No.551702

【DIABOLIKLOVERS】 イヤホンとマカロン

りえぞーさん

ユイがシュウにキスのおねだりをすると延々ちゅっちゅしてるんですが、まあシュウだし?と、そんな話しです。

2013-03-05 21:53:01 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1690   閲覧ユーザー数:1690

 

「ほら、あんたも来るんだよ。さっさと降りろ」

 

学校帰りのリムジンの中で、何ごとかを運転手に告げていた彼が言った。

車だったら屋敷まで5分と掛からない距離で降りるのは珍しい。

大体は最初から居ないか、強制連行の二択だったので一瞬途惑っていたら、

彼には未来永劫の時間に感じられたようで、あからさまに不機嫌な顔をしていた。

 

「いい加減、信号の変わるタイミングを覚えろ」

「‥ごめん、降りると思わなかったから」

「あんた、不意に状況が変わるのに弱すぎ」

「‥‥」

 

信号で停まっていた車から降りて、反対方向へ歩いていく。

大通りの十字路の一角にあるコンビニに寄るつもりらしいけど、

彼が買い物をすること自体珍しくて、やっぱり途惑ってしまう。

 

「ねえ‥何買うの?」

「あんたがブっ壊したイヤホン」

「‥‥弁償したはずだけど」

「返品した」

「何で!?」

 

思わず声が大きくなる。

 

「あ‥」

「うるさい」

 

自動ドアが開き、来店を告げる電子音が店内に響く。

彼は買い物カゴを提げ、迷わずイヤホンがある充電池のコーナーへ向かうと

無造作にステレオイヤホンをカゴに放り込んだ。

 

「あんた、色間違えて注文しただろ」

「色‥って‥、1色しかないでしょ?」

「‥‥限定であっただろ、白いヤツ」

「‥あったかな」

「ショールームに問い合わせたら、すぐに見つかったけど?」

 

あの雨の日に私が壊したイヤホンは、海外製のとんでもない高級品で、

最初に値段を聞かされた時は、からかわれてるのかと思った。

でも、ショールームがあるような値段の高級ヘッドフォンメーカー製品で

彼が再生してるのは、圧縮音源のクラシックと猥雑な音声だったりする。

 

「あんたは?何か買うもんあるの」

「別に‥‥」

 

弁償したイヤホンと、アヤト君がハマりまくってるたこ焼きバカ食いに

付き合わされている所為で現金は殆ど持っていなかった。

その現金も、居候という名の餌に過ぎないのに、それを隠すために

渡されているもので、実態のないお金を自分のために使うことに凄く抵抗があった。

 

「ホントにないの?」

「‥‥」

「これだけ買って帰るわけにもいかないの。‥察しろ」

「じゃあ‥」

 

ここでようやく彼の言う意味を理解した私は、お菓子の棚を見て回った。

そこで定番商品の限定味の箱菓子と、ほんの少しフタの角が潰れた

これまた期間限定のコンビニスイーツをカゴに入れた。

 

「限定ばっかだな‥」

「シュウ君に言われたくない」

「別に限定好きってワケじゃない。あのイヤホンは白が良かったってだけ」

「そう‥」

 

支払いを済ませて店を出ると、屋敷のある方向とは別方面に歩き出した。

 

「シュウ君‥歩いて帰る時って、いつも遠回りしてるの?」

「んー‥晩餐会あるときはいつもだな」

「みんな怒ってるよ‥」

「知るか」

 

――――児童公園まで来たところで、明らかに空気が澱んでいるのが分かり

首の後ろがチリチリしてきた。彼はとっくに気づいていて、私の首の後ろに

指を這わせている。私はくすぐったいのを我慢して、ビニール袋の中から

箱菓子を取り出し、歩き食いを始める。

キノコを模したチョコレート菓子を彼に差し出しながら、

 

