No.566114

真・恋姫†無双 異伝 「伏龍は再び天高く舞う」外史動乱編ノ三十六


 お待たせしました!

 ようやく戦は決着し、後処理が始まります。

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2013-04-14 18:07:43 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:5601   閲覧ユーザー数:4387

「妾が良いと言うておるのじゃ、その件は忘れよ」

 

「そういうわけにはまいりません。幸いにも怪我一つせずに済んだとは申して

 

 も、易々と陛下の面前にまで曹操達を近づけさせてしまったのは事実。その

 

 罪は罪として受けねばなりません」

 

 月は劉弁の前に平伏してそう述べる。

 

 何を問答しているのかというと、戦の終盤において曹操達に劉弁の陣幕の中

 

 にまで入られた事について、警護の担当であった月が自らに対して厳重な罰

 

 を下すよう劉弁に具申したのだが、劉弁自身は自分が傷一つつかなかった故

 

 にそれを不問にしようと言い、月がそれではあまりにも身内に甘い判断であ

 

 ると一歩も退かず、決着を見ないままとなっていたのであった。

 

「じゃがな月よ。少なくとも、今はお主にも相国として戦の後処理に当たって

 

 もらわねばならん。どうしてもと言うのであればこの件は一旦妾が預かって

 

 洛陽に戻った後に改めて裁くという形にしたいのじゃが」

 

「…分かりました。では必ず洛陽に戻りし折には私に対する処罰をお願い申し

 

 あげます」

 

 そう言ってようやく月は引き下がる。

 

「まったく…一刀といい、月といい、妾の身辺におる者達はこういう事となる

 

 と一歩も退こうとせねから困りものじゃな」

 

 劉弁はそう言ってため息をつく。

 

 実は既に一刀からも『今回、曹操を陛下の前にまで入れさせてしまったのは

 

 自分にも責任のある事なので厳正なる処罰を』と申し入れられており、無か

 

 った事ににしてしまいたかった劉弁にとっては少々頭の痛い問題となってい

 

 たのであった。

 

「まあ、それはともかく…改めて曹操の家臣達の処罰に入る」

 

 その劉弁の言葉と共に捕縛されている荀彧・郭嘉・許楮が引き出される。

 

 三人共、曹操が生死不明という事で何処となくうかない顔をしていた。

 

 

 

「まずは…許楮、じゃったな。そちには無期限の奉仕労働を申し付ける」

 

「奉仕労働…ですか?」

 

「うむ、要するにタダ働きということじゃな。ちなみに妾が良いと判断した時

 

 にそれは解かれるのでな」

 

「あの…その間のご飯は…?」

 

「一日三食用意するので心配いらんぞ」

 

「それってやっぱり…」

 

「当然一回一人前じゃな」

 

 それを聞いた許楮はあからさまに嫌そうな顔になる。

 

「きょっちー、陛下に対してそういう態度を取っちゃダメなんだぞ~」

 

「文ちゃんも劉協陛下に同じような事やってたでしょ!」

 

 それを猪々子がたしなめようとして斗詩に怒られていた。

 

「あの…」

 

 その時、流琉がおずおずと手を挙げる。

 

「何じゃ、流琉?」

 

「あの、その子の奉仕労働なんですけど…」

 

「確かお主は許楮の親友じゃったな。幾ら友達とはいえ、赦免の話なら聞かんぞ」

 

「いえ、そうじゃなくて…もし良ければその奉仕労働は私の所でというわけには

 

 いきませんか?」

 

 流琉の提案に劉弁は少し考えてから答える。

 

「ふむ…確かに許楮の行動を監視する者が必要じゃしの。妾は良いと思うが一刀

 

 はどう思う?」

 

「陛下が良いのであれば俺には異存はありません」

 

「ならば流琉、お主に許楮の監視を命じる。必ず月一回、許楮の行動を報告する

 

 ようにの。友達じゃからといって甘やかすでないぞ」

 

 劉弁がそう言うと、流琉は安堵した顔になり許楮は笑みを浮かべる。

 

「やった!流琉と一緒なら毎日美味しい物が一杯食べれる!!」

 

「これ、あくまでも監視を命じたのじゃ。お主に腹一杯食べさせるわけではない

 

 からの。おとなしくしておらんと場合によっては監視者を変える事もあるから

 

 忘れぬようにな」

 

「…は~い」

 

 許楮ははしゃいだ所を劉弁にたしなめられ、バツの悪そうな顔をしていた。

 

 

 

「では次の者…荀彧、じゃったな。そちには…」

 

 劉弁が言葉を続けようとしたその時、

 

「陛下、この者は儂に任せてもらえませぬか?」

 

 王允がそう口を開く。

 

「爺がか?突然どうしたのじゃ、まさか嫁にしようなどと言うのではあるまい?」

 

「まさか…じゃがこやつめは少々才気走りが過ぎて人の世の何たるかが分かって

 

 おらん様子。なので儂の養女として一から鍛えなおす所存」

 

 王允がそう言った途端、荀彧の顔がみるみる青ざめてくる。

 

