No.602144

真・恋姫†無双 真公孫伝 ~雲と蓮と御遣いと~ 1-41


ただいま!なんとか地獄の底から這い上がって参りました!
謝罪枠から六日で仕上げた自分を少し褒めたい気分だったり。

今回は拠点のようで拠点では無い、もしかしたら拠点かもしれない何かです。

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2013-07-27 16:37:09 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:7389   閲覧ユーザー数:5368

 

 

 

 

各地の郡雄によって黄巾の乱が静まり、漢王朝の腐敗によって起こった事件もようやくの収束を見せた昨今。

 

だが人々は知っている。感じ取っている。

仮初とも言えるこの平穏の先には、払うことが困難な暗雲が立ち込めているであろうことを。

 

 

しかし、だ。そんな後ろ向きなことばかり考えていては、一時的にとはいえ訪れた穏やかな日々を謳歌出来ないわけで。

その暗雲を打ち払うが如く、極一部を除いた各地の州は、乱が起こる以前の活気を取り戻していた。

 

やはりそれは、各州を統治する指導者の能力故であったり、人柄故であったり、ひたむきな努力故であったりする。

 

そして例に漏れず、公孫賛こと白蓮が治める北の地、幽州もまた民の笑顔が息衝いている地だった。

まあ元々その土地の人間の気風が反映されているのか、乱があろうが無かろうが日々は穏やかなのだが。

 

 

風土や気風にも準ずる穏やかな日。

午後一番ということもあり、腹が膨れたことに比例して眠たくなってくる時間帯。

そんな中、敢えてその空気に馴染まず、城内にある庭の一角にて静かに座禅を組んでいる人間がいた。

 

北郷一刀。

 

自身が所属している勢力内に於いて、大将である公孫賛と同等と言っても過言ではない程の立ち位置にいる少年である。

 

とはいえ、やはり大将である公孫賛と同様に自分の価値的なものを明確に捉えることが出来ていないので、妙に風格というか迫力が無いのであった。

 

そんなことを微塵も気にせず、集中力を持続させ続け座禅を組み続けている一刀。

服装は普段と違い、紺色の袴と白い道着という出で立ち。加えて自身の得物である木刀を横に置き、静かに瞑想をしていた。

 

呼吸は常に一定を保ち、瞼は閉じられたままピクリとも動かない。

 

比較的城内でも奥まった場所にあるからだからだろうか

街や城内の喧騒ですらどこか遠くに聞こえていて、精神統一には最適な場所と言えるだろう。

 

既に二十分近くこの状態のままなのだが、一刀は微動だにしない。

しかも本人は

 

 

(……)

 

 

無我の境地にでも至っているのか、下手をすればこのまま三十分、四十分と続けかねない勢いだった。

誰かに肩を叩かれるとか、誰かに呼ばれるとか、意識の外側で大きな音がするとかでもなければ永遠に――

 

 

ガシャン!

 

 

唐突に、比較的近いと認識できる範囲内で大きな音がした。

例えるなら、何か鉄系の物を同じく何か鉄系の物の上に放り投げた様な音。

 

そのまま少しの間があり、微動だにしないままの一刀の耳に再び――

 

 

ガシャン!

 

 

と、先刻と同じ音が届いた。

 

しかし一刀は、吃驚して肩を震わせるとか跳び上がるとか、そういうリアクションを取ることは無く、しばらく逡巡した後にゆっくりと眼を開いた。同時に溜息をひとつ吐く。

 

木刀を取り、座を解いて立ち上がった一刀は音のした方へと歩き出した。

 

一つ、二つ、と城内の外廊下を曲がる間もガシャン!ガシャン!と鉄らしきものの音は鳴っていた。

その度に一刀の眉間には皺が寄って行く。音に比例して嫌な予感的なものが高まって行くからだった。

 

 

(……なんか壊してたり、割っているような音じゃないっぽいけど)

 

 

そんなことを考えつつ、三つ目の角を曲がった瞬間。

 

 

「は?」

 

 

一刀の口から呆気に取られた声が漏れた。

 

それもその筈。角を曲がった一刀の眼に飛び込んできた物は、庭にうず高く積まれた鉄色の何か、だったのだから。

 

 

「おいおい……なんだこれ」

 

 

廊下から庭に下り、うず高く積まれた鉄色の何かに近付いて行くと、やっとその正体が判明する。

端的に言うと、武器だった。色々な武器だった。様々な武器だった。武器の山だった。

 

 