「‥シュウ君も食べる?」

「あんた、俺が甘いもの嫌いなのを知ってて聞いてるの?」

「一応聞いてみただけ。シュウ君のおごりだし」

「おごった覚えはないけど‥」

「じゃあ、全部食べちゃうね」

「駄ぁー目」

 

外灯の柱に体を押しつけられた。

彼は箱の中から1粒菓子を取り出すと、それを私に咥えさせてから、

ビニール袋の中のイヤホンを取り出した。

そして、ネックストラップ型のMP3プレイヤーにコードを差し込み、

左耳の下にキスをする。

 

「‥っ」

「あんたの前に見える‥‥ベンチまでの距離を意識して聴いてみろ」

「‥‥?」

 

イマイチ言ってる意味が理解できないまま左耳にイヤホンが差し込まれ、

今度は右耳の下にキスをしてから、

 

「上手く行けば、面白いもんが聴けるかもな」

「‥‥」

「‥もし出来たら、ご褒美をくれてやってもいい。精々頑張れ」

 

彼は言い終わらないうちに右耳にイヤホンを差し込むと、私に咥えさせてた

スティック付きチョコレート菓子の、軸の部分だけを器用にかじり取った。

あと数ミリで唇が触れそうな距離で、MP3プレイヤーの再生ボタンが押される。

 

「!!」

 

両耳に卑猥な音声が流れ出した。――――女の人の喘ぎ声。

この状況で一体何を面白がってるのかと声に出そうとしたら、

2粒目の菓子を口に入れられ、またビスケットの軸の部分だけかじり取る。

 

どうせニヤついているだろうと至近距離の彼の顔を見ると、意外にも

殺意を隠しきれない時の半笑いの表情で、口の中で溶けかかっていた

ホワイトチョコが凍りつくかと思った。

 

でもその殺意は私にではなく、この澱んだ空気の中にあるのを確認したくて

少し口を開けると、彼は3粒目の菓子を私の口の中に入れて、そのまま顔を離した。

 

(じっとしてろって事‥?)

 

何とか少しだけ冷静さを取り戻し、さっき彼に言われた『距離』を意識して

卑猥な音声の続きを聞いた。

 

サァーー‥っと、頭の中にノイズのようなものが流れた後に、

急に聴覚が上がったような感じがして、映画館で聞くような立体音響とは違う

音が見える感覚に包まれる。

これが吸血鬼の聞こえ方なのかと思うと、好奇心が刺激されて、

私は目をつむって音を追いかけた。

 

(男の人が二人‥?もっといるかも。何を喋って‥)

 

彼が言った距離を探り当てて、話している内容を聞き取ろうとした途端

音声は途切れ、同時に澱んだ空気も晴れた。

 

「ったく‥こんなとこまで来んなよな‥面倒くさっ」

 

私の両耳からイヤホンを外し、咥えさせていた3粒目の

ビスケットの軸をかじると、

 

「帰るぞ」

「ふぇ?‥ん‥‥」

 

3粒分の菓子が口の中でグチャグチャになってて間抜けな返事をすると、

彼は私の顔を覗き込みながら、

 

「うまいか?」

「‥‥、シュウ君がヘンな食べさせ方するから‥」

「あんた一々うるさいからな。‥で、何か聞こえたか?」

「‥え、女の人のえっちな声と‥‥、男の人の声も聞こえた」

「○○○○」

「違っ‥!!‥何か普通に話してたよ。内容までは分かんなかったけど」

「ふーん」

 

彼は何か気にくわなかったのか、早足で歩いていってしまう。

私は小走りで彼を追いかけるようにして屋敷へ戻った。

 

 

「で、何で俺の部屋でそれ食ってんだ、あんたは」

「お届け物と、聞きたい事と‥したい事があるからまとめて」

 

私は彼に宅配便で届いていた荷物を渡し、コンビニで買って貰った

プチサイズのマカロンタワーを解体しながら、

 

