No.560857

楽しく逝こうゼ?

piguzam]さん

第26話~こーのクソッタレがぁッ!!!

2013-03-30 19:02:36 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:21341   閲覧ユーザー数:17853

前書き

 

 

や、やっと書けた(泣)

 

でもリハビリも兼ねてるからクォリティ低いです。

 

それと、今日中に楽しく逝こうゼ?の1~9話までを修正しますので宜しかったら見て下さい。

 

もしこの作品を待って頂けていたらとても嬉しいです。

 

 

 

それでは…………どうぞッ!!!

「まったくよぉ……ほんとに可愛い過ぎるぞ?フェイト……俺の心をグチャグチャにしやがって……ほんとーに悪い娘だなぁオイ?」なでなで

 

アースラの会議室。

その部屋の中には、どこまでも調子の良い事をのたまりながらフェイト、いや穢れ無き『天使』を垂らしこんでいる橘禅がいた。

玄人の詐欺師ですら舌を撒いてしまいそうな甘言を垂れ流しながら頭を優しく撫でるその姿は手馴れているの一言では表現し切れない。

 

「はぅっ……そ、そんなこと言われても……私のせいじゃないもん」

 

もはや余す事無く、自分の存在を禅の色に染め上げられてしまったフェイトは恥ずかしそうに顔を朱に染めているが、ゼンの行動や台詞を止めようとはしない。

禅のなすがままにされ、頭を撫でられようが体を抱き寄せられようがお構いなし。

いやむしろそれを、そうされることをフェイト自身が心の底から望んでしまっているのだ。

そんなフェイトがどれだけ恥ずかしかろうが、自分から離れることを望む筈も無かった。

「いーや、断言できる。全部フェイトのせいだぜ?俺がお前を苛めたくなっちまうのは、お前が可愛い過ぎるのが悪い」なでなで

 

フェイトが嫌がらないことを良い事に、ゼンはここぞとばかりにフェイトを言葉と手で愛でる。

どうやら最近のO☆HA☆NA☆SHI☆で溜まりに溜まった鬱憤をフェイトを愛でることで解消しようとしている様にも見える。

気絶から目覚めてリインフォース、アルフと連続で可愛い女の子を愛でておきながらまだ足りないようだ。

 

「うぅっ……ふんだ……どうせ他の女の子にだって、そうやって声を掛けて口説いちゃうんだよ……ゼンは、すけこましだ」ぷぅ

「ぶはッ!?」

 

だが、フェイトもやはりゼンの女誑しな所全てに納得がいったわけではないのか桃色の唇をアヒルの様に可愛らしく尖らせて文句を言う。

そして、最近友達から教えてもらった覚えたばかりの言葉を使ってゼンにささやかな仕返しをした。

もっとも、言われた張本人は余りの不名誉さ極まる言葉に噴出していたが。

 

「フ、フェイトさんや?ど、どこでそんな言葉を覚えちまったんだ?い、い言いがかりにも程が……」

「だって、ユーノが言ってたよ?『綺麗な女の人とか可愛い女の子を見るとたらし込む、口説くことばかりする人をすけこまし』だって……どう考えてもゼンのことだよ、それ」

 

「……ユーノは後でブチシバく……そ、それはそれとして、だ。フェイト?すけこましってのは『女の人を誑かして売り払う』とか、そーゆう悪い意味もあっからよ……で、できれば余り言わんで欲しいんだが……」

 

星の白金も真っ青な精密さで的確に繰り出されるリバーブロー。

その憂さ晴らし(八つ当たり)を目の前の天使に要らぬ言葉を吹き込んだ張本人にブチかますことを決意して、ゼンはフェイトにやんわりと頼み込む。

普段ならここで憂さ晴らしを喰らいそうなユーノ本人から突っ込まれる所であろうが、その本人は残念ながら砂糖の吐きすぎで気付いていない。

「じ~……」

「うッ……(汗)」

 

だが、ゼンの言葉を聞いたフェイトはアヒルのように唇を尖らせたままに。上目遣いでゼンを穢れ無き瞳を向けて見つめる。

その純真無垢な瞳で見つめられたゼンは、イカサマがバレそうで挙動不審になった博打屋の如く脂汗を垂れ流し、最終的には目を逸らした。

 

「……すけこましってこと自体は、否定しないんだね」

「うぐッ!?……そ、それはまぁ、何と言うか……ねぇ?」

 

もはや北の神拳継承者ですら不可能と匙を投げてしまう程に正確なトドメを刺すフェイト。

当然、避けること叶わぬ一撃を身に、いや心に受けたゼンは狼狽し、焦ってしまう。

本人も小指の甘皮ぐらいの自覚はあったようだ。

もちろん、開き直るような答えが帰って来たフェイトは面白く無いわけで、絹の様な金髪のツインテールをぴくっと動かして、不満をアピールしていた。

 

「……もぉ……本当に、私の事……か、可愛いって……思ってくれて……る?」

 

そんなゼンの面白くない返答に唇を尖らせたままに質問を投げかける。

只、質問の内容が男の子に面と向かって「私は可愛いですか?」等というモノだったので、恥ずかしさから顔を赤く染め、口調はどもっていたが。

 

「も、もちろんですともッ!!」

 

フェイトのような可愛らしい少女の恥じらいながらも勇気を振り絞った問い。

そんな答えは初めから決まっている問いに、ゼンは声を張り上げて答える。

互いに抱きしめあいながら、互いに惚気ながら、これでもかとイチャイチャしている様にしか見えないフェイトとゼンの二人。

この二人の形成する桃色空間はアルフとゼンのイチャイチャっぷりを上回り、まるで何人も侵せない聖域と見紛う程の絶対空間と化していた。

 

……だが、それは所詮、普通の人ならではの話。

 

 

何事にも。

 

 

「huhuhu腐腐huhuhuhu負huhuhu♪」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………

 

 

例外は。

 

 

カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ

 

 

必ず存在する。

 

 

そう、フェイトと、彼女と同じく橘禅に思慕の情を向ける者にとっては、その桃色空間は嫉妬やら怒りやら負の感情を煽る空間でしかない。

その負の感情を最大限増幅された、まるで女神のような美貌を持つ女性、リインフォースは正常な言語変換すら出来ないほどにカチ切れていた。

まるで聖母を彷彿させるような美しい笑顔を浮かべているが、目元だけはこれっぽっちも笑っておらず、纏うオーラはもはや瘴気レヴェル。

彼女の背後に付き従うしゃれこうべの幻想は、溜まりに溜まった負の怨嗟を撒き散らすが如くその口をカタカタと激しく上下させていた。

ポッカリと空いていた目元に紅い光が灯るその姿は、もしもしゃれこうべが金属でできていよう物ならどこぞのSYUWAちゃんの中身そっくりだ。

 

(HUHUHU……すけこまし……女にだらしないのは頂けないな♪私が真っ当な道に戻して、私しか見れないようにして殺らなければ……うんそれがいい♪ゼンが私だけを見てくれるようになれば、例え今辛い思いをしようと、もう何も問題は無い♪)

 

なにやら物騒な事を心中で考えながら、リインフォースはまるで浮遊しているんじゃないかと思わせる動きで足音を一切立てずにゼンの背後に忍び寄っていく。

周りにいる人間は妄想の世界へダイブしていたり、血反吐を吐いて動かなくなったモノ?を必死に介抱していたり、米袋10Kg相当の砂糖を吐いていたりと中々カオスな状態だった。

甘ったるい空気に当てられていない少数の人物達はリインフォースが撒き散らす殺意の波動に飲まれて動けずにいた。

今のリインフォースを止めることはすなわち、ガソリンの海のド真ん中でタバコを吸う事に等しい自殺行為に他ならない。

 

(あ、主……タチバナのことですが……助けますか?あのままでは間違いなくリインフォースの手によって消されてしまうかと……)

 

と、ここで事の成り行きを見守っていた八神家の一員にしてヴォルケンリッターのリーダーにして烈火の将という称号を持つシグナムが、主であるはやてに念話で進言する。

シグナムもゼンとの関わりは皆無だが、自分の大事な主の笑顔を守ってくれた恩人でもあるためさすがに見殺しにするのは良心が痛んだのだ。

 

(ば、ばばばバカ言うなよシグナムッ!?アタシはぜってー嫌だぞッ!?今のリインフォースを止めるなんてぜってー嫌だッ!!だ、大体ありゃ全部アイツの自業自得じゃねーかッ!!)

 

しかしここでもう一人の八神家の一員にして鉄槌の騎士の異名を持つヴィータがシグナムの意見に横槍を入れ、反論する。

彼女からすれば、自分まで巻き込まれてリインフォースの標的にされては堪ったものではないからだ。

シグナムが自分の隣に視線を向ければシャマルもヴィータと同じ意見なようで、涙目で顔を青くしながらブンブンと音が鳴るぐらいに首を振って拒否していた。

 

(しかしだなヴィータ……一応タチバナは、私達の起こした今回の事件に巻き込まれた被害者でもあり、リインフォースを……私達の家族を助けてくれた恩人だぞ?見殺しにするのはさすがに薄情すぎるのではないか?)

