No.592306

話題のいろいろ日中SF

藤居義将さん

DLサイトで小説「平成維新の風」として販売しています。http://www.dlsite.com/home/work/=/product_id/RJ129587.html
HP[ふじさんの漫画研究所」http://book.geocities.jp/hujisam88/index.html
これを書いたのは平成25年4月です。当時はかなり現実離れした話と思いましたが、最近は現実がこれに近づいている感じです。あの○山氏が世間で大暴れしているので、投稿しました。SFがなんとなくノンフィクションに近づいています?近日同人誌になります。
[自衛隊支援]領域侵犯、レーダー照射...立ち上がれニッポン!
http://www.youtube.com/watch?v=akldJ1k937Q

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2013-06-29 08:54:37 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:1037   閲覧ユーザー数:1034

《それまでのあらすじ》

「平成維新の風」は幕末の倒幕運動を現在に置き換えたストーリーだ。日本が独裁者に支配され、そこから、日本を取り戻すまでの歴史SF作品だ。

近未来の日本は、政権交代によって出来た、鷲山代表の「慈愛党」にとって代わられる。ところが、政権についた鷲山は、次々と憲法改正を行い、日本を独裁国家に変えてしまう。

さらに宇宙人の異名を持つ、鷲山は自分の趣味で、第二次大戦のドイツを見習い、「全権委任法」を国会に通し、自分は総統になった。国会を解散の上、自衛隊をJSS(内閣付親衛隊)に改編した。

しかし、独裁者が日本を私するのに見かねた動きが始まった。その中心になったのは、国を憂う坂本良馬だった。かれは土佐の小さな商社から身を起こし、ついには自衛隊御用達の、屈指の軍事産業グループに成長させた。その巨大企業グループを「海援グループ」といった。その彼が、秘密裏に「打倒鷲山」勢力の結集を図った。

かれは中心人物となる高貴なお方「姫様」を擁立しようとした。姫様は日本の中心人物だが、作品では最後まで「正体不明」だ。

かれは、姫様をトップとする「ネオ皇軍」を立ちあげた。これが、「賊軍」の鷲山軍のJSSと対決する。

鷲山支配に抵抗していた九州を鷲山の命令で討伐軍が結成された。九州自衛隊第4師団長の西郷隆守は徹底抗戦をする。第十三師団長・木戸孝好と手を結び、遂には九州を解放する。そんな中、鷲山は近隣の大漢人民共和国と南朝民国と「新三国同盟」結ぶ。「アジア慈愛協定」により、沖縄、対馬をそれぞれ割譲し、領土問題の解決を図る。

 

八月十五日

 

尖閣沖でパトロール中の海上保安庁「よなくに」はこちらに向かってくる大船団を捉えた。

「船長。無数の不明艦が接近中です。いかがしましょう。」

船長はレーダーのそばに来た。無数の光点が光っている。

「大艦隊だ・・・まさか・・・」

「何も聞いてませんよ。侵略だ!われわれの手に負えない!JSS本部に連絡を!」

と言って副官はすぐに打電した。返事はあまりに意外なものだった。

“敬礼してやり過ごせ!”

この返電には船長は呆然とした。

「なんだ、これは・・・命令の域を超えている。」

副官も思わず

「政府は何を考えている!明け渡せとでも言うのか!」

彼らは、既に沖縄の放棄の密約を結んでいたのだ。

そのうち、大漢の海軍が迫った。

「邪魔だ。道を譲れ!」

と打診してきた。上陸艇などの軍用艦だけでなく、旅客船が多数を占めている。侵攻するには無用心という他ない。というか、日本の「無抵抗」を確信している現れだ。堂々と港に着岸するつもりだった。もっとも、海軍力から見れば当然の構成といえばそうだがが・・・。

大漢の大群を横目に見ながら副官は震っていた。

「あの政府になってから、このザマだ!我々は何のためにいるんですか」

船長は、無言で船長の椅子に座り目を閉じていた。苦悶の表情に満ちている。

「我々は国民とその財産の安全のため、ここにいるのだ・・・」

独り言のように言うと目を見開いて言った。

「佐世保に救援要請!敵対勢力が多数尖閣水域に侵入!」

その場が凍った。佐世保は海上自衛隊の基地だ。海上自衛隊は反逆軍になっている。しかし、このままでは大漢の敵対勢力にすべて奪われてしまう。この救援要請は政府への反逆になる。

「船長!」

「我々ができることはこれだけだ!政府が何を言おうが 俺たちは信念に基づき行動する!」

 

その一報は佐世保に伝わった。九州からJSSが一掃された直後だ。予期していたとは言え、あまりに露骨な反応に皆が憤慨した。

「鷲山は沖縄を売ったぞ!」

部下が蜂の巣を叩いたように騒然する中、司令官の伊地知海将は冷静であろうとした。

「それは間違いないのだな。」

「海上保安庁の巡視船『よなくに』からの救援要請です。」

伊地知は考え事をしている。海上保安庁は鷲山の組織なので敵になる。たしかに敵の敵となる。しかし、そもそも、我々を求めるのは日本人としての判断ではないのか?JSSは無抵抗という話だ。

「今、南方にはどの艦艇がいる?」

「イージス艦『ながと』と2隻の護衛艦です。」

伊地知は決断したようだった。

「事実を確認させろ。それから、在沖縄アメリカ軍にこの事態を通達!それから・・・」

本来自衛権発動するかどうかは、日本政府の首相の命令だが、いまは、そんなものは消え去っていた。いまの九州は西郷司令とするネオ皇軍の傘下だ。

「陸自はネオ皇軍という組織になったが、我々はどうすべきか。」

副司令は

「西郷司令によると、ネオ皇軍は極めて正当な方がトップになっているとか。」

「しかし、正体不明の姫様とはいかがなものか。」

「あの西郷司令が名を連ねています。海援グループがついているそうですから、補給も解決します。それに我々に選択枝はありません。決断してください。侵略者の横暴を黙っているのですか?沖縄の住人の命は?今の我々は九州の指揮下に入るべきです。」

「わかった。西郷司令にネオ皇軍に合流するといえ!そして防衛活動に入ると通達してくれ!第2護衛艦隊出動準備!」

伊地知の腹は決まった。我々は沖縄を防衛する。

「『ながと』に派遣命令!ただし、本格的な戦闘はアメリカとの協議の上だ。沖縄は我々の領地だ。沖縄を守れ!」

 

沖縄の嘉手納基地の在日米軍だ。基地の周りはデモ隊でいっぱいになっている。

「琉球是大汉的领土(琉球は大漢の領土だ)」

「侵略者的日本人,美军出去!(侵略者の日本人、米軍は出て行け!)」

「从今天开始这里不是冲绳县,而是琉球省!(今日からここは沖縄県ではなく、琉球省だ)」

「大汉人民军,热烈欢迎(大漢人民軍、熱烈歓迎)」

プラカードを掲げた住人が基地を囲んでいる。過去の揉めた問題の怒りのようだった。まるで解放軍でも来たかのようだ。

「やつら本気ですかね?」

アメリカ、第18航空団のトンプソン少尉は窓を見ながら言った。

「馬鹿言えっ!大漢の策に決まっているんだろ?お得意の自作自演だ。」

コーヒーをすすりながらコックス大尉は答えた。

「しかし、安保条約が破棄されて、大漢の艦隊が来ているってのに、日本政府は沖縄を放棄したって本当ですか?」

「その話は本当だ。上はまともな日本側の責任者が不在なので困っている。それにしても日本は馬鹿な指導者をつけたものだよ。しかし、こんなデモ程度で俺たちはクビにならん。」

ジョーク的に言った。

「大漢の艦隊を阻止する命令は、いつ出るんでしょうか・・・」

「大統領が直接、大漢の国家主席に電話で交渉しているらしいぜ。」

「それでなんと・・・」

「アジアの問題に口出すな・・・内政干渉だ・・・」

「支離滅裂だ・・・だから信用できない・・・」

若いトンプソン少尉はうんざりした顔になった。

「展開している第7艦隊の警告を無視しし、上陸態勢になったら、戦闘が始まるだろうな・・・」

「俺たちも第一臨戦態勢だ・・・」

トンプソン少尉もコックス大尉もいまは見ているしかなかった。

 

