No.570914

魔法少女リリカルなのは~原作介入する気は無かったのに~ 第六十七話 翠屋で1日お手伝い

神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。

2013-04-28 22:41:35 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:30559   閲覧ユーザー数:26935

 「ねえ勇紀君。明日1日で良いからお店を手伝ってくれないかしら?」

 

 翠屋で一人、チョコレートケーキとカルピスを堪能していると桃子さんからそんな言葉が飛んできた。

 

 「随分といきなりですね。何かあったんですか?」

 

 「実は明日シフトに組んでいるバイトの子が昨日の帰りに事故に遭って入院してしまったのよ」

 

 「事故とか…穏やかじゃないですね」

 

 「幸い大事には至らなかったんだけど、その子が来れなくなったから人手が足りなくなっちゃって…。他の子も都合が合わなくて困ってるのよ」

 

 むぅ…。確かに夏休みという事もあってか学生のお客さんが普段よりも多く翠屋に来ている。

 一人分の人手が減るだけで桃子さんがお願いするなんてそれ程店が忙しくなるって事か。

 

 「まあ、俺は良いですよ。明日は特に予定も無いですから」

 

 宿題ももう片付けたし、管理局の仕事も無い。

 

 「本当!?ありがとう」

 

 頭を下げてお礼を言ってくれる桃子さん。

 

 「それで明日は朝から手伝えばいいんですか?」

 

 「ええ、9時には店を開けるから8時30分には翠屋に来てくれる?」

 

 「了解です」

 

 桃子さんの言葉に返事をし、俺は再びチョコレートケーキを食べ始める。

 翠屋での仕事か…。ちょっと楽しみだな。

 

 「ただいまー」

 

 入り口から元気な女の子の声が。

 声の主はなのはだった。まあ『ただいま』って言ってる時点で翠屋関係者だってすぐに分かる事だしな。

 

 「おかえりなさいなのは」

 

 「うん。…って、勇紀君来てたの?」

 

 「おう、お邪魔してる」

 

 片手を小さく上げてなのはに挨拶する。

 トコトコと寄って来てカウンター席に座っている俺の隣に座る。

 

 「なのはも何か食べる?」

 

 「じゃあ、私も勇紀君と同じセットで」

 

 「はいはい♪」

 

 桃子さんはなのはの注文を聞くと奥の厨房へ入って行く。

 

 「勇紀君はいつから来てたの?」

 

 「15分ぐらい前か。学校から出された宿題も終わったから後は夏休みを満喫するだけなんだ。だから今日は翠屋に来た」

 

 ちなみにシュテル達はまだ残っているのを地道に片付けている。

 

 「もう終わったんだ?私なんてまだ3分の1ぐらいしか終わってないの」

 

 「まだ8月に入ったばかりなんだ。充分時間に余裕はあるじゃん」

 

 「うん。けどここ最近は少し忙しいから…」

 

 「…もう無理すんなよ」

 

 「分かってるよ。勇紀君とあの時約束したもん」

 

 なのはが言うのは俺が修正天使(アップデイト)使って治した時の事だ。

 

 「覚えててくれてるようで結構」

 

 「えへへ(よく考えたらこれって私と勇紀君だけで交わした約束だよね?『二人だけで交わした約束』っていうのが何だか嬉しいな)//」

 

 何だか嬉しそうだな。ツインテールもピコピコ動いてるし。

 ………ホント、何故動くの?その髪の毛は。

 

 「勇紀君の方はどうなの?新しい所へ異動したんだよね?」

 

 「まあな」

 

 「どんな所なの?教えてほしいな」

 

 「教えるのは構わんけど…」

 

 俺はチラリと店内を見渡す。

 店は貸切りって訳じゃ無いので当然ながら他のお客さんもいる。

 

 「そう言った話はここでは話せないから」(ボソボソ)

 

 「あっ、そうだね」

 

 なのはも普通のお客さんがいるのを理解してくれた様で素直に引き下がってくれる。

 

 「じゃあさじゃあさ!私の家に行こうよ?勇紀君のお話一杯聞きたいし!」

 

 なのはからお誘いの声が掛かる。

 高町家へ訪問か。

 

 「今頼んだ注文は?」

 

 「勿論ちゃんと食べてからの話だよ」

 

 「まあ俺は別に良いぞ。どうせ、この後も特に予定は無かったし」

 

