No.555459

ほむら「捨てゲーするわ」第七話

ユウ100Fさん

ほむら「捨てゲーするわ」第六話 (http://www.tinami.com/view/550052 ) からの続きです。
続きもあるといえばあるんですが、正直キリがいいからここでゴールしてもいいんじゃね…?と思ったり。
ちなみにキャラ崩壊や設定違いなどはもちろんスルー安定です。

2013-03-15 20:09:17 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:5855   閲覧ユーザー数:5810

 もうあれからは散々だった。

 さやかはまどかの言う通りしばらく泣き止まず、一向に戻ってこない家主に業を煮やした杏子が来て、ようやく家に入れた。

 突然の来訪にも料理担当のゆまちゃんは驚かず「ほむらおねえちゃんが誰かを連れて来てもいいように、多めに材料があるよ?」と二人分の材料を追加してくれた。幼女にまでお人よし認定されている私って…。

「うーん、むにゃむにゃ…ほむら、ごめんねぇ…」

「さやかちゃん、やっと眠ったみたい」

「そう、やっとね…」

 げっそりとしながら私に抱き付いたまま寝言を言っているさやかを引きはがす。居間のソファにはすでに織莉子とキリカが仲良く眠っており、そこにさやかも置いておく事にした。このソファ、背もたれを倒すとかなりの広さの簡易ベッドになるのよね。寝心地も良いし、本当はこの三人に占拠されている光景は勿体なく感じるくらいなんだけど。

 しかし…さやかは本当に眠るまで私に謝罪しっぱなしだった。頑固とは聞いたけど、私が何度も「もういいから」と言っても謝ってくる。私の肯定の意思が見えないのかしら…さやかの脳の容量を考えればありうるわね。

「ほむらちゃん、今日は本当にお疲れ様。さやかちゃん…私の友達まで助けてくれて、ありがとう」

「いいのよ、別に。それじゃあまどかは私のベッドで寝てちょうだい…私はゆまちゃんの隣にでも潜り込むから」

 ちなみに予備の布団は二枚。それを並べて敷いた場所に杏子、ゆまちゃん、マミが仲良く寝ている。多少窮屈だけど、もう一人くらいなら何とかなるでしょう…それにゆまちゃんは何と言うか、幼女ならではの良い匂いがね、アレがあれば多少の狭さは我慢できる気がするわ。

 何より、まどかに窮屈な場所で寝させたくは無いもの。そうだ、私はロ○コンなんかではない。イエスまどか、ノー○リコンだ。

「ほむらちゃん、待って」

「!? ち、違うのよ! 私はあくまでまどかに快眠を提供したいだけであって『全く、幼女との添い寝は最高だぜ!』なんて微塵も思ってないわ!」

「ほむらちゃんそんな事考えてたの!?…ってそうじゃないよ! いや、スルーしていいような内容でも無いけど!」

 くっ、この周回は安定の本音駄々漏れじょうたいね…気を抜きっぱなしでループ前にはまどかに愛想を尽かされるんじゃないかしら…いや、むしろ今まで尽かしていないのが不思議なのかしら?

「…こほん。えっとね、良かったら…一緒に寝ない?」

「………えっと、まどかでも冗談は言う事があるのよね? ふふっ、この私がそんな冗談に騙されると思って? 暁美ほむらはクールに…」

「ほむらちゃんが嫌なら諦めるけど…でもね、ほむらちゃんと添い寝したいのは本当だよ?」

「嫌じゃありませんむしろお願いします!」

「あ、ありがとう…ってほむらちゃん、自分で歩けるから!」

 まどかフラグがついにキタのね! そうなのね!?

 この周回ではまどかと既成事実を作る…もとい合法的にイチャイチャする事を夢見て今。

 マミや織莉子の乱入でどうしようも無かったと思っていたのに。

 私はまどかの申し出が夢でない事を確認すると、迷うことなくお姫様抱っこをしてベッドへ。

(デートが出来なかったなんて落ち込んでたけど…添い寝なんてデートの遥か先を行くイベントじゃないの! 今、私輝いてる!)

「ほ、ほむらちゃん、添い寝って私言ったよね?」

「もちろん聞いてるわよウェヒヒ…」

「じゃあなんでそんな怖い顔してるの!?」

「それはね、まどかが美味しそ…可愛いからよ…」

「ねえ、やっぱり止める!? 言い出したの私だけどすっごく不安になってきたよ!?」

 もちろんそこからの私は馬耳東風。

 全員が眠った事をしっかりと確認していたので、不安になって多少騒いでいるまどかを担いで寝室へと直行した。

「…」

「…」

 あの、なんでしょうかこの空気。

 音が無さ過ぎて耳がキーンってなるんですけど。

「……」

「……」

 意気揚々とまどかをベッドに降ろして、それでキャッキャウフフする予定だったのに「おやすみなさい、ほむらちゃん」「ええ、おやすみなさい」と言ったきり、会話が無くなったんですけど。

「………」

「………」

 それならいつもの調子で話せばいいじゃん…と思うかもしれないが、こう見えて私の緊張はピークだ。よくよく考えれば転校初日に添い寝(というかまどかを抱き枕扱いしてた)したんだから、緊張する事なんて無いはずなんだけど。

(まどかから誘ってきたとなると別というか…もしかしたら何か話したい事でも、と思うと…ああ、どうすればいいのかしら…)