 

(だ、だけどよぉ……うぅ……はやてぇ……)

 

シグナムの正論にヴィータは泣きそうな顔になりながらはやてに視線を送る。

視線を向けられたはやては遠い目をしながら……

 

(仕方ない、仕方ないんやシグナム……禅君はお星様になったんや)

 

放置を決め込んだ。

今のはやてなら、外道という言葉も甘んじて受けたであろう。

 

(い、いえ。まだ目の前にいますが……)

 

(シグナムッ!!)

 

(ッ!?は、はいッ!!)

 

遠い目をしながら現実逃避をしていたはやてにシグナムは尚も進言するが、突如発せられた今までに聞いた事が無いほどに真剣味を帯びたはやての声に反射的に返事を返す。

そこではやてはシグナムにとても真剣な表情で向きなおる。

 

(私は……私は、まだ大事な家族を失いとぉないんや……わかってぇな?)

 

(ッ!?も、申し訳ありませんッ!!以後、口を慎みますッ!!)

 

(うん♪ありがとう♪)

 

(は、はははやてが言うんじゃ仕方ねーよなッ!?うんうんッ!!(あからさまに安堵しているヴィータ))

 

(そ、そうよねヴィータちゃんッ!?(半分恐怖で、半分喜びで涙を流すシャマル))

 

はやての慈愛に満ちた言葉にシグナムは謝罪を口にし、進言を取り消した。

はやてとしてはこんなバカらしいことでシグナムやヴィータが傷つくのは許せない上に、リインフォースとシグナム達、自分の家族が争うことだけは避けたかったのだ。

なにより、今のリインフォースには何を言っても無駄な上に、ここにいる全員が束になっても勝てないことが明白だからだ。

 

「…じゃぁ……」

 

と、ここで自分の家族が傷つけあうという最悪の未来を回避できたところでフェイトの恥ずかしそうな声が聞こえてきた。

はやてがそちらに視線を向けると、ゼンに抱きしめられているフェイトが顔を赤く染めたまま上目遣いにゼンに声を掛けているではないか。

……ゼンの後ろには音を立てずに忍び寄っていき、右手に漆黒の荒ぶる魔力の塊を集め、身の毛もよだつ程に冷たい笑みを浮かべたリインフォースがいた。

だがフェイトにはリインフォースが見えていないのか、表情を変えることなく、ゼンの事を見続けている。

恋する乙女は盲目とはこの事なのではないだろうか。

 

(yamete!!やめてフェイトちゃんッ!!?お願いやからこれ以上リインフォースを刺激せんといてぇぇぇぇッ!!?)

 

はやては念話を飛ばさずに、冷や汗を掻きながら心中で叫んでいた。

ここで介入すれば間違いなく火の粉が自分に降りかかってしまうと判断したはやてはこれ以上事態が悪化しないように心のうちで願う以外に方法はなかった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

や、やれやれ焦ったぜ、まさかフェイトが『すけこまし』だなんて不名誉極まりない単語を俺にぶつけてくるとはッ!?

まぁ、多少なりとも自覚はしとりますが……他人に、しかも女の子に言われるってのは、かなりキツイもんがあったぜぇ……ユーノまじで覚えとけコラ。

こんな『天使』にいらん言葉教えやがって……帰ったら『隠者の紫(ハーミット・パープル)』で縛ってロールキャベツと一緒に煮込んでやっからよ、精々いい味を出しやがれ。

 

「…じゃぁ……」

 

と、俺がユーノへカマすリベンジについて頭を捻っていると、俺の胸元にいるフェイトが顔を赤くしながら何やら聞いてきた。

ぬぉおッ!!?可愛いけどや、やばいッ!!?ここでトチったらアウトだぞ俺ぇッ!!

さっきの『すけこまし』発言を完璧に否定しきっちゃいねえからか、フェイトの目には少しばかりの不機嫌さが見え隠れしてるぜ。

いいか橘禅ッ!!例え何を言われようとフェイトの質問に正直に答えるぞッ!!!

 

一切合財の嘘も無く、正直すぎて腹カッさばいた千利休の如く潔くッ!!だぜッ!!?

 

「ん、んッ!?な、なな何だねフェイトちゃんや?」

 

軽く咳払いして準備完了。

さぁ来いッ!!今の俺なら嘘偽り無く、何でも答えてやるぜッ!!

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「負負、フ婦腐♪(さぁ、逝こうではないかゼン♪この試練(デアボリック・エミッション)を耐えて帰ってくれば素敵な男性になっているだろう♪)」

 

(……さよなら、禅君……短い間やったけど……楽しかったで)

 

二人の後ろでは今まさに、リインフォースの手の上で圧縮されていた膨大な魔力が弾けようと……

 

 

 

 

「リインフォースのことはどう思ってるの?」

 

「女神様です(キリッ)…………ゑ?」

 

ピタッ

 

止まった。

 

「……?(……今……『女神』……と言ったか?……私が?)」

 

ゼンの口から語られた単語をリインフォースは自身の『夜天の書』の中から、該当する項目を最速で検索し、呼び起こす。

 

(……検索終了。該当1項目、女神とは、女性の姿をした神のことである。溢れ出る母性を感じさせ、美や大地の豊穣をつかさどることが多い。また絶世と言われる程に美しい容姿を持ち、包容力を持った女性を「女神のような女性」と称することもある。)

 

自身の記録の中から呼び起こした項目を確認、復唱したところで、先程のゼンの台詞がリインフォースの頭の中で繰り返し再生される。

 

『リインフォースは俺だけの女神だ(キリッ)』

 

何故か、脳内で再生されるゼンの視線はリインフォースに向けられ、先程の台詞はこれ以上無いほど美化されていた。

真剣な表情でリインフォースを見つめる脳内のゼンは現実より120パーセント増しで良い男になっている。

 

「……ッ!!?な、なななな……」ボヒュウウウッ!!!

 

ゼンの言葉を理解したリインフォースの身体から瘴気は霧散し、代わりに羞恥と幸福のオーラに包まれた。

体表的には顔を真っ赤に染めるという表現方法で。

 

(おぃぃいいいいいッ!!?ふっざけんなぁぁああああッ!!)

 

(ふ、ふふふ……ひ、人を散々恐怖のドン底に叩き落しておきながら、自分はフェイトちゃんと乳繰りおうて……更にはリインフォースに殺られもせんと一言で元に戻すやと?……い、いいい加減、1発ドツくだけじゃ足りんくなってきたわ……!!)

 

リインフォースが瘴気を消した影では、今までリインフォースのダークオーラに当てられて恐怖していたはやてとヴィータが憤慨していた。

まぁそれも仕方が無い事ではある。

今の今まで散々恐い思いをさせられてきたというのに、たった一言、たった一言でリインフォースを元に戻してしまい、あまつさえ受ける筈だった制裁を受けずに済んでいるのだから。

 

 

げに恐ろしきは恋する乙女という事なのであろう。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「……ッ!!?な、なななな……」ボヒュウウウッ!!!

 

「……ん?ってうぉッ!?リ、リインフォースッ!?」

 

俺が正直過ぎる自分の口を恨んでいた処、何やら後ろから焦る様な声が聞こえたので振り向いてみると、そこには真っ赤なリインフォースが居た。

しかも俺のほぼ真横と言ってもいいぐらいの距離にいるんだからマジでビビッたよ。

 

「あ、あぅ……あ……」

 

俺の声を聞いたリインフォースはあわあわとどうしていいか判らないって声を上げながら、俺を見たり別の方向を見たりと視線が彷徨いまくってた。

え?いやちょマジでどうしたん……WAHT?

まてまてまて、今俺の真横にリインフォースがいるって事は……もしかして今の聞かれてたのか?

心の中に浮かんできたいや~な仮説が外れてくれる事を祈りながら、俺はリインフォースに向けて問い掛ける。

 

「あの~……リインさん?……ひょ~っとして、さっきの~……聞いてた?」

 

いやまぁ聞かれてたとしても良いっちゃ良いんですが、やっぱり少し恥ずいってのもあっ

 

「はぅッ!?い、いやそのッ!?決してワザとではッ!?あ、あぁぁのそのだからえっといやそのあの……」ボォオオオッ!!

 

俺の質問に声を必要以上に張り上げながら手をワタワタと振ってくるリインちゃん。

うん、カンッペキに聞こえてたんですねわかります。

途方も無く可愛い仕草を見せてくれるリインフォースを視線に捉えながら、俺は心中で盛大に溜息を吐く。

仕方ないっちゃ仕方ないんだけどこーゆうのはコッチがちゃんと覚悟を決めた時に聞かれたいモンです。

 

 

ギュゥウウウッ!!!

 

「痛べべべべべッ!!?」

 

 

何て事を考えていると、行き成り俺の左の頬に激痛が走った。

な、何だ何だよ誰ですかこんな痛快な真似してくれちゃってんのはぁッ!!?

しかも俺の頬を捻るだけには留まらず、そのまま俺の頬は横へ引っ張られていき、視線を強制的にリインフォースから外された。

そして俺が強制的に振り向かされた視線の先には……。

 

「ううぅ~~~~~ッ!!!」ギュゥウウウッ!!!