 適当に街中ブラブラする程度の事しか考えてなかったからな。

 それに俺もなのはが所属してる本局武装隊の業務などにはちょっとばかり興味あるし。

 

 「(確かなのはが航空戦技教導隊に入るのは来年だったよな?)」

 

 原作知識を思い出す。

 まあ、原作が結構ブレイクしちゃってるからもしかしたら教導隊入りするのも多少前後するかもしれんが。

 

 「なのは、おまたせ♪」

 

 桃子さんがなのはも注文したチョコレートケーキとカルピスのセットを持ってきた。

 

 「ありがとうお母さん」

 

 なのははすぐさま注文したケーキを食べていく。

 

 「はぐはぐはぐ…」

 

 「ってか、落ち着いて食えって。ケーキは逃げやしないんだから」

 

 「はぐはぐはぐ…《でも時間は待ってくれないんだよ?》」

 

 「……………………《そこまでして急ぐ理由があるのか?》」

 

 「はぐ…ゴクゴク…《お話する時間は多い方が良いと思うの》」

 

 この子ホントに誰かとお話するの好きだよね?

 

 「ゴクゴク…はふぅ~、ご馳走様でした」

 

 あっという間にケーキを平らげ、カルピスを飲み干した。

 

 「勇紀君!早く家に行こうよ!!」

 

 「俺、まだ食い終わってないんですけど?」

 

 チョコレートケーキもカルピスもまだ残ってる。

 

 「むぅ…」

 

 膨れっ面を浮かべるなのは。

 それに対し、俺は黙々と食べる。

 

 「モグモグ…」

 

 だってこんなに美味しいケーキなんだから味わって食べたいじゃん。

 ケーキの味とカルピスをゆっくり堪能する俺。

 

 「ゴクゴク…ふぅ」

 

 やがてケーキとカルピスを完食した俺はレジで会計を済ませる。

 レジを担当していたのは松尾さん。

 『とらハ3』では『まっちゃん』の愛称で呼ばれていたアシスタントコックさん。

 既に俺の顔も覚えてくれている桃子さんの右腕的存在だ。

 

 「あれ?勇紀君、少し支払う金額が多いわよ?」

 

 ちなみに松尾さんにも『勇紀君』と呼ばれてます。

 

 「なのはの分も一緒にって事で」

 

 「にゃ!?良いよ私の分は!後でお母さんに言ってお小遣いから引いて貰うから」

 

 「遠慮すんな。少しは待たせたお詫びだ」

 

 そう言ってさっさと会計を済ませて貰う。

 で、翠屋を出る俺の後をなのはは慌ててついて来て、俺の隣に肩を並べる。

 

 「勇紀君、本当に良かったの?」

 

 「会計の事か?」

 

 「うん」

 

 「良いんだって。さっきも言ったが少し待たせたお詫びの意味合いも兼ねて…だ」

 

 二人分の支払いならそこまで出費が大きい訳でも無いし。

 

 「でも…」

 

 「…こんな事ぐらいでそこまで遠慮するな。お前はもう少し他人に甘えてもバチは当たらないと思うぞ」

 

 「…うん、ありがとう」

 

 やっと受け入れてくれたか。

 あの撃墜事件以降、素直に他人を頼る様にはなってきているが他人に甘える事は未だに控えているなのは。

 

 「じゃ、じゃあ…//」

 

 隣のなのはは自分の腕を俺の腕に絡めて来た。

 

 「う、腕組んでも…良いよね?//」

 

 聞く前に実行してまんがな。

 

 「別に良いぞ」

 

 もう完全に慣れたしな。女の子と腕組むの。

 主にうちの家族のせいで。

 

 「うん。じゃあこのままで(えへへ…言ってみるものなの)////」

 

 嬉しそうななのはと腕組んで高町家を目指す。

 ……あ、シュテル達のお土産にシュークリーム買うの忘れてた。

 ……ま、いっか………。

 

 

 

 「にゃあぁ~…////」

 

 高町家へお邪魔して早速なのはとの対談が始まった。

 最初はお互いの所属してる部隊の事や今まで自分が関わった任務の内容等、話せる範囲内での事は色々話した。

 それで話している内に今度はここ最近の日常の過ごし方の内容へと変わっていって…

 

 『最近はシュテルによく膝枕するなぁ』

 

 この一言を聞いた瞬間、少し不機嫌になったなのはが

 

 『じゃあ、私にも膝枕してほしいな?』

 

