No.599920

新たなる世界の片隅に/魔法の代償編5 守護者の代償:Introduction

佐倉羽織さん

新たなる世界の片隅に/魔法の代償編5
二人で一人前。"ニコイチ"魔法少女として活動を始めたほむらとさやか。学校生活と魔法少女生活の両立を何とかこなしていた二人に、巴マミからの緊急招集がかかる。魔獣が大量発生するその日に、偶然にも恭介のコンサートが開催されていた。
鹿目まどかによる世界改変後の世界で、魔法少女達の友情と希望を描いたシリーズ第四巻。
【今作品は合計一〇巻になる連作です。四巻目の冒頭部分を公開します。連作である関係上、四巻目の結末に対してネタバレになっていますのでご了承ください。】
続きは頒布物での公開のみになります。ご了承ください。

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2013-07-21 10:40:42 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:678   閲覧ユーザー数:676

新たなる世界の片隅に/魔法の代償編5 守護者の代償:Introduction

一次創作 Magica Quartet「魔法少女 まどか☆マギカ」

○魔を狩るモノ

 

『ほむら、見える?』

さやかの声がほむらに届いた。

『見える。丸見え』

そうか。さやかはそう思った。

夕方、見滝原の制服のまま、河川敷を歩く。変身前の弱い魔力で、自分が感じられるのは、何となくソコにいる、という雰囲気だけだ。

『小型が三体。キュゥべえの情報通りだね。さやかの前と左後ろ、右後ろからじりじり近づいてる』

魔獣は今、さやかが、意識的に小出しにている魔力に、呼び寄せられているのだろう。わたしはまるで、釣り針についたエサだな。さやかはそう思った。だが、以前のように、不安を感じることは全然なかった。自分は魔法少女で、魔獣に対抗できる力を備えているから、というのもある。けれども、こうしている間も、少し離れた場所(鉄道橋の上)で準備を整えている、心強いパートナーであり、親友の、ほむらとなら、実力に見合わない大きなオファーを受けることを、注意深く避けさえすれば、負けることなどあり得なかった。

 

『さやか、準備できたよ』

『うん、わかった』

ほむらの送ってきた声に、さやかは魔力を小出しに放出するのをやめ、一挙に魔法少女に変身した。

「行くよ! 魔獣ども!」

 

三匹の魔獣は、自分達の獲物が突然、脅威に変化したので少したじろいだ。間合いは五メートルほど。魔獣ならばまだ充分回避行動に移れる距離だ。

だが、その読みは見事にはずれた。天高く、三体の魔獣ごとに数本の、光の矢が降り注ぎ、彼らの僧衣のような衣を、地面に縫いつけたからだ。そして不幸なことに……今までおいしい獲物だと思って近づいていた、そして今は脅威の源である魔法少女は、いったん真上に跳躍すると、中空に魔法陣を描き、それを足場にして再跳躍することで、普通考えられる三倍の早さで、彼女の正面にいる魔獣の目の前に到着した。

「残念でした」

彼女はそう言い渡すと、マントに隠し持ったサーベルで魔獣を横に切り裂いた。そして悲鳴を上げて倒れつつあるその魔獣を足場にして、次の魔獣へ跳躍する。左後ろの魔獣は光矢(こうや)に縫いつけられているにも関わららず、体をねじってこの場から脱出しようと、もがいていた。途中一回魔法陣による加速を経て、その魔獣の懐に入り込んださやかは、

「臆病な男子は嫌われるよ」

と、さも心配げに言いながら、彼を縦に切り裂き、着地した。

衝撃を和らげるため折ったひざをすっと伸ばし、バレリーナのように回転して最後の魔獣を見る。魔獣は、まるでやけくそになった様に大声を上げながら、力一杯衣を引っ張り、そして引きちぎった。自由になった魔獣が、さやかに向かって突進し

始めた。さやかはニヤっとすると、

「そうそう、積極的にアプローチしなくちゃ」

と言って、サーベルを両手で持ち、前に構えた。

一瞬の間をおいて、さやかはサーベルの柄の部分にあるトリガーを引いた。

すると、サーベルの刃の部分だけが、派手な爆発音とともに飛び出し、最後の魔獣の腹に突き刺った。魔獣は動きを止めた。

「でも、ごめんね。わたしの好みじゃないんだなー、あなた」

さやかの、その台詞を待っていたように、上空から降り注ぐ無数の光(こうや)矢が魔獣に突き刺さっていき、原形を保てなくなった魔獣達は消滅した。

 