第7機動艦隊、旗艦の戦艦アイオワに乗艦の太平洋艦隊司令官、トーマス・C・キンケイド中将は本国からの指令を待っていた。きな臭いアジア方面に、退役したアイオワを再び現役復帰していた。この機動部隊には原子力空母・ジェラルド・R・フォードという最新空母が配備されていた。この空母は革新的な空母で無人攻撃機(UCAV)を多数載せていた。すでに航空機は人間の乗らない時代に突入していた。

A―47はX―47として開発された、無人のステルス攻撃機が正式採用されたのだ。採用したばかりの多くの無人機のA―47攻撃機が一際目を引く。すでに実戦配備していた。

「何をやっているんだ。このままでは日本の巻き添えになるぞ。」

司令はこの軍事衝突寸前の状況はあまり好ましく思わなかった。アメリカにすれば日本と大漢の決め事、しかも、アメリカをフッたわけだ。日本人に始末させれば良い、そうおもっていた。大国同士の喧嘩にせず、沖縄や日本から米軍は引き上げればいいと思っていた。だから迎撃命令がでないことを祈った。

「日本のために合衆国の若者の命を危険に晒せるかっ!ましてあんな愚かな日本の指導者の決め事に付き合えるか!」

部下に少々当たり散らしていた。部下もほとんど同じ意見だった。

「前方から大漢海軍きます・・・」

司令部は静まり返り、ただカタカタと電算の音だけ聞こえる。大規模な海軍の艦隊と対峙するのも太平洋戦争以来だ。もし、大漢が本気で戦争しかければ、世界大戦が現実化する。まさに今はその瀬戸際だ。

(なにも日本なんかに、合衆国の運命を預ける必要はない。)

キンケイドは思った。

「敵艦は空母1駆逐艦5フリゲート艦7。あと上陸艦7大型旅客船10。」

レーダー員は司令に報告した。旅客船というのが大漢の本音を表していた。まともに米軍と戦う意思はない。それに使えるものは何でも使う。

「いくらなんでも俺たちに牙をむく気はあるまい。」

キンケイドは思った。すると大漢艦隊から通信が来た。

「われ、大漢人民解放軍海軍。自国領海を航行中。アメリカ艦隊に告ぐ。貴艦隊は我が領海に侵犯している。直ちに琉球海域より退散せよ。発 大漢人民軍北海艦隊司令長官 上将 楊炳徳(ヨウヘイトク)」

沖縄は琉球に改められていた。キンケイド中将の顔が曇った。

「沖縄は日本の領土だろ!何を言っている!」

息巻く隊員もいたが

「いや、警告に従い、この海域を出よう!」

司令はあっさり艦隊に海域の離脱を指令した。その司令の命令にその場の参謀は押し黙ってしまった。

 

九州のネオ皇軍司令部で、西郷はある返事を待っていた。既にネオ皇軍の司令となった西郷は、陸海空軍の指揮権を持っていた。佐世保の佐世保基地も、ネオ皇軍に合流した。どうもアメリカ軍は大漢の艦隊に戦いを仕掛けることはなさそうだ。トップのいない我々より、正式な鷲山の交渉結果をとるのは無理もない。少なくとも安保は発動しなかった。

「司令!まだですか。」

大久保は言う。

「このままでは沖縄は奴らに奪われます。」

西郷は目をつぶっている。

「待つんだ。今はそれしかない。」

 

そのころイージス艦「長門(NJA呼称に変更)」の甲板で石倉中尉はやきもきしていた。この段階でネオ皇軍となっていたが、名前以外何も変わっていなかった。

「アメリカはなぜ動かないんだ。俺たちだけでは勝てない。」

石倉はやや興奮していた。日本の危機の前に米軍は反転離脱したのだ。

「奴らだって人の喧嘩は迷惑ですよ。」

井戸田軍曹が答えた。

「鷲山は俺たちの国を売ろうとしているんだぞ。」

井戸田は石倉ほど熱くはなかった

「アメリカから見れば、それこそが『日本人の選択』でしょ。アジアの隣人と仲良くしたい、っていう鷲山の言い草だって筋が通っています。」

石倉はジロジロ井戸田の顔を見る。

「お前、本気じゃないだろうな?」

井戸田は若いので、あんまりこの話は好きじゃないと見えて、ちょっと顔をしかめた。

「自分だって国防をやってます。勝手にいじくられて、気分がいいわけありません。」

本音だろうが、第二護衛艦隊、本体の来るのには時間がかかるし、俺たちは遠巻きに侵略を見ているだけだ。そう考えると、国防って何なんだろうと石倉は思った。おそらく、沖縄のJSSは無抵抗で、米軍は撤退。半世紀に及ぶアメリカ進駐は終わりを告げるだろう。

 

同じ時刻、バラク・バハマ米大統領はある人物と電話会談していた。日本の政商・サカモトという人物から、上院の有力議員を通して、ある人物と、危機的な日本情勢打破のための会談を、申し込まれていた。

「日本の代表者ではない。」

と言って断っていた大統領であったが、大漢の沖縄上陸が本気であるとわかると、危機感を持っていた。大漢は二国間の合意を盾に、国連でも、アメリカの直接交渉でも聞く耳がなかった。もし、日本が本当に新三国同盟するとなると、大漢の暴走を止めることができなくなるからだ。しかも、あの南朝までもが加わっている。いったいどうすればいいのか。アメリカは、南朝の日本嫌悪は邪魔だと思っても、もうどうにもできない。民族意識の根深さを思い知らされた。

このままでは、もめていた南沙諸島問題もアメリカだけで止められない。アメリカはアジアから締め出される。

そこで大統領はサカモトなる人物と交渉することにした。この人物は知らないが世界戦略に関わる局面だ。

「この人物が日本のなんだと言うんだ・・・」

坂本は財界の有名人ではあるが、政治家ではない。大統領はしぶしぶ会談を始めた。坂本は言った。

「日本の代表者・姫様とお話いただきたい。」

「姫様とはなんだ。私は日本の代表はワシヤマと認識している。」

「いえ。姫様はあなたが、お会いになったことのあるお方です。」

「????」

アメリカの大統領が会える人物はそういない。国賓クラスのみだ。相手が変わると、その意味することを飲み込んだ。確かにお会いした。でも、いいのか?姫様という人物なら良いのだろう。憲法上の問題だ。

「今、日本が侵略を受けています。安保を発動していただきたい。日本の軍隊だけでは戦えません。」

姫様の人物がわかると交渉はスピーディーだった。

「しかし、日本にはワシヤマという総統がいます。」

「あれは私のミスです。あの人物は約束を違えました。わたしはもう認めません!」

この発言はすごく重い意味を持っていた。首相を承認する人物が言うのだ。今の日本政府は偽物と決まった瞬間だ。

「了解しました。合衆国はあなたを日本の代表と認めます。姫様、でしたな。本当にそれでいいのですか?」

「これでよいのです・・・」

バハマは姫様の思いに感じ入った。

「今、状況は深刻です。既に尖閣は大漢に上陸され、基地化しているとのこと。我々は上陸していない沖縄の上陸を阻止します。安保に基づき、全軍に日本の敵の排除を合衆国は命令します。」

「ありがとうございます。」

電話会談は意外とあっさり終わった。坂本はほっと肩の力が抜けた。

(これでなんとかなる・・・)

最後に大統領に姫さまがおっしゃった。

「日本を救ってください・・・」

坂本は姫様のご本心と思った。

 

福岡にあるネオ皇軍総司令部の電話が鳴った。大久保はすぐに受話器を取る

「・・・・はい、はい。司令に繋ぎます。」

大久保は西郷に電話を促す。

「はい、西郷です。」

「坂本です。交渉は成功です。大統領は姫様を日本の代表と認めました。安保発動です。」

「そうか!これでなんとかなる!上陸前に追い返せれば、侵略を挫くことができる。」

嬉々として電話をおいた。

「伊地知中将に連絡!安保は発動した!イージス艦『長門』を米軍に合流させよ!」

重苦しかった司令部が明るくなった。

「なんとか間に合いそうですね。パワーバランスで言えば米軍が参加すれば、大漢といえども、容易に上陸できますまい。」

しかし、一転して西郷の顔が曇った。

「それなんだよ。あまりに戦力差がありすぎる。大漢の勝ったような余裕はなんだ?あっという間に覆るかも知れないのに、どうして上陸部隊の支援が手薄なのだ?何かあるかも知れない。」

ちょっと神経質じゃないのかと思う大久保だが、深慮の司令官の直感は大事にしないといけない。西郷はふと思い出したように言った。

「呉の秘匿兵器はどこまで進んだのか!」

木戸の秘匿兵器が沖縄へ救援に向かっているのだった。80年ぶりの沖縄救援、まさに再現されていた。

 