短剣、長剣、細剣、長槍、短槍、弓、手甲、足甲、堰月刀、青龍刀、鈍器、戦斧。

他にも名前のよく分からない武器や、この時代にあっても良いのかこれ、なんていう武器まで積まれていた。

後者に限定していくつかの例を出すと、モーニングスターのようなものとか、パイルバンカーの様なものとか、そんな感じ。

 

まあ、この外史とやらの変なところを一々上げていてはキリが無いのもまた事実なのだが。

 

そして未だに、山は高くなり続けていた。

ちょうど山が影になって見えない辺りから一定周期で武器が放り投げられている。

無造作に放り投げられた武器が直撃しても、その山が崩れないのは奇跡的と言えよう。

 

誰が何をしているのかを見ようと思い、少しだけその正体を察しながらも一刀は山の影から顔を出す――と、そこには。

 

 

「むう……これも違うでござるな」

 

 

天然暴走怪力巨乳語尾がござる娘が両手に武器を持って座っていた。

まるで新しい玩具を与えられた子供のように、辺りに様々な武器を散乱させた状態で。

 

 

「……」

 

 

正直なところ、一刀としては反応に困った。

立場上、一刀は天然暴走怪力巨乳語尾がござる娘――舞流の上司に当たる。しかも直接の。

 

 

まあ、立場というか役職そのものがフワフワしてる状態の俺が上司っていうのもどうかと思うんだけど、とか思っているのだが。

 

 

しかも舞流が座っている庭の隅には少し大きめの、今は使われていない小さな蔵があった。

ここは主(おも)に何らかの事情で使わなくなった武器や使えなくなった武器を放り込んである蔵で、少し乱暴な言い方をしてしまえばガラクタが詰まっている蔵なのだ。

 

故に舞流のやっていることは、見方によって仕事と見て取れなくもなかった。

 

蔵に詰まっていたガラクタを、正しく仕分けする仕事。

こんな風に言い換えてしまえば、間違いなく立派な仕事だ。

もっとも、舞流に何をやっているのかと尋ねれば九割の確率で違う答えが返って来るのだろう、と予想も出来る。

 

 

普段は野性の獣のように人の気配に敏感な舞流なのだが

今は一刀がそこそこ近くに接近していても気付かないらしく、一心不乱に武器の物色をしていた。

 

取り敢えず、このまま停止していたり眺めていたりしても埒が明かないな、と考えた一刀。

不用意にもそのままスタスタと舞流に背後から近付き、怪力持ちとは思えぬその華奢な肩に手を置いた――瞬間

 

 

「――っ!何奴っ!!」

 

「危ねえっ!?」

 

 

手に持っていた両手斧を、片手で、後ろ向かって放り投げた。

いや、放り投げたというか見事に回転が掛かっていた辺り、狙って投げたのかもしれない。

 

しかし当事者、いや被害者である一刀はそれどころでは無い。

 

回転の掛かった両手斧を間一髪で避ける。

一歩間違えれば腰をやりそうなブリッジ状態になった後に、なんとかそのままバク転で体勢を立て直していた。

 

体勢を立て直した一刀。座ったままで後ろを向く舞流。

両者の視線が交錯した。途端、パアッと舞流の顔に太陽の様な笑顔が咲いた。

 

 

「おお、殿でございましたか!お忙しい中このような若輩の元に訪れて頂けるとは光栄の極み。本来であれば茶や菓子を出し、持て成さねばならぬところでござる。ですが今この場は某の私室ではござらん……。かくなる上はやはり、腹を切らねばなりませぬ!!殿、介錯をお願い致すでござる!」

 

 

まったくもって物騒極まりなかった。

しかも質の悪いことにこの場所は現在、切腹出来るアイテムの宝庫である。

 

 

「ちょっと待て!!いいから!切腹とかいいから!というか久しぶりだなこの件(くだり)!何?ウズウズしてたの?切腹したくてウズウズしてたの!?」

 

 

既に短剣か何かを素早く手に取り、自分の腹へ当てようとする舞流を若干ヤケになりながらも必死に止めようと試みる一刀。

舞流の手から武器を無理矢理奪い取ったりとか、近くの武器を片っぱしから遠ざけたりとかしながら一刀は思うのであった。

 

 

(ああ……舞流に日本の文化(間違ったやつ)を教える前に戻りたい。わりとマジで)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うう……殿ぉ。何をするでござるかぁ……」

 

「緊急措置だ。こうでもしないとこっちは安心して話も出来ない」

 