 

「へ、へいふぉふぁん!?んにゃにぃふぉおふぉっふぇらっひゃるんでひゅ!?(フ、フェイトさん!?何を抓ってらっしゃるんです!?)」

 

これまた涙目で唸りながら、俺をキツく睨んでいらっしゃるぷりちーなフェイトちゃんですた。

oh……またやっちまったよ俺ぇ……いい加減学習してくれマイブレイン。

さっきまで超ご機嫌だったフェイトに頬を抓られる羽目になったのは完全なる自業自得というのは理解してるんですが……もう一方から伸びてくる手は何ざんしょ?

そんな風に頭を捻っている俺を無視しながら、フェイトは更にもう一方の手を無言で俺の右頬に近づけて……。

 

「……ッ!!」ギュゥウウウッ!!!

 

「おぶぁばばばばッ!!?」

 

正に遠慮という二文字を微塵も感じさせない勢いで下向きに引っ張った。

ちょ!?やめてやめて千切れる取れる伸びる痛えっすッ!?

俺は余りの痛みに若干涙目になりつつも、引っ張られている力に逆らわずに顔を下に向けるしかなかった。

 

「……この口ッ!?さっきまで私の事をお姫様だって言ってたのに、直ぐに他の女の子を口説いたりするのは、この悪いお口なんだねッ!?」

 

「ひょ、ひょれふぁ……」

 

両の目尻に涙をこれでもかと溜めたフェイトは、まるで浮気された彼女の如く俺に烈火の勢いで怒りの言葉を浴びせてくる。

すんません、俺のコレはもはや脊髄反射の域に達してるんです。

待ってッ!?俺が悪かったですからもうそれぐらいにして下さいフェイト様ッ!!

マジ尋常じゃないレベルで痛いですからッ!?

俺の頬を引っ張りながら瞳から溢れそうな量の涙を貯めたフェイトは、そのまま俺をキッと睨みつけて……。

 

「こんな……こんな、女の子を誑かす悪いお口なんか、取れちゃえばいいんだよッ!!こんなお口なんかぁあッ!!」ギュゥウウウッ!!!

 

「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぁああああッ!?や、やめふぇぇええええッ!?」

 

頬をつねくる力を緩めずに、腕を下に降ろしていくではないか。

フェイトに荒っぽいやり方で静止を掛けるワケにもいかず、俺はフェイトを抱きしめていた手を離して降伏を表すように上に掲げた。

頼むからストップしてくれッ!?これ以上引っ張られたら俺の頬が伸びきって悲惨な顔になっちゃううぅぅうううッ!?

だが俺の降伏のポーズを見ても、フェイトの怒りとやるせなさに染まった顔がその答えを雄弁に語っていた。

 

曰く、『このフェイトテスタロッサッ!!容赦せんッ!!』だそうです。

やっばいっすよッ!?いつも優しい天使なフェイトちゃんってば、今は完全にカチ切れてらっしゃるッ!?

 

「うるさいッ!!ゼンが悪いんだよッ!?いつもいつもいつも見境なしに他の女の子の事ばっかり追いかけてッ……ぐずっ……ばかッ!!ばかッ!!ばかぁ~~~ッ!!」ギュゥウウウッ!!!

 

「ぴぃょおぉおぉおおおおおおおおおッ!?」

 

更にダメ押しとばかりに、いつものフェイトからは考えられない程の強い口調で叫びながら力の限り俺の頬をつねくったまま後ろ向きに身体全体を倒していく。

もはや抓るではなく、引き千切るといった勢いで頬を引っ張られた俺は、その余りの激痛で絶叫してしまった。

だが、俺の絶叫を聞こうが、もはや完全に怒ってしまったフェイトは、俺の絶叫を無視して更に更にと身体を後ろに倒していく。

っていうか誰かこちらの怒れるフェイトちゃんを止めてくれませんかッ!?

そう思った俺は、誰かこの哀れな男を助けてくれるであろう心優しい方を探すために、会議室に視線を彷徨わせて見たんだが……。

 

「あ、あわ……わ、私が……女神……は、ぁ……」

 

真っ赤な顔であわあわ逝ってる、いや違った言ってるリインフォース。

全くコッチの世界に帰って来る気配無し、次っ!!

 

「ダ、ダメだってばぁゼン~♡あたしぃ、そんなに可愛がられるともぉ……えへへ♡」

 

何やら脳みちょピンク一色な妄想を繰り広げながら、いやんいやんと身体を左右に振るアルフ。

ええい、こっちもトリップしっぱなしで役に立たん、次ぃっ!!

 

「ブッ飛ばす……ぜってーにアイゼンでブッ飛ばしてやる……」

 

「待ちぃヴィータ、私も一発ドツかな気が済まへんわ……せやから、一緒にやろ?な?」

 

「おうッ!!やってやろーぜ、はやてッ!!」

 

「……シャマル」

 

「もう諦めてシグナム、はやてちゃんがやるって言ってるんだから……私達は、ゼン君の無事を祈るしかないわ」

 

「見るんじゃない、見るんじゃない、見るんじゃない、見るんじゃない、見るんじゃない、見るんじゃ……ブツブツ」

 

「……ザフィーラもあの調子のままか……すまない、タチバナ。せめて安らかに逝け」

 

八神家一同は……はやてとヴィータが何やら不穏な空気を纏っとります。

というかはやてさんや、ドツくって誰をですかな?

そんでシグナムさん?それはどういう意味なんでしょうか?かなり意味深な上に恐いです。

はやて達に助けを求めると第2災害の恐れがピリピリとしてくるので却下。

 

「けほっけほっ……や、やっと止まってくれたの……口の中が甘いぃ……」

 

「僕も……しばらく……あ、甘い物は食べれないよ……けほっ」

 

なのは、ユーノの2人はというと……何故か地面に大量の白い粉をブチ撒けていた。

いや、マジで何があったのよお前等?何よその白い粉?

2人はそのまま、けほけほと苦しそうに咽返っていて俺を助ける余力は無さそうなので戦力外だ。

くそっ!!ユーノはフェイトに要らん事ばっか吹き込むだけで心底役立たずだなコラァッ!!

 

「……う、うぅぅっ!!……私なんかに……フ、フェイトの母親を名乗る資格は、無いわ……ぐじゅっ……うぅぅぅっ!!」

 

「しっかりしなさいプレシアッ!!だ、大丈夫よッ!!フェイトさんは、ずぅっと貴女の事をとても大切な母親だと思っているからッ!!だから正気に戻……」

 

「ずっと……ずっと私の事を母親だと思ってくれてたフェイトを……私はっ……私はぁっ……!!過去に戻れるなら、昔の私をブチ殺してやりたいぃ……!!」

 

「だから過去に拘わっちゃダメだって言ってるでしょうッ!?貴女どうしてそんなにメンタル弱いのよッ!?」

 

「ずずっ……ふぅ……砂糖無しのお茶は、やはり美味いな……」

 

「クロノッ!!貴方も1人で優雅にお茶を飲んでないで手伝いなさいッ!!」

 

そして、俺に残された最後の希望はリンディさん、プレシアさん、クロノの3人だったんだが……。

プレシアさんはさっきのフェイトの口撃によって絶賛撃沈中、瀕死のあの人を頼る事は出来ねえ。

更に悲しそうに泣いているプレシアさんの横には、そのプレシアさんを必死に慰めているリンディさんの姿がある。

リンディさんもメンタルケアに手一杯で俺をヘルプしてはくれなさそうだ。

そした俺の頼れる相棒こと、クロノ君は……全ての騒動に関わりたくないのでしょう、優雅にお茶をしばいてますねはい。

つまり、今現在この会議室でフェイトを止めてくれる俺の味方はナッシング。

畜生ッ!!せめてリインフォースかアルフのどっちかだけでも正気に戻ってくれたら助かるってのによぉおおおッ!!

 

「……また、他の女の子の事を考えてるんだ……私の事なんかどうでもいいんだね……ひどいよ……ッ!!ゼンのッばかぁッ!!」ウルウル

 

「ひょッ!?ひ、ひがゆっじょッ!?(ちょッ!?ち、違うってッ!?)(ギュゥウウウッ!!!)いぇあばばばばばばばッ!?」

 

と、俺が視線を彷徨わせているのを感知したのか、俺の胸元にいるフェイトはとても悲しそうに呟いていらっしゃった。

しかも其処から更に頬を抓る力を増して、捻りながら引っ張るという高等テクを披露しながらだ。

いやいやいやいや違いますよフェイトさんッ!?

あなたが考えてるような事は全く持ってありませんのことよッ!?

だから抓る力を緩めてぇぇえええッ!?

現在の会議室にいる面子の中で、唯一頼りになりそうなリンディさんが動けない今、この場が納められる事は無いと思えると軽く死にたくなってきた。

このまま俺の頬は怒りに燃えるフェイトに蹂躪されて、愉快痛快なユニークフェイスに変わってしまうのは避けられないのかッ!?