 と、言ってきた。

 それで本人の要望通りに膝枕してあげたら上の台詞の様にたれモードになってしまった。

 ついさっきまでの不機嫌は何処にやら…。

 

 「にゅうぅ~…////」

 

 見下ろすなのはの表情は俺が膝枕した際のシュテルそっくりだ。

 まあ、シュテルのオリジナル的存在だから当たり前っちゃー当たり前か。

 

 みよーん…

 

 「にゃにしゅるのー?」

 

 「んー、なのはのほっぺが柔らかそうだったからつい…」

 

 両手でなのはのほっぺを軽く摘まんで引っ張ってみる。

 うん、予想通りに柔らかかった。

 伸びる伸びる。

 

 「にゅう~…」

 

 頬を引っ張られている本人は唸り声を上げるけど嫌がっている様子は無い。

 何だか今のなのはの表情…『たれなのは』とでも名付けるべきか?

 見てて和むわぁ…。パンダの耳でも付いてたら尚良かったのに。

 

 「で、他には何か話したい事とかないのか?」

 

 なのはのほっぺを解放して尋ねてみる。

 俺としては武装隊の事を一通り聞き終えたのでなのはに聞く事はもう無いかな。

 

 「にゅぅ~…今は膝枕を堪能していたいの~(あう~、寝心地良いの~)////」

 

 何故シュテルといい、なのはといい俺の膝枕でそこまでだらける事が出来るのか?

 そもそも膝枕って男の子が女の子にするもんじゃなく、されて喜ぶ様なものだと俺は思うんですよ。

 ………してくれる彼女なんて俺にはいないんだけどね。

 

 「うにゃぁ~…(うう~、このまま寝ちゃっても良いかなぁ?)////」

 

 何だか徐々に眠りそうな雰囲気を出しているなのは。

 

 「眠たいのか?」

 

 「ふにゃあ…?そんな事ないよ~…////」

 

 説得力無いッスよなのはさん。

 シュテルも似た様な状況になる事結構多いし。

 ここで大抵頭を撫でてやるとすぐに寝息を立てて寝ちゃうのがシュテルなんだけど、なのはもやっぱりそうなるのだろうか?

 …試してみるか。

 なのはの頭に手を置き早速撫でてみる。

 

 「っ!?………にゅわぁ~~~…(あわわ。撫でられてる!頭撫でられてるの!!)////」

 

 一瞬驚いた表情を浮かべたなのはだがすぐに目を細めてされがままになっている。

 どうやらなのはにも効果は抜群の様だ。

 

 「ふにぃ~…(あ…何か段々眠く……)////」

 

 遂にはなのはが気持ち良さそうに眠ってしまい

 

 「…しまった。なのはを寝かせたら俺一人、ヒマになってしまう」

 

 やってから激しく後悔してしまった………。

 

 

 

 次の日…。

 俺は桃子さんに言われた様に朝から翠屋に来ている。

 時間は8時半前。店内に入るとまずは支給されたエプロンを身に付け、開店前の清掃を行う事になった。

 けど…

 

 「~~♪~~♪」

 

 何故かなのはもいた。鼻歌まで歌っていてご機嫌の御様子で。

 

 「桃子さん。なのははどうしたんですか?」

 

 「昨日、随分良い思いしたからじゃないかしら?なのはから聞いたわよ♪」

 

 昨日って膝枕の事か?

 

 「俺は恭也さんに絡まれて大変だったんですけど…」

 

 なのはが寝てしばらくした頃に、帰って来た恭也さんに殺気を浴びせられ、模擬戦という名の公開処刑を敢行されそうになったんだから。

 幸いにも目を覚ましたなのはのおかげで事無きを得たが。

 ただ、目を覚ました直後のなのはは怖かったね。

 結界を張ったかと思うと実の兄に対して容赦の無い砲撃をブチかますんだから。

 その表情はいかにも『私不機嫌です』って感じだったし。

 未来の魔王様(高町なのはさん)は家族にかける情けも皆無という事だろうか?