 

事件になる前になんとか事態を収束するに至った現場にて。

縄でグルグル巻きにされた舞流が向ける弱った小動物のような眼に若干の罪悪感を感じながら

一刀は腕を組んでそう告げた。それを聞いた舞流はしょんぼり、と言った様子で項垂れる。

 

悪い事をしているわけでも無いのに罪悪感たっぷりなのはなぜだろう。

そんな答えが殆んど分かりきっている事を自問しながら一刀は退かした武器を手に取り、何気なく眺めながら舞流に尋ねる。

 

 

「大体、こんなとこで何してたんだ?しかも普段は使わない蔵の中身なんて引っ張り出して」

 

「某に合う武器は無いか探していたのでござる!」

 

「元気で大変よろしいお返事です。んで、仕事は?」

 

「休憩中でござる!」

 

「……正直で大いに結構。まあ終わるんならそれで良いと俺は思うけどな」

 

 

舞流の元気ハツラツな返答に苦笑いで返す一刀。

しかし、少し遅れて舞流の言った台詞を正しく理解すると怪訝な表情になった。

 

 

「舞流に合う武器?いやだって舞流には堰月刀があるじゃん。ほらそれ」

 

 

舞流の真横に置いてあった、刃の部分が布で大切に包まれている堰月刀を示した。

 

 

「まことそうなのでござるが……某、少々思うところがあるのでござる」

 

「思うところ?」

 

「某、この相棒を使っての勝ち星がここのところ無い気がするのでござるよ」

 

「あー……なんかそんな気がする」

 

 

確かに、舞流の言ったことは一理ある気がした。

 

出会った当初、俺は堰月刀を使う舞流と戦った。

その後、仲間に加わってからは星との模擬戦。一時では愛紗とも模擬戦を行っていた。

そして汜水関の戦いにて華雄との戦闘。考えてみれば舞流はそれら全てに負けているのだった。

 

 

「もちろん、相棒のせいではござらん。全ては某が未熟であるが故の負けでござる。ですが、もし某に堰月刀以外の武器への適性があるのだとすれば、練達の為にその可能性を模索するべきだと考えたのでござる。……それにもし、某のせいで堰月刀という武器の名が貶められるようなことがあれば、耐えられない。同じく堰月刀を使っている関羽殿や張遼殿に顔向けできないでござるよ」

 

 

 

段々と声のトーンが下がっていったものの、最後の台詞だけはハッキリとした口調で口にした。

 

舞流は自分の事を未だ若輩と言い続ける傾向にあるからなのか、自分以外の人間をもの凄く尊敬している。

雛里のような軍師然り、華雄や星のような武将然り、白蓮の様な指導者然り。

 

だからこそ、愛紗や張遼のように同じ武器を使っている人間の名が貶められる可能性を自分が作っている事に我慢ならないのだろう。

 

 

考え過ぎだ。

 

そんなことは無い。

 

そう本心から言い掛けて……止めた。

 

そんなことは間違いなく舞流の考え過ぎだと思うし、愛紗や張遼も気にしないだろう。

愛紗は言わずもがな、張遼に関しては一度しか面識は無いものの、何故かそう信じられた。

 

でも、それを言って舞流の心の中のモヤモヤが消えるかどうかは分からない。

それどころか自分に置き換えて考えてみたら、それは間違いなく消えないだろうと思った。

 

……それならまあ、こういう時は。

 

 

「む?む?縄遊びは終わりでござるか?」

 

 

好きにさせておくべきだろう。

手の掛かる妹を相手にしている様な感覚に苦笑しながら、舞流の縄を解いた。

 

つーか今、縄遊びっつたか。肌を傷つけない程度にキツく結んだ筈なんだけど。

しかし確かに、舞流の怪力具合ならあんな縄なんて簡単に引き千切れる気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで、自分に合う武器とやらは見つかったのか?」

 

「これなんてどうでござろう?相棒以外で一番手にしっくりくる得物でござる」

 

 

そう言って舞流が片手で持ち上げ――いや、担ぎ上げたのは。

 

 

鉄色に鈍く光り、幅が広く、刀身の厚さが半端ない、細い柄が付いている武器だった。

武器というか、鉄の塊と言った方がしっくりくるほどに異質な武器だった。

 

 

「……なんか頬に傷のある短身痩躯の優男が出て来る某剣客浪漫譚で見たことあんぞ、それ」

 

 