 

ほむらが河原に到着するのを待って、二人は制服姿に戻ると、一体につき数個、周囲に投げ出したキューブを探しはじめた。

「なんだか、予定よりも早く終わっちゃったね、今日」

そう話しかけたほむらは、さやかより感知力があるので、少し背が高い草むらの担当だ。

「わたし、時間かかると思って、お母さんに『ほむらと夕食食べてくるから』って言って来ちゃったよ……」

そうぼやくさやかは、主に河原の砂利の上に落ちたキューブを探している。

「そっか、じゃあこれ終わったらどっか食べに行く?」

「行こう行こう」

台詞だけ聞いていると、本当に女子中学生が、河原でゴミ拾いのボランティアをしているかのようだ。

 

魔力の感触からすると、そろそろ拾い終わった感じかな?

ほむらはそう思った。なので、草むらから出て、さやかの方に駈け寄り、聞いた。

「どこに食べに行くの?」

「決まってるじゃない? そんなの」

まあ、そう思ったけどね……。せめてもの反抗を。

「えーーー、またあの店?」

さやかはにやにやしつつ、断言。

「やっぱりあいつのフリフリ姿を眺めないとねえ」

「悪趣味だなあ……」

本当に。

二人はそんな会話をしつつ、魔力の痕跡がなくなるまで、河原でお宝を探していた。

 

○生き残るモノの責任

 

「いらっしゃいま……おまえらまたきたのかよ!」

ドアに取り付けられたチャイムの音を聞いて、振り向いた杏子は、明るい声で挨拶を初めて、最後は悪態をついた。頬はほんのりと赤い。カフェ・ラ・ロンドの制服が、フリル、リボンいっぱいのその制服が、気恥ずかしいらしい。

「杏子ちゃん! いくらお友達でも、お客様なんですから、きちんとご挨拶してね」

厨房の奥から店長の声がする。杏子が謝っている横で、さやかは、厨房の入り口から中に顔を出して挨拶をしている。

そしてほむらはと言うと、遠巻きに杏子の制服をうらやましそうに眺めていた。杏子がにらみ返すまで。

さやかが戻ってきて、二人はいつもの窓際の席に着く。お店は夕方のピークを過ぎて、今は落ち着いてる。

二人の席にお冷やを運んできた杏子に、さやかは話しかけた。

「ね、ここのお店、正解だったでしょ?」

「おっまえ、毎回毎回来る度にそれを言うな。まあ、確かにバイト先をここにして大正解だけどな、制服を除いて」

まるで漫画のように口をイーっとした表情で、杏子が答えたのを見て、ほむらが目を輝かせながら言う。

「えー、佐倉さんの制服姿、かわいいじゃないですか!」

「ありがとうよ、ほむら」

杏子はほむらの方を向いて、服と合わないきりっとした表情で答えた。

「なんだか扱いが違うなぁ……」

「おまえが、この事態の首謀者だからだろ! 美樹さやか!」

「あんたは、感謝という言葉を知らないの? 佐倉杏子!」

「そもそも、おまえ、絶、対、この制服のこと、わざと、黙って、紹介しただろ?」

「えー、説明を省いただけだよ、わたしは」

少し怒った杏子にしれっと答えるさやか。そのさやかが反論を続けようとした時、杏子は女性店長に呼ばれた。

「佐倉さーん、レジお願い!」

「はい、わかりました店長!……くっそう、覚えてろよ」

捨て台詞を残して去っていく杏子に、ほむらはちょっと残念そうな声で言った。

「佐倉さん、とっても似合っていてかわいいのに……」

「杏子は自分がかわいいっていう自覚がないからさ。まあ、あんまりああいう格好をした事なかったみたいだから、ちゃんと説明しなかったのは悪かったなあ、とは思っているけどね、わたしも」