九月三日

 

北海艦隊司令 楊炳徳(ヨウヘイトク)上将は軍本部から緊急電が送られた。アメリカが安保を発動し、沖縄から我が軍の排除を狙っていることだった。

副司令官 馬又侠(バヨウギョウ) 中将は心配していた。

「琉球の地上軍は無抵抗でも、米軍に遮られれば上陸はできません。われわれの戦力では・・・」

「何を弱気な。我々は誰だ。世界一の軍隊だぞ。ぬかりはない。ふふふ・・・」

楊は余裕だった。

「港までどれぐらいだ。」

「およそ10時間です。」

沖縄は目と鼻の先だった。

 

アメリカ大統領バラク・バハマは日米同盟の確認と、安保発動を世界に発信した。同時に真日本国の首相・伊東博文も沖縄防衛のため、大漢人民共和国に自衛権発動を通告した。真日本国とは、姫様がお作りになられた、国家だ。その国防軍がネオ皇軍であり、その初代総理大臣に伊東博文が任じられていた。

驚いたのは劉国家主席だった。

「なんだ?真日本国とは。もしやアメリカの傀儡か?」

真日本国とは聞いたことがない。しかもアメリカが認証したというから驚いた。同時に今の日本政府に対する認証を取り消したというのだ。国連加盟国の日本国が国際社会で宙に浮いた。それと同時に真日本国に伊東博文という首相が天皇陛下の任命式を受け、真日本国初代総理大臣に就任した。鷲山の任命は取り消された。

「一体何が起こっているんだ・・・」

劉は大漢の国連大使を呼びつけた。

「偽物の真日本国と名乗る者が暗躍している。我が琉球の支配を脅かそうとしている。すぐに国連の安保理を緊急招集しろ!アメリカの不正の糾弾と、真日本国とやらへの国連軍派遣を要請しろ!」

大漢は初めてアメリカを非難決議できるチャンスを得た。いままでアメリカの独壇場だった安保理を引っくり返すのだ。琉球の正当な支配者は日本から大漢に移った。世界は我々を支持するだろう。

ところが、国連の安保理に伊東真日本国首相がオブザーバー参加していた。

「私は天皇陛下より任命をいただいた首相であり、独裁政権の鷲山の任命を取り消されました。その偽りの日本と合意した『アジア慈愛協定』は完全に瑕疵であり無効です。この協定に基づいた今回の大漢の軍事侵攻作戦は侵略行為であり、決して容認できるものではありません。真日本政府はアメリカとともに日本防衛を行い、この協定に関わるいかなる軍事行動も拒否致します。」

割れんばかりの拍手に包まれた。

大漢の国連大使は

「なんだ、これは!安保理は我が国が招集したのだぞ!これではわれわれが悪者ではないか!」

大漢が発言する。

「琉球の地はもともと19世紀まで中華圏の独立国家であり、それをそこの日本が侵略し、・・・」

大漢の発言に何の反応もない。

続けて日本国が発言する。日本国大使は伊東を指差した。

「何者だ!そこの者は!」

真日本国の伊東博文首相のことだ。

「みんな騙されてはなりません。これは嘘っぱちの虚構国家だ!」

国連で前代未聞のやりとりだ。アメリカが認める真日本国代表の伊東は、堂々としていた。喚く日本の大使に会議はしらけていた。しらじらしい自作自演の舞台でも見る観客のようだった。

「俺たちが日本だ!国連加盟国だ!そうだろう?」

そう安保理で非常任理事国日本国は我々なのだ。オブザーバー出席する偽物が本物であってたまるか!

しかし、国際情勢の審判の中で、支持はなかった。全く同意がないのは沈黙が証明していた。

「もういい!退席する」

とうとう日本国の大使が席を放棄してしまった。

(なぜ、こんなことが・・・)

大漢の大使は国際社会で大漢の主張が、全然通らないことに理解できなかった。

「我々は正義だ。琉球は我々のものだ・・・」

伊東は事前に安保理理事の多くにロビー活動をしていた。

「偽りの真日本国とその支援国への制裁決議」は大漢に関係の深い数国だけが賛成、拒否権のあるアメリカ、フランス、イギリスは当然拒否権発動、ロシアは保留だった。

ついにはアメリカが

「この状況に至った真に問題の国があるように我が国は思う。真日本国は憲法に定める、正式な成立条件を満たしている。我が国としては真日本国の行動は、正当な防衛軍事行動であると思うので、むしろ侵略してくる国に対し、国連軍を派遣すべきでは?」

と皮肉られる有様だった。

そうした国連とは無関係に現場は動いていた。

キンケイド中将は、アメリカ海軍本部からの命令に不服だった。

「何を考えてんだ。若者の命が・・・」

「しかし、アメリカの威光を見せさえすれば、大漢軍も帰るでしょう。」

ラッセル大佐がなだめる。この段階においてアメリカは勝利を確信していた。

「上陸部隊の前に回り込み、艦隊で威嚇しましょう。」

なんの疑いもなく大漢は逃げ出すものと思っていた。

 

楊はそのアメリカ艦隊を見てニヤニヤしていた。

「いままで世界の冠たる機動部隊とほざいてたが、今日をもってそれは終わる。」

それを聞いて副司令の馬又侠(バヨウギョウ) 中将は不安な表情を浮かべている。

(いくらなんでも、沖縄の陸上基地の空軍、海上には正規空母。空母の航空機だけで我が方の倍ぐらい積んでいる。楊司令は簡単に勝利する気でいる。司令は何を。)

「いったい何が起こるのですか?」

馬は聞いてみた。何か軍事機密の作戦が進行しているのかもしれない。

「戦いは数ではないのだ。馬君。」

やはり何かあると思った馬だった。

 

「敵は空母『山東』と艦載機が航空戦力です。大漢本土からでは沖縄は航続距離に問題があります。」

ラッセル大佐は作戦会議で報告する。戦力的に大漢はアメリカの比ではない。アメリカのアジアの巨大な軍事の島、沖縄に無謀な挑戦を挑んでいるのだ。

「諸君、艦載機50機の空母と駆逐艦程度で、我が合衆国の機動艦隊と渡り合うと思うかね?」

キンケイド中将は少し饒舌になっていた。現代では起こりにくい正義の戦いをすることができる。本音はそうだった。この段階では余裕があった。

 

正午を回り、沖縄から大漢の艦隊が見える程になった。

「警告を発信しろ!ここは日本国の領海につき、即刻引き上げなければ、攻撃を加える。」

キンケイド中将は発信を命令した。

その発信を受け取った楊はニヤッとした。

「やつら勝てる気でいるぞ。」

そう言って馬に

「軍本部に通達!作戦『霹靂(ヘキレキ)』発動!」

(ヘキレキ・・・?)

「軍本部に通達!作戦『霹靂(ヘキレキ)』発動、します!」

馬は復唱した。この瞬間アメリカの苦戦が始まった。

 

発信して5分ほどして異変が起こり始めた。艦のシステムエラーを知らせる、けたたましい警告音が方々で鳴り響く。

「レーダーダウン。他のシステムも異常を示しています。」

キンケイド中将は

「何が起こった!」

と叫ぶばかりだった。

「各艦に深刻なシステムエラー!空軍基地からも同じ報告です!」

旗艦アイオワのCICはパニックになった。

「アメリカ軍に対する大規模なサイバーテロ・・・」

ラッセル大佐は血の気が引いた。艦隊や周辺の基地のシステムというシステムが、謎のエラーを引き起こしているのだ。もしここで大漢が攻めてこれば艦隊といえども危ない。ほとんどの艦が制御不能に陥っているのだ。

 

「どうだ!アメリカめっ!我が軍の底力を見たかっ!」

楊司令官は遠慮ない大声で奇声を発した。よほど嬉しいらしい。

「何をしたのです?」

馬は機密に触れられそうなので聞いた。

「我が国のサイバーテロ部隊61398部隊が、アメリカの軍のコンピューターに侵入し、号令とともに深刻なエラーを、引き起こしたのだ。コンピューター制御で成り立つ、やつらの運用システムを破壊すれば、奴らの船は鉄くず同然!」

馬はようやく納得した。

「戦争とは正々堂々やるものではないのだ!思い知ったか!」

長年に渡って溜め込んだあざけりをぶちまけた。

「空母『山東』に通達!ありったけのJー15にASM(対艦ミサイル)を搭載し、発艦せよ!我が国に二度とたてつく気にならないぐらい、ぶん殴ってやれ!」

Jー15(殲―15)はロシアのSu―33を自国生産化した艦載戦闘機だ。Kh―31Aという対艦ミサイルを積める。

 