 自分で言うのもなんだけど、まどかが拒みそうにない空気の時って妙にヘタレているような…つまり、誘われるのに強いようで弱い。ベッドに連れ込んだ勢いはどこへやら、おやすみの挨拶を交わした時のまどかの何か言いたげな顔に気圧され、何もできなかった。

「…ほむらちゃん、まだ起きてるかな?」

「…ええ、なんとか」

 本音で言うなら眠気はわりとあって寝たいのはやまやまなのだけど、真っ暗な寝室のベッドの上でまどかと寝ている状況というのは、先ほどからお分かりのように寝れないわけで…ああ、愛が辛い。

 とはいえ、話しかけてくれたのはありがたいわね。ここからはキレのあるトークで盛り上げるのよ暁美ほむら。捨てゲー周回は恥も捨てる為のあるのよ。

「…あのね、今まで本当にありがとう」

「あっ、そんなこちらこそありがとうございます」

「…なんで敬語?」

「…何となく?」

 まどかの改まったようなお礼の言葉に私のかき捨てるべき恥はノックアウト、何故か丁寧にお礼を言ってしまった。

(…それに今まで、なんて言われると…)

 さすがに何か含み的なものを感じてしまうわね。

「…転校初日ね、私はほむらちゃんの事…」

「一目惚れした?」

「…ごめん、すっごく変な子だと思っちゃった」

「ですよねー」

 まあその答えは想定済みよええ…あの頃は人目なんか気にするつもりも無く、まどかと強引に仲良くなるつもりだったもの。

 今も大差ないけれど…マミや織莉子のせいでちょくちょく良くも悪くも冷静になって自分を見つめ返してしまい、結果として『なんだかんだ言ってもまどかに逆らえない私』が露骨に出てきてしまった。

 その結果がご覧のありさま…ああ、なんて中途半端なの私は…。

 まどかに変と言われた事よりも自分の行動の思わぬ二転三転に、暗闇の中で一人涙目になっていた。

「…でもね、それでも…初めから、ほむらちゃんは嘘はつかないって…優しい子だって思ってたの」

「…うれじいわ、まどかぁ…」

「ほ、ほむらちゃん泣いてるの?」

 まあ自分の情けなさに泣いていたのだけど、まどかの嬉しい一言で涙が加速したのは事実なわけで…。

 だって、こんないきなり相手を連れ回して好き勝手するような女を…ここまで信じてくれるなんて。

 ちょっと心配になるけれど、まどかからの全幅の信頼はありがたかった。私の疲れた心を癒す捨てゲー周回には無くてはならないものね。

「そ、それでね、ほむらちゃん」

(…でも)

 私はまどかの言葉を上の空で聞きながら、ふと思う。

 何度も繰り返している私が見てきた、今までのまどかたちは、みんなそれぞれ違う。

 今回のまどかはそれが顕著だ。

 私の事を信じてくれていて、冷静で、でも優しさは変わらなくて…。

 とにかく、今のまどかはある意味では私にとっては理想的。

「私ね、ほむらちゃんの事信じてるよ。でもね…聞きたい事があるの」

(…でも、私はもう魔女とは戦わない。そうなると、この街は…この周回は…この、まどかも?)

 ワルプルギスの夜は全てを奪っていく。

 そこにあった生活も、刻まれた思い出も、大切な人も、全て。

 まどかを救えなくて繰り返している時点でそれは変わらない。覚悟だってしている。

 なのに、今の私は。

「ほむらちゃん、私たちにまだ言ってない事…ある、かな」

「え?」

 まどかの質問はとても漠然としていて、受け取り方次第でいくらでも答えは用意できる。

「な、何の事かしら?」

「…やっぱり、何かあるんだね」

 なのに私は、漫画みたいな典型的な狼狽えリアクションを見せてしまった。演技だったらよかったのに、残念な事にこれは素だ。

 そしてそれを見逃すほど、今のクールまどかは抜けていない。

「ほむらちゃん、私の事クールって言ってくれるけど…それ、多分ほむらちゃんのせいだからね? さすがに初日から訳が分からないまま連れ回されて、でも全部現実で…ほむらちゃんの居ないところで結構自分なりに考えたり悩んだりしてたんだよ?」

「…すみませんでした…」

 何と言うかもう、頭が上がりません、はい…。

 クールまどかってはしゃいでいたけど、まさか私のせいなんて…。

 いや、逆に考えるのよ。私が連れ回せば、まどかはクールになるんじゃないか、と―。

(だから何なのよって話なんですけどね)

