No.565922

真恋姫†夢想 弓史に一生 第七章 第九話 

kikkomanさん

どうも、作者のkikkomanです。

前話から引き続き黄巾の乱は終結に向かっています。


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2013-04-14 02:07:47 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:1430   閲覧ユーザー数:1311

 

~聖side~

 

 

 

「甘寧さん、ありがとう。もう大丈夫だから……。」

 

「…………。」

 

 

 

俺がそう言うと、甘寧さんは少しだけ頷いて俺を降ろしてくれた。

 

まだ思うように身体が動かないが、とりあえず近くの石に腰掛ける。

 

 

 

「本当に助かった。あのままなら確実にやられてたよ……。」

 

「…………。」

 

「どうしたの??」

 

「………蓮音様から聞いている。 貴様の武は雪蓮様よりも上であると………。」

 

「まぁ、今は分からないけど俺が呉に居た時は俺のほうが上だったな。」

 

「………では、先ほどの手練に見えない男はお前よりも、雪蓮様よりも上だと言うのか?」

 

「………純粋な武だけで見たら俺の方が奴よりも圧倒的に強い……はずだった……。しかし、何故だか思うように体が動かないんだ。それこそ、新兵の様な動きになってしまった……。」

 

「貴様の驕りでは無くてか?」

 

「まぁ、多少の驕りがあったかもしれないけど、それでも負けるような相手ではなかったし、それに何か違和感を感じるんだ。」

 

「違和感だと??」

 

「なんて言ったら良いのか分からないけど………それこそ、何か別の力で押さえつけられているようなそんな変な気分がしたんだ……。」

 

「面妖な………まさか、奴は五胡の妖術師か??」

 

「無い話ではないけど……憶測の域を超えない以上この話を続けても無駄だな……。」

 

 

 

ようやく身体に力が戻り、自分の足で確りと立てるようになる。

 

それからいくらか身体が動くことを確認し、近くの木を正面に見据え腰を落とす。

 

 

 

「…………はっ!!!!!」

 

 

 

居合い切りで磁刀を振りぬくと、逆刃だと言うのに木の幹には刃物で切られたような鋭い傷が残っていた。

 

 

 

「………見事なものだな。呉にもお前のようなことが出来るものはいるが……そこまで早く抜くことは出来ん……。」

 

「う~ん………遅くなってるわけじゃないんだが……まだ若干、技のキレが戻ってないな……。」

 

「何っ!? あれで上手くいってないだと!?」

 

「あぁ。一番良いときはこれでも木を切り倒すことは出来るんだが……。」

 

「これでも……??? はっ!!? 徳種、その剣を見せてくれ!!」

 

 

 

何かに気付いたらしい甘寧さんは、俺から磁刀を借りると刀身の部分をじ~っと見ていた。

 

 

 

「やはり………この剣は片方にしか刃が付いてないのか……。」

 

「そうだね。しかも、この刀は一般的なやつとは刃の向きが逆の逆刃だし……。」

 

「なら貴様は、この刃の付いてない面での斬撃で木を切ることが出来ると言うのか!?」

 

「だから、調子が良いときはね。」

 

 

 

俺がそこまで言うと、甘寧さんは口を開けたまま固まってしまった。

 

 

 

この時、甘寧は衝撃を受けていた。

 

この男の剣速が如何ほどに速いかと言うことに……。

 

 

 

 

 

 

 

普通、剣というのは刃が付いている面が何かに当たることによってその圧力で切れる。

 

これは刃の断面積が小さければ小さいほど、働く力が大きくなることに由来し、よく砥がれて切っ先が鋭いほどよく切れるのはそういうことである。

 

しかし、それ以外にも剣の使用者の技術が深く関わってくるが、一閃の下で敵を倒すとなれば大事なのはその剣速である。

 

剣速が速ければ速いほど敵はその軌道を読むことは出来なくなり、また、一撃の下で敵の肉を切り裂くことが出来る。

 

甘寧は自身の力に関して絶対の自信を持っているわけではないので、その剣速を高めることを自身の武の重きに置いていた。

 

しかし今、目の前でこの男がして見せたように、刃の付いて無い面で木を切りつけて果たして木にここまで鋭く深い跡を付けれるだろうか………。

 

また、調子が良ければこの木を切り倒すことが出来るだろうか………。

 

その答えを彼女は知っていた。

 

だからこそ、彼女は衝撃を受けた。

 

そして、彼女は知った。

 

自分の居る世界が小さな世界だということを………。

 

そして、彼女は気付いた。

 

まだまだ自分は頂を目指すことが出来るのだということを……。

 

 

 

「………武でも美でも、私より上か……。」

 

「ん?? 聞こえなかったからもう一回言って。」

 

「きっ……気のせいだ!! いいから早く忘れろ!!」

 

「はぁ……。」

 

 

 

しばらくぼ~っとしていた甘寧さんだったが、何か一言呟いた瞬間元に戻ったようだ…。

 

 

 

