No.575821

あの日言えなかった言葉を… (4)血の因縁

小五郎らは依頼人・小梅と共にスカイツリーに向かうが、小梅の容体が急変。そして登場人物らは、それぞれ真実に向かって動き始める―――

2013-05-13 01:31:46 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:15029   閲覧ユーザー数:15021

小五郎・安室透・上村小梅の3人は、JR押上駅にいた。JR米花駅から電車に乗り、この駅のすぐそばにある、今一番話題の建造物―東都スカイツリーにやってきたのだ。昨日の昼もやってきたのだが、小梅の恋人・湯沢勉の姿はどうしても見つけられなかった。再度電話すると、今日は勉が疲れたといったから買い物を早めに切り上げて帰った、また明日スカイツリーに来るからそこで落ち合いたい、ということで、昨夜は一旦家に帰ってから出直してきたのだ。

「どひぇぇ~、さっすがスカイツリー。やっぱりデカいねぇ!!」

小五郎が感心しながら、首を思いっきり上に向けて見上げた。

「いててて……」

あまりにもスカイツリーが高くてそれ以上見上げられなくなった小五郎は首をもみながら顔を戻した。

「さて、どうします?小五郎先生。ソラマチの中を闇雲に探すのは酷ですよ。勉さんにまた電話を掛けますか?」

「そうだな。昨日電話で、また来るってちゃんと言ってたからな……電話して、どこで待ち合わせるか聞こう」

小五郎は携帯電話を取り出して、発信履歴から電話を掛けようとした。

「……小梅さん、どうしました?」

安室の声に、小五郎は振り向いた。小梅が車いすの上で体をかがめている。

「す、すみません……ちょっと眩暈がしまして……」

手を貸す安室の横で、小五郎は心配そうに言った。

「お疲れになられたんでしょう。ただでさえ都会のど真ん中ですし……近くで冷たい飲み物でも買って、それを飲めば落ち着きますよ」

「え、ええ、そうですね……」

小五郎は、安室に車いすを押すように頼み、周囲に自動販売機が無いか探しに行こうとした。ふと見上げると、電光掲示板でニュースが放送されていた。

『昨夜10時頃、警視庁の地下駐車場にて警視庁捜査一課の目暮十三警部が何者かに刃物で刺され重傷を負いました。警部の詳しい容体は分かっていません―』

「め、目暮警部が……」

「どうしたんですか!?しっかりしてください!!小梅さん、小梅さん!!」

唐突に安室が叫び、小五郎は急いで小梅のもとに舞い戻った。小梅は、車いすの上でぐったりしている。肌が蒼白になり、呼吸も荒くなっている。

「ど、どうされました!?小梅さんっ!?」

安室は、急いで小梅の脈をとった。

「心拍数がかなり上昇してますね」

安室の顔が真剣になった。

「ど、どうなってんだ!?」

「分かりません……しかし、ただ具合が悪いだけとは思えません」

「今すぐ、病院へ運ぶぞ!!」

「えっ!?運ぶって……私たち、電車で来たんですから、車なんてありませんよ!!ましてタクシーじゃ……」

「バッカヤロウ、救急車に決まってんだろ!!早く呼べっ、安室ォっ!!」

「は、はい!!」

安室は慌ててスマホを取り出し、電話を掛けようとした。しかし一瞬。誰かの視線を感じて、少し周りを見渡した。

「何やってんだ!早く呼べっ!」

安室は、119と入力し発信した。それを、かなり遠く―スカイツリーのふもとで、沖矢昴が見つめていた。沖矢も電話を取り出し、誰かに掛けた。

その日の早朝は、秋らしく寒い朝だった。氷の如く張りつめた空気の中、朝日が都会のビル群を照らし出した。同じ朝日は、今ではすっかり寂れた廃工場地帯にも降り注ぐ。

その空気を破るように、ケータイの着信音が鳴り響いた。すると、さっきまでピクリともしなかった青いビニールシートがガサッと動き、人影が這い出てきた。そしてゆっくりとぎこちない手つきで電話を取った。

