No.582613

すみません。こいつの兄です。62

妄想劇場62話目。今回は、ほぼ全編サービスシーン。あまり色気はないですが、ヤシガニ真奈美さんなので仕方なし。書いているのが夜なので、あんまり昼間のシーンを書くという気分にならず、部屋の中ばかりでお話が進んでいますね。

最初から読まれる場合は、こちらから↓
(第一話) http://www.tinami.com/view/402411

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2013-06-02 01:36:38 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:1006   閲覧ユーザー数:898

 日曜日。暇だ。

 暇なら、勉強しろ。高校三年生。すなわち、俺。橋本は勉強してるぞ。メールをしたら、自宅で彼女の東雲史子さん(Fカップ)とお勉強会だそうだ。爆発しろ。

 妹は、美沙ちゃんと他の数人の友達と遊びに行ってしまった。

 べ、べつに妹がいなくたって、さ、寂しくなんかないんだからね!

 本当のことだ。

 ということで、暇な日曜日だ。

 勉強しろ。

 という無限ループ。メビウスにとらわれる前に、外に逃げ出してみる。五月の空気は暑いというほどでもなく、寒いというほどでもなく心地いい。こんな日に部屋の中で勉強している橋本なんてうらやましくない。Fカップの東雲史子ちゃんときゃっきゃうふふで、お部屋でお勉強会とかうらやましくない。くそ。あのFカップが目の前でかがみこんで勉強に集中できたら、さぞかし精神が鍛えられることでしょうなぁっ!ああっ!もうっ!うらやましいよ!

 気がつくと駅前。

 電車に乗る。学校と反対側へ。

 隣の駅で降りる。

 ……。

 なんで、俺はここに来てしまったんだろう。

 市瀬家の前で自問自答する。

 美沙ちゃんはいないぞ。妹と出かけちゃったからな。

 ……。

 不審者だな。俺。

「あら?直人くん」

後ろから、静かで芯の通った声に名を呼ばれる。振り返ると、オリジナル美人遺伝子。市瀬お母様だった。

「あ、すみません」

不審者しててマジすみません。

「真奈美のところに来てくれたの?ありがとう。真奈美、すごくよろこぶわ」

そういいながら、玄関を開けて招き入れてくれる。

 そうかな。

 俺は、真奈美さんに会いに来たのかな。きっとそうなのだろう。美沙ちゃんがいないことは知っていたのだから。

 きっとそうだ。

 玄関を上がると、ちょうど真奈美さんが突き当たりの階段を下りてくる。

「やぁ」

ひらりと片手を挙げて挨拶する。

 真奈美さんはそのまま廊下を、俺にぶつかるところまで直進してくる。

 とん。

 すりすり。

 顔を胸のあたりにこすり付けられる。このくらいで奇行と思っていては、真奈美さんの相手はできない。想定の範囲内である。

「おふろ」

真奈美さんが、俺を見上げて言う。

 おふろ?

「入るところ。なの。いっしょに。入って」

はい?

 想定の範囲外である。

「あら。ちょうどよかったわね。真奈美。洗いっこするといいわ」

お母様が、とんでもないことをさらりと言う。真奈美さんだと、つい許されそうな気がするが、実はだめだ。

「あの?ま、真奈美さんは、こ、子供みたいですけど、実は十八歳のお嫁入り前のお嬢さんですから…」

俺、しどろもどろ。

 お母様は、すこしきょとんとした笑顔を浮かべて、言う。

「実は十八歳未満の子供のほうがダメなのよ。十八歳超えたら解禁だから、洗いっこしてあげて」

意識しちゃうレベルが一段あがってしまった。あと、解禁ってなんだ。なにが解禁なのか。なにが禁じられていたのか。というか、なんだかなにもかもが間違っていないだろうか。