一方アメリカ軍は深刻なシステムエラーで全艦隊の機能が低下した。数隻はエラーが深刻ではなかったが、戦力は激減していた。

「今、襲われるとまずい・・・」

キンケイド中将の目はうつろだった。ラッセル大佐は懸命に打開策を考えていた。

「アメリカ軍のシステムがダウンしたとすると・・・」

ラッセル大佐はふと思った。

(自衛隊はどうしている・・・)

中には自衛隊の艦船、いや、ネオ皇軍の艦船がいたはずだ。システムは別のはずだ・・・

 

イージス艦「長門」の艦長浅田はアメリカの艦船の異常を感じた。

「リンケージが、これほど崩れたことを見たことがない!アメリカとは通信できんのか。これでは敵に蹂躙されてしまうぞ!」

「敵空母より攻撃機多数発艦!アメリカ艦船はミサイルを打ち上げません!」

「こちらは何もないのに、なぜだ・・・」

浅田は突然のアメリカ軍の異常を、分析しようとしていた。

「敵艦、更に対艦ミサイルを多数発射!」

「なに!敵は戦争する気だ!」

あっという間にアメリカの艦船、五艦ほど火に包まれた。

「イージス艦が大破している!システムがどうかしたのか!」

イージス艦は艦隊のミサイル防衛のため、あらゆるミサイルに対応できるのだ。それがなんの反撃もなく火を噴いている。浅田はわかりかねていたが、明らかにアメリカはおかしいと思った。

「アメリカ海軍旗艦アイオワより打電!自衛隊はなんともないか!われ、サイバーテロによりシステムダウン。救援を請う!」

通信員が報告した。

「なんと!サイバーテロ!」

艦長は一言唸って何か考え込んだ。

「艦長、一艦で何ができますか!」

部下が口々に言う。

CICにいる石倉はどうなるか行方を見守った。イージス艦一隻が盾になって戦っても、敵は止められない。かと言って、瀕死のアメリカ軍を助けなければ多くの戦死者が・・・

浅田艦長は立ち上がった。鬼の様な顔をしている。

「アメリカ軍は我々のため立ち上がってくれたのだ!彼らを死なせるな!」

ピンとCICは緊張が走った。一艦で戦おうというのだ。

「アメリカ艦隊と敵艦隊の間に入れ!『長門』の全てで戦うのだ!」

「『矢矧』と『阿武隈』がついてきます!」

「馬鹿者!引き返せといえ!あの2艦では無理だ!」

「引き返しません!」

まともな軍事行動ができるのはネオ皇軍の3隻のみだった。

 

「日本艦隊、我が軍とアメリカ軍との間に割って入ってきます。」

大漢のレーダー員が言った。

「日本にはサイバーテロ仕掛けなかったのですか?」

馬は聞いた。

「そんな無駄なことしてどうなる?」

「えっ?無駄・・・?」

楊は取るに足らないと鼻で笑った。

「矮小な国の軍隊など眼中に無い!」

楊は当然だと言わんばかりに答えた。そして感情的に

「そんなに死にたければ殺してやれ!全ミサイル、あの国の船を狙え!」

楊が叫んだ。もはや、大艦隊のアメリカより、大漢の艦隊は3隻のちっぽけな艦隊に釘付けとなった。

「無数の対艦ミサイル飛来!迎撃不能!」

長門のレーダー員は悲鳴のように声を上げる。

「アルマゲドンモード!一発でもミサイルを撃てっ!」

艦長は猛攻にひるまず、攻撃を続けた。

CIWS(近接火器システム)の弾幕をすり抜け複数のミサイルが艦隊を襲う。

「矢矧に3発、着弾!大破です。」

「阿武隈に着弾。詳細不明!」

長門は敵艦隊に集中砲火を浴びている。しかし、長門はミサイルを撃ち続けた。味方、二隻大破、敵6隻大破となった。そして長門の艦橋の下部に着弾した。

「うわっ!」

一瞬で黒い煙が視界を奪う。多くのシステムがダウンした。衝撃で石倉は席から放り投げられた。被弾箇所から空が見える・・・

「もう終わりだ・・・」

周りはけが人でいっぱいだった。石倉も衝撃で朦朧としている。

「艦長!艦長!」

さらに暗くなったCICで叫び声が聞こえる。

石倉は絶望しながら被弾箇所から外を見た。

「俺は死んだんだ・・・大和が見える・・・」

石倉は昔見た戦艦大和を見ていた。そんなはずはない。あの船は沈んだはずだ。80年も前に。

いや・・・

大和が主砲を撃っている。そういえばあれから被弾の衝撃もない。飛行機が見えた。

「ありえない・・・日の丸をつけたホーネット・・・」

 

上空の空母赤城航空隊所属戦闘攻撃隊「仁王」編隊長・立花俊介大尉は戦場を見下ろした。乗機はF/A―18Jホーネットだ。

「間に合ったか!あらかたの敵のJー15は引き返したな!」

下で大和型の主砲で爆沈するフリゲート艦が目に入った。

「艦隊決戦も勝負がつきそうだ。」

自分たちが友人・石倉の危機を救ったとはそのときは知らなかった。

 

「なんだ、あの艦隊は・・・」

キンケイド中将は双眼鏡で巨大な大和級を見ていた。レーダーはまだ復旧していない。

「太平洋戦争の幽霊船か・・・?」

そしてはるか後方に見たことのない空母の艦影が二つあった。遠いのに大きく見えた。

「まるで我が空母のように大きい・・・」

既存の護衛艦とは思えなかった。上空の戦闘機はその艦載機に違いない。ホーネットを運用するとなると、正規空母としか考えられない。司令のキンケイドも聞いてない艦隊だ。

「宛 アメリカ合衆国海軍太平洋艦隊司令長官 トーマス・C・キンケイド中将 文 我、友軍。敵を殲滅せんとす。発 ネオ皇軍海軍 太平洋機動艦隊司令長官 井上薫。」

通信を聞いてハッとした。長年、アメリカは正規空母を日本に禁止していた。しかし、アメリカは太平洋艦隊に追加できる戦力として、アメリカが日本とともに、極秘裡に計画を進めていることをキンケイドは聞いたことがあった。それもこれも、アジアの軍事大国の大漢の侵攻が現実的になってきたためだった。アメリカが極秘裡に日本の機動艦隊復活を、後押ししていたことをキンケイドは聞いていた。それが今ここに現れるとは・・・。

木戸の秘匿艦隊の正体だ。「どうも日本の秘匿艦隊らしい・・・」キンケイドはラッセルに言った。

「すると、あの大和型もその艦隊ですか?」

「そのようだ・・・」

大和型の主砲の威力は凄まじく、レーダー連動射撃によってあっという間に五隻沈めた。大和型といってもアイオワ同様、近代改修されていて、大和の特徴である側距所はなく、様々なレーダーマストに変わり、煙突もボイラーではなく、ディーゼルの煙突になっていた。しかし、威風堂々として3連装46サンチ砲は三門、中央部には対空機関砲群が有り、往年の姿を感じさせた。さらに、各種ミサイルの発射台が据え付けられていた。ただ、不思議なことは、80年の歳月を超えたような古さは感じなかった。当然、新造とも思えなかった。

「俺たちも反撃するぞ!」

キンケイドは艦橋に駆けていった。アイオワは大和型と並んで、主砲を発射していた。もともと機械式の主砲はすぐに撃てるようになっていたのだ。時代を超え、あの頃の敵味方を超えたシーンだった。

 

北海艦隊はパニックになっていた。突然北方より現れた正体不明の戦艦や空母の艦載機が艦隊を襲ったのだ。

「このあたりにアメリカ軍は他にいないはずだ。いるはずないのだ・・・何かの間違いだ・・・」

さっきの楊の陽気は消し飛んでいた。艦載機の半分を落とされ、上陸部隊も壊滅した。Jー15のパイロットの話では、日の丸をつけたアメリカ製新鋭機だったというのだ。日本に正規空母があるとでも言うのか。アイオワの他に戦艦、日本の正規空母などとはありえない。ありえないけど、現実にそれによって北海艦隊は殲滅された。

