No.566092

がちゆり-結衣v綾乃-

初音軍さん

こういう組み合わせも悪くはないと思うのです。京子とは違って求めるものは違いますが、お互い心地の良い空間を作って静かな癒しがありそう。ちょっと需要はアレかもですがよかったら見てってください~

2013-04-14 17:07:30 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:697   閲覧ユーザー数:667

【綾乃】 

 

 歳納京子が吉川さんとくっついてから、船見さんの痛々しい様子が見るに堪えなくて

私が声をかけたのがきっかけだった。 そこから普段あまり話をしなかった

私たちも似たような立場の者同士で話が合いすぎて苦労話に華を咲かせる。

 

 歳納京子の話になるたびに暗くなる彼女を見て放っておけなくなり、

長い時間付き合うようになってから。 

 

 いつの日だっただろうか。船見さんから告白を受けた。

私も徐々に彼女の優しさと温もりが好きだったからすぐに答えを出した。 

付き合おうって。

 

「お待たせ、待った?」

「いや、私も来たばかりだから」 

 

デートの約束をするくらいまでは近づいていた私たちだけどどこか恋人とは言えない

距離感を残したまま、関係が続いていた。 それも時間の管理はお互いそれなりに

しっかりしてるはずだから私が遅れる理由はないのだ。現に予定の時間より

10分ほど早く到着していた。 船見さんはいつから待っていたのか。

公園の鳥たちが鳴き声を発しながら木の枝から飛び立つ音が耳に届き辺りの静けさを

強調しているように感じた。

 

「いつから来てたのよ」

「ん、あぁ。30分くらい前」

 

「早く来すぎじゃない?」

「そうかもしれないな」

 

「ふふふ」

 

 私は思わずうれしくなって手を口にあてて笑うと照れくさそうに頭を掻く

船見さんの仕草がかわいく感じた。

 

 

 

「ねぇ、船見さん」

 

 これからどうしようかという言葉を発する前に彼女の方から先に声を出していた。

 

「あのさぁ、綾乃」

「ん?」

 

「結衣と呼んでよ」

 

 いきなり予想外の言葉をかけられて一瞬私の思考が停止するもそれ

を意味することがすぐにわかってみるみる内に私の顔は赤くなっていったに違いなかった。

だって、すごい暑くなっていたから。

 

「じゃ、じゃじゃじゃ、船見結衣!」

 まるで歳納京子に歳納京子!っていうようなノリで返すとプッと笑いを堪えるように

船見結衣は俯いて震えていた。

 

「綾乃って相手を意識するようになるとフルネームで呼ぶようになるんだ?」

「う、うるさいわね!」

 

 余裕が出てきた彼女の様子に口調を強くしながらも私は正直不安だった気持ちが

少し楽になっていたことに気付いた。

 

 びっくりしてフルネームで呼んでしまったが、歳納京子ほどドキドキもしないけれど

船見さんの近くにいると穏やかな気持ちでいられるから別の意味で好ましかった。

 

 そんな船見さんの優しさに甘えて私は一線を越えられずにいた。

越えなくても、満足できていたから。でも、船見さんはどうなんだろう。

 

 そう思いながら、私は普段言いなれない下の名前を口に出す。

 

「ゆ、結衣・・・」

「うん。綾乃、よくできました」

 

「こ、子供扱いしないでよ」

 

 とはいえ、私は子供だ。結衣も同じ子供のはずだけれど私より落ち着いて

大人びて感じるから安心できるのだろうか。 

 

 これからどこへ行くかという話をベンチに腰をかけながら話している。

その傍らでしっかりと手を繋いでいるのだ。 最初はこそばゆかったその行為も慣れていくと

傍にいる感覚と温かい体温を感じて、繋がっていられるようでドキドキしていた。

 

「じゃあ、カラオケにでもいこうか」

「いいわね!」

 

 といいつつ、人前で歌うのは未だに抵抗あるけど結衣と一緒なら楽しいかと思って

積極的に受けることができた。

 最初はちょっと緊張しつつも、結衣が一緒に歌える曲を選んでくれたから少しずつ

解れていって自然に歌えるようになった頃。

 

「京子は何歌う?」

 

 癖っていうのは恐ろしいものだ。それも長いこと一緒にいた幼馴染だからこそ

無意識に出てしまうのだろう。 私が何も言えずにいると結衣が自分で気づいて明らかに

焦った様子で訂正しだした。

 

「ごめん、綾乃」

「ううん、気にしないで」

 

 私もそんなに長くなくても千歳に依存していたから逆の立場もあったかもしれないのだ。

だけど、それからはさっきまでの和やかなムードは一気に取り除かれ、

気まずい時間を過ごしたのだった。 食事もカラオケ店で済ませて外に出ると雨が

思いの外強く降り出していた。

 

 用意をしてなかった私はどうしようかと困っていたが結衣は予め持っていたみたいで、

折り畳みの傘を取り出して広げた。

 

「ちょっと早いけど帰ろうか。送るよ」

「ありがとう」

 

 別に誰が悪いってわけでもないのに空気が淀んだまま歩いているとどんな偶然か。

 

バシャァ!