「ひぃ!陛下、それだけはご勘弁を!!」

 

 荀彧はそう言って平身低頭で劉弁に願うが、

 

「そうか…ならば荀彧は王允に任せよう」

 

 それを見てニカッと会心の笑みを見せた劉弁はあっさり王允の提案を受け入れ

 

 る。そしてその瞬間、荀彧はその場で卒倒してしまった。

 

「そうか、そうか、失神するほど嬉しいか。ならば妾も考えに考えた甲斐があっ

 

 たというものじゃ」

 

 劉弁はそう言っていたが、その眼は完全に笑っていたのであった。

 

 その後、荀彧は正式に王允の養女となったのだが…その教育の余りの厳しさに

 

 『このじじいの娘をやっている位なら虎や狼の娘になっている方が何倍もマシ

 

  よーーー!』

 

 と涙声で訴えていたとか、いないとかいう話である。

 

 

 

「さて、では最後に…郭嘉、じゃったの?お主はわざわざ謹慎中であった曹操を

 

 たきつけて騒乱に走らせた罪は許し難い。お主にはしばしの間洛陽にて入牢を

 

 命じる。しかしこれはあくまでも仮の裁き、正式な沙汰は改めて通達する故、

 

 しばらく頭を冷やすと良い」

 

 それを聞いていた郭嘉は顔を俯かせたままであった。

 

 その姿を風はじっと見つめるだけであった。

 

 ・・・・・・・

 

 数日後、洛陽に戻った劉弁より、月と一刀への処罰とその他の諸侯達への論功

 

 行賞が発せられた。

 

「まずは…月。お主より大将軍の位と冀州を召し上げの上、お主自身には十日間

 

 の謹慎を命じる。さらに幽州の管理を任せるが、幽州に関しては管理だけであ

 

 り、そこからの収入は国庫へ接収する事とする。それをゆめゆめ忘れぬよう。

 

 それと、今入牢にしている郭嘉を幽州へ流罪にする事に決定した。その管理も

 

 そちに任せる。但し、その費用はそちが全て負担するように。良いの?」

 

 月は神妙にそれを受け入れていた。

 

「続いて一刀。お主より左将軍の位と交州を召し上げ、洛陽にて朱里と共に二十

 

 日間の謹慎を命じる。その間の政は水鏡と輝里が代わりに担当するよう」

 

「…ははっ」

 

 一刀もそれを受け入れる。

 

 続いて他の諸侯への論功行賞に入る。内容は次の通り。

 

  馬騰 → 月の後任として大将軍に。(領土の加増は再び固辞)

 

  盧植 → 南皮を除く冀州を与えられ、馬騰の後任の驃騎将軍に。

 

 公孫賛 → 盧植の後任の車騎将軍に。(彼女も領土の加増は固辞)

 

  孫権 → 交州を与えられ、孫策を左将軍・孫権を右将軍に。

 

  袁紹 → 冀州・南皮の地を与えられる。但し、袁紹自身は衛将軍として洛陽

 

       に在住を命じられる。

 

「ではこれにて戦の後処理を終わりとする。皆、ご苦労であった。戦の疲れを癒し

 

 たら、また領地に戻ってこれからも政務に励むように」

 

『ははっ!!』

 

 

 

「何でや!?何で一刀だけがこないな待遇なんや!!」

 

 役宅に戻って霞が開口一番、そう喚く。

 

「皆もおかしい思わんか?確かに陛下の側近くにまで曹操を入らせたのには一刀に

 

 も責任があるんかもしれん…でも、何で一刀が将軍位を取られて、一番責任があ

 

 るはずの月が幾ら大将軍の位を外されたいうたかて相国のままなんや!?」

 

 霞の言葉に誰も反論しない…しないというより出来ないというのが事実であろう。

 

 何故なら、霞の言った事は他の皆も思っている事であったからだ。しかし…。

 

「そこまでだ、霞。全ては陛下の御沙汰だ、それについての反論はするな」

 

 俺がそう言うとさすがに黙る。しかし、その眼は全くと言っていいほど納得して

 

 いないものであった。

 

「霞さん、今回の事は…『朱里、それは!』ご主人様、此処は本当の事を言ってお

 

 きましょう。でないと、余計なわだかまりを残す事になります」

 

 …確かに朱里の言う通りか。

 

「分かった。なら任せる」

 

 俺のその言葉に朱里は頷いて、皆の方に眼を向けて話し始める。

 

「本当は陛下は無かった事にすると仰せでありました。ですが、月様とご主人様が

 

 陛下に『皇帝陛下に敵を近づけさせた事そのものが罪であります。それを情によ

 

 って無かった事にするのは法での統治を目指すこれからの国造りに障害にしか成

 

 りえません。厳正なる処罰を』と仰られたのです。さらにご主人様は『月はこれ

 

 からも陛下の政に必要な存在、相国の位はそのままにするべき』と陛下に言われ

 

 て、この度の処罰へとなったのです」

 