 強いて言うなら、クールになってくれれば話も伝わりやすいかしら。

「ううん、責めてるわけじゃないよ」

「マジで?」

「でも反省はしてもらえたらって」

「重ね重ね申し訳ございません…」

 まあとにかく…次の周回からはまたいつもの私に戻ると思うから、今は見逃してね…。

 なんて心の中で謝ってみるけど、意味は無いのは分かっている。

「…あれ? 何の話してたっけ?」

「まどかが私と結婚するなら新婚旅行はどこがいいかって話よ」

「ほむらちゃん?」

「…私が何か隠しているんじゃないかって質問してました…」

 なんだかんだで主題がずれてこれでフィニッシュ!と思っていたけど、それはクールまどには通用しなかったわね…。

 暗闇の中で声だけでプレッシャーをかけてくるまどか怖可愛い。

「そうそう、それ…うん、ほむらちゃんはやっぱり私たちに隠してる事があるんだよね? なら、それを教えてもらいたいかなって」

「…どうして、そんな風に思うの? 私、あなたの前だと自分をさらけ出しているし、何より欲望の限りを尽くしているつもりだけど」

「…やっぱり、素直には答えてくれないんだね…」

「あれ? 私の質問は?」

 繰り返すたびに私とまどかの時間はずれていく。

 それは分かっていたけど、こうも露骨だと…なんかこう、落胆しつつもゾクゾクするというか…ってなんでですかー。

「ほむらちゃん、私ね…本当に、貴女と友達になれて本当に良かったって思ってる。私は助けてもらってばかりでこんな事言うのって、都合が良いって思われても仕方ないかもしれない」

「やめて、まどか…私は好き勝手して、あなたを困らせてばかりの、わけが分からないクラスメイト…それでいいの。だから、あなたが助かっていると感じているなら、それは私の罪滅ぼしくらいに考えてもらえれば…」

 これは私の心からの本音だ。

 この周回では好き勝手する。例えまどかに拒絶され続けたとしてもそれはそれでと特殊なプレイ…じゃなくて、強引にでも振り向いてもらう努力を楽しむのも良いくらいに本当は考えていたのに。

 なのに、まどかは…私の予想外に、捨てゲーの自棄になっていた暁美ほむらを受け入れてくれていた。

 初日、理不尽に絶叫しながらも放課後まで私に付き合ってくれた。

 次の日の何食わぬ待ち伏せにも一緒に登校してくれた。

 錯乱するマミを止める為の協力だって、私を迷わず信じてくれた。

「…やっぱり、ほむらちゃんは優しすぎるんだよ…誰も見捨てられないのに強がっていて、好き勝手に見せかけるように照れ隠しをして…誰にも言えない悩みを、自分だけで抱え込んでる…」

 放課後の案内だって、さやかや志筑さんとの付き合いもあっただろうに、私の町案内を優先してくれた。

 織莉子を連れ込んで元気が無かった私を、今までの迷惑なんて考えもせず励まそうとしてくれた。

 キリカの時も、自分の相談よりも見ず知らずの相手の案内を優先させてくれた。

 さやかの事だって、そうだ。私を信頼しきっていたから、こうしてお願いをして、助けた。

「っ…まどか、そんな事…言わないで。私はあなたがそう思ってくれている事は、うれし、い…で、でもっ…そんな、立派な人間じゃ…ない、の…」

 あなたを救う事を最初から諦めた私に、こんなにもたくさんのものをくれた。

 だから、まどかが助かってくれていると感じるのは、それはむしろ私が救われている証拠なんだ。

 それなのに…私はあなたを救えていない。

 私は、あなたにそんな言葉をかけてもらえる人間じゃないの。

 悔しくて、本当に情けなくて…弱虫な私は、涙があふれてきた。

「そんな事無い…! 私、ほむらちゃんと出会ってからまだそこまで経ってないし、知ったような事を言うようになるかもしれないよ…でも、私の見てきたほむらちゃんは、私の言葉通りの人なの! 優しくて、ちょっと変で、でも絶対困っている人は見捨てなかった…私の、最高の友達なの…だから、自分を悪くなんて言わないで…私の友達を、もっと信じてあげて…」

「…まどかぁ!」

 手を握ってきたまどかに、私は堪えられずに抱き付いてしまった。

 いつもの調子なら引きはがされたかもしれないけど、今のまどかはいきなりの行動にも拒絶なんて見せず、抱き寄せてくれた。

「ごめん、ごめんなさい…私、本当に…あなたにはっ、言えない事があるの…」

「…今も、言えない?」

 まどかの声音は先ほどのような答えを促すような強さを含んだものじゃなくて、ぽつりと小さく、それでいて私を包み込もうとしているような、今現在の…泣いている私を抱きしめる格好になっていた。

 本当なら、もう全てを打ち明けてもいいのかもしれない。

「…ごめん、なさい…」

 でも、私の口から出てきたのは謝罪だった。まどかが求めているものじゃない。

「…そっか。ほむらちゃん、やっと本当の事を言ってくれたんだね」

「え…?」

「だって、隠している事があるって言ってくれたでしょ? 私、嬉しいよ…やっと友達にそれを教えてもらえたんだもん。言いたくなったら、いつでも言ってね? 私、待ってるから」

 ああ、やっぱり私はまどかには敵わないと再確認した。敵わない相手に流されるのなんて、当然じゃないの。

「まどか…まどかぁ…」

「よしよし…ほむらちゃん、本当は泣き虫だったんだね…」

「うん…う、ん…」

 そう、本当の私は…泣き虫で弱気で、自分勝手で…まどかが居ないと『一人で歩きだす』事だってできない、弱い子なんだ…。

 だから私はまどかに流されている。

 好き勝手に過ごしているように見えない?

