第22魔 ヨツンヘイムの邪神
アスナSide
「くしゅん!」
「くしょん!」
「くちゅん!」
「大丈夫っすか?」
「「「らいじょうぶです…」」」
わたし、リーファちゃん、ユイちゃんは順番にくしゃみをした。
それを少し心配してくれるルナリオ君にわたし達はちょっと鼻声で答えた。
「……仕方がないだろう、この雪にこの寒さだ…」
わたし達は石造りのほこらの中で寒さから身を守っている。
アルン高原にはこのような場所は存在しない、それならばここは何処か?
ここはアルヴヘイムの地下に広がるもう1つのフィールド、最上級クラスの邪神級モンスターが支配する闇と氷の世界、
名を『ヨツンヘイム』……と、リーファちゃんから教わった。
「戻ったよ」
「この周囲には特に異常はありませんでした」
ハクヤ君とヴァル君が見回りから戻ってきた。
《隠蔽》スキルをマスターしている2人が周囲の様子を見に行ってくれたのだ。
邪神は居なかったとのこと。
「でも、村そのものがモンスターの擬態だったなんてね…」
「う、ごめんなさい…」
「リ、リーファちゃんのせいじゃないよ」
わたしの言葉にリーファちゃんは申し訳なさそうに謝り、その様に戸惑ってしまう。
実はわたし達は今日のゲームを終える為に村へと入り込んだのだけど、
その村がまるごと巨大なミミズのようなモンスターの擬態で、
丸飲みされたわたし達は幸い?なことにやられることなく吐き出されたのだ。
しかし、吐き出されたのがこのフィールドである。
ここでは空も飛べないため、脱出も困難を極めている。
しかもそのモンスターというのは、おそらくプレイヤーをこの地下に招く為の罠であるとリーファちゃんは予測したのだ。
「そうっすよ、リーファのせいじゃないっす」
「ですね。リーファさんの情報は正しかったんですから」
ルナリオ君とヴァル君がフォローを入れる。
「……そうだな。アルン高原にはモンスターはいない、ある意味でそれは情報通りだ。
マップを確認すればこの罠には掛からなかった」
「大事を収めた後の安心感、もう少しで世界樹に辿りつけるということへの慢心、僅かな疲れから生じた油断。
それらがあったからこそ気を引き締めないといけなかったのに、気付けなかった俺達4人の責任だ」
ハジメ君とハクヤ君も真剣な表情でそう言った……ん、4人? む、わたしが外されてる。
でもこんなことで納得がいかないということを言っても意味は無い。
取り敢えず脱出案を考えないと…。
「リーファちゃん、ここを脱出できる方法はないの?」
「えっと、一応あります。説明しますね……」
彼女の話しはこうだ。
央都アルンの東西南北に1つずつ大型ダンジョンがあり、その最深部にこの地下に繋がる階段があるとのこと。
わたし達の位置からして西か南が一番近いという。
けれどそのダンジョンには守護の邪神が居り、強さはあのユージーン将軍とサラマンダーの大部隊が瞬殺される程らしい。
「せめて
「無いもの強請りっすね…」
そう呟いたハクヤ君とルナリオ君。
確かに公輝さんの防御力があれば、彼に
リーファちゃんは話しを続ける。
飛ぶためには日光か月光が必要だけど、ここは地下でそれらが無い。
インプであるハクヤ君ならば少しは飛行が可能だけれど、1人では無茶がある。
望みの綱といえば、このフィールドで邪神狩りを行いに来た大規模パーティに合流させてもらうことらしいけど、
その確率は非常に低いとのこと。
それを聞いたわたしはユイちゃんにお願いしてみることにした。
「ユイちゃん、近くに他のプレイヤーがいないか探ってもらえる?」
「分かりました」
ユイちゃんはいつもの何かを聞き取ろうとする姿勢を取った。
けれど申し訳なさそうな表情をして答えてくれた。
「すみません。わたしが参照した範囲内にプレイヤーの反応はありませんでした…」
「気にしないで良いよ。ユイちゃんが居てくれてみんな助かってるんだから」
「ママ…はい!」
わたしが大丈夫だよと答えると、ユイちゃんは元気を出してくれた。
「それならやるのは俺達で階段まで辿り着けるかだな」
「うん、なら早速「待った」どうしたの、ハクヤ君?」
ハクヤ君の発した言葉に賛成しようとした、彼に止められた。
「アスナ、リーファちゃん。2人共、体は大丈夫か?」
「ぁ……うん、大丈夫だよ。何か異常があったらすぐに言うから」
「あたしも大丈夫です。中学3年生って言っても体は鍛えてますから!」
「分かった。だけど少しでも何か違和感を感じたら、すぐに言ってくれ」
心配してくれたハクヤ君にわたしとリーファちゃんはしっかりと答え、彼の言葉に頷いておいた。その時…、
―――ぼるるるるるぅ!