背中に一文字背負った人が使っていた気がする。確かあの武器は、ええと――

 

 

「――斬馬刀、ですね」

 

「おうっ!?」

 

 

突如背後から聞こえてきた声に、反射的に飛び退く。

背後には眼鏡を掛けた文官風の胡散臭さが滲み出ている少年――于吉が顎に手を当て、立っていた。

 

 

「む?何を驚いているのでござるか、殿。先ほどから于吉殿はいたでござるよ?」

 

「さ、先ほどから?」

 

 

驚いたせいで少しだけ声が裏返ってしまう。

それを気にすることなく舞流は一刀に頷き、廊下近くにある柱を指差した。

 

 

「然り。先ほどからその柱の影よりこちらを窺がっていたでござる。何をしているのかと気になっていたのでござるが、殿を脅かそうという魂胆だったとは。于吉殿、そういうことは控えて欲しいでござる。殿の心の臓が止まりでもすれば冗談ではすまぬゆえ」

 

 

一刀の身を案じ、苦言を呈す舞流の言葉に于吉はクスリと笑った。

 

 

「ふむ。私としてはそういう魂胆では無かったのですが、結果的にそうなってしまったようですね。申し訳ありません。これからは気を付けるとしましょう。……とはいえ、気配は消していたつもりだったのですが」

 

「む、そうだったのでござるか?しかし、禍々しい邪気が柱の陰から立ち昇っていたでござるよ」

 

「……なあ于吉。お前、隠れてるとき何考えてた?」

 

「ふふ、決まっているではありませんか。今日の仕事が終わり次第、左慈の元へ行って――」

 

「やーもういい。聞くまでも無かった」

 

 

恍惚とした笑みを浮かべて話し始めた于吉の言葉を

どこか投げやりに遮って一刀は改めて鉄の塊――もとい斬馬刀を肩に担いだ舞流に視線を投げた。

 

なんだろうかこの、もの凄く様になっている感は。

 

 

「取り敢えず、振ってみ?」

 

「御意!」

 

 

言うが早いか、舞流はその場で斬馬刀を振り回し始めた。しかも片手で。

 

側にいるのが危険ということは先刻承知済み。

既に素早く距離を取った一刀は、于吉が潜んでいたと思われる柱にもたれ掛かりながらそれを眺めていた。頬を引き攣らせながら。

 

ちなみに于吉は恍惚の表情を浮かべてどこかへトリップしていた。

なので別にその場に残して来てもよかったのだが、さすがに危険なので仕方なく首根っこを掴んで引き摺ってきてある。

 

 

「いやはや、凄い怪力ですね。周倉殿は」

 

 

引き摺られて連れてこられた体勢のまま、上半身だけを起こした于吉が舞流の怪力を評した。

 

 

「凄い怪力っていう一言だけで済ませていいもんじゃない気がするんだけど、あれ」

 

「ですが、持って生まれた資質を否定も出来ないでしょう」

 

「持って生まれた資質って言われるより、錘(おもり)を付けた服とか着て修行してました、とか言われる方が信じられる気がするよ」

 

「龍玉を七つ集める漫画の読み過ぎですよ」

 

「え?知ってんの?」

 

「もと外史の管理者ですから。現代の知識ぐらいは持ち合わせていますよ。ちなみに私はべ○ータが好きです」

 

「俺はピッ○ロ。というか何、お前がべ○ータ好きなのってまさか……」

 

「ええ、ツンデレだからです」

 

「うわあ……ちょっと左慈に同情するわ」

 

 

舞流が勢い良く斬馬刀を振り回している間、高校生の休み時間的な会話をしながら時間を潰す一刀と于吉。

一刀がもたれ掛かっていた柱から背を離し、そろそろ止めさせるかと舞流に声を掛けようとしたその時。

 

唐突に舞流の手から斬馬刀がすっぽ抜けた。

 

 

「あ」

「あ」

「あ」

 

 

三人の声が重なる。しかし声を出そうが、声が重なろうが、時が止まることは無く。

 

 

ドガン!!