 いいえ、私はこの周回において、好き勝手以外はしていなかった。

 まどかが言うような「私が思い描くほむらちゃん」のまま流されて…そのまま歩き出すんだ。

 私はまどかの思うまま、好き勝手にしていた。

 それが、みんなを救ったのかもしれない。

「ごめ、んね…まどか…今だけ、今だけだから…」

「うんうん、分かってるよほむらちゃん…泣き止んだら、私の知っているほむらちゃんに戻るんだよね? それで、私を振り回して…私を助けてくれるんだよね?」

「…っ、当然、じゃない…! 私は、まどかからイチャついてくれるようになるまで、相思相愛になるまで…ずっとこのまま…なんだから…!」

「あ、あはは…振り回すのは程々がいいかな…」

 そうだ、この周回で私は、まだやる事がある。

 一つは、まどかを振り回す事。今までと同じ、いや、それ以上にまどかを独り占めする勢いで楽しみ抜く。これが、この周回の意味なんだから。

 そしてもう一つ。

「まどか…絶対、私が助けてあげるから…どんな事があっても、あなただけは…!」

「うん、信じてるよ…ほむらちゃん」

 私はかつてと変わらない誓いを立てて、今だけは思いっきり抱き付き、泣かせてもらう事にした。

 そう、捨てゲーだからといって、プレイを放棄する事と同義じゃない。

 あの子は確かにそう言ってたのだ―。

 §

 

―それから、私は毎日を今以上に噛みしめて生きている。

 

「えへへぇ…」

 翌日、まどかもさやかも私の家に泊まっていた都合上、ちょっと早めに起きて家に戻り、そのまま三人で登校していた。

「さやかちゃん、ごきげんだね」

「ええ…(ちょっとムカつく程度に)」

 三人の中でも特に元気に、足取りも軽く歩み続けるのはさやかだ。

 何というか…へにゃ、という表現がしっくりくるような間抜け面で歩く姿に、時折すれ違う通行人は怪訝な顔をして通り過ぎる。

 おかげで、私とまどかは数歩後ろを着いて歩く事しかできない。知人に思われたら嫌だもの。

「私はそこまで思わないけど…それに、ほむらちゃんのおかげだと思うし」

「私?」

「そうそう、ほむらさまさまだよってね!」

 何も聞いてなさそうでしっかりと私たちの会話も聞いていたさやかは、いきなり振り向きざまに私に抱きついてきた。

 一応腐っても美樹さやかでも女の子だけあっていい匂い…だけど、それでもまどか以外に抱きつかれるのは遠慮したいのだけど…昨日の夜、思い切り泣いてからはとてもスッキリとした気持ちになっていた。だから、口だけで抵抗してみる。

「暑苦しいし恥ずかしいから離れなさい」

「まあまあそうおっしゃらずに! それに恭介が退院したら、あたしだってこんな事はあんまりできないだろうしぃ?」

「もしかしてさやかちゃん、上条くんと?」

「よくぞ聞いてくれました!」

 待ってました、と言わんばかりにさやかは私から離れ、ふふんと胸を張る。

(…自分が招いた事だし理想的ではあるけれど…何故かすごくムカつくわ…)

 どやぁ、と見事なまでの顔をして語り出すさやかは、いつぞやの志筑さんに敗れた周回と違って、調子に乗りまくっている。

 そんなんだから、誰かが助けないと恋が実らないのよ…私は内心でげっそりとしながら、これから惚気られる事を考えてため息をつく。

「実はさやかちゃん、恭介とお付き合いする事になりましたー! えへ、えへへ…何だか、こうして口に出すと恥ずかしいような嬉しいような…とにかく、舞い上がっちゃってるわけです、あたし!」

「へえー、それはめでたいわねー」

「さやかちゃん、本当!? おめでとう…良かった、本当に良かったよぉ…」

 棒読みで祝う私に、心から驚きそして安堵するまどか。絵に描いたようなリアクションの差にも特にツッコまず、さやかは上機嫌なまま言葉を続けた。

「いやー、二人とマミさんには本当に感謝してもしきれないって言うか…あの後、恭介に『さやか、都合がいい話かもしれないけど…これからは幼馴染である前に女の子として向かい合いたいから、男女として交際してくれないかな?』って言われちゃって…ああもう、あんなに不安そうで真剣な恭介始めてだよぉ、素敵だよぉ! あたしが断るはずなんで無いのにさぁ…」

「…うぜー」

「ほむらちゃん、本音がいつも以上に駄々漏れだよ…気持ちはちょっとだけ分かるけど…」

 いやん、何言わせるのよぉ!とぶりっ子のようにさやかは言う。このウザさ、私に異常にすり寄るマミとは別次元でこそあれ、いい勝負をしそうね…。

「…一応言っておくけど、魔法少女にはならないようにね。必要が無いとは思うけど、あなたにはきっちりと言ってなかったでしょうし」

「あったりまえじゃん! 今魔法少女になんてなったらゾンビってことでしょ? そんな体で恭介にキスしてなんて言えないし、抱きしめてもらう事だって…あ、抱くって言ってもハグだかんねハグ! さやかちゃんと恭介君は健全な中学生らしいお付き合いをするのです!」

「ほむらちゃん、別にそこまで聞いてないような気もするけど…」

「気がするじゃなくてその通りよまどか…まあ今のさやかに何言っても無駄でしょうけど」

 とはいえ、これでさやかはまず魔法少女にはならない。イコールで魔女化してまどかが悲しむ可能性も未然に防いだわけで…うん、これで私の目標もますます固まった。

「皆さん、おはようございます…あら? さやかさんだけやけにご機嫌ですわね?」

 と、そこで志筑さんが私たちに合流する。

(あ、そう言えば志筑さんも上条恭介が好きだったわね…これはどうなるかしら)