 

 「あれから恭也さんは無事だったんですか?」

 

 「部屋の中で目を回していたわね」

 

 「何て言うか…災難でしたね恭也さん」

 

 「別にそうでもないわよ?いい加減妹離れしてくれないと…ねぇ」

 

 その意見はまあ分からなくもないんですけどね。

 

 「それになのはも自分から『お店のお手伝いするの!』って言ってきたから。本人の意思を無駄にはしたくなかったのよ」

 

 「そうですか」

 

 今も鼻歌を歌いながらテーブルを拭いているなのはに視線を向ける。

 

 「ただ、あの子は運動神経が無いでしょ?だから注文の品を運んでいる最中に転んでしまわないかは心配で心配で…」

 

 「…ならレジ打ちに専念させるのは?」

 

 「それでもホールスタッフの人手が足りない時はなのはを使わなければならないから」

 

 うーむ…。

 

 「まあ、なのはについてはフォロー出来る様にしておきます」

 

 「お願い出来るかしら?」

 

 「御意」

 

 その会話を最後に俺も店の外に出て店回りの掃き掃除と水撒きを開始するのだった。

 

 

 

 店が開店し始めた頃はモーニングセット目当てのお客さんがチラホラ現れる程度だったのでそこまで忙しくはなかったが…

 

 「勇紀君!3番テーブルにランチセット2人前持っていって!」

 

 「はい!!」

 

 「なのは!6番テーブルの後片付けを!!美由希はお客さんのお会計を!!」

 

 「「はいなの!(了解!!)」」

 

 「恭也は厨房に入ってまっちゃんと食器を洗って!!」

 

 「ああ!!」

 

 桃子さん指示の元、俺達はテキパキと動き回る。

 

 「いらっしゃいませ!!何名様ですか!?」

 

 「すいませーん!注文したいんですけどー?」

 

 「あ、テイクアウトでシュークリームを5つ下さい」

 

 店内には色々な人達の声が飛び交っている。

 これは確かに一人でも抜けたら大変だわ。

 いや、本来の人が抜けた穴埋めの俺がいるのに加え、自主的に手伝いに参加したなのはと予想外の忙しさに急遽ヘルプで呼んだ恭也さんと美由希さんがいて尚この忙しさである。

 交代で昼休みを取るのも難しい。

 

 「勇紀君!恭也と交代して厨房でまっちゃんと一緒に料理作るの手伝ってあげて!!」

 

 「合点です!!」

 

 すかさず厨房に行き、恭也さんとバトンタッチする。

 調理なら俺の得意分野の1つでもあるからな。

 包丁を片手にキャベツを千切りにしたり、サンドイッチを三角形に切ったり…

 

 「おお!?勇紀君手馴れてるねぇ」

 

 「家事歴長いですから」

 

 手を止めずに松尾さんと会話する。

 

 「これなら私の負担も少しは楽になるかな?」

 

 「あはは…まあ、ご期待に添えられるかは分かりませんが頑張るつもりです」

 

 「いやいや、頼もしい戦力だよ。この時間帯に厨房で働ける人材って意外に少ないからねぇ…」

 

 翠屋の裏事情を少しだけ漏らす松尾さん。

 確かに厨房にいるのは今は俺と松尾さんだけだし。

 今日のシフトメンバーで調理が出来そうなメンバーといえば、俺達を除くと桃子さんぐらいしかいなさそう。

 士郎さんも厨房に入るのはコーヒー豆を取りにくる時ぐらいだし。

 俺がホールで動き回ってた間、桃子さんは指示を飛ばしてた。なら松尾さんはさっきまで一人で厨房に籠もって料理を作ってたという事…。

 なのは、恭也さん、美由希さんも基本『料理を取りに来る』『客席から食器を回収して運んでくる』『皿洗いの時にヘルプに入る』という場合にしか厨房の中で働いていない。

 ……凄ぇわ松尾さん。最早翠屋の調理班で桃子さん除いたら最大の戦力じゃねえか。

 

 「二人共、まだ踏ん張れる?」

 

 ここで桃子さんも厨房にやってきた。

 

 「「大丈夫です」」

 

 俺と松尾さんの声が重なる。

 

 「桃子さんは何で厨房に?」

 

 「シュークリームがもう無くなりそうなのよ。だからすぐに新しいのをつくらないといけないって思ってね」

 

 そんなに売れてるのか。

 やはり翠屋の看板商品は伊達じゃない。

 

 「にしても本当に今日はお客さんの出入りが激しいわ。勇紀君に手伝って貰って正解ね」

 

 「まだ店内はバタバタしてます?」

 

 「先程に比べたら多少はマシになってきてるけどね」

 

 それでもいつものこの時間帯に比べたら忙しい方らしい。

 嬉しい悲鳴を上げてるって事ですね。

 

 「4番テーブル!ランチセット4人前お願い~~!!」

 

