No.568727

真・恋姫†無双~絆創公~ 小劇場其ノ十

リンダ、意外な展開を垣間見るの事。

次回、北郷一刀のよく分かる解説と、ヤナギが若干鬼畜な報復をするの事。

2013-04-22 03:00:37 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1347   閲覧ユーザー数:1208

小劇場其ノ十

 

「皆さん、一刀様が策を考えて下さいました。今からご説明致します……」

 一刀の前から皆の所へ素早く戻った亞莎が、小声で話し始めた。

 一旦態勢を整えるため固まっていた一団は、その声を聞いて一瞬の身じろぎで反応した。しかし、視線は対戦相手の男から離さず、得物を持つ力も緩めぬまま耳を傾ける。

「ご主人様、が……?」

 声にいち早く反応したのは、一番闘志を燃やしていた愛紗であった。恨めしさを帯びた視線は、未だに相手の男に向いたままである。

「ろくでもない策じゃないだろうな……?」

 己の君主への忠誠心を男に愚弄された少女、思春は発案者への不信感を、その眉根に表した。

「危険ではあるかと思われますが、私としては有効な策であると思います……」

 相手の男に気付かれないように、亞莎は一層声を潜めて話しかけている。

「ふむ……。して、主の策とは?」

 己の代名詞でもある嗜好品を貶された少女、星は興味を示したのか、薄く笑みを浮かべて小声の少女の発言を促した。

「はい。皆さんは一刀様が来るまで、相手の注意を巧く引きつけて下さい……」

「ご主人様が参戦するのか……?」

「いえ。参戦するのは一刀様ではありません。続けます、その後は…………」

 亞莎の全ての説明が終わった途端、一同は僅かに難色を示した。

「……それは、流石に危険では?」

 提案された策に最初に異を唱えたのは、自分のタブーを土足で踏み荒らされた紫苑であった。

「私もそう思いましたが、一刀様が巧く手筈を整えてくれるかと……」

「鈴々は、お兄ちゃんを信じるのだ……!」

 勝機を見出したのか、強い眼差しと可愛い八重歯を見せた、どこか力強さのある笑顔で答える。

 それを見た亞莎の顔も、頼もしく感じさせる笑みに変わった。

「はい。私も信じています。だから……皆さんも……!」

 その瞳に映る一筋の希望に、全員が決意を新たにする。

「……いいだろう。その策とやら、乗じてやろう」

「なに、主の事だ。十中八九吉に転ぶはずだ」

「そうね。信じましょう……ご主人様も、そして……」

「ああ。皆、行くぞっ!!」

 

 

「こそこそと何の相談ですか? 私に贈る賛辞の言葉でも考えていましたか?」

 これまでの女性陣のやり取りを、腕を組んで悠々と眺めていたリンダ。その内容までは把握していないのだろう、訝しげに右の眉を吊り上げている。

「違う……。貴様を跪かせる為の、下準備だ……!」

 鈴音の切っ先を向けながら静かに、それでいて闘志を帯びた口調の思春。

「お主には、メンマの素晴らしさをたんと味わって貰わねば、な……」

 龍牙を持つ力を強め、不敵な笑みを浮かべる星。

「母親としての底意地……あなたに教えてあげます!」

 颶鵬を構え、穏やかな顔付きに鋭い眼光を加える紫苑。

「お前に、鈴々たちの力をたっぷり見せつけてやるのだっ!!」

 丈八蛇矛を振り回して、自分達が勝利するという威勢良いアピールをする鈴々。

「一人一人の力を合わせることの素晴らしさを、今から証明致しますっ!!」

 素早く相手に向けて、凛々しい顔付きと構えをとる亞莎。

「さあっ! 覚悟を決めろっ!!」

 一番大きな声を張り上げ、端整な顔立ちを険しくして青龍偃月刀を突きつける愛紗。

 

 全員から立ち上る凄まじい闘気を感じて、リンダは深く息を吐いた。

「ほう……最後の追い込みですか。では、私も全力でお相手致しましょうか……」

 閉じた鉄扇を女性陣に突きつけ、意地悪そうな笑みで対抗する。

 相変わらずの小馬鹿にした発言に、女性陣のこめかみが反応したが、相手に悟られないよう更に闘志を燃やした。

 そんな様子に少し気を引き締めたのか、リンダの手に力が入り鉄扇が僅かに軋んだ。

「やる気になるのは一向に構いませんが、結果は変わりませんよ。あなた方は誰一人として、私を捕らえる事は出来ません」

 強気な態度を崩さないリンダに、愛紗も負けじと言い返す。

「別に捕らえなくとも良い。貴様に触れさえすれば良いのだからな……」

「それも無理ですね。今までの戦闘でお分かりでしょうが、私は防御や回避に長けています……。ですから私には絶対に触れられませんよ」

「それは、やってみなければ分からんだろう?」

 口元に笑みを浮かべて、愛紗は更に言い返す。

「随分な自信ですねぇ……。その自信が果たしてどこまで持つのか楽しみで……」

 

 

「さーわったーーー!!」

 

 -ポフッ!!-

 

「…………は?」

 突如後ろから聞こえてきた楽しげな声と、自分の腿裏を触る感触に、男は間抜けな声を上げた。

 声を出してから後ろを振り返ると、その目線を下げた所に一人の少女が確認できた。

 更に、その少女の後ろには、年は少し下であろう少女達が何人かいた。

 事態を飲み込めていないキョトンとした顔の男と同じように、状況は理解していないが凄く楽しそうな笑顔をしている少女は、ただじっと男を見ていた。

「……あなたは、確か黄忠様の?」

「璃々だよ!!」

 その元気な声は、男が先程聞いた声に間違いなかった。

「……では、さっき私に触ったのも?」

「うんっ!!」

 屈託のない少女の笑顔を見ても、男は心が晴れやかにはならなかった。

 

「触るんだったら、どんな方法でも良かったんだよね?」

 男が次に耳にした声の出所は、闘技場の外からだった。

 声の主は、少女達の更に後ろで様子を見ている北郷一刀であった。一刀は呆然としているリンダを満足げに眺めている。

「なるほど……。これはあなたの計略ですか」

「これほど巧くいくとは思わなかったけどね」

 

 -ガシャンッ!!-

 

 力無く鉄扇を落としたリンダ。金属音の後に、暫しの沈黙が走る。

「……私の、負けですねぇ」

 溜め息混じりに呟かれたその声に、一同は一斉に喜びの声を上げた。

 

 と、敗北を認めた男は、自分のスラックスの裾を軽く引っ張られるのを感じた。

 見ると、自分を負かした少女が不思議そうな顔をしていた。

「ねーねー、何で皆喜んでいるの? おじちゃん」

 

-ピシッ!-

 

 その声で、リンダは一瞬で石化した。

 

 

 

 

 

-続く-


 
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