「もしもし……」

『ちょっと、どういうつもり!?映像を送ってくるだけで、何も連絡無いなんて!』

「あぁ、スマンスマン……」

電話の相手が哀だと分かった平次は、少しほっとした。が、すぐに表情が曇った。

『今まで、一体何してたのよあなた!!』

哀の声に、平次は顔を伏せる。

『ちょっと、聞いてるの!?』

平次はしばらく黙って哀の怒号を聞いていたが、おもむろに重い口を開いた。

「なぁ……オレ、もうあかん……」

『え?何言ってるの?』

「オレ、とんでもない事してしもた……」

『とんでもない事って?』

「……犯人にゆわれてな……こうせな、あのボウズ殺したるって……もう、どうにもできんで……人、刺してしもうた」

張りつめた沈黙が流れた。

『……い、今何て?』

「刺してしもたんや……もう、探偵……いや、人間失格や……あのボウズ助けなあかんのに、なんちゅうアホな事してしもたんやオレ……」

『ち、ちょっと待って!!どういう事なの!?ちゃんと説明して!!』

「言うたやろ、人、刺してしもたて……ナイフで……」

『ど、どうして!?』

哀は混乱した。

「あの後な、犯人が言うたんや……ある人刺さんと、工藤殺す、て……工藤殺して、俺も殺すて……オレ、そないなアコギな手に乗らんでも、絶対工藤助け出したるて、そない思っとった。でも奴は、工藤の画像送ってきてな、工藤刺そうとしやがったんや。せやから、オレ、止めて……そしたらアイツ、『だったら指示に従え』て言うんや。それかて、オレに出来るわけあらへんかった……そしたらアイツ、『お前の命はすでに私が握っている』って抜かしよって……ほんで……」

平次はそこまで言って、苦しげに腹の辺りをさすった。

「撃たれてしもた……」

哀は、座っていた椅子から飛び降りた。阿笠博士は、不安げに哀を見つめている。その後ろには眼鏡を光らせた沖矢がいた。

「う、撃たれたってどういう事よ!?」

電話の向こうの平次の声は弱弱しかった。

『アイツ、最初は工藤に対して使うつもりやったんやろな……ボーガンが呼び出されたトコに仕込んであって、見事腹に命中や……ほんでアイツ、オレが従わんかったら、工藤と親しい奴ら全員こうなるて抜かしよった……『工藤に関係あるモンを苦しめるのが最上の喜びや』って……毛利のオッチャンの娘がガールフレンドやっちゅう事も、ちょっとちゃうけど、コナン君が工藤の知り合いで、コナン君の周りには少年探偵団やっとる子たちがいるっちゅう事も知っとって……狂っとる、ホンマ……』

「だ、大丈夫なの?」

『大丈夫なわけあるかい……』

平次は、傷口を庇いながら日陰へ移動した。

「どっちかって言うたら深いわ……でもあの卑怯モン、犯行に使うルートは全部指示したトコしか通られへんて言うて、その道は全部カメラで監視しとるよって、ちょっとでも道外れたらボウズの命は保障できへんって……しかも、オレがちゃんとやったかどうかはテレビのニュースでチェックするさかい、ホンマにやらんとアカンて……」

『だからって、本当に人を刺したの!?』

「アホ……そないなつもり毛頭あらへんかった……その人には事情話して刺された振りしてもろて、ニュースには『刺されたらしい』くらいに情報流れたらエエと思たんや……カメラの隙にあった店で血のりと偽モンのナイフ調達して、警視庁に行ったんや……」

『け、警視庁!?』

「ああ……もう、ニュース流れてる頃とちゃうか……?」

哀は急いでテレビをつけた。丁度ニュースが始まっていた。

『朝生7、最初のニュースです。昨夜10時頃、警視庁の地下駐車場にて警視庁捜査一課の目暮十三警部が何者かに刃物で刺され重傷を負いました。警部の詳しい容体は分かっていません。警察は殺人未遂事件として捜査しています―』