 美由希さんの声が店内から厨房に届く。

 

 「…マジで休むヒマ無いッスね」

 

 「ごめんなさいね。客足が落ち着いたら勇紀君は真っ先に休憩してくれていいから」

 

 「ああ、いえ。そこまで気を遣って貰わなくても…」

 

 実際体力的にはまだ余裕あるし。

 むしろ今尚店内を駆け回っているなのはや美由希さんを休憩させてあげた方が…。

 厨房も人手が足りないから忙しいけど走り回らなくていい分そこまで疲れない。

 

 「ゼエ…ゼエ…オ、オーダー入りまーす……」

 

 そこへ息を切らし、額に大量の汗を浮かべたなのはがやってきた。

 …これで多少(・・)客足が落ち着いてきてるのか。店内にも冷房は効いていて充分涼しい筈なのだが。

 

 「なのは。まずはこれ飲め」

 

 コップに水を注いでなのはに手渡す。

 

 「あ、ありがとう……ゴク…ゴク…」

 

 水を飲み、水分を補給するなのは。

 

 「ゴク…ゴク……プハー。生き返った気分なの」

 

 「それは良かった。で、オーダーは?」

 

 「オムライス2人前にお子様ランチが1人前なの」

 

 「勇紀君。お子様ランチお願い!」

 

 「了解ッス!」

 

 松尾さんに指示を出されてお子様ランチの用意をし始める。

 ミニハンバーグ、スパゲッティ、ポテトサラダ、ミートボール、エビフライ、ミニオムレツ……後はチキンライスにスープ…と。

 まずは玉ネギをみじん切りにして素早くフライパンで炒める。

 

 「ふええ…勇紀君手馴れてるの」

 

 「ほら、なのはも店内に戻ってお客様の対応してきなさい」

 

 「うん!私も頑張る!」

 

 桃子さんの言葉に大きく頷いて厨房を出ていくなのはを横目で見送った後、俺は調理に集中するのだった………。

 

 

 

 「つ…疲れたのー」

 

 「確かに…」

 

 昼のピークも過ぎ、客足も落ち着いてようやく遅めの昼休みに入る事が出来た。

 空いている席に座って身体を休めている俺となのは。

 

 「二人共、お疲れ様」

 

 そんな俺達の元に桃子さんが昼食を運んできてくれる。

 ようやくご飯にありつける。

 

 「うう~…やっとお昼だ~」

 

 「…いただきます」

 

 テーブルに置かれた昼食を食べ始める。

 昼食はハヤシライス。うまうま。

 けどなのはは食べようとせず、昼食と俺を交互に見る。

 

 「???何だ、食べないのか?」

 

 「えっと…正直、凄く疲れてて手を動かすのも辛いんだ」

 

 「ふむ…」

 

 「だから…た、食べさせてほしいかな?////」

 

 「はい?」

 

 モジモジしながら言うなのはの言葉を聞いた俺は一瞬何を言ってるのか理解出来なかった。

 

 「ほ…ほら!このスプーンで私の口に運んでほしいんだ////」

 

 スプーンを手渡してくるなのはに『今、手を動かしてるじゃん!全然辛そうじゃないじゃん!』と突っ込んであげた方がいいのだろうか?

 

 「あ、あ~ん…////」

 

 本人は俺の意志を無視してさせる気満々ですよ。

 

 ギンッ!!×2

 

 はっ!?殺気!!?しかも2人分だと!?

 突然射殺される様な殺気が浴びせられた俺は咄嗟に辺りを見渡すとカウンター越しから士郎さん、レジ前から恭也さんがこちらを見ていた。

 ヤバい…親馬鹿とシスコンにロックオンされた。このままだと俺は…

 

 「あ~ん…////」

 

 目の前の末娘(なのは)さんは頬を赤くしながら目を閉じているため、士郎さんと恭也さんがこちらを睨んでいるのに気付いていない。

 

 「《なのはさん…勘弁して貰えませんかね?ここで『あ~ん』を実行したら俺はお宅のお父さんとお兄さんに処刑されるんですが…》」

 

 「ふえ!?」

 

 声には出せないので念話で伝える。

 突然の念話にビックリして目を開けるなのはだが、こちらを険しい表情で見ている士郎さんと恭也さんを見て

 

 「(むっ!またお父さんとお兄ちゃん、勇紀君を困らせてる!!このままだと私が『あ~ん』して貰えないの!!)」

 