「ねえ、さっきのって‥“最近"噂になってる方の吸血鬼?」

「じゃねえの?知らねえけど」

「知らないって‥少しくらい教えてくれてもいいじゃない」

 

彼は私を無視して荷物の包装をベリベリと剥がしている。

ベルベット張りの木箱に入ったイヤホンを取り出すと、

 

「新品じゃない方が良かったんだけどな‥」

「‥?」

「あんた、それ食ったら出てけよ。いい加減眠い」

「ねえご褒美は?」

「あ?」

「聞こえたらご褒美くれるって言ったよね」

「ライトの邪魔無しでそれ食えたんだからいいだろ」

「それご褒美じゃないよ‥‥」

 

そう言いつつ彼の顔を見ると、本当に眠たそうで、単に怠惰ではなく、

今日みたいな事が彼にとって日常なのだとしたら、人間のフリと

吸血鬼の二重生活というのは、案外大変なのかもしれない。

 

「どした?」

「おいとまします」

「何だよ急に‥したい事、あんだろ」

 

そう言って、彼は体温のない指先で、私の口端に残ったマカロンの欠片を

そっと押し込んで、

 

「‥‥言えよ、ほら」

「‥吸血と、流血と、咬みつきなしで‥‥キスしてくれる?」

「‥‥‥ちょっと甘やかすと、すぐつけ上がるよな、あんたは」

 

そう言いながらも彼は、私にご褒美をくれた訳だけど、

タイを解いただけの格好でキスしてただけなのに、たっぷりと1時間も

されているうちに、すっかり頭がおかしくなってしまっていた。

 

「‥ん‥シュウ‥君‥っ」

 

ふわふわと、羽毛が振ってくるような心地いい感覚が欲しくて

何度も彼の唇と舌をねだり、彼のキバを自分の舌でなぞったりして、

もしこのまま舌を咬まれたらと思うと、益々恍惚としてしまっている

自分がいた。

 

私は潤んだ目で、結晶を砕いたような彼の青い瞳を見詰めながら、

もう何度目か判らない《おねだり》を自分の言葉と、口でする――――

 

――でも、こんな変な気分になってしまうのは、彼の舌が冷たい所為だろうと

思っていたら、あっさりと否定された。

 

「あんたさあ‥‥」

「‥何?」

「次、イったら最後。‥っと女って際限ないよな」

「え‥」

 

瞬間で顔が真っ赤になる。

私は言い訳する間もなく、何回イったのかを意地悪な声色で囁かれ、

キバで舌を甘噛みされると、体中に熱さから来る震えが走る。

そんな様子を見ていた彼は、まだ嗜虐心をそそるには足りないという風だったけど、

私の喉元まで来ている、甘い悲鳴と、ながい喘ぎを、わざと舌を塞がずに

吐き出させてると、左手の人差し指のつけ根にキスをしてくれた。

 

「‥‥‥‥‥‥‥」

 

どうしてここへキスをするのかと思ってた矢先にスルリと私の指から

彼の唇の感触が消え、そのまま2人でベッドに倒れ込む。

いつもの羽交い締めとは違う、強い抱擁と期待でまた熱くなって

しまいそうだったけど、

 

「‥寒いか?」

「‥‥」

 

私は左右に首を振ると、頬に触れてる彼の指先に微かな体温を感じた。

どうやって私の体温が移ったのかと、だんだん頭がボンヤリとしてくる。

 

彼の腕の中は日向の水のようで、冷たいような温かいような不思議な感じで、

もっと私の体温が彼に移ったとして、彼は私と同じ事を感じてくれるかしらと

思った瞬間、意識は遠のき、眠りに落ちた――――

 

 

 

 

 

おわり

 

 

 

 

 

 

*補足*

圧縮音源の~の件ですが、ユイは可逆圧縮と(FLACとか)不可逆圧縮の(mp3とか)

区別がついていないという体で書きました。

 

 
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