相手はウチや。やっぱり来おったか、恋も戻ったようやしアンタが一番、蜀で強いし厄介なヤツいうことや」

 

十字槍の穂先で一撃を受けた翆。霞は一度間合いを外し呂布の姿を見て安心したような、困ったような複雑な表情をして

再び偃月刀の刃を翆に向けて静かな盾の気迫を放つ。全ての者に、周りで見ている者に、まるで城壁のような盾が有るような感覚にさせ

敵には、圧倒的な重圧を感じさせる気迫を

 

「アタシも、アンタが来ると思ってた。兄様から学んだモノ、どちらが大きいか」

 

「ああ、勝負と行こうや無いか」

 

オマエを倒さねば、仲間の援護に行くことは出来無いと、二人の武器は火花を散らす

方や神速、方や一撃必殺、双方の武器は、戦場に雷のような轟音を鳴り響かせ始めた

 


 
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