 

 

 

 

 

「……ん、んん゛ッ!!ごほんッ!!……少しいいかね?」

 

 

 

 

 

と、俺が怒りと嫉妬に飲み込まれたジェラシーフェイト、略してジェライトちゃんに頬っぺたを蹂躪されていると、俺達とテーブルを挟んだ反対側から声を掛けられた。

咳払いと一緒に聞こえたその声質は大人の男の声で、家の爺ちゃんとはまた違う渋い声音だった。

 

「ふへ?」

 

「え?」

 

行き成り横合いから声を掛けられた事によって、俺とフェイトはそれぞれきょとんとした声を挙げて、テーブルの反対側に視線を向けた。

但し俺は未だにフェイトちゃんから頬を引っ張られたままだったから、出たのは変な声だったけどね。

俺とフェイトが視線を向けた先には、3人の男女が居た。

最初に声を掛けてきたのは、ダンディで立派な口髭を蓄えた初老の人だ。

顎からもみあげに掛けて整った髪と同じシルバーの髭が繋がっている。

瞳の色はブルーで、どう見ても日本人じゃねえ。

 

男の人はテーブルの反対側の席に着いて、少々困った様な笑みを浮かべながら、俺とフェイトを見つめている。

俺達を見つめるその男の人の笑みと眼は、とても優しそうな雰囲気を携えていた。

なんていうか、優しい爺ちゃんが孫を見守る様な……そんな感じの眼だ。

そんでもってその男の人の両脇には、アルフと同じような耳を生やした女の人が2人立っている。

2人の顔はそっくりで、見分けがつくのは髪形の違いだけだ。

1人はショートカット、もう1人は肩までのセミロングの髪型で、2人共尻尾が生えている。

セミロングの女の人は男の人と違って警戒心丸出しみたいな表情を浮かべて俺達を見ていたが……。

 

「……(むっすぅ)」

 

何故か、ショートカットの女の人は俺達、否、俺を不機嫌そうに睨んでらっしゃっるではないか。

え?誰だこの人達?っていうかあのショートカットなオネーサンは何故に俺を睨んでるの?

何故あの人に睨まれてるのか、全くワケが判らない上にこの人達が誰かも知らねえので、俺は現在俺の頬を蹂躪しているフェイトに視線を向けてみた。

 

「……」ポカーン

 

うん、見事に呆けていらっしゃる。

同じ様に声を掛けられたフェイトは俺の頬っぺたを握ったままの体勢で目の前のオジサン?を見て固まっていた。

っていうかフェイトよ、出来れば俺の頬っぺたを抓ってる手を離しちゃくれません?

 

「あ~……お取り込み中すまないがフェイト君?彼と少し、話しをさせてはもらえないかね?」

 

と、俺の頬っぺたを握って固まってるフェイトをどうするか悩んでいると、オジサン?はフェイトに声を掛けていた。

しかも言葉通りだとすんなら、何やら俺に話しがあるらしい。

え?いや誰このオジサン?俺こんな人知り合いにいねえんだけど……。

 

「……あっ!?(パッ)す、すいません!!か、会議室で魔法を使っちゃって、で、でもあの(オロオロ)」

 

「(バチンッ)アーウッ!?……い、痛ぇ」

 

目の前のオジサンを見ていたら、突然フェイトが俺の頬から手を離してそのオジサンに謝りだした。

そして突如頬を解放されて自由になった俺は、良い音を奏でて解放された痛む頬を抑えながら、件のオジサンに正面から向き直る。

わたわたしながら慌てふためいてるフェイトを見つめるオジサンの顔は、とても優しそうな感じだった。

えっと、つまり……フェイトのこの反応からして、このオジサンは顔見知りって事なのか?

 

「何、構わないよ、まぁ本当なら厳重注意が必要なのだが……」

 

苦笑いしたままそこで言葉を切って視線をフェイトから俺に向ける正体不明のオジサン。

え?何その観察するような目は?俺オジサンに熱い視線を送られて悦ぶ趣味はありませんのことよ?

 

「フェイト君のボーイフレンドは女性に気が多いというのが良く判ったからね……彼の行いを戒める為に使用したという事で、今回は不問としよう」

 

「えぇっとその……ふぇ?…………ぼ!?ぼぼ、ぼーいふれ!?……あうぅ(ぷしゅ~)」

 

ってちょっと待てコラ、何勝手に人をフェイトの彼氏に仕立て上げてくれちゃってんですかオッサン?

俺まだ1人身だよ?この年で雁字搦めにゃされたくないっす。

っていうか気が多いだなんて初対面のオッサンに言われたかねえです。

そしてフェイトちゃ~ん?君は何をオッサンの言葉に顔真っ赤にして動揺しておるかね?

チラッとオッサンから視線を変えて見れば、恥ずかしそうに顔赤くしながら頬に手を当ててイヤンイヤンと身悶えるフェイト……いや可愛いけどさ。

 

「さて……君に会うのは初めてだったね?橘禅君……」

 

と、横目でフェイトの可愛い動きを見ていると、今度は俺に声を掛けてきた。

何時までもこうしていても仕方ないので、俺はその声に従ってオッサンを正面から見つめ直す。

 

「あ~……名前は知られてるみてえですけど、一応自己紹介させて下さい……初めまして、橘禅っす。オジサンは……誰っすか?」

 

俺は、目の前に座っているオジサンにちゃんと頭を下げて自己紹介をする。

さすがに知らない人だし、キチンと挨拶はしておかねえとな。

それに今気付いたんだが……このオジサンの服装、リンディさんと同じ服だった。

って事は間違いなく管理局の人だろう。

しかもリンディさんよりも、胸に着けてるバッジの数が多い……もしかしたら、リンディさんより階級が上なのか?

何かアレってよく映画とかである将校バッジに似てるし。

 

「あぁ、自己紹介が遅れてすまない……私は、時空管理局提督のギル・グレアムという者だ、よろしく頼むよ。後ろに控えているのは私の使い魔で……」

 

と、俺に軽く会釈しながらオジサン……グレアムさんは俺に言葉を返してくれた。

更に言葉を続けて自分の後ろに目配せすると、グレアムさんの両隣に控えていた使い魔のお姉さんが俺の目の前に出てきた。

 

「私はリーゼアリア……お父様の使い魔よ……」

 

と、何やら随分素っ気無く一言だけで自己紹介を終わらせた猫のおねーさん……リーゼアリアは、話し終えるとそそくさと後ろに下がった。

しかも俺を見る目はずっと警戒したまんまで、よろしくしてくれる気は皆無なのがよ~く分かった。

何でよ?こんな綺麗なおねーさんならコッチからよろしくしたかったってのに……何でこんな警戒されまくりなワケ?

俺は初対面でかなり素っ気無い対応をされたリーゼアリアさんの事を考えたかったが、もう1人のショートカットのおねーさんが出てきたので、考えを中断した。

 

「………………リーゼロッテだ……アタシはアンタのふざけたツラなんか、一生拝みたくなかったよ」

 

「なっ!?ロッテ!?」

 

はい、何かリーゼロッテさん……もうめんどくせぇ、ロッテさんでいいか。

まぁとにかくロッテさんの態度はもう警戒してるとか素っ気無いなんて軽くブッ飛んでるぜ。

しかも俺を見下ろす目がゴミでも見る様なドギツイ目でしたからね?

ファーストコンタクトで俺のツラを全否定ですか……ちょっとばかしプチッときやがりました。

俺は目の前に立って現在進行形で俺にメンチ切ってくれてるロッテさんに、同じ様にメンチビームをビビビッと浴びせ返す。

それをロッテさんが受け止めて真っ向から睨みあう俺とロッテさんの構図が完成した。

ロッテさんの後ろに居るグレアムさんは驚いた様な表情でロッテさんに叱る様な声音で声を掛け、アリアさんは俺を注意深く観察している。

まぁ、んな事はどうでもいいけどよ……喧嘩やんなら受けて立つぞこのアマ……。

 

「……アンタさぁ、何様なワケだい?初対面のゼンにいきなり喧嘩売るとか……その顔ズタズタにされたいのかい?……駄猫風情が粋がってんじゃないよ!!」

 

「アルフの言う通りだな……私も命の恩人を目の前で侮辱されては、冷静でいるのも辛い……永遠の闇を味わうか?」

 

っておいおいちょいと待ってくれませんか神様?何か会議室の雰囲気がメチャヤバな感じになってんですけど~?

さすがにあんまりな物言いに抗議しようとガンつけあってた俺とロッテさんだが、俺の後ろから新たな参入者が現われた。

それこそ聞いてるだけでビビッちまいそうな雰囲気と怒りを混ぜたアルフとリインフォースの声が凄いっす。

だって一気に会議室の空気がヘビーになっちまったもん。

しかもアルフとリインフォースの声が引き金になって、八神家の面々とかプレシアさん達も空気が変わった。

まさしく今回戦った俺達とリーゼロッテ、リーゼアリアの雰囲気が一触即発状態だ。

フェイトもリーゼ姉妹に厳しい目を向けてるし。

既にアルフは大人モードに戻って口から獣形態を思わせる長い牙を惜しげなく剥き出しにして2人を威嚇している。

リインフォースはずっと自然体で立ってるけど、リインフォースの周りからトンデモねえ圧力を感じさせる力が漏れ出ていた。

多分これがリインフォースの魔力……本気の圧力ってヤツなんだろう。

この魔力の塊?いや魔力のプレッシャーが出てきた瞬間、リーゼ姉妹の顔に大量の汗が出てきたし。

プレシアさんとかリンディさんも顔が引き攣ってる。

つうかプレシアさんが顔引き攣らせるとかどんだけだよ……リインフォース、恐ろしい娘!!