 私は思い出したかのようにそんな事を考える。一応今回は志筑さんが恋敗れたわけで、落ち込む事になるんでしょうけど…さすがに彼女のケアまでは私のサポート外だ。

「えへ、仁美にまでばれちゃいますかー? 今のあたしってそんなに幸せそう?」

「ええ、ちょっと合流を躊躇うくらいには…あの、もしかして」

「いやん、これ以上誰かに言うのなんて恥ずかしいんだけど…さやかちゃんは上条さやかになりそうなんですよこれが!」

「えっ!?」

「さ、さやかちゃん、それは理想的かもしれないけど飛躍しすぎじゃないかなって…」

「でもでもぉ、あたしの想いは幼い頃から変わらずあるわけでして、それがこれからも続くのは明白でしょうしぃ?」

(どんな根拠よそれ…)

 志筑さんの心中なんて察せるわけも無いさやかは、内心で志筑さんよりもさやかを優先したことにひやひやしているまどかのフォローも届かない。

「え、えっと…お、おめでとうございます…お二人とも、お似合いですわ…」

 そして自分がモーションを起こす前に恋愛を成就させたさやかに対し戸惑いを隠せない志筑さんは、それでも一応祝福の言葉を述べる。

 繰り返し続けた事で知っているから思うわけだけど…何と言うか、恋に敗れたとしても、志筑さんは強いと思う。さやかの恋が破れた瞬間なんて、最も惨めだったもの。

…だからだろうか。私もまどかと同じなのかもしれない。

 志筑さんがこうして落ち込む事の後ろめたさよりも、さやかが無事だった事の方への嬉しさが勝っている。私の場合はまどかや魔法少女の兼ね合いでそれが顕著だからなのかもしれないけど。

(どちらにせよ、落ち込み具合が激しい方が救われるに越した事は無いでしょう…志筑さん、メンタルの弱さが人を救う事もあるのよ)

「でへへ、仁美にまで祝福されちゃうなんて…こりゃもう、ちゃんと結婚まで進めないと皆さんに申し訳ないですなー!」

「え、ええ…そうして下さると、私もすっきりすると思います」

(…面と向かっては言えないけど、ごめんなさい志筑さん…)

 強い方が敗れるのは罪悪感も少ない…と思ったけど、あまりに察せないさやかを見てると急速に罪悪感が込み上げてきた。

「…私、間違ってない…よね…」

「…多分」

 それまでさやか推しだったまどかも、さすがにこの態度の前では擁護も難しくなってしまったようで…まあこれじゃあ仕方ないわよね…。

「…ふ、ふふ…何だか、遠いところへ行きたい気分ですわね…」

(あ、そう言えばそろそろ志筑さんが魔女の口付けくらい頃合いかしら? これは、今回はさやかが原因でしょうね…)

 何だか目が虚ろになった志筑さんを見て、今までの傾向から該当する事態になる事を察した。後でマミたちに連絡して、工場に人員配置しないと。

 私はもちろん『まだ』戦わない。

 だって、今は。

「…まどか、あんまり気にしたらダメよ。それより、放課後付き合ってくれない? ちょっと行きたいところがあるのよ」

「放課後? 別にいいけど、どこに行くの?」

「とりあえず夜になってとある工場に人が集まるまで時間が潰せるならどこでもいいわ」

「よ、よく分からないけど変に具体的だね…私は大丈夫だけど」

 よし、これでまどかも一緒に引っ張られる可能性は潰せるわね。万が一という事もあるし、何より私は…まどかと一緒に過ごしたい。それがこの周回の本来の目的なのだから。

「ごっめーん、あたしは恭介のところに行かなきゃいけないからパスね! ていうか、しばらく放課後は付き合えないかも…てへへ、こんなさやかちゃんを許してねほむほむ!」

(…これは殴っても許されるレベルよね?)

(ほむらちゃん、放課後に私に愚痴っていいから! 今は耐えて!)

 誘ってもいないのに会話に食い付き、さらには私をほむほむ呼ばわり…さすがに手が出そうだったけど、まどかの制止に拳はぐっと握りしめられた。

「わ、わたくしもちょっと用事が…何だか行きたいところがあるような気がします…」

 それは分かってるわ、と内心で志筑さんのこれからの行動を察する。知っていて未然に防げないのは何とも悪い気がするけれど。

 とりあえず、彼女が命を失わないようにしよう…私はせめてもの償いをする事にした。

 §

 

―これから先、どうなるかは分からない。それでも、私は幸せだった。

 

「ピザよピザ! みんなで集まった時はピザに決まってるじゃない!」

 マミはピザ屋のチラシの『チーズ激増しポテトベーコン』という品目を指さしている。カロリーの数値、ちゃんと見てるのかしら?

