No.567168

後の朝日を

庚迅さん

サルベージ3段目

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2013-04-17 23:33:22 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:225   閲覧ユーザー数:225

夢を見た

 

いつもの夢だ。

最後に見た夫の姿が、ずっと、ずっと遠くに行ってしまういつもの悪夢

どんなに手を伸ばしても、夫の名前を無き喚いても

決してあの姿が、近付いてくる事も 留まってくれる事も無い

何度も同じ夢を見て、夢だと知っていても尚

同じ行動をずっと繰り返すしか無い夢

 繰り返さなければ、もうこの夢さえ見る事もできなくなってしまう

そんな恐怖感から抗う事すらできなくなってしまう 夢

 

夢 なのに、 そんな夢 だったのに。

今日は違った

 

縋る為に伸ばしていた手を掴まれた

 

耳元で誰かの声がした「大丈夫」驚いた

 

振り返ると、そこには「あ 貴……」

 

自分の喉が動く感覚と耳に届いた自らの声で目が覚めた

濡れた眦から泣きながら眠っていた頃ももう分かっている。

慣れた手つきで夢の余韻を引きちぎる

 目覚めて最初に涙をぬぐう事ももう慣れた

 

だけど、こんな気持ちになったのは始めてだ

 

さっきまで見ていた夢を思い出す、想い、出そうとする。

途中まではいつもの悪夢、だけど 今回は

 こんな終わりは初めてだ

落ち着こうと、頭を振ってから見ていた夢の事を考えた

 

子供の声、子供の声、誰かの顔

夢の残滓に、意識を強める

 だが、強めようとしたその意思に夢の記憶は溶かされていく

 

儚く消えるその夢の記憶に夫を思い出して視界がじわりと滲む、慌てて思考を振り払おうともう一度頭を振った。 今度はさっきよりも強く

結われていない髪が流れて朝の空気に梳られた

 

夢はもう醒めたのに、強い確信が胸中を満たす

 

彼女は腹部に両手を宛てて、朝日の中で祈るように目を閉じた

 

床に落とされた涙の雫が、静かに朝日を映していた

これからの未来を示すように

 


 
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