No.555683

ツン!恋姫†夢想 とある外史のツンツン演義(改訂版) 第一話

狭乃 狼さん

以前書いたツン娘ルート、諸事情により、改訂して再うP。

SS、増やしすぎというツッコミは無しの方向で(オイ

人物的な配置は変わりませんが、ストーリーは大幅に変わる予定。

続きを表示

2013-03-16 10:15:29 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:10786   閲覧ユーザー数:7713

           「ツン!恋姫夢想 とある外史のツンツン演義」

 

 

 

 

 

           「第一話 出会いと書いて一目惚れと読むのこと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 男なんて大嫌い。

 馬鹿だし下品だしスケベだしブサイクだし。暴力を振るうしか脳がない、救いようのない野蛮な生き物。物心ついてから今日に至るまで、そんな考えで生きてきた、私の根底を成しているその考え方は、決してゆらぐことのないものだと。そう信じて疑っていなかった。

 

 

 そう。“彼”に、出会うまでは。

 

 

 「ちょっと止めてよ!汚い手で私に触るんじゃないわよ!!」

 「へっ。ずいぶん威勢のいい姉ちゃんだな」

 「アニキィ~。こんなガキみたいな女、オイラ趣味じゃないですぜ~?」

 「お、オデはす、好きなんだな。アニキ、コイツオデにくれよう」

 

 岩を背に座り込む私を取り囲み、そんな勝手なことをいっている三人組。その後ろには、無残な姿をさらしている隊商の馬車と、散乱した荷物。一緒にいた護衛の連中は、たった三人しかいないこいつらが現れると同時に逃げちゃうし!そうよ!やっぱ男なんて頼りにならないのよ!

 ……こうしてただ一人取り残されて、わたし、このままどうななっちゃうの?こいつらに、よってたかって慰み者にされる?

 

 ……いや!そんなの絶対にいや!!

 

 「デクは我慢しろ。てめえのデカイので犯ろうものなら、この姉ちゃんが壊れちまうだろうが」

 「じゃ、どうすんだよ?あ、もしかして、アニキもこんなのが趣味なんですかい?“ちびの真っ平ら”が」

 

 カチン。

 

 「ちょっとそこのちび男!!あたしと大して変わんない背丈で、人のことちびっていうんじゃないわよ!大体誰が洗濯板よ!?ちょっとぐらいはあるわよ!(……かろうじてだけど)」

 

 小男の台詞にカチンと来た私は、思わず叫んでました。自分の立場もすっかり忘れて。

 

 「あ~?姉ちゃんよお?自分の立場わかってんのか?なんだったらこの場ですぐに……?」

 「どうした、チビ?」

 

 台詞の途中で怪訝そうな顔をしたその小男。私の視線が、あらぬ方を見ていて、口をパクパクさせていたからだ。

 

 「何だお前?いったいどこ見て」

 

 その私の視線の向くほうへと、男たちもその視線を移す。そこには、こっちに向かって、ぐんぐんと、ものすごい勢いで飛んでくる、一筋の流れ星が。

 

 「……おい。“あれ”、こっちに落ちてきていないか?」

 「き、来てるんだな」

 「あ、アニキ!は、早く逃げねーと!!」

 

 慌てふためく三人組。けど、もう時すでに遅し。

 

 『うわああああっっっっ!?』

 「きゃああああっっっっ!?」

 

 周囲をあっという間に飲み込んだ、その、一面の白い光。そのあまりの眩しさに、私は思わず目を閉じ身構えた。

 そしてほんのわずかの後、力いっぱいに閉じていた瞼を通して感じていた光が感じられなくなった後、自分の膝にわずかな重みを感じた私は、そっと目を開いて視線を真下へと向けた。

 

 

 

 そこに、“彼”が、居た。

 

 「な、な、な、な、な、な、な……?!」

 

 頭に飛び交う??の文字。

 

 (だ、誰よこれ!?お、男?!何で私の膝で寝てんの?!ていうか、いったいどこから現れたのよ!?)