「せやかて、何で一刀が…」

 

「それは…」

 

 霞の質問に朱里は口ごもる。何故なら、その理由は俺と朱里がおそらくそう遠く

 

 ないうちにこの世界から去るという事だからだ。しかし今此処ではっきりとそれ

 

 を言ってしまう事には躊躇いがあったのである。

 

 

 

「それは、何や?はっきり答えんかい!」

 

 霞が朱里に詰め寄る。

 

「それは俺が一身に罪を被るという建前を見せる為だよ」

 

 俺のその言葉に皆の顔がこちらを向く。

 

「どういう意味や?」

 

「俺は漢という国においてだけでなく、陛下個人からも気に入られている。ここで

 

 俺が無罪という事になれば、陛下は国の統治より一人の女としての情を取ると思

 

 われてしまいかねないだろう?さっき朱里が言った通り、それはこれからようや

 

 く始まる国造りの邪魔になるだけなんだよ。だから、ここで俺から将軍位を剥奪

 

 する事によって、これからの道筋をつけたんだ。例え陛下の信任が厚かろうとも

 

 罪は罪として裁くというね。でも…」

 

「でも?」

 

「正直これでも十分過ぎる位甘い処罰だと思うけどね。俺は死罪…とまでは言わな

 

 いけど、領地の没収位は覚悟していたんだけど」

 

 俺はそう言って皆を見る。皆の顔は沈んでいたが、一応納得してくれた…でいい

 

 のかな?我ながらなかなか強引な理由付けな気もするが。

 

「さて、それはそれとして…ようやく戦は終わったんだ。今日は宴会といこう!」

 

 俺はわざとそう陽気に言って宴の準備をさせる。

 

 それからささやかながらの宴会は始まったのだが…結局、盛り上がりに欠けた宴

 

 になってしまった。

 

 そして次の日、謹慎という事で洛陽に留まる俺と朱里を残して皆は荊州へと帰っ

 

 ていったのである。

 

 

 

 そして次の日の朝。

 

「ご主人様、起きてください!!」

 

「どうした?こんな朝早くから…」

 

「陛下がお見えです!」

 

 驚いた俺は支度もそこそこに客間へ向かう。

 

 そこには平服に身を包んだ陛下がいた。

 

「陛下…どうされたのです?仮にも俺は処罰を受けて謹慎の身。しかもその格好から

 

 察するにお忍びで来られた様子。一体何が?」

 

「…妾はどうしても納得出来んでの」

 

「何がです?」

 

「お主と月に対する処罰がじゃ。月はまだ相国の位が残っておるが、お主には州牧の

 

 位のみ。何も将軍位まで剥奪しなくても良かったのではないかとな」

 

「陛下…あなたがそんな事を言ってはダメですよ。例えあなた個人が納得出来なくと

 

 も罪は罪。今回の処罰とておそらく十分甘いと思っている連中も大勢いるでしょう

 

 しね。そんな時にあなた御自身がそんな事を考えていてどうするのです。あなたは

 

 何も恥じる事はしていません。堂々としていれば良いのです」

 

 俺はそう言ったが、陛下の顔から迷いは消えていなかった。

 

「それは分かっておる、分かっておるのじゃが…」

 

「分かっているのなら話はそれまでです」

 

 俺は話を切り上げようとするが、

 

「じゃが一刀よ。そちとてこれから必要な存在なんじゃぞ。じゃから…そう遠くない

 

 内にまた何かしらの位を授けるつもりじゃからな。これは命令じゃぞ」

 

 陛下はそう言って去っていった。

 

 

 

 

 俺達は陛下の去っていった方を見ながらぽつぽつと話をしていた。

 

「そう遠くない内…か。でもおそらく…」

 

「そうですね…多分、私達にはそう多くの時間は残されていないでしょう。残された

 

 時間の中で私達が出来る事は…」

 

「俺達が消えても政に支障をきたさないようにする事だな」

 

「はい、それに…」

 

「それに?」

 

「前にも言ったと思いますが、私は此処でおばあ様から授かった物の後継者を探すつ

 

 もりです」

 

 ばあちゃんから授かった…『六韜』の事か。

 

「あれはこのまま私が持っているよりも、この世界でこそ必要な物です」

 

「でもまだ誰にするかは決めていないんだろう?」

 

「何人かは候補を絞っていますけどね」

 

「でももうそろそろ決めないといけないな」

 

「はい…」

 

 俺達はそう呟きながらただ空を見つめていた。

 

 

                                           続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010です。

 

 読んでいてご不満も多かったでしょうが、

 

 一応これで戦後処理は終わりです。

 

 これからは、新たな国造りへの出発と…

 

 そう遠くない内に訪れる一刀と朱里の現代

 

 への帰還へ向けての話となります。

 

 

 それでは次回、外史動乱編ノ三十七にてお会いいたしましょう。

 

 

 

 追伸 完結まで後何話で収められるか考え中…それと一応動乱は

 

    治まりましたが、題名は『外史動乱編』のままでいきます。

 

 

 

 


 
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