「これね」

哀は画面を険しい顔で見つめる。それから、アダプタにつなぎっぱなしのスマホに目を向けた。小さな画面の中には、7時から配信されてきたコナンの画像が映っていた。画像は1時間ごとに平次のケータイに送られ、それを自動的に哀のスマホに転送する設定にしていたのだ。

「ちょっと待って」

哀は眉根にしわを寄せた。

「あなた、偽物のナイフを用意したって言ってたわよね?どうして目暮警部が実際に怪我をしているの?」

『分からへん……』

平次は頭を抱えた。

「血のりと偽ナイフ持って警部に近づいて……オレ、ちゃんと話したろって思っとったのに、あっちはオレを見てメッチャ慌てて……ま、目の前にナイフ翳した男立っとったら当然そうなるわな……でも、刺さんでも刺されたて思ってくれたらええかと思って、警部と揉み合いになって、そんで……」

平次は左手で顔を覆った。

「警部が、急に呻き声を上げて……倒れてしもて。気ィついたら、警部の胸に本物のナイフが突き立っとったんや……」

哀は息をのんだが、すぐに冷静になって考えた。

「待って。おかしくない?あなたは、偽物のナイフを用意したんでしょ?どうして、本物のナイフが警部に刺さっていたの?」

その言葉に沖矢が反応した。

「犯人が現場に来ていて、その平次君と揉み合っている間に刺した、という可能性も考えられますね」

哀は沖矢を一瞬睨んで、

「それも一理あるわね」

と言った。

「犯行時間が夜10時だし、ただでさえ地下の駐車場は暗いでしょうしね」

『せやけどな……オレ、思たんや……オレ、犯人にマインドコントロールされて、ホンマに警部刺してしもたんやないかって……オレ、そないな殺人鬼になってしもたんかのォ……』

「何言ってるの!!」

弱気になっている平次に、哀が一喝した。

「それでも、あなたは工藤君と並び称されている高校生探偵なの!?気を確かに持ちなさい!あなたが偽物のナイフを準備していたのなら、犯人は別よ!そしてそれは恐らく工藤君を攫った犯人と同一人物!だからあなたは、一刻も早く工藤君を助けて、犯人を見つけ出すこと。私たちも、出来る限り協力するわ。だから、あなたは高校生探偵・服部平次として、堂々と事に当たること。いいわね!」

『あ、ああ……』

平次の声は少し明るくなった。

『せやけど……傷が痛ォて、うまいこと動かれへん……』

「では近くにある町医者を教えますから、そこで応急処置を受けてください。鳥矢町7丁目なら、近くに松岡医院があるはずです」

沖矢が、哀の後ろから電話を取った。

『は?何で、オレが鳥矢町7丁目にいてるて……』

「簡単なことですよ。後ろに、工場の時報が聞こえるでしょう?あれは鳥矢町5丁目にある安岡工業団地から聞こえてくるものです。しかし君の周りにはビル風が吹いています。けれども鳥矢町はほとんど住宅街でビル風は吹きにくく、かなりの範囲で低い建物が少ない。安岡工業団地は低い建物が多くてまたビル風は発生しにくいです。さらに現在北西の風が吹いていることを踏まえると、北西方向には音が届きにくい。しかし、安岡工業団地に近い、ビル風が発生しうる高い建物で、なおかつ人を刺したと思った君が隠れそうな建物は、安岡工業団地の近くにある、坂田廃工場群しかないというわけです。まぁ、7時4分発の米花線の踏切の音が聞こえたというのも決め手の一つですが」

『や、やるのぉ兄ちゃん……』

平次は感心した。

「とにかく、あなたは早く医者にかかって処置を受けなさい。私たちはその間、出来るだけの情報を集めておくから」

哀が毅然とした声で言うと、平次は「頼む」と言って、電話を切った。哀は、電話を傍らに置くと、コナンの映像の分析を始めた。博士はそれを横から見、沖矢は少し離れて見ていた。沖矢は珍しく目を開けていた。その眼もとには隈があった……