ってそんな事考えてる場合じゃねえ!?

 

「ヘイヘイヘイヘイ!!待った待った!!これはロッテさんと俺の問題なんだから2人ともそれ(威嚇)止めい!?」

 

「そ、そうやでリインフォース!!私等は皆さんに迷惑を掛けた側なんやから、今は抑えて!!」

 

「アルフ、貴女もフェイトと一緒に管理局の一員として登録されてるのよ?感情で先走っちゃ駄目、フェイトに迷惑を掛けるのは貴女の望む所では無いでしょう?」

 

今にも飛び掛りそうな雰囲気のアルフとリインフォースを抑えるべく、俺は2人の前に立って両手を広げて静止を呼び掛ける。

そうすると俺に追従する様にはやてとプレシアさんも援護してくれた。

今ココで殴りあうのは少なくともやっちゃいけねえ。

相手は管理局のお偉いさんの使い魔なんだから、管理局に所属してるアルフは特にマズイ。

それにはやての言う通り、八神家とリインフォースは今回の事件では管理局とは対立側になってる。

今ココで暴れて面倒事こさえたって何の得にもなりゃしねえ。

 

「だけど!!アイツはいきなりゼンを貶したんだよ!?アタシは……アタシとフェイト、それにプレシアを助けてくれたゼンがあんな風に言われるなんて我慢ならないね!!」

 

「いやいやそう言ってくれんのは嬉しいけどよッ!?いいからアルフも落ち着けっての!!物事はスマートに逝こうぜ!?」

 

アルフは俺の静止を振り切って前に飛び出しかねない勢いでいるので、俺はアルフの目を見詰めながら真剣にお願いする。

今やアルフの目は猛獣形態のそれに変わり、手の爪も尋常じゃない長さになってた。

何時もなら真っ先にアルフを止めるフェイトがアルフを止めてくれねえのは、多分アルフの意見に賛成だからだろう。

 

「リ、リインフォース。私かて恩人の禅君を貶されたんは腹立つけど……お願い、今は抑えて……な?」

 

「ッ!?……申し訳ありません、我が主」

 

「う、ううん。ホンマにゴメンな?我慢させてもうて……」

 

「いえ、私が愚かでした……以後は、軽率な行動を取らぬ様に注意します」

 

一方で、リインフォースは主であるはやての必死な思いが届いたのか、少し悔しそうにリーゼ姉妹を睨み付けると、はやてに頭を下げていた。

そしてリインフォースが溢れ出る魔力をしまってくれたおかげで、会議室に渦巻いていた重い空気が少し和らいだ。

俺は肌に刺すピリピリとした感覚が消えるのと同時に、ブッハァと大きく息を吐いてしまう。

ふぅ~……これで少しはマシになってくれたか。

チラリと横目ではやてを見てみると、はやても額で汗を拭う仕草をしながら大きく息を吐いている。

これって俺の所為なんだよな……ホントにスマン、はやて。

 

「……アルフ、今は抑えて」

 

「ッ!?でもフェイトッ!!……アタシは悔しいよ……」

 

「うん、私もゼンの事を悪く言われたのは良い気分じゃないよ……でも、ゼンがああ言ってるんだし、皆に迷惑を掛けるのはダメ……ね?」

 

「…………わかったよ、フェイト」

 

「うん♪ありがとう、アルフ」

 

と、何時の間にか俺の近くに来たフェイトが、猛り狂うアルフを宥めてくれた。

フェイトの懇願する声に考えを改めたアルフは、顕現していた猛獣の牙を収めて大人しくなっている。

只、目だけはリーゼ姉妹を射殺さんばかりにギラッギラと光り輝いてらっしゃいます。

う~ん、しかし……俺ってロッテさんとは初対面だよな……少なくとも俺の記憶にはねえし、あんなに毛嫌いされる事ぁした覚えねぇぞ?

俺は首を捻りながらロッテさんに嫌われてる理由を考えるが、それは一向に頭に浮かんで来ない。

そのままの体勢で、俺は再びロッテさんとツラを突き合せる。

 

「……何だよ、クソ坊主」

 

と、俺がしっかりと視線を送ってるのを感知したのか、ロッテさんはさも不機嫌ですって顔で俺を睨んできた。

その言葉を聞いて又も臨戦体勢に入ろうとするアルフとリインフォースをはやて達が抑えている。

ったく、一体俺の何がそんなに気に入らねんだっての。

 

「あ~、ロッテさん?俺はアンタとは初対面の筈っすよねぇ?一体全体、俺の何がそんなに気に食わねえってゆーんすか?」

 

考えても埒が空かないと結論した俺は、意を決して本人に直球で聞く事にした。

わからなきゃ本人に聞くしかねえ、聞かぬは一生の恥だぜ。

そして、俺の言葉を聞いたロッテさんはというと……。

 

「……(ギリッ!!)」

 

すげえ敵意を剥き出しにして俺を睨んでこられるではないか。

いや、ホントに俺何した?しつこいけどマジで覚えがねえんだってばよ。

 

「……アタシはアンタに身体中傷だらけにされたんだよッ!!女の肌に傷つけといて、知りませんじゃ済まないだろーがッ!!」

 

そして、ロッテさんは怒りを顔全体に貼り付けたまま、リインフォース程では無いにしろ全身から魔力を放出してトンデモない声量で俺に叫び声をぶつけてきた。

え?……お、俺がロッテさんを傷つけた?…………は?

俺はロッテさんの言ってる事が1ミリ足りとも理解できなくて、首を傾げてしまう。

いやいやいや暫し待たれよ、俺ロッテさんとは今が初対面だぞ?何をワケわかめな事言ってんだこの人は?

幾ら記憶を掘り返せども、その答えは出てこない……じゃあどーゆう事なのさ?

 

「……覚えて無いって顔しやがって……じゃあ思い出させてやるよ!!」

 

俺が首を傾げているのを見て俺の考えを悟ったのか、ロッテさんは憎々しげに俺を見つめたまま足元に魔法陣と展開していく。

な、何だ!?一体何をおっぱじめようとしてんだよこの人は!?

そして、その魔法陣が淡い魔力光を漂わせながらロッテさんの身体を包み……ロッテさんの姿が変わっていく。

 

「なッ!?貴様ッ!!」

 

「テ、テメーはあん時のッ!!」

 

すると、変わり始めた姿に覚えがあったシグナムさんとヴィータが怒りに満ちた声を挙げた。

その声に反応してロッテさんの姿を見たザフィーラやシャマルも同じ様に顔を怒りに染めていく。

一方でユーノやなのは、フェイト達はロッテさんの姿を見ると驚愕していた。

 

 

 

 

 

ロッテさんの変身していく姿…………それは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(キュウンッ)……この姿でも思い出せないって言うつ(ドバギャァアアアッ!!!)ぶぎゅあぁあああっ!!?」

 

「テメエかこのスカタンがぁああああああああああああああああッ!!!」

 

アルフを傷つけたあのファッキン仮面じゃねえかボケェエエエエエエッ!!

その姿を確認した瞬間、俺はロッテの顔面に問答無用で『クレイジーダイヤモンド』の拳を抉り込む様にブチこんでやった。

『クレイジーダイヤモンド』の鉄をも砕く拳、文字通り鉄拳を顔面に受けたロッテはキモイ悲鳴を上げて体勢を崩していく。

 

 

 

だが、この俺が、この程度で……。

 

「まだ終わりじゃねえぞスッタコッ!!」

 

憎い仮面クソ野郎を許すワケがねぇよなぁああああ!!?

 

 

 

そのまま俺は『クレイジーダイヤモンド』に命令して、ロッテの胸倉を掴み上げて体勢を無理矢理立たせる。

『クレイジーダイヤモンド』はフラフラの状態で立位の姿勢にさせたロッテに向かって……。

 

『ドォララララララララララララララララララララララララララ、ラァッ!!!』

 

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

 

「えぐぢぼぉおおおおおおおおっ!!?」

 

『オオォッ!!ドラアッ!!!(ズバァンッ!!!)』

 

「(バァンッ!!)おげっ!?……がは……あ、がぁ……ッ!!」

 

ありったけのラッシュパンチを顔面のみにお見舞いし、最後は思いっ切り打ち下ろしてロッテを地面に叩き付けた。

その反動でかは知らねえが、ロッテの変身した仮面野郎の姿が解けて、元の女の姿に変わった。

只、ロッテの顔は変身前とは違ってボッコボコに腫上がって見れたツラじゃなくなってるがな、ざまあみろ。

『クレイジーダイヤモンド』のパンチで床に打ち付けられたロッテは、苦悶の声を上げながら地面でピクピクしていやがる。

ちなみにここまでの所要時間は大体3秒弱。

余りにも速すぎた『クレイジーダイヤモンド』のラッシュは、もはや残像を生み出すレベルだった。

その所為で展開に付いていけなかったグレアムさんとアリアは口を開けてポカンとした間抜け面を晒してる。

それにアリアがこの腐れ猫の双子だってんなら敬称なんざいらねえ、つうか使いたくもねえわ。

俺はそのまま呆けてる2人には構わずに、『クレイジーダイヤモンド』にロッテの髪を掴ませて俺の視線まで持ち上げる。

俺の視線の目の前まで持ち上げられたロッテの口からかひゅーかひゅーとか細い呼吸音が聞こえる……だが、んな事ぁどーでもいい!!