「それで徳種。私は一瞬しか入っていないので分からないのだが、天幕の中はどうなっていた?」

 

「…………今は……言えない…。」

 

 

 

俺がそう言うと、甘寧さんの表情が歪む。

 

 

 

「言えないとはどういうことだ!! 貴様が情報を教えると言う約束の下天幕に入ったのではなかったか!?」

 

「その通りだ……。その通りだが………今は言えない。」

 

「貴様………私たちとの間には同盟があるとぬかしてきたのはお前だぞ……。」

 

 

 

ギリッと言う歯軋りがここまで聞こえてくる。

 

甘寧さんの顔を見れば怒りに満ちているように見える。

 

まぁ当然だろうが、それでも俺は天和たちの名誉のためこの話をする気は無い。

 

例え、蓮音様を敵に回すようなことになったとしても……。

 

 

 

「言えない。例え君たちとの同盟が破綻しようとも、この事は言ってはならない!!」

 

「その覚悟があるというのだな……。」

 

 

 

甘寧さんは自身の武器を取り出し、こちらに身構える。

 

俺も武器を構え、甘寧さんと対峙する。

 

 

しばらくお互いに睨み合いが続くが、突然甘寧さんは武器を下ろした。

 

そして、俺に背を向けるようにして言った。

 

 

 

「貴様の覚悟、しかと見せてもらった。」

 

「えっ………じゃあ……。」

 

「この事は特に報告無しにしておく。」

 

「でも良いのか? 理由も話してないのに…。」

 

「人にはそれぞれ言えない事情と言うものがある。それを詮索するなど野暮と言うものだ。それに貴様の目は覚悟に満ちている。自分の利益のためだけとか言う考えも無さそうだと思ったまでだ。」

 

「ありがとう、甘寧さん。」

 

「………思春だ。呼び捨てで構わん。」

 

「……良いのか?」

 

「……あぁ。」

 

「ありがとう、思春。俺に真名は無いから呼びたいように呼んでくれ。」

 

「分かった。」

 

 

 

思春はこちらを一度振り返ると、

 

 

 

「最後に一つ言っておく。蓮音様はお前をいたく気に入っている。良いか、あの方の回りには多くの人が居る…が、ずっと一人だったのだ。お前が支えになってやれ。」

 

 

 

と言って去っていった。

 

 

 

「………分かったよ、思春。」

 

 

 

思春の後姿が見えなくなるまで目で追った後、その背中に向けて言葉を呟いた。

 

思春の言葉の意味を完全には理解していないが、蓮音様を裏切るようなことを俺はしないだろう。

 

ならば蓮音様の傍で、蓮音様の支えになれるなら、全力をもって手助けをする。

 

それが、今まで助けてもらった恩返しになるであろうから………。

 

 

 

「………でも、今はすいません。こっちも急事なんです。」

 

 

 

俺は急ぎ足で陣地へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

先ほどの天幕内で見た様子からして、天和たちの体力はもう限界だろう。

 

早くて明日の夜には衰弱死してしまうかもしれない。

 

ならば、決着は明日の日中しかない。

 

しかし、俺にやつが倒せるのだろうか……。

 

先ほどあれだけコケにされたことを考えれば、やつに勝つのは相当困難なはず……。

 

でも、本来の武で戦うことさえ出来れば俺にも勝機が見えてくる。

 

問題は、どういう経緯で俺の剣速があそこまで遅くなってしまったのかと言うことだ。

 

はたまた偶然なのか、それともあいつが素早すぎて俺の剣速が遅く見えるのか………謎は深まるばかりだ……。

 

 

 

「……それでも俺はやらなければならないんだ。」

 

 

 

自分に喝を入れるように口に出した後でこの言葉を胸に刻む。

 

必ず助け出して見せるからな………天和、地和、人和。

 

 

 

 

 

 

~桃香side~

 

 

「徳種さん遅いね~……。」

 

「そうですね。遣いの兵を送ってはいるんですが……。」

 

「私が行くときには、先生は既に天幕には居なかったのです。」

 

「勇さんやだださんの話だと、お兄ちゃんは天幕に入ってから、出てきてはいないそうなんですが……。」

 

「では、聖殿は何処へ消えたのだ…?」

 

「…………不思議…。」

 

「………あわわ…不思議です…。」

 

 

 

天幕内の7人が頭を捻っていると、

 

 

 

「お姉ちゃ~ん!!! 大変なのだ!!!」

 

 

 

勢い良く天幕に鈴々ちゃんが飛び込んできて、七人は何事かと身構える。

 

 

 

「どうしたの、鈴々ちゃん。一体何が大変なの?」

 

「今、陣の門前で、綺麗なお姉さんがお姉ちゃんに会わせろって言ってるのだ。」

 

「えっ!? 私に??」

 

「桃香様、お心当たりは??」

 

「う~ん……。私に会いに来る人に心当たりはないな~。」

 

「少しばかり危険かと思われます。が、無碍に帰してしまっては劉備軍の名折れ……。ここは一度会っておいて損はないかと。」

 

