No.58406

SF連載コメディ/さいえなじっく☆ガールACT:29

羽場秋都さん

毎週日曜深夜更新!フツーの女子高生だったアタシはフツーでないオヤジのせいで、フツーでない“ふぁいといっぱ〜つ!!”なヒロインになる…お話、連載その29。

2009-02-16 00:27:49 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:711   閲覧ユーザー数:672

 一夜明けて──────。

 抜けるような青空。背景には、真新しいのに建物の中央部分が綺麗に球状に消えて無くなり、そのまわりはなぎ倒されたように外側へ木片やガレキがちらかっている奇妙な家。1時を少し回り、すでに直射では暑く感じられる太陽はすでにほぼ真上にある。

「うーん。」

 そこだけ残された玄関先に腰を下ろし、角刈り頭を掻きながら唸っているのは、須藤家が倒壊するたびに建て直しを頼んでいる、おなじみの大工の棟梁である。懐の煙草入れから“きざみ”をつまみだすと、くりくりっと丸めて煙管(きせる)に詰める。

「いやー、いつも見事な壊しっぷりだがよ、今度とゆー今度は、んっとに派手にやったもんだねぇ、先生。」

 

 

「うん」

 そして、いつもの調子で再建の打ち合わせをする耕介はというと、車椅子で少し離れた縁先にいた。生命に関わる怪我ではなかったが、全身打撲と肋骨やあちこちの骨にヒビが入るのは避けられなかったからだ。

「けど、先生はよーっぽど悪運強いんだなぁ。リビング、キッチン、みんなケシ飛んじまってルってぇのに、よぉくそんな程度でいラれたもんだァな。まァきレーさぁっぱり、なぁんもねぇたァ、解体する手間も要りぁしねぇもんな。…でもよ」

 さすがに火鉢はないので、100円のターボライターで煙管の雁首(がんくび)に火を入れる。

「…んん?」

「…ぷは。さすがにここまでイッちまうと、いくら俺っちでもすぐにぁ直せねぇよ。ちぃと時間くれねぇかな」

「あはは。勿論やで、棟梁。ほんま、こんなん頼めんの、棟梁しかおれへんからな」

「まぁなあ。───だがよ。」美味そうに一服、二服と吸い付けると、パシ、といい音をさせて手のひらで雁首の灰を落とした。まるで前世紀の芝居でも観ているような錯覚を起こすほどにサマになっている。

「………赤の他人がえラそーにお節介焼くのもなんだがよ?年頃の嬢ちゃんもいるこったからよ。研究もケッコーだが、あんまり無茶苦茶やってたら仕舞いにゃ先生。あんた、ホントにおっ死んじまうぜ?」

「…面目次第もあらへんわ」

 

 いくら通説で“須藤屋敷では日夜を問わない怪現象が起こる”とささやかれていたとはいえ、ここまでなってしまうとさすがに警察が黙っていない。

 今までが今までなので、イソップの狼少年の話よろしく多少のことでは大した騒ぎにはならなかったが、発砲音と家が崩壊する轟音ばかりはさすがに近隣にも轟いた。

 治安維持がつとめである。通報するものがいなくてもパトロール警官がやってくるのは当たり前だった。だが、棟梁の言った通り、須藤耕介はよほどの強運の持ち主だったのだろう。

 もし駆けつけた警官が月夜か昼間に須藤家を見ていたら、まるで芝居のセットか書き割りみたいな状態で玄関と勝手口だけ残してガレキの山になっている事実に肝をつぶしたことだろう。

 ところが。深夜にかけつけた警官は、山頂にもうもうとたちこめる土埃にこそ驚いたが、唯一マトモに残っていた壁にあった玄関からそしらぬ顔でニコヤカに応対したほづみにすっかりだまされてしまった。家一軒が吹っ飛んだにもかかわらず、ほづみは打ち身程度で怪我らしい怪我もしていなかったから、なおさら警官も信じたらしい。

 

 夕美はというと、薬の効果が切れて今は家の中で唯一残った夕美の部屋で毛布にくるまって昏々と眠っていた。服は着ていない。着せようにも、耕介やほづみが着せたとなれば、かえって目覚めてからモメることが判っていたからだ。

 

 亜郎は至近距離でサイコバリアのバーストに当てられたはずだったが、幸いなことに蒸発することもなく、かえって無傷でガレキの中に埋もれて助かっていた。

 裸を見られて逆上したものの、ほづみが撃たれた時のように亜郎もサイコバリアでかばったものらしい。

 だがさすがに夕美と同じ屋根の下に眠らせて貰えるわけもなく、とりあえずは未だにあのおぞましい激臭が残る研究棟のひと部屋で眠らされていた。…といっても、床に転がされているにすぎなかったが、それでも当初の寒空で病気になる予定よりはマシだったに違いない。

 

 四人組はどうしたか?

 何事もなかったかのように黙然と帰って行った。どこへ帰って行ったのかは判らないが、おそらくはそれぞれの故郷であろう。もちろん、それなりに怪我はしていたが、驚いたことになんで怪我をしたのかは彼らの記憶にはなかった。

 傷ついた身体を互いにかばい合いながら駐車スペースに残してあったクルマに乗り込み、耕介たちが見送る中、いずこともなく走り去った。

 

 きざみ煙草ならではの甘い香りを残して、新しい家の構想をあらかた決めた棟梁は材料調達のために山を下りていった。もっとも耕介たちは棟梁には、彼が連れていた大工見習いがどっかの国のテロリストだか工作員だかだったことは告げていない。彼にしてみれば“イマドキの若ぇの”が気まぐれを起こしてさっさと辞めた程度に思わせておく方が棟梁自身の身のためだからだ。

 まあ、連中が同じ手を何度も使うとは思えないし、四人を撃退したものの、すでにこの場所は彼らの雇い主であるどっかの誰かにはとうにバレているには違いない。

「ほづみ君。苦労かけたなあ」

「はは。あの程度ならお安いことですよ。」

 棟梁を見送ったほづみは、とりあえず無事に残った玄関先に腰を下ろして茶を淹れる。棟梁に出した草餅の残りを車椅子の耕介と分け合った。

「できる限り君には力を使て欲しなかったんやけど…」

「ああ、大丈夫。力は使ってませんよ。ちょっとした方定術だけですから。リミットには影響ないです。」

「あいつら…どうなんねん?」

「いやあ、ただもくもくとひたすらにそれぞれの故郷へ帰るだけですよ。そう、まるで鮭みたいに。しかも十中八九、帰り着く頃には仲間と一緒に危険な仕事をしていたという記憶も失ってね」

「…それを、方程術だけで?あんな短時間に?」

「まあ、一種のさいえなじっく・プログラムの応用ですよ。連中、こういうのに耐性がないから尚更掛けやすかったし。」

「さすがグラウコスの弟子…やな。」

「先生?」ほづみが軽く耕介を睨んだ。

「…ああ。すまんすまん。これは言うたらあかんかったな。」

 

 

〈ACT:30へ続く〉

 

 

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 すんげーはげみになりますよってに…

 (作者:羽場秋都 拝)

 


 
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