今、俺がサイコーにプッツンきてんのはそんな事じゃねえ!!

 

「テメエがあん時のクソ仮面だったとはなぁこのアホ猫ッ!!テメエ自分が何カマしてくれちゃったか理解してんのかあぁ~んッ!!?」

 

「ぐっ……な、何を言って(グイィッ)うあ゛ぁあっ!?」

 

俺が至近距離で渾身の怒りを篭めたシャウトをカマすと、ロッテは小さく呻きながら言葉を返してきた。

何を言ってだぁ?どーやらこの愉快痛快な顔した馬鹿は、自分のした事の重大さを一っ欠片もわかっちゃいねえようだな!!

目の前のクソ馬鹿に対して更に怒りが煮えてきた俺は、ロッテの言葉の途中で『クレイジーダイヤモンド』の拳に力を篭めて痛みを送り込む。

そうすると、髪の毛を握られてるロッテは悲鳴を挙げて言葉を止めた。

 

「何を言って?フザケ倒してんじゃねーよファッキンキャットッ!!テメエがアルフを傷つけた事をスッカリカッチリ忘れてんのかコラァッ!!!」

 

俺はロッテに罵声を送りながら後ろに居るであろうアルフを指差して怒りを露にする。

そう、コイツがアルフに大怪我を負わせた張本人なんだよ!!ザフィーラじゃなくてコイツだ!!

あの後でアルフに教えてもらった時にゃ、波紋コーラだけで攻撃を止めた事を悔やんだもんだぜ。

それを棚に上げて、自分は怪我しましただぁ?こんなフザケタ冗談はねぇよなぁ!?

 

「しかもアルフのキュートな顔を汚ねえ足で踏んずけやがって!!あいつの可愛い可愛い顔に一生モンの傷が残ったりしたらどうするつもりだったんだクソヴォケェエエッ!!」

 

「(ギリギリギリッ!!!)ぐあぁああああああああああああッ!!?」

 

『クレイジーダイヤモンド』はロッテの髪から一度手を離し、崩れ落ちるロッテの頭を手でグワシッと握り、力を篭める。

万力なんざ比べ物にならねえ圧力でロッテの頭を握りこんで宙に浮かせると、ロッテは余りの痛みに悲鳴をあげた。

足が浮いてるって事は、『クレイジーダイヤモンド』に握りこまれる力と、ロッテの体重が一箇所に掛かるって事だ。

つまりその力の行く先は、現在『クレイジーダイヤモンド』が掴んでるロッテの頭だけだから痛みも相当なモンだろう。

だがコレぐらいは甘んじて受けろってなモンだ。

俺があん時にナイスタイミングで現われてなきゃ……下手すりゃアルフは消えてたかも知れねえ。

それを謝罪もせずに俺に喧嘩売って来たんだ!!ならどうなっても文句は言わせねえぞクソ猫!!

 

「ちょ、ちょっとゼン!?あ、ああああたしは別にか、かか可愛くなんか……ごにょごにょ」

 

何やら俺の後ろでアルフが呻く声が聞こえたが、今はスルーさせてもらう。

後でタップリと可愛がらせてもらうで御座る。

今は目の前のクソ猫を叩きのめす事が最優先事項だ!!

 

「何が『傷だらけ』だッ!!俺の目を見てモッペン言ってみろッ!!殴り潰してコロッケにしてやらぁああッ!!!」

 

カラッと美味しくキツネ色に揚げてやんぞコラァアアアッ!!

もし俺が漫画のキャラなら、俺の目は轟々と燃え盛る炎になってるだろう。

それぐらいの怒りを篭めた目で、俺はロッテを下から睨み付けている。

だが、俺の叫び声を聞いてもロッテは頭に伝わる痛みで呻くだけだった。

 

「ま、待ってくれ橘君ッ!?ロッテがした事は私が謝罪するから、どうかその辺りで怒りを収めてくれないかッ!?そのまま続ければロッテが死んでしまうッ!!」

 

「お、お父様ッ!?……くっ!!この餓鬼ッ!!ロッテを離せぇえええッ!!」

 

と、俺がロッテに溢れ出る怒りの矛先を向けていると、さっきまでボゥッとしてたグレアムさんが我に返って俺に懇願してきた。

それだけなら良かったんだが、グレアムさんの隣に控えていたアリアは、何と俺の顔面向けて両手をかざし、ソコに魔力を溜め始めた。

アリアの顔はさっきのロッテと同じ様に怒りに染まっていて手は俺の鼻先にかざされてる……とても冷静に判断しての行動には見えない。

 

「アリアッ!?こんな場所で砲撃魔法を使う気かッ!?馬鹿なマネは止めろッ!!」

 

「邪魔をするなクロノッ!!このバカガキ吹き飛ばしてやるッ!!」

 

しかも今度はアリアが俺に魔力を向けてるのを見たクロノまで出てくる始末。

クロノはデュランダルを起動してアリアに向け、アリアは俺に砲撃の照準を合わせている。

なるほど?俺が双子のロッテをボコってんのがそんなに気に入らねえワケだ。

っていうかコイツがあのクソ仮面の片割れって事はだ、アリアもそのクソ仮面って事だよな?なのに俺に対して喧嘩売ってると?

そうですかそうですか……あんましふざけんなよテメエ等?

そのままクロノとアリアは睨み合いを続けて膠着状態になり、アリアから注意が逸れた俺は、アリアの両腕目掛けて……。

 

『ドラアッ!!(ボギァアッ!!)』

 

無言で『クレイジーダイヤモンド』の蹴りを、両肘を狙って思いっくそ豪快にカマしてやった。

いきなりだが人間、いや生物の足は、自重を支えるために腕の3倍近い力があるらしい。

それはスタンドという概念にも適用されるのか、蹴り上げられたアリアの両腕は、たった一撃であらぬ方向にへし折れた。

 

「……え?……あ゛あああああああああああああああああッ!!?」

 

その衝撃でクロノから目を離したアリアは、自分の腕を見て呆然とし……絶叫した。

腕の痛みで顔を歪めながら地面に蹲って身体を苦痛で震わせる。

はっ、精々痛がれってんだアホ猫。

 

「ア、アリアッ!?ゼン、君の怒りは尤もだがいくらなんでも遣り過ぎだぞッ!!」

 

と、目の前で蹲るアリアを見下ろしていると、今度はクロノが俺に注意してきた。

まぁ管理局員のクロノからすれば身内を攻撃された事になるから注意してくるのは当たり前か。

だがよぉクロノ、俺はその『身内』のヤツを攻撃されてキレてんだぜ?

 

「遣り過ぎだぁ?おいクロノ、俺は只売られた喧嘩をダースベーダー単位で買っただけだぜ?先に吹っ掛けてきたのはコイツ等アーパー猫共だ」

 

「だとしても、だ。これ以上はさすがに僕も見過ごせなくなるッ!!」

 

「頼むッ!!頼むからタチバナ君、私の娘達を許してくれッ!!ロッテとアリアの行動は全て私に責任があるッ!!」

 

俺はしかめっ面で注意してくるクロノに言葉を返したが、クロノも俄然として退かない。

更にグレアムさんも立ち上がったかと思うと、俺に向かって頭を下げて喧嘩を止める様願い出てきた。

けっ、自分の娘がいたぶられて頭下げるぐれえなら、最初っからやらせんなってんだよ。

まぁダチの頼みでもあるし、仕方ねえからそろそろ治してやるか。

俺は仕方なく、仕方な~くロッテとアリアを許してやろうと考えて『クレイジーダイヤモンド』の能力を発動させようとし……。

 

「お、落ち着くの禅君ッ!!その人達にアルフさんと『フェイトちゃん』が酷い事されて怒るのはわかるけd……」

 

「ッ!?な、なのはッ!?それはッ!!」

 

「ふぇ?…………はうあっ!?」

 

たんだが、なのはの言葉を聞いて、その思いは俺の頭の中からフッ飛んだ。

ヘイ……なのはよ、今なんて言ったんだ?……『フェイト』が酷い事された?コイツ等に?