「いーや、絶対にラーメンだって! 今時出前ラーメンなんてすぐに無くなるか分からないのに、いつ食べるってのさ!? 今だよ!」

 そしてキリカは何故か近所にある出前ラーメン屋をプッシュする。そんな店、私も知らなかったんだけど…。

「ばっかやろう、出前と言えばカツ丼だろ! 衣の下は豚肉だぞ豚肉!」

「キョーコ、駄菓子のびっくりカツはおさかなってホントなの!?」

 ああ、残念な事にな…と驚愕しているゆまちゃんに、杏子はある意味残酷な現実を教えていた。というかカツ丼って出前のメジャーだったのかしら?

「…えっと、希望を言わせてもらえるなら…その、うな重とかどうでしょう?」

 遠慮がちでありながらも、今まで挙がった物の中だと比較的高めの食べ物をチョイスするあたり、やはり織莉子は油断ならないわね…どこから出前の料金が出ると思っているの。

「…ほむらちゃん、どうしてこんな事になってるの…」

「…みゃん」

 そして唯一エゴを出さないまどかは膝にエイミーを抱きながら、目の前の光景への疑問をぶつけてきた。ああ、まどかはやっぱりこの中だと一番の常識人ね…まどかが居ないと考える事を止めて、全部頼みそうだもの。

「…まどかが来るちょっと前に『今日はまどかも来るし何か出前でもとろうかしら?』と言ったのよ…そうしたら」

「ピザピザ、ピィザッ!」

「ラーメンは小○さんもイチオシなんだぞ!」

「カツ丼ー! 魚じゃないカツ食いたいー!」

「ゆまもー!」

「…う、うなじゅー…」

「…で、こんな悲惨な事になっちゃったんだ…」

「ええ…今考えると、この面子にそんな事を言ったのが間違いだったのね…」

 そう、出前を聞いて我が家の居候たちは置いてもらっている事も忘れ、全員見事なまでに食べたい物を連呼する始末。今まで手料理を振る舞ってくれていたゆまちゃんまで、魚肉のすり身以外で作られたカツに興味津々なわけで…泣きたい。

「はぁ、もう…みんな、ちょっといいかな?」

 そして考える事を止めた私に代り、まどかがぎゃーぎゃー騒ぐ面子に向かって呆れ気味に声をかける。

 でも、それくらいで収まるような連中なら私も苦労はしないわけで…はぁ、もう諦めて全部の場所に電話するべきかしら…。

「…聞きなさい!」

「「「「「「!?」」」」」」

 電話に手を伸ばした私を含むみんなが思わず見てしまうくらいの大きな声…というよりも、普段そんな声を出すとは思えない円の様子に、全員が自分勝手な言葉を飲み込んだ。膝で眠っていたエイミーも、まどかの様子に不安そうに視線を向けていた。

「みんな、このお家は誰の家!?」

「「「「「あ、暁美さんの家です!」」」」」

 まどかの問いに全員が整列、正座をして返答する。

…どうしてこうなったのかしら…。

 いや、私が変に不甲斐ないというか、今の状況に馴染んでしまって諦めが良くなったのが悪いのだろうけども。

「分かってるなら、もっとほむらちゃんの言う事聞きなさい! ほむらちゃんが困ってるでしょ!」

「「「「「す、すみませんでしたー!」」」」」

 まどかの最もな叱咤に全員がぴったりのタイミングで、百点満点の姿勢で土下座をした。さながらその息の合い方はスタンディングオベーションを彷彿とさせた。

「いや、暁美さんってなんだかんだ言ってお願いを聞いてくれるっていうか…」

「うん、最悪の場合は土下座外交で何とかなると思ってたんだ…」

「どうしても…どうしても豚肉で作られたとんかつが食いたかったんだよ」

「ほむらおねえちゃん、ごめんなさい…」

「…重ねて申し訳ありません、暁美さん…私は自分の身分も考えない欲求を…」

(…私、実は想像以上になめられているのかしら…)

 一応私はまどかの言う通り、ここの家主(そりゃ家賃とかは親が出してくれているけど)だし、それなりに全員にルールを守らせた上で置いているつもりだったんだけど…。

「ふぅ、全く…ほむらちゃんが優しすぎるからって、みんな調子に乗っちゃダメだよ? ほむらちゃんも、そこはちゃんとしないと…」

「…えーっと、ごめんなさいまどか…?」

 私はまどかに庇われているかと思ったら、いつの間にか叱られていた。

 何を言っているのか分からないと思うけど、私もなんだかわけが分からなかった。

「みんな、それなら食べたい物が全部揃う場所に行けばいいんじゃないかな? 出前もいいかもしれないけど、みんなが食べるならちょっとだけお家じゃ狭いでしょ?」

「な、何ですって…?」

「ラーメンどころかピザにカツ丼、うな重まで揃う店?…そんなのがあるっていうのかい…?」

「あ、アタシみたいなのがそんな王宮みたいなところに行っていいのか!?」

「きょ、キョーコ、ゆま、お城に行けるの!?」

「な、なんて事でしょう…昔行った事のある料亭でもそんなレパートリーはありませんのに…!」

(みんな驚いてるけど…まどか、本当にそんな店があるの?)