共産党の軍法会議がちらほら脳裏によぎる・・・

「逃げるのだ・・・まだ尖閣要塞がある・・・」

空母以下、数隻が戦場から脱出できただけだった。「軍人節」は大敗北したが、人民会議では勝利の式典を華やかに行っていた。大漢では沖縄沖海戦の敗北は知らされなかった。

 

大和型の後部ヘリポートから、アイオワにネオ皇軍のSH―60Jが着艦した。キンケイド司令以下、太平洋艦隊の幹部が出迎えた。

なかから出てきたのは見覚えのある顔だった。確か、呉の自衛隊基地司令官の井上だ。

「おひさしぶりです。キンケイド閣下。」

最初、キンケイドは、唖然としていた。軍装が日本海軍のものだった。

「ああ、助かった。あのサイバー攻撃は予想外だった。危なく艦隊の将兵を危機に晒すところだった。」

「われわれも、安保発動を感謝致します。」

キンケイドは気になっていたことを聞いた。

「井上将軍、我々を助けてくれた秘匿兵器を教えてくれないか?このプロジェクトは、特別チームだけのトップシークレットだ。」

「ええ、まず空母ですが、同型の十万トン級の通常正規空母です。アメリカ海軍のニミッツ級をもとにしています。一番艦は『赤城』二番艦を『加賀』といいます。」

(確かに我が空母の船体に、日本の護衛艦の艦橋を乗せたようなデザインだ)

キンケイドは併走する赤城を見た。

「艦載機のジェット機はアメリカから購入しました。F―35が艦隊防空、F/A―18Jは攻撃機として運用します。各種航空部隊の他、コイン機として多数の大戦機が載っています。」

井上は聞きなれない兵種を言う。

「大戦機?」

「はい。簡易レーダーを備えた攻撃機軍です。大戦機のものを改造しました。」

説明によると、急な軍備拡大のため、安価な機体で揃えるためだといった。

キンケイドはあの戦艦のことを聞いた。あれほど現代にふさわしくない兵器はない。

「あの戦艦は・・・その・・・あの大和か?」

アメリカ軍人にはあまり印象のよくない戦艦だろう。

「いえ・・・違います。」

井上はあっさり否定した。

「あれは大和級4番艦で『紀伊』といいます。日本の敗戦後、呉の隠しドッグで眠っていたものです。それを前政権が国防のため、現代の艤装を施したものです。そのほか、当時の重巡が同じく隠されていて、ミサイル巡洋艦として生まれ変わりました。」

急激な軍備の増強の一環の処置とのことだが、それにしても大戦時の幽霊と言われかねない。

この現実離れした艦隊をみてキンケイドは唸った。この状況下では先見の明があったと言えなくもない。各国が領土を狙うなか、シーパワーで領土を守るしか手がないのだ。その点「紀伊」の、防御力が桁外れに強く、主砲の46サンチ砲は射程こそ40キロと短くても、絶大の威力の兵装を持っている。巨大な砲弾の慣性力は島の形すら変える威力がある。特に上陸戦に威力を発揮するのは、このアイオワの存在価値と一緒だ。

そしてアメリカの艦隊のシステムが正常になり、艦隊が守った切った沖縄基地に入るまで、しばし、両司令は同じ時を過ごした。その日、アメリカ海軍アイオワとネオ皇軍の紀伊は、時をこえて沖縄で並んで停泊した。今後起こる、シビアな戦いに対するパートナーを、証明するかのようだった。

 

九月五日

 

沖縄沖海戦において奇跡的大逆転で勝利した日米同盟だったが、誰知られることなく、もうひとつの危機が迫っていた。しかも、なんの兆候もなかった。

「定時パトロール。舞鶴基地内異常なし・・・」

基地の警備隊は引継ぎをした。

いまやJSSとネオ皇軍(以後NJA)の境界線にある海軍港で、琵琶湖付近で第13師団が突きでる、突出部になっていた。南にはJSSの第3師団が支配していた。この時点、JSSとNJAは拮抗していた。散発な衝突があるが、大部隊による侵攻作戦は行われていなかった。侵攻作戦の想定のない、自衛隊時代の名残である予備隊員の招集だけでは、戦力が確保できなかった。その点、NJAは義勇兵からの編入で軍備が整いつつあった。

舞鶴基地はすぐに出動の緊張がなかった。海軍の敵は横須賀のみで、それは呉が警戒していたのだ。大湊の部隊は、今のところ動く気配はなかった。

深夜1時

基地内を複数の影が動く。黒いダイバースーツに身を固めていた。異国語を話している。

寝静まった基地内。艦隊の影が静かな波音に揺れていた。

そして深夜二時

轟音と共に複数の炎が立ち上った。

ちょうど宿直で仮眠中の駆逐艦「夕霧」の砲雷長・大葉仁少尉は衝撃で飛び起きた。

(これは爆発だ。)

直感的に感じた。外に出ると消火部隊が消火で飛び回っている。各艦の当番も消火に当たっていた。

「これは潜入工作か?」

見る限りほとんど全部の船から出火している。

「大葉!」

後ろから声をかけられた。同期で駆逐艦「梅風」の橋本曹長だ。

「損害は?」

前置きなどいらなかった。この基地は最前線なのだ。

「まずい。ほとんどやられた。警備も数人やられていた。」

「犯人はJSSか・・・?」

「いや・・・どうも違うらしい。」

「では誰だ・・・」

「潜入工作員を生け捕りはできなかったが、装備品にはハングルが書かれていた・・・」

大葉はショックを受けた。

「北朝人民共和国か?しかし、こんな離れた基地の工作しても・・・」

大葉は事態がわからなかった。まさか友好国の南朝を疑うはずもない。

「いや、信じたくねぇが、南朝に大きな動きがあると聞いた。」

「南朝が・・・まさか。」

「南朝の艦隊が釜山を出航。十隻程度が対馬に向かっている。」

「馬鹿な・・・」

舞鶴の艦艇のほとんどが使用不能に陥り、対馬に南朝が向かっている。意味するものはひとつしかない。

 

ここは南朝と日本の境界線。奴らのいう独島、日本の竹島の付近だ。

「南朝艦隊はまっすぐ、こちらに向かってきます・・・」

駆逐艦「春月」は南朝を止めるべく、艦隊の前方に出た。

「舞鶴が潜入工作で壊滅した。それでこの事態・・・侵攻か・・・」

艦長は呟いた。おそらく我々の静止など無視するだろう。

「ともかく、このままでは領海侵犯になる。打電せよ!」

「こちら真日本国海軍。貴艦は我が国の領海に近づいている。進路を変えよ。」

打電して数分たった。返信するように南朝の艦艇から何か放たれた。レーダー員が叫んだ。

「南朝艦隊より複数のミサイルらしき飛来物!数分で着弾します!」

艦橋が凍った。そして春月は連絡をたった。

 

舞鶴は夜が明けた。

「これは、しばらく動けんな・・・」

大葉は港を見て回った。どの船もスクリュー部が強力な爆弾で吹き飛ばされていた。おそらくひと月は出動できないだろう。

「ほとんど全滅じゃないか・・・我が『夕霧』もきっと・・・」

まだ大葉は夕霧を見に行っていなかった。夕霧は別のところにあった。なぜなら引退したばかりの老朽艦だった。港のハズレにスクラップのようにただ錨を下ろしていたのだ。大葉は後始末をしていたのだ。

「大葉少尉。本部に出頭してくれ!」

突然出頭命令が下った。引退した船の後始末要員の俺に何の用だろう?訝しく思いながら本部へ出頭した。大騒ぎの本部の奥に行った。

「そこに掛けたまえ・・・」

そこには第3艦隊の司令官の宮下少将、お偉方が並んでいた。その前に「夕霧」の艦長鳥居以下、艦の責任者が並んでいた。

「今日未明、我が基地は南朝民国の工作員と思われる襲撃にあった。同時に対馬に対し、南朝は艦隊で侵攻してきた。その後、駆逐艦春月は連絡をたった。基地は全戦力を破壊工作で失った。南朝の対馬侵攻を止める手段はない。」

大葉は、南朝が対馬を狙う意味がわからなかった。

「なぜ、対馬なのですか?」

宮下は答える。

「対馬は古来より朝鮮との中間地点にあり、朝鮮族の多い島だ。いまでこそ、日本の領土になっているが、奴らは歴史的に朝鮮のものと主張してきたのだ。この日本の大混乱を利用して、本気で対馬を奪う気になったのだ。」