俺はロッテから目を離して『やっちまったの!?』って顔のまま両手で口を塞いでるなのはに向き直る。

 

「おいなのは、どーゆうこったそりゃあ?……フェイトがコイツ等にヒデー目に遭わされた?俺はそんな事聞いてねえぞ?」

 

「そ、それはその……あうぅ~」

 

俺の怒り顔での問いかけにオロオロと視線を右往左往させるなのはは、どうしたらいいか判らない様だ。

そんな状態のなのはからは何も聞けないと判断し、なのはの隣りにいるユーノに視線を向けるも、ユーノも気まずそうに視線を逸らしやがった。

更に視線をクロノに向けるが、クロノは俺に済まなそうな表情を浮かべて俺を見ている。

この調子じゃあクロノも俺の質問にゃ答えてくれねえだろう。

 

となれば……。

 

「今のなのはの言葉はマジなのか?……フェイト」

 

「……ゼ、ゼン……あの……怒らないで聞いて?」

 

当事者に聞くのが一番手っ取り早いだろう。

俺は、自分の後ろ側に立って居たフェイトに身体ごと向き直って、今の言葉の真意を問いかけた。

無論、ロッテのヤツは『クレイジーダイヤモンド』に吊り上げさせたままだ。

俺の視線を受けたフェイトは、所在なさげに視線を下に向けて顔を俯かせている。

それはまるで、悪戯がバレた子供の仕草にそっくりだった。

 

「……別に怒ってるワケじゃねえからよ……教えてくれねえか?……な?」

 

俺は後ろに佇んでいたフェイトになるべく優しい声音で語りかけて、フェイトの返事を待つ。

そのまま暫くフェイトは黙ったままだったが、何度か俺の顔と地面の二つに視線を行き来させて、少ししてから首を縦に振った。

 

「す、少し前にね?無人世界でシグナム達が蒐集してるって報告があって、私がシグナム達を止める為に、なのはと出動したんだ……」

 

俺の視線のプレッシャーに観念したフェイトは、ポツポツと小さい声で語り始めた。

その言葉を聞きながらシグナムさんに視線を向けて見ると、シグナムさんは済まなそうな顔で首を縦に振ってきた。

って事は間違いねえみてえだな、そういやフェイトだけが1~2日休んだ日があった様な……リンディさんが管理局の仕事だって言ってた筈……。

 

「そ、その時に、シグナムと戦ってあの仮面を付けた人に背中から奇襲されて、蒐集の痛みで気絶しちゃったんだ……ゼ、ゼンと会った時にはもう身体は回復してたから、皆に『ゼンには内緒にして』って頼んだの……」

 

と、俺が考えを巡らしている間にも、フェイトは少しづつ話をしてくれていた。

そういって語り終えたフェイトは、俺を見ずに俯いて地面を見ている。

 

「……何で俺に内緒にする必要があったんだ?」

 

うん、もうね?ハブられた感が凄いんですよ。

別に俺にぐらいは教えてくれてもいいだろうに、そうすりゃあのクソ仮面達をサクッとあの世に叩きこんでやったってのによぉ。

俺がそんな感じでアンニュイな気分になっていると、フェイトは瞳を不安げに震わせながら俺に視線を送ってきた。

 

 

 

 

 

「だ、だって……ゼンに……心配、かけたくなかったんだもん(ウルウル)」

 

きゅんっ♡

 

うごあっ!?く、くそッ!?ドンだけ良い女なんだよこの天使様はぁッ!?

俺に心配掛けたくないからって自分の辛い事を黙ってるなんて……滅茶苦茶キュンときたじゃねえかコンニャロウ。

と、何処かにトリップしちまいそうな我が意識を自制しつつ、俺は目の前に居るフェイトと視線を合わせる。

目の前のフェイトは俺の目を涙が溢れそうな瞳でジッと見詰めていた。

俺は溢れ出る萌え精神を抑えつけて、そんな風に不安げに俺を見つめるフェイトに苦笑いしながら……。

 

「はぁ、ったく……ちょいさ(パコンッ)」

 

「あう……ゼ、ゼン?」

 

軽く、かる~く、思いっきり手加減したチョップを額に当ててやった。

当てられたフェイトは額を軽く抑えながら、困惑した顔で俺を見てくる。

全く、そんな事されても俺は嬉しかねえっての。

 

「あのな、フェイト?俺はそんな気遣い要らねえぜ?」

 

「え?で、でも(ぴとっ)ふみゅ!?」

 

俺の苦笑いしながらの言葉に尚も反論しようとするフェイトだが、俺はフェイトの唇に人差し指を当てて言葉を遮る。

 

「そうやって気遣ってくれるのはフェイトの良いトコだけどよ……俺は、大切なお前が痛い思いをしたって事を知らなかった方が嫌だ」

 

「ッ!?(わ、私が……大切?私だから大切って事なの?そうとっていいの?…………よし、これからはちゃんと言おう)」

 

俺に指を当てられて口を封じられたフェイトは顔を赤くしながら俺の言葉を黙って聞いていた。

確かに知らない方が良い事もあるだろーけどよ……こうやって後で聞いた方が余計心配になっちまうっての。

 

「もしかしたら、俺が聞いた事で何か変えられたかもしれねーんだ……だから、そーゆう大事な事は教えてくれ……後から聞くよりソッチの方が万倍良いからよ」

 

「ふ……ん(こくんっ)」

 

俺がなるべく優しく言葉を掛けると、フェイトは赤い顔のままに蕩けそうな瞳で俺を見ながら頷いてくれた。

フェイトが返事してくれたのを見届けた俺は、触れていたフェイトの唇から人差し指を離してやった。

そうすると、フェイトは何やら俺の指が触れていた唇を指でなぞりながら俺をじ~っと見詰めていた。

それもとても少女のするモノとは思えない艶を帯びた笑顔を、だ。

え、えぇっとぉ?……何故にそげな年齢的に合わない笑みを浮かべてらっしゃるんですかフェイトさん?

余りにも幼さからかけ離れた笑みに萎縮してしまう俺だった。

ま、まぁそれはおいといて……つまりこのクソ仮面、もといあの腐れ猫共は、俺の大切なモンを2つも傷つけたという事か?

 

 

 

 

 

そんなアホな事仕出かすたぁ…………コイツはメチャ許せんよなぁああああああああああああああああああああああッ!!?

 

 

 

 

 

フェイトの事はとりあえず脳内から放り出して、奴らの所業にプッツンした俺は背後で苦しんでいるロッテとアリアに向き直る。

か細い呼吸をするロッテは未だに『クレイジーダイヤモンド』に吊るされ、アリアは折れた両腕の痛みで震えていた。

 

「さぁてと?今の話しを聞いちまったからにゃあ、テメエ等をこの程度で許す事なんざ出来ねえわなぁ?」

 

俺の言葉を聞いて俺の意思を読み取ったのか、グレアムさんはずっと下げていた頭を上げて俺を驚愕の目で見てくる。

蹲るアリアの隣で俺を見ていたクロノも「やはりか」という苦虫を噛み潰したような表情で俺を見ていた。

 

「ま、待ってくれ橘君ッ!!娘達の代わりに私が君の怒りを受けるッ!!だから娘達を殺さないでくれッ!!」

 

俺がかなりイイ笑顔を浮かべながらロッテを見ていると、グレアムさんはかなり焦った声音で俺に静止を促してきた。

おいおい?別に俺は何もコイツ等を「殺す」つもりはねぇぞ?……「殺す」つもりは……なぁ(黒笑)

クロノが俺を止めようとしないのは、俺がこれからヤル事を分かってるからだろうな。

 

「グレアムさぁん、俺は別にこの2人を殺すつもりはねぇっすよぉ?只、躾けのなってねえ猫2匹を躾けようかなぁってだけっすから」

 

「だ、だがロッテはこれ以上ダメージを受けたら本当に死んでしまうッ!!それは君も判っているだろうッ!?」

 

俺の笑いながら発した台詞を聞いて、グレアムさんは声を荒げながら言葉を掛けてきた。

確かにロッテの方は余りやりすぎると死んじまうだろーが、俺には全く問題にならねえよ。

 

「ならこぉすりゃ問題ねえっしょ?『クレイジーダイヤモンド』」

 

「な、何をする気だね?……ッ!?こ、これは……なんという……魔力を使わずに、こんな事が……」

 

俺は『クレイジーダイヤモンド』に命令して手でロッテに触れて、ロッテの怪我を治してやる。

するとロッテの顔はビデオの逆再生の様に膨らんだ顔が萎み、元の整った顔へと戻った。

その光景に目をひん剥いて驚くグレアムさんを尻目に、ロッテの髪から手を離して床に蹲るアリアの腕も治してやった。

 

「あぁああッ!?……え?……う、腕が?……ッ!?ロッテ!!」

 

と、俺が腕を治すと、痛みで叫んでいたアリアはさっきまでの痛みが一瞬で感じ無くなった事に首を捻っていた。

だがそれも束の間、直ぐに気を取り直して床に倒れているロッテの元へ駆け寄っていく。

そのままロッテの上半身を抱き起こして、ロッテの身体中を見て驚きに目を見開いた。

 

「き、傷が全部消えてる?」

 

「……う……うぅ」

 

「ッ!?ロッテ!?しっかりして!?」

 

「……アリ、ア?」

 