 静かに立ち上がる。

 あれぇ~?何故かなのはの背後が歪んで見える様な…。

 

 「ちょっと席を外すね勇紀君。私、する事があるのを思い出したから」

 

 「ど、どうぞごゆっくり…」

 

 ゆっくりと席を離れるなのははレジ前の恭也さんとカウンター越しの士郎さんを連れて店の裏口へ向かう。

 少しして結界が展開されたような感じがして…

 

 「(何が起きてるのかあまり想像したくないな)」

 

 結界の中のなのはの魔力値が上がっていくのを感じる。昨日のディバインバスターを上回る魔力量…。

 …まさかスターでライトなブレイカー使ってるんじゃあ。

 

 「(士郎さん、恭也さん、どうかご無事で…)」

 

 なのはにO☆HA☆NA☆SHIされているであろう二人の生還を祈る事しか出来ない俺であった………

 

 

 

 お昼のピークも過ぎ、店内の仕事に余裕が出来た頃

 

 ヴーッ!!…ヴーッ!!

 

 何処からともなく店内に警鐘らしき音が鳴り響く。

 

 「勇紀君、少しお店を任せてもいいかしら?」

 

 突然桃子さんがそんな事を言う。

 

 「いきなりですね。この音と何か関係が?」

 

 「その理由はすぐに分かるわ。だからお願い出来るかしら?」

 

 真剣な表情の桃子さんを見て『ただ事じゃないな』と感じた俺は頷く。

 

 「ありがとう。美由希、なのは、早く奥に行きましょう」

 

 「「はい(はーい)」」

 

 あれ?なのはと美由希さんも関係あるのか?

 そんな疑問に答える者はいなく桃子さん達は店の奥に消えていく。

 それから警鐘音が止まって少ししたら

 

 「俺の(なのは)~♪。会いに来てやったぜ~♪」

 

 翠屋に西条が現れた。

 

 「(何でコイツが…)」

 

 そこまで思ってから気付く。

 さっきの警鐘音が鳴った直後に店の奥へ消えた桃子さん、なのは、美由希さん。

 つまり…

 

 「(西条が店に接近してたからあんな警鐘が鳴って3人共避難したのか)」

 

 いつの間にこんな設備を導入していたのか…。

 

 「ん?…テメエクソモブ!!ここで何してやがる!!?」

 

 「(ハア~…)見て分からんか?翠屋の手伝いだよ」

 

 このエプロン見たら理解出来るだろうに。

 

 「ああ゛!?テメエそんな事してまで俺のなのはに付き纏ってやがるのか!!とことん腐った野郎だなゴラァ!!」

 

 「…ていうかなのははいないぞ。店の中を見たら分かるだろ?」

 

 コイツの言う事は無視してとっとと帰って貰おう。

 俺だけじゃなくなのはや桃子さん、美由希さんの精神衛生上良くないわ。

 

 「何フザけた事言ってやがるクソモブぅ!!俺が会いたいと思ったなのはがいない訳がねぇ!!」

 

 どんな理屈だよ…。

 それから西条は俺の言う事も聞かずに自分勝手な事と俺への誹謗中傷的なセリフばっかり口にする。

 このままじゃコイツずっと居座りそうなのでなのはに少し協力して貰う事にする。

 

 「《なのは。今携帯持ってるか?》」

 

 「《勇紀君?持ってるけど何するの?》」

 

 「《俺の携帯にかけてくれ。で、俺が出たらすぐに切ってくれればいい》」

 

 「《???分かったの》」

 

 念話でお願いした後、すぐに俺の携帯から着信音が鳴る。

 相手は当然なのはだ。

 俺が出るとなのはは俺の指示通り、携帯を切るので現在は繋がっていない状態だ。

 もっとも西条はそんな事知る由も無いので俺が普通に通話してる様に見えてるだろうが。

 さて…

 

 「もしもし?…何だレヴィか。どうした?」

 

 ピクッ

 

 俺は繋がっていない携帯で一人芝居を始める。

 そして『レヴィ』という単語に西条が反応するのが分かる。

 

 「…駅前で変なのに絡まれてる?……分かった、すぐ行くから待ってろ」

 

 そう言って携帯を切る仕草をして、ポケットに携帯を仕舞う。

 

 「…つー訳で俺は駅前に行くから桃子さんが戻ってきたら言っといてくれ。どうせ、お前はなのはが来るまで待つんだろ?来るかどうかなんて俺は知らないがな」

 