そう答えたさやかに、ほむらはちょっと意地悪く聞いてみたくなった。

「本当に悪かったと思ってる?」

「本当に思ってるって」

メニューを眺めながら反論するさやかに、ほむらは

「その割には機会があれば冷やかしに来て、にやにや眺めてい

る気がするけどなあ……」

と、疑いの目を向ける。さやかはメニューから目を上げると、ニッコリして、

「だって、かわいいじゃん。杏子が照れるところ」

と強調した。ほむらは、その発言に不本意ながら同意した。

さやかはメニューをたたみつつ、話題を変える。

「ま、それはおいといて。何頼むか決まった?」

その言葉を聞いて、ほむらは突然気がついた。

「え? あ! メニューみるの忘れてた! ごめん!」

「ははははは……やっぱり」

まあ、いつものことだから、と、さやかは一生懸命メニュー

を見て選んでいるほむらを、微笑ましく見ていた。

 

 

「ふー、やっぱりここのご飯はおいしいや」

「……うん、そうだね」

ほむらはそう答えたが、さやかは、ほむらの反応がちょっと、悪かったように感じた。

「ん? どうしたの?」

さりげなく聞いたさやかの言葉に、ほむらは少し躊躇しながら答えた。

「私、ずっと謝りたくて……ごめんね、さやか」

「? 何を?」

「私、この街に、他にも魔法少女がいるって知らなくて……魔獣を見つけても、自分の都合や実力によっては、倒さなくていいって知らなくて……」

思い詰めた表情のほむらに、さやかは優しい表情で返す。

「……あの日のこと?」

「……うん……」

うなだれるほむらを見て、さやかはわざと明るい声で答えた。

「だ・か・ら。わたしはなるべくして魔法少女になったの。ほむらが気にやむこと、ないんだよ」

「でも……」

眉間にしわを寄せて考えたさやかは、まじめな顔で続ける。

「んー。じゃあこう言い換える。ほむら、私が魔法少女になるきっかけをくれて、ありがとう」

最後は、ぱぁっと明るい笑顔で言う。

「え?」

「だって、わたし、魔法少女になったから、万一の時でも、ほむらのこと覚えていられるもん。自分が円環の理に導かれるまで、と言うか、多分導かれた後も、絶対に、ほむらのことを忘れないでいられるもん」

「さやか……」

ほむらは嬉しいような、悲しいような、複雑な顔をした。さやかは、ちょっと照れた表情になって続けた。

「まあ、それもいつか、私達が、それぞれ一人前になってからする心配だろうけどね。今は二人で一人前(ニコイチ)の仮免許魔法少女だから、自分が先に逝かないよう頑張らなきゃね。一応わたしは妹弟子だし」

そのおどけた言葉を聞いて、ほむらはすっと心が軽くなった気がした。

「そうだね。今はまだ、二人三脚だから、私が危ない時にはさやかに助けてもらえるし、さやかが危ない時には私が助けられるもんね」

「うん。わたし、今までずっと、自分が、誰かのことを守らなきゃいけないって考えて、気を張って生きてきた気がする。でも最近、守られる、って、それはそれで気持ちいいなあって、そう思うんだ」