「もしもの時は、鈴々に任せるのだ!!」

 

「微力ながら、私たちもお助けするのです!!」

 

「えと……お助けします…!!」

 

「…………。(コクン)」

 

「ありがとう橙里ちゃん、麗紗ちゃん、蛍ちゃん。じゃあ、皆で会いに行こ!!」

 

 

 

意見が纏まり、一同は報告のあった門へと向かった。

 

そこには、

 

 

 

「だから、桃香に会わせてくれって!!!」

 

「駄目だ!!! 怪しい者を入れることは出来ない!!」

 

「怪しくないって!!! 今日もさっき入ったじゃん!!」

 

「何っ!? 貴様、我々が眼を話した隙にこそこそと……。」

 

「いやっ、堂々と入ってたって!!!」

 

「堂々とだとっ!!? ならば、やはり貴様を通すことは出来ん!! 通してしまっては我々門兵の威厳に関わる!!」

 

「何で通してくんないんだよ………。」

 

 

 

門兵と言い争っている報告どおりの綺麗な女の人が居た。

 

 

 

その女性は端正な顔立ちの上に身長も高く、手足はすらっとしていて綺麗な黒髪を腰ほどまで垂らしている。

 

 

身体つきから溢れ出す女らしさとは対照的な声の低さもこの人の魅力の一つだろう。

 

 

 

こんな綺麗な人が居るんだ~。

 

私の第一印象はこれだ。

 

女としてこれから先目指すべき理想の姿はああなのではないかとさえ思う。

 

 

 

 

だからこそ、そんな女性の一言に激しく動揺することとなる。

 

 

 

 

「あっ!! 桃香!!! 良かった、急がないといけないんだ!!!」

 

「えっ!? ええっ!!!!!????」

 

「貴様!!!! 桃香様の真名をよくも!!!!!」

 

「えっ!!? ちょっと待てって愛紗!!!!」

 

「なっ……。 貴様、私の真名まで……。 許さんぞ!!!!」

 

 

 

愛紗ちゃんは怒りを露にし、愛刀を握る手に力を込め、今まさに襲いかからんとしている。

 

 

私も愛紗ちゃん同様怒れるには怒れる………。

 

だがそれにしても……。

 

この人、私の真名を呼んだんだよね……!!?

 

真名の意味は分かってるだろうし…………と言うことはこの人は私が真名を預けたことのある人だと言うの??

 

え~っと…………あれ~……でも、こんな美人なら覚えているはずなんだけどな~……。

 

 

 

「え~っと……あの~……どちら様??」

 

 

 

疑いの目をしたまま発せられた私の一言に、きょとんとする彼女。

 

その反応は私もなんだけど……。

 

 

 

「えっ……本気で言ってる??」

 

「はい……。」

 

「………一体何が………はっ!!!?」

 

 

 

そこまで言った彼女は何かに気づいたらしく、慌てて着ている服を脱ぎ出した。

 

目の前で起こっている出来事があまりに唐突で予想外だったので、しばらくその行動を口が開いたまま見ていた面々であったが、その女性が最後に髪の毛に手をかけたところで、口から『あっ……。』と言う声が自然にこぼれた。

 

 

 

「これで………話を聞いてくれるか!!」

 

 

 

長い黒髪の下から出てきたのは、先程の色と同色のただし長さの短い髪の毛、そして首もとの骨っぽさと喉仏。

 

 

その姿は何処からどう見ても、先程まで自分たちと軍議をしていたはずの……。

 

 

 

「ひ………聖さんっ!!!!????」

 

「ひ……聖殿っ!!!???」

 

「良かった……ようやく伝わったか……。」

 

「えっ……ええっ!!!!!??? 綺麗な女の人が私を訪ねに来て………でもその女の人は聖さんで……聖さんは本当は女の人で………。」

 

「最後だけ違うわ~!!!!!」

 

「痛っ……!!!! あうぅ~……。」

 

 

 

聖さんの手刀が私のおでこを思いっきり捕らえる。

 

勿論思いっきりやられた訳ではないのでそれほど痛いわけではないのだが、急にやられると痛いと声を出してしまうのは人間の性なのかもしれない。

 

手刀が当たった場所を手で擦っていると、彼はいつもの笑顔で声を出して笑っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弓史に一生 第七章 第九話 理想の姿(??) END

 

 

 

 

 

 

 

 

後書きです。

 

 

第七章第九話の投稿が完了しました。

 

 

 

同盟の破棄を覚悟の上で天和達の事を話さない聖さん。

 

少しでも間違えれば直ぐにでも戦争になりそうなこんなことを平然とやってのける、そこに痺れる、憧れるぅ~!!!!!!

 

 

 

まぁ、蓮音なり思春なり覚悟を見せればそこに何かあると気付くと思いますが……。

 

 

 

そして、桃香!!!!

 

 

あなたの理想は男の娘ですが大丈夫ですか??

 

 

 

次話はまた日曜日に投稿します。

 

 

それではお楽しみに!!!!

 

 

 


 
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