 西条の脇をすり抜け翠屋を出ていくフリをすると

 

 「何処行こうとしてやがるクソモブ!!そんな事言って駅前にいるレヴィに付き纏うつもりだろうが!!」

 

 見事に喰い付いた。

 

 「モブはモブらしく地味にバイトでもしてろや!!(チッ、本当になのははいねえのか。ならこんな所にいるより駅前にいるレヴィを助けに行った方が得だな。そうすればレヴィは俺に更に惚れ、クソモブ共や踏み台共に目もくれなくなる筈。そしてやがては……ククク)」

 

 あー、コイツが今何考えているのか表情を見ただけで手に取る様に分かるな。

 卑しい笑み浮かべやがってまあ…。

 ちなみにレヴィ本人は今日は家でゴロゴロするって言ってたから西条と駅前で鉢合わせる事なんてまず無い。

 それでも念のため、メールで駅前に近付かない様連絡はしておくが。

 すぐに翠屋を出て行き、しばらくすると奥から桃子さん、なのは、美由希さんがひょこっと姿を現す。

 

 「…もう行ったみたいね」

 

 「だね…」

 

 「勇紀君、お疲れ様」

 

 「いえ…しかし翠屋にあんなシステムがあるとは全く知りませんでしたよ」

 

 「にゃはは。ビックリした?」

 

 だって喫茶店に警鐘なるなんて普通思わないし。

 

 「あれは特定の人物が店に近付くと鳴る警報システムなんだよ。開発者は忍さん」

 

 美由希さんの言葉を聞いて誰対策なのかハッキリと分かる。この分だと吉満、暁が来ても鳴るのだろう。

 後、忍さんが開発者って…。

 

 「これでもう大丈夫かしら?」

 

 「また鳴れば避難すればいいだけだよお母さん」

 

 「あれのおかげで翠屋で遭遇する確率は極端に減ったからね」

 

 そしてまた鳴った時は俺が一人芝居しなければいけないんだろうなぁ…。

 頼むからもう来ないでくれよ………。

 

 

 

 「お疲れ様勇紀君、今日はもう充分だから上がってくれていいわよ」

 

 「あ、はい」

 

 空の色が少しずつ変わり始めた夕方。

 桃子さんの一声でようやく今日のお手伝いが終了した。

 俺はエプロンを外して桃子さんに渡し

 

 「今日は本当に助かったわ」

 

 桃子さんからお礼を言われる。

 

 「なのはも今日はもういいわよ」

 

 「はーい」

 

 お客さんが帰った後、テーブルを拭いてお盆の上に乗っている空の食器を厨房の方へ運ぼうとするなのはに声を掛ける桃子さん。

 ていうか大丈夫か?

 そこそこ疲労が溜まっているせいか足元が少しふらついている。

 あんな調子で運んだら…

 

 ズルッ

 

 「にゃわっ!?」

 

 言わんこっちゃない!!

 すかさず駆け寄った俺はなのはを抱き留めながら宙を舞いそうになっているお盆を受け止める。が、体勢が悪くそのままなのはと共に床に倒れ込む。

 

 バターン!

 

 「っ!!」

 

 咄嗟にお盆はすぐ側のテーブルに置いたから上に乗っていた食器も落ちたりすることは無かったが、俺の下にはなのはの姿が。

 俺自身はなのはに覆い被さる様にのっかっている。傍から見たらなのはを押し倒した様な格好に見えるだろう。

 

 「なのは、大丈夫か?」

 

 上半身を起こして下になっているなのはの状態を確認する。

 

 「////////」

 

 返事が無い。ただ目はトロンとしてるけど…

 

 「ひょっとして打ち所悪かったか?なら…」

 

 その先を言葉にする事が出来なかった。

 俺の後頭部になのはの手が回されたかと思うとそのまま引っ張られ、俺の唇がなのはの唇で塞がれていたからだ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 「っ!!?~~~~~っっっっ!!!!」

 

 「…ん……んん……////////」

 

 突然の出来事に固まる俺とそのままキスを止めようとしないなのは。

 

 「あらあらあらあらあらあらあらあら♪♪♪」(カシャカシャ)

 

 目を輝かせ、ひたすら携帯のカメラで現状を撮りまくる桃子さんに

 

 「むーー……………………」

 

 何か不機嫌そうな美由希さん。

 

 「おお、仲睦まじい。これで翠屋の将来と後継者については安泰ですね桃子さん」

 

 「まっちゃんもそう思う?」

 

 「ええ、勇紀君の料理の腕前なら十分やっていけますし」

 

 「そうよねぇ。勇紀君なら信頼も出来るし♪」

 

 そんな呑気に会話してないでなのはを引き剥がして下さいよ!!

