第33弾 進みだす時間
詩乃Side
昨日の夜、ずっと想い続けていた景一と恋人同士になることができた。
それが凄く嬉しくて、夢見心地でベッドで眠って、本当は夢だったのかもとか思ったけど、
朝になって彼に聞いたら、微笑みながらキスされて、こんな幸せでいいんだって思えてきた。
火曜日の今日も学校へと登校して、意外だったのは一昨日の事件について誰も話していなかったこと。
もしかしたら、情報統制みたいなものが敷かれたのかもしれない。
そして授業も終わった放課後、本当は昨日も遠藤達から呼び出しをくらっていたけど、
事情聴取やらで行けなかった為、また今日も呼ばれたわけでして、
そんなアイツらを待ってやってあげている…ホント、面倒臭いやつら。
そして校舎の裏側、花壇の近くで待っていると遠藤達がやってきた。
「呼び出しておいて待たせないで。こっちはアンタ達みたいに暇じゃないの」
「朝田さぁ、最近調子に乗り過ぎなんですけどぉ~」
「友達に向かってひどくなぁーい?」
言ってやれば取り巻き2人が喚く。
「まぁ友達なんだから何でも言えばいいって…そん代わり、いまアタシら困っててさぁ。2万、貸してよ」
「はぁ~……前にも言ったわよね?アンタ達みたいなのに貸すお金はないって」
遠藤の言葉に防弾眼鏡を外しながら睨みつけると、一瞬怯んでからそれでも眼を細め、声を一段低くしてから告げてきた。
「チョーシくれてんじゃねぇよ。今日は兄貴からマジで借りてきてんだからなぁ、泣かしてやる」
「泣かしてみれば?」
挑発しながらそう言えば、遠藤は多量のマスコットが付いた通学鞄の中からモデルガンを取り出した。
へぇ、ホントに持ってきたんだ…。
「段ボールとか穴開けられんだよ、だから人に向けんなって言われてんだけどさぁ。ま、朝田は平気だよな?」
「っ…」
さすがに、まだ辛いなぁ…だけど、こんなものじゃ逃げられない。
それに、こんな時よりも、ケイを傷つけてしまった時や死銃と戦った時の方がずっと怖かった。
そのお陰か、少しずつモデルガンを見据える事ができた。
そして気付いた、今のこのモデルガンじゃ撃つことは出来ない、と…。
暴力に酔いしれている遠藤は気付かないまま、私の足へと銃口を向けた。
「は、泣きなよ、朝田ぁ」
そう言った彼女はモデルガンの引き金を引いた…けれど、弾は出なかった。
プラスチックの軋む音がするだけで、一向に弾は出ない。
焦る遠藤、私は口角を吊り上げて彼女に近づき、私の表情に驚いたところで銃を軽く奪い取った。
「『1911ガバメント』か、お兄さんは渋い趣味みたいね…。
これはサムセーフティの他にグリップセーフティもあるから…こことここを解除しないと使えないの。
あとは、シングルアクションだから最初は自分でコッキングしないとダメよ?」
私は説明してあげながらテキパキと2つの安全装置の解除とハンマーを起こす。
呆然としながら私を見ている遠藤達を無視して、
近くにあった引っくり返されているポリバケツの上にある空き缶に向けて銃口を定める。
アイソセレス・スタンスで構え、息を溜めてからトリガーを引き絞り、小さなオレンジの弾が放出された。
クセがどんなものか分からないから外すと思ったけれど、運よく空き缶に命中して倒すことができた。
そのまま笑みを浮かべて遠藤達を見つめる。
「「ひっ…」」
「や、やめっ…」
「…そうね、人には向けないって約束するなら、ね…」
取り巻き2人と遠藤が小さな悲鳴とうめき声を上げ、私が言えばすぐさま3人揃って頷き、
それを確認してからハンマーをデコックし、セーフティを元に戻し、怯える遠藤にガバメントを渡した。
「それじゃあ私は帰るけど…あぁ、そうそう。
モデルガンを持っているのが貴方のお兄さんだけだと思わない方がいいわよ?