 

 今の自分の置かれた状況がまったく理解できず、大混乱に陥る私の頭。そこには、つい先ほどまではどこにもその姿の無かったはずの人物が、力なく地面に座り込んでいる私のひざを枕にしていた。

 

 「う、うう・・・」

 「!!」

 

 不意に、その人物が軽いうめき声を上げ、寝返りをうつ。すると、さっきまでは横になり、髪がかかっていてよく見えなかったその顔が、はっきりと見て取れるようになった。

 まっすぐに整ったその眉。閉じられたその双眸。わずかに開かれ、静かに呼吸をするその唇。端正な、二枚目と言っていいその顔を見たその瞬間。

 

 (……かっこいい……)

 

 生まれてはじめて、男を見てそう思いました。

 

 「……う、うう……」

 「あ」

 

 はた、と。目を覚ました彼と、私の目が合った。きょとんとする彼の、その栗色に近い色のその黒い瞳には、少しばかり赤くなっている私の顔が映り込んでいる。

 

 「……え、君、誰……?」

 「え?あ、わ、私は」

 「てか!ここ、どこ?!いったいどういう状況?!なんで俺、女の子の膝枕で寝てんの!?」

 

 名前を名乗ろうとした私より先に、彼は目を白黒させながら、あたふたと周囲を見回しはじめた。

 

 「……オイ、こら」

 「いつまでも俺たちを無視してんじゃねー!」

 

 あ。すっかり忘れてた。ていうか、まだ居たんだ、この三人組。完全に蚊帳の外になっていた三人組みが、私と彼をすごい形相でにらみつけてくる。

 

 

 

 「泣く子も黙る黄巾党の俺たちを、ここまで完全に無視しやがるとはな。オイガキ!今の流星はてめえの仕業か?いったいどんな妖術を使いやがった?!」

 「こ、黄巾党?!よ、妖術って……!?何なんだよこれ!?何かの撮影か何か?あ、その格好って、もしかしてコスプレとかだったり」

 

 ……どうやら彼も、今の自分の置かれた状況を飲み込めていないようで。何やらよくわからない言葉をまくし立て、今度は何かを探すかのように、再び周りをきょろきょろと見渡す。

 その彼の行動が完全に、三人組の怒りを買ったらしく。

 

 「てんめえ!何分けのわかんねえことを言ってやがる!まあいい。どこのどいつか知らねえが、よく見りゃいい服着てやがるし、その小娘ともども身包み剥いで、そのままぶっ殺してやる!!」

 

 怒り心頭に達した小男が、その感情の高ぶるままに、その手に握った剣を彼へと勢い良く振り下ろす。陽光を浴びて鈍く輝くその刀身が、いまだに狼狽している彼のことを袈裟懸けに切り裂こうと、その白刃を容赦なく走らせる。

 けど次の瞬間。

 

 「ぶげらっっっっ!!」

 

 小男は勢い良く宙を舞い、弧を描きながらはるか後方へと吹き飛んだ。それと同時に、小男が持っていた剣はその彼の手を離れ、持ち主を吹き飛ばした青年の足元へと落下していた。

 

 「ち、チビ!?てめえ!チビに何しやがる!!」

 「そりゃこっちの台詞だっての!いくらオモチャだからって、いきなりこんなもの振り下ろされたら(ずしっ)重たっ?!……って、これ、本物ぉ?!」

 

 ……なんか、すっごく驚いてる。オモチャだと思っていたわけ?あれ。……ていうか、この人……強い。武に関してはまったくのど素人な私でもわかるくらい、その動きはとても鮮やかだった。

 

 「んの野郎、ふざけやがって!!おいデク!やっちまえ!!」

 「わ、わかったんだな」 

 

 デカ男が彼につかみかかる。その体格差は、大人と子供。……いくらなんでもあれじゃあ。と、そう思ったんだけど。

 

 「……あんたらさ、『柔良く剛を制す』って言葉、知ってる?」

 『へ?』

 

 大男に襟をつかまれたままの彼が、そう、一言言った後。私も含めて、そろって出た三つの間抜けな声。

 そしてその一瞬後。

 

 《ぶおんっ!!》

 

 「おわあっ!ばか!こっちにくんn」

 

 ぷちっ。

 

 ……大男が派手に吹っ飛んで、アニキと呼ばれていた細男を、見事に下敷きにしました。……あれは重いわ、うん。まあ安らかに眠って頂戴。あんたたちのことは、すぐに忘れるから(笑)。

 

 

 

 「ふ~う。いったいなんだってんだこいつら……まさか今時、本物の追いはぎなんて、現代日本に居るわけが……あ、それより君は大丈夫?どっか怪我とかしていないかい?」

 

 まるで何事もなかったかのように、彼は優しく微笑みながら、私にその手を伸ばしてきた。けど、そんな彼に対して私の口から出た言葉は、心のうちの感情とはまったく正反対の言葉だった。