 何でこんなに力あるのこの子!?全然顔を離せないんだけど!!

 

 「…んんっ………////////」

 

 「んーっ!んーっ!////」

 

 必死にジタバタしても状況は変わらず、なのはが俺を解放してくれるまでそれなりの時間を有したのだった………。

 

 

 

 ~~なのは視点~~

 

 勇紀君が帰った後も私は余韻に浸っていた。

 

 「にゃはは~////」

 

 勇紀君とキスしちゃったの。勇紀君とキスしちゃったの。

 大事な事だから2回言ったよ。

 転んで倒れそうになった私を助けようとしてくれた勇紀君だけど、結果2人でそのまま倒れちゃって…。

 目の前には勇紀君の顔が…。

 

 「なのはったら大胆よね~♪」

 

 「そ、そうかな?////」

 

 「ええ、まさかキスするなんて思わなかったもの♪」

 

 「ふにゃ~、言わないで~♪////」

 

 お母さんに言われてさっきの事を思い出すけどむしろ言われて嬉しい。

 さっきの出来事が夢でも何でもないって理解出来るから。

 

 「でもどうしてキスしようとしたの?」

 

 「うーん…本能に従って行動した感じなの////」

 

 お母さんに聞かれてそう答える。

 勇紀君の顔が間近にあった時、皆で夏休みの宿題をしてた時の事を思い出した。

 あの時は中途半端に猫化してたディアーチェが私達の目の前で勇紀君とキスしたし…

 

 「(ディアーチェに一歩リードされたままじゃマズいと思ったから…)」

 

 あの時から変身魔法の練習をしてるのに一度も魔法自体が発動しないから少し焦ったり…。

 何が何でもディアーチェに追い付かないとって思ってたら勇紀君の顔を引き寄せてそのままキス…しちゃってたんだよね。

 けどこれで私が皆より先に進んだって思える様になったの。

 私はクリスマスの時にも勇紀君のほっぺにキスしてるから

 

 「(ほっぺに1回、唇に1回で勇紀君に2回もキスしたし…今日のキスだって、ディアーチェより長い時間キスしたもん)////////」

 

 にゅふふ~。

 勇紀君の唇は柔らかくて、キスしてる間は胸の中が暖かくなって凄く気持ち良かったの。

 あれはヤバい。『ずっとしていたい』と思えるぐらいに。

 

 「本能に従って…ねぇ。若いっていいわねぇ♪」

 

 「えへへ…////////」

 

 「そうそう。勇紀君とキスしてた時の写真だけどいる?」

 

 「ふえっ!?撮ってたの!!?////」

 

 「気付いて無かったのなのは?…まあ、キスしてた時は勇紀君しか見えていなかったみたいだし、凄く堪能してたみたいだし…ねぇ」

 

 「あうう…////////」

 

 「で、いるかしら?」

 

 「………欲しいの////////」

 

 お母さんから写メを転送して貰い、携帯の待ち受け画面にしちゃった。

 

 「にゃ~~…////////」

 

 あの出来事が現実だって理解出来る決定的瞬間の画面を手に入れる事が出来て今の私は最高にハッピーな気分なの。

 

 「むーー……………………」

 

 お姉ちゃんは何故か私を睨みながら唸ってるけど、どうしたんだろう?

 ひょっとして…

 

 「(お姉ちゃんも?……まさかそんな事は無いよね?)」

 

 ま、仮に勇紀君の事好きだったとしても私より遅れてる様なものだから別に脅威とは感じないし。

 

 「(むしろ同年代のシュテル達の方が脅威なの)」

 

 勇紀君と同じ家に住んでて、同じ学校に通って…。

 勇紀君と接する機会が多いのは羨ましい。

 

 「(今日のアドバンテージを上手く生かさないと…気は抜けないよね)」

 

 最後に勇紀君の隣に立つのは私、高町なのはなの!!

 私は今日の出来事を思い出し、顔がふにゃけるのを止められないまま強く心に誓ったの………。

 

 

 

 ~~なのは視点終了~~

 


 
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