「私こそ、ある時はさやかに守られて、またある時はさやかを守れるって、すごく嬉しい」

「あ、そうだ。お互いにさ、独り立ちしてもこのまま一緒にチーム組もうよ。そりゃ大きくは、巴マミ門下生なんだけど、ほら、ユニット内ユニットみたいな……」

「そんな、アイドルグループじゃないんだから……でも、そうだね。ずっと共同戦線張れたら、きっとおばあちゃんまで完走できるね、私達」

二人はニッコリと微笑みを返し合った。ところがそんな二人に横から声をかける人物が来た。

「えーー、お話が盛り上がっているところ申し訳ありませんが、お客様」

振り向くと腰に手を当てた杏子が立っていた。

「あ」

「な、何よ杏子」

さやかは怪訝な顔をする。

「閉店のお時間を過ぎておりますので…………おまえら何時間しゃべってるんだよ全く。子供は早く帰れ!」

杏子はあくまで丁寧に……とは行かなくて、最後はくだけた口調でそう言った。驚いて、さやかは自分の腕時計を見た。顔が青ざめる。

「あ、うわーやばい! お母さんに怒られる!」

「さやか、代金立て替えておくから、すぐに帰って」

気を利かせたほむらの提案に、さやかは両手を合わせてわびながら、荷物を慌ててつかむと席を立った。

「ほむらごめん、明日学校で返すから!」

「いいのいいの。いつでも会えるし」

手を振りながら店を出て行くさやかに、手を振り替えした後、ほむらは鞄から財布を出しながら、杏子にお詫びをした。

「佐倉さんごめんね、すぐ支払いに行くね」

「レジ締めちまったから、テーブル会計でいいよ」

そう言って、杏子はレシートを見せた。ほむらは取り出した財布から小銭を一生懸命探した後、再度数えて杏子にお札とともに差し出した。

「じゃあ、これ。ぴったりあると思うけど」

その様子を見ていた杏子は、思わず感想を漏らした。

「ほむら、おまえ財布でかいな……って言うか小銭すごいな」

「え? そうかな、なんか変?」

「花の女子中学生の財布はもっと慎ましやかであるべきだぞ」

「そうなの?」

「そうそう」

「これは普段用のだから、ポイントカードとかいっぱい入ってるし……。お出かけ用のは、ちゃんとかわいいのを、仁美ちゃんと一緒に選んであるの」

聞き慣れない人名に、杏子は聞き返す。

「仁美? ああ、クラスメートか」

「そうそう。親友三人組。おばあちゃんになるまで、ずっとずっと仲良くしようって、そう決めてるの。さやか含めた三人で」

楽しそうに答えるほむらを見て、杏子の表情は曇った。

「……ほむら。魔法少女家業ってのは、そんなに甘いもんじゃねえぞ……」

あまり言いたくはない。だがそれを言わなければ、ほむら自身が後悔する羽目になる。そんな杏子の思いを、ほむらは受け取りつつ、だがそれを否定したい気持ちを捨てきれない。

「……決めたんだもん。だから、わたしもさやかも、絶対に導かれたりしないもん!」

ほむらの真剣で、ある意味悲壮感のある訴えを聞いて、杏子は、今のほむらにそれを理解してもらうのは、無理だと悟った。

「……。まあ、こう言うのは体験しないと本当の意味で理解は出来ねえからな……」

体験? 佐倉さんはそう言う体験をしていると言うこと?

ほむらは自分の決意が、彼女の大事な思い出を傷つけたのではないかと思い、不安になった。

「佐倉さん……誰か大事な人を?」

杏子はハッとして、苦笑しながらはぐらかした。

「さあな……まあ、そんなこともあったのかもな」

ほむらは、やはり杏子の心のとげに触れてしまったのだと思い、悲しくなった。でも、自分達がした約束も、自分にとっては大事なモノだと言うことを知ってもらいたかった。

「……ごめんなさい、私、私。でも自分達は絶対に完走するって、それが、その決意が私の心を支えてるから……だからごめんなさい」

悲しそうに、だけれども誠実に、打ち明けてきたほむらに対して、杏子は少し心が温まる思いがした。

「……おまえの話を聞いていると、おまえ達なら、もしかしたら完走できるんじゃないかって、そう思えちまうな。全く。……まあ、がんばんな」

そう、励ましてやることしか出来ない。それは少し悲しいことかも知れない、杏子がそう思った時、ほむらは杏子が思っていなかったような言葉を発した。

「佐倉さんだって、巴先輩だって完走するもん! 私達みんなで完走するもん!」

杏子は驚いて、そして微笑んだ。

「ほむら……ありがとうな。そうなればいいな、本当に」

心の底から、そうなればいいと最後に思ったのは、一体どれくらい前だろう。杏子は振り返った。と同時に、思わず本音を言ってしまったのが照れくさくなって来た。

「あと」

と、付け加える。

「おまえ、また巴先輩って言ったろ。マミに叱られるぞ」

ほむらはしまった、と言う顔をした。そして慌てて言い訳をした。

「……巴、さん、って呼ぶのは、まだなんか違和感があって」

杏子は諭すように言った。

「魔法少女には、キャリアだとか、年齢だとか、師弟だとかは関係ない。今その瞬間に力をどれだけ発揮できるか、それが全てだ。そう言う意味では、みんな対等なパートナーなんだ。自分の責任は自分で取れ。そう言いたいんだよマミは」

「自分の責任は自分で……」

「おまえ等はまだニコイチ(二人で一人前)だから共同責任だけどな。だけど、

いつか、自分自身の判断で、決断を迫られる時が来る。その時、先輩の意見だからとか、そう言う逃げ道はむしろじゃまになる。そう言うことさ」

杏子はほむらが机においた代金を回収すると、うつむいて言葉が出ないほむらの肩をぽんっとたたいて励ました。

「まあ、うちに帰ってよく考えな。おばあちゃんになるまで生き残りたいんなら、なおさら、な」

 

【続きは頒布版にて】

 


 
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