これでも私、銃に詳しいんだから」
敢えて思わせぶりな言葉を告げながら彼女達へと振り返り、
「じゃあね」
短くそう言ってから私はこの場を離れた。
「ふぅ…さすがに、まだ難しいかな…」
ゆっくりと壁に軽く手を当てながら歩き、体の感覚が完全に治ってから校門へと向かって歩いた。
眼鏡を掛け直し、改めて考えるとやりすぎたかな~と思ったり。
それでも、自分の周りを壊されるよりかはマシね。
正門前に着いた時にあることに気が付いた、幾つかの女子の集団が足を止めて、
校門の方へと視線を投げかけながら何事かと話している。
その集団の中に、クラスメイトでそこそこ仲の良い2人の女子を見つけたので声を掛けた。
「どうかしたの?」
「朝田さん、いま帰り?」
「うん。それで、なにがあったの?」
「ああ、そうそう。校門のところにね、この辺の学校の制服じゃない生徒がいるの。
バイク停めて、ヘルメットを2つ持って、あと髪をポニーテールにしてたよ」
ま、まさか……ある予感が過ぎり、時計を確認。既に時間を超えていた、彼が迎えに来る時間を…!
ゆっくりと、気付かれないように塀の陰から覗いてみると…予想的中、彼だ。
「……ふぅ……ん? 詩乃」
「ひゃっ///!?」
小さく息を吐いた彼、ケイがこっちを見て視線が絡み、
ほぼ確信の篭った声でそう呼んだので変な声を出してしまった。
みんなの視線が彼と私の間を行き来していて、2人も驚いた表情をしている。
ケイは気にした様子も見せずに、私の側へと歩み寄ってきた。
「……少し遅かったみたいだから、学校まで迎えに来たんだが…迷惑だったか?」
「や、あ、その…ぜんぜん、そんなことない…//////」
女子生徒達は戸惑いから唖然の表情へと変わった。
それはそうだろう、私の過去を知っている人が多い中、
その私の傍に客観的に見てかなりイケメンの他校の男子が来たらそういう反応をするのが正しい。
「え? え? 朝田さん、知り合い?」
「う、うん…まぁ…///」
正気に戻った娘から聞かれたけれど、まさか彼氏だなんてこんな観衆の前で言える訳が、
「……知り合いというより、彼氏だ」
「……………」
「「「「「……えぇぇぇぇぇっ!?」」」」」
ないと思ったのに、ケイが思いきり言い切った、しかも表情どころか眉1つ動かすことなく。
みんなは絶叫…は、恥ずかしい…///
「……すまないが、これから用事があるんだ。詩乃を良いだろうか?」
「は、はい、勿論、どうぞどうぞ!」
彼に訊ねられたことでもう1人の娘が私の背中を押して、ケイの前に出された。
「……それでは行こう」
「えぇ…///」
さらにケイに手を繋がれてしまった。も、もう恥ずかしくて、明日は学校に行けない///
「さよなら~、朝田さ~ん!」
「明日、話し聞かせてねー!」
仲の良い2人に背後からそう言われた、明日なんて説明しよう…。
バイクの側についてからリアシートに跨り、ヘルメットを1つ受け取って被った。
「……こうも注目されるものなのか?」
「校門の前に他校の生徒がバイクで乗りつけていたら、普通はこういう反応だと思うけど///」
「……そういうものか…」
ケイもヘルメットを被ってバイクに跨り、エンジンを掛けた。
すると何かを思い出したのか、振り返って私に声を掛けてきた。
「……詩乃、スカートは大丈夫か?」
「体育用のスパッツ履いてるから、平気よ」
「……例えスパッツでも、彼氏としては他の男に見られるのはあまりいいものではないのだが…」
驚いた、ケイはこんなことを言うなんて。
これはもしかしたら、意趣返しが出来るかもと思って言葉にしてみる。
「嫉妬? ケイって、独占欲強いの?」