 

 「べ、別になんてことはないわよ。やつらを退治してくれたのには、その、か、感謝はしてるけど、あんたみたいな得体の知れない奴、まだ信用したわけじゃないんだからね?」

 「……あ、そう……」

 

 あ。落ち込んだ。まあ、その気持ちはよくわかるし、私も私で、何でそんな心にもないことを言っちゃったのやら、この時は全然わからなかった。

 服のほこりを落としつつ立ち上がり、彼に背を向け、視線だけを彼に向ける私。年の頃は私と同じか、一つ二つ上ぐらいだろうか。今までに見たこともない、白く光る衣装に身を包み、困ったような表情でぽりぽりと頭を書いている彼。

 

 ……やっぱり、かっこいい。

 

 正直言って、その顔を正面から見れませんでした。だって、多分、そのときの私の顔は、真っ赤になっていたはずだから。

 

 「……ま、それはともかくとして、だ。なあ、ここってどこだい?こんな景色、日本じゃ見たことないんだけど?」

 

 周囲を見渡しつつ、そんなことをぼやく彼。……“にほん”って、何?素直に彼にそれを問うと、目をまん丸にして驚いた。

 

 「……まさか、とは思うけど。ここってさ、中国とかだったり……する?北京とか、西安とか、上海のある」

 「……全部聞いたことのない地名だけど?……“せいあん”じゃなくて、“長安”ならあるけど?」

 「え。……いや、そんな。けど……じゃ、まさか」

 

 さらに青ざめていく彼の顔。それは、考えたくもなかった考えに行き着いた。そんな感じの表情だった。

 

 「じゃさ、今って、西……あ、いや。……何年、かな?」

 「初平元年」

 「……もしかして、今って、漢の時代なんてこと……」

 「そうよ。ちなみに、今の皇帝陛下は十二代の劉宏さま。で、ここは荊州の宛県よ。……他に聞きたいことは?」

 「……ありませんです。……まいったな、こりゃ……性質の悪い冗談でも無さそうだし……」

 

 質問の先を読み、皇帝陛下の名前と、現在地の名前を教えた私の言葉に、がっくりとうなだれてその場にへたり込む彼。

 なにやら、相当重大な事実に気づいたようだけど、まあそれはともかく、こんなところにじっとしててもしょうがないわけで。

 

 「ちょっと。あんた何に気づいたのか知らないけど、ずっとそこに座り込んでいるわけじゃないでしょうね?……あいつらが気絶している間に、とっとと近くの邑まで行くわよ。……い、行く当てが他にないんなら、と、特別に護衛としてなら連れてってあげるけど?」

 

 そんな彼に背を向けたまま、あくまでも冷静さを装いつつ、早めの移動を促す。

 

 「……そう、だな。これからのことは、それから考えるとするか。あ、そうだ。なあ、せめて君の名前、聞かせてくれないか?いつまでも“君”って呼び続けるのもなんだし」

 

 あ。

 

 言われてみれば、まだ名乗ってなかったっけ。……とはいえ。男に対しては徹底的に素直じゃない私。それへの答えはこんな風だった。

 

 「……はあ?何で私が男なんかに自己紹介なんかしなきゃいけないわけ?けどまあ、それでもどうしてもって言うんなら、まずはそっちから名乗ったらどう?それだったら、と・く・べ・つ・に!答えてあげなくもないけど」

 「……きっつい娘だなぁ……「なんか言った?」……いや何も。えと、俺は、北郷一刀」

 「ほんごうかずと……?北が姓で、名が郷?一刀が字かしら?……変な名前」

 「いや。姓が北郷で、名が一刀だよ。字ってのはないよ」

 

 字が無い?まあ、それ自体は別に珍しいわけじゃないけど、二字姓に二字の名なんて始めて聞いたかも。

 それはまあともかく、ああ言った手前、こっちもきちんと名乗っておきますか。

 

 「……私は、姓は荀、名は彧、字は文若、よ」

 

 

 

 それから、私と彼は、もともと隊商が運んでいた荷物の一部を手早く回収し、気絶したままでいる追いはぎたちをその場に置き去りにして、そこから一番近くの邑を目指して歩き始めた。陽はとっくに中天からずれ、はるか西へと去っていこうとしている。夜の帳が下り、あたりが闇一面に支配されるまでに、どこか人気(ひとけ)のあるところに落ち着かないと、今度は野の獣たちの格好のえさになりかねないしね。

 