 

「きゃっ!」

 

 水が溜まっていた場所を車が通って勢いよく二人に目掛けて飛んできた。

そんなのを避けきれるわけもなく私達はびしょぬれになってしまった。

 

「今日はついてないなぁ」

「ねぇ~」

 

 思わずおかしくなって私達は思い切り笑っていた。これだけ濡れるともはや

傘を差す意味は無くなる。傘を閉じて濡れた髪をわけながら振り返ってきた結衣は

苦笑しながら私の腕を引っ張った。

 

「私の家の方が近いし。来なよ」

「ありがとう…」

 

 結衣の家なんて初めてだから、少し緊張して声が喉元から出にくくなってしまうが

嫌っていう気持ちじゃないのを結衣は察してくれて笑顔を向けてくれた。

 

「もう・・・」

 

 私は自分の顔が赤くなるのを感じて更に恥ずかしく感じていた。

静かに、しかし強く降る雨の中、溜まる雨水を踏み音を鳴らしながら私達は歩いた。

 

 家に着くころには靴の中もびしょびしょで玄関に上がるのを躊躇っていると

中にさっさと入った結衣がタオルを持ってきた。

 

「遠慮せずに上がって。お風呂沸かしてるからちょっと待ってて。それまで

私の服に着替えててね、今持ってくるから」

「ありがとう」

 

 そうしてお湯が張るまで会話もなく気まずい時間が流れる。

このままだとこれからも同じ空気のまま過ごすのかと思うと胸が引き裂かれるような

辛い思いになる。

 

「あ、お風呂沸いたみたい。綾乃、先入りなよ」

「えぇ・・・」

 

 私は結衣の前を通る途中で止まり、自分の中の勇気を振り絞って結衣に声をかけた。

 

「いえ…結衣、一緒に入りましょう?」

「え・・・?」

 

「結衣が風邪引くのとか・・・私嫌だし・・・!」

 

 なんとか口に出したあと、顔が熱くなるのを感じてこれ以上は何も言えずに

立っていると後ろから結衣が抱き締めてきた。

 

「うん、ありがとう。一緒に入ろうか」

 

 

 

 

 白い湯気が視界を霞ませていても、結衣の白い肌がよく見える。

自らの体を洗っている結衣の姿を湯船から顔をひょこっと出して凝視する私。

白い肌と水を含んでしっとりとしていても艶がよく出てる黒髪がとても綺麗で、

私は視線を外せずにいた。

 

「そんなに見られると恥ずかしい・・・かな」

「あ、ごめんなさい・・・!」

 

「や、謝ることじゃないけど・・・さ」

 

 言葉を途中で止めるようにして、ちょっと言いにくそうにしている結衣。

だけど言葉の中には迷惑というよりは照れくさいといった意味が含まれてるような

雰囲気があった。

 

 湯気が天井に昇り、やがて一滴として湯船に向かって落ちていく。

肌にそれが当たると一瞬ひんやりとした感触がなんともくすぐったい気持ちになる。

 

 何か喋らなきゃって思っていて焦っていたけど、ふとこういうまったりとした

空気は悪くはないって感じていた。

 

「最近、言葉を切らせないようにって色々考えていたけど」

「ん・・・?」

 

 結衣が天井を見上げながら、多分私に向かって言ったのだと思う。

だから、小さいながらも反応をすると。

 

「無理にしなくても、こうやって一緒にいて心地良いって思えたなら

それでいいのかもしれないな」

「そうね」

 

 結衣も私と同じことを考えていたのが嬉しくて、少し気分が高まったような

声で返した。そうすると、洗い終わったのか立ち上がった結衣は私の方を見て

微笑みかけてきた。

 

「来な、綾乃。洗ってあげる」

「え・・・え・・・!?」

 

 予想もしない申し出に断れなかった私はドキドキしながら結衣に背中を向ける。

ボディーソープをつけたスポンジでゆっくりと私の背中を擦ってくる。

 

 緊張と背中から伝わる気持ちよさとがどういう具合か私の口から変な声を出させた。

 

「あっ・・・」

「あはは、綾乃ってば可愛い声だすなぁ」

 

「もう・・・!からかわないでよ!」

 

 っていいつつも、次々と私の背中を擦り続ける結衣。その感覚にもう慣れたのか

私も変な喘ぎ声を出さずにあまりの心地良さに意識がぼんやりしていた。

 

「の・・・。あや・・・の」

 

 すごく結衣の声が遠くに感じて私は危ないと思って意識をしっかりと持つ。

私が眠そうにしていたのを結衣も感じたのか強めに声をかけていたようだ。

 

「疲れた?」

「そうかもしれない」

 

「じゃあ、少しお湯に浸かってから出ようか」

「うん・・・」

 