「えっと。その。あの」

真奈美さん、俺の両方の袖をつまむのやめて。今だけはやめて。どんどん変な気持ちになりそうになるからやめて。

「…じゃあ、私も一緒に入るから。三人ならいいでしょ」

お母様が、いいこと思いついたとばかりに手を打つ。

「もっとだめです!」

「じゃあ、二人で入ってあげて」

あれ?お母様、珍しく笑みを消して俺の手を引く。

「真奈美…。一緒に入るなら、タオルとか持ってきてあげなくちゃ」

こっくりと、真奈美さんがうなづいて階段をあがっていく。

 俺とお母様が廊下に残される。

 お母様が美人顔でまっすぐに俺を見る。あらためて、すごくきれいな人だと思う。左右対称な面長の顔。真奈美さんほど作り物じみてもいないが、美沙ちゃんほど愛嬌のある丸みもない。改めて、二人のお母さんだと思う。

「おねがい。真奈美と入ってあげて」

「えっと…その…」

お母様のまじめな顔に、ただならぬものを感じて無碍に断れなくもなる。視線をそらしてしまう。

「…あの。なんで?です?」

急に変わった空気に、息苦しさを感じて言葉を絞り出す。

「真奈美を甘やかしてあげて。甘えさせてあげて」

意味がわかってきた。

 俺が赤ん坊のころ、俺は妹ばかり構う両親を相手に大暴れしたことがあると聞いた。

 お母様がまじめな顔で続ける。

「…赤ん坊のころから、美沙と真奈美をお風呂に入れてあげても、つい美沙ばかりかまっていた気がするわ。あの子、私や夫にお風呂で甘えたことがほとんどないの。だから、甘えたいというなら、甘えさせてあげてくれない?お願い」

赤ん坊だった俺は、妹に嫉妬して暴れた。あの弱気な真奈美さんは、暴れずに自分のなかに寂しさを溜め込んだのだろう。寂しさという言葉も知らないころに。

「…はぁ。まぁ、それじゃあ、その…えと…み、水着着用で…」

妥協案を提案する。

「水着無しのほうが、直人くんにも得があって公正な取引かと思ったんだけど」

ひょっとして三人でという提案は、俺が真奈美さん一人の裸では手を打たないとでも思われちゃっていたんだろうか。ひどい誤解だ。というか、そんな取引をしたらまっすぐ地獄行きだ。臨死体験済みの俺は、ちゃんと地獄があるって知ってる。

 

 俺は、水着に着替えた真奈美さんが住宅の二階から階段を下りてくるのを階段の下から見上げている。

 水着姿というのは、いやらしくないはずなのだが。なんだろう。このモヤモヤくる感覚は?真奈美さんの着ている水着がパツパツのスクール水着だからだろうか。

「そういえば、真奈美って小学校のころの水着しか持ってなかったのねー。今度、直人くんと買いに行くといいわー」

そうか。真奈美さん、中学生のころから保健室登校だもんな。水泳の授業に出るはずがないよな。

 水着姿はいやらしくないが、高校三年生の真奈美さんが小学校のときのスクール水着を着て、住宅の二階から降りてくるのは、いやらしいかもしれない。倒錯と言ってもいい。とは言え、美沙ちゃんだったら完全にアウトだが、真奈美さんだとセーフの可能性がある。手足はすらっと長いけれど、中身は子供みたいなものだからだ。見ろ。真奈美さんが抱えたバスタオルに乗っているサメさんとアヒルさんとカメさんとイルカさんとカエルさんを…。完全に子供だ。

 それでも、あまり真奈美さんを見ていると変な気持ちになりそうだ。

 目をそらす。

 わぁ。

「な、なんで、水着着てるんです!?」

目をそらした先で、お母様が白のワンピースタイプの水着姿になっていた。脚、長いなぁ。ウェストもすらっと締まっているし。モデルさんみたいだ。

「あれ?私は、水着着ちゃいけなかった?じゃあ、脱ごうかしら?」

「そういう意味じゃなくて!い、い、一緒に入るんですか?」

「三人で湯船に入るとぎゅうぎゅう詰めになっちゃうから、二人で入ってくれたほうが助かるけど…」

ぎゅうぎゅう詰めだと?視線が、ぎゅうぎゅう詰めになった際に、ギュウギュウな部分に向いてしまう。さすが美沙ちゃんのお母様と言うべき、美しい丸みを持つ部分を見てしまう。