 「……にしても」

 「?なに?人の顔をじっと見て。……はっ!?まさかあんた、さっきの連中みたいに邪まなこと考えてるんじゃないでしょうね?!人気のなくなったのをいいことに、私にあんなことやこんなことをしようと考えてるんじゃ」

 「違う違う!そんなことは微塵も考えてないってば!……えと、さ。君、本当に、荀彧って名前、なわけ?」

 「……どういう意味よ?」

 「あー、なんて言ったらいいのか……信じてもらえるかどうかは知らないけどさ、俺の知識の中に存在する荀彧ってーと、君みたいな可愛らしい女の子じゃなく、男性、なはずなんだよね」

 「はあ?私が男?!何馬鹿なこと言ってんのよ?!……そりゃ、体型は世の乳おばけどもみたいじゃないわよ!?だからってよりによって私が男!?あんた、目腐ってんの?!」

 

 確かに、いつごろからだったかは忘れたけど、私の体はある年齢を境にすっかり成長を止めてしまっている。見た目だけで子ども扱いされる、なんてことはしょっちゅうだし、もうとっくに慣れっこだけど、よりによって男扱いされるなんて……屈辱にもほどがあるわよ!

 

 「……事と次第によっては、いくら命の恩人だからって容赦しないわよ?なんで、私が男だなんていうのか、さあ、きりきり話してもらいましょうか?」

 「……本当に、信じてもらえるかどうかは分からないけど、俺さ、さっき目が覚める直前まで、自分の部屋で寝ていたはずだったんだ。……ここが“同じ世界”の時間軸かどうかは分からないけど、今から1800年後の、この大陸の東の海に浮かぶ小さな島国、日本っていう名前の国にある、自分の家のベッド、えと、寝台の上で」

 「……は?」

 

 こいつ、何言ってんの?1800年後?日本?……頭おかしいのかしら?

 

 「……とりあえず、その、かわいそうなやつを見るような目はやめてください……。で、だ。これが夢じゃないんだとしたら、ここは、俺にとっては過去の世界……のはず、なんだ。それで、その過去の世界の物語の一つに、三国志っていうのがあってね。その中に、君と同じ名前の人物が登場するんだ。『魏』という名の国を後に興した、曹操孟徳っていう人物に仕える参謀として」

 「曹操様、ですって?もしかして、陳留刺史の?!」

 「うん。多分、その曹操様で合ってるよ。そしてその曹操に、我が子房が来たとまで言わしめた人物が、荀彧文若という人なんだけど。……もしかしてさ、君の知ってるその曹操さんも、やっぱり女性……?」

 「あったりまえでしょ?……にしてもあんた、本当に未来から来たの?それにしては、なんか微妙に食い違ってない?」

 「うん。俺もそこが気になってる。本来、俺の知ってる歴史じゃあ、この時代に登場する英雄たちはみんな、れっきとした男性のはずなんだ。なのに、君や、君の知る曹操さんは女性。……可能性としては」

 「……ここが、あんたの知る過去の世界じゃなく、少しだけ様相の異なる、別の世界だってことね」 

 「!……うん。これが夢でないなら、その可能性が高いかな。……もっとも、なんで俺が、こうやってこの世界に突然来たのかは分からないけどね」

 

 筋が通っているような通っていないような。けど、彼の言う言葉には、微塵たりとも迷いらしいものはない。少なくとも、嘘を言っている口ぶりではない。

 そのとき、ふと私の脳裏に走ったのは、最近良く耳にするようになった、一つの噂話。

 

 「……『天より飛来せし一筋の流星。そは天よりの御遣いを乗せる。かの者、白き光をその身にまとい、やがて世界の安寧を導く者とならん』……」

 「?それは?」

 「最近、大陸の各地でまことしやかにされてる、管輅って名前の占い師だかが流している予言よ。……流星とともに現れて、白い光を身にまとう……あんたの今の状況と似てるわね」

 「……あー、まあ、確かに。この制服、ポリエステルで出来てるから、太陽の当たり具合によっては、光っているようにも見えるかも」

 「ぽ、ぽりえすてる?……なんか良く分からないけど、あんたの居た未来とやらの、生地?」

 「生地っていうか、材質って言うか。油から合成して造っている、人工繊維のこと……だったかな?」

 「油から?……信じらんない」

 「まあ無理もないさ。たしかポリエステルが発明されたのって、20世紀…西暦1900年代に入ってからのことだしね。ちなみに、今の暦、後漢の初平元年は、西暦って暦に換算すると194年……ぐらいだったかな」