「しかし、いくらなんでも日本政府が対馬を売るはずがないじゃないですか!」

「鷲山の『アジア慈愛協定』の合意だ。あの、沖縄と同じことだ。対馬も売られたのだ。」

また、鷲山だ!大葉は舌打ちした。日本国民に首相にまで祭り上げられ、なってしまえば権力だけは好きなように振舞っている。どこの誰かは知らないが、姫様はよく決断してくれた!俺がやつを倒したいところだ。

「われわれ、ネオ皇軍はそれを認めない!沖縄同様に阻止する!」

夕霧のクルーは顔を見合わせた。既に全艦使用不能なのだ。この夕霧だって引退した船だ。一体俺たちに何をしろというのだ。艦長の鳥居が小さな声で言い始めた。大葉が見るに、鳥居は艦長にしては、艦をまとめるような感じには見えなかった。後始末要員の位置づけでしかなかった。

「まさか・・・でも夕霧は引退しています。時代遅れの装備で、南朝の駆逐艦に対抗できるものではありません。」

第3艦隊の宮下は黙って聞いていた。

「春月が潰されるようでは、我々にはとても・・・」

「何を言うんだ、鳥居艦長。いまや、無傷な船は夕霧しかないのですよ。」

たまりかねて宮下が言った。

(夕霧は無傷だったのか・・・)

大葉は夕霧の無事を知った。よく考えれば鉄くず同然の扱いだ。軍籍もない夕霧に、攻撃など考えられなかった。無事である方が納得する。

「しかし、単艦で敵艦隊を迎え撃てとは・・・」

煮えきれない鳥居に大葉はムカついた。

「艦長!何をおっしゃってんですか!敵が来るから防衛する。それが我々ではないのですか!」

普段大人しくやっている大葉が叫んだので、艦長はびくっとした。

その光景を見て宮下は微笑んだ。

「鳥居艦長。いい部下をお持ちだ。やってくれるな。軍籍は隠しておく。それでなければ敵の油断をつけない。」

「やりましょう、艦長!」

大葉は艦長を励ました。

「大葉砲雷長!君は勝算があって言っているのか?」

もちろんあるわけない。

「大丈夫。きっと打開策はあるはずです。」

大葉はうそぶいた。

 

「舞鶴は沈黙したか?」

南朝民国総参謀長であり大将の 李鎬容(イホヨン)は言った。あの目障りな艦隊を黙らせれば対馬はほとんど手に入ったも同然だ。

「我が軍の工作部隊が全艦艇の爆破に成功。機能停止に追い込みました。」

「ふんっ!イルボンの艦隊など、取るに足らん。さっさと降伏しやがれ!」

李は吐き捨てた。日本軍ほど目障りな連中はいない。

「派遣艦隊に通達!対馬に上陸せよ!」

副官は

「簡単に成功しそうですな。おめでとうございます、総参謀長。」

しかし、李は苦虫潰した顔をしたままだ。

「我々の真の目標は新潟だ。対馬、佐渡と占領し、日本の北から進軍する。南からは沖縄、九州と大漢が進軍するはずだ。いまごろ、ふふふ・・・」

李は微笑んだ。9月4日のニュースで沖縄全土が、大漢によって掌握されたと言っていたのだ。すでに沖縄は琉球に改められ、琉球省の歓迎セレモニーまでやっていた。アメリカ艦艇は撃滅され、もはや立ち直りはできないだろう、長安電視台は高らかに勝利を宣言していた。日米両政府(この場合の日本は真日本国)は全くコメントしていなかった。ただ、国連で非難声明を出すだけだった。

「負け犬がいうことは何もあるまい・・・」

そう南朝は解釈していた。

大統領府も同様の連絡を受けていた。もはや、かつての日本などない。侵略される者たちの末路だ。憎々しい日本が消えていく。

実際は全く正反対だった。沖縄沖海戦で大漢はほとんど全滅の痛手を負って、尖閣要塞に撤退していた。日米両政府にとっては、変化としてデモ隊が沈黙しただけで、デリケートな時期に、報道に慎重になっていただけだった。その大漢のプライドから出た嘘の勝利を南朝は真に受けていたのだ。

「第七機動戦団はまもなく対馬です。」

李は報告する副官の報告にただ満足そうに聞いていた。

 

第七機動戦団の司令 尹圭夏(ユンギュハ)大領(大佐)は余裕だった。艦隊はもはや我が海とばかりに悠々と進軍していた。

「まもなく対馬です。」

「我が母なる領土へ帰還だ。皆にもそう伝えよ。」

そう言うと艦橋に飾ってある自艦の写真を見た。うっとりする艦影だ。

「この李舜臣(イスンシン)級駆逐艦の美しさはどうだ。イルボンが束になってかかったってなぎ払ってやる。奴らの兵器など大したことはない。まさに我が民族はイルボンをなぎ払ったのだ。まさに艦名の通りの状況だ。」

そこに浮かない顔をして副艦長がやってきた。

「我が艦隊はECMを受けているようで、レーダーにノイズが入ります。」

「それでは、空軍に始末させれば良いではないか!」

もたつく部下にイライラする尹だった。

「それが鳥取からのスクランブルがしつこく、ECM機に近づけません。」

「奴らには可動な船はない。こけおどしだ。どうどうと対馬に上陸しろ。」

すると艦橋に監視員が駆け込んできた。

「敵船発見!」

「なに!」

尹は双眼鏡を手にしてみた。クリアーな視界にぽつんと日本の軍艦がいた。

「あれは『夕霧』ですね。退役した船だ。」

部下の声を聞いて大声で笑った。

「何!スクラップ艦だと!苦肉の策ってやつか!やつらも地に落ちたものだ!追いかけて狩ってやれ!ウサギ狩りだ!狩ったものには戦功を与えよう!」

単艦で退役済みの船だ。敵とするにはあまりに貧相だ。

中には冷静な部下もいた。

「ECM下の状況ではレーダーがあまり効きません!自重を!」

「うるさい!敵機など我が防空ミサイルの敵ではないわ」

部下の忠言も艦隊喪失の日本に対するおごりに、かきけされた。艦隊は体形を崩し、ウサギに群がった。

 

夕霧はなんとか対馬までたどり着いた。新鋭の高速船に追われたのだ。ロックオンの警報は鳴り止まなかった。

「ダメだ・・・やられてしまう・・・反撃を・・・」

艦長は気弱だった。

「止まったらやられます。反撃はまだです。なにとぞ自重を!」

砲雷長の大葉が言った。たとえ、反撃したって夕霧に艦艇や航空機の支援はない。老朽艦はあっという間に海の藻屑だ。

 

「くそっ!なかなか囲めねぇな。対馬の裏に回るぞ!」

尹は叫んだ。オンボロ艦だがあきらめが悪く、最新鋭の南朝艦隊ですら囲みができない。

夕霧はなんとか対馬の裏に回った。肉眼でも敵の南朝艦隊が見える。蛇行するので敵はロックオンしてもなかなか発射までいかなかった。夕霧も必死だった。

 

対馬の裏に回って10分ほど経った頃

「海面に無数の漂流物!」

とレーダー員が怒鳴った。尹は初めて冷静になった。友軍の駆逐艦で爆発が起こった。

「なんだ!一体何が起こった!」

「漂流物は機雷です」

監視員が駆け込んできた。尹は初めてしまったと思った。夕霧は、機雷をばらまいた海域への囮だったのだ。対馬の裏は島影でレーダーは届かない。前もって機雷を敷設し、その中におびき寄せたのだ。尹は罠にはまったのを悟った。

「くそ、さっさと引き返せ!」

尹は怒鳴ったが、艦隊は機雷源に深く入り込んでいた。

「敵のECMが晴れました。」

尹は驚いた。このタイミングの解除だ。レーダー員はレーダーを見て叫んだ。

「敵の航空機6機が接近中!」

尹にあることがよぎった。

「これは対艦攻撃機だ・・・」

「防空ミサイル用意っ!」

ともかく、このままでは身動きできないまま、沈められてしまう。敵機を攻撃しなければ・・・

 

一方、夕霧では

「今です!対艦ミサイルでの攻撃を!」

大葉は艦長に具申した。

艦長はようやく血の気を取り戻し、

「反撃せよ!海と空から挟み撃ちだ!」

既にスタンバイしていた艦隊艦ミサイル・ハープーンを発射した。

 