 いかん。いかん。人妻で美沙ちゃんのお母様で、真奈美さんのお母様。ここでよこしまな気持ちをもったら地獄送りになる。俺は知っている。

「ふ、ふたりで入ります。入りますってば」

今の俺の状態は、エッチラノベのタイトルに使える。『美人妻に童貞の俺が翻弄されて、もう言いなり』という状態だ。

 言いなりになって、真奈美さんを連れてバスルームに向かう。

 ぽいぽい。ぽちゃぽちゃ。

 真奈美さんが、お湯を張ったバスタブにおもちゃを投入する。サメさん、カエルさん、カメさん、アヒルさん、イルカさんがお風呂に浮かぶ。仕上げに真奈美さんがバスタブにダイブする。前後とも腰まである長い髪がお湯に広がって、不思議水棲生物みたいになる。

 ぴゅー。

 サメさんの水鉄砲に攻撃された。やっぱり真奈美さんだ。なんだかほっとする。緊張してたさっきまでの自分がバカみたいに思える。こっちも水着を履いていることだしな。

 ぴゅーぴゅーと連射される攻撃をとりあえず無視して、かけ湯をする。

「ちょっと詰めて」

真奈美さんにスペースを作ってもらう。イルカさんと、カメさんと、カエルさんも避けつつ、バスタブに脚を下ろす。サメさんが寄ってくる。押しのける。アヒルさんが…。多いな。おい。

 二人で入ると、お湯があふれる。

「あ」

「あ」

 流れ落ちそうになるカメさんたちをお手玉のように次々に救う。おもちゃの数、多いよ!両手で押さえきれないじゃん。水の流れが落ち着き、一息入れる。お湯の温かさに、気持ちも緩む。うちの風呂よりずいぶん大きいな。うちの風呂じゃ、二人同時には入れない。そう思いつつ、装填の完了したサメさん水鉄砲で反撃する。真奈美さんが右手にカエルさん。左手にイルカさんを持って反撃してくる。それ、水を発射できたのか。ぶべべべべ。打ち返す。こちらの攻撃は前髪に阻まれる。ずるくないかそれ。

「真奈美さん、ずるい。あと髪、もっと大事にしないと荒れるよ」

手を伸ばして、真奈美さんの真っ黒な髪を丸めて軽く絞る。濡れているのに、するするとしなやかだ。本当にいい遺伝子してるな。頭の上にゆるく縛って乗せる。

 とりゃ。カメさんの背中を押して、水を発射する。

「ひゃん…」

ようやく友軍の攻撃が真奈美さんに命中する。

 しばし、真奈美さんカエルさんイルカさんの連合軍と、俺とサメさんカメさんの同盟軍の海戦が続き、中立のアヒルさんが波打つ水面を泳ぐ。

 停戦して、真奈美さんが遊び始める。セルロイド人形の顔をお湯に火照らせてソフトビニールの動物たちと遊ぶ真奈美さん。距離数十センチの横顔には現実味がない。髪を頭の上でしばった真奈美さんは、本当に動くお人形さんだ。しみひとつどころか、ほくろひとつ見当たらない肌。うっすらと細い眉。長いまつげが、柔らかなカーブを描く二重のまぶたを飾る。すらりと通った鼻筋と桜色の唇。華奢なあごのライン。耳は、普通のまるい耳だ。ふと臨死体験で見た耳のとがったワルキューレさんを連想した。この世のものじゃないと言われたほうが自然に思える真奈美さんの素顔。

 ひとつ瞬きをして鳶色の瞳が、見とれていた俺を見る。

 浮かぶイルカさんが波に揺れて、真奈美さんが少し身を引く。

「なおと…くん」

真奈美さんがきれいな顔の下半分を水に沈める。ぶくぶくぶくぶく。

「話すなら、水から口を出さないと…」

真奈美さんが、顔を上げる。

「なおとくん…わ、わたしの顔…」

「うん。顔?」

少しどきりとする。見とれていたのに気づかれた?

「…きもちわるく…ない?」

え?