(え? ファミレスでいいでしょ? 色々あってお値段も手ごろだし)

(その発想は無かったわ)

 ああ、言われてみれば…最近のファミレスって和洋中、何でも揃うわね。

…というか、どうせ支払いさせられるのにその結論に行き着かなかった私って…。

 結局まどかをもてなそうとした試みは、まどかによって私が救われるという、ある意味ではいつもの力関係が滲み出ていた。

 §

 

―いつかは終わるかもしれない幸せ。でも、それは十分なもので。

 

「う、この人数はさすがにきつい…?」

 カーテンの敷居からはみ出しそうな人数が、カメラの前でひしめき合う。

 さやかの言い分は最もで、さすがに八人同時に写るのは無理と言わざるを得ない。というか、せいぜい五人用じゃないのかしらこれ…。

 誰かが動く度にカメラからもれる人が出てくるわね。

「うーん、ゆまはアタシが抱っこすればいいけどよ…さすがにアレがおっきい人が邪魔してるんじゃね?」

「わー、キョーコの抱っこあったかーい」

 ゆまちゃんを抱きかかえながら杏子は脂肪が多い二人をちらりと見る。それには激しく同意だけど、どさくさに紛れて幼女…もといゆまちゃんを抱っこするのはずるい。このロリ○ンめ。

「だ、誰が太っているですって!? 私、そんなに体重が増えてないわよ!…体重計最近乗ってないけど」

「わ、私は恥ずかしながら少し増えて…その、暁美さんの家に来てからご飯が美味しいのです…」

 カメラに写る面積を無駄に奪う胸を持つホルスタインことマミと織莉子が敏感に反応する。別に誰とは言ってないけど、自覚があるのなら私にもちょっとは分けて欲しい。というか分けろ。無理なら爆ぜろ。

「ああ、織莉子の包容力を表すようかの胸は無駄なんかじゃないさ…それに私が見たところ、織莉子の体重増加と胸の成長を計算するあたり、およそ増えた体重の比率はもがっ!」

 キリカの類い稀なる審美眼で気になる情報が後悔される前に「そ、それはダメぇー!」と織莉子が口元を抑える。そもそも体重に大きく影響するほど胸囲が増えるなんて漫画じゃないんだから…。

「ひどいよ…こんなのあんまりだよぉ…」

 そしてこの中で一番背が低いまどかは、ポジションを奪い合うマミと織莉子の胸に幾度となく接触してしまい、自身との成長の差に嘆いている。

 まどかを悲しませる胸を私は許しはしない…個人的な怨恨も含めて、後でお灸をすえてやる。

…いや、そんな事はどうでもよくて。

「…誰よ、みんなでプリクラ撮ろうなんて言ったのは…」

 全員でどこか行こうか?…そう、まどかの無邪気な提案に全員が乗ったのは当然の流れとして、まさか自身が成長の差に嘆くなんて思わなかったでしょうね。

 ああ、まどか…また私はあなたを救えなかった…。

 いや、こうなるなんて予想してなかったというかするのは無理でしょう普通。

「いやー、全員揃ったらやっぱりプリクラ撮らないと! 最近あたしは恭介に付き合ってばかりだから、こうして女の子同士の付き合いもしないとじゃない?」

 さり気なく惚気るさやか、あなたが言いだしっぺだったのね。

 やはりリア充というのは人の気持ちを察するのが苦手らしい。次の周回では助けなくても良い気がしてきたわ。

 とにかく、それでみんなで遊べる施設という事でゲームセンターに来ていた。そして真っ先に向かったのだプリクラである。

「うーん…私はちょっと浮いてみようかしら?」

「雰囲気的な意味で?」

「違う!…こういうこと!」

 浮いている自覚があったのね…と思ってツッコむと、否定したマミはソウルジェムからリボンだけを出し、うまくカーテンレールに引っ掛けて宙に浮く。なるほど、これでわずかにスペースが空くわね。

「あれ…マミさん、カーテンレールからなんだかミシミシって」

「それ以上言ったらティロっちゃうぞ☆」

「は、はやくシャッターを押そうよ!」

 杏子の指摘どおり、マミの乳脂肪に耐えられるギリギリの強度のカーテンレールが限界を迎える前に撮る必要がある。

 慌ててまどかはボタンを押し、カウントダウンが始まる。

 3、2、1…まるでとある夜の始まりを彷彿とさせるカウントが私を一瞬強張らせるが、それはまだ少し先の話だ。

 

―分かってる、もうどうせ逃げる気なんて…。

 

 ぱしゃり、とフラッシュがたかれる寸前にはぎこちなく笑う私。

「うーん、やっぱり恋に生きる乙女は写りも抜群ね…」

「あはは、さやかちゃん、確かに上条くんと付き合いだしてから綺麗になったかも」

 さやかの自賛にも付き合うまどかは本当にいい子。というかさやかは社交辞令という言葉を知らないらしく「おっ、やっぱりまどかはわかってくれますか!」と食いついた。ああ、馬鹿って不幸になるのも簡単なら幸せになるのも簡単なのね…羨ましい限りだわ。

「あはは、マミさんすっげぇ必死な顔してる!」

「し、仕方ないでしょ! 本当にミシミシ言ってて怖かったんだから…(そんなに太ったのかしら…)」

「キョーコ、随分楽しそうに笑ってるー」

 言われてみれば、マミは宙ぶらりんの中、破損が気が気でなかったのか私よりも表情に余裕が無い。その顔がツボだったのか、杏子は笑いを堪えない。

 反対に、ゆまちゃんにも指摘されているくらいに杏子は楽しそうに笑っている。家に連れ込んだ時はこんなリラックスした表情なんて浮かべなかったのに…マミとの和解も経て、彼女はとても柔らかくなったのかしら?