「……否定はしない。いや、そうだな…独占欲は強いな、詩乃にだけだが…」
「っ///!? そ、そういうの、ずるいと思う…//////」
「……それも否定しない」
「ばか…///」
まさかこんな風に返されるなんて、なんだかリードばっかりされてる気がする。
「……しっかり掴まってくれ」
「ん///」
こうなったら自棄だ。しっかりとケイの背中にしがみ付く、もうぎゅうっと…。
羞恥なんて知らない/// そしてケイがバイクを動かし、私達は道路を駆け抜けた。
だけどこの時、ヘルメットで見えなかったけど、ケイが顔を紅くしていたのを私は知らない。
まさか、胸が当たっていたなんて…。
ケイに連れて来られたのは、まさかの高級な喫茶店だった。
「いらっしゃいませ、2名様でしょうか?」
「……いえ、あそこの席と待ち合わせです」
ケイが示した方向には既に人が3人座っていた。
彼とともにウェイターに案内されると、そこには眼鏡を掛けたスーツの男性と…。
「や、朝田さん」
「やっほ、詩乃ちゃん」
「桐ヶ谷君と明日奈? どうして、ここに2人が…」
眼鏡の男性はケイから聞かされたお役人さんだと思うけど、
何故2人がと思ったところで1つの考えにいきついた。
ハジメがケイだったのなら、もしかして…。
「もしかして、キリトとアスナ…?」
「改めて…キリトこと桐ヶ谷和人、よろしく」
「ふふ。アスナこと結城明日奈です、よろしくね♪」
まさかの展開だった、いや…ケイがハジメだった時点で気付くべきだったのかもしれないけど。
窓際テーブル席、男性の隣にキリトが座ってキリトの正面にアスナ、
彼女の隣に私が座って、その隣の男性の正面にケイが座った。
「みんな揃ったね。遠慮しないで好きな物を頼んでいいよ」
そう言われてアスナとメニューを覗き込んでみてギョッとした。
デザートが全部4桁の数字って…アスナを見ても私と似たような反応、
お嬢様であってもさすがにこの値段だと戸惑うのかも…。
「俺は『りんごのシブースト』と『モンブラン』、あと『エスプレッソ』」
「……私は『シュー・ア・ラ・クレーム』、『フランボワズのミルフィーユ』、それとハーブティの『セージ』を」
キリトとケイは遠慮無用で頼んでいる。
「じゃ、じゃあわたしは『パルフェ・オ・ショコラ』と『アールグレイ』を…」
「私は、『レアチーズケーキ・クランベリーソース』と『アールグレイ』で…」
「かしこまりました」
ウェイターは注文を聞き終えると、丁寧に腰を折ってから立ち去った。
なんだか恐ろしい金額の注文になったような気がするけれど、気にしない方がいいのかもしれない。
そして眼鏡の男性はスーツのポケットから黒革のケースを取り出して、私に名刺を渡してきた。
「はじめまして。僕は総務省通信基盤局の菊岡と言います」
「は、はじめまして。朝田詩乃です…」
この菊岡さんこそ、今回ハジメ達に依頼をした張本人で、事件の顛末を知る人らしい。
詩乃Side Out
To be continued……
後書きです。
復活した詩乃ちゃん無双による遠藤達へのおどs、ゲフン・・・警告w
そして景一と詩乃ちゃんのイチャつき、うん最高だw
今回はこんな感じでやっちゃった感もあるけど、反省も後悔もしていない!
次回は事件の顛末説明回、原作未読の方の為に簡単ながら纏めさせていただきました。
残るは2話、このあとの話もお楽しみに。
それでは・・・。
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第33弾です。
ようやく進みだす詩乃自身の時間、詩乃ちゃん無双w
どうぞ・・・。