「気持ち悪くなんてないよ。なんで?」

「…わたしの顔…変…じゃない?」

そういえば、真奈美さん、以前もそんなことを言ったことがあったっけ。たしかに普通じゃない。普通じゃないことは変なのだろうか。普通じゃないよと言うのが、真実だろう。

「俺は、真奈美さんの顔、好きだよ」

ちゃぷん。

 お湯が音を立てる。

 鳶色の瞳と、人形の顔が近づき、視界の端に消える。代わりに暖かな圧力と裸の胸に水着の布地のざらざらとした感触を感じる。

 ちゃぷちゃぷと、バスタブのふちでお湯が音を立てる。

 花のような真奈美さんの香りを感じる。頬に真奈美さんの細い首。あごに、剥き出しの肩。腕の中に真奈美さん。華の香りの華奢な身体。

 俺、流されてるな。

 お湯の中だけに…。

 真奈美さんが、しがみつくのをやめる。バスタブの中でくるりと背中を向けて、俺に預けてくる。腕をつかまれて、おなかにまわされる。

 …甘やかしてやって。

 真奈美さんのお母さんの言葉を思い出す。

 そうだな。甘やかそう。

 そのまま真奈美さんのおなかに背後から腕を回して、抱きとめたままにする。

「きもちわるくない?」

「気持ち悪くないよ」

「人形みたいじゃない?」

「真奈美さんの顔、好きだよ」

それだけ話して真奈美さんは、またアヒルさんとカメさんと遊び始める。まるで子供だ。着ている水着も小学校のスク水だし。子供だ。

 この子供みたいな真奈美さんとエッチなことになる気がまるでしない。

 お風呂に一緒に入るなんてことで、変な緊張をしていた自分がバカみたいに思える。

 これなら、水着着用じゃなくても変な気持ちにならない。

 お湯の中、おもちゃで無邪気に遊ぶ真奈美さんの背中を感じながら、そう思った。あたたかなお湯と真奈美さんの華奢な背中に心がゆるんでいく。

 

「…ふ、拭いて」

お風呂から上がって、真奈美さんがバスタオルを差し出してくる。人形みたいな綺麗な顔で、すらりとした身体を小さすぎるスク水に押し込んで、全身からしずくを滴らせた真奈美さんがバスタオルを差し出してくる。俺にタオルで身体をぬぐってくれと差し出してくる。ついさっき、真奈美さんにエッチな気分にならないなんて思っていた俺の愚かさにめまいがする。

 でも断れない。断ったら、もしかしたら俺が真奈美さんの顔を気持ち悪いと思っていると誤解されてしまう。本当のことだぞ。もちろん、男子高校生の当然の欲望として、タオル越しにでも、この市瀬美人遺伝子ボディを拭いてみたいなとも思った。正直に言うよ。

 バスタオルを受け取って、上からかぶせる。まず髪を絞るようにしながら拭く。顔を包んで拭く。首周り。肩…。華奢だな。シャープな肩のラインを撫でながら改めて思う。背中。さすがに胸はすっ飛ばして、おなか辺りを拭く。真奈美さんの前にしゃがみこんで拭いていると、なんだか変な気持ちになってくる。これって、けっこうハイレベルなプレイじゃないだろうか。恋人同士でも、やらないんじゃないか。まさか、橋本は東雲さんにやってるのか。あの変態野郎、早く爆発しないかな。真奈美さんの脚を一本ずつ包むようにして拭く。完全に真奈美さんの足元に這いつくばる姿勢になって、自分のマゾ神経がスパークしてる気がする。やばい。これは、何度かやっていたら、変態神経結節が励起されやすくなりそうだ。

「ふ、ふけたよ。む、胸とお尻はじ、自分で拭いて…」

真奈美さんにバスタオルを返す。真奈美さんは黙って、拭き残した胸とお尻と脚の間を拭く。俺は目をそらしながら、鏡の中の真奈美さんを見る。髪を頭の上で軽く結んだ真奈美さんは、鏡の中のアリスだ。鏡の中にしか存在しない不思議な妖精に見える。