上空のF―2の編隊もミサイルを発射した。

「敵、駆逐艦から対艦ミサイル!」

「敵機からミサイル多数!」

尹は動揺した。死に体のオンボロ艦まで、ミサイルを発射してきたのだ。海と空からの同時攻撃だ。艦隊防衛は大混乱に陥った。

尹は一時間後、艦隊のほとんどを失い降伏した。10隻以上の新鋭艦隊が一隻のオンボロ艦に負けた。

この敗北は南朝の大統領府にもたらされた。

「たった一隻にか・・・」

盧(の)大統領は椅子に崩れ去ったという。

以後、対馬は、急行したネオ皇軍の潜水艦隊に守られ、南朝は二度と侵略のチャンスを失った。

 

 

九月二十日

目の前に島が点在する。俺は強襲揚陸艇の上にいた。台風が近づいていて激しいうねりだ。極度の船酔いで側頭しそうだ。

「揚陸1分前!」

なぜ、アメリカ海兵隊のように、俺が上陸部隊に加わっているのか・・・話せば長くなる。ネオ皇軍も素人だけの義勇兵の集団から、元自衛隊を核とする正規軍に生まれ変わった。母体はよくわからない。姫様の軍隊としてしか知らされていない。姫様とは未だに不明だ。義勇兵は吸収され、自衛隊時代にはない、大規模な軍事組織に生まれ変わった。

さらに姫様は九州、中国地方をひとつの国家と定め、首相・伊東博文を首相任命した。真日本国として現日本政府に対し宣戦布告した。なぜ、内閣総理大臣任命式をできるかわからない。この国でできるのは天皇陛下、ただお一人だ。しかし、今でも天皇陛下は象徴天皇であられ、政治に介入するお立場ではないと俺は認識していた。

「俺には関係ない・・・」

なんでもありなのだろう。いまでも姫様が何者でもいいのだ。

おれは軍隊から離れることもできた。しかし、家族と平穏な生活を奪った侵略者への戦いを選んだ。そうしないと喪失感でおかしくなりそうだった。軍隊では火薬取り扱いの経験を買われ、工兵部隊に推薦された。そしてこの上陸部隊の工兵隊の分隊長として従軍することになったのだ。

(どうせ、もう家族はいない。たとえ死んでも・・・)

この悪夢は戦うことで慰められる。おれは戦いにのめり込むようになった。

 

あの尖閣が見えている。魚釣島だ。全長3キロメートルの芋のような形をしている。周囲は切り立った崖になっており、どうやらそこに、敵は急ごしらえの要塞をつくっているようだ。時代を超えた硫黄島のようだ。南の方に物資を搬入する仮の港が出来ていた。ヘリボーンでないのは、対空ミサイルを警戒してのことだ。戦車の配備がわかっていた。そのため、奪還にはかなりの戦力が必要としていた。

まず、大漢本土との行き来を海上封鎖、上空制圧で遮断した。もうまさに孤島と化していた。

「20機程の編隊が飛来するも撃退。」

立花は制空任務に就いていた。こういう時ほど空母の価値は発揮される瞬間はない。

「立花大尉。」

渚少尉が言った。渚は自衛隊時代からの部下だ。

「なんだ。」

「大漢はわれわれの戦闘機より進化していると聞いていたのですが、全然手応えがありません。どうなっているのでしょうか。」

渚の言うのももっともだ。大漢の機体はコピー機ばかりで、必要以上にスペックが高い。よそから技術を盗んで組み上げている。その強い機体が次々落とされているのだ。

「性能は腕を磨き上げてこその性能だ。パイロットが機体の進化についていけないんだよ。」

敵はJ―11というSu―27のコピー機をさかんに飛ばしていた。本当はホーネットでは苦戦するはずだが、無人機のように簡単に撃墜できた。この世界最強の機体に乗るパイロットが、それまで乗っていたのは、ベトナム戦時代のMig―21だ。無理に決まっている。

眼下では紀伊が艦砲射撃をくわえている。史上最強の艦砲射撃だ。生きた心地しないだろう。退路を絶たれて、なおも抵抗するのは、楊司令官が敗戦の責任を取り、銃殺されると聞いた。楊司令官には勝利しか許されなかった。それで頑強なのだ。

立花はあの国のやり方に、敵ながら同情したが、戴く政府を間違えると国民は不幸だ、というのをしみじみ思った。

「今の日本も同じだ・・・」

「みみずく(AWACS)より仁王1へ。敵空母を発見した。撃沈せよ。」

ヘルメットから聞こえた命令に立花は驚いた。

「仁王1より、復唱願いたい。その命令は間違いないのか!」

「みみずくより仁王1へ。間違いない。これは伊地知中将直々の命令だ。」

ホーネットは海路遮断のため、対艦ミサイルは積んでいる。おそらく、このいきに大漢の中心戦力である空母を、沈めてしまいたいのだろう。

 

向かうと空母「山東」はミサイルを打ち上げてきた。フレアでかわすのは簡単だった。それより国家の象徴であり、大漢最大の戦力の空母・山東につく護衛の艦は皆無だった。丸裸だ。空母ほど海戦で脆弱なものはない。命令とは言え、酷いと思った。大漢の軍隊はさまざまな矛盾を持っているのが実感できた。

しかし立花は、飛行隊全機に命令を下した。

「全機に次ぐ。敵の空母を叩け!」

仮に俺たちがやらなくても、200機の航空機が赤城、加賀に積まれている。他にもアメリカの空母もいる。空母が単艦でここにいるのだけでも自殺行為だ。敵艦隊には上空には援護機も許されない。もっとも敵の援護機は軍の命令で尖閣上空に無謀に突っ込み、すでに散った。

敵空母にハープーンが吸い込まれ、空母はしばらく沈黙していたが、一気に炎を上げた。内部で誘爆が起こっているのだ。立花は手をかざし敬礼した。

「引き上げるぞ!」

もう空母は使い物にならない。敵は無謀な作戦ばかりで、立花の心が痛んだ。

 

おれは港に近づいた。昨日の未明に潜水で味方は橋頭堡を確保、夜明けとともに艦砲射撃を開始、戦車の揚陸を強行した。

味方は十式という最新式戦車だ。敵は九十八式という戦車で、同じく大漢最強と言われていた。中身はロシアのT―72のコピーというお粗末なものらしい。けれどこの小さな島に百台近くの戦車を揚陸したと俺は聞いた。

「艦砲射撃は南から北へ移れ!支援機も上陸部隊に誤爆するな!」

井上艦隊司令が指示する。

俺は港を駆け上がった。周辺をすでに制圧し、ここは安全だ。しかし、周りは音が聞こえないほどの爆発音だ。この狭い島に敵は一個大隊の戦車部隊がいるそうだ。

「すげぇ音だ!鼓膜が破けちまう!」

「俺なんてこれよ!」

といって陣内は耳栓を見せた。

義勇軍でも一緒だった男だ。田島大輔という大男も一緒だ。それに女性隊員の嶋美幸も。俺の分隊にあてがったのだ。

それにしても嶋が何故、従軍し続けるのか。不思議だったが、彼女も一切語ろうとしなかった。

 

魚釣島は無人島で欝蒼と木々が生えている未開の小島だ。大漢軍は人海戦術で急ごしらえの要塞にした。道とヘリポートを作っていた。道はおそらく地雷で封鎖しているだろう。道なき道を行かなければならない。上空は友軍に制圧されているが、地上の進軍は遅々として進まない。無数の獣道を作りさかんにゲリラ戦を挑んでくる。

「こんな小島で大軍、ありかよ・・・」

陣内が愚痴る。時折装甲車や戦車の残骸を見た。大漢のものだ。

「ここを再占領しないと、いつ大漢が再び襲って来るかわからねぇ。」

「私はもう、悲劇はたくさんだわ。侵略者は追い出すわ!」

無口な女性の嶋が言う。彼女は小隊であって以来、身の上を聞いたことがない。大きな不幸を背負ったと容易に想像できる。こんなところの戦争など、女性の彼女にはあまりに酷な状況のはずだ。

(俺も戦いに生きる意味を探しているんだ・・・)

ようやく目標の味方陣地に到着した。陣地といっても戦車が一両で守っている百メーター四方の広場だ。島のところどころにある。

到着初日は平穏に過ぎた。

 

九月二十一日

 