 湯船に浸かりながらお互いを見詰め合う私と結衣。目を合わせると少し

緊張してしまうが、ちょっとずつ話をしていると徐々に心地良くなってきて、

体が芯まで温かくなった頃を計って二人でお風呂から上がった。

 

「お、乾いてるな」

 

 お風呂から上がって私が先にドライヤーを使わせてもらってると、

うっすらと結衣の言葉が聞こえてきた。

 

「まだ靴が湿っぽいけど、どうする?」

「あ・・・かえ」

 

 私は遠慮がちな性格のためかつい帰るっていう言葉を口走りそうになるのを

必死に堪えた。本当はまだ一緒に居たいから。

 

 そんな私の気持ちを察してか、結衣は笑顔をそのままにこう言ってくれた。

 

「泊まっていく?」

 

 その顔を見て私は嬉しすぎて泣きたくなった。

 

「うん・・・」

 

 何とか絞りだせた言葉はそれだけだったけど、いっぱいの感情を込めて発したのを

結衣は嬉しそうに頷いてくれた。

 

「何か食べたいものある?」

「んー…、なんでもいいかな」

 

 適当とかじゃなくて、特にリクエストがないのと。結衣が得意そうな料理が

食べたかったのが理由の一つであった。

 

 思えば結衣の住まいに来ることが滅多にないんだから料理を食べることも

同じくらいないのだ。

 

「わかった。じゃあテレビでも見て待ってて」

 

 当たり前のようにそう言うから私は慌てるように両手を顔の前に出して

横に振った。

 

「私も手伝うわよ」

「あ、そっか。ありがとう」

 

 

 

 癖というのはけっこう厄介なものであった。特に意識しているわけでもないのに

ずっと一緒にいた人に合わせて言葉も動きも一定に合わせているのだから。

多分それは誰かと考えなくても歳納京子だってことはすぐにわかる。

 

 でも、さっきとは違って私も結衣も少し苦笑するだけで空気が固まることはなかった。

お喋りしながら下ごしらえをして、味見をして。普段体験しないことをしてすごく幸せな

時間が訪れた。

 

「今日はありがとう。一緒に料理とかしたことないから新鮮で楽しかった」

「それは私もよ」

 

 改めて言い合って、急に可笑しくなって私達はお互いを見ながら笑いあった。

そうしてテレビを見たり、宿題を見たり、一緒にゲームをやったりしている内に

すっかり寝る時間になっていた。

 

 楽しいと時間が過ぎるのも早く感じる。

 

 二人分の布団を引いて潜るが、布団の間に少し隙間があるのが寂しく感じて

私はちょっとずつ布団をずらして結衣に近づいていく。

 

「どうしたの?」

「え、べ、別になんでもないわよ」

 

 焦って私は普段歳納京子に使うようなきつい口調で言うと結衣は楽しそうに

笑っていた。

 

「じゃあ、こっちに来る?」

「ゆ、結衣がそう言うならね・・・!」

 

 初めての体験。

 

 私が結衣と同じ布団の中にいることが信じられないくらいだ。

中はすごく暖かくて結衣の匂いがしてクラクラしそうになる。

 

「綾乃って抱き心地いいよね」

「そうかな・・・?」

 

 心がとろけそうになりそう。一緒の布団にいて結衣に抱かれることがこんなにも

私の気持ちが大きくなるなんて、思いもしなかった。

 

 そもそも結衣に恋をするっていうこと自体、少し前の私には思いもしなかったのだけど。

人を好きになるっていうのは決まってるわけじゃないのね。

 

 失恋はしたけれど、こうして一緒にいて心地良い相手に巡り合えたんだもの。

私は今、この状況に感謝をしていた。

 

「結衣・・・」

「うん?」

 

「大好き・・・」

「私も・・・」

 

 自然とひきつけられるように私達は軽くキスをしてから「おやすみ」と言って

眠りに就いた。もっとドキドキして眠れない時間を過ごすかと思ってたけど

驚くほど早く寝ることができたのだ。

 

 翌日、時間がないからそのまま学校へ向かうのに自分のがないから結衣の制服を

借りることになってサイズ大丈夫かなと心配したけれど、あまりにぴったりで

びっくりした。

 

「こういう時、サイズが変わらないと便利だね」

 

 という結衣の言葉に大きく頷いて登校することにした。

普段は一緒に登校できる機会がないから、なんだか嬉しかった。

恋人と一緒に暮らすのはこういうのかなとか妄想とかもした。

 

 そして、外に出て涼しい風を浴びて私達は手を繋ぎながら学校へ向かうのだった。

すぐそこに愛しい人の姿と温もりを感じられて私は今とても幸せなのだった。

 

「綾乃、嬉しそうだね」

「うん。結衣と一緒ならいつでも笑顔でいられそう」

 

 そう言って照れくさそうにする結衣を眺めながら私達は再び普段の生活に戻る。

この甘い一時はまた次の楽しみにとっておくことにしようと、そう決めたのだった。

 

お終い


 
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