 視界が真っ白に遮られる。

 バスタオルの感触。ソフトな指先が俺の髪を拭いていく。顔まで拭いてもらうと、視界がクリアになる。目の前に真奈美さんの頭が見える。俺の左腕を取って、丁寧に水気をふき取っていく。右腕。そして胸。腹。真奈美さんが俺の前にしゃがみこむ。

「ちょ、ちょっと待った!」

目をそらして、鏡の中を見た瞬間に叫んでしまう。

 たいへんな事態が起きていた。鏡の中で海パン一丁の男が、お人形みたいな美少女にパツパツのスク水を着せてひざまずかせているんだ。

「なに?」

真奈美さんが、まっすぐに見上げて尋ねる。今すぐ、目の前の変態から逃げてー。とは言えない。なんと言っても、その変態は俺自身。

「じ、自分で拭くよ」

鏡から目をそらして身体を拭く。危ないところだった。人間として間違うところだった。

 

 着替えて、真奈美さんの部屋でレモネードをいただく。蜂蜜の甘みと、レモンの酸味が絶妙だ。なにを作ってもおいしく、しかもレパートリーも豊富。真奈美さんが厨房を担当して、美沙ちゃんがウェイトレスをして喫茶店をやれば、ミシュランが五つ星をつけるだろう。そういえば、ミシュランってのはタイヤメーカーで、自動車で旅行に行く先のホテルやレストランに評価をつけ始めたのが始まりなんだと誰かから聞いた気がする。嘘かもしれないけど…。

 真奈美さんは、また俺のひざの上に乗ってノートにちまちまと絵を描いている。いつものノート見開きいっぱいに小さなモノを埋め尽くす絵だ。

「真奈美さん。その絵は、なぁに?」

「絵本」

真奈美さんの中では、ストーリーがあるんだな。

 真奈美さんとの過ごし方はいつもと変わらない。俺は真奈美さんに本を借りて、床に脚を投げ出して読む。その上に真奈美さんが乗っかって、ノートに絵を描く。

 変わりがあるとしたら、真奈美さんの前髪が左右に分かれて後ろに流れていること。

 真奈美さんの顔が出ている。顔を出していても、前髪で隠していても真奈美さんは真奈美さん。やることも変わらないし、膝の上にかかる重さも体温も同じ。同じ重さを感じながら、俺は読みかけの本に戻る。

 本を一冊読み終わり、真奈美さんが見開きをひとつ埋め尽くすころ玄関の開く音がした。

「ただいまっすー」

聞きなれたアホ元気な声だ。ただいまじゃねーよ。おじゃましますだ。あとで、ちゃんとしつけをしておこうと誓う。

「あれ?にーくんもいるっすかー」

「うん。お兄さんの靴だね。左のかかとが四日前から少し剥がれかけだから…」

静かな市瀬家は、階下の会話も聞き取れる。美沙ちゃん、あいかわらずだな。そろそろ慣れてきたけれど、慣れちゃいけない事柄だろうか。

 軽い二つの足音が階段を昇ってくる。

 真奈美さんが、前髪をばさばさと戻す。まだ、妹や美沙ちゃんには素顔を見せたくないらしい。そのほうが真奈美さんが落ち着くなら、それでいいと思う。

「にーくん、ただいまっすー」

ドアが雑に開けられて、雑な妹が、雑にまちがった挨拶を言う。

「ただいまじゃねーよ。おじゃましますだろ」

アホ妹の間違いを訂正する。真奈美さんが脚の上で、陸に上がったワニみたいに伸びているから体罰が実行できない。罵倒を混ぜて体罰の代わりにすべきだろうか。

「まさか、二人におじゃまなんですかっ!?」

「ちがうよ!別にやましいことはしてないよ!」

危ない!美沙ちゃんが変な勘繰りをした。俺も真奈美さんも等しく危険にさらされた。瞬間で否定し、美沙ちゃんの精神の安定を図る。

 目からハイライトを消した美沙ちゃんが、一歩で俺の襟元まですっ飛んできて襟首に顔をうずめる。

 すぅーぅぅぅううー。

 そのまま、高い鼻から思いっきり息をすいこむ。やばい気配だ。

「うちのボディソープの匂いがします!」

美沙ちゃんの右手が右の襟を、左手が左の襟を握って締め上げる。両襟絞めだ。こぶしが上手に頚動脈を圧迫している。やばい!やられる!