しかしその夜、敵の大号令とともに、方々から照明弾が上がった。仮眠中の俺たちは飛び起きた。台風で大雨になっていた。風はまだそれほどではないが、目も開けられない。

「敵襲!」

味方がさかんにアラートを出す。

昼間、上空制圧されているので、敵は夜襲を掛けてきた。

「敵は戦車5両!野砲も」

この島には大軍が隠されていたのだ。今までの散発攻撃は参考にならない。ネオ皇軍は10式戦車が前面に出る。

「敵は縦列で接近中。前のやつからやるぞ!戦車戦は数ではない。」

戦車長が怒鳴っている。俺も実戦はほとんど初めてだ。極度の緊張感に襲われる。

銃弾が飛び交い、敵は俺たちを殺しに来た。

「第142分隊。対戦車ミサイル扱えるか?」

第142分隊は俺たちの隊だ。

「もちろんです。」

「では頼む!敵はベースを囲んでいる。」

俺はすぐに分隊に指示した。昼間掘った蛸壺(野戦陣地)に入った。ベースの反対側ではかなりの戦力らしい。爆発と銃声が響きわたっている。

「予備弾薬は持ってきたな?今夜は長い夜になるぞ!」

「響分隊長!機銃セット完了!」

「対戦車ミサイルは?」

「まだです。5分ください!」

「ダメだ、3分でやれ!敵戦車はこっちにも来てるぞ!」

前は闇でもキャタピラの音は聞こえる。人の気配もある。裏に回っているのだ。味方戦車は正面に釘付け、ここは俺たちでなんとかするしかない。

暗視装置でみると木々の間を走っている。

「まだだ!撃つな!」

極度の緊張感で撃ちそうになる隊員を制した。俺は照明弾の明かりを頼りに敵を見た。正面の敵は少なくない。木々で見えないが距離五十メートルを切っている。

「撃てっ!」

仕掛けていたクレイモアがところどころで爆発した。闇をさくような悲鳴が上がった。機銃は密林ごとなぎ倒す。

振動とともに戦車が見えた。

「対戦車ミサイル、撃て!」

「こんなもので潰せるのかよ!」

陣内は文句言いながらぶっぱなした。

「次弾、装填。」

そう言っている間に敵戦車は突っ込んできた。

「まずい!一時退避っ!」

「抜かれたか!」

「ともかく後続の歩兵を殺れっ!陣地に入れるな。」

向こうでも大きな戦いになっている。明らかにこの守備兵の数倍の敵だ。どうやら、特にここに集中しているらしい。

「それぞれの陣地を守れ!逃げ道はない!」

ベースはもはや敵に蹂躙され始めた。

「航空要請!ここに全部爆弾を落とせ!」

野戦指揮所では指揮官が怒鳴っていた。

「いいんだよ!ここだ!」

10式戦車も健闘し、今だに健在だった。サイドのスカートも吹っ飛びボロボロだが、複数の戦車と戦っている。

「ここを抜かれたら、他のベースもやばいぞっ!」

すると、ヘリの轟音がした。

 

俺は白兵戦となっているベースの中で、敵兵とくみあっていた。中国語を喚き散らしているが

「意味分かんねえよ」

と言い返したが、敵に押さえ込まれた。そして突然目の前が太陽のように明るくなった。

ベース中が吹き飛ばされた。

 

気づくと朝だった。雨は止んでいた。周りは敵味方の死体の山だった。俺は呆然とした。俺は生き残ったんだ・・・。どうやらベースは持ちこたえたらしい。味方が敵の捕虜を、ぞろぞろ銃をつきつけ連れて行く。敵の戦車数台が火を噴いていた。ヘリが夜間攻撃を加えたのだろう。

上空を見るとまだ、残党がいるらしく航空支援する艦載機の姿があった。形が大戦機だ。確か九九艦爆改といった。コイン機として多く使っている機体だそうだ。低速で、このような支援攻撃にはまんざらではないそうだ。パイロット不足のネオ皇軍には、簡易な航空システムの大戦機は、急場しのぎで採用されているらしい。赤城以下空母では珍しく、攻撃ヘリ部隊も積んでいた。支援も十分考えてのことだ。本来陸軍所属の攻撃ヘリが積まれているのは、上陸作戦という特別な作戦があるからだった。ヘリといえども着陸できる場所が海では運用できない。アメリカの空母は敵機飛来を警戒し、この場にいなかった。

「あいつらは・・・」

俺ははっと気づいた。周りには部下が誰一人いない。自分のことばかりで思わず忘れていた。俺はベースをさまよった。

テントのそばで、俯いて大男の田島がうなだれている。

「田島・・・ほかのやつを知らないか?」

田島は俺の顔を一目見て、無言で指差した。そこには何か見下ろす嶋がいた。

「嶋、無事だったか。」

俺は駆け寄った。女性が戦場で死ぬのだけは見たくない。生きていたんだ。

「分隊長・・・生きてたのね・・・」

「ああ、怪我はないか?」

「ないけど・・・」

といって目を横に向けた。

「!陣内!」

遺体は損傷が激しかったが、見間違えるはずもなかった。

「陣内さんは私たちをかばって、敵の手榴弾に・・・」

俺は手が震った。戦争は殺すか殺されるかだが、目のあたりにすると憎しみが沸き立った。最後まで好きにはなれなかったが、気のいいやつだった。

 

敵の夜襲は数箇所で大損害をもたらせたが、俺たちは敵襲を挫くことができた。

楊は失意を感じていた。兵力の半分を使っての夜襲は大した成果を上げられなかった。結局、俺たちの空母の航空戦力に潰されてしまった。じわじわと自分のいる野戦指揮所に連合軍は近づいているのだ。戦車は連合軍の数を圧倒しているが、性能が違う。最新式と言われる九八式の元はロシアのT―72だ。輸出仕様の簡易な戦車だ。日本の10式の敵ではない。しかも、連合軍にはタンクキラーの攻撃ヘリもある。無駄に将兵の命を消耗しただけだった。

楊は思った。どうせ、本国に帰れば銃殺が待っているだけだ。いっそうのことこいつらを道連れに・・・。その“こいつら”が敵か、味方のことなのか、楊が自殺した今ではわからなかった。

それから一週間戦闘は行われ、大漢軍は降伏した。その中に楊の姿はなかった。野戦指揮所の椅子に正装して、自ら頭を打ち抜いていた。

 

大漢当局はこの敗北も隠し、勝利とした。沖縄沖で大勝利、尖閣で敵を非情なまでに殲滅し、司令長官楊炳徳は名誉の戦死をしたというのだ。尖閣は日本の治世にもどった。そのまま上陸部隊が駐留した。

「われわれの正義のため楊将軍は名誉の戦死をされた。これからも侵略者どもとの戦いを継続するものである。」

国家主席 劉徳懐は楊の国葬の中、弔辞を述べた。

 

 

 

(その後)

この後は、国内の制圧に移る。もともと戦力のないネオ皇軍は苦戦をするが、坂本の交渉により、戦局を変えていく。義勇兵の募兵により戦力を充実していく。

そこに、第二の主人公・響亮太が登場する。福岡の花火師だったが、空襲により妻を失い、娘も行方不明になった。彼は義勇兵として激戦に身を置く。

戦局は、鳥羽・伏見の戦いをモデルとした琵琶湖湖岸の戦いで「錦の御旗」が翻る。JSSは「賊軍」になり、一気に鷲山の求心力が衰える。

さらに要衝・関ヶ原で両軍が激突する。戦力のない、西軍のネオ皇軍が勝利する。そこで、響は、自分の部下の嶋美幸が、実は鷲山の娘と知る。鷲山沙羅が本名だ。このため、ネオ皇軍首脳は沙羅を西郷の護衛にした。この事で、響達は歴史に交わる様になる。

陸戦、海戦、空戦全てに準主人公を置いて、それぞれの戦いが繰り広げられる。

ネオ皇軍は、首都攻略のため、JSSの海軍基地、横須賀基地攻略をし、さらに、千葉県から上陸戦を行う。響たちは拠点制圧の特殊任務につく。

東京総攻撃が迫った。鷲山がかたくなに停戦に応じないためだ。坂本は、その悲劇だけは避けるため、ネオ皇軍・西郷とJSS・勝海洲との休戦を取り持とうとする。ところが、鷲山がそれを察知して、坂本を総統官邸に呼び寄せ、休戦を訴える坂本を射殺してしまう。

その坂本の最後の言葉に従い、西郷は勝と休戦協定を結ぶ。

鷲山が失脚し、東京総攻撃を回避できたが、鷲山の特別突撃隊の「新撰組」が、坂本のロボット兵器「十三式多目的多軸歩行戦闘機」を大量に奪い、一気に戦局を逆転してしまう。

西郷軍は打つ手ないとなった時、響と鷲山沙羅は奇策に打って出る。

 


 
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