 その前の晩、蘭と和葉は毛利探偵事務所で連絡を待っていた。2人は交代でトイレに行ったり、用事を済ませたりしていたが、平次や小五郎からの連絡は一向に無かった。(時々、依頼人から確認の電話が入って、待ってましたとばかりに飛びついてしまったことはあるが)夜遅くになって、蘭はサンドイッチを作り、事務所に降りてきた。

「わあぁ、美味しそうやね、蘭ちゃん」

和葉はわざと明るく言って、「うーん、おいひぃ~」とか言いながら頬張った。蘭は、サンドイッチの端をかじりながら、不安げに床を見つめていた。和葉は、暗い蘭の顔を心配げに見つめていたが、しばらくして切り出した。

「なぁ、蘭ちゃん、テレビ見ぃへん?何かおもろい番組やってるかも知れへんで!」

「うん……」

蘭からは曖昧な返事しか返ってこない。和葉はゆっくりリモコンを取ってきてスイッチを入れた。お笑い番組が放送されていた。

『なぁ~にやっとんじゃお前!!オレが持って来い言うたのはドコモや!コドモやない!!オレはケータイ持って来い言うたんじゃ!!これじゃ誘拐やないかい!!』

『あ~、間違えてもうた~!!』

蘭の目がハッとなる。和葉は蘭の変化を察知して、チャンネルを慌てて変える。そこでやっていたのは過去の凶悪事件のプロファイリング特集。別のチャンネルでは、過去に誘拐事件で殺された子供の霊を呼び出す霊媒師がゲスト出演している。和葉はとうとうテレビの電源を切ってしまった。蘭はますます顔を伏せてうつむいている。

「なぁ、蘭ちゃん……?」

和葉は、蘭の顔を横から覗き込むが、蘭は反応しない。和葉は椅子を蘭の隣に置いて座った。今の蘭に和葉ができることは、そばにいる事だけだった。

「ねぇ、和葉ちゃん……」

しばらくたって、蘭がおもむろに口を開いた。

「……なぁに?蘭ちゃん」

「このままでいいのかな、私……」

「え?」

意外な問いかけに、和葉はキョトンとした。

「な、何言い出すん?蘭ちゃん……」

「だって、私たち、ただここにいるだけじゃない……」

「ただ、って……ウチら、平次に言われて、何かあったらいつでも対応できるように電話守てるんやないの?」

「そうだけど……私たち、何もできないじゃない……服部君もお父さんも、安室さんも、コナン君のために必死になってるのに……それにこうしてる間に、コナン君が……!!」

蘭の言葉には力が入り、涙目になっていた。

「だ、大丈夫やて!そのうち平次が、ちゃんとコナン君連れて帰ってきてくれるて……」

「いつ?」

蘭の語気が強まった。

「コナン君が大変なことになってるのに、私たちだけこんなのうのうとしてられるわけないじゃない!!」

「のうのうって……ウチら、何にも手がかりあらへんのに、どうする言うん?」

戸惑う和葉に、蘭は言い放った。

「探しに行くのよ!コナン君を!!」

「えぇ?」

和葉は訳が分からへんという顔で蘭を見る。

「探すて……どないして!?」

「それはもちろん……捜査の基本中の基本―捜査は足で、よ!!」

 コナンは暗闇の中目覚め、自分がどこかに拘束されていることを悟った。何とか逃れられないものかと、少しもがいてみたが、椅子に縛りつけられた縄はビクともしない。

(クソッ、糊で固めてやがるのか……!!)