「まさか!お姉ちゃん、私のお兄さんになにかしたのっ!?」

「美沙っち、落ちつくっす!」

落ちる寸前に妹が、俺の襟を解放してくれる。あぶなかった。

「おふろ…はいったの…いっしょに…」

膝の上から、上半身をひねって美沙ちゃんのほうを見ながら、真奈美さんが爆弾白状をする。

「一緒にお風呂!?私のお兄さんと!?」

美沙ちゃんが絶叫に近い声をあげる。ご近所が心配になるレベルだ。美沙ちゃんの視線が、机のほうに飛ぶ。俺も視線の先を確認する。掃除しすぎている真奈美さんの机の上には、ハサミやカッターなど置いていない。部屋を綺麗に掃除にしておくと言うのは安全管理の面でも重要だと学んだ。

「美沙っち。落ち着くっすよ!にーくんは、私の実兄っすし、むしろ美沙っちのお義兄さんになっていいんすか?」

妹が、美沙ちゃんの両腕をホールドして押さえ込みながら落ち着かせようとする。そこに、さっきの絶叫を聞いたお母さんも援軍に来る。

「あらあら。美沙。大丈夫よ。水着着て、お風呂で遊んだだけだもの」

「…本当に、水着着てたんですか?」

「あ、当たり前だよ!」

一瞬でも、水着着なくても大丈夫だったなとか思ったと言うのは秘密だ。あと、バスタオルでお互いの身体を拭きあったとかも秘密だ。黙秘する。

「じゃあ、美沙も真菜ちゃんも直人くんとお風呂入ったら?外で遊んできて、汗もかいたでしょ」

お母様が、とんでもない提案をする。実の妹がいて、美沙ちゃんと混浴とか、俺の高校三年生の肉体は困っちゃうぞ。たぶん。

 ほら見ろ。

 美沙ちゃんも、肩を怒らせたまま顔を真っ赤にしているぞ。怒りでなのか、照れているのかわからないけれど。

「そうですね。そういえば、お兄さんに選んでもらった水着、見せてなかったし…お、お姉ちゃんなんて、小学校のころの水着しかなかったでしょ」

つんっとそっぽを向く美沙ちゃん。ツンデレだ。可愛すぎるぞ。

「にーくん的には、小学校のころのスク水のほうがボーナスポイントついているっすよ」

バカ妹が、余計なことを言った。あとで絶対に折檻する。

 予想通り、美沙ちゃんの目からハイライトが消えている。

「お姉ちゃんなんて、所詮Bカップだもん…」

ハイライトを消したまま、美沙ちゃんが自分の部屋へと消えて行く。

「お前も行け」

「言われるまでもないっす」

妹も美沙ちゃんを追いかける。自分の部屋で刃物を調達させてはいけないから、妹をストッパーに送り込む。俺が突入するのはできない。部屋で、水着に着替えてる可能性があるのだ。

 つーか…。

「直人くんには、美沙の水着はご褒美?」

お母様が、答えにくい質問を投げてくる。もちろんご褒美だけど、当人の母親にそれを言うのはハードルが高すぎる。

 答えに窮していると、お母様が言葉を続ける。

「やっぱり、あのくらい胸があると気になるわよねー。真奈美…」

真奈美さんに話が振られる。

「気を落とすことないわよー。好きな人に揉んでもらうと大きくなるわよ。私もそうだったし」

視線が、美人お母様の胸元に落ちてしまう。今日の市瀬家は、俺にとっては煩悩の館だ。精神力が試されている。真奈美さんが身体を起こし、自分の胸元に視線を落とす。両手をジャージの胸に当てて、ぷにぷにと押している。美沙ちゃんほどではないが、妹ほどの完全ゼロというほどでもない。ちゃんとそれなりに膨らんでいる。平均よりは小さいと思うけれど。

 そして、戻した前髪の間から俺を見上げて言う。

「揉んで、くれる?」

たいへんにうれしい申し出だけど、揉んでいるところに美沙ちゃんが戻ってきたら死ぬ。

「ま、またいつかね」

「…うん」

いつかって、いつだ?