大音響が響き渡った。
「みなさん、はぐれ邪神です! 数は2匹……お互いを攻撃しあっています!」
「「「「「「っ!?」」」」」」
「Mob同士が戦闘って、どういう…」
ユイちゃんの報告にわたし達の間に衝撃が奔った。
1つは邪神が2匹もいるということだけど、もう1つはMob同士が争っているということだ。
本来ならばMob同士が争うなどということはないのだけど…。
「行ってみるっすか?」
ルナリオ君の一言にわたし達は頷いた。どうにも気になってしまい、2匹が戦闘している場所へと向かった。
2匹の邪神は全高20mはあると思われる。
1匹は縦に3つ連なった巨大な顔、その横から4本の腕を生やした巨人というフォルム、
それぞれの腕には巨剣を握っている。
もう1匹はやや小型で象のような顔に饅頭のような体、胴体を支えるのは20本はあると思われる鉤爪のついた肢、
敢えて言うならば象の頭がついた
「あの、皆さん……あたし、苛められてる方を助けたいです」
そう言ったリーファちゃんにわたし達は驚いたけれど、どこか納得した。
あぁ、彼女のこういうところは、キリトくんに本当に似ている。
「そうだね、助けようか? いいよね、みんな?」
「もちっすよ」
「了解です」
「即断即決、やるしかない!」
わたしの問いかけにルナリオ君にヴァル君、ハクヤ君が賛成してくれる。
「……構わない…が、どうやって助ける? いくら私達でも、邪神2匹の混戦に混ざるのは難しいぞ」
「う~ん、それなんだよね~…」
ハジメ君も賛成してくれたけれど彼の言う指摘の通り、あの怪獣大決戦の中で戦闘を行うのには無理がある。
ここまで来た以上はやられてスイルベーンから「またどうぞ」だけは避けたい。
あの水母さんを助けるには………ん、水母? 陸で水母?っ、そうよ!
「ユイちゃん、近くに川とか湖とかない!?」
「えと……あります! 北に約200m地点、そこに氷結した湖がありますよ!」
良し、それならやれる!
「ありがとう、ユイちゃん! 皆さん、その場所まで人型の巨人を誘導します!
全速力で逃亡しますから、遅れないように!」
「「「「了解!」」」」
「ふぇ?」
わたしの指示に応答する男の子4人に対し、リーファちゃんはどういう意味かと首を傾げた。
「ハクヤ君!」
「任された!」
彼の名を呼ぶと腰のベルトからスローイング用のピックを取り出し、人型邪神の顔に向けて…、
「ふっ!」
投げた。そのまま直撃してほんの微小なダメージを与える。その攻撃に気付いた邪神はこちらを向くと…、
―――ぼるるるるるぅ!!!
怒りの雄叫びを上げた。
「撤退!」
「「「おう(はい)!」」」
「リーファ、ちょっと失礼!」
「へ、ひゃっ!? きゃあっ//////!?」
わたしの撤退宣言にハクヤ君、ヴァル君、ハジメ君が頷き、ルナリオ君はリーファちゃんをお姫様抱っこした。
そして一気に北に向けて駆け出す。
―――ぼるるるるるぅっ!!!
「「あははははは♪」」
「「わははははは♪」」
「……ふっ♪」
「きゃあぁぁぁぁぁっ/////////!?」
わたしとヴァル君、ハクヤ君とルナリオ君はこの状況が面白くて笑い、ハジメ君も僅かに笑みを浮かべ、
リーファちゃんはルナリオ君に抱えられていることと邪神に追われている現状から叫んでいる。
とにかく走る! 全力疾走! 全力逃亡! これ全部SAOで学んだこと!
そのまま逃げ続けて、樹木の無い辺りに出たところの中央で止まったわたし達。
追って来た邪神が雪の下にあった氷を踏み抜き、湖に落ちた。
まだ顔1個と半分程が水面から出ているけれど、そこにやってきたのは水母の邪神。
水母は水に入り込むと20本もの肢を使って人型邪神に絡みつくと肢を通してスパークを流し込み、
あっという間に人型邪神のHPを0にした。
―――ひゅるるるるるぅぅぅぅぅ!
水母邪神は勝利の雄叫びのようなものを上げており、その様にわたし達は思わず笑みが零れた。
アスナSide Out
To be continued……
後書きです。
はい、「ヨツンヘイム編」に入りました・・・まぁすぐに終わりますが、あと3話ほどですね。
そして2体の邪神、1匹はみなさんお馴染みのあの邪神です。
アニメでは登場しなかったのが残念でした~(しょぼ~ん)
それでは次回で・・・。
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第22魔です。
邪神登場回ということで、2体の邪神が登場します。
どうぞ・・・。