 「……本当に、2000年近く先なわけ。……信じないわけにはいかない、か」

 

 論より証拠、っていう言葉もあるわけだし。彼の、北郷の話を聞き、衣の材質なんかを見る以上、信憑性は高い、か。

 ただまあ、それを踏まえたうえでも、よ。

 

 「……あんたが天の御遣い、ねえ。……ただのその辺の一山いくらな凡人にしか見えないのに」

 「……まあ事実、一山いくらの凡人だし。武術だって、爺ちゃんに手慰み程度に教わったものでしかないしね」

 「……手慰み程度、ね」

 

 さっきの手並みを見る限り、到底その程度には見えなかったけど。と、そんなやり取りを延々続けているうちに、私たちはいつの間にか、目指していた邑の付近へと辿り着いていた。けど、そこで私たちが見たものは。

  

 

 

 「……あれは、炊煙?にしては」

 「……ちがう。あれ、あの邑、襲われている!」

 

 そう。件の邑からは、黒々とした煙と、そして、大勢の人々が出す怒号と悲鳴が、夕闇に染まろうとする空へと、高々と立ち上っていたのだった。

 

 「……荀彧はここにいてくれ!」

 「って!あんたどうする気よ!?まさかと思うけど、助けに行くなんていうんじゃあ」

 「当たり前だろ!?相手がどれほどか分からないけど、あれを見過ごすなんてこと出来っこな」

 「馬鹿言うんじゃないわよ!無謀と勇気を履き違えてどうすんの!?」

 「だけど!」

 「だけど、じゃない!確かにあんたはそこそこ腕が立つけど、それでも出来ることなんてたかが知れてるわよ!ましてや相手の数も何も分からない状況でなんて、それこそただの犬死に行くようなもんよ!」

 「けど……っ!」

 

 私の必死の制止を、北郷はなおも振り切り駆け出そうとする。そんな彼を、私はさらに静止の言葉をもって止める。そんなことを、邑から少し離れた岩陰でしていた私たちだったのだが、その私たちを、突然驚かせる出来事が、件の邑の方角にて起こった。

 

 『……ぎゃあああああっ!』

 『え?な、なにごと?!』

 

 突然に響いた複数の叫び声というか、悲鳴。そして、そのすぐ後に飛び出してきたのは、どうやらそこを襲っていたらしい十数人の賊たち。……一体何が起こったっての?

 邑を飛び出てきた賊たちは、そのまま必死の形相で、岩陰に身を潜めたままの私たちの方へと駆けてくる。全員が全員、『助けてくれ』だの『化け物だ』だの、そう、口々に叫びながら。そんな彼らの後方を、見れば一人の人物がつかつかと歩いて追ってきている姿があり、その手にはなにやら、金棒(?)のようなものを握っている。

 

 「あ、ひょっとしてあの賊たち、あの人に」

 「撃退されてきたっぽいわね。しかも、相当手酷いことをされたみたいね」

 「だね……って、あ、こっち来た」

 

 ほうほうの体で逃げていた連中が、もはや観念したのか、はたまた逃げる気力と体力を失ったのか、私たちのいるすぐそばまで来たあたりでその足を止めた。そして、その連中を追っていた件の人物もそこに追いつき、その姿がはっきりと見て取れるようになった。

 それは、黒が基調になった衣服を身につける、黒髪の一部を白く染めた、一人の少女、だった。

 赤みがかった厳しいそのまなざしを怒りの色に染めて、彼女はゆっくりと、自分に向かってあくまで抵抗の意思を示す賊たちへとその歩を進めている。

 

 「……おんなの、こ?え?まさか、彼女があの連中を?たった一人で?」

 「……そう、みたいね。かなり、腕が立つようね、あいつ」

 

 ……と、北郷の声に応えつつも、私の意識はそのとき、その女のとある一点にのみ集中していた。そう!上着からはみ出ているあの無駄の塊!今にもはちきれそうに、白い布を押し出して自己主張するあの脂肪!