「うーん、織莉子がちょっと見切れているのはいただけないな…撮り直しを要求するよ!」

「あ、でもあと二枚くらい撮れるらしいし、次のポーズを考えた方がいいんじゃないかしら?」

 えっ、あと二枚も撮るの…と織莉子とキリカのやり取りを聞いて内心で私はゲンナリした。

 私、あまり写真写りが良く無いのよね…なんというか、どれも目つきが良くないといえばいいのかしら。とにかく、写真に移るのは好きじゃなかった。

「ほむらちゃん、楽しくないの?」

「そんな事ないわ…まあ写真に写るのはあまり好きじゃないけど」

「そうなんだ…あ、ちょっと待ってね」

 一枚目のプリクラに写った私の顔を見て、まどかは少し不安げに私に尋ねてきた。

 まどかと一緒に遊びに来ているのに楽しくないわけが…と思っていたけど、写った自分の顔をよく見てみると「この強張った顔した人は誰かしら?」という感じだった。

…おかしいわね、笑顔を浮かべていたはずなのに。

 もしかして、私はこの周回…ちゃんと笑えてなかったのかしら?

「ほむらちゃん、ちょっとごめんね…」

「え、なに?…あ」

 まどかはカバンの中から取り出した…紫色のリボンを、私の頭からカチューシャを取ってから巻きつける。

 まどかのように両端でおさげにするわけではなく、一つのリボンで髪型を崩さないように、カチューシャでしていたみたいに髪を支えるようにして巻きつけてくれた。右側にリボン結びをしてくれたみたいで、撮影準備画面に写る私は…自分で言うのもなんだけど、ちょっとだけ可愛らしかった。

「おー! ほむら、可愛いじゃん! まどかも粋な事やるねぇ」

「やだ…暁美さん可愛い…お持ち帰りしたい…」

「…マミさんの言葉は行き過ぎだと思うけど、似合ってると思うよ」

 口々に私の姿を賛辞してくれる。私はまどかの真意が分からず、顔は戸惑ったままだった。

 撮影ストップの時間が切れたのか、再びカウントダウンが始まる。

 3。

「まどか、これ…」

 まどかは私に頬寄せるようにして、ニッコリと笑う。画面に写るまどかは満面の笑みを浮かべていて、その隣の私はまだ戸惑っていて」

 2。

「えへへ…ほむらちゃんにはやっぱり紫が似合うね。ほむらちゃんがしてくれたことに比べるとちっぽけだけど…私からのね、お礼」

「お、礼? そんな、私…」

 私は、そんな事をしてもらえるほど。

 1。

「ほむらちゃん、笑って! 私ね、ほむらちゃんが転校してきた時から…ずっと、笑顔が見たかったの」

「笑顔…っ」

 ああ、やっぱり私は。

 楽しいはずなのに、いつもの周回みたいに仏頂面だったのだろうか。

 0。

 フラッシュに包まれる瞬間、ほんの一瞬なのに私には光が収まるまでがスローモーションに見えて。

「…おお! 恩人の「やれやれだぜ…」的な顔以外の表情を初めて見た気がするよ!」

「…暁美さん、とても綺麗…」

 あの短い時間で、今までできなかった事が出来ていたのだろうか?

 織莉子とキリカに言われて確認してみると…私は、今度こそ若干硬いけど、笑顔を浮かべられていた。

「まどか…」

「ほむらちゃん、やっと笑ってくれたね…えへへっ、嬉しいなぁ…」

「まどかおねえちゃん、ちょっと泣いてるー」

 ゆまちゃんにそう言われたまどかの瞳の端には、プリクラ内の強めの照明がきらりと反射する雫を映し出していた。

「…ほむらちゃん? ど、どうしたの?」

 私は堪えられず、下を向く。

 まどかは、ずるい。私が泣き虫だって知っているくせに、こんな事して、私より先に…こんな私の為に泣いてくれるなんて。

「ちょ、どうしたのさほむら…おわっ、最後の写真のカウント始まってるし!」

 さやかの声と同時にカウントが聞こえる。

 3。

「あ、暁美さん泣かないで! ほらほら、お姉さんの胸で泣いてもいいのよ~?」

「マミさんそれ、全然慰めになんねーから!」

 そうだ、今マミの胸に顔を埋めてしまったら…止まらないかもしれない。

 2。

「むう、恩人が必要なら時間遅延を使ってもいいけど」

「…いえ、その必要は無いと思うわ、キリカ」

 変に察しのいい織莉子の言うとおり、そんなものは必要ない。

 1。

「…まどかっ!」

「えっ!…あ、あれ?」

 1が0になる刹那、私はまどかの手を握って時間を止める。

 突然の魔法の行使にまどかは驚き、きょとんとする。まだ瞳の端は涙に濡れていたけど、号泣している私と違って綺麗だ。

「ほ、ほむらちゃん…?」

 みっともないのも情けないのもわかっているけど。

 でも私は泣き虫の、本当の私でまどかに向き合う。

 そして、伝えるんだ。

「大好きだよ、まどか!」

 だから私は。

 そんなあなたを守るため、今から歩き出すんだ。

 

―私に、歩こうとする勇気をくれた。

 

 

 

続くか終わりかどっちか!


 
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