アリアに上半身を抱き起こされたロッテは、少し呻き声を出して目を覚まし、ロッテの無事を確認したアリアはホッとした表情を見せた。

その光景に驚いていたグレアムさんも、ロッテが無事なのを理解してほぅ……っと大きく息を吐いて椅子に凭れかかった。

だが一方で、クロノだけが「ご愁傷様」とでも言いたげな目でロッテ達を見ており、クロノは俺の傍を通って元の席に向かっていく。

その際、俺の傍を通って俺の耳元で「やりすぎるなよ」と一言だけ呟いた。

俺はあえてクロノの呟きには何のアクションも返さずに、その言葉を否定する。

コイツ等がドンだけ愚かしい事をしたのか……コイツ等がドンだけ馬鹿なのか……しっかりと刻んでやんなきゃ気が済まねえんだよ。

 

「はぁ~い、クソ猫姉妹」

 

「「ひっ!!?(ビックウッ!!!)」」

 

俺の声を聞いた猫姉妹は、飛び上がらんばかりの勢いで驚いて上擦った悲鳴を上げやがった。

そこにはさっきまでの不機嫌とか怒りなんて感情は一切無く、ただ俺に、いや『クレイジーダイヤモンド』に恐怖してる。

おいおい、こんな事でビビるんじゃねえよ。

俺は2人に歩み寄りつつ、なるべく柔和な笑顔を浮かべてみる。

すると猫姉妹は更に身体をガタガタと震わせながら2人で肩を抱き合ってしまったではないか。

ドンだけ怖がってんだよ……まぁいいけどさ。

 

「もう身体は痛くねえだろ?怪我も一切残っちゃいねえだろ?ん?」

 

俺のにこやかな笑みにビクビクしながらも、2人は自身の身体を確かめ始めた。

アリアの方は両腕だけだったから直ぐに確認を止めて、ロッテの方を心配している。

一方でロッテも、自分の身体に掠り傷1つ残っていない事を信じられないのか、体中を弄っていた。

 

「(ガサゴソッ)……何も、怪我が無い……全部治ってる……ッ!!」

 

そして、何処を調べても怪我が一切無くなっている事にロッテは声を挙げて驚いた。

ロッテの驚きに満ちた声を聞きながらも、怪我が全部治った事に安堵したアリアは弾ける様な笑顔を浮かべて安心してた。

 

 

 

 

「そう、一旦テメエ等を治しちまえばよぉ~」

 

俺はそんな2人ににこやかな笑みを向け……。

 

 

 

 

 

「これでぜぇ~~んぜん、問題ねえよなぁ?」

 

親指で首をカッ切るジェスチャーを取る。

背後には既に拳を発射態勢で構えて準備万端ヤル気モリモリの『クレイジーダイヤモンド』をスタンバらせてます☆

そのまま俺は、俺の言葉を聞いて「え?」というマヌケ面を晒すリーゼ姉妹に対して……。

 

『ドォラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララァアアアッ!!!』

 

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

 

「「ぶぎいゃげぁあああぉおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!?」」

 

身体だろーが顔だろーがお構い無し、手加減無用ってな具合に『クレイジーダイヤモンド』の拳をプレゼントしたった☆

床で上半身だけ起こしていた2人が上から降る拳の暴風雨を避けれるワケも防御できるワケもなく、『クレイジーダイヤモンド』の拳は全てヒットしていく。

そのまま満足するまで拳を叩き込んでから止めると、2人は全身ボッコボコの状態で床に倒れ込む。

なんつーか足もおっぴろげに開いて、潰れたカエルみてーなカッコだな。

うん、実に良くお似合いです♪

 

「なぁあッ!?ロッテ!!アリアァアアアッ!!」

 

と、まるでカエルの様な格好で無様に倒れ伏すリーゼ姉妹に、グレアムさんが悲痛な叫びをあげた。

だがまだまだこんなモンじゃあ俺の怒りは収まりがつかねえんだぜ?

そのまま叫び声をあげて2人に駆け寄ろうとするグレアムさんだったが、俺はそんなグレアムさんを睨みつける。

更に俺の後ろに控えている『クレイジーダイヤモンド』にもメンチを切らせると、グレアムさんはその場で怯んだ。

 

「グレアムさん、俺はさっき言った筈っすよねぇ?コイツ等を躾けるって……邪魔ぁせんでもらえます?」

 

「ッ!?だ、だが君はさっき、ロッテ達を殺すつもりはないと言ったじゃないかッ!?」

 

俺が声を掛けると、グレアムさんは『クレイジーダイヤモンド』の眼力に怯みながらも敢然とした態度で言い返してきた。

顔は焦っているのか汗が滲み出ているが、それでも1歩も引かない。

 

「ええ、言ったっすよ?」

 

「だったら何故また2人を痛めつけるんだッ!?」

 

俺の軽く言う態度に業を煮やしたのか、グレアムさんはさっきよりも強い口調で俺に問いただしてくる。

何故?そんなモン決まってんでしょーが。

 

「確かに俺はこの2人を殺すつもりはねえっすよ?……だからといって、『許す』だなんて言いましたっけ?」

 

「ッ!!?」

 

俺が何の気無しに発した言葉に、グレアムさんは今度こそ目を見開いて驚愕した。

何を当たり前の事で驚いてんのかねこのオッサンは?

古来から『やられたら億倍返し』ってのは常識だぜ?爺ちゃんもそう言ってたし。

もはや言葉も無いって様子で呆然とするグレアムさんを放置して、俺は床に転がるリーゼ姉妹を再び『クレイジーダイヤモンド』で触れて治す。

またもや身体の痛みと傷の全てが消え去ったリーゼ姉妹だったが、2人の顔に喜びは無く、あるのは恐怖と絶望の感情だけだった。

そんな2人の絶望に塗れた様子に、俺は口が弧を描いていくのを抑えられない。

 

「さぁ、第3ラウンドといこーか?あぁ、安心しろ。死にそうになったら幾らでも『治して』やっからよ♪……俺の可愛い天使(フェイト)に手ぇ挙げたんだ。勿論覚悟は出来てるよなぁ?」

 

(て!?ててて天使ってッ!!?俺のってぇえッ!!?……う、うやぁあッ!?ゼ、ゼンのばかぁああッ!!!)(真っ赤)

 

俺の死刑宣告を聞いてブンブンと音がなるぐらい首を左右に振る哀れなリーゼアリア、リーゼロッテだったが、俺はその全てを無視する。

そして、『クレイジーダイヤモンド』が振り上げた拳が落ちる時、2人は目から涙を流しながら悲鳴を挙げた。

 

 

 

 

 

さ ぁ オ シ オ キ の 時 間 だ ぜ ☆

 

 

 

 

 

『オォオオオオオッ!!!ドォラララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララァアアアッ!!!』

 

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

 

「「ぎょぷぇえええええええええええええええええええええええええええええええええッ!!??」」

 

え?見る陰も無いぐらいボロボロ?お任せあれ☆

 

「治療のお時間です♪『クレイジーダイヤモンド』ッ!!そしてラッシュのお時間です♪『クゥレイジィィィィィイ!!!ダァアイィヤァァモオォォオンドォォォォォォォオオォォオ!!!!』」

 

『ドオオォォララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララララァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』

 

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

 

殴られて奇怪なオブジェになれば元に戻されてまた殴られてと延々続く拳の嵐ぃッ!!!

 

うぅ~んッ!!絶望ぉっだねッ!!

 

グシャッ!!ベキッ!!ゴスッ!!ネチョ♪キーン☆あはん♡ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴゴシャアァッ!!!

 

 

 

「「ヤッダバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!??」」

 

 

 

「リーゼ姉妹ッ!!(ドゴォッ!!)テメエ等がッ!!(ズガンッ!!)泣いてもッ!!(バキィッ!!)殴るのをッ!!(グシャァッ!!)止めないッ!!(メメタァッ!!!)」

 

ンッン~ッ!!名言だなこれはッ!!

 

「いやゼンもう止めてあげようッ!?このまま行ったら泣く事も笑う事も出来なくなるよッ!?」

 

「大丈夫だ、問題ないッ!!ちょっと違う方向に逝くだけだってッ!!」

 

「問題大有りだろうッ!?いい加減僕も師匠たちがボコされる姿は見たくないんだがッ!?かなりスプラッタなシーンなんだぞッ!!」

 

そうして、哀れでお馬鹿な2人の使い魔の悲鳴とクロノユーノの静止する声をBGMにした『いともたやすく行われるえげつない行為』、略して『D4Cなお仕置き』は続いた。

この『D4Cなお仕置き』は15分間絶え間なく行われ、2人の使い魔の主人であるグレアムのオッサンが俺の要求を何でも1つ飲む事を条件に、幕を引いた。

もはや俺に逆らう気力も無くなった使い魔リーゼ姉妹は、虚ろな目で「ごめんないさいごめんなさいごめんなさい」と虚空に向かって連呼してる。

いやぁあ~♪実にイイ仕事したぜぇ♪将来はペットブリーダーでも目指そうかね?

只このお仕置きを終わらせた俺がイイ笑顔で振り返ると、フェイト達が俺を見てガクブルしてたのはちょっぴり、ちょ~っぴり傷つきました。

とりあえず俺の気が済んだ所で、グレアムさんから全員に話しておきたい事があるという事で、俺達は1度全員席に着いた。

 

そういや、グレアムさんが最初に言ってた俺に話したい事ってなんじゃらほい?


 
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