 

 「……巨乳人なんて滅べばいいのに……っ」

 「え?あの、荀彧……さん?」

 

 は。……いけない、つい黒くなっていた。駄目だわ……分かっちゃいるんだけど、どうしても、胸のでかい連中を見るとこう、嫉妬の怒りがこみ上げてきちゃう……。

 

 「……なんでもないわよ。それよりほら、あの女、連中と」

 「あ」

 「……ほう。逃げるのをやめたか。諦めが良いのか悪いのかわからんが、あれだけ痛めつけたというのにまだ懲りないと見える」

 

 女が賊たちに言うその台詞が、割と近くにいる私たちの耳にもはっきりと聞こえてくる。

 

 

 

 「う、うるせえっ!て、てめえこそ、いきなり俺らの前に現れて、問答無用でそんなものぶん回しやがって!いいか、俺らは」

 「ただの下種の賊どもだろうが。お前たちがあの邑を襲っていたのは事実。そして私は義を見て邑に加勢し、貴様らをぶっとばしただけだ」

 「ぞ、賊って、だ、だから俺らは……っ!」

 「問答無用!貴様らのような天をも恐れぬ悪人どもは、この私、益州が産、魏文長の鈍砕骨で、骨まで叩き直してやる!」

 

 ……ほんとに聞く耳持たないって感じね、あの女。賊たちがなにやら反論しようとしているけど、まったくお構いなしって感じだわ。……でもなんか、妙な違和感が……?

 

 「……妙だな、あの賊の連中」

 「……え?」

 「連中、たしかにぼろぼろだけど、鎧とかに付いてるのは明らかに“切り傷”だ。しかも結構真新しい感じの。……あの人の得物で付いた傷じゃあない。それに、さっきまで邑を襲っていたわりには、返り血らしいものが俺には見えない」

 「……目、良いわね。よくそんな判別まで付くわ……けど、確かにあんたの言うとおりね。賊たちの態度も、妙といえば妙だし」

 

 そんな風に、目の前で展開される状況を冷静に見ている私たちをよそに、魏文長と名乗ったさっきの女は、賊たちの言い分も態度もまったく気にすることなく、その手の中の鈍い光を放つ凶器を構え、戦闘体勢へとその身を移す。

 

 「さあ覚悟しろ!天に代わってこの私が、お前ら薄汚い賊どもに天誅を加えてやる!」

 『ひいっ!』

 「っ!」

 「ほ、北郷?!」

 

 今度はもう、止める暇もなかった。魏文長という女が獲物を振りかざしたその瞬間、隣にいた北郷が意を決して地をけり、そこへと躍り出て、振り下ろされた金棒を、いつの間に拾っていたのか、賊連中が持っていた曲刀でもって受け止めたのだ。

 

 「な!?なんだ貴様!?」 

 「……流れの浪人、ってところかな?魏文長さん……だっけ?ちょっと、話、させてもらえないかな?……この人たち、どうも何がしかの事情がありそうだしね」

 「……なんだと……!そうか、貴様もこいつらの仲間か!おのれ!援軍を隠しておくとは姑息な真似を!」

 「へ?あ、いや、だからちょっとま」

 「ええい、うるさい!私の鈍砕骨を止めたのには驚いたが、お前みたいな優男に、二度も遅れは取りはしない!てえええええいっ!」

 「おわわっ!?だからちょっと人の話を……っ!」

 

 あ。駄目だ。まったく人の話し聞いてないわ、あいつ。つか、姑息ってのは本来、一時しのぎとかいう意味なんだから、この場合で使うなら卑怯、でしょうが。……って、そんなことはどうでもいいんだけど。

 とにもかくにも、そうして、話をまったく聞く気のない魏文長とかいう女と北郷の一騎打ちは、こうして始まったのだった……なんでこうなったのかしら?

 

 つづく

 

 

 

 というわけで、ツン娘ルートの修正版なんぞをうpしてみたりw

 

 前のバージョンが途中で止まった最大の理由としては、思春と焔耶がツンじゃなくなってしまったってことにつきますね(苦笑w

 

 ねね?あれは予定通りなので無問題(おw

 

 それはともかく、現状、書けるものと書きたいものがまったく一致していない、作者の脳内とモチベでございますので、とにかく、書く気になったものを書けるときに書く、そういう方針で当分はいきます。

 

 ただし、早ければ三月末にはpc、自宅に復帰する予定でおりますので、それからは、本来の連載ものを中心にやっていく、そういう腹積もりでおります。

 

 そしてこのお話の今後の展開、旧バージョンからかなり引き離す予定でいますので、ほぼ9割がたは新作と思ってもらってかまいません。

 

 なお、更新はものごっついゆったりとなります。ご承知ください。今回のうpも、あくまでモチベ維持のための一環として書いたものなので。

 

 では、今回はこの辺で。

 

 再見~w


 
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