「待つっすー。美沙っちだめっすー」

向かいの部屋から妹の絶叫と何かを阻止する衝撃音が聞こえてくる。あらあらと、のんきな声を出してお母様が様子を見に行く。ドアの隙間から、一瞬白い肌とオレンジ色のバスタオルが見えて、すぐにドアが閉まる。

「あらあら、美沙。だめよー。十八歳未満じゃだめなのよー」

「だって!お姉ちゃんがスク水で、お兄さんを惑わしに来たんだよ!もう全裸しかないじゃん!」

ぶばぁ…。全身の血液がめちゃくちゃな方向に流れて、めまいがした。ドアの向こうでなにが起きているんだ?!圧倒的な煩悩圧で俺の精神が崩壊しそうだ。負けるな俺の心。

「み、美沙ちゃん!べ、別に真奈美さんに悩殺されてないから!」

ドアに向かって叫ぶ。本当のことだ。お風呂での真奈美さんは、完全に子供で官能とは無縁だった。

 それにしても妹がスク水でボーナスポイントとか余計なことを言っていなければ、普通に美沙ちゃんの水着姿が見れるくらいのボーナスステージで済んだのに、妹が余計なことを言ったおかげでボーナスステージでラッキースケベじゃすまなくなったじゃないか。あのバカめ。

 

 結局、夕食まで市瀬家でごちそうになった。

 少し大きめの市瀬家の食卓は、俺と妹が増えても十分に座るスペースがある。

「真奈美、左右分けてた髪もかわいかったわよ。もうやらないの?」

お母様が、柔らかな表情で言う。ダンディお父様も目を細めて、見てみたかったと言う。真奈美さんは無言で前髪の間から、俺を見つめる。

「にーくんは、きっとツインテが好きっすよ」

今日の妹は、どうあっても俺をガチロリにしたいらしい。俺が好きな髪型は、ボブカットだ。ちょうど美沙ちゃんみたいな、長めのボブがいい。

 そう思いながら美沙ちゃんを見ると、にこっと笑ってくれる。かわいい。超かわいい。

「ツインテの方がいいですか?」

美沙ちゃんが、両手で横の髪をつまんで尻尾を二つ作ってみせる。首をかしげて、両手を頭の横にちょこんと当てるしぐさ。

 うむ。

 俺が好きな髪型はボブカットだと思っていたのだけど、ツインテールだったかもしれない。

「にーくん、きっと明日には私にツインテを強要してるっすよ」

「しねーよ」

妹の体格でツインテとか、ロリキャラすぎて学校で小学校はあっちだよと言われるレベルである。あと上野が八代さんがいるにもかかわらず、確実に浮気する。それはちょっとメシウマだな。やってみようかな。

 帰り際、お父様が車で送ってくれると申し出てくれる。妹が勝手にお願いして、断るタイミングを逸した。車に乗る。俺が助手席、妹が後部座席に座る。エンジンがかかり、じわじわっと車体が持ち上がる。車には詳しくないのだけど、変わった車なのは間違いないな。ダンディなお父様は趣味人だ。どんぶらこ、としか形容のしようのない乗り心地の車内で、お父様が渋い声で静かに言葉をつむぐ。

「真奈美は、直人くんがいると普通の女の子になってくれるな」

彼氏でもない俺と一緒にお風呂に入りたがるのは、普通じゃないと思う。同時に、格段の進歩もあるなと思う。今日は俺といるときだけだけど、前髪も分けて顔も見せていた。たしかに、そろそろ個性の範囲内に入ってきた。

「次の目標は、にーくん離れっすよー」

赤信号で止まったところで、後部座席の妹がシート越しに俺の顔を抱え込む。ダンディお父様が、顔をこちらに向けて、妹に視線をやる。

「そうだな。真菜ちゃんから、お兄ちゃんを取ったりしないようにしないとな」

落ち着いた優しげなお父様の顔を照らす光が赤から青に変わり、静かに車が加速する。次の角を曲がれば、家に到着する。

 

(つづく)


 
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