 

 

という大きな鈍い音を立てて、城内の壁に直撃した。

もちろん斬馬刀なんていう規格外の鉄の塊が直撃した壁がどうなるかなんてことは分かりきっている。

しかも投げたのは規格外な怪力を持つ娘であり、振り回した際の遠心力も加算されている。つまり、何が言いたいのかと言うと、だ。

 

城内の壁が大破していた。ヒビが入ったとか半壊どころの騒ぎではなく大破、である。

 

 

『なんだ!?』

『なにがあった!?』

『なんだ今の音は!?』

『襲撃か!?曲者か!?』

 

 

遠くから聞こえてくるそんな声をバックに、大破していた壁を呆然と見ていた舞流は、ギシギシと油の切れたロボットの様な速度で首を回し、助けを求めるかのように一刀を見た。

 

 

「……多分、給料から天引きかな」

 

 

一刀からのとどめの一言を受け、舞流はガックリと肩を落とした。

 

最早乾いた笑いしか出ない一刀の後ろでは、柱に手を突き、腕を口元に当てて、于吉が笑いを堪えていた。

 

 

(……八つ当たりだって分かってるけど殴りてぇー)

 

 

おそらく監督不行き届きで何かしらの措置を取らされるだろう我が身を呪いながら、取り敢えず自分はともかくとして舞流の措置は緩和させないとなー、なんていうお人好しマックスな事を考えながら、ギャラリーが到着するのを待つ一刀だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日。

舞流はしばらくの間、調練や鍛錬の禁止令を受け、書類仕事に忙殺された。

良い機会だ、と雛里や燕璃が舞流に色々学ばせようとと側に付き、それはそれでそれなりに充実した時間だったらしい。

 

もちろん(くだん)の斬馬刀は没収。城の奥の部屋に移され、厳重に封じられた。

後に時々、幽鬼のようにフラフラと歩く舞流や、頭から煙を出して倒れている舞流などが目撃されたらしいが、それはまた別のお話。

 

 

そして監督不行き届きというか連帯責任というか、基本的に自ら罰を受けに行った一刀はというと――

 

 

 

 

 

「流石に重労働だなっ……と」

 

「口よりも手を動かせ。ちっ……こんなことに時間を割いている俺の身にもなれってんだ」

 

「頼まれたわけでもないのにそれでも手を貸す辺り、本当に丸くなりましたねえ、左慈」

 

「黙れ、物理的に曲げるぞ」

 

「はいはい。黙って手を動かしてくれー」

 

「北郷一刀……こいつは貸しだからな」

 

「貸しか……今日の夕飯でどうよ?」

 

「私もご一緒してもよろしいですか?北郷一刀殿」

 

「一人も二人も変わんないから別にいいよ。つーかさ、いい加減俺の名前フルネームで呼ぶの止めない?」

 

「なら、貴様でいいか?それと、俺も今日の夕飯で構わん」

 

「ふざけんな。もう少しマシなのにしてくれ。夕飯の件、了解だ」

 

「なら、かずピーなんていうのはどうです?」

 

「……それは心底遠慮したい」

 

「ふん、なら貴様は北郷で充分だ。これからはそう呼ばせてもらう」

 

「いやあ、今のはデレにカウントすべきでしょうかねえ」

 

「カウントすべきかもなあ」

 

「貴様ら……覚えてろよ」

 

「冗談だって。俺の罰に付き合わせて本気で悪いと思ってる。でも、頼むよ」

 

「……さっさと済ませるぞ、于吉」

 

「いやあ、今のも完全にデレ――」

 

「――はあっ!」

 

「ごっ!?さ、左慈?石材の直撃は流石に痛いですよ!?」

 

「折角それなりに補修が進んでんだから壊すなよ?」

 

「問題無い。壊れるのは別のものだ」

 

「じゃあいいや」

 

「北郷殿、あなた何気に薄情ですね」

 

「現代で男友達といた時はこんな感じだったっつの」

 

「いいから進めるぞ」

 

「直す方?壊す方?」

 

「両方だ」

 

「オーケー。んじゃ俺は直す方で」

 

「そうか。なら俺は壊す方にしよう」

 

「壁に当てんなよ?」

 

「無論だ。誰に向かってものを言っている」

 

「ここに来て何故そんな自然体に連携を……。ま、まさか北郷殿!あなたは左慈を寝取――」

 

「――くたばれぇっ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい!一刀―!昼飯持って来てやったぞー!」

 

「おーう!悪いな、白蓮―!もし時間があるんだったら昼飯一緒にどうだ?」

 

「い、一緒に!?」

 

「ああ。なんか左慈と于吉も休憩入ったみたいだから、今の内に食っちゃおうぜ」

 

「あ……うん。一緒に、食べる」

 

 

 

 

――それなりに罰を楽しんでいたとかなんとか。

 

 

 

 

ともあれ穏やかな幽州の、何の変哲もない日常の1ページだった。

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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