コナンは悔しげに息を吐いた。ガムテープで口をふさがれているため、声も出せない。コナンは目を閉じた。

(思い出せ、こうなった経緯を……)

確か、朝に昴さんから、小梅さんからの手紙を受け取った。中には国立妖怪博物館1階、常設展示室Bの前で会いたいと書いてあった。博物館の前まで来てから、手紙を置き忘れてきたことに気付いたが構わず中に入り、常設展示の百鬼夜行絵巻を眺めていたら……突然、後ろから薬を嗅がされたのだ。犯人の顔は分からない。

(まさか、小梅さんがオレを誘拐したのか?でも、彼女は……)

コナンは顔をしかめる。だんだん暗闇に目が慣れ、小屋の中が細部まで見えてきた。小さなログハウス風の山小屋のようで、コナンの正面に窓がある。左手には火の気の全くない暖炉があり、窓の下では爆弾らしきものがカウントを減らしている。近くには携帯電話らしい小さな明かりもある。

(なるほど……犯人は、オレを誘拐して、誰かに何かをさせようとしてんだ。そして最終的には相手をここに呼び寄せ、人質もろとも吹っ飛ばす気だな。でも、何を、どうして……?)

コナンは考えながら、目だけを動かして周りを見回す。右を見たとき、コナンの顔つきが変わった。

(!! まさか、これって……)

急に慌てふためいたコナンは、縄を解こうと再び動き出した。手足を何度も動かし、縄を緩めようとした。荒縄と皮膚が激しくこすれ血が出てきたが、コナンは構わず続ける。コナンは息を荒くしながら、何時間も縄と格闘し続けた。

ふと気が付くと、窓の外がうっすらと白み始めていた。

コナンは、フーッと大きく息をついて、背もたれに深くもたれかかった。何時間も動き続けていたため、疲れてしまったのだ。縄は若干緩んだように感じたが、まだ外れそうにない。コナンは頭がくらくらして、目を閉じた。心なしか、息が苦しくなったように感じる。ずっと馬鹿みてぇに動き続けてたんだから当然か、と思っていたコナンだったが、突如、異変がその体を襲った。

ドックン……

急な激しい動悸に、コナンは「くぉっ……!」と呻いた。APTX4869の解毒剤を飲んだ時のような強い痛みを感じた。脈は明らかに早くなり、動悸は繰り返しコナンを襲う。一回痛むごとに、コナンは荒い呼吸を整えようとしたが、息つく間もなく次の痛みに苛まれた。

(くそっ、どうなってんだ……)

コナンは遠のく意識の中、心の中で呟いた。だんだん、姿勢を保つのが辛くなり、頭がグラついた。目元に目を落とすと、真夜中には見えなかった信じられない光景があった。

コナンの両手は尋常ではない量の鮮血にまみれていた。

 急に、平次の携帯が鳴った。平次は、沖矢に紹介された小さな医院で怪我の処置を受け、丁度出てきたところだった。画面には「灰原哀」と表示されている。

「なんや、姉ちゃん。何かあったんかい?」

電話の向こうで、哀は黙っている。

「もしも~し?」

平次が言うが、哀はしばらく黙ったままだった。そして、おもむろに口を開く。

「……ねぇ。落ち着いて、聞いてくれる……?」

 スカイツリーで容体が急変した小梅は、帝都大学附属病院に搬送されていた。ベッドに横たわる小梅は、人工呼吸器の中でか細い呼吸を繰り返している。その傍らで小五郎と安室が見守っていた。一人の医師が病室に現れ、小五郎に耳打ちした。小五郎が驚いた顔をすると、医師は首を縦に振る。

 一つの暗い部屋の中、一人の人間が横たわっていた。白みかけた空の明かりが、少しずつ部屋に入ってきている。人影は起き上がる事無く、腕を伸ばして、床に落ちていたスマホと額入りの写真を拾った。スマホには、コナンの映像が映し出されている。人影は腕時計をちらりと確認すると、幾つかボタンを操作して映像を送信した。送信完了の文字が表示されると、人影は一旦両腕を投げ出してフーッと息をついた。そして、写真を目の近くに引き寄せる。それには亜麻色の髪の女性と、影になって顔は見えないが男性の姿が写っている。人影はそれを見たまま、哀しげに呟いた。

「